時に拳を、時には花を   作:ルシエド

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大変!ママが来た!


第九殺一章:恋のキングジョー

 竜児は巨人の姿となり、芽吹を抱え、結界の外で旧近畿地方へと飛翔していた。

 

「うっわ速い……」

 

『ノーマルメビウスの飛行速度はマッハ10。

 メビウスブレイブがそれよりちょっと速い。

 四国結界の端から近畿までなら90kmと少しだから……

 急いで行って帰ってくれば、カラータイマーは点滅もしないね』

 

「あ、あそこよ。あそこに、神樹様の生み出した種が埋められてる」

 

『巫女様じゃなくてもちゃんと回収できるんだよね?』

 

「それは確認済みよ。埋めたのは巫女だけど、回収は私でもできる」

 

 近畿に到達し、芽吹に神樹産の種を回収させる。

 この種は、灼熱の大地にも芽生え、植物を芽生えさせるもの。

 神樹製の特別製だ。

 大赦はこの種を結界外に埋め込むことで、結界外に人間が活動できる拠点、すなわち天の神に立ち向かう前線基地を作る作戦を前々から考えていた。

 

 神話における"国譲り"の再現により、地球は天の神のものとなり、人間が生きていけないマグマ渦巻く灼熱の大地となった。

 大赦はこれを"国造り"の再現で相殺しようとした。

 つまり、日本列島が作り上げられた流れを儀式によってなぞることで、灼熱の大地に人間が住める緑の大地を作り出そうとした、というわけだ。

 この種も、その一環ということだろう。

 

 神話において国造りを行った大国主は、初代勇者・乃木若葉にも力を貸したという、神樹を構成する一柱。

 成功の可能性は十分にあったのだろう。

 種が回収されている以上、おそらくその反攻作戦も中止になったということなのだろうが。

 

 竜児が種を回収した芽吹を手に乗せ、四国を目指し再度飛翔する。

 

『神樹様の種、か。なんでまた、埋めたものをわざわざ回収に』

 

「大赦が反攻作戦を改めたから、と聞いたけど」

 

(僕の転校云々の話に影響を及ぼしてた話がここまで波及してたのか……)

 

「大赦も試行錯誤してるんじゃないかしら、ウルトラマンがいるから」

 

 大赦は今、何を考えているのだろうか。

 何を目指しているのだろうか。

 ……あるいは、何かを待っているのだろうか?

 

「それと、『アレ』もいるから」

 

 芽吹が指差すその先に、まだ未完成のバーテックスが居た。

 

 バーテックスは小型の怪物、"星屑"が集合して出来上がる。

 次のフュージョンライズの素体とするために、星屑の集合体が"バーテックスの成りかけ"と言うべき肉体を作り上げているのだろう。

 ここに竜児の兄弟を御霊と混ぜて入れ、竜児の兄弟の力を軸にしてフュージョンライズを行い、二体分の怪獣の力を融合昇華したものを、バーテックスとして顕現させる。

 おそらくは、そういう仕組みだ。

 

 だが何と言うべきか、その怪獣の体は、未完成の状態でさえ、あまりにも大きかった。

 

「いくらなんでも、大きすぎでしょう……」

 

『メビウスと僕の巨人形態でも49m。

 でもこのバーテックス、おそらく全長1kmくらいあるからね……

 僕の身長が166cmで、楠さんの身長159㎝だから、何倍になるか計算するのも嫌だ』

 

「私の身長をどこで把握した」

 

『楠さんのお友達が教えてくれた』

 

「……誰が話したか大体想像つくのが嫌ね」

 

 あまりにも大きい。

 西暦末期の東京豊島区の人口密度は1平方kmあたり約2万2,658人であったと聞くが、それを基準にするとこの怪獣が一回ボディプレスをすれば、大雑把にそれだけで7000人は死にそうだ。

 メビウスの巨体と飛行速度でその周囲をぐるりと回って全身を見てみるだけでも、一定の時間は使ってしまいそうな大きさがある。

 

 これで、まだ未完成。

 星屑がまだ集まりきっていないが、集まりきれば本当に1kmを超えるのではないか。

 

『多分、ああやって肉体の素体を作って、フュージョンライズしてるんだ。

 怪獣カプセルもひょっとしたら星屑で擬似的に作ってるのかも……』

 

『その可能性はかなりあるかもしれないよ、リュウジ。

 おそらくあの中には……君の兄弟が、天の神によって埋め込まれるはずだ』

 

『……早く倒して、助けてあげないとね』

 

 今はまだ手が出せない。

 あれはまだ星屑の集合体でしかなく、攻撃しても星屑を散らすのが精一杯で、有効な時間稼ぎにすらならないだろう。

 メビウスの活動時間三分間ではちょっと破壊しきれない大きさだ。

 幸か不幸か、あまりにも敵が巨大なために、完成にはまだ時間がかかりそうに見える。

 

(怪獣の作成過程に迷いが無い。完成図が目に見えてるんだろうな)

 

 香川のすぐ近くで完成を待つ超巨大バーテックス。

 その横を抜けて、星屑(こもの)を蹴散らしながら結界内に帰ろうとする巨人と防人。

 ところがその途中、金色に光る何かが灼熱の世界に落ちているのを見つけてしまった。

 

「バーテックス……?」

 

『それにしては小さいというか……バーテックスの気配、みたいなのがない』

 

 竜児と芽吹が首をかしげるが、メビウスは驚愕の声を漏らしていた。

 

『き……キングジョー!』

 

『え? メビウスの知り合い?』

 

『知り合い……というか……恐るべき侵略兵器というか……』

 

『侵略兵器!?』

 

 竜児より少し身長が高いくらいの大きさなのに、これが侵略兵器だというのか。

 メビウスはそれをキングジョーと呼んだ。

 金色のそのロボットは、人の声に反応し、むくりと体を起こす。

 

「んもう、この地球はどうなってるのかしら。あらご機嫌麗しゅう」

 

「えっ」

『えっ』

『えっ』

 

「あら、人間さんですわね。

 この地球に居るらしい友人に、わたくし会いに来ましたの。

 わたくしの名はキングジョー。キング嬢とお呼びくださいな」

 

 キングジョーと名乗ったそれは、女性の声で、友好的に語りかけてきた。

 

「できれば早めに人の住んでいるところに連れて行ってくださるかしら。

 わたくしこの宇宙は久々で、地理に疎いもので困っております。

 あのノンマルトとデロスの遺産、模造品とはいえ近くにいるだけで怖く感じますの」

 

 キングジョーと名乗ったそれは、超巨大バーテックスを指差し、普通に脅威に感じていた。

 と、いうか、よく見ると、星屑に普通に齧られていた。

 

 地球を除いた宇宙のほぼ全てが地球の敵に回り、宇宙の誰も地球を助けてくれないという、地球人にとってこの上なく絶望的なこの宇宙。

 そこにある日、別の宇宙からウルトラマンメビウスがやって来た。

 "地球に友好的な一人目の宇宙人"がやって来てくれた。

 そして今、『二人目』がやって来てくれていた。

 機械に『二人』という表現を使うのが正しいのかは、ちょっと怪しいところだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者部の全員が驚愕していた。

