時に拳を、時には花を   作:ルシエド

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 竜児を作った親の一人がどっかの宇宙で竜児の兄弟に
「作られた道具が創造主に刃向かうというのか!」
「貴様の価値はベリアル様の遺伝子を持っていること!」
「それ以上の何物でもない模造品だ!」
「貴様の人生に価値など無い!」
「お前という肉片に生命を与えたのはこの私だぞ!」
「貴様が価値あると信じている全てのものはクズだ!
 薄っぺらい貴様のような存在にはお似合いだがなぁ!」
 とか言っている時点でコピーライトと竜児の過去の扱いはお察しください


第七殺二章:虚偽の報い

 リバースメビウスの力が、樹海の世界を操作する。

 樹海を構成する神樹の力は、今やダークフィールドとなり全てが敵の手中に落ちていた。

 神樹の力の全てが、リバースメビウスの強化に当てられてしまっている。

 見方を変えれば、既に神樹すらも勇者と竜児の敵だった。

 

「今はここが、オレの世界だ」

 

 ダークフィールドに変えられた樹海の世界、四国を守っていたはずの結界が開かれ、結界の内側と外側が繋がってしまう。

 人間の目では『無限』の数にしか見えない数の化物達が、結界に空いた巨大な穴から雪崩れ込んで来ようとするが、化物の親玉であるコピーライトに制され止まる。

 七体目のバーテックス・リバースメビウスは、怪物達を背景に荒野の上に立っていた。

 

「何、あれ……?」

 

 コピーライトがリバースメビウスとして行使した莫大な力が、あまりにもおかしな光景を作ってしまったがために、勇者達も気圧される。

 樹海は荒野に。

 空間は火の海に。

 結界は消え、その向こうに燃え盛る四国の外の世界が見える。

 光と闇は入り混じり、無数のメビウスの輪が空中に浮かび、リバースメビウスの膨大な力を循環させ安定させているのが目に見えた。

 

 結界の外が燃え尽きていることが勇者達に知らしめられながら、同時にそれ以外の光景もあまりにもおかしかったがために、結界の外だけを見て驚くことはないというこの事象。

 街全体が大火事であれば、街のどこかで人が燃え死んでいても、全体の破壊が酷すぎてそれらの小事に受けるショックが小さくなる現象と、どこか似ている。

 勇者の精神状態にあまり深い悪影響が出なかったという意味では、ある意味不幸中の幸いであったと言えた。

 

 勇者達には考えている余裕が無い。

 満開した三人が前に出て、満開ゲージがまだ足りていない風と東郷が竜児の護衛・バックアップ・神樹に至るダークフィールドの道筋を塞ぐ位置に入る。

 コピーライトは迫る三人には目もくれず、竜児を守っている二人と、守られたまま立ち上がれていない竜児を見た。

 

「チッ」

 

 つまらなそうに、ではなく。

 気分を害されたかのように、コピーライトは舌打ちした。

 

「本当に期待しすぎたか。

 ジードの失敗作が、光の巨人に成ったと期待したところで、所詮はこの程度。

 悪に落ちたウルトラマンの遺伝子からは、ゴミと出来損ないしか生まれないのか」

 

 別に、コピーライトは竜児に何かさせたかったわけではない。

 ただ、なんとなく失望しただけだ。

 その心の弱さに。

 

「くだらない生ゴミが。必要な部分をオレに吸収された後、腐って消えろ」

 

 リバースメビウスの巨躯が唸る。

 フェニックスブレイブの"不死鳥の炎"が燃え上がり、振るわれた腕から超巨大なメビュームスラッシュが放たれた。

 牽制技でしかなかったはずのそれは、ウルトラマンをも両断するサイズと破壊力を顕現させていた。

 

 竜児を、その周りの勇者を、そして彼方の神樹を直線的に切り潰すその斬撃へ、結城友奈は突っ込んだ。

 

「勇者ぁ、パンチッ!」

 

 友奈の満開特性は、巨大化した左右の拳。

 凄まじく極端に威力を上昇させた、二つの拳である。

 友奈はリバースメビウスの光刃に真正面から拳を叩きつけようとして、瞬時に判断を切り替え、光刃の側面をアッパーでカチ上げた。

 友奈の手に重い手応えが残り、光刃が空に吹っ飛んでいく。

 

「くっ」

 

 通常時のメビウスの全力パンチを100とすれば、満開時の勇者パンチは1000、されどリバースメビウスの放つ光刃の威力は3000にも及ぶ。

 三倍近い出力差。

 されど、三倍程度であればなんとかなる。なんとかできる。

 

(そっか……これは、()()()()()()()()()()()()()っ!!)

 

 友奈は夏凜と樹を背後に庇い、自分が盾となるフォーメーションでリバースメビウスへ接近していく。

 その過程で幾度となく光刃を殴り弾いたが、その度に満開した巨大豪腕にすら、強烈な痺れが残っていた。

 

(ウルトラマンとバーテックスの力が合わさってる。

 そこに神樹様の樹海の力まで奪ってる。

 巨人と、怪獣と、神樹様のトリニティフュージョン!)

 

 溜め込んだ力を解放する勇者の切り札・満開。

 その力は有限である。

 友奈はその力を防御のみに使い切るつもりで、リバースメビウスが連発する光刃に、全力の拳を叩きつけ続けた。

 

「……基本性能が、段違いなんだ……!」

 

 そして、力は尽きる。

 満開の力は尽き、満開中に展開されていた光の花のエフェクトが、散華した。

 満開が解除された友奈と入れ替わるように、夏凜が前に出る。

 

「いぃぃやぁぁぁぁっ!!」

 

 夏凜の得意とする斬撃が、巨人の周囲に散っている不死鳥の炎ごと、大気を薙ぐ。

 

 夏凜の満開特性は、武装として顕現する四本のマシンアームと、四本の腕が握る巨大な四本の太刀。すなわち、巨大な敵も圧倒可能な四刀流だ。

 夏凜自身が得意とする二刀流の延長で、強大な力と流麗な技を並立させる。

 

 コピーライトは、その斬撃に手刀で応じた。

 金属同士が切り合うような金属音が響き渡る。

 夏凜のフェイントを織り交ぜた四刀流の猛攻と、リバースメビウスの二本の手刀による接近戦は完全に互角。

 リバースメビウスが遊んでいるというのもあるが、それ以上に夏凜の気迫が凄まじかった。

 

「ほう」

 

「あんたに、あいつの兄を名乗る資格はない!」

 

「なら、どうする!」

 

「一生あいつの前に顔出せなくしてやる!

 それでもあいつがまだ泣いてるようなら!

