時に拳を、時には花を   作:ルシエド

25 / 51
遅刻ごめんなすって


第九殺二章:真の最強

 ギガントガラオンが、メビウスを踏みつけていた足を振り上げる。

 一度の踏みつけでウルトラマンの全身をグシャグシャにし、もう一度踏みつけて確実にトドメを刺すつもりなのだ。

 振り下ろされた前足を……キングジョーが受け止める。

 

 巨大化したキングジョーの身長は56m。

 身長、体重、体格、パワー。どれをとっても、メビウスよりも上だった。

 そこは流石にパワータイプのロボ怪獣といったところか。

 

「ふんぬらああああああああ!!」

 

 メビウスを庇い、足裏を受け止めたはいいが、徐々に押し込まれていく。

 

「恋も未達成なうら若き少年を潰させませんわああああああ!!」

 

 キングジョーはメビウスを蹴り飛ばし、自分の体を頭部・胸部・左脚部・右脚部に分離させ、自分もギガントガラオンの踏み潰しを回避した。

 

「キングジョー・オープンゲット!」

 

 蹴飛ばされたメビウス、分離したキングジョーの合間を、巨大な足が踏みつける。

 大地が超重量の踏みつけの威力に陥没・崩壊していく。

 キングジョーは四つに分離した体を高速で飛翔させ、ギガントガラオンの周りを跳び回り、高威力のレーザーをその巨体に叩き込んでいく。

 だが、ギガントガラオンはビクともしない。

 

「ほらほらわたくしの方を見なさい! わたくしを狙いなさいな!」

 

 融合した体の下半分、ギガバーサークの部分がキングジョーに注意を引かれる。

 されど上半分、完全体ガラオンの部分は変わらずメビウスを注視していた。

 ガラオンの部分が、巨大な剣をどこぞより出現させ、それを巨人に……否、ギガントガラオンから見れば小人でしかないそれに、振り下ろした。

 ヘラクレスの十二の試練の一つ、馬を駆るディオメデス王が如く。

 

「樹! 私を押して!」

 

「うん、お姉ちゃん!!」

 

 姉を樹が押して、風が跳ぶ。

 

「手加減無しで投げなさい、友奈!」

 

「おっけー、思いっきり行くよ夏凛ちゃん!」

 

 友奈が夏凜を投げ、夏凜が友奈の手を踏んで跳ぶ。

 

(一番強い弾を……一番的確な場所に)

 

 風の剣、夏凜の刀、東郷の砲撃と言っていいレベルの狙撃が、ギガントガラオンの振り下ろした剣の側面に衝突する。

 三点に、同時に、重ねられた大きな衝撃。

 勇者五人分の力の衝突が剣の軌道を僅かにズラして、竜児は間一髪命拾いをした。

 

 なんとか痛みを堪え、竜児は全身がぐしゃぐしゃな状態で集中を開始する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『リュウジ! 一旦引いた方が……』

 

「待ってメビウス……まだ、二分! 精一杯頑張れる時間が、残ってるはずだ!」

 

 飛んでの接近は不可能だ。

 ギガントガラオンに死角なし。

 1km級の巨体から360°全てをカバーする大火力に、ガラオンの『回転する三つの顔で全方位を見ることができる』という特性も加わり、どの方向にも死角がない。

 体を四つに分離させ、高速で飛行し敵を四方から攻撃するキングジョーでさえ攻めあぐねているのは、桁外れの防御力にこの死角の無さも有されていたからであった。

 

 全力で集中し、歯を食いしばって痛みに耐え、大量のエネルギーを消費し、テレポーテーションでガラオン部分の頭部に抱きつく。

 巨大な下半分と比べれば小さい上半分の、その中でも小さい部分であるはずの頭ですら、メビウスの体より大きいというこの恐ろしさ。

 何をしても、全壊はさせられそうにない。

 

「う お お お お お ッ!!」

 

 だからこそ竜児は、目潰しだけを目的として、自爆を叩き込んだ。

 

「『 メビュームダイナマイトッ!! 』」

 

 ガラオンの顔だけを狙い、一点突破の光熱自爆。

 グシャグシャになってた体が炸裂し、全身はバラバラになり、メビウスブレスが散った体を再生していく。

 そうして竜児は、自爆による敵の目潰しと、再生による全身の骨の接合を、同時にこなした。

 

「熊谷君っ!」

 

『大丈夫、今、多少は傷を治せた! メビュームダイナマイトで!』

 

「またなんて無茶を……!」

 

『それより、皆、助けてくれ! 今なら……今だけ使える、戦術がある!』

 

 カラータイマーが早鐘のように点滅している。

 テレポーテーションとメビュームダイナマイトの連続使用の消耗はあまりにも大きかった。

 キングジョーが囮になってくれている今の内に、最後の一手を打っておきたい。

 竜児の指示を受け、樹の紐が巨人の全身を縛り、地面を縫うようにして固定した。

 

「く、うっ……!」

 

 まだ全身が痛む竜児が、全身をギチギチに固定された痛みで歯を食いしばった。

 

「痛かったら言って下さい、先輩!」

 

『ありがとう、樹さん。でも、もっとがっちり縛って、もっとがっちり固定してもいいよ』

 

 一方風は、後輩をワイヤーで縛り上げる妹と、妹に縛られて痛みに耐えている後輩の姿を見て、何か変な気持ちになっていた。亀甲縛りでなかっただけマシか。

 

(キングジョーおばさんのせいで変な思考があたしの中に残ってるんですけど!?)

 

 一人の勇者が巨人を守り、囮のキングジョーをすり抜けて飛んでくる攻撃を、四人の勇者が叩き落として巨人を守る。

 

 

 

「『 ウルティメイトメビュームシュートッ! 』」

 

 

 

 そして巨人は、メビウスブレスとウルティメイトブレスを直結させた、現在の自分が撃てる最大最強の光線を撃ち放った。

 虹の光線は直撃し、ギガントガラオンの体表を溶かし始める。

 だが天の神のダークサンダーエナジーを受けた体は光線に溶かされつつも耐え、再生を行い、メビウスブレイブの最強光線にさえ抵抗してみせる。

 光線は、敵の体を貫けない。

 

『リュウジ、踏ん張れ! 諦めるな!』

 

『体を貫いてしまう敵には使えないが……貫けない、敵ならあああああああああああッ!!』

 

 だが、それでいい。

 光線を真っ向から受け止めてくれるなら、それでいい。

 だからこそ竜児は"今だけ使える戦術がある"と言ったのだ。

 樹に自分を地面に固定してもらったのだ。

 

 ギガントガラオンの巨体が、凄まじい威力の光線に押され、浮く。

 浮かんで、光線に押されていく。

 地表を離れ、その巨体は空へ。

 まだ未完成な足では十分に地面も掴めまい。

 そうしてギガントガラオンは、膨大な虹の光に押されて、地球の重力圏を振り切った。

 

