時に拳を、時には花を   作:ルシエド

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じょばんせん


第十一殺一章:絶望の暗雲

 四国の結界の中は、光のウイルスで満たされた。

 ただ、それだけ。

 それから数日が経過する。

 

 一般人は驚いたものの、何も思わない。

 大赦もその光に即効性の害を観測しない。

 だが、勇者は、竜児は、その光にとてつもない嫌悪感を覚えていた。

 異物感、忌避感と言い換えてもいい。

 世界から夜は消え、人が生きられる場所の全てがカオスヘッダーに汚染されていく。

 この光に"気持ち悪い"という正しい感想を持てる人間にとって、その過程は、世界が不明瞭に地獄と化していくような光景だった。

 

「竜児君」

 

「はい、簡易的な説明を開始します。

 現在、大赦の本部は大赦と勇者の緊急避難所として機能しています。

 精霊を基点とした、光を弾く防御結界を常時展開。

 乃木さんの二体、鷲尾さんの二体、三ノ輪さんの一体、合計五体が基点です」

 

 安芸に促され、竜児は大赦本部の一室にて、勇者達に現状の説明を開始した。

 

 現在、彼ら彼女らは、四国全体を飲み込んだ光の洪水から逃げた人々を匿い、バーテックスから守る立場にある。

 

「現在、光のウイルスは除染が可能です。

 ……この光が極限まで希薄化されているため、対抗手段の作成が可能でした。

 除染されていない状態での人体への悪影響は未知数です。

 結界に覆われたこの施設内部の外で、一般人が活動することは推奨されません」

 

「……リュウさん、四国の一般の多くの人達は? すぐ助けられないのか?」

 

「……三ノ輪さん。それは、あの怪獣を倒してから考えた方がいい。数が多すぎる」

 

 カオスヘッダーの除染装置ですら、"勇者システムを日常の勇者の補助に使えないか"と研究していた竜児が間に合わせで作った、応急処置的なものでしかない。

 この光は危険だ。

 全容すら見えていないのに危険だと確信できる。

 それを感覚的に理解できているのは、竜児と勇者達だけだろう。

 

 それが四国のほぼ全ての人間を飲み込んでいるのに、何もできない。

 範囲が広すぎて打つ手がない。

 勇者の無力感と、銀の言葉も、その心情を推察すると痛々しさすら感じられる。

 きっと彼女らがその無力感に耐えられているのは、彼女らの前に、歯が砕けそうなほど強く歯を食いしばっている竜児がいるからだ。

 

「この光は徐々に密度を増しています。

 あの空に浮かぶ黄金の林檎が、光の放出を続けているからです。

 汚染力や結界にかかる圧力も、加速度的にその数値を増していくことが判明しています」

 

「……」

 

「つまり、時間経過でこの光は除染も防御も不可能になるということです」

 

 今はまだ、大赦も避難可能な場所を保持できている。

 だが、それも時間の問題だ。

 いずれ、カオスヘッダーに触れたら即座に終わりで、四国のどこにも逃げ場が無いという状況がやって来る。

 

「この光の効果は?」

 

「二日前に取ったサンプルの検査で、ようやく一部が判明しました。

 この光は、極限まで希薄化した状態でも、人間の凶暴化を誘発します。

 既に四国の各所で暴力事件や、市民同士の喧嘩が増加し始めている模様です」

 

「!」

 

「肉体の変質効果も確認されました。

 脳の変質による脳腫瘍ならまだ可愛いものです。

 最悪、人間が怪獣のような化物になってしまう可能性も……」

 

「―――!?」

 

「最悪なのは、これが虚数の効果をもたらすということです」

 

「虚数?」

 

「虚数と虚数を掛け算するとマイナスの数字になります。

 マイナスとマイナスを掛け算すると正の数字になります。

 この光に炭素原子を当てて反応を見てみたところ、質量とエネルギーが消失しました」

 