 私があいつのお姉ちゃんでもなんでもやってやるわよっ!」

 

「……くくっ、あの愚弟が平和ボケした情けない性格になるわけだ!」

 

 夏凜は巧みな技巧で、二本の刀で二つの手刀を押さえ込み、一息の間もなく残りの二本でリバースメビウスの顔を切りつけた。

 ガリッ、とリバースメビウスの顔が削れる。

 

「よしっ!」

 

 そして、リバースメビウスの顔を削った二本の刀が、二本のマシンアームごと、両断された。

 

「―――!?」

 

「メビュームツインソード」

 

「っ、メビウスの剣、それも両手に一本ずつの二刀流……!?」

 

 本物のメビウスは左手にメビウスブレスを持つのみ。

 だが、かつて失われた最終形態・フェニックスブレイブは、右手にナイトブレスをも装着している。ゆえに、両腕から強力な剣を出すことが可能なのだ。

 二刀を失い二刀流のみとなった夏凜は、巨人の二剣を見て後退する。

 

「それがどうしたってのよ!」

 

 右の太刀を振るう夏凜。

 巨大な剣状のビームが飛んだ。

 左の太刀を振るう夏凜。

 無数の刀が横向きの雨が如く飛翔した。

 

 隙間無く飛ぶ斬撃の暴風を、リバースメビウスは不死鳥の炎で蒸発させる。

 不死鳥の炎は夏凜の攻撃全てを消し飛ばすのみならず、全力回避した夏凜にもかすり、残った二本のマシンアームと巨大な太刀をも融解させてしまった。

 満開の攻撃力が、失われてしまう。

 

「くっ―――うっ―――!!」

 

 美しい花が散華するが如く、夏凜の武装が崩壊する。

 他人の端末を継承した夏凜に満開の力は長時間定着してくれない。

 だがそれを抜きにしても、この巨人を相手にしては、長時間満開を使うことなど不可能だった。

 

「大人しくしてて……先輩のお兄さん!」

 

 最後に、樹が力を解き放つ。

 背景の全てを塗り潰すような、緑の光を纏う神の紐が背部浮遊ユニットから放たれる。

 指でも手でも到底操作が間に合わないような無数の紐を、ユニットは巧みに操った。

 

 バーテックスを両断する切れ味、何万トンの張力をかけても切れない頑丈さ、無限の長さをもって、紐はリバースメビウスに絡みつく。

 一本一本が、並みのウルトラマンでは切ることもできない頑丈さ。

 それが数百本、何層にも重なるようにして、リバースメビウスの全身を縛り上げる。

 

「こんなものか」

 

 リバースメビウスは、それを燃やし尽くすこともできた。

 だがあえて全力を出し、エネルギーを全身に漲らせ、力のみで拘束を引き千切ってしまう。

 ウルトラマンでも逃れられない拘束力と、それを紙のように引き千切るウルトラマンの力という矛盾。

 それはただ単純に、条理を覆すリバースメビウスの桁違いの力によって成立していた。

 コピーライトは力を見せつけ……敵がどこにも、一人も見当たらないことに気付いた。

 

「ん?」

 

 最初に満開した三人が突撃。

 力の差を察するやいなや、打ち合わせ無しで勇者部全員が撤退戦への移行で合意。

 満開三人が前で時間を稼ぎ、注意を引き、風と東郷で竜児を連れ撤退。

 満開状態で飛行も可能になった樹が、満開終了後の友奈と夏凜を連れて撤退。

 最後の拘束は、リバースメビウスの動きを封じるのが目的ではなく、顔を紐で覆って視界を塞ぐことが目的だったのだろう。

 

 それに合わせ、樹海化も解け始めた。

 

「メタフィールドの展開も止めたか、正解だ。

 樹海化を続ける限りオレに有利な展開にしかならん。

 メタフィールドがダークフィールドになれば、四国結界もオレは容易に剥がせるのだから」

 

 神樹も死ぬ気でどうにかメタフィールドの操作権の一部を取り戻し――解除するのが精一杯――て、樹海化を解除する。

 勇者が竜児を連れて逃げるこのタイミングを見計らっていたのだろう。

 コピーライトの目的は竜児の吸収同化。

 ベリアル軍の作り上げた、ウルトラマンの回復等を促す力だ。

 どこまで行っても失敗作なコピーライトは、竜児を吸収しなければもう長生きできない。

 ゆえに、竜児が逃げ隠れしているのなら、街で大規模な破壊ができない。

 街を攻撃できないのだ。

 

 コピーライトはバーテックスとしての目的、自分の目的、両方を達成しようとしている。

 天の神との協力関係にあるのなら、それも当然か。

 彼の手の中にあるライザーも実は、天の神からの借り物である。

 カプセルは自前のものだが、二つの怪獣カプセルはメビウスの光によってウルトラカプセルへと変質しており、今のコピーライトは本格的によく分からないものになっている。

 

 借り物と、変わり物と、紛い物があまりにも混ざりすぎていた。

 

「探せということか。いいぞ、乗ってやる」

 

 コピーライトは樹海化解除に合わせ変身解除し、街に降りる。

 彼はウルトラマンの失敗作。

 足りない部分を天の神の加護、及びバーテックスの肉と力で補ったまがい物のウルトラマン。

 街を歩き、どこかに隠れている竜児を見つければゲームクリアだ。

 あとは、悠々自適にこの世界を壊していけばいい。

 

「どうせ、神樹(おまえ)はほとんど詰みだ」

 

 戦いは、ひとまずの中断を迎えた。

 

 

 

 

 

 勇者五人は竜児を連れ、香川某所の空き地に逃げ込んだ。

 ここは地元民、それも街のこの辺りで遊んだことのある子供しか知らないような場所だ。

 ここなら、敵に見つかる心配もとりあえずはなかった。

 

「友奈、いい、降ろして」

 

 竜児は憔悴した顔で、自分を背負って運んでくれていた友奈に頼んだ。

 嘔吐も涙も、もう止まっている。

 絶望の底にて、少年の心の落下は止まっていた。

 だが、友奈が少年の言葉に何も言わず、降ろしても何も言わないことに、彼は違和感を覚える。

 

「……友奈?」

 

 友奈は何かを言おうとして言えていない。

 口を、喉を、しきりに触って、何も言えない自分に戸惑っているように見える。

 竜児の内の絶望の底が抜け、心がまた落下を始めた。

 

「―――声」

 

 満開は強大な力を得る代わりに、自分の中にある何かを捧げ、散華という現象でそれを失う。

 それが勇者の宿命。

 大赦はそれを何も教えず、勇者が供物を捧げて戦い続けることを臨んだ。

 

 供物は満開に捧げられ、散華によって消え去った。

 力と供物は等価交換。

 得られた力と引き換えに、供物はもう戻らない。

 

 友奈は竜児を、仲間を、安心させようとしているのに、『大丈夫だよ』といつも通りに言うことさえできていない。

 竜児に心を救う言葉をかけようとしているのに、友奈を見てどんどん絶望していく竜児の顔を見せつけられながら、何もできていなかった。

 

 

 

■■■■■■■■

 

「いつも……いつだって、怖いよ。どんな時だって、怖く思ってる」

 

「でも、友達を守るために戦うんだ、って思うと怖くなくなる。

 友達が助けてくれるんだって思うと、怖くなくなる。

 私は……私はね。怖いって気持ちより、信じる気持ちの方が強いことを、知ってる」

 

「熊谷君を、信じてる」

 

■■■■■■■■

 

 

 

 蘇る友奈の言葉の記憶。

 竜児の心に、心を潰しかねないほどの圧力がかかる。

 自責の念という圧力がかかる。

 "守るべきだったんじゃないか"という想いが、砕けた心の欠片に圧力をかける。

 "戦いが怖い普通の女の子を、僕が"という想いが、心の残骸を押し潰していく。

 

「戦いの負荷で喉を痛めてしまったのかしら」

 

「満開の力、凄かったものね。まさか撤退が成功するとは思わなかったわ」

 

 風と東郷の不安そうな声、けれど現実と見比べればまだまだ楽観的な声が、竜児の心を更に刺していく。

 

(―――友、奈)

 

 勇者部も、竜児も、知っているようで知っていないことがある。

 それは、友奈の『声』が全てを支える柱であるということだ。

 

 友奈が「大丈夫!」と言えば、なんとなく大丈夫なような気がする。

 友奈が「頑張ろう!」と言えば、皆もう少し頑張れる。

 誰かが落ち込んだ時は、友奈が声をかけに行き、その人は立ち上がる。

 恐ろしい敵が現れた時は、友奈の声が逆転のきっかけとなる。

 友奈の『声』は、希望なのだ。

 勇者部と巨人という人の輪において、友奈が会話をするという行為そのものが、最短距離にしろ遠回りにしろ、最後の希望に繋がるのである。

 

 『友奈が喋れない』ということは、勇者部の中にある絶望の多くが会話で解消されず、そのままそこに残りかねないという、絶望的な事実を示していた。

 竜児はその現実から目を背けるように、他の絶望に体当りしてその中に希望を探すかのように、樹に話しかけた。

 

「い……樹さん、体大丈夫?