 ギガントガラオンは重すぎるためか、飛行能力を持っていなかった。

 対し竜児は、脳内で第二宇宙速度を計算し、敵体重と光線の威力を計算し、地球から吹っ飛ばしたギガントガラオンを"狙った軌道"に乗せていた。

 ゆえに敵は―――太陽に落ちる。

 

 竜児が計算した通りの軌道を通って、ギガントガラオンは地平線の少し上にかすかに見える太陽に落ちた。この時間の星の位置関係だったからこそ出来た、無茶な戦法だったと言えよう。

 彼には全て分かっていた。

 あの巨体を押し出せる圧力の光線を撃てば、自分がどれほど消耗してしまうかも。

 

『硬い、敵には、それなりに、やりようが、あるんだ……』

 

 だが、見える。

 ウルトラマンの目にはかすかに見えてしまう。

 未完成の状態だというのに、太陽に落とされたというのに、まだ動いているギガントガラオンの恐るべき姿が。

 

『く、そ……あいつ、この分だと死んでないな……!』

 

『リュウジ! 急いで四国に戻らないと!』

 

 カラータイマーが、凄まじく早く点滅する。

 

(……もう2分57秒……四国結界の中には、戻れない……信じて、みるしかないよね)

 

 そして、ぶつり、と点滅が途切れるその直前に、竜児の変身は解けた。

 竜児が勇者と防人に対し決定的に劣っている点が、一つある。

 それは、結界外での活動時間だ。

 結界外の熱に耐えられる勇者や、勇者以上の耐熱性能を持たされている防人と違い、竜児は変身した三分の制限時間を超えれば結界外の熱に耐えられなくなってしまう。

 

 三分を過ぎた今、竜児の肉体は自然と燃え尽きる運命にあった。

 竜児はここからどう助かるかの方法なんて思いついていない。

 何をされれば自分が助かるか、という方法も思いついていない。

 けれど、自分が何も思いつけていなくても、仲間が必ず自分を助けてくれるはずだと、根拠もなく信じていた。

 

「リュウ君!」

 

 落ちていく竜児の右手を、空中で友奈が握る。

 誰よりも先に友奈が動いた……と、思われたが、友奈と同時に動いていた夏凜が、言葉を発することすらしない全力の疾走で、同時に竜児の左手を掴んでいた。

 

「―――」

 

 二人に憑いていた精霊が、二人に密着していた竜児も守ろうとするが、この灼熱の世界において二人の勇者の勇者の余剰分だけでは到底足りない。

 

「友奈ちゃん! 夏凛ちゃん!」

 

 一瞬遅れた東郷が、そこに飛び込んで。

 

「手を!」

 

「こっちに!」

 

 風、樹も飛び込む。

 五人全員が、"竜児の変身が解けた瞬間には飛び出していた"と言い切っていいレベルの、とてもよい反応を見せていた。

 反射神経が良いだけではできない反応。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という気遣いが、普段から体に染み付いているがゆえの、心が成した反応だった。

 

 勇者の輪が竜児を囲み、彼を灼熱の地獄から守る。

 友奈夏凜樹で二体ずつ、風四体、東郷五体。

 合計15の精霊が、五人分の精霊が、球になって竜児を守った。

 

 空中で少年をキャッチした勇者達を、キングジョーの手が包み込むようにキャッチする。

 

「まさに―――(ラブ)。素晴らしいわ」

 

「じゃ、邪推おばさん……!」

 

「いーのよもう照れなくても! おほほほほほ!」

 

「そのラブは妄想ですよキングジョーさん!」

 

「はぁ……力尽きた少年を包み込むように、抱きしめるように受け止めて……尊い……」

 

「ダメだこのおばさんもう話聞いてない」

 

 キングジョーは炎も溶岩もなんのその、寄って来た星屑も蹴散らして、余裕綽々で皆を連れて四国結界内に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キングジョーおばさんはそれなりに街を出歩いている。

 大騒ぎにならないのか? ならなかった。

 "勇者部広告塔きぐるみ・キングジョー"の名札を付けただけで、キングジョーは町の人々に何の違和感もなく受け入れられ、街を歩いていても不審に思われることはなかった。

 勇者部の信用があったこと。

 キングジョーの外見がきぐるみと言われればそうとしか見えないこと。

 そして、キングジョーおばさんがとても気さくだったこと。

 それらの要因が合わさって、キングジョーおばさんは新たな街の名物になりかけていた。

 誰もが、勇者部の関係者でいつもきぐるみを着てる変で優しいおばさんだと思っていることだろう。

 

 登校途中の小学生が横断歩道を渡る手伝いをする大人達に混ざるキングジョーおばさん。

 その途中で、登校途中の竜児を見つけた。

 

「あら、もう学校に行っても大丈夫なんですの?」

 

「はい、なんとか」

 

 小学生達の登校が一区切りついたので、二人は周りに人が居ない路地でちょっと立ち話する。

 

「聞けば、あなたは兄がくれた中身(いのち)のおかげで、延命したそうですわね」

 

「はい、そうです。兄には感謝してもしきれません」

 

「それで、その影響か再生能力が落ち気味であると」

 

「そうですね。寿命とは比べ物にならないデメリットだと思いますが」

 

 竜児の体は表面的には大したダメージがないように見える。

 だが、骨へのダメージはかなり深刻だった。

 ギガントガラオンとの戦いから三日が経ったが、"中に入ったベリアルと共に傷を癒やす容れ物"として開発された竜児でも、骨にはまだ小さなヒビも残っている。

 本人の痛みとしてしか感知されない小さなヒビで、今日の夕方頃には治っているものだろうが、それでも痛いものは痛そうだ。

 竜児は治りかけのこのタイミングで適度な負荷を骨にかけ、より戦闘に向いた強固な骨を作り上げようと画策している。

 

 キングジョーは竜児の生き方を見て、溜め息を吐いた。

 キングジョーには肺がないので特に呼吸の必要はない。

 

「親に貰った体を大切にするのが、親孝行。

 ならば兄に貰った体を大切にするのが、兄に対する一番の恩返しだと思いますわよ」

 

「……正論過ぎて、ぐうの音も出ません」

 

 竜児は苦笑して、眼鏡を押し上げる。

 

「でもやっぱり、適度な無茶は必要だと思うんですよ。

 無茶しないで世界が終わったら本末転倒ですし。

 それに……兄は苦笑しながら、僕が僕であることを、肯定してくれる気がするんです」

 

 竜児が、竜児のままで、世界を守り、未来に息抜き、幸せになること。

 きっと、それが一番のハッピーエンドだ。

 

「あなたの話を聞きましたが、その兄弟が敵に回っているというのは、本当ですの?」

 

「……はい、その通りです」

 

 先程は兄の気持ちを笑って語っていたのに、今は兄弟のことを暗い顔で言い淀んでいる。

 なるほど、敵もここを攻めるわけですわ、とキングジョーは内心で納得した。

 竜児の"この部分"は、暖かくて脆い。

 

「家族を撃てますの?」

 

「撃てます。必ず」

 