「……?」

 

「存在が観測不可な虚無になったんです。

 この光は、正の数字で構成された全ての存在に感染します。

 そして、正の数字に虚数を"掛け算"し……全てのものを虚数に還す」

 

 正の数字に虚数を掛けると、それも虚数になる。

 グリーザは虚無。

 虚無に触れたものは虚無へと還る。

 どんな者であれ、この世界に存在してしまっている時点で、グリーザとの接触がそのまま消滅の結果に繋がってしまうのである。

 "この世界に実体を持って存在している"ということが、弱点になってしまうのだ。

 

 光が四国全体を一気に飲み込むために、希薄化していてくれて助かった。

 もしも……もしも、この光の虚無が怪獣サイズで現れていたら、どうなっていたことか。

 

「放置すれば、いずれ人間と神樹様が虚数消滅し。

 次に四国全てが虚数消滅し。

 最後には地球そのものが虚数消滅すると思われます」

 

「ヤバいじゃないか!」

 

「そりゃもうヤバいよ。シェルター使っても僕ら全員死にますよ」

 

 希薄化した光の洪水がその量と密度を引き上げていき、やがて四国内部の全てを虚無へと還した頃、結界を消し去りオールエンドは立ち上がるだろう。

 怪獣サイズでも星を消してしまいそうな怪獣が、四国よりも大きな姿で、星の上に現れる。

 人を終わらせ、神樹を終わらせた後、星さえもこの怪獣は終わらせられる。

 

「さしあたっての問題は、これが一般人に及ぼす影響。

 そして……四国の中心部に屹立する、神樹様への汚染率」

 

「タイミリミットがあるってことかな~?」

 

「乃木さん、正解。流石だね」

 

「やった~、褒められた~」

 

 一般人と神樹、その両方をこの光が汚染するにしても、許容範囲の限界がある。

 手遅れになる前に、この事態を終わらせなければならない。

 

「神樹様ほど大きいと除染作業も意味が薄い。可及的速やかに、この怪獣を倒す必要がある」

 

「でも、どうしたらいいの?

 封印の儀をやっても埒が明かないわ。

 バーテックスの体は光で四国中にあるんでしょう?

 私達四人で四国全部の光を細かく調査するつもり?」

 

「現実的じゃないよね……」

 

「そもそも……その素体の、光の元になってる、カオスヘッダーって何なのかな~」

 

 うんうん悩む須美の横で、園子がほんわか首を傾げる。

 

『僕が聞いた話で良ければ、僕が説明するよ』

 

「あ、メッビーだ~」

 

「メッビー」

「メッビー……?」

「メッビーになったのかあだ名……」

 

『カオスヘッダーは光のウイルスだ。

 感染することで、怪獣を強化・凶暴化させるのが一番知られた特性かな。

 ヒカリ曰く、これは混沌化と呼ばれる現象で、やがて秩序に向かう一過程だという』

 

「秩序に向かう?」

 

『一度全ての命を凶暴化させれば、皆が同じことを考えている状態になる。

 全員が同じことを考えていれば争いは起こらないようになる……という考えらしい』

 

「え、なにそれは」

 

『そしてその過程で、凶暴化した命の暴走でいくつもの星を死の星に変えてきたと』

 

「ダメじゃん!」

 

『カプセルでこの辺りの特性が再現されているんだろうね』

 

 そも、カオスヘッダーとは何か?