 ある土曜日に勇者部の活動で部室に集まった、それはいい。

 竜児が重大な話があると土曜朝に急に言ってきた、それもいい。

 だが部室にて金色のロボットが待ち受けているなど、誰が予想できようか。

 

「というわけで、別宇宙から地球に友人に会いに来たというお客様、キングジョーさんです」

 

「キング嬢とお呼びくださいな。ふふふ」

 

「……?」

「……!?」

「……!?!?!?」

 

 困惑が明確に見て取れた。

 

「彼女は……彼女でいいのか……地球に友人に会いに来たようで」

 

「わたくしの友人は、十年ほど前にこの地球に来ているはずですの。

 人探しはあまり得意ではないのですが、そこで竜児さんによい話を聞いたのです。

 曰く、人に優しくし、人を助ける部活だとか。なので人探しを依頼したいのですわ」

 

「別宇宙から来た人に依頼されるとか、勇者部も行くとこまで行った感あるわね」

 

「風先輩、人のためになることを勇んでやる、ですよ! ……ん? 『人』のため……?」

 

「友奈! そこは考えちゃダメなやつ!」

 

 キングジョーは友人を探しに来たという。

 十年前なら確実に四国結界の中にいるだろう。

 四国結界の外は、ああいう風になっているわけで。かつ、キングジョーが探しているのは、彼女の言を追う限りでは"人の住んでいるところ"であるはずなのだから。

 

「別宇宙への移動も楽になりましたわ。

 ベリアル銀河帝国との戦い以来、光の国の宇宙渡航技術の発展は目覚ましいものが有ります」

 

『ヒカリ達が頑張ってますから』

 

「ふふ、それもあなた達警備隊が平和を守っているからこそでしょう、メビウス」

 

 竜児は左手のメビウスブレスをキングジョーに向け、ひそひそ話を仕掛けてくる勇者部の面々にひそひそ話を返す。

 

「リュージ、どうなの、信用できるの?」

 

「どうだろう……話した限りでは悪い人じゃないと思うんだけど」

 

「あ、私もそう思ったよ、リュウ君」

 

「ロボットだからって差別すんのはどうなの、って僕も思うんだけど、流石にね……」

 

「熊谷君、その警戒心は正しいわ。なんでもかんでも信じればいいというものでもないもの」

 

「そこで、人探しの依頼を受けた、という形で僕らの誰かが常に見張りにつければと思って」

 

「お、それはいい案ね。悪くないわよ、竜児君」

 

「神樹様は樹海化を行ってません。

 つまり敵認定はされてません。

 危険は薄いとは思いますが、風先輩も皆も、気を付けて」

 

「分かりました、熊谷先輩」

 

 子供らの警戒心半ばといった反応に、キングジョーはくすくすと笑った。

 

「ふふふ、子供は大人に隠し事をするのが本当に好きですわね」

 

「いや、別に好きってわけじゃ……

 僕の私見を述べさせてもらえば、大人が子供に隠していることの方が多いでしょう」

 

「それは確かに。大人は子供に見せてないものが多いですわね。

 ですが子供は大人の隠し事に苛立ち、大人は子供の隠し事を微笑ましく思うものですわ」

 

「……やけに子供に詳しい風ですね」

 

「おほほほほ! わたくし、あなた達と同じ年頃の子供が三人もございますので」

 

「三人!?」

「同じ年頃!?」

「子供いるの!? ロボットなのに!?」

 

「宇宙は広いのですわ。

 ロボットに子供が居ないと思うのは、まだ地球人が狭い世界しか知らないからでしょう」

 

 子持ちのキングジョー(女性)という来訪者は、キングジョーという存在をよく知らない人間勢にも大きなインパクトを、キングジョーという存在をよく知っているメビウスには超弩級の衝撃を叩き込んでいた。

 

『キングジョーおばさん……』

「キングジョーおばさん?」

「キングジョーおばさんだ……!」

 

「ふふふ、愛称として受け取っておきます。近所のおばさんのように頼ってくださいな」

 

 キングジョーおばさんが微笑む。キングジョーの顔は微塵も動いていない。矛盾。なのに何故か微笑んでいるのは分かる。なにかおかしい。

 彼女からはどこか気さくで、子供のあれこれを柔軟に包容する母性も感じられる。

 竜児達がまだ中学生というのもあって、キングジョーおばさんは自然に部の空気の中に受け入れられ始めていた。

 

『すまないが、僕やリュウジはまだ君を完全に信用することはできない。

 信じたい気持ちはある。だけど、バーテックスは悪辣なやり方を学び始めているんだ』

 

「はあ? わたくしはあのケンとマリーの仲人までした女ですわよメビウス!」

 

『!?』

 

「あの堅物のウルトラセブンを妻と引き合わせたのもわたくし!

 少しは信用してほしいものですわね!

 ウルトラ仲人ウーマンの名に相応しいわたくしの見立てに狂いはない!

 この部内ではどのカップリングでもそれなりに萌えます……!」

 

『それが本当のことなら、あなたも信じられるけど……ん? カップリング?』

 

 本当ならとんでもない方だ、とメビウスは思ったが、突如キングジョーの台詞の中に紛れ込んで来た異物単語に「ん?」となる。

 メビウスがその単語の真意を問い質す前に、キングジョーは変なポーズを取っていた。

 

「ラブリービーム!」

 

「ぬわー!?」

 

 変なポーズから放たれた変なピンク光線が、竜児に直撃する。

 

「りゅ、リュージー!」

 

「敵!? まさか敵なの!?」

 

「騒ぐんじゃないですわ小娘ども!

 このラブリービームは『カップリング妄想』を実現させる力!」

 

「か、かっぷりんぐもうそう!?」

 

 友奈が理解できない言葉を変な発音でリピートする。

 

「ああ、このキャラとこのキャラが恋人関係になるんだろうな。

 でもこのメインキャラとこのサブキャラが恋愛したら萌えるな。

 はぁぁ、作品の中で絶対に成立しないこのカップリング尊い……

 わたくしの妄想の中にしかないけど、このカップリングエモい……

 そんな気持ちが湧いてきた、そんな時!

 わたくしのラブリービームは、人の心に作用し、掛け算の奇跡を起こすのです!」

 

「凄い! 何言ってるのかさっぱり分からない!」

 

「具体的には、このビームを食らった人間は(ラブ)の虜となります!

 そして近辺に居る、ラブラブになれる可能性が1%でも存在する異性をターゲッティング!