 断言する竜児に力強さを感じる。

 が、子持ちのキングジョーは、その強さゆえにつけ入れられる隙がある、と感じた。

 

「家族の愛し方は人それぞれ。

 最悪は愛していないこと。最良は愛していること。家族に関しては、そうですわよ。

 本当はそこから、愛していても幸せにはできていない……なんて上級編に続くのですが」

 

「難しいですね……」

 

「竜児さんは本当に家族を愛していらっしゃいますわね」

 

 竜児は兄弟殺しの宿命が背負わせる業に、一つ、一つ、丁寧に向き合っている。

 キングジョーはその後押しをしようとしていた。

 

「中途半端な覚悟で進むくらいなら、一度自分の中の愛を再認識なさい。

 血の繋がった兄弟を、家族として愛する気持ちがあるのでしょう?」

 

「愛……?」

 

「自分を守る愛ではなく、優しさのような、相手を想う愛を信じなさい。

 愛する者を絶対に傷付けたくない、というのも愛でしょう。

 愛する者のために、愛する者を傷付けるのも、また愛ですわ。

 あなたの愛はどちら? あなたの愛は何を守りたいと言っていますの?」

 

 竜児はかつて、友奈にこう言った。

 

―――他人に好かれたいから優しい人になりたかった。

―――でも違った。

―――優しい人は他人に嫌われることを恐れず、他人を想って行動できる人だった。

―――相手に嫌われても、相手の手から麻薬を奪い取れる人のことだった。

 

 相手のことを、想う。

 キングジョーに指摘されて初めて、竜児は"自分の中の兄弟への愛"を見つめ直す機会を得た。

 愛するがゆえに殺せるのか。

 愛するがために撃てるのか。

 兄弟への確かな愛を見据えて、その上で天の神の魔の手から兄弟を救うために、兄弟の命を奪うことができるのか。

 

「僕は……」

 

「今すぐ焦って答えを出す必要はありませんわ。

 ゆっくりでもいいのです。

 ゆっくり急ぎましょう。あなたの人生にはあなたのペースがあるのですから」

 

「ゆっくり急げって、そんな無茶苦茶な」

 

「ふふふ、人生なんてそんなものですわよ。

 ゆっくり急いで答えを出す。

 遊びながらも人生を一秒も無駄にしない。

 友達と遊ぶ時間を取りながら、夢に一直線に走っていく。

 焦って人生を走ることと、全力で人生を走ること、その二つは違うということです」

 

 今の竜児には頭で理解できない理屈であったが、心では何となく理解できそうな、そんな理屈だった。

 

「あ、そうですわ。あなた、自分と兄弟を作った者のことをどう思いますか?」

 

「僕を作った者……ですか?」

 

 キングジョーは気を遣って、竜児を学校まで送ってくれていた。

 その途中、こんな話題を振ってくる。

 

「分かりません」

 

 竜児はよく考えてみたが、よく考えても、よく分からなかった。

 彼にとっての人生は、兄にこの地球に捨てられ、友奈に手を引かれた場所から始まったのだ。

 自分を作った研究者のことなど、よくは知らない。

 

「よく分からないんです、本当に。

 なんというか……僕は、兄ほどの憎悪を持ててない。

 かといって、許したいって気持ちもない。

 でも、仮にその人と会って話して、その人の今の状態次第では……許せないかもです」

 

「許せない、のですね」

 

「兄のために、兄弟のために、その人がまだ外道だったなら、許せないんだと思います。

 逆にその人が改心していたら……その時は……また、別の形で困ると思います」

 

 竜児の立ち位置は曖昧だ。

 コピーライトは竜児とその兄弟を作った者を絶対に許さないだろう。

 竜児はそんな兄の気持ちを慮ってしまう。

 

「被害者が僕一人なら許してもいいと思うんです。

 でも、兄弟のことを思うと、簡単に許していいとは思えない」

 

「そう」

 

 キングジョーは竜児と校門で別れ、校舎裏の方に回る。

 

「やあ、キングジョー」

 

 そうしてそこで、この地球に探しに来ていた、古い友人と再会した。

 

「ごきげんよう。あなた、今はどんな名前を名乗っていますの?」

 

「サコミズ・ダイゴと名乗っている。今は、この讃州中学で教師をやっているよ」

 

 彼の地球での名は、サコミズ・ダイゴ。

 この中学校においてサコミズ先生と呼ばれている男。

 キングジョーの友人である男。

 そして、竜児の誕生に関わった有象無象の宇宙人研究者の一人。

 

 コピーライトが竜児に話した『元ベリアル軍だったという罪悪感まみれの研究者』とは、コピーライトに竜児の話をした男とは、この男のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりの再会だった。

 キングジョーは、良い意味ですっかり変わり果てた男と肩を並べてベンチに座る。

 誰もここに近付く気配がないのは、サコミズが何かを仕込んだからだろうか。

 

「サコミズと名乗っていらっしゃったのね」

 

「私がここの地球に降りた時、サコミズ・シンゴという男に拾われた。

 私はその男に、地球人の心を教わったんだ。

 でも地の性格に問題があるからか、時々迂闊に過激なことを言って、ぎょっとされるよ」

 

「ふふふ、あなたは昔からそうでしたわね。

 ベリアル帝国軍に入る前もそう。

 やや言葉に癖があって、過激なところがあって、でも他人の痛みが分かる人でしたわ」

 

「……」

 

「それがベリアル軍に入って力に溺れ、悪魔に魂を売ってしまった。

 正直言って、一時期は失望していましたわ。

 あの竜児さんの悲しみが……過酷な運命が……あなたにはちゃんと分かっていますの?」

 

「……分かっている。あれは、私の罪でもあるんだ。

 熊谷とコピーライトは、何も悪くない。悪いのは私だ」

 

 キングジョーは拍子抜けした。少しは反論して来ると思っていたからだ。

 ところが、サコミズは心底悔いた顔で、後悔の言葉を吐き出している。

 

「ここまで変わっているとは、正直想像もしていませんでしたわ。

 いったいあなたに何がありましたの? 何があったのか想像すらできません」

 

「あれは……いつだったかな。

 私もいた研究所に、ウルトラマン80(エイティー)がやって来たんだ」

 

「!」

 

 ウルトラマン80(エイティー)

 メビウスの兄の一人で、ウルトラ兄弟の一人。

 そして……ウルトラ兄弟で唯一、()()()()()()()()()()()()()()()()

 怪獣を発生させる人間の負の感情のエネルギーを研究し、子供達を立派な大人に育てていくことで、地球と子供を守ろうと考えた"教育"のウルトラマンだ。

 

「その時、私は怯えていたよ。

 ベリアルの力に酔っていた私は、すっかり光の戦士を恐れるようになっていた。

 幹部のヴィラニアスとタイラントが迎撃に動き……研究所の中で、戦いが始まった。

 ところが何かおかしい。ウルトラマン80はそこから一歩も動いていなかったんだ」

 

 オリジナルのベリアルから作った受精卵段階の竜児の兄弟達が、ベリアル配下の幹部のヴィラニアス達に踏み潰されても、その時のサコミズは何も思うことはなかった。

 