 それは、感染、変質、同化による秩序の強制を成す光の人工生命である。

 『個』を『混沌』に取り込み、『凶暴な存在』に均一化し、『秩序』を作る。

 "黒で塗り潰す"というプログラムと、"黒を白に変える"というプログラムを連続発動するような暴力的な秩序の強制。

 混沌の黒と秩序の白の連続塗り潰し。

 そうやって、宇宙の全生命をカオスヘッダーの一部に変える光なのだ。

 

 フュージョンライズのためか、その後に虚無化の行程が加わっている。

 

『混沌、秩序、そして虚無。

 この三段階がオールエンドの侵食で起こる事象であると考えられる』

 

「うへえ」

 

 オールエンドは、今までの融合昇華体とは何かが違う。

 

 メビウスの説明を聞き、竜児が知識を引っ張り出した。

 

「まるで内丹術だね」

 

『内丹術?』

 

「古代中国の伝統的な『気』の修行法だよ。

 築基、煉精化気、煉気化神、煉神還虚、還虚合道。

 まず基礎を築く。

 精を練って気と化す。

 気を練って神と化す。

 神を練って虚に還る。

 虚無に還ったその先で、(タオ)との合一を果たす……ってやつ。

 この考えにおいては、虚無こそがこの世で唯一永久不変で不滅のものだと考えられた」

 

「虚無は不滅……」

 

「あらゆるものが滅びる時が来ても、虚無だけは滅びることはないと考えられたんだ」

 

 虚無は滅びない。

 虚空は滅ぼせない。

 天の神は、"それ"をグリーザとしてカオスヘッダーに混ぜてきた。

 

『グリーザはその類と言えるのかもしれない。

 オールエンドもそうなのかもしれない。

 だけど、そんなことで諦めていいほど、君達の未来は安くないはずだ』

 

 メビウスの言葉が、竜児を、勇者を、奮起させていく。

 そうだ。

 どんなに強力な敵が現れようが、未来を諦めてなんてやるものか。

 

「……ん? あれ、もしかして、一般の人があの光に嫌悪感抱かないのって……」

 

『ああ、自分の体の臭さに気付かない人がいるのと同じで……』

 

「……カオスヘッダー化進んでるってことじゃん! 怖い!」

 

 オールエンドという虚無に向かう秩序の中に、誰も彼もが組み込まれつつつあるのだ。

 竜児、安芸、勇者達が窓から空を見上げる。

 四国を包む光の洪水の親玉らしきもの、光が凝縮された黄金の林檎の中で、怪獣らしき影が胎動していた。

 

『あの中身が完全に覚醒し、生まれたら、どうなるかは僕にも分からない』

 

 地上に光を流し込んでいるあれも、どうにかしなければ。

 竜児は皆の前で書類を広げる。

 

「あの林檎のことだけど、計測結果がこうなってるんだ」

 

「分かんないよアタシには」

「あはは、なにこれ~」

「……ちょっと私に時間をちょうだい」

 

「……えーと」

 

 竜児以外にも理解はできていなかったが、竜児本人にも上手く説明ができるかといえば、それはノーであった。

 

「あの林檎を計測機器で計測したんだ。

 空間エネルギーも0のまま。

 質量や体積も観測上は0のまま。

 ……それがおかしいんだ。

 目で見れば林檎の光が大きくなっていることも、光が強くなっていることも分かる。

 なのに数値的は変動しない。0のまま。そこには光なんてないという結果しか出ないんだよ」

 

「……?」

 

「つまり、僕が言いたいのは」

 

「うんうん」

 

「僕にもよく分かってないから気にすんなってことだ」

 

「「「 !? 」」」

 

 竜児にだって、よく分からないものはある。女心とか。

 

 

 

 

 

 今は大赦の本部が避難所として機能している。

 神樹から力を引き出せる精霊五体が、ここを守ってくれていた。

 大赦でも家格の高さと組織内の地位の高さは相応に比例する。

 急に到来した四国の全体の窮地に、上層部の方が素早く安全帯に逃げ込めるのは、ある意味当然の話ではあった。

 

 施設内に逃げ込んだ人達を見回していた竜児は、それを再度実感していた。

 

(お、鷲尾さんと乃木さんと三ノ輪さんの家族がいる。

 ……ああ、そりゃそうか。

 勇者には家格が求められてたんだもんな。

 家格が高ければ大赦が早く逃してくれるから、自然と勇者の家族は全員無事になるのか)