 ビームを食らった人間からその異性にビームが放たれ、やがて展開されるラブラブ模様!」

 

 竜児の目が、正気の色を失う。

 

「現在の時間軸から見てありえるラブラブ未来の可能性を、ここに実現させるのですわ!」

 

「え、つまりどういうこと?」

 

「『もしあの人とあの人がくっついたら?』

 というラブラブ妄想を、未来の可能性から引っ張って来るのです!」

 

「……はた迷惑だ!」

 

 ビームを食らった竜児からまたビームが出て、夏凜に命中。

 竜児だけでなく夏凜の様子までおかしくなり、竜児が夏凜の手を取った。

 

「夏凜、結婚してくれ」

 

「「「「 !? 」」」」

 

 "あ、これおかしくなってる"という感想で皆の心が一致する。

 

 キングジョーが運んで来たラブコメ世界の空気が、世界を侵食し始めた。

 

「な、何よ……私みたいなの選ぶとか、バカじゃないの」

 

「僕は夏凜がいいんだ」

 

「素直じゃないし、ガサツだし、他に女の子らしい子はいっぱい居るでしょ」

 

「君にいくら欠点があったって、それが無いに等しいと思えるくらい、君にはいい所がある」

 

「……私、いい奥さんにはならないかもしれないわよ?」

 

「変わる必要なんて無い。君は今のままで、誰よりも素敵なんだ」

 

「バカ」

 

「夏凜にバカとかアホとか言われるのも、もうすっかり慣れたね」

 

「あんたは……私が周りと協調する前から、ずっと私と一緒に居てくれたわね」

 

 竜児が夏凜の手を取った手を、夏凜の手が優しく包み込む。

 

「もしかしたら、今思えば私、あんたのこと、ずっと一番に好きだったのかもしれない」

 

「知ってたよ」

 

「……ちょっと!」

 

「だからプロポーズは、僕がするべきだったんだ」

 

 夏凜が顔を赤くして、顔を逸らす。

 

「子供の頃から一緒だったんだから、お爺ちゃんになっても一緒にいなさいよ!」

 

「うん。約束する。できれば、死ぬ時も一緒に逝けたらいいよね」

 

 勇者部に困惑、赤面、動揺、驚愕、色んな感情がまぜこぜになった反応が広がる。

 

「え!? ええええ!?」

 

「ああああ! 何かぞわぞわする! なにこれ!」

 

「これが、キングジョーおばさんの力……!」

 

 そして、キングジョーは大興奮していた。

 

「これはおそらく20代前半でのプロポーズというシチュエーション……!

 萌えますわぁ……! たまりませんわぁ……!

 直球の良さぁ……!

 あ、ラブリービーム加減して撃ち過ぎましたわ。効果が早くも切れそうです」

 

「えっ」

 

 パン、と肉体に浸透していたラブリービームが弾ける。

 竜児と夏凜の顔が接近していたタイミングで、二人はハッキリ正気に戻った。

 夏凜の顔が赤いペンキをぶちまけたように真っ赤になり、湯気が出そうなほどに顔は熱くなり、竜児の顔はさっと赤くなると、夏凜の顔が更に赤くなった。

 

「ウルトラハリケーンっ!」

 

「セクハラしてごめんよ夏凜ー!」

 

 夏凜の投げ技が竜児に炸裂し、竜児は部室入り口とその向こうの窓を通過して外にすっ飛んでいく。ここは二階だ。

 

「く、熊谷先輩ー!」

 

 樹が悲鳴を上げ、三分後、竜児は駆け足で部室に戻って来た。

 

「あーひどい目にあった」

 

「せ、先輩! 落ちて大丈夫だったんですか!?」

 

「え? 流石に下には落ちてないよ?

 窓から投げ捨てられたから0.1秒だけ人間サイズで変身して飛んで屋上に着地したんだよ」

 

「何ですかその小器用な小技」

 

「光のフラッシュで自分を包んで他人に正体を気付かせないのがコツだ」

 

 熊谷竜児少年15歳(推定)。日々器用になってる感がある。

 

「ほら、メビウスブレスとウルティメイトブレスを高速で出し入れする一発芸」

 

「す、凄い! ブレスレットの出し入れと腕の動きで空中に絵を描いてる!」

 

 竜児が樹に見せた一発芸で、少年は少女の尊敬を集めたが、投げ飛ばした当人はまだ顔を赤くしたまま、竜児から距離を取っていた。

 

「な、何? あんた私のこと性的に狙ってたりすんの? ちょ、ちょっと……」

 

「誤解だよ誤解! あれはビームでおかしくなってて……」

 

「ラブリービーム!」

 

「ぐああああ!」

 

「このキングジョーおばさんちょっと容赦なさすぎない!?」

 

 言い訳さえも許さぬカップリングビームのインターセプト。

 夏凜に必死の言い訳をしようとしていた竜児の背中にビームが当たり、夏凜への言い訳が中断されてしまう。

 そして今度は竜児からのビームに、友奈が当てられてしまった。

 

「友奈」

 

「なあに、リュウちゃん」

 

「君に出会えて、良かった」

 

「それは私の台詞だよ」

 

「君と結ばれて……もう、何十年になったかな」

 

「七十年? くらいかな。

 結ばれた時のことは忘れないけど、いつだったかは忘れちゃうものなんだね」

 

「あの時の友奈、可愛かったな。今も可愛いけど」

 

「あはは、お婆ちゃんに何言ってるの。でも……可愛いって言ってもらえるの、嬉しい」

 

「友奈は昔からずっと可愛いって皆思ってたよ。皆心の中ではそう思ってたはずさ」

 

「そうじゃなくて、可愛いって誰に言ってもらえたかが大事なの」

 

 シチュエーションが一気にニッチになった。

 

「これは……ラブラブ妄想、なの……?」

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんのラブラブ妄想なんじゃないかな、お姉ちゃん」

 

「はぁぁぁぁ……尊いですわ……

 伝わってきます、このビームがこの二人の関係性を伝えてくれます。

 幼少期運命の出会いをし、十代で運命の再会をし。

 数多くの戦いをくぐり抜け、互いに勇気を与え合い……

 やがて結ばれ、子供が出来ても初々しく愛し合い、支え合い……

 子供の頃にあったことを、笑い話にして話せる老夫婦……エモい……」

 

「誰かこのキングジョーおばさん止めた方がいいんじゃない?」

 

「というか見方を変えると、結婚したら死ぬまでずっと幸せって保証されてるようなもんねこれ」

 

 老人のような口調と挙動になり、肩が触れ合う近さで並び座る竜児と友奈。

 二人の手が、そっと重なる。

 

「これが人生の最後なら、僕はきっと、世界で一番に幸せな男だ」

 

「ううん、世界で一番幸せなのは、私だよ」

 

「……そっか。じゃ、この"世界一"、二人で半分こしよっか」

 

「そうだね、私達、ずっとそうしてきたもんね」

 

 パン、と肉体に浸透していたラブリービームが弾ける。

 ビームが弾けた後も、友奈と竜児はふわふわした表情をしていた。

 

「なんだろう……僕を一生幸せにしてもらったような、そんな確信が……」

 

「なんだろう……一生幸せにしてもらったような、そんな感じの私……」

 

「二人共ー! 戻ってこーい!」

 