「ウルトラマン80はそこから動かない。

 攻撃をその場で受け止め続ける。

 何故だろう、そう思って私は80の背後を見た。

 ……80の背後には、実験に使われていた怪獣や宇宙人の子供達がいた」

 

「ふふふ、80さんらしいですわね」

 

「80は、子供達を守っていた。

 それをヴィラニアスが『愚か者め』と笑っていた。

 80は、『私はかつて教師だった。私が子供を見捨てることはありえない』と言い切った」

 

「本当に、彼らしい」

 

 ウルトラマン80は教師である。

 地球人の子供と触れ合い、子供の大切さと、その未来の価値を知った教師である。

 子を慈しみ育てる彼が、子供を見捨てるわけがない。

 

「彼は私に何も言わなかった。だが、その光景が、80の背中が、私の何かを変えた」

 

 80は教え、育て、変える者だ。

 彼が意図していない場所でも、子供でない相手に対しても、そうだった。

 

「わざと子供を攻撃するベリアル軍の幹部が、あまりにも醜かった。

 その攻撃を体を張って止める80が、あまりにも美しかった。

 巨人を愚かだと嘲笑(わら)う幹部の顔が、あまりにも醜かった。

 子供に"大丈夫だ"と声をかける80が、あまりにも美しかった。

 悪が醜かった。

 善が美しかった。

 80が守った子供達が、80に見惚れているのを見て、私も同じ顔をしていることに気付いた」

 

 その時のサコミズも、子供達も、同じ気持ちで"気高く美しいその背中"に見惚れたのだ。

 

 80はサコミズと何の会話も交わしていない。

 だが、サコミズにも子供達にも、その胸の中に確かに刻まれたものがあった。

 暖かい何かが、胸の中に残っていた。

 サコミズにとって……その時の80は、自分の人生の全てを変えてくれる何かを教えてくれた、思い出の先生だったのだ。

 悪でしかなかった彼に80が何かを教えてくれたのは、その思い出の一瞬だけだったから。

 

「悪魔に売った魂が、突然に戻って来た。ふっと、突然酔いが冷めるように」

 

 その瞬間に、ベリアルという極上の酒に酔っていたサコミズの、酔いは冷めた。

 もう二度と酔う気が起きないほどに、決定的に。

 

「ああ、分かりましたわ。

 あなたがあの日突然送ってきた宇宙人の子供達は、その子供達だったのですわね」

 

「あの子達は、元気かな。80が守った子供達は」

 

「今ではわたくしの自慢の息子ですわ。

 三人共元気も元気。

 ……ああ、だからですのね? うちの息子達と、竜児さんの年齢が近かったのわ」

 

「うん、まあ、同じ時期の実験体だったからな。

 ……そうして私は、過去の全てを捨て去って、ベリアル軍から脱走した」

 

 そうして、ベリアル軍の追手に傷を負わされながらもこの地球に逃げ込み、今に至る。

 

「命というものは……ちゃんとした形で生きているから価値があるんだ。

 ちゃんと生きている命には全て価値がある。死ねば終わりだ。

 ただの生ゴミになってしまう。生きた命にこそ価値はある。それなのに……私は……」

 

 生きた命にこそ価値がある、だからこそ生きた命こそを大切にする、という彼の考え方。

 それは、彼がかつて"ベリアル様のために"という名目で、数え切れないほどの命を費やした過去から来るものだった。

 その感情の名は、『罪悪感』。

 

「あんなにも簡単に死んでしまう、失敗作の命を、いくつ生み出したのか……」

 

 大人が子供に"悪いことをするな"と言うのには、ちゃんと理由がある。

 

「ちゃんと生きていける命にしてやれなかったことで……あの命達は、どれほど……」

 

 魔が差した、気の迷いだ、なんて言い訳は通用しない。

 悪行は悪行だ。

 一度してしまった悪行は、その者に一生纏わりつく鎖となる。

 罪は消えない。

 本人がその過去を悔いているのなら、なおさらに。

 

「私は追われる身だ。

 私を拾ってくれたサコミズの名を貰った。顔も変えた。

 そして……ジードの失敗作を……多くの子供を使い潰した罪を……

 子供を殺した罪を償うために、子供を助けてやれる、教師になろうと思い、今に至る」

 

 竜児とその兄弟を苦しめた悪の一人は、その過去を悔い、子供を苦しめ死なせた分、子供を支えて生かす道を探していくことを誓った。

 

「ある日、私は多くの力を失っていることに気付いた。

 良心の呵責が、私から悪行を成す全ての力を奪い去っていったのかもしれない。

 ……だが、私は何の喪失感も覚えていなかった。

 戦う力など、子供を救い助けるためには何の役にも立たないことを、私は知った。

 子供達のためになるためには、この心こそが大切だと、子供達に教えてもらったんだ」

 

「ふふふ……本当に、本当に変わりましたね」

 

 キングジョーが微笑む。表情筋とか彼女には無いのだが。

 

「私の寿命が尽きるまで、あと千年ほどか。

 子供を地獄に落とした罪は……

 子供達を笑顔にし、子供達を立派な大人にしてやることでしか償えない」

 

「サイコキノ星人……いえ、サコミズさん。決意は固そうですわね」

 

「あと千年。あと何度、顔と名前を変えるか分からないが……

 私は、子供達を教師として守っていきたい。

 その千年で、どれだけ罪が償えるかは分からない。

 だが、そうしたかった。

 私の自己満足と分かっていても。それで死んだ子供達が蘇らないと分かっていても」

 

 死ぬまで続けることを決めた、千年の贖罪の決意。

 

「あの時、80が教えてくれた『子供への慈しみ』を、蔑ろになんてできなかったんだ」

 

 その背中が教えてくれた。

 彼にとって、80は思い出の先生だった。

 その背中を、先生になっても追っている。

 80は『子供に向ける愛』を彼に背中で教え、それは彼の心の一部となっていた。

 

「キングジョー。これを持って行ってくれ」

 

「あら、これはなんですの?」

 

「私の手元に残った一部の研究成果だ。

 その中には、かつてカプセル化が考えられた機械怪獣の解析データがある。

 エースキラー、キングジョー、ギャラクトロン……そして、ギガバーサーク、ガラオン」

 

「! それは!」

 

「ギガバーサーク改はない。パーフェクトガラオンもない。

 だが、熊谷ならここから十分に敵の内部構造を推測できると思う。

 あいつは真面目な勉強家で、頭が良く、友達想いな……私の自慢の教え子だからな」

 

 誇らしそうに子供を語る顔と、申し訳なさそうに子供を語る顔が混ざった男の顔を、キングジョーは生まれて初めて目にした。

 

 サコミズは竜児に全てを明かす気はない。

 謝る気もない。

 謝ることで救われるのは自分だけだと、知っているからだ。

 サコミズの全てを知れば、竜児はサコミズを許すだろう。

 彼の性格からして、許さないということはない。

 

