桜花を護る、超野太刀を持つ開拓者   作:刀馬鹿

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起点

さて、やることもやったし帰るか。雁夜も心配だしな

 

冬木教会で啖呵を切って、そしてそのまま求めていた情報提供すらも受けずに、刃夜は帰路へとついていた。

しかも先ほどまで宙に浮かせていた蓑虫桜を抱きかかえて。

 

しかし軽いなぁ……。もうちょっと食べさせてあげないとダメかもなぁ

 

寝ている桜を起こさないようにしながら、しかしそれでも桜の身体の調子を確かめるように、刃夜は桜の頬に手を当てる。

その寝顔を見て……刃夜は何を思うのだろう。

だが少なくとも心配していることだけは間違いないらしく……その表情は僅かに暗い陰のある笑みを浮かべて……

 

ふと足を止めた。

 

そして桜を宙に浮かせて……左肩に下げている竹刀袋のファスナーを開けて、柄だけ外に出した。

 

「俺に何か用か? サーヴァントって奴。ずいぶんと猛々しいというか……尊大な気配の持ち主さん」

「ほぉ? 少しは我のこともわかるか。実におもしろい奴だな」

 

冬木教会の坂を下りきり、新都から深山町へと向かうための大橋の歩行者の通路に入る一歩手前で、虚空から突如としてそんな言葉が舞い降りてきた。

刃夜の言葉に導かれるようにして、一人の青年が姿を現した。

金髪赤眼の青年が。

その姿を見て……刃夜は内心で溜め息を吐いていた。

 

こいつが精神分身体で見た、精神力が異様に強い奴か……。精神体でも見たが……予想通りめんどくさそうな奴だなぁ

 

雁夜に語っていた精神分身体。

これは文字通り精神を分身させて幽霊のようにどこでも自由に行くことが出来る……結界などが張られていた場合、刃夜の精神力を上回っていたら突破できないが……便利な能力だが、不便なところもあった。

文字通り精神体であるため、生物等の気力や霊力、魔力といった物を見ることしか出来ない。

つまり精神分身体で見ることが出来るのは、その存在の生命力や視覚的に見えない物を見ることになる。

また色によってある程度どのような人物かも観測できる。

そしてもっとも重要なのが、精神で直接感じた相手の本性だったりする。

本気を出せば精神分身体を完全なる幽霊体として飛ばすことが出来て、その場合は普段通りに五感を持った状態で幽霊になれるのだが……肉体が完全に無防備になる。

間桐臓硯を殺せてない今の状況ではやるのは危険だと判断し、まだ行えていなかった。

ちなみに、今現在も間桐臓硯を探して数体の精神分身体が冬木市をさまよっていたりする。

相手が……現界したギルガメッシュに戦意がないことを見抜いたのか、いつでも抜けるようにしていた打刀の柄へと伸ばした手を戻した。

だが当然だがいつでも動けるように、刃夜は静かに相手を見つめる。

まだ夜といって差し支えのない時間であるため、往来もそれなりにあった。

 

新都と深山町へと通じる大橋のそばで……周囲に誰もいない公園の中。

 

公園にある電灯と、少し先を行き交う車のライトが二人を時折照らす。

 

 

 

そんな場所で二人は初めて出会った。

 

 

 

しばし奇妙なにらみ合いをしていた二人だったが……ギルガメッシュがあざ笑うかのように鼻で笑った。

その侮蔑の笑みに……刃夜は眉をひそめた。

しかし特に口を開くようなことはしなかった。

その態度に……ギルガメッシュが不快そうに顔を歪めた。

 

「王たるこの我を前にして、拝謁の態度をとらないとは……まぁよい。八騎目のサーヴァントよ。貴様の態度次第でのこの無礼、許してやらんこともない」

「……王?」

 

言っていることも不思議だったが、刃夜がもっとも疑問に思ったのは王という言葉だった。

そしてその王という単語に納得していたりした。

 

あぁ……なるほど。言われてみればそんな感じがするな

 

ただ目の前に立っているだけで自然と威圧される圧倒的な存在感。

そして普通の人とは違う雰囲気を醸し出している。

容姿が優れていることもあいまり、実に素直にその王であるという言葉は刃夜の中に入ってきた。

だが、次の言葉で相手に対する態度を急変させることになる。

 

「それをよこせ、雑種」

「……はい?」

 

 

 

「その下げている得物よ。見たところ、我が財に加えるだけの財宝と見える。その剣を献上せよ。それを持って、その無礼を許そう」

 

 

 

……何を言ってるんだこいつは?