 風にガタガタ揺らされ、二人の意識が現実に帰って来た。

 ハッと我に返り、二人は繋がれた自分の手を見て、あわあわして弾かれるように距離を取る。

 夏凜がそこでボソッと呟いた。

 

「ねえ東郷、こういうのって浮気性とかに入らないのかしら」

 

「入らないんじゃないかな……入らないと思うわよ?」

 

 無言でキングジョーおばさんがビームの構えを取る。

 竜児もまた、ビームをかわすべく発射と同時に無言で跳び、射線を外した。

 

「上手い! そして速い! 竜児君、これは現実で結構体を鍛え直したか!」

 

 風の的確な実況解説も、キングジョーは意にも介さない。

 

「甘い! ラブリービーム弐式!」

 

 そして"甘い"の一言でビームを曲げ、竜児に直撃させた。

 

「うわああああ!」

 

「ビームが曲がった!」

 

「自分の意志でビームを曲げられるっていうの!?」

 

 そして竜児から東郷にビームが飛び、竜児と東郷から同時に正気が飛ばされる。

 部内の空気が、また変わった気がした。

 

「東郷さん」

 

「行ってしまうのね、リュウ」

 

「僕が行かなきゃ……僕が犠牲になってぶつかっていかなきゃ、世界が守れないんだ」

 

「でも! あなたが犠牲になるなんて!」

 

「僕だってそうしたくなんかない。死にたくなんかないよ」

 

「だったら!」

 

「でも、君が生きていくこれから先の未来を、守りたいんだ」

 

「―――っ」

 

「君の未来を幸福を、守りたいんだ。この命に変えてでも。……美森」

 

「! ……私の、名前を……」

 

「君が好きだった。君のことを愛していた。だから、ここで君とはお別れだ」

 

「リュウ!」

 

「さようなら。……見ていてくれ、僕の最後の特攻を!」

 

「待って……行かないで!」

 

 三度目の恋愛大喜利は、涙ながらに送り出す東郷と、背を向け駆け出す竜児の構図となった。

 中学生勢全員が、かつて歴史の授業で見た一ページを思い出す。

 

(((( 旧世紀の、神風特攻兵士の恋愛シチュエーション現代版だこれ……!! ))))

 

 おそらくこれが、東郷の性癖だ。優しい人の自己犠牲とかそういうの。

 

「……ただいま」

 

「―――! リュウ!」

 

「恥ずかしながら、生きて帰って来てしまった。ちょっとした生き恥だね」

 

「いいの……無事で……生きて、帰って来てさえくれれば……!」

 

「美森……」

 

「あなたが帰って来てくれただけで……私は十分だから……!」

 

 何か特攻したけど生きて帰って来たらしい。抱きしめ合う東郷と竜児。

 

 おそらくこれが、東郷の性癖だ。優しい人の自己犠牲とかそういうの。

 かつ、優しい人が自己犠牲の果てにちゃんと戻って来るとか、そういうの。

 

「なるほど……東郷美森さんはなんだかんだ死にネタが苦手と……

 でも優しさから来る自己犠牲、それを選ぶ人に尊さを感じると……

 いいですわね、陳腐でも全員生還のハッピーエンドなのはとてもよろしい。

 鬱々しい過程から、しっかり仕上げたハッピーエンド、結ばれる二人……

 はぁ……この後のこの二人の、生きて帰ったが後の恋愛模様の想像……素敵、もう無理……」

 

「キングジョーおばさん、もしかしてどんなシチュエーションでも興奮するんじゃ」

 

「失敬な! わたくしの琴線に触れるジャンルが多いことと!

 わたくしがどんなジャンルでも興奮することは、全くイコールではありません!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 パン、と肉体に浸透していたラブリービームが弾ける。

 二人が我に返り、慌てて東郷が竜児の体を押しのける。

 竜児はその反応に"拒絶の意志"を想像し、申し訳ない気分になり、東郷の柔らかい感触を体がまだ覚えていることに罪悪感を感じ、東郷が車椅子を後ろに動かして距離を取るのを見て、かなり死にたい気持ちになった。

 

「に……日本男児たるもの、この程度の色恋じゃた、色恋沙汰で、動じられては困ります」

 

「あ、うん、はい、そ、そうですね。ごめんなさい」

 

 キングジョーおばさんがまたビームの構えを取る。

 もはや手段も選んでられない。

 これ以上玩具にされてたまるか、という想いから、竜児はメビウスブレスを出した。

 

「くっ、これ以上恋愛恥辱のロシアンルーレットなんてやらせてたまるか!

 このままだと樹さんにまでルーレットが回りかねない!

 同級生ならまだなんとなく洒落で流してくれそうな気がするが!

 繊細な樹さんが一瞬でも傷付いた顔でも見せたら、僕は一生引きずる気がする!」

 

「せ、先輩! 気にしすぎです!」

 

 竜児がメビウスブレスから光を引き出し、それを∞の字の形の盾に固める。

 

「メビウスディフェンサークル!」

 

「甘い! ラブリービーム参式!」

 

 その盾を、キングジョーのビームは飴細工のように粉砕し、竜児に直撃した。

 

「ぎゃああああ!」

 

「ふ、普通にメビウスの光の盾を貫通した!」

 

「このおばちゃんもしかして普通に戦っても最強クラスに強いのでは……?」

 

 ここでようやく、煽りとツッコミだけしていた風が巻き込まれた。

 

「え、あたし!?」

 

 竜児と風の正気が吹っ飛ぶ。

 

「風先輩……」

 

「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいよ……」

 

 竜児が風を壁に追い込み、頬を染めて顔を逸らす風の逃げ道を塞ぐように、竜児は壁に手をついた。

 壁に手をつく竜児の腕が、風の耳と髪に軽く触れる。

 

「僕は落ち着いてます」

 

「近い、近いってば! ……何か、変な気持ちになりそうだから、離れてよ」

 

「先輩のことは、ずっと他人の気がしませんでした。

 強さがあって、弱さがあって、罪悪感があって……

 けれど先輩は、母のように姉のように、部員の皆を導いていました」

 

「そ、それが、どうしたの」

 

「そんなあなたが好きです。

 他人の気がしなくて、でも僕とは決定的に違う、優しくて愛の深いあなたが好きです」

 

「!」

 

「僕のことは嫌いでしょうか?」

 

「き、嫌いじゃないわよ……そ、そりゃ好きだけど……こ、こういうのはね!?」

 

「風のように自由で、風のように皆を分け隔てなく優しく包んでいる。

 そんなあなたの分け隔てない愛の中で、僕は特別になりたい。一人だけの特別に」

 

「あぅ」

 

「強くて弱いあなたを、愛してる」

 

 キングジョーがいきり立った。

 

「あっふゥー!

 ビームが伝える二人の関係! 二人だけの共感!

 鏡合わせの共感に、互いの違う部分を見て、そこを尊重する気持ち!

 分け隔てない女側の懐の深い愛! その特別になりたいという男の想い!