 ほら、喉とか肺とかにダメージが言ってたら、君の夢に悪影響が……」

 

「私は大丈夫です。熊谷先輩の方が心配です! 大丈夫? は私の台詞ですよ」

 

「……ごめん」

 

「謝らないで下さい……それと、私の夢って、なんですか?」

 

「―――」

 

「その、夢を持てという話なら、ごめんなさい。

 犬吠埼樹中学一年生、まだまだ夢とかそういうのは模索中で……」

 

「な、何言ってるんだ、君には歌手になるっていう夢があっただろ!

 こっそり秘密にして! 試験受かってからお姉ちゃんに教えて、びっくりさせるって!」

 

 それは脳の中にあったもの。

 失われたのは、『夢』という観念的なもの。

 心に宿っていた『夢』の熱。

 ……樹の将来の『夢』という、未来への想い。

 

 供物は満開に捧げられ、散華によって消え去った。

 力と供物は等価交換。

 得られた力と引き換えに、供物はもう戻らない。

 

「……あの、からかってるんですか?

 私がそんな夢を持つなんて、ちょっと想像すらできないというか……」

 

「―――ぁ」

 

「歌手になりたいなんて、思ったこともないです」

 

 頭の内側と、胸の内側が。心の内側と魂の内側が、バラバラになったような思いだった。

 

「……ぁ……あああぁ……」

 

「ちょ、ちょっと竜児君、うちの妹これどうしたの?

 というか、歌手になりたいとか、夢とか、それって……」

 

「犬吠埼せん、ぱ……樹さん、は……ああ……ごめ……ごめんなさっ……」

 

 竜児の、過去の在り方と行動のツケを払う時が来た。

 

 それが、生まれと、教育と、心縛る鎖のせいであったとしても。

 

 自分の行動から生まれた因果の応報は、受け止めねばならない。

 

 竜児は過去に樹に、「君が周りの人に幸せにしてもらえているのは、君が周りを幸せにしてるからだ」と言った。

 それは因果応報の理屈だ。

 なら、他人に虚偽と嘘を向けたことへの応報は?

 

「夏凜、どこか痛いところは!? 不調なところは!? あったらすぐに病院に―――」

 

 救いを求めた。

 彼女だけは、彼女だけは、と思いながら、竜児は夏凜に話しかける。

 希望を求めた。

 夏凜の肩に手を乗せて、振り向かせようとする。

 彼女のいつもの、自分の背中を押してくれる言葉を求めた。

 

 

 

「あんた誰? 気安く触らないで」

 

「―――え?」

 

 

 

 そして、夏凜の肩に乗せた手が乱暴に弾かれる。

 夏凜の言葉には棘があった。

 "初対面で体を触って来た男"に対する嫌悪があった。

 彼女の目は、初対面の失礼な男を見る目で、竜児を見ていた。

 

「夏凜……?」

 

「ちょっと風、こいつ誰よ。何か慣れ慣れしいんだけど」

 

「夏凜、ちょっと、嘘でしょ、あんた」

 

 とても、とても、分かりやすい。何が捧げられたか分かりやすい。

 

 夏凜の中から、竜児の記憶だけが消えていた。

 

「―――あ」

 

 竜児は『あの勇者』をずっと見ていたから、すぐに気付けたはずなのに。

 

 ()()()()()()()()()と。

 

「―――うそ、だ―――」

 

 東郷美森を、鷲尾須美を……()()()()()()()()()()()()()()()()()()勇者を、竜児はちゃんと知っていたから、それも覚悟しておかなければならなかったはずなのに。

 

 

 

■■■■■■■■

 

「あんた、情けないからさ。

 辛くなったら、私が何度でも励ましてあげる。

 あんたが生きてる限り、ずっと。

 私はあんたよりは先に死なないって約束してあげるから。

 何度でも励ましてやるし、ずっと味方で居てあげるから、ちょっとはカッコつけなさい」

 

■■■■■■■■

 

 

 

 竜児が夏凜に励まされる未来は、もう無い。もう殺されていた。

 いや、違う。殺されたのではない。

 竜児が何も教えなかったから、夏凜はそれがそうであると知らぬまま、神樹に捧げてしまったのだ。記憶も。想いも。約束も。

 花散るように消えた記憶。

 夏凜は竜児に関してのみ、あらゆる記憶を消失していた。

 

 供物は満開に捧げられ、散華によって消え去った。

 力と供物は等価交換。

 得られた力と引き換えに、供物はもう戻らない。

 

 "もう嫌だ"という感情と。

 "鷲尾須美に同じことをさせた大赦の僕が、自分の番が来ただけで泣くのか"という理性と。

 二つがぶつかって、両方が砕ける。

 友を忘れてしまうという地獄と、友に忘れられるという地獄が、そこにあった。

 

「竜児君、今のあなたに聞くのは酷だと思うけど、教えて」

 

 風が問う。全ての虚飾を指摘する。

 

「あの結界の外は何!?

 結界の外は全部燃え尽きてて!

 満開した三人が……三人は、どうなっちゃったの!?」

 

 誤魔化しの言葉を並べる余裕もなかった。

 真実をこれ以上黙っていられるほど、罪悪感も小さくなかった。

 竜児は真実の全てを明かす。

 散華した三人と、かつて散華した一人と、自分を問い詰めるその一人に。

 

 砕けた心の奥で、魂の折れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者達の驚愕は、小さくなかった。

 問いかけた風が変に笑って、常の彼女の笑みを浮かべられなくなるほどに。

 

「はは……何よそれ……

 もう世界は四国だけ? 他は全部燃え尽きてる?

 敵は天の神で、メビウス曰く宇宙が全部敵?

 私達は宇宙規模の中で、無数の敵と戦い続けてる?

 西暦の最後には多くの勇者とウルトラマンの共闘があって、負けて全滅した?」

 

 終わりのない生き地獄の真実。

 

「勇者は、満開と散華を繰り返して自分の一部を失っていって。

 それでも精霊が死なせないから、失いながら戦う生き地獄を味わう運命で。

 でないと世界が滅びる運命で。大赦は全部知った上で私達に黙ってた?」

 

 勇者という人柱の真実。

 

「東郷は散華で足と記憶を失った元勇者。

 それを、記憶を失ってることをいいことに勇者部に放り込んだ?

 友奈と東郷がお隣さんになるよう、大赦が工作して引っ越させた?

 いざという時に二人が庇い合って満開で敵を倒せるように?