 

 大赦の頭に当たる上層部が壊滅していないのも、勇者の家族が全員無事で勇者のメンタルに影響がないのも、竜児からすれば御の字である。

 ただ、勇者達の友達や同年代の知り合いはここに避難できなかったようで、勇者達はその者達のことを気にしている様子だった。そこは不安要素ではある。

 

 竜児はこういう時に努めて冷静であろうとしてくれる安芸に、頼りがいを感じた。

 

「安芸先輩、皆をお願いします」

 

「分かったわ。それと、これが例の物」

 

 安芸は袋に包まれた一本の太刀を、竜児に手渡した。

 

 竜児は受け取った刀に、ほんのりと熱と力を感じる。

 ただの儀礼用の刀ではない。

 勇者システムのような神樹から力を引き出す刀でもない。

 この刀そのものに、西暦の近代兵器全てを圧倒した星屑"程度"なら、倒せるだけの力がある。

 選ばれた者に神の力を操らせる機能がある。

 

「これが初代勇者・乃木若葉様の武器……『生太刀』」

 

 それは、神樹を構成する土着の神々の筆頭・大国主を大国主たらしめた刀。

 須佐之男命(スサノオノミコト)より奪い、後に『大国主』の名と共に大国主へ与えられ、大国主を追い詰めた八十神を打倒した、無二の神刀だ。

 かつて園子の先祖は、これを用いて限界を超える戦いを生き抜き、唯一生き残った西暦の勇者となったという。

 

 竜児には到底扱えるものではなく、また扱う意味の無いものだが、儀礼的な意味では十分に利用価値のあるものだった。

 

「作戦と目的地は覚えているわね?」

 

「はい。目的地までこの刀を運び、奉納する。奉納終了と同時に安芸先輩に連絡、ですね」

 

 竜児達は可及的速やかにオールエンドを倒す必要がある。

 だが、闇雲に挑んでも結末は見えていた。

 そのためまずは、四国全体に広がる光の洪水をなんとかし、四国の一般人と神樹への侵食を遅延させ、それを第一手とする作戦が提案された。

 

 今、避難所は精霊五体を基点として強力な結界が張られている。

 これを基点六ケ所に拡大し、四国全体に薄く広げた結界を展開し、四国の地上から光の洪水を追い出すというのが、その作戦だ。

 

 元々、六点の結界基点を使い、四国結界内部にもう一つの結界を展開するという作戦は、前々から考案されていたらしい。

 須美の青坊主、刑部狸。園子の烏天狗、両面宿儺。銀の鈴鹿御前。

 五体の精霊に生太刀を加え、四国の地上を六点結界にて薄い結界で包み込む。

 だがそのためには、光の洪水に飲み込まれた今の地上を移動し、結界の基点となる神社に単独で生太刀を置きに行く人間が必要だった。

 

「私は反対だわ。一人で行かせるには、危険が大きすぎる」

 

「僕が行かなきゃ誰が行くのさ。

 僕か勇者じゃないと光のウイルスで正気を失う可能性がある。

 勇者は六点結界発動まで精霊でこの場所を守って、いざという時皆を守る役目もあるんだよ」

 

「むぅ」

 

 須美が反対するが、竜児に言いくるめられる。

 

「ハンカチ持ったか? ティッシュは? アタシも心配だぞ」

 

「遠足か! 母親か! 君は僕よか年下だろ!」

 

「遠足も戦いも、家に帰るまでが遠足で戦いなんだからな」

 

「……それは確かにまったくもってそうだ。ぐうの音も出ない」

 

 銀は時々、スパッとしたことを言う。

 

「お土産買ってきてね~?」

 

「コンビニのお菓子で良い?」

 

「「 頼むな頼むな、了承するな 」」

 

 園子と竜児への、須美と銀のツッコミが軽かったのは、そのやり取りが『必ず帰って来ると信じているという意思表示』『その意思表示への返答』だということをなんとなく察していたからなのだろうか。