 だがそうすれば、竜児は兄の気持ちとの板挟みになって苦しむことだろう。

 兄のことを思うなら許してはいけなかったのでは、と思ってしまう。

 許したことが、苦痛になってしまう。

 だからサコミズは正体を明かさない。

 だからサコミズは謝らない。

 自分の罪悪感を軽くするためだけに、竜児に謝って許されることなどしない。

 

 彼は竜児の幸せな日々を守るため、竜児に許され救われるという未来を捨てていた。

 

「分かりました、わたくしも一切を黙っておきましょう。

 あなたはちゃんと、子供を愛せるようになったのですから。

 ならばそれでいいと思いますわよ。

 ゆえにこそ、その罪悪感が千年の罰となるのでしょうから」

 

「……そう言ってもらえると、助かる」

 

 キングジョーはサコミズの選択を肯定した。

 子供の未来を守る、彼の決意を尊重した。

 

「『遠くの星から来たウルトラマンが、愛と勇気を教えてくれた』

 なんてフレーズは耳にタコができるほど聞いたものですが。

 少しは知っている知り合いがそれに関わっていると、鼻が高くなるというものですわ」

 

 キングジョーに鼻はない。

 

 

 

 

 

 キングジョーおばさんは学校近くのカフェで優雅に時間を潰し、放課後にノッシノッシと教室に乗り込み、"あ、きぐるみのおばさんだ"という中学生達の視線を受けながら、二年三組の勇者達を引きずっていった。

 おばさんのパワーのあまりに一回すってんころりんとなった東郷を、東郷をキャッチする竜児と車椅子をキャッチした友奈で助けたのはご愛嬌。

 

 部室で竜児はキングジョーから情報端末を受け取り、東郷のパソコンでデータを閲覧し、驚愕する。

 他の勇者はちんぷんかんぷんだったが、竜児の驚きに合わせてとりあえず驚いておいた。

 

「キングジョーさん、これをどこで!?」

 

「百年前に拾いましたわ(大嘘)」

 

「嘘!?」

「いや、でもギガバーサーク改が暴れてたのは三百年前だし……百年前はありえるのか」

 

 キングジョーおばさんには、どこか適当なことをほざいても、なんとなくそれが真実であるかのように思わせる凄みがあった。

 存在そのものがジョークっぽい存在なので、感覚が麻痺しているとも言う。

 

「探してた友人にも会えました。皆様、ありがとうございます」

 

「ええええ!?」

 

「ありがとう。あなたたちが引き合わせてくれたのですわ」

 

「……まあ、キングジョーおばさんがいいなら、いいか」

 

 キングジョーを友人と引き合わせてくれたのは、サコミズの生徒達だった。

 しかも、サコミズ達が過去に実験体として玩具にした竜児が、だ。

 キングジョーは運命を感じる。

 竜児がサコミズの教え子になったのにも、自分が竜児に拾われサコミズと再会したのにも、サコミズが竜児の先生になったことにも。

 ……あるいは、神樹の導きというやつなのかもしれない。

 

「よし! キングジョーさんのおかげで、打つ手が見えてきたぞ!」

 

 竜児が目をつけたのは、ギガバーサークの"デロスの機械端末が90cm"という点と、ガラオンの"身長180cmの宇宙人が使用・制作していた"という点だった。

 具体的には、これらの二機のロボットには、地球人サイズの生物が通過できる一定の大きさの隙間があるということだ。

 それも当然のことだろう。

 でなければ、メンテナンスも修理もできやしない。

 

 ガラオンとギガバーサークの設計図を見る限り、両方に勇者が飛んだり跳ねたりもできるだけの通過スペースが、機体の各部に存在していた。

 

「敵の内部構造をいくつかのパターンに分けて、予測!

 それを勇者アプリに入力しておき、勇者を敵の機内に侵入させる!

 勇者の皆は、敵を内部から破壊し、重要な部分を起動不能にさせる!」

 

「そんなに上手く行く? 改造された機械怪獣なんでしょ?」

 

「大丈夫。機械ってのは美しいんだ。

 内部構造には、文明の特徴が出る。技術体系の特徴が出る。

 合理に反した設計ってのは、『機械』には適さない。

 どこかで皆の侵攻が詰まったら、僕が外部からテレパシーで助言してもいいしね」

 

「なるほど」

 

「大事なのは臨機応変。あと、三分で決着をつけること!

 皆には中に入ってもらい次第、封印の儀をやってもらう。

 負担は五人で分割して、各々この地点を制圧してほしいんだ」

 

 竜児はギガントガラオンの全体像をささっと書き、右足にバッテンを書いて、そこから矢印を書き記していく。

 

「まず、右足のここを僕が根性で切る」

 

「作戦なのに最初から根性論出ましたね、熊谷先輩」

 

「まあ多分、前回の手応えならここは切れると思う。体感基準だね。

 ここから勇者五人が入って、敵の内部のいくつかある要点を抑えるんだ。

 まず、ギガバーサークの一番硬い隔壁がある場所に、友奈。ぶち抜いてやって」

 

「はーい!」

 

「侵入場所から一番近いギガバーサークの頭脳部分に、東郷さん。

 東郷さんは勇者部で一番パソコンが得意だから、ここで御霊の場所を特定してほしい」

 

「分かったわ」

 

「樹さんはここ。ギガバーサークの歯車が集中してる場所。ここを糸で絡み止めてほしい」

 

「はい!」

 

「風先輩はエンジン、つまり心臓部。

 どうせ壊してもすぐ再生しますが、ここは広いです。

 思う存分大剣ぶん回して、再生する心臓部をぶっ壊し続けて下さい」

 

「お、分かってるじゃない。任せて!」

 

「そして夏凜は、その速さを生かして侵入場所から一番遠い、ガラオンの操縦室へ。

 どうなってるか分からないけど、ここをどうにかすればガラオンの動きは止まるはずだよ」

 

「よーし、任せなさい!」

 

「で、僕とキングジョーさんは外部から敵を攻撃、敵の意識を外に向けます」

 

「おほほほ! 腕が鳴りますわね!」

 

「僕ら全員でギガントガラオンを完封し、出現した御霊の場所を特定次第、御霊を破壊!」

 

 外で勇者でない二人が、中で勇者の五人が、戦う構図。

 

 竜児は皆で生きて帰るべく、掛け声をかけた。

 

「皆、生きて帰ろう!」

 

「あー、ダメよダメよ竜児君。前回のあなたのせいで、その掛け声はもうダメなの」

 

「?」

 

 が、風がそれを遮って、皆に掛け声をかけ直す。

 

「みんな! 無事に帰るわよ!」

 

「「「「 おー! 」」」」

 

「……おおぅ」

 

 自分の掛け声では反応しなかった皆が、風の掛け声には反応したのを見て、竜児はちょっと自分の過去の行動を省みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽から帰還したギガントガラオンは、その傷を癒やすのに少しの時間を要した。

 未完成な体を完成させるのにも、少しの時間を要した。

 ギガントガラオンが完成するまで、かかった時間は実に数日。

 完成したギガントガラオンは再度、四国の結界に規格外の火力砲撃を開始した。

 