 親達は皆、全部の事情を知った上で、子供達をこのお役目に送り出したって?」

 

 勇者に隠されていた残酷。

 

「友奈は声。

 夏凜は竜児君との記憶。

 そして……樹は……

 あたしを驚かせようとして黙ってた夢があって……その夢を……」

 

 風は何も知らなかった。

 世界のことも、妹の夢のことも。

 知ったのは、全てが手遅れになった後だった。

 

「竜児君……あんた! コレ全部分かってて、黙ってたっていうの!?」

 

 風が真実の全てを語り終えた竜児の襟を掴み上げる。

 追い詰められた表情の風の目と、今にも自殺しそうな泣き顔の竜児の目が合う。

 そんな竜児の襟を掴み上げているという事実に、風の心が罪悪感で傷ついた。

 この現実を前にして、風は竜児に何かせずにはいられなかったが、その結果として風の心はまた傷付いてしまった。

 

 何故なら風は、本当は、竜児を責めたくなんてなかったから。

 

「……ごめんなさい、犬吠埼先輩……」

 

「―――っ」

 

 責めているのは風で、責められているのは竜児で。

 騙されていたのは風で、騙していたのは竜児が所属していた大赦で。

 竜児は自分の否を認め、竜児が風に謝っているのに。

 罪悪感が大きく膨らんでいっているのは、風の方だった。

 

 竜児の襟を掴んで立たせているだけで、竜児の心ではなく、風の心が罪悪感でぐずぐずに崩れていくのが目に見えるかのようだ。

 

「……知らされてたら、私は皆を巻き込んだりしなかった!」

 

 風の目の端に、涙が浮かぶ。

 風の口が痛々しく叫ぶ。

 それは、騙されていたことを責める言葉であり、大赦に言われるままに勇者部を作った風の、勇者部に皆を集めた風の、自分を責める言葉でもあった。

 

「犬吠埼先輩がいい人なことは、僕がちゃんと知ってます。

 犬吠埼先輩が人のためになることをして、それで助けられた人も知ってます。

 勇者部の皆も知ってます。皆知ってるんです。犬吠埼先輩のせいじゃないことを」

 

 竜児は、その自責を否定した。

 もう心はまともに動いていない。

 言葉を作れるだけの余力もない。

 残った心をすり潰すようにして、竜児は風を救うための言葉を作っていく。

 

「僕が最初から全てを言っていれば……

 犬吠埼先輩は、大切な仲間に、満開を絶対に使わせなかった。

 あなたは全て知っていたら、大切な人をこんな運命に巻き込んだりしなかった」

 

 竜児の目を見て、風は気付いた。

 風を見ているはずなのに、竜児の目の焦点は風に合わせられていない。

 彼は風を見ながらも、同時に風を直視できず、風を見ながら風から目を逸らしていた。

 

 

 

「―――勇者(あなた)を騙した大赦(ぼく)以外に、悪い人なんていません」

 

 

 

 風から目を逸らしながら、心をすり潰して言葉を作ってでも、言わずにはいられなかった。

 竜児は、風が"自分が悪い"と思っている現実が、許せなかった。

 風には自分を許して、幸せになってほしかったのだ。

 彼女が全く同じ感情を、竜児に対して向けていることも気付かずに。

 

「あなたが……あんたが悪い人じゃないことだって、あたしは、知ってるわよ!」

 

 風は叫ぶ。

 憔悴して、ボロボロになって、絶望して、それでも他人を想う竜児を見つめながら。

 

「たったひとつの居場所に居続けたかったから!

 組織に媚びて、"居ていい場所"にすがりついてただけでしょ!

 竜児君は……竜児君は! 帰ることを許された居場所と、家族が欲しかっただけじゃない!」

 

 先の竜児の言葉は、風の心を救いながら自分の心を砕く言葉。

 それは、誰かを救うために自分の腹を切るような、自殺に近い言葉だった。

 

「こんなになるまで、酷いことになるほど……

 あなたは、悪いことなんてしてないじゃない……

 ずっと、皆のために頑張って戦ってたじゃない……

 そんなあなたが……自分が悪いんだ、なんて言ったら……!」

 

 世界のために戦った勇者が居て。

 世界のために戦った巨人が居て。

 その巨人が、自分に訪れた残酷に対し、自分が悪かったんだ、なんて主張を始めたら。

 

「私達は、何を想えばいいっていうの……!?」

 

「―――」

 

 竜児が自分を責めるだけで、勇者達は『何も悪いことなんてしてないのに』と嘆くことすらしにくくなってしまう。

 だってそうだろう。

 現に風は、竜児が自分より悪いことをしただなんて思っていない。

 それなのに竜児が"自分は悪い"と責めている。

 風は竜児が自分を許せるようになることを、ずっと望んでいるというのに。

 

 それが竜児の意図せぬ形で、風を追い詰めてしまうのだ。

 

「自分を責めないで。あなたがこれまでにしてきたこと、あたしは全部知ってるのよ」

 

「せんぱ、い」

 

 何も悪いことなんてしてないのに、なんでこんな目にあわなきゃいけない、という想い。

 この子達が何をした、という想い。

 せめて皆を引き込んだ自分だけがその報いを受けたなら、被害者が犬吠埼風だけであったなら、という想い。

 『私が悪い』という風の気持ちと、『僕が悪い』という竜児の気持ちは同質で、ゆえに竜児が『自分が悪い』という気持ちを撤回しない限り、風は救われない運命にあった。

 

―――ドラクマ君は悪くないんだよ?

―――だから君は、君自身を責めちゃいけないの。

―――悪くない人を責めることは、とーっても悪いことなんだから

 

 竜児は、どこかで誰かに、そう言われた覚えがあった。

 そうだ、それがいけないことなのだ。

 でなければ、"勇者も竜児も悪くない"という言葉を誰も言えなくなってしまう。

 

「なんであなたなの……?

 なんでもっと悪い一人が悪いってならないの……?

 誰かが他の人で分かりやすい悪役がいてくれれば……

 竜児君が自分を責めなくても、そいつを責めれば、それだけで……」

 

 今日までの日々の中、竜児には全てを語ることができた。

 けれど彼は語らなかった。

 大赦だったから。

 だから竜児は自分が悪いと思っていて―――だからこそ、この状況で竜児は悪くないと思っているのは、竜児ではなく風の方だった。

 

 風の瞳から、涙が溢れる。

 

 勇者システムのデメリットを知らずに、大きな力を迷いなく使ってきた勇者達の覚悟のお陰で、世界は今も命運を繋いでいる。

 それが、この世界だ。

 

「僕は……皆の未来は、まだ、諦められないから……

 なんとか、どうにかなったら、奇跡が起きたら、まだ、諦めなければきっと……だから、また」

 

 竜児は、風に言葉をかける。

 

「また、笑ってください」

 

 頼りがいなんてない、すがるような喋り方で、竜児は風を救おうとする。

 

「お願いだから……犬吠埼先輩、泣かないで……」

 

 両手を失った少年が、それでも困った人間に手を差し伸べようとするかのような、そんな酷くも痛々しい在り様だった。

 

「もう、二度と、僕は、犬吠埼先輩に顔を見せません。合わせる顔なんて、無いです」

 

「……え」

 

「皆の笑顔をなくしてしまう僕は、ここから、消えていなくなりますから」

 

 竜児は、皆を苦しめた自分がここにいてはいけないと、そう考えた。

 

「だから……また……また、笑ってください……」

 

 二度と笑顔なんて作れなさそうな泣き顔で。

 二度と笑えなさそうな、砕け散った悲惨な心で。

 安心させる声を作るつもりが、不安定な震えた声で。

 竜児は、そう言った。

 

 

 

 

 

 勇者部の前から消えようとする竜児を、樹が追う。

 竜児のことを何もかも忘れてしまったが、話の過程で自分の過去の知り合いであることはなんとなく察した夏凜もその後を追う。

 が、夏凜が樹に付き添ったのは竜児と話したかったからではなく、得体の知れない男と樹が一対一で話すのが、どこか不安だったからだ。

 

「熊谷先輩!」

 

 樹が、自分達の前から消えようとする竜児の手を掴む。

 

 竜児と勇者達の今の関係性は、受け身の樹に対し竜児が踏み込みすぎたことが原因だった。

 だが、今は勇者達の前から消えようとする竜児に対し、樹が踏み込んでいる。

 踏み込む側が、逆転している。

 救おうとする側と救われる側が、逆転していた。

 

「あ、あの! 私大丈夫ですから! 何も気にしてないですから!」

 

「……っ!」

 

「夢と引き換えだと、最初から分かってても!