 

 竜児が生太刀を神社に置き、避難所の精霊結界を解除、四国を囲む薄い結界を再展開。

 地上を光の洪水から救い、そこからオールエンドの攻略法を探す。

 それが、現在考えられている最善の策だった。

 

「移動経路や移動手段をどう選んでも、僕はバーテックスに見つかる可能性が高い」

 

「そうなったら戦いよ。だから私達も同行したいのに……」

 

「僕が変身しても、勝っても、負けても、ここ動いちゃダメだよ。鷲尾さん」

 

「なんで!」

 

「ここに避難した人達を守ることを、僕が君に任せて行くからだ。君を信じて」

 

「―――」

 

「力の無い人達が危険になることを承知で、僕を助けに来るような人は、信じられない」

 

 須美は苦虫を噛み潰したような顔をして、車椅子の上で悶えるような動きをし、頭を抱えて、苦渋の選択で了承した。

 

「……分かったわ」

 

「うん、いい子だ」

 

「子供扱いしないでっ」

 

「あと二年分くらい大人に近付いたら、そうしてあげるよ」

 

 竜児は眼鏡を押し上げ、笑った。

 須美は頬を膨らませている。

 

「三ノ輪さんと乃木さんも頑張って。ここが人類に残された最後の拠点なんだから」

 

「うおおっ、怖い言い方すんなあリュウさん」

 

「任されました~」

 

 竜児に守るための一手を任せ、竜児もまた守ることを仲間達に任せて行く。

 

 逃げ込んだ人々が集まるホールで、銀の弟・鉄男が通り過ぎようとする竜児の服の裾を掴んだ。

 

「にいちゃん」

 

「うん? どうした、鉄男君」

 

「世界がもう終わりって本当?」

 

「……誰かがそう言ってたのかな?」

 

「うん、大人の人が言ってた」

 

 竜児は膝を折り、五歳の鉄男に目線を合わせる。

 

「ここの外は、もうバケモノだらけで、もう終わりなんだって」

 

 鉄男はもう少し追い詰めたら、泣いてしまいそうな顔をしていた。

 ホールの人々が竜児を見ている。

 ここに居る大人は、皆大赦の構成員だ。

 そのほとんどが竜児がウルトラマンであることを知っている。

 竜児を見る目が、ウルトラマンを見る目のそれだった。

 

 だが、希望の色は見当たらない。

 多くの者達が、人間に許された四国という狭い生息圏のほとんどを制圧されてしまったことに、少なくない絶望を感じてしまっている。

 大人の絶望は、察しのいい子供にまで伝染してしまっていた。

 今や避難してきた人達のほとんどが、胸に絶望を抱えている。

 

 ウルトラマンを見る目に、希望はなく。

 ウルトラマンに希望を見ているわけでもないのに、ウルトラマンにすがりつくような目を、大人達はしていた。

 

「にいちゃん、もうダメなのか?」

 

 そんな大人達に絶望を貰ってしまった鉄男が、不安そうに絶望を口にする。

 

 竜児は微笑み、少年の頭を撫でた。

 

「大丈夫」

 

 竜児は揺るぎない。

 竜児は絶望など見せない。

 竜児の口からは、ただ希望が語られる。

 

「必ず平和を取り戻すよ。

 君の大好きなお姉ちゃんと、僕達が」

 

「本当?」

 

「ああ、本当だ。

 君の……君達の幸せな日々の未来(ヒビノミライ)は、僕が守る」

 

 負けてなんてやるものか。

 

 

 

「僕達を……ウルトラマンを、信じろ!」

 

 

 

 どんなに敵が恐ろしくても、未来に絶望なんてしてやるものか。

 

「うん!」

 