 その前に、立ちはだかるは巨人。機械。そして勇者。

 

「ウルティメイトブレス!」

 

 最初からメビウスブレイブの姿へと至り、勇者のメビウスが虹の剣を振り上げる。

 ひたすらに、ひたすらに、切れ味を引き上げる。

 そして、目にも留まらぬ踏み込みと、目にも留まらぬ剣閃を、同時に放った。

 

「『 アクティブレードアタックッ! 』」

 

 すれ違いざまの抜刀斬撃。

 竜児の渾身の斬撃が、ギガントガラオンの右前足をざっくりと切る。

 勇者達が侵入できるだけの切り傷が、そこに空いた。

 

『『 行けーっ!! 』』

 

 竜児とメビウスの声に応え、勇者達がギガントガラオンの体内に侵入する。

 さあ一直線に目的地に進んで破壊だ……と、そう簡単に行くわけもなく。

 怪獣の体内で、星屑達が勇者達を待ち受けていた。

 

「げっ、手荒い歓迎」

 

 星屑達が勇者に襲いかかる。

 ギガントガラオンも体を動かして中をシェイクし勇者を攻撃しようとするが、内側に向きそうになるギガントガラオンの意識を、キングジョーとメビウスが外に向け直させた。

 

「おほほほほ! 子供の未来を大きさと重さで無理矢理に潰すのは、無粋ではなくて!?」

 

 四機に分離したキングジョー、メビウスがギガントガラオンの周囲を飛び回り、四方八方から攻撃を叩き込む。

 その最中、竜児の虹の剣が伸ばされ、ギガントガラオンの一部が切り裂かれた。

 攻撃力は装甲に阻まれほとんど中に届いていなかったが、竜児の想いを反映し、装甲を浸透した虹の刃が"中"の星屑を切り裂く。

 ギガントガラオンの中で、夏凜に襲いかかっていた星屑の群れを。

 

「あっりがとうね、おせっかいリュージ!」

 

 竜児の援護を受け、夏凜は更に先に進む。

 夏凜の援護をした竜児の隙を狙って、ギガントガラオンは光球を連射しようとした。

 だが、出ない。

 その攻撃機能がある場所は、既に友奈のパンチに破壊されている。

 

『流石……めっちゃ早いな、友奈!』

 

 友奈の援護を受けた竜児が、更に別の場所を切り裂いた。

 彼らの心は繋がっている。

 星屑に密閉空間で追い詰められてピンチだった樹は、突如降って来た虹の刃が、自分を追い詰めていた星屑を全て切り潰すのを見た。

 

「わっ……今の、熊谷先輩の剣?」

 

 樹は機体の外に頭を下げて――見えてるはずもないのに――、目的地にまた走る。

 勇者達が封印の儀を行ってくれていたお陰で、このタイミングで御霊も露出した。

 

『御霊露出! 東郷さん、頼むよ!』

 

 東郷に希望を託し、竜児とキングジョーは空を飛び回る。

 空間を制圧するようなギガントガラオンの飽和雷撃攻撃も、竜児とキングジョーが互いに息を合わせて攻撃を誘導し合えば、かわせないほどではない。

 否。

 かわせるレベルまで、ようやく敵ポテンシャルが落ちてきたのだ。

 そうでなければ、ここで二人まとめて確実にやられていただろう。

 

「おーりゃぁ、届けあたしの必死の援護!」

 

 風が大剣でエンジンルームをぶっ壊すたびに。

 星屑とまとめてエンジンの一基を叩き潰すたびに。

 ギガントガラオンの基礎出力は落ちていく。

 ギガントガラオンは事ここに至って、騎馬に乗る王らしい戦術を仕掛けてきた。

 

 全身から雷撃ビームを撃ちながら、馬が駆ける。

 馬に乗ったパーフェクトガラオンが、大剣を振るう。

 上半身の人と下半身の馬が一体になって攻撃を仕掛けてくるがゆえに、攻撃の圧力は段違いだった。

 

『リュウジ、これは受けちゃダメだ。受けたら、追撃で確実にやられる!』

 

『オッケー、メビウス!』

 

 だがメビウスの的確なアドバイスが、竜児の中に判断ミスというものを生み出さない。

 本来なら、ギガントガラオンのこれをやられれば、竜児とキングジョーは一秒以内に確殺されていただろう。

 防ぐことも、かわすこともできず。

 ギガントガラオンは、こんなにも全力を出さずとも、竜児達を倒せるはずだった。

 余裕で倒せるはずだった。

 

 だが、ギガントガラオンは全力を出しても竜児とキングジョーを切り落とせていない。

 諦めていない人間が、五人もギガントガラオンの中にいるからだ。

 やがて、ギガントガラオンのガラオン部分の動きもピタリと止まる。

 

『やってくれたか、夏凜!』

 

 作戦通り、夏凜がガラオンのコントロールルームを破壊か停止させてくれたのだろう。

 これで、ガラオン部分が蘇るまで時間がかかるはずだ。

 990mの道のりと400mの道のりを、機体内部の敵を蹴散らしながら、こんなにも早く踏破する。

 竜児の中には、夏凜を褒めてやりたい気持ちがいっぱいに詰まっていた。

 

 右拳を握る竜児を見て、キングジョーは昇天しそうなほどに萌えた。

 やがてギガバーサークの部分の動きも鈍り始める。

 樹がやってくれたのだろう。

 左拳も握る竜児を見て、キングジョーは発狂級に興奮した。

 竜児の反応が、ちょっと可愛かったからだ。

 

「素晴らしい……素晴らしい(ラブ)……ラブありきの連携……もう六人で結婚して……」

 

『こんな時まで何言ってるんですかキングジョーさん!』

 

「その剣はラブよ。ラブの剣ですわ。甘酸っぱさが足りないだけで十分ラブ足り得るわ」

 

『ああもう!』

 

「この宇宙で最強のものは(ラブ)なのですわ!

 それに勝てる力なんて、大きさにも硬さにも重さにも宿らないのです!」

 

 動きが止まったギガントガラオンに、上からキングジョーがビームを連発する。

 何故か、ビームの威力が上がっていた。

 

「なぁーぜぇーなぁーらぁー!」

 

 何故か威力が上がっていたビームが、怪獣をどんどん下方向に押し込んでいく。

 

「どんな怪獣よりも! (ラブ)の方が重く、大きく、強いからですわぁぁぁ!」

 

 そして、なんと、ギガントガラオンの膝を折らせることに成功していた。

 1億トンを超えるギガントガラオンの体重を支える四本の足を、である。

 

「と、とんでもない……」

 

『母は強し、だよ。リュウジ』

 

「いやその言葉そういうのじゃないから」

 

 やがて、ギガントガラオンの内部から脱出してきた東郷が、肉声で竜児に情報を伝える。

 

「熊谷君!

 この巨体に現れたカラータイマーは!