 しかしそこには実は、男の分け隔てない愛の特別になりたいという女の想いもあって!

 女が押されるままになっているのは、それで男の特別を独占出来るから……ですわぁー!」

 

「性癖がうるさい!」

 

「待って、無理、しんどい……心の鼓動が心臓に追いつかない……」

 

「キングジョーおばさん心臓あるの?」

 

「無いけど……」

 

 竜児と風の唇が接近し始めたところで、キングジョーが眉を顰めた。

 キングジョーに眉はないけど。

 

「あ、流石ウルトラマン。もう抵抗の仕方を覚えてきたようですわね」

 

 パン、と肉体に浸透していたラブリービームが弾ける。

 二人が一瞬で正気に戻る。

 

「「 ああああああ!! 」」

 

 珍しく攻めの恋愛姿勢を見せてしまった竜児と、恋愛的にグイグイ押されると弱いという弱点を皆に知られてしまった風が、身悶えして床を転がる。

 

「メビウス……ありがとう……僕はこうやって抵抗すれば良かったんだね……」

 

『僕もウルトラマン。君もウルトラマンだ。

 僕らの光を共鳴させれば、この手の力は共振作用で打ち破れる。

 ……リュウジの新鮮な姿を見れたから、もうちょっと見ていたい気持ちもあったけどね』

 

「この天然ー! 僕の気持ちも考えてよ!」

 

『ごめんごめん。でもなんだか、見ていて楽しかったんだ』

 

 にぼしをかじっている夏凜が、ジトっとした目でそれを見ていた。

 

「今日一日でリュージの『愛してる』って言葉の価値が駄菓子より安くなったわね」

 

「夏凜ちゃんが何か怖いこと言ってる!」

 

「大事な言葉は安売りしないからこそ価値があるのよ、友奈」

 

「うっ……りゅ、リュウ君を庇う言葉が何も浮かんでこない! どうしよう!」

 

 竜児もいい加減限界だ。

 カプ厨のキングジョーが男女恋愛を見たいがために、部室内で唯一の男である竜児が、過剰にカップリングで酷使されている。

 このままでは、恥ずか死も時間の問題だ。

 

 キングジョーがまたビーム発射の構えを取ったので、竜児は部室から飛び出し廊下の窓から脱出をする。もはやなりふり構わぬ逃走だった。

 

「僕を! 玩具にすんのはぁ!」

 

「ラブリービーム肆式!」

 

「ぬああああっ!」

 

 だが、何か当たった。

 よく分からない感じにビームは当たった。

 竜児は部室から逃げたはずが、部室から逃げていなかったので当たった。

 とてもあやふやに、よく分からない感じに、竜児にビームが当たる。

 

「ビームを当てた未来とビームを発射した過去を連結させ、未来を確定させたのですわ」

 

「ねえこのおばちゃん最強なんじゃ」

 

「でもわたくしはまだ、ラブリービーム以外をこんなに多様には撃てませんの」

 

「違う! 変な人なだけだこのおばちゃん!」

 

 竜児と樹の正気が吹っ飛んだ。

 

 竜児が樹に手を差し出す。

 樹がそこにそっと手を乗せる。

 踊り方を知らない樹を、竜児がリードして踊り出す。

 歌う喉を持たない竜児に、樹が歌を奏でて捧げる。

 

 まるで、舞踏会のように。

 

「長かったですね、先輩」

 

「長かったねえ」

 

「主に、先輩が私を待たせたんですけどね」

 

「だって樹さんは、皆に愛される人だったから」

 

 二人は踊り、歌う。その合間に言葉をかわす。ゆっくりと、心を重ねていく。

 

「樹さんは可愛いから」

 

「……うぅ、目をこんな近くからまっすぐに見ながら、言わないで下さい」

 

「美しいと可愛いって、やっぱ違うんだよ。

 人間だったら美しいってのは顔のパーツのことだけど。

 可愛いっていうのは、愛嬌や愛らしさを示すんだ。

 そして……可愛いっていう言葉には、少なからず愛されるって意味合いが含まれてる」

 

 少年は、少女の手を引いていく。

 

「樹さんは、とても多くの人に愛されてた。だから……」

 

「だから……?」

 

「世界で一番に君を愛してる男じゃないと、君と結ばれる資格はないと思ったんだ」

 

「―――」

 

「胸を張って、世界で一番君を愛してるって、言いたかったんだ。

 ……だからかなんでか、途中からは風先輩が一番のライバルだった気がするよ」

 

 そして、こんな機会でもなければ変わることもないはずだった二人の呼称が、変わった。

 

「愛してる、樹」

 

「先輩……いいえ、竜児さん……」

 

 キングジョーが昇天しそうな顔で、すうっと浄化されたかのような顔になる。

 キングジョーに動く顔なんてないけれど、そうとしか言えない顔だった。

 

「んんんんッ……美しい……とても美しい……

 婚前交渉などとてもしてなそうな雰囲気……

 どこか綺麗で、純粋で、味わい深い愛というより、触れると心が清らかになる愛……

 初々しくも、儚げで、女は慕い、男は守り……

 『純愛』……その呼称が相応しい……浄化される……わたくしが光になってゆく……」

 

「何言ってんのこいつ……」

 

 パン、と肉体に浸透していたラブリービームが弾ける。

 

 ハッ、と二人が正気に戻った。

 

「「 ごめんなさい! 」」

 

 正気に戻った二人が、照れるやら恥ずかしがるやらで顔色をコロコロと変え、互いに対し終わりのない謝罪を始める。

 不快な気持ちをさせてごめんなさい、という謝罪の連発で意図せず殴り合っているかのようだ。

 謝るたび双方にダメージが行っている。

 

「終わりなき謝罪……」

 

「ちょっと見てて楽しくなりそうになってきたわ」

 

 なんというか、もう。

 全員が疲れていた。

 全員が傷を負っていた。

 互いが晒した恥ずかしい姿に言及せず、これから先も言及することはなく、皆が墓場まで持って行く覚悟を決めるほどに。

 

 皆で同じ恥をかいた。

 皆で同じ恥を背負った。

 それが皆に『共犯』に近い一体感を生み、今日のことを一生の秘密とする約束を、無言のままに結ばせていた。

 

「ハラショー……そんだけ強い愛を示してくれたなら、樹をあげないわけにはいかないわ」

 

「正気に戻ってお姉ちゃん!」

「正気に戻って風先輩!」

 

「樹、幸せにおなり……」

 

「あ、これまだビームがちょっと脳内に残ってるやつだ」

 

 斜め45°の角度で頭を叩いたら、頭からビームが転がり出て元に戻ったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜児がキングジョーの玩具にされたせいで首を吊ろうか本気で悩んで、

「ええやん女の子複数と仲良いの」

「いっそ二股も三股もかけちまえよ、こっそり」

「クズヒルカワァ!」

 とヒロト&ヒルカワの幻覚に押し戻されて現実に戻って来た翌日のこと。

 