 勇者部の皆と先輩を守るためなら、私は満開していたはずです!」

 

「ぅっ」

 

「え、えーとそれにですね!

 その時の私にとって、夢はそんなに重くなかったかもしれませんし!

 無くなってすぐに冷めるような夢なら、本当に大切な夢じゃなかったかもしれませんし!」

 

 樹がそんな風に『夢』を語るところを、竜児は見たくなかった。

 樹が優しすぎるから、竜児を励ますために自分の夢を否定するところなんて、夢が失われたことが大したことないと、見たくなかった。

 それを、絶望と言わずしてなんと言うのか。

 

「特にやりたいことがあるわけでもないです。

 特になりたいものがあるわけでもないです。

 今の私はそうなんです。だから先輩、気にしないでください」

 

「……樹さん……」

 

「私、この楽しい毎日が続いていけばいいなって思ってるんです。

 みんなと一緒にいられれば、それだけで楽しいなって、そう思えてるんです」

 

 それは樹の気遣いであると同時に、掛け値なしの本音でもあった。

 今この瞬間が楽しい。

 この日々が楽しい。

 だから世界を守るのだと。夢が失われても悲しくはないのだと。

 

 だが。

 それが。

 樹の夢が失われたことを、竜児に如実に実感させた。

 

(僕が応援した彼女の夢は―――もう、どこにもないんだな)

 

 だって、そうだろう?

 夢に向かって毎日歌の練習をしていた樹は、未来を見ていた。未来のために頑張っていた。なりたい未来の自分を見据えていた。

 ところが今は、『今』しか見ていない。

 大切な今を守るという名目で……『今』ばかりを守ろうとしている。

 

(僕が、捧げさせてしまった。樹さんの中の、姉と同じくらいに大切だった、輝きの夢を)

 

 言い方を変えれば、今の樹には、『守りたい未来が明確にイメージできていない』。

 『自分が歌手になる未来を守りたい』という意志がない。

 未来を想い、未来になりたい自分を見つめ、進歩していく強さがない。

 

 樹はとても樹らしく、今を見ていた。

 樹の言っていることや考えていることはとても素晴らしい。

 だがその明るさが、何よりも今を肯定するその笑顔が、竜児にとっての絶望だった。

 

「熊谷先輩、お別れなんて、寂しいことを言わないでください」

 

「……ダメだよ。やっぱり……ダメだ」

 

 竜児の拒絶に、樹は悲しそうにうつむいた。

 そこに夏凜が会話に入って来る。

 

「えっと、熊谷君だっけ」

 

 夏凜に他人のように話しかけられるだけで、ここまで自分の心が狂おしいほど痛むだなんて、竜児は今まで一度も思わなかった。

 思わないくらい、夏凜は彼の人生の最初から、ずっと竜児に良くしてくれていた。

 竜児の辛い人生は、この十年間、ずっと夏凜という友に支えられてきたのだ。

 

「あんたみたいなの、私の周りにはあんまいないタイプだったから。少し新鮮だわ」

 

 でも、もう友達じゃない。

 

 他人だ。

 

「その……状況全部把握できてるわけじゃないけど、あんたも無理すんじゃないわよ」

 

「……ありがとう」

 

 他人に向けられる夏凜の『無理すんじゃないわよ』の響きが、とても寂しくて。

 それでも、もう少し頑張れる気がして。

 夏凜の他人行儀な気遣いが、竜児の心を砕きながらも支えてくれた。

 

 

 

 

 

 竜児は立ち向かっているのか、逃げているのか、迷っているのか、それすら分からないままに走っていた。

 竜児はもはや自分が何を考えているのかも分かっていない。

 既に彼の精神状態は、精神病院への入院と定期的な投薬を数年単位で要されるほどに、無残にズタボロにされてしまっていた。

 

 悲しみで、何度も涙がこぼれた。

 罪悪感で、何度も吐いた。

 自分が嫌いで嫌いで仕方なくて、何度もわざと壁にぶつかった。

 

 まっすぐに走れなくて何度も転ぶ。

 道路に、壁に、電柱に、何度もぶつかって血が流れる。

 痛みがあれば、自分を罰することができる気がした。

 痛みがあっても、自分を罰せている気がしなかった。

 自分の罪が薄らいでいる気がしなかった。

 

 拭っても拭っても溢れてくる血が、この罪を拭い去ることはできないと、言っている気がした。

 

 けれど、それでも。

 頭はおかしくなって、心は砕けて、前を向くこともできなくなっても。

 それでも、諦めきれないものがあった。

 諦めたくないものがあった。

 

 竜児はそれを見つけ、走って、変身していた東郷の銃口を塞ぐ。

 自分の胸を銃口に当てる形で、四国を囲む壁に向けられた銃口を塞ぐ。

 東郷が全力で勇者の銃を撃てば、四国を囲む結界に穴を空けることなど、容易だろう。

 

「……どきなさい」

 

「壁を、壊すつもり?」

 

「どきなさい」

 

「勇者が生き地獄の中で永遠に苦しみ、それで守られる世界……

 勇者がそれを知ったら、世界を壊す権利があるって、僕はずっと思ってた」

 

「どきなさい!」

 

 撃てば良かったのだ。

 勇者が生き地獄の中で生かされ、永遠に大切なものを失いながら、苦しみながら生かされる世界を否定し、世界を巻き込んで心中したかったのなら、東郷は撃てば良かったのだ。

 どうせ、壁を壊せば竜児は死んでしまうのだから。

 後に死ぬか先に死ぬかの違いしかないのなら、今ここで竜児を殺してしまってもいい。

 

 なのに東郷は、撃たなかった。撃てなかった。

 勇者の衣装のリボンを使って、竜児が路面にぶつかって怪我をしないよう、優しく気を遣いながら彼を叩き倒す。

 

「神樹様が、あなたの正体を知っていなかったわけがない!

 知っていて……知った上で、使っていたんだ!

 大赦ですらそうだったかもしれない。

 あなたはもともと少ない命を、この世界を守るために、使い潰されるために!

 この世界に……こんな終わってしまっている世界に……招き入れられたのかもしれないのよ!」

 

 最初からそうだったのかもしれない、と東郷は言う。

 彼女は勇者の運命だけを嘆き、怒っているのではない。

 今東郷の瞳に浮かぶ涙は、勇者のために流されている涙ではない。

 東郷はボロボロになって倒れている竜児を見ながら、泣いていた。

 

「それじゃ、まるで……あなたは……

 利用価値があるから結界の中で受け入れられてて……

 戦って死ぬために、この世界で生きることを、許されてたみたいじゃない……!」

 

 勇者として、この国を、この国の中に続いている日常を、日常を生きる人々を、守ろうとしていた東郷は―――日常の一部であった竜児がこうなってしまったことに、胸が張り裂けそうなほどの悲しみと怒りを覚えていた。

 勇者も巨人も、大赦と神樹に利用されていただけかもしれない、そう思えば。

 彼女は、世界すら否定できた。

 

「そんな世界!