 鉄男がいい笑顔を見せた。

 竜児を信じた顔だ。

 希望を信じた顔だ。

 未来への不安を振り切った顔だ。

 皆に希望を見せる必要がある。でないと皆立ち向かえない。竜児は、そう思った。

 

「さあ、行こうメビウス!」

 

『ああ!』

 

 現れるメビウスブレス。

 擦り上げられ、吹き上がる閃光。

 立ち上る巨大な光の柱。

 

「『 メビウーーース!! 』」

 

 皆に希望を見せようとするかのように、皆の前で竜児はその身を巨人に変えた。

 

「ウルトラマン……」

 

 誰かの呟きを背に受けて、竜児は空に飛び上がる。

 大地も、海も、空も包み込んでいる光の洪水。

 光に包まれたメビウスがそこに突っ込んで、世界を包む光を粉砕していく。

 

 邪悪の光を切り裂いて、優しい光が世界を開いた。

 

「「「 すっげっー! 」」」

 

 子供達が、それを見て声を上げる。

 

 大人の胸にも、子供の胸にも、もはや絶望は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 遠くが見辛いほどに、世界に蔓延しているオールエンドの光。

 竜児はその光をかき分けて、空を飛んで目的地へと向かう。

 できればすぐ目的地に辿り着き、すぐにでも生太刀を奉納し、二分前後で皆の下に帰りたい。

 だが、そうはならないだろうとも直感していた。

 

『街も酷いな……』

 

「こんな怪獣の干渉を受けて、皆よく耐えてるよ。

 この時代も二年後も、良い人が多目な時代でよかった」

 

 街には取り残された一般人が見える。

 光の蔓延に何の違和感も持てなくなってしまった人。

 光を恐れてビクビクしている人。

 凶暴化が始まり、周りの人を襲うようになった人。

 その人に襲われる人。

 その人を体を張って守る人。

 光の侵食に抵抗し、激しい頭痛と戦っている人。

 

 街は、カオスヘッダーの力による"心の改造"によって、徐々に人がまともでいられない世界へと変貌していた。

 

「だけど、すぐに助けないと」

 

『周囲全てがオールエンドの一部だ。

 この光の粒子の一つ一つが怪獣である以上、敵の気配はまず読めない』

 

「まいったな、遠くもあまり見えないのに―――」

 

『後ろだ!』

 

 同じ耳を使っている。

 ゆえに同じ音を聴いている。

 よって"その音"に危険を察知したのは、メビウスの膨大な戦闘経験ゆえのものだったと言える。

 竜児は飛行中に反射的に体をひっくり返し、背後からの攻撃をガードした。

 

「―――!?」

 

 そして、空から飛び蹴りを仕掛けてきた()()()()()()に、驚愕した。

 竜児はガードしたものの、空から町外れにまで蹴り落とされる。

 地面に落下する巨人。

 大量に舞い上がる土砂。

 白いメビウスは悠々と、落下の痛みに苦しんでいるメビウスの前に舞い降りる。

 

 その敵に、気配は無かった。

 いや、気配がないのではない。

 今四国の大気のほとんどに蔓延しているオールエンドの光粒子と、この怪獣の気配が全く同じであるために、大気に気配が溶けてしまっているのだ。

 

「カオスヘッダー……『カオスウルトラマン』……?」

 

 このメビウスは、オリジナルのメビウスを模したコピー。

 オールエンドが自分の体の一部を固めて作った模倣品だ。

 その体は真っ白で、ところどころに鮮血のような赤色が引かれている。

 メビウスが銀と赤の巨人なら、この巨人は白と赤の巨人だろう。

 

 アルビノに似た奇形。

 ()()()()()()()()()()()()という不思議な造形。

 白と赤のコントラストは美しいのに、鮮やかすぎて映えすぎる赤が、その巨人に対するイメージを『グロテスク』としか思わせない。

 

 黒いメビウスであったリバースメビウスとはまた違う、その悪の巨人の名は。

 

 

 

「『カオスウルトラマンメビウス』……!」

 

 

 

 敵対する巨人に感染し、情報を読み取り、そこからオリジナルよりも強い巨人を作る。

 それがカオスヘッダーの力だ。

 ウルトラマンと融合した、カオスヘッダーに一定の抵抗力を持つ人間でさえ、この感染と読み取りからは逃れられない。

 

『そうか……四国全体にカオスヘッダーを広げた時!

