春休みも残り2日となった。俺と一夏の間の距離は微妙なままである。千冬姉ちゃんは沢芽市から戻った後、ほどなくしてIS学園に戻った。俺と一夏の仲の修復を周りはその内どちらかが折れると言わんばかりに放置している。で、今俺は
「あんたが一夏のような正義感の強いタイプじゃないのは分かってんのよ。けれど、万夏が心配している以上、私は反対だからね。」
鈴の実家でセカンド幼馴染(俺からすれば4番目に当たるが)、鈴に説教を食らっている。
「だからなんで、鈴が口出しするんだよ?」
と言った瞬間、
(あんた、また万夏に心配かけたの!?)(あはは、そうみたい。)(笑うな!ホントにあんたは良い奴だけど、巻き込まれすぎよ!)
この世界の鈴との記憶が思い出された。
沢芽市でこの世界を生きてきたもう一人の俺と話してから、その頻度が増えてきた。目眩がする、頭痛など思い出された後の症状はまちまちだ。だが、沢芽市で起きた頭痛ほどの痛みは今の所は無い。
今回は目眩と軽い頭痛のコンビだった。
「あんたも一夏も、危険なことに、、って大丈夫?」
俺が額を抑えだしたのを見た鈴が心配する。
「ああ、大丈夫。ちょっと軽い頭痛が。」
「ねえ、大樹。少し病院に行ったら?最近のあんた、頭を抑えることが多いから。一度、ちゃんと診てもらいなさいよ。」
「分かった。」
ただ、原因が原因なので病院に行くつもりはないが。
「ねえ、お説教が終わったなら、飯を頼みたいんだけど。」
元々は俺が昼飯を食べに来て、俺が仮面ライダーとして戦っていることを知った鈴が言った。事情を説明して、マドカが何か言ったのかとかなんとかでいつの間にかお説教になっていた。
「ほら、早く言いなさいよ。」
「マーボー丼、メガで。」
俺の注文を受けた鈴が厨房へ入っていく。この世界の鈴は箒とは親友でもあり、恋のライバル、、、というわけではないらしい。なんだかんだ、友達の面倒を見ている面倒見の良いお母さん役だ。箒の恋愛相談にも応じていた。それを知っていたのは鈴の実家に入る前に箒が出てくるところを見て、鈴から聞いたからだ。
俺の注文したマーボー丼が来るまで、俺はどう一夏に話を、仲を戻すためにどうするのかを考えていた。
私はIS日本代表候補生に選ばれてから、長期の休みに訓練や合宿が入るようになった。姉さんをはじめとした家族は応援してくれているし、そのための助力も惜しまずに私を支えてくれた。そして、私がかねてから思いを寄せている一夏も応援すると言ってくれた。その言葉で私は何度励まされたことか、だから、今日こそは、私の、篠ノ之箒の思いを一夏に伝える、、、、、、、、、、。
「箒、ダメだったの?」
「万夏ああああ。」(´;ω;`)
結果は完全にダメだった。というより、私の誘いをただの買い物の誘いだって思ってた。そうじゃないのに(´;ω;`)。今、私は一夏の家で万夏に慰められている。
「分かってたけど(´;ω;`)。一夏が鈍感なのはわかってたけど(´;ω;`)。」
そう、私達全員が一夏が恋愛の、特に自分に向けられている恋愛感情には異常なほど鈍感なのをよく知っている。友人の弾と、一夏とは兄弟同然に育った大樹が一夏に思いを気付いてもらえずに失恋した女子のフォローに入ることは私たちにとっては特に珍しくない日常の一コマである。
「一夏兄さんも本当にね、あきれるくらいに鈍感だからね。」
「どうすれば、気付いてもらえる?」
「一夏兄さんが自分一人で気付くことはほぼ不可能だと思う。」
「やっぱり、無理なのね。」(´・ω・`)
「う~ん、やっぱりみんなに手伝ってもらった方が良いと思うな。」
私もそれが一番いいと思う。だけど、出来るなら私の思いは私自身で一夏に伝えたい。
「、、、。ねえ、箒。」
万夏がうつむいて話し出した。
「私が、ずっと前に怖い夢を見たって言ったこと、覚えてる?」
万夏は私にだけ話してくれたその夢のことみたいだった。
「大樹が万夏の家に来て、しばらくしたときに見たって言ってたあの夢のこと?」
「うん。」
万夏はその時に見た夢の内容を鮮明に覚えていて、私に話してくれた。
「大樹が大怪我を負っていて、万夏がそのまま大樹が死ぬのを見ていたって夢がどうかしたの?」
「実はね、大ちゃんがね。」
万夏は私が訓練で町を離れていた時に起きたことを話してくれた。
「大樹が、、、。」
「うん。一夏兄さんも戦うって言ってた。」
「嘘でしょ?」
「一夏兄さん、大ちゃん一人で戦わせるなんて出来ないって。それでちょっとけんかしてて。」