 生贄がいないと維持できないこんな世界!

 頑張った人達が報われず、犠牲にされ続ける世界!

 そんなものに、存在する価値があるなんて、私には思えない!」

 

 世界を守りたいと言う竜児の気持ちが東郷には分かる。

 そこに生きるみんなを守りたいと言う友奈の気持ちが東郷には分かる。

 けれど、それを分かった上で、東郷は世界を滅ぼそうとする。

 そういうことを言っている竜児や友奈が、世界のために人柱の生き地獄を味わうなんて未来を、東郷は絶対に許せないからだ。

 

「なのに、何故止めるの熊谷君!」

 

「……そんな!」

 

 けれど、竜児は東郷の銃に抱きつくようにしてそれを止める。

 個人を見て世界を否定する東郷に、竜児はみじめな叫びで応じた。

 

「分かんないよ!

 希望なんて無い!

 僕には何もできない!

 可能性なんて何も無い!

 何すりゃいいのかも分からない!

 もう全部終わりだよ! 世界も、何もかも!

 こんなにも辛い思いをするくらいなら、死んだほうがマシだった!」

 

 辛いけど、苦しいけど、悲しいけど。

 

「だけど!

 皆に、笑っていて、ほしいんだよ……生きていてほしいんだよ……!」

 

「……あ」

 

「東郷さんに、生きていてほしいんだ!

 東郷さんが生きていられる世界が在ってほしいんだ!

 東郷さんは過去にいっぱい辛いことがあったから!

 それがどうでもよくなるくらい、未来でいっぱい幸せになってほしいんだ!」

 

「―――!」

 

 世界のために個人を消費するのも、個人のために世界を否定するのもいい。

 そんなものは個人の自由だ。

 されど竜児は、そのどちらでもない。

 

「だから、お願いだから、軽挙妄動は控えて……取り返しのつかないことはしないで」

 

 こんなにも弱りきった竜児を、東郷は初めて見た。

 

「何していいか分かんないけど、何するべきか分かんないけど……

 何か、何かして、東郷さんが笑っていける未来を見つけてくるから……!」

 

 こんな悲痛な懇願を。

 

「お願いだからっ……東郷さんは、未来を諦めないで……!」

 

 こんなにも()()()()()()()()『諦めないで』を、東郷は生まれて初めて聞いた。

 

 何もかも失い。

 心の支えは何もかも砕け。

 それでも、すがりつくように、"いなくならないで"と懇願するような言葉。

 

 希望などどこにもない。

 竜児はどこにも希望を見ていない。

 起死回生の策があるから、こんなことを言っているわけではないのだ。

 ただひたすらに、今ある絶望に押し潰されながら、『これ以上の絶望は嫌だ』と泣き叫ぶような懇願だった。

 

 東郷は気付く。

 ここで、あの壁に向かって引き金を引けば、この少年は泣くのだ。

 泣きながら、絶望しながら、そのまま死んでいくのだ。

 何の意味もなく。何の価値もなく。人生の全てに裏切られたままに。

 

(せめて)

 

 東郷は銃を下ろす。

 竜児がどんな人生の果てに、どんな結末を迎え、どんな想いで死んでいくか……それを思ってしまえば、壁を撃つことなどできやしなかった。

 

 当たり前の話だ。

 東郷が壁を壊そうとしたのは、"その方がマシな結末になる"と思ったからでしかなく、それは歪んでいても仲間を想っての行為に他ならない。

 最悪を避けたい。

 少しでもマシであってほしい。

 その想いがあるのなら……この状態の竜児が、このまま死んでしまうだなんて、東郷に受け入れられるわけがないのだ。

 

(せめて、何か一つでもいいから、この人に救いを見つけてからじゃないと)

 

 変身を解除した東郷が、車椅子で竜児に寄り添う。

 

「私は知ってるわ。

 あなたはもっとしっかりとした、立派な日本男児よ。

 しっかりして。……しっかりしなさい! 背筋を張って!」

 

 理想的な男の在り方を語るような語調の叱咤。

 だがその実、"あなたがそう在ってくれれば私もそう在れるから"という頼りの言葉。

 当然、竜児はその言葉に応えることができず、追い詰められた結果無自覚に竜児を頼ってしまっていた東郷もまた、正しい形に心を立脚できない。

 

「私も……しっかりするから……だから、あなたも……」

 

 叱咤以外に、この少年にどんな言葉をかければいいのか、東郷には分からなかった。

 沈痛な面持ちで、東郷はうつむく。

 東郷にそんな顔をさせたことで、竜児の心にまたダメージが行った。

 終わりのない悪循環。

 

 東郷は無力を痛感する。

 彼を助けられない自分を恨む。

 動かない足が、欠けた記憶が、東郷の自己評価を引き下げる。

 それらが散華で散ったという事実、竜児のことを忘れてしまった夏凜の姿が、"戦えばまた友達のことを忘れてしまうかもしれない"という恐怖となって心を蝕む。

 

 そして、落ち込んでいる仲間を励まそうとする気持ちより、喪失を恐れる恐怖の方が大きくなっている自分の心に気付き、また自己嫌悪に陥るのだ。

 

(私がもし、友奈ちゃんみたいな人間だったら)

 

 成れない自分に憧れる、その気持ち。

 それは他者評価の高さと、自己評価の低さに起因する。

 優しく勇気のある勇者(ああいうふう)になれたら、という憧れの気持ちだけが、今の竜児と東郷の胸中に共通する感情だった。

 

 二人して深く落ち込む竜児と東郷の肩を、小さな手が優しく叩く。

 

「友奈ちゃん……いつから?」

 

 結城友奈が、そこにいた。

 車椅子なのに一人で消えた東郷が心配になって探していたのか。

 それとも、竜児のあまりにも哀れな姿が心配になって探していたのか。

 竜児は前者だろうと思い、東郷は後者だろうと思っていた。

 

「あ」

 

 友奈は竜児に歩み寄り、その手を取った。

 何も話せない友奈に、竜児は継ぎ目なく謝り始める。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

 一つ謝る度に、心が押し潰されていく、そんな気持ちで謝り続ける。

 友奈は何かを言おうとする。

 言えない。

 何かを伝えようとする。

 伝わらない。

 紙に書いて竜児に見せようとする。

 涙が目からとめどなく流れ、竜児には何も見えていない。

 

 もうどうしようもなくて、友奈は自分の気持ちが伝わらない気持ちに表情を歪め、竜児を全身で思いっきり抱きしめた。

 

「知っていたら……僕が教えていたら……誰も満開なんてしないで済んだはずなのに……!」

 

 私気にしてないよ、と伝えたかった。

 満開のことを知っていたとしても使っていたはずだよ、と伝えたかった。

 君は止めようとしてくれてたよ、と伝えたかった。

 

 でも伝わらない。

 言葉がないから伝えられない。

 抱きしめたって、正確には伝わらない。

 

 友奈の言葉は、皆を救う。

 友奈の言葉には、いつも勇気と優しさが在るからだ。

 ならば。

 彼女が、喋れなくなったら?

 友奈の言葉に救われていた者達は、その全員が絶望に沈む。

 

 伝える言葉がない。

 涙で何も見えなくなっている今の彼には、言葉でないと正確に伝わらない。

 心は心に在るはずなのに、その心が伝えられない。

 友奈の心が伝わってくれない。

 

「ごめんなさい……ごめんっ、友奈っ……

 こんなことになって……そんなことになってて……!