 竜児と勇者とキングジョーの一行は、また部室でうんうんと唸っていた。

 

「見つかりませんわねえ、わたくしのお友達」

 

「キングジョーさんのキャラを知ったことで、そのお友達の性格が怖くなってきたんですが……」

 

「基本的にはゴミカスですわよ」

 

「ゴミカス!?」

 

「まあ改心したゴミカスです。元ゴミカスの人格者といったところでしょうか」

 

「どういう人なんだ……」

 

 キングジョー曰く、その友人は顔も名前も変えているのだという。

 それでは探すのも難しいだろう。

 地球に来た時期や、キングジョーの写真に対する反応で見分けるくらいしかできそうにない。

 

 大赦はキングジョーを警戒し、見張りに人員を割いているようだが、遠巻きに見張っているだけで、勇者達に丸投げしている。

 ……まあ、仕方がない。

 今のこの世界に、勇者と巨人と防人を除けば、宇宙兵器と戦える者など居やしないのだから。

 

 キングジョーに焦りは見えない。

 友人が見つかればそれでいいから急がない、の精神なのだろうか。

 竜児が様子を伺っていると、むっ、と言って、キングジョーが竜児のウエストポーチを突然凝視した。

 

「わたくしのメカニカルレーダーにビビっと来ています。

 あなた、ウルトラセブンのカプセルを持っていますわね?」

 

「え? ああ、はい」

 

 竜児は中身の入ってない、セブンのものだというカプセルをキングジョーに見せた。

 未だ研究中の、用途も見つかっていないカプセルである。

 

「はぁ、なるほど。

 外のギガバーサークは、やはりノンマルトとデロスの共作……」

 

「ええと、どういうことですか?」

 

「友人から聞いたことがありますわ。

 ある宇宙で、ウルトラマンがノンマルトとデロスの共作と戦ったと。

 まだ未完成だった共作『ギガバーサーク改』はそれで破壊されたのだと。

 地球人を滅ぼすため、ノンマルトはセブンのカプセルを再現した物を使った。

 その時壊れたカプセルが、地球に残されたと……ここの地球のことだったのですのね」

 

「ノンマルトと、デロス……?」

 

「ノンマルトは、地球人に侵略され地球を奪われたと主張する海底人。

 デロスは地球人の環境破壊で住む所がなくなったと主張していた地底人ですわね。

 聞けば、ウルトラセブンに恨みを持って宇宙を放浪するノンマルトの民もいるのだとか」

 

「!」

 

「結界の外であの巨大な怪獣を見ましたわね?

 あれは星屑のレプリカでしょうが、あれがギガバーサーク改ですわ」

 

 ある宇宙に、ノンマルトという民が居た。

 ノンマルトは地球人の侵略で地上を追われ、海底に逃げ込み、そこにまで人間の手が伸びたから抵抗しただけだ、と主張した。

 ノンマルトの怪獣はウルトラセブンに倒され、ノンマルトの民はこの宇宙に逃げ込んだ。

 そして、天の神に取り込まれ利用される。

 

 この地球に、デロスという地底人がいた。

 地球人のオゾン層破壊の影響で、デロス人は絶滅寸前に追い込まれ、地上を灰燼に帰して余りある火力を持つ、ギガバーサークを地上に出そうとした。

 狙いはあくまで、地上人の自然破壊を止める講和を進めることだった。

 そして、天の神に取り込まれ利用される。

 

 地上の地球人憎しで『結託』と『暴走』させられたノンマルトとデロスは、力を合わせてセブンのカプセルを再現したものと、ギガバーサーク改を地上に進出させた。

 西暦最後の戦いに、ギガバーサーク改は参戦し、四国を攻める。

 ギガバーサーク改を加えた天の神の軍勢は、ウルトラマンと勇者の連合に戦いを挑み―――そして、勝利し、地表のほとんど全てを地獄へと変えた。

 

 そんな、歴史の話。

 竜児は以前歴史の断片的な資料を見ていたため、キングジョーの話を聞き、それを正しい歴史の話として、皆に語って聞かせることができた。

 

 つまり、だ。

 今結界外にいるあの怪獣の素体の一つは。

 西暦の最後に、全ての勇者とウルトラマンを打ち負かし、世界を滅ぼした一体なのだ。

 

(なんてことだ……)

 

 見方を変えれば、最近のバーテックスの傾向も見えてくる。

 最近のバーテックスは、()()()()()()()()()()()()()()()()を使っている。

 コンピュータを媒体としたバイオス、酸素を使う生物の進化の系譜を否定するカンデア、地球人に虐げられたものの技術を用いたギガバーサーク。

 天の神の"探せば地球人の罪は多くある"という言葉が聞こえてきそうだ。

 

「このカプセル、復讐の道具だったのか……」

 

『セブン兄さんのものを模したものだったとは……迂闊だった』

 

 皆が考え込む。

 ちょっと、遠すぎる世界の話だ。

 だが環境破壊を否定するバイオス、人間に進化の過程で蹴り飛ばされたカンデア、地球人の行動の結果苦しんだと主張するノンマルトとデロスの話も聞けば、ちょっとは考えてしまう。

 それらに対し、地球人(じぶんたち)は罪悪感を抱かなくていいのか、と。

 

 

 

「天の神は、もしかしてそれを人を滅ぼす理由に……?」

 

 

 

 竜児がそう呟くと、更に皆は考え込んでしまう。

 もしかしたら、天の神は、地球人が歴史の中で踏みつけにしてきた色々なものの代弁者として、人間を滅ぼそうとしたのでは? と考えてしまう。

 形にならない迷いが、子供達の心に湧き始める。

 

 そんな子供達に、キングジョーは明るく声をかけた。

 

「そこの真偽は関係ありませんわ。

 彼らの主張が正しいかさえも分かりません。

 地底人と海底人も、もうこの地球にはいないのです。

 あなた方の選択と抵抗には、関係などありませんわよ」

 

「でも……」

 

「戦争の話をしましょうか?