 

ギルガメッシュの言葉に、先ほどとは違う露骨に嫌悪感をあらわにした表情を浮かべたのだが……しかし驚くべき事に、刃夜はすぐに竹刀袋から打刀を取り出して、打刀をギルガメッシュへと放り投げた。

 

「む?」

 

態度こそ気にくわないようだが、しかし素直に渡したことでギルガメッシュは意外そうに笑みを浮かべて、投げ渡された打刀を手に取る。

そしてその湾曲した姿を見て……一つ感心したように言葉を漏らした。

 

「素朴ながらも確かな技術を感じさせる佇まい。絢爛さこそないもののなかなかどうして、いい得物ではないか」

「お褒めにあずかり光栄です」

 

皮肉のつもりなのか、何故かいきなり敬語を話し出した。

そんな刃夜に気付かず、ギルガメッシュは刃夜の刀を興味深そうに見ている。

 

「さて中は……」

 

そうして柄に手をかけ、抜刀しようとして……ギルガメッシュの笑みが歪んだ。

抜こうと力を加えるのだが……いっこうに抜ける気配がなかった。

 

ふむ……やっぱり抜けなかったか……

 

その光景をさも当然と思いながら、刃夜は完全に呆れた様子でギルガメッシュを見ていた。

だがその態度には、「抜けなくて当然」という感情よりも、「抜けなかった」という事実に対する思いが強く出ている様子だった。

刀が抜けなかったことに、ギルガメッシュが刃夜に刀を突き出しながら、睨み付けた。

 

「貴様、なんだこれは? 王たる俺を愚弄するのか?」

「愚弄とは?」

「たわけ! 抜けもしないものを献上するとは! 王たる俺を侮辱するか!」

「侮辱してきたのはそちらでは?」

「なにぃ?」

 

そう言いながら刃夜は左手を前に突き出して、静かに虚空にある何かを握るように拳を作った。

すると次の瞬間に驚くべきことに、先ほどまでなかったはずの左手の中に、一振りの打刀が出現した。

しかしその刀……ギルガメッシュが今持つ刀より、違和感を覚える物だった。

 

「こいつは今王様が手にしている刀より、数振り前に鍛造した刀です」

 

そう言いながら、刃夜は静かに柄に右手を持っていき一息に抜刀した。

その刀身は夜であり、僅かな光源しかないにも関わらず自ら輝いているかのようだった。

 

まるで、生きているかのように。

 

「ほう?」

 

その刀身を見て、さしものギルガメッシュも感心したように声を漏らしていた。

刃夜はその反応に何も返さずに静かに納刀し、出現した刀をギルガメッシュへと投げ渡した。

 

「抜けますか? 抜けるのであればその刀、献上いたしましょう」

「なに?」

 

投げ渡された刀を、右手で受け止めながらギルガメッシュは不快そうに眉をひそめる。

そして先ほど投げ渡された刀を、自らの足を支えに地面に立てて……投げ渡された刀を抜こうとするが、抜くことは出来なかった。

その様子を見て、ギルガメッシュが声を荒げる前に……刃夜は先制した。

 

「俺が最近打った刀は、刀自身が認めれば誰にでも抜くことができます」

「得物が認める……だと?」

「陳腐な言い方ですが、生きているということでしょうか」

「……何が言いたい、雑種」

 

刃夜の言いたいことがわからず、ただ不快感をあらわにしながら、ギルガメッシュはただ刃夜の言葉の続きを待った。

 

「あなたほどの圧倒的な存在感を持った人物……王に自らが打った刀を財宝と認識してもらい、感謝します。ですが……」

 

 

 

「俺が打った刀は、少なくとも俺のことを認めてくれている。その打刀を欲しがるくせに……武器の主であり鍛造者たるこの俺を雑種と呼ばわりしてくるような存在に、献上する物はないな」

 

 

 

右手を前に突きだして、虚空を掴むように力強く握った拳。

その瞬間に、ギルガメッシュの足下に立てかけていた刀、そしてギルガメッシュが今手にしていた刀が虚空へと消えた。

そして先ほどまでの態度を一変させて、今にも戦闘を行おうというかのように、その身から裂帛の気迫があふれ出した。

どうやら自らの得物を侮辱されたに等しい行動をされて、それなりに頭に来たようだった。

実際刃夜の言うとおりであり、刃夜が鍛造した刀は、刀自身が認めれば誰にでも使うことが出来た。

だが逆に言えば認めなければ今のギルガメッシュのように、抜くことすらも叶わないと言うことだった。

そして刃夜自身が鍛造した得物(・・)は、今瞬時に出現させて消したように、別の空間に保管されていて、瞬時に取り出し、収納する事が可能だった。

この便利な能力は、本人がかなりの努力をしたために身に着けた能力だったりする。

しかし欠点として、自らが鍛造した物しか収納できなかったりする。

ついでに言うと、一振りずつしか出現させられない。

複数取り出す場合にも、ある程度魔力を回して空間より抜刀しなければ出現させられなかった。

簡単な話、○次元○ケットではない。

他にも身に着けた、便利だが便利すぎない能力はそれなりにあったりする。

 