 どんな敵が来ても、なにがあっても、友奈から何も奪わせたくなんてなかったのに……!」

 

 人に()うと書いて『伝』。

 人に()うと書いて『信』。

 気持ちは、言葉にしなければ伝わらない。

 どんなに代用品を用意しようが、言葉を口にする以上の伝達手段は存在しない。

 

 何も言えない。何も伝えられない。

 涙の壁に遮られただけで、友奈の気持ちは何も伝わらなくなってしまった。

 『これ』で伝わらないのなら、どうすればいいのかと、東郷の心が絶望に染まった。

 竜児の心が粉砕されていく。

 

 これが満開の結末。

 これが散華の必然。

 熊谷竜児が、大赦の駒として在り続けた行動の報い。

 

 大赦の教育(のろい)の鎖はあの瞬間、最悪な形で彼の足を引っ張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てから逃げ出すように竜児は走る。

 一歩歩くごとに別の現実の壁に衝突していくように走る。

 目的地を見失った迷い子のように竜児は走る。

 そして、ぷつりと糸が切れるように、意識の糸が切れ、気絶した。

 転ぶように、倒れ込むようにして、土の上に意識の飛んだ竜児が転がる。

 血だけではなく泥にもまみれ、見かけは更にみじめになった。

 

 気絶した竜児の夢の中。

 

「あ……ああああああっ……!」

 

 竜児が殺した兄達が、竜児に恨めしそうにすがりついてくる。

 竜児が殺した。

 その手で殺した兄だ。

 兄は恨めしそうに竜児に群がり、竜児を絞め殺そうとする。

 それら全てが、"兄を殺した竜児の罪悪感"の具現だった。

 

「あ、ああ、ああっ!」

 

 竜児は謝って、謝って、謝って。

 けれど兄の死骸(ざいあくかん)は許してくれなくて、竜児の首を締め続ける。

 竜児を殴り続ける。竜児を蹴り続ける。

 

「ああああ!? ああああっ!」

 

 竜児は泣きながら逃げる。叫びながら逃げる。

 そして、逃げた先で、自分を無言で見つめるメビウスの死体を見つけた。

 その死体を見てしまったことが、竜児の中に残った心の一部を、丁寧に折っていく。

 

「―――あ、ああっ、う、あ」

 

 死体に包まれ、死体に抱かれ、竜児は夢の中で絶望の泥の中に沈んでいく。

 闇の中に沈んでいく。

 もがいても脱出などできなかっただろうが、竜児にはもとより脱出する気などない。

 この闇の泥の中に沈んで、消えて無くなってしまいたかった。

 

『うおおおおおっ!』

 

『とおりゃああっ!』

 

 そこに、突如現れる二つの人影。

 二人は竜児の中の無数の死体(ざいあくかん)を殴る蹴るで片っ端からぶちのめし、泥の中に沈んでいく竜児の腕を一本ずつ持ち、力任せに闇の中から引っ張り出した。

 二人を見た竜児の瞳から、涙がこぼれる。

 

「ヒロト……ヒルカワ……」

 

 二人は遠くに見える光に向かって、竜児の背中を押し始める。

 二人に無理矢理押された竜児も、光に向かって歩き始める。

 

『辛いのは分かる! だが、頑張れ! 俺達のヒーロー!』

 

『ここで終わるな! まだ終わるな! お前がやるんだ!』

 

 心はいつも、繋がっている。

 

『『 頼んだぜ! ハッピーエンドと、平和よろしく! 』』

 

 

 

 

 

 竜児は目覚めた。

 

 今見たのが、本当に彼らだったのか、自分が罪悪感から逃げるために作った夢の中の存在なのか……竜児には、分からない。

 だが、涙は止まっていた。

 夢の中では二人を見て涙したはずだったのに、何故か現実の泣きっぱなしだった自分の目は、涙を流すのを止めていた。

 

 もうちょっとだけなら。

 まだ少しだけなら。

 歩いていける。

 そう、思えた。

 だから竜児は立ち上がる。

 

「見つけたぞ」

 

 その竜児を、とうとう奴が見つけてしまう。

 

 これ以上下がないと思えるほどに追い詰められた竜児の前に、コピーライトは現れた。

 

 味方は居ない。竜児には抵抗する力もない。絶体絶命だ。

 

「兄さん」

 

「……まだ家族にすがりつく気持ちがあるのか。情けない軟弱者が」

 

 兄は溜め息を吐き、竜児はもはや心とは言えないほどにズタボロになった心で、兄に向かって叫ぶ。

 

「あなたは……あなたは!

 正気じゃない! まともじゃない!

 なんであんな事実を、平然と、僕に言えたんだ……!」

 

 竜児は、兄が語った残酷な真実に対し、八つ当たりのような文句を言う。

 兄が語ろうと語るまいと、真実は何も変わらないのだと、知っているくせに。

 

「はあ? 頭おかしいのかお前。

 オレがお前らの言う『まっとうさ』を持ってないことくらいひと目で分かるだろ」

 

「え」

 

「血の繋がった弟達が死んで、ゴミのように捨てられるのを見ていた。

 助けたかったが、助けられなかった。

 生かしてやりたかったのに、皆死んだ。

 幸せにしてやりたかったが、無理だった。

 じゃあもうダメだろ。そんな兄貴が、まともでいいと思うか? 狂っとかなきゃだめだろ」

 

「―――」

 

「オレが最悪なのはな、死んだ兄と弟の数を覚えてねえってことだ。

 最初は頑張って数えてたんだがな。

 死にたくねえ、死にたくない、って皆言いながら死んでくもんでよ。

 うるさくて、うるさくて、今もオレの頭の中で叫んでやがる。

 煩いからちーっとうっかりして、途中から何人死んだかもカウントできなくなっちまった」

 

 それは自覚の無い、『コピーライトの心が壊れた瞬間』だった。

 

「家族が死んだ人数把握してないとか、普通じゃねえわ。

 普通は家族が死んだ人数とか覚えてるだろ。

 その時点でオレはクソみてえなもんだ。

 あー、なんでオレはあそこでちーっとうっかりして、カウント忘れちまったんだか」

 

 カプセルが無ければ巨人にもなれず、天の神の助力がなければ人間の姿にもなれない。

 それが失敗作、コピーライトだ。

 

 この兄は単体の生命としては、巨人と融合した後の竜児と比べても、圧倒的に劣っている。

 弱者なのだ。

 吹けば飛ぶ命でしか無い。

 怨念と憎しみが、飛び抜けて大きいだけだ。

 道具を使って戦う力だけは凄まじく大きくしているが、逆に言えばこの男には戦う力以外の何もない。生き残った家族も。友も。仲間も。幸せも。居場所も。信頼も。絆も。

 だからこそ、竜児を喰って延命せねば生きられない。

 彼もまた失敗作なのだから。

 

 ゆえにこそ、使い捨てる鉄砲玉としては最強だった。

 

「兄さん……」

 

「……驚いた。そこまで情に流されやすいのか、お前。何『同情』してやがる」

 

 竜児は自分が生ゴミとして捨てられた失敗作の残骸をあてがわれた、失敗作の失敗作であることを知ってしまった。

 そして、この男がその捨てられるべき失敗作の一つでしかないことを知ってしまった。

 ならば戦えない。

 ならば憎めない。

 悪役だなんて見られない。

 ……なら、竜児の心は、この心にかかる負荷を逃がすため、『誰のせい』にすればいいのか?