 A国がB国を占領し、B国のほとんどの人を殺しました。

 B国の生き残りがA国を占領し、A国のほとんどの人を殺しました。

 二つの国はこれ以前も、これ以後も、同じことを繰り返していました。

 さて、"お前が私の家族を殺したんだ!"と両方が言う中、正義があるのはどちらでしょう?」

 

 子供達は少し考えたものの、それぞれが"どちらにも正義はない"と答えた。

 

「そう、その通り。

 歴史とは、あくまで過去ですわ。

 子が生まれ、孫が生まれ、いつしか加害者も被害者も消える。

 残るのは加害者と被害者の子孫のみ。

 それで正義を語るのもよろしいですが、正義の名の下に滅ぼすというのはあまりよろしくない」

 

「キングジョーさん……?」

 

「ふふふ、相手を根絶し滅ぼすという時点で間違っているのです。

 正義でも、復讐でもそうでしょう。

 どんな大義を掲げようと、それはきっと変わらない真実ですわ。

 良いですか? 天の神の主張に正しさがあるかなんて、考える必要はありません」

 

 もしも、過去に地球人が何か罪を犯していたとしても、今の地球に生きる地球人が滅びていい理由にはならない、とキングジョーは語る。

 

「私は被害者であいつが悪い、だからあいつを倒すのは正しい。

 あいつは過去に悪行をした悪だ、だから私は正義。

 ……愛がなく、正しさにこだわりすぎるとそう考えがちですわ。

 だからこそウルトラマンの、正しさと優しさを両立できる在り方は褒められるのです」

 

 その手で拳しか握れないのなら、その多くは悪にしかなれない。

 その手で誰かに花束を渡せないなら、何かを生み出すことはできない。

 とんでもない話だが、キングジョーおばさんのラブリービームは、彼女のそういう信念を体現した技だった。

 

「大切なのは愛。

 相手を許さないのが正しさなら、相手を許すのが愛ですわ。

 悪を討つのが正しさなら、善を生み出すのが愛です。

 悪者に減らされてしまった幸福をまた増やせるのは、愛だけなのです」

 

 彼女の名はキングジョー。

 恋のキングジョーであり、愛のキングジョー。

 勇者部にある日突然やって来た、そしていずれは去ってゆく、ラブタイフーン。

 

「そう、ゆえに大事なのは(ラブ)なのですことよ!」

 

「ら、ラブ!?」

 

「全ての敵を滅ぼす憎悪ではなく!

 相手の全てを愛する愛こそが、永遠なのです! ウルトラマンオーブもそう言っています!」

 

「こ、この人とんでもないこと言い出した……!」

 

「『人』じゃないです風先輩」

 

「分かってるわよ!」

 

 キングジョーは竜児と五人の勇者の手を取った。

 機械のくせに、とても暖かな愛をありったけに込めた金属の手で。

 

「少しばかり、戦いのお手伝いをして差し上げますわ」

 

「え?」

 

「わたくしはあなたがたを愛らしいと思っています。

 だから何があってもあなたがたに生きてほしいと思っています。これではいけませんか?」

 

 その彼女の断言に、皆が『肝の据わった肝っ玉お母さん』以外の感想を持てなかった。

 

(すごいやキングジョーさん。シンプルだけど、強い理屈だ)

 

 勇者部の少女達が、あれだけ恋愛絡みで困らせてきたキングジョーを、今ではちょっと困ったお母さんキャラとして受け入れている。

 それが不思議なようで、不思議でなかった。

 

「もしも天の神が、『被害者』を使ってきたとしても無視なさい。

 "お前達は加害者なのだから滅びを受け入れろ"と言われても無視なさい。

 いいのです。

 滅びたくないんだ! という叫びだけでよいのです。

 ただそれだけを理由にして、全ての滅びを否定する権利が、命にはありますのよ」

 

「キングジョーおばさん……」

 

「おほほほほ! わたくしの力があれば、バーテックスも物の数ではありませんわ!」

 

 その瞬間、勇者システムがアラームを鳴らし始める。

 "じゃあやってみろや"と天の神が反応したみたいだと、その場の誰もが錯覚した。

 

「本当に来た!?」

 

「ちょっとキングジョーおばさん!」

 

「わ、わたくしは悪くありませんわ! 空気を読んだバーテックスが悪いのです!」

 

 友奈はアラームが止み次第、すぐに変身しようと端末を握る。

 だが何故か樹海化は起こらず、端末の警報は鳴り止まなかった。

 

「……? 警報が鳴ってるのに、樹海化が始まらない? アラームが鳴り止まないよ?」

 

「友奈ちゃんの端末だけじゃない。私達の端末もだわ」

 

「レーダーに矢印が出て、結界の外を指してるわね」

 

「結界の外に出てみよう。何か分かるかもしれない」

 

 勇者達が走り、キングジョーが飛び、竜児も走って皆と共に屋上へ向かう。

 

「コンピュータと宇宙植物の融合体で人類を否定する、バイオス。

 産業廃棄物で目覚めた、過去の進化競争に負けた微生物、カンデア。

 そして人類が悪いと主張した、地底人と海底人の共作、ギガバーサーク改か」

 

『戦うのが、嫌になったかい?』

 

「まさか。僕はメビウスの方が心配だよ。

 下手したら、地球人は過去に罪を犯してたのかもしれないんだから」

 

『そうだね。もしかしたら……そうなのかもしれない』

 

 もしも地球人が悪だとして、悪だった過去があるとして、ウルトラマンは、悪だと認定された地球人を守ってくれるのだろうか。

 

『だけど僕は、残酷に何かを滅ぼそうとする敵と戦いたい。

 涙を流し、滅びを甘受できない人を守りたい。

 今ここで起ころうとしている悲しい出来事を、止めたいんだ』

 

 少なくともメビウスは、今この地上にある皆の心の味方で居てくれた。

 竜児にはそれが、なんだか嬉しい。

 

「……ありがとう、メビウス。メビウスがそう言ってくれて、ちょっと救われた気持ちだ」

 

 そして屋上で、竜児はメビウスブレスを擦り上げた。

 

「『 メビウーーース!! 』」

 

 光りに包まれ、巨人となった竜児が皆を抱えて飛翔した。

 ほんの一秒か二秒で、巨人は結界の外の世界へ突入する。

 その時に空を見上げていた人だけが、巨人の飛翔に気付き、手を振っていた。

 

 壁を超えると、そこにはまだ脚部と胴体の一部が未完成のギガバーサーク改が、膨大な火力装備をもって、四国を包む結界を攻撃している姿があった。

 

「? 未完成で結界を攻撃してる……? バーテックスが……?」

 

「……そっか! 未完成な状態で、でも砲撃だけは撃てる状態なんだ!」

 

「未完成な状態でもギガバーサークの火力があれば、結界を壊せると踏んだのですわ、おそらく」

 

 神樹が警報を鳴らしたということは、この攻撃には四国の結界を外側から崩壊させられるだけの火力があるということだ。

 更に、恐ろしいことに。

 このギガバーサークは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『来るぞ! フュージョンライズだ!』

 

 竜児の声が響き渡り、ギガバーサーク改に天の神の光が落ちた。

 

《 パーフェクトガラオン 》

《 ギガバーサーク改 》

《 フュージョンライズ! 》

 

《 ギガントガラオン 》

 

 素体の肉体に、フュージョンライズが成されたギガントガラオンの力が宿る。

 1km近いギガバーサーク改の巨体に、400mのパーフェクトガラオンがまたがり融合した。

 それはまるで、機械の馬に、機械の戦士がまたがっているかのような姿。

 

「で、デカい!」

 

「これは……"ディオメデス王の人喰い馬"か!?」

 

『馬? ……そうか!

 990mの四足歩行巨大ロボ怪獣の上に、400mの二足歩行巨大ロボ怪獣を乗せたのか!