 ギガバーサークの前の頭の少し後ろの部分よ! 上から狙って!」

 

 そこが、この奇形の怪獣の『胸』なのだと、竜児は把握した。

 キングジョーも把握した。

 ゆえに、竜児を置いてきぼりにして、キングジョーは飛翔する。

 

「だからこそ、させてはいけないこともあります。わたくしが代わりにやりましょう」

 

『え? キングジョーさん?』

 

「この身にできることで、あなたの重荷が少しでも軽くなるのなら!」

 

 キングジョーは竜児の代わりに、彼の兄弟を殺そうとしていた。

 その重荷を、竜児に背負わせないために。

 兄弟殺しの罪を、一つでも減らすために。

 だが、ギガントガラオンは御霊を狙いに動いたキングジョーを鎖で捕らえ、御霊を守る盾のようにそこに貼り付ける。

 御霊を狙えばこいつが死ぬぞ、とでも言いたげに。

 

「し……しまった! こんな余力がございましたの!?」

 

『キングジョーさん!』

 

「助けようとして足手まといになるとは……なんて無様な……!」

 

 キングジョーの想いを、竜児は受け取った。

 その行動を、愚行だと彼は思わない。軽挙だとも思わない。

 ただ、優しさから来る行動だなと、竜児は思った。

 だからこそ、ごく自然な気持ちで、その剣を振るえる。

 

『無様なんかじゃないです。……その気持ち、嬉しいです。ありがとうございます』

 

 皆の想いを束ねてバイオカンデアを切った時の感覚を思い出し、竜児は虹の剣を巨大化させ、キングジョーと御霊を狙い振るった。

 

「『 ブレードオーバーロード! 』」

 

 虹の剣が落ちる。

 キングジョーを切り裂かず、怪獣の御霊(カラータイマー)のみを切る。

 想いの剣は善意のものを素通りし、哀れな悪の操り人形だけを、切り裂いた。

 

『でもこれは、僕がやるべきことだから』

 

「……あ」

 

 勇者達が、キングジョーが、次々とギガントガラオンから脱出していく。

 だが、ギガントガラオンは倒れなかった。

 崩壊しなかった。

 切り裂かれた御霊は肉と混ざり、何故か壊れたはずの御霊が肉と融合していく。

 

「な……何これ、御霊を切り裂いても、倒せないなんて」

 

 力、怨念、妄執、執着。

 そういったものが、怪獣に異常な生命力を与えていく。

 ギガントガラオンの巨体を維持していた巨大なエネルギーが、そのまま死なないためのエネルギーに全転換され、不死身に近い肉塊へと変貌を始めていた。

 明らかに、何かが暴走している。

 

『兄弟だから分かる。……死にたくないんだ、本当に』

 

 竜児には、その暴走の理由が理解できた。

 

『死ぬしか救いがないって分かってても……それでも、死にたくないんだ』

 

「そこに……地底人と海底人の怨念が混ざって、歪み、おかしくなっているのですわ」

 

 死にたくないという竜児の兄弟の原始的な想いと、文明レベルで地球人に恨みを持った地底人と海底人の高度な怨念。

 その二つが、高度に入り混じって、天の神が与えたバーテックスの肉を暴走させている。

 さぞや苦しいことだろう。

 この反応は、自分の肉を常に叩き潰し、常に再生している繰り返しに等しい。

 殺す以外に、その苦しみを終わらせる方法は無い。

 

『愛されないで死ぬのは、悲しいよな。だから、僕は、兄弟の君を……』

 

 悪の軍団に道具として作り出され、天の神に道具として使われて死ぬ。

 そんな始まりと終わりでは、あまりにも悲しすぎる

 せめて、兄コピーライトのように。

 兄弟の愛を残すくらいはしてやりたいと、竜児は思う。

 

―――血の繋がった兄弟を、家族として愛する気持ちがあるのでしょう?

―――自分を守る愛ではなく、優しさのような、相手を想う愛を信じなさい。

―――あなたの愛はどちら? あなたの愛は何を守りたいと言っていますの?

 

 何故かふと、キングジョーの言葉が脳裏に蘇った。

 

『……皆、近くに。僕に力を』

 

 勇者達が竜児に寄り添った。

 勇者達の力、精霊達の力、そしてウルトラマンの精霊の力が発せられ、循環を始める。

 竜児の手を通して、∞の形の光の循環が生まれ、それが加速していく。

 

 メビウスが兄の話をした時に、竜児に教えた一つの技がある。

 それはかつてメビウスが同じ性質の技を放ったこともある、ウルトラ兄弟の代名詞。

 ウルトラマンが放つ光線の、一つの究極の形。

 ウルティメイトブレスと共鳴する竜児の光が、今か今かと、その光線の発射を待っていた。

 

『この感覚……まさか、撃てるのか!? "あれ"を! リュウジ!』

 

「僕だけの力じゃ撃てない! 僕と、勇者と、勇者の精霊と――」

 

 心を重ねる。竜児と、勇者と、メビウスで。

 

「―――君の力が必要だ! メビウス!」

 

『―――分かった。起こそう、奇跡を!』

 

 虹の剣は作れた。

 虹の光線は撃てた。

 ゆえにこそ、その二つよりもっと上にある、次のステージへ進めばこそ、掴める技がある。

 

 

 

「『 ―――コスモミラクル光線ッ!! 』」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、"ウルトラ兄弟の代名詞"。

 奇跡を起こす最強の光線。

 それが、メビウスブレイブより放たれた。

 

 光線は不死身に近くなっていたギガントガラオンの肉を消滅させ、肉と融合していた御霊を蒸発させ、その内に囚われていた竜児の兄弟を解放する。

 全てを消し去る必殺光線。

 虹の光の先にあったもの。

 七色の心を束ねられなければ、至ることすらできないもの。

 それが、竜児の兄弟の苦しみさえも、消し去っていた。

 

 

 

 

 

 コスモミラクル光線の輝きが、怪獣の全てを消し去った。

 だが、その中で。

 光が集り、竜児にどこか似た人間の男のような形を形成する。

 

「……弟よ」

 

「―――!?」

 

 間違いない。

 竜児の兄弟、竜児の兄だ。

 光が怪獣を消滅させたことで、怪獣の中に混ざっていた竜児の兄の光が、何らかの要因で再構築されたというのだろうか。

 いや、竜児の兄に話せるだけの知性が宿っているわけがない。

 これは明らかにおかしい。

 奇跡でも起こったのだと言わなければ、この現象には説明がつかない。

 

「愛の奇跡(ミラクル)ですわ」

 

 だがキングジョーは、この奇跡を一言で説明していた。

 

「あなたが初めて兄弟への深い愛をもって、その輝きを撃ったからでしょう」

 

 愛が伝わり、奇跡が起きた。

 極度に大きな想いの光と、兄弟の光の共鳴が、この奇跡を生んだ。

 竜児はその奇跡を喜べない。

 

『こんな奇跡! こんな……こんなタイミングで! 僕は嬉しくない!』

 

「我が弟。オレが死の直前で心を得たことを悲劇と思うか?