 

「まあともかくだ。オレはな、全宇宙の全ての命から幸せを奪おうと思ってる」

 

「―――!?」

 

「オレは、生まれてから一度でも幸福を感じたことのあるやつは全て殺す。

 幸福があれば全て潰す。

 だってそうだろ?

 生まれてから一度も幸せを感じられずに死んだやつと比べたら、不平等じゃねえか。

 じゃあせめて殺してつり合い取ろうぜ。

 幸せなんてものを感じた事がある時点で、そいつには殺されるべき罪があるんだ」

 

「そんな……そんな……!」

 

「そのための最初の力も手に入れた。

 光の勢力も闇の勢力も、等しくオレは破壊する。

 オレが望むのは平等だ。皆、平等って言葉は大好きだろう?」

 

 それは、世界の犠牲者の主張。

 光の勢力と闇の勢力の大戦争の中で、使い捨てのものとして作られたものの叫び。

 光の者であろうと、闇の者であろうと、そうでない罪なき人間であろうと、コピーライトは等しく破壊する心持ちでいた。

 

オレの兄弟(あいつら)は幸せじゃなかった。

 オレも幸せになることはないだろう。

 あとは、全宇宙の全ての命が幸せを感じられないようにするだけだ」

 

 竜児の脳裏に。

 

「皆、幸福な日々など失うべきなのさ。平等のために」

 

 幸福な日常を送っていた勇者部と、今の悩み苦しんでいる勇者部の顔が、交互にフラッシュバックした。

 

「返せ」

 

「あ?」

 

「返せ!」

 

 竜児の精神が、ついに決定的に正気を失う。

 

「返せ、返せよ! メビウスを、皆の捧げたものを……返せ!」

 

「返せ? 正気を失ったか……つか、お前がそれを言うのか」

 

 コピーライトが竜児の膝を足裏で思いっきり蹴る。

 ミシ、と嫌な音がした。

 

「あぐぅっ!」

 

「皆、お前を庇うために捧げたんだろ。巨人は自分の身を、勇者は自分の一部を」

 

「―――」

 

「そこさえ分かってなかったのか?

 巨人はお前を庇って逃した。

 勇者はお前を守ろうとして花開いた。

 ちゃんちゃらおかしいこと言ってんじゃねえ。

 お前は本当に出来損ないだな、オレ以上に。失敗作の失敗作だ」

 

 息が、詰まる。

 

「返せ……」

 

「光の巨人が情けないことを言うなッ!」

 

「返してくれよっ……」

 

「目障りだ……ここで改めて死ぬか?」

 

「返せ……!」

 

 追い詰められて、追い詰められて、追い詰められて。

 竜児は立ち上がり、眼前の敵に拳を叩きつけた。

 兄は弟の瞳を覗く。

 まるで、あのベリアルのような目をしていた。

 

 追い込まれ、何もかも失い、心砕けても……最後には、戦うことを選べる。

 たった一発でも拳を撃てる。

 竜児の中にある『ベリアルの遺伝子』が、最後の最後に悪あがきをさせてくれたのだ。

 世界の敵を殴るための拳を、作らせてくれたのだ。

 竜児の根底はまだ、諦めてはいない。

 

 兄はその戦意に、口元を上げる。

 

「いいツラだ。笑顔で殺してやる」

 

 コピーライトが竜児に"自分のものとしたメビウスブレス"を向ける。

 溜め込まれる光。

 放たれる光線。

 それは十二星座のバーテックスなら、一瞬で蒸発せしめるほどのもの。

 勇者であれば満開しても防げないと言えるもの。

 竜児は死ぬ、と思われた、その瞬間。

 

 銀色の流星がやって来た。

 

 

 

 

 

 人はウルトラマンを神と呼び、そのウルトラマンが神と呼んだ存在がいた。

 ウルトラマンの神と呼ばれた、唯一無二の存在がいた。

 今この世界において唯一人、そのウルトラマンの神に選ばれた勇者がいた。

 何度満開を繰り返そうが、ただの一度も諦めなかった勇者が。

 

 竜児を守るべく飛び込んで来た少女が、右手と精霊を前に掲げる。

 

「『ウルトラマンノア』」

 

 33の精霊が現れ、『ウルトラマンノア』と呼ばれた精霊に直結する。

 ウルトラマンノアと呼ばれた精霊が、光線をバリアで防ぐ。

 そうして、コピーライトの光線は相殺された。

 

 異常な精霊を行使した少女はこほっ、と血の粒を吐いてむせこんだ。

 その衣装は、見紛う余地もないほどに、神樹の勇者のそれだった。

 

「あなた、は」

 

「ある時はそのっち。ある時は一番強い勇者。ある時は天然なんて呼ばれることもあるよ~」

 

 コピーライトが鼻で笑う。

 

「精霊・ウルトラマンノアの使役者。

 無数の精霊を引き出す過程で……

 『本物の巨人の神の力』を()()()()()()()()()、大赦の切り札の中の切り札。

 今や『可能性』があるのはお前だけだ。事情があろうと、大赦も投入を決めるだろうな」

 

「そうかな~?」

 

「今や神樹の希望はお前だけだろう」

 

 少女は精霊・ウルトラマンノアを肩に乗せ、自由気ままな雲を思わせる微笑みを浮かべ、のんびりとした語り口で、竜児に語りかける。

 

「君は、決して恵まれた人生を送っていないけれど。

 十年くらい生きて、君は自分の人生を肯定できるようになったんだよね?

 出会いがあったから。いいことがあったから。未来と世界を、大切に思えたから」

 

 そして、竜児に手を差し伸べる。

 

「だから、ここで足を止めて、自分の幸せを―――」

 

 少女もまた、竜児に幸せになってほしいと、救われてほしいと思う、その一人だったから。

 

 

 

「―――諦めないでっ!」

 

 

 

 神世紀の中でただ一人、適応者(デュナミスト)に選ばれた神樹の勇者。

 

 彼女の名は乃木(のぎ)園子(そのこ)。かつて友に呼ばれた名はそのっち。

 

 勇者としての意匠の花は"青薔薇"。

 

 花言葉は『不可能を可能に』『奇跡』『神の祝福』。

 

 

 




 ウルトラマンジードの行き着く先が『ウルティメイトファイナル』で、ネクサスにとってのノアも『ウルティメイトファイナル』であるとオフィシャルデータファイルに書かれているという偶然の一致

・ウルトラマンノア
 銀の光が巨人の形を取ったかのような、『ウルトラマンの神』。
 その力は究極にして絶大。
 しょっちゅう複数宇宙破壊規模の強大な敵と戦い、力を使い果たして『ネクスト』『ネクサス』などの弱体化形態に戻ってしまう。
 ウルトラマンの神のくせに人間一人を見捨てることもなく、気に入った人間に同化することでその人間に力を貸し、共に戦い死ぬことすら厭わない。
 諦めない人間が大好き。
 諦めない心こそを力とする。
 多元宇宙に自分の石像を残し、その石像が諦めない人間の心を感知すると、どんなに遠い宇宙からでも力を貸してくれたりする。

 総じて―――『人が祈り敬う神の理想像』を体現したようなウルトラマン。

・精霊数
 乃木園子の精霊総数は33体。
 通常精霊33体と特例精霊のウルトラマンノアで合計34。
 精霊の数は満開と散華の行使回数に比例するため、合計33回行ったと推定される。
 精霊ウルトラマンノアのパワーソース。
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