 

 

「貴様……よくぞ咆えたな、小僧!」

 

 

 

その刃夜に対して、ギルガメッシュは怒りを露わにし、背後に光り輝く何かを出現させた。

その行動に対して、今度は刃夜が驚く方だった。

 

何じゃこりゃ!?

 

虚空に出現した、黄金に輝く穴。

そしてその穴から無数の得物が突きだしてくる。

まだ全体を見ることは出来なかったが……得物を鍛造する存在として理解できた。

その得物は到底普通の人間では作ることが出来ない物であると。

そしてその人間では作ることが叶わない得物が、一斉に自分に向けられたその瞬間に……刃夜は動いていた。

左手を握るような形にすると、途端にその手に短い刃渡りの刀……小太刀……が握られる。

そして後方に下がりながら、雨よあられと降り注がれるギルガメッシュの攻撃を、小太刀一本で防いでいた。

 

「はっ! 大口を叩いた割には行動を共にしている狂犬めよりも、手癖は悪くないようだな!」

「知るか! つーかいくら夜とはいえ少し周りのことを考えて行動しろ!」

 

全ての攻撃を小太刀で流しつつ、刃夜はそう吐き捨てていた。

だが宙に浮いた桜は未だに起きる気配がなかった。

その様子に、ギルガメッシュは攻撃を繰り出しながらも、内心で少々驚いていた。

 

ほぉ? この状況でも起きないとは……。この小僧、間違いなく何かしているようだな

 

攻撃を全て弾きながらも、その実、刃夜自身よりもむしろ背後に回した宙に浮かせた子供に対しての攻撃だけは絶対に防ぐように力を入れているようだった。

それを見て、ギルガメッシュは唐突に攻撃を行うのを停止した。

 

「……どういうつもりだ?」

「興が冷めただけだ。それに貴様もやるにやれない状況だろう? 我は畜生ではない。幼子を殺める気はない」

「ほう?」

「だが貴様に対しては……少々興味がわいたぞ小僧。貴様はこの我手ずから粉砕してやろう」

 

え~。今のやりとりで何故興味が沸く?

 

内心でものすごく疑問を浮かべている刃夜だったが、しかしこの場は少々暴れすぎた。

このままこの場にいれば面倒なことになるのは火を見るよりも明らか……というよりもすでに周囲がすでに若干火の海になっている……であり、さらにこれ以上この目の前にいる王と自称するサーヴァントを怒らせると面倒だと判断し、態度を表に出すことはなかった。

 

「周りが騒がしくなる前に、消えるとしよう。開拓者(フロンティア)……ジンヤと言ったか? せいぜい我を楽しませろ。そのときは我が至宝を賜わしてやろう」

 

心の底から「結構です」と言いたかった刃夜だったが……言えば面倒になるのはわかりきっていたので、刃夜は内心でため息を吐きつつ、言葉を紡いだ。

 

「そいつはどうも。一つ聞かせろ」

「何だ、小僧?」

「あんたのクラス名だ」

「ふん。我はアーチャーにて現界した天上天下に唯一の王である。以後その態度を弁えよ」

 

そう言って、ギルガメッシュは姿を消した。

おそらく霊体化したのだろう。

その様子を見て、そして気配でいなくなったことを感じ取ったのか、刃夜は大急ぎでその場から離れる。

 

警察に捕まったら面倒なことになるからな

 

だがそれ以上に面倒な存在に目をつけられたことに、内心で刃夜は頭を抱えていたのだが……とりあえずこの場から離れること、そして自らの腕で寝ている桜のために、刃夜は家路を急いだ。

 

そして無事に帰ったその家の玄関を越えた先に……

 

 

 

「……」

 

 

 

黒紫の戦士が、静かに立っていた。

 

 

 





刀蔵

刃夜が鍛造した得物を収納することが出来る。
何本収納されているかは不明。
通常の刀から規格外の刀まである。

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