久しぶりに会った二人が何となくぎくしゃくしていたのは私も気付いていたけど、まさか、そんなことになっていたなんて。
自分一人で動いて私達が気付いた時にはトラブルに巻き込まれている大樹と誰かを助けずにはいられず、面倒ごとに首を突っ込む一夏。考えられる限り、この二人の関係が悪化するのは大抵、どちらかが無茶をする時だった。そして、今回は大樹が前代未聞の無茶をしているだけでなく今まで一番のトラブルで、一夏がそれに首を突っ込もうとした。
「2人らしいね。」
私は純粋に思ったことを口にした。
「うん、らしい。」
万夏もそれに同調した。
「ふふ、あははは!」
「ウフフ。」
私たちは思わず笑った。
「ウフフフ、フフ、う、う、箒いい。」
笑っていた万夏が突然泣き出した。
「大ちゃんが、大ちゃんが、遠くに行っちゃう。」
「大丈夫、大丈夫だよ、万夏。大樹は遠くには行かないよ。行ったとしても必ず戻るよ。」
「私、私、大ちゃんが戦うようになって、また、あの夢、思い出して、不安で、不安で!」
私を含めた周囲は万夏は大樹に強く思いを寄せていることを知っている。万夏にとって、あの夢は自分の好きな人が自分の前から居なくなることを暗示しているようなもの。私も一夏に思いを寄せているからこそ万夏が不安に感じていることをよく分かる。
「万夏、万夏と大樹はきっと、目には見えないとても強いつながりがあるんだと思う。その夢はきっとそうならないように万夏が大樹にとっての絶対に帰らなきゃいけない場所になるってことじゃないのかな。」
私は姉さんと違って、目に見えない、この世界にあるのかすらわからないようなもの存在を信じている。万夏と大樹が一緒にいる時を見たとき、私はこの二人には何か強く惹きつけ合うものがあると感じた。私はそれを持っている二人がすごくうらやましい。
俺はドライバーが来るまで、貴虎さんの言ってたトレーニングメニューをこなしていた。大樹は反対していたが俺は全く辞めるつもりはない。それに大樹の戦う姿を見て純粋にかっこよかった。俺の目標となる誰かを護る姿が大樹の姿が正しくそうだと思った。
それに、友達が戦っているのに何もしないなんて俺には出来ない。なのに、
「なんで、分かってくれないんだ。」
大樹は頑なに俺がアーマードライダーになることを反対している。大樹にとって、おじさんやおばさんが死んだ10年前の事件の手掛かりを見つけるためなのは分かる。それが危険なこともあいつは分かっている。だからこそ、反対するのは分かるが。だからと言って、あいつ一人が全てを背負うことは無いはずだ。
「必ずアーマードライダーになってやる。」
鈴の実家からの帰り、至るところで桜の花が開いてきている。
「そうか、こんな季節か。」
毎年、この風景を見ていた。なんとなく、この季節が来ると決まって俺は公園に来て、桜を見ながら日向ぼっこをする。そして、公園のベンチに腰かけて、一夏になんていおうかと考え始めた。だた、昼飯を食べたばかりで眠気を感じて、そのまま寝てしまった。
「やあ、やっと見つけたよ。」
僕は炎竜に別れを告げた後、ずっと探していた人物を見つけた。
「あの時、話した言葉は君にも届いたはずだ。僕が全てを渡したのは炎竜じゃない、君なんだ。お願いだ、また、戦ってよ。君も分かっているはずだ。あいつは君の振る舞いを模倣しているだけ、そこには君の大切な人々の、万夏への思いはあるようでないんだ。
あいつは君のお兄さんを殺すためならなんでもするし、そのためなら自分の命も捨てる。
それじゃ、皆を護れないんだよ。お願いだよ、僕は君と違って戦えないんだ。もう一度立ち上がってよ。」
僕が体調を崩したとき、僕の前に現れたのは彼だった。彼はひどくボロボロでもう戦えないんじゃないかって程だった。でも、かすかに守りたいんだって言葉を聞いた。ここでうずくまっている彼こそがその時の彼だった。
「お願いだよ、我が儘なのは分かっているんだ、立ってよ。」
「俺は、、、もう、、、戦えない、、、。」
彼が口を開いた。けど、その言葉はひどく弱弱しかった。
「夢、か。」
俺は先程のやり取りを遠くから見つめていた。もう一人の俺が誰かに話しかけていた。
「俺じゃないって、どういうことなんだ?」
先程のやり取りからはもう一人の俺は俺ではないと言ったのだ。
「いい場所だな。」
突然、俺に話しかけてきた人物が居た。その人物はダークシルバーの長髪で立ち振る舞いは一見無害に見えるがそれがカモフラージュであることにすぐに気づいた。
「あんたは?」
「気にすることは無い。」
彼は懐からバックル、戦極ドライバーを取り出した。