 死を嘆く心を得た残酷だと思うか? 違う、これは悲劇ではない」

 

『……え』

 

「この奇跡は、先に死んでいった兄弟達の想いがくれたのかもしれん。

 オレが最後に心を得たのは……

 お前が殺したと思っている兄弟達の想いの、代弁をしなければならないからだろうな」

 

 一時の奇跡で、形と心を得た兄の体が、崩壊していく。

 

「オレ達は虫以下の心しかない。

 オレ達にまともな心は芽生えず、ゆえに天の神の言いなりだ。

 だから、オレ達兄弟を嫌わないでくれ。恨まないでくれ。気に病まないでくれ。

 オレ達はお前のことを、嫌いでもないし憎んでもない。

 でも、お前の味方になることもない。オレの後に続く兄弟も、もう手遅れなのだ」

 

『……兄さん。助けられなくて、ごめんなさい』

 

「だけど、何も愛してないわけじゃない。心がなければ愛せないなんて誰が決めた?」

 

『……え?』

 

 崩壊していく兄が、四国の結界と、その中で過ごす人々を指差す。

 崩壊していく指で、竜児の仲間達を一人ずつ指差していく。

 

「助けられなかった、とか言うな。お前が守ったんだ。

 綺麗なものを。価値あるものを。善いものを。

 我が弟……いや……ウルトラマン。

 お前は、オレ達が"オレ達の命より優先して守ってほしい"と思ったものを守ってくれた」

 

『……っ!』

 

「流石にさ。

 あんなにいいものを、自分の手で潰したくねえよ。

 誰かに止めてほしかった。

 だから、そうなんだ。オレ達の想いも、お前は形にしてくれた」

 

 死にたくないという想いを、この兄も抱えていたはずなのに。

 その上でこの兄は、竜児が守りたいと思ったものの価値を、肯定してくれた。

 竜児は兄と世界の重さを天秤にかけ、世界を選んでバイオカンデアを撃ったが、その選択すら兄は肯定してくれた。

 竜児の心にかかった雲が、一つ晴れる。

 

「頑張れ。ウルトラマンになれた立派な弟は、俺達兄弟の、誇りだ」

 

『―――』

 

「心無くとも愛している! コピーライトも、お前も! ちゃんとずっと愛しているぞ!」

 

 叫んで、兄は消える。

 光がほどけるように消えていく。

 コピーライトより軽く、しがらみも妄執も無さそうな兄だった。

 だからだろう。

 ここまでストレートに、"愛している"と言えたのは。

 

 思えば、コピーライトは一度も"愛している"とは言わなかった。

 それが、彼の呪いだったのだろう。

 愛を口にしないことが、彼の歪みの証だったのだろう。

 今の兄が"兄弟達の代弁"と言っていたのは、今の言葉が、コピーライトの代弁だったから、というのもあるのかもしれない。

 

 竜児は、兄弟の愛を受け取った。

 リバースメビウスで知り、バイオカンデアに突きつけられた悪夢は、ギガントガラオンとの戦いで一つの終わりを迎えた。

 キングジョーが、巨人の竜児の肩に手を乗せる。

 

(ラブ)は最強、だったでしょう?」

 

『……はい』

 

「よろしい。だからあなたも、これからはずっと最強であるべきなのですわ」

 

 竜児は勇者達を拾い、手に乗せていく。

 

「帰ろう」

 

 悲しみは無かった。ただ、前を向く気持ちがあった。

 

「僕も、兄さんも、何も言うことはない。

 言うべきことは全部、今兄さんが言ってくれたから」

 

 そこに、勇者は何か思うところがあったらしい。

 私達にも何も言わせない気ならこっちにも考えがあるぞ、とばかりに、無言で竜児の巨人体をよじ登っていく。

 そして無言で、五人が順番に竜児の頭を撫でていった。

 よしよし、と。

 前を向く気持ちはあった。でも下を向く気持ちもあった。その気持ちが、少し上を向いてくれた気がした。

 

『……あはは』

 

 竜児は頭に乗っている勇者達を振り落とさないよう気を付けて、帰ろうとする。

 

「ではわたくし、そろそろ一旦帰ります。そういえばそろそろ息子の授業参観なので」

 

「え」

「え」

「えっ」

「えっ」

「えっ?」

『えっ?』

『ええぇ……』

 

 そこで、突如やって来たラブタイフーンの突然の帰宅宣言。

 突然やって来たものは、突然去っていく。

 分かっていたことだが、唐突過ぎて全員ズッコケそうになった。

 

「皆さん、覚えてますわね? (ラブ)は?」

 

「『 最強! 』」

 

 竜児と友奈だけが呼応した。

 残りは呼応せず、顔を赤くする。

 メビウスは笑って見守っていた。

 

「おほほほ!

 わたくしのラブリービームは、ありえる未来しか映さない!

 あなた達が大人になる未来も、結婚していける未来も、ちゃんとあるということですわ!」

 

「……!」

 

「わたくしが見せた未来を信じなさい。未来を創る子供達よ!」

 

 キングジョーが、飛翔を始める。

 

「わたくしが次に来るまでに、誰か結婚して子供を作ってわたくしに見せなさいな!」

 

「ええええ!?」

 

「その子供が遠慮なく走り回れる世界を、天の神から取り戻しておきなさい!

 わたくしも次に来る時は、自慢の息子達を披露してあげますわ!」

 

 キングジョーの、激励が響く。

 

『分かりました! 約束します!』

 

「ちょっとリュージ! ノリで受けないで! 結婚と子供の話は拒絶しなさいっ!」

 

「ふふふ、端末の電源は入れておきなさい!

 帰りがけの駄賃で、次のバーテックスの形を、送信しておいてあげますわ!」

 

 キングジョーは燃える地球の表面で、竜児達を狙って集まってきた星屑達を一瞬で全てビームで消滅させ、燃え尽きる星屑をキラキラ輝かせながら、飛んで行った。

 

「さらば、萌える勇者部の皆様方! また元気で会えますように! おほほほほ!」

 

 星屑という名前が付いているだけの怪物を。

 輝く星屑という、名前の通りのロマンチックな姿に変えて。

 キング嬢おばさんは、空の彼方に消えていった。

 

「……凄い人だった」

「凄い人だったね」

「凄い人だったわ、本当に」

 

 皆の心が一つになる。

 愛。

 恋。

 なんだか、とんでもないものを置いて行かれた、そんな気がした。

 

 一方、置いていったキングジョーは、宇宙間転移のエネルギーチャージを行いながら、地表を舐めますように見つつ飛び、次のバーテックスの姿を視認する。

 

「もう作成に入っているのですわね。―――暴れ牛のバーテックス、でしょうか、あれは」

 

 制作開始直後ですら暴れ牛と分かるバーテックスが、燃える世界に佇んでいた。

 

 

 




 漫画版とかだと平然とコスモミラクル光線を撃ってるメビウスインフィニティーさんUC

 さて、次回からようやく大山場に向けた話が始まります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。