 大きな二つの怪獣をフュージョンライズして、騎馬の騎士を仕立て上げたんだ!』

 

「しゃ……洒落にならない!」

 

 竜児はメビウスがかつて焼き尽くされた海を直した技を、焼き尽くされた大地の一部を普通の大地に戻すべく使う。

 

「『 エクセレント・リフレクション! 』」

 

 光が灼熱の大地を癒やし、勇者が立てる大地に戻した。

 これでなんとか、勇者も地形に左右されずまともに戦える。

 

『みんな! その足場を使って!』

 

「オッケーリュージ!」

 

『……敵の体がデカいなら、当てやすいってことだろ!』

 

 竜児は最初から、手加減抜きで全力の技を叩き込んだ。

 

「『 メビュームシュートッ!! 』」

 

 今まで多くの敵を屠ってきた、ウルトラマンメビウスの必殺光線。

 

 それは敵の足の一本に向かい飛び―――カァンッ、と簡単に弾かれた。

 

「……嘘だろ」

 

 思わず素で、竜児は呟いた。

 攻撃が当たった場所はちょっとは脆くなってるはず、と風が竜児の光線が当たった場所を大剣で殴る。

 だが敵の足は微塵も動かず、風が込めた力と衝撃がそのまま風の手に返って来た。

 

「くぅぅっ、腕が痺れる!」

 

「勇者パーンチっ!」

 

 友奈が牛鬼とウルトラマンガイアの力を込め、力の先を針のように絞るイメージで、一点突破の必殺パンチを叩き込む。

 狙うは関節。

 狙いは悪くなかったが、敵は関節すらも硬かった。

 

「か、硬い……!」

 

 樹が押してみても、ちょっと足が浮いただけ。ワイヤーでは装甲も切れない。

 東郷は壁に陣取りギガントガラオンの人部分・馬部分の両方を狙い、更にはカメラアイ等のセンサー部分が脆いはずだと判断してそこも狙ったが、狙撃弾ではまるで歯が立たなかった。

 夏凜が青い光で全力の助走をつけ、赤い光で全力の斬撃を叩きつけても、二刀は折れて敵は無傷という始末。

 

「……デカくて硬くすればそれだけで最強って、頭悪いんじゃないの!?」

 

 西暦末期に現れたというギガバーサーク改は、流石にギガントガラオンほどに強くはなかっただろう。そのはずだ。

 だが、この怪獣の片割れが西暦の末期に世界の絶望として在ったということもまた事実。

 『これ』が、西暦の終わりに居たのだ。

 『これ』が、世界を滅ぼしたのだ。

 

 竜児は怖気を振り払うように、切り札を起動する。

 

「ウルティメイトブレス!」

 

 発生した虹の剣から、竜児は虹の刃を飛ばした。

 

「『 ブレードスラッシュッ!! 』」

 

 飛んだ刃が、ギガントガラオンのアンテナの一つを切り落とす。

 そして、"バーテックスの体は時間と共に再生する"のルールに沿って、切り落とされたアンテナは、あっという間に再生していく。

 これでは、ギガントガラオンの装甲に一つ切り傷を付けたところで、どうにもならない。

 

「……御霊を露出させなきゃ再生するって、そりゃ、そりゃ分かってたけどさ……!」

 

『リュウジ! 封印の儀を待とう!』

 

「いや、そりゃ、無理だよメビウス!」

 

 ギガントガラオンの全身から放たれる、無数の雷。

 竜児はギガントガラオンの攻撃を引きつけるべく、ギガントガラオンの周囲を飛び回る。

 

「この怪獣の体のどこにカラータイマーが出ても、封印の儀の制限時間中に見つけられない!」

 

『……そうか、それも狙いか!』

 

「やるとしても、カラータイマーの場所を見つける方法を思いついてからじゃないと!」

 

 そして、ギガントガラオンの驚異的な足捌きに、踏み潰された。

 

「―――がふっ」

 

 迫るギガントガラオンの足裏を見て、竜児は腕を伸ばしてそれを受け止めたつもりだった。

 だが、受け止めた腕は瞬時に折れた。

 足裏に踏みつけられた胴体の骨はバキバキに折れ、踵に踏まれた足の骨は粉砕されている。

 戦うどころか、立ち上がることさえ難しそうだ。

 

「リュウ君!」

「リュージ!」

 

(これで未完成って……どうなってんだ……!)

 

 竜児は敵の強さを見て、自分を踏みつけているギガントガラオンの足に走る黒い雷を見て、その強さの正体を知った。

 

「さ……先にダークサンダーエナジー打ち込んでたとか!

 初戦が始まる前に強化済みとか……そんなんありなの……!?」

 

 この怪獣は大きい。

 硬い。

 強い。

 重い。

 御霊を砕かなければ、何度でも再生する。

 

 そしてその上―――最初から、強化形態で現れていた。

 

 

 




 こんな書き辛い展開をプロットに書き連ねた奴は誰だ! 地獄に落ちろ! 誰だ!
 私だったわ

●融合超弩級馬 ギガントガラオン

【原典とか混じえた解説】
・三面ロボ頭獣 ガラオン
 全長400mの巨大ロボット……を作ろうとして、作りかけのロボットの頭だけで出撃したというロボット怪獣。
 頭だけでも56mと、ウルトラマンより大きい。
 180cmのミジー星人が作成し、整備し、操縦することを想定しているため、内部構造もそれ相応の形になっている。
 頭だけでも十分な戦闘能力を持つ。
 パーフェクトガラオンにはちゃんとした400m級の身体があります。

・機械獣 ギガバーサーク
 『ただひたすら硬くデカく重く火力があればそれだけで最強』という思考から生み出されたであろう、全長990メートル・9900万トンの超弩級巨大機械兵器。
 西暦の21世紀に、世界全ての人間の体重を合計すると一億tになると言われていたということを考えれば、ようやくこのスケールが実感できる。
 地球地上人の環境破壊で地底に住めなくなった地底人・デロス人が、地上人との交渉に決裂し、全てを破壊し古代に回帰させる力を持たせて出撃させたラスボス。
 信じられない巨体な上、体中に武装が生えているため隙が無い。

※この威容を前にすれば身長49mのメビウスも、身長1.5mの友奈もそこまで差がない。
 仮にギガバーサークを180cmの人間だとすると、メビウスはギガバーサークから見て約9cmの虫、友奈は約3mmの虫となる。
 歩けば靴裏で踏み潰せることに変わりはない。
 硬いので壊せず、少し壊しても止まらず、重いので踏まれれば潰れ、ちょっとでも部位が残っていれば火力が飛んで来る。そんなロボ。



・キングジョー
 ウルトラセブンにて登場し、現在でも頻繁に出番のある古参怪獣。
 ウルトラマンマックスに登場した個体と同じ機体構造。つまり、体の拡大縮小が可能。
 分離してウルトラマンを囲んで包囲攻撃、合体してウルトラマンを真正面から圧倒と、ファントン星人グルマン博士の『七つの星の文明を滅ぼした』の評価に恥じない強さを持つ。
 間違いなく強い。
 強いのだが……
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