「これから殺される相手にはな。」
彼はドライバーを腰に当て、ロックシードを取り出した。
「クチナシ!」
「変身。」
「ソイヤ!クチナシアームズ!狂剣、オブ・ジ・エンド!」
男はアーマードライダーに変身した。
「さあ、俺を楽しませろ!」
男は白昼堂々と手にした刀型のアームズウェポンで俺に襲い掛かる。
俺がさっきまで座っていたベンチが真っ二つになる。
男が俺を本気で殺す気でいることに驚きつつも俺はドライバーとロックシードを取り出して、変身する。
「変身!」
炎竜と謎のアーマードライダーは公園で幾度も切り結ぶ。炎竜は竜炎刀と無双セイバーによる荒々しい二刀流、謎のアーマードライダーはクチナシアームズの専用アームズウェポン無狂剣による正確無比の一刀流で戦っていた。
この二人の技量は互角であり、一進一退の攻防が続く。その戦いは日が沈みだしても終わることは無かった。時間の経過とともに両者の戦いは達人同士の戦いを思わせるようなものから獣同士の荒々しく、純粋に相手の命を奪おうとするものへと変わっていった。
「フハハハハハハ!良いぞ!もっとだ!もっと来い!もっと俺を楽しませろ!」
「シネエエエエエ!」
炎竜は特に理性が崩れ落ち、自らの内の修羅に導かれるままにその殺意を刃に乗せる。そして、
「ガアアアアアアアアアア!」
炎竜の刃がアーマードライダーのドライバー、ロックシードを破壊するだけでなく、左腕を切り落とす。
男は変身が解除されて、切り落とされた左腕を抑える。
「なかなか、だったぞ!だが、今日の所はここで引かせてもらおう。」
そう言って、その場を離れようとするが、
「シネ!」
炎竜は男に刃を振りかざす。その時、炎竜に向かって何かが飛んできた。炎竜はそれを弾く。
炎竜は自身を攻撃してきた方向を見る。そこには織田信長の南蛮鎧を思わせる鎧を身にまとった白銀のアーマードライダーがいた。
「これ以上は辞めろ。そこまでしたら、君は完全に戻れなくなる。」
白銀のアーマードライダーは炎竜に向かって言う。
「自分の中の闇に負けるな。君はまだ戦えるんだ。」
「ウルサイ!オレハユウゴヲコロス!ソレヲジャマスルナラ、コロス!」
炎竜はそう言うと白銀のアーマードライダーに向かって飛び掛かる。
白銀のアーマードライダーは炎竜に手を向ける。すると、白銀のアーマードライダーの周囲から植物の蔦が現れて炎竜を拘束する。
「このままだと君は自分の心の闇に食われてしまう。その前に君の心の闇を切り離す。」
そう言うと白銀のアーマードライダーは炎竜の胸に手を当てる。
「ナ、ヤメロ!オレヲ、コワスナ!」
炎竜の胸から漆黒の靄が噴き出す。
「ヤ、ヤメロオオオオオオ!」
あの戦いで俺は完全に戦うことが出来なくなった。鈴、セシリア、シャル、ラウラ、束姉ちゃん、数多くの人々を手にかける結果になった。その時には俺の心は立ち直ることが不可能なレベルで傷を負った。この世界における俺はずっと俺を呼びかけていたが、それでも戦う決心がつかなかった。どういうわけか、俺の心は2つに分かれたが、どうでも良かった。
「もう、嫌なんだ。」
そう口にした時だった。
「お前はもう答えが分かっている。けれど、前世での戦いからその答えに目を背けている。」
そこには、仮面ライダー鎧武、葛葉紘汰が居た。
「俺はもう、戦えない。戦わない、あんな思いをするなら。」
そう、あんな苦しい思いをするなら、また味わうのは嫌だ。
「俺も一度はそう思った。けれど、仲間たちが必要としていた。俺の大切な仲間たちが俺の助けを必要としていた。」
「俺はあなたとは違う。俺にはそんな強さなんてない。」
「ああ、俺とお前じゃあ出発点が違う。俺とは違う強さをすでに持っているからだ。それに、もう、目覚める時間だ。」
「待てよ、目覚める時間って?」
「柏葉大樹、お前を待っている人達がいるんだ。もう、帰ってやれ。」
紘汰さんがそういうと漆黒の空間が光で包まれる。
「、、、ちゃん!大ちゃん!起きて!」
万夏の声がする。
「うっ、うああ、万夏、、、。」
「大丈夫!?大ちゃん!」
俺は体を起こす。
先程までの激戦の跡が残る公園で俺は倒れていたらしい。
「大丈夫。」
戦うことを放棄した俺を紘汰さんが表に引っ張ったのだろう。
「どうして、戦わせるんだよ、、、。」
「大ちゃん、まずは帰ろう。皆、待ってるよ。」
「う、うん。」
俺は万夏に連れられ、家路に着く。
次回、紘汰の手で心の闇を切り離された大樹は過去の戦いを思い出してしまい、戦うことが出来なくなる。そして、一夏がついにアーマードライダーとなる。