 密かに瞬時に、僕らの体から"ウルトラマン"を学習していたのか!』

 

 カオスウルトラマンが飛び上がり、蹴り込んでくる。

 竜児がそれをステップでかわした。

 偽物の足が地面にぶつかり、地面を吹き飛ばし、土砂を巻き上げる。

 

「!」

 

 巻き上がる土砂の中、本物が踏み込んだ。

 本物が偽物の顔に向けて拳を突き出す。偽物は悠々と拳をかわした。

 偽物が本物の顔に向けて拳を突き出す。本物は必死にかわし、頬を拳がかすっていた。

 両者同時に腹に掌底を撃とうとし、掌底同士が衝突し、本物が打ち負ける。

 

「んなっ」

 

『"本物より弱いコピーなら作る必要はない"と言わんばかりだ……!』

 

 カオスウルトラマンとは、カオスヘッダーが持つ切り札の一つ。

 カオスヘッダーが学習と進化を繰り返すため、オリジナルより必ず強くなる。

 

 掌底で押し飛ばされた竜児に向け、偽物が光線の構えを取る。

 竜児は同じく光線でそれを迎撃しようとした、が、直感的にそれをやめる。

 そして横っ飛びに光線を回避した。

 

「―――」

 

 光線が、大気を消し飛ばしながら、何もない場所を直進していく。

 

『いい判断だよ、リュウジ。今の流れで競っていたら確実に撃ち負けていた』

 

「メビウスの助言に頼ってばっかじゃ、勝てやしないしね!」

 

 次に本物が繰り出したのはメビュームブレード。

 偽物もメビュームブレードを繰り出す。

 メビウスVSカオスウルトラマンの剣閃勝負が始まったが、そこでも竜児の旗色は悪かった。

 

(剣の技も、あっちの方が速くて巧い……!)

 

 剣速でも技量でも、偽物の方が上。竜児の腹が浅く切られる。

 

(しかも、重い……!)

 

 腕力まで上を行かれているため、本気でどうしようもない。竜児の肩が浅く切られる。

 竜児では、敵から受ける切り傷を浅くするのが精一杯だった。

 剣に注意を引かれすぎて、竜児の腹に偽物の蹴りが深くめり込む。

 メリメリメリ、と竜児の腹が嫌な音を立て、本物の体が吹っ飛んだ。

 

「うぐっ!」

 

 腹を抑えて、竜児は建物の合間で立ち上がる。

 

「……力はそっちの方が完全上位互換、か」

 

 これは、"相手と同じ姿では勝ち目がない"。

 本物であるはずの竜児がそう思うほどに、カオスウルトラマンは強かった。

 

「なら僕は……友達いなそうなお前に、そこで差をつけさせてもらう!」

 

 伸びる左手。

 

「ウルティメイトブレス!」

 

 メビウスブレスに、ウルティメイトブレスが接続された。

 未来との友との絆が、竜児を勇者のメビウス(メビウスブレイブ)へと変える。

 大きな光が、虹の光が、本物の周囲を渦巻いた。

 

 偽物が白い拳を振り上げ、叩きつけんとする。

 だが無駄だ。

 偽物が突き出した拳は竜児の右手に掴み止められ、竜児が左手を握りしめる。

 

「うおらぁ!」

 

 思いっきり振り上げられた左拳が、全力で偽物の顔面を殴り抜いていた。

 建物や人がない方向へ、偽物が吹っ飛ばされていく。

 後を追う竜児。

 その竜児を、偽物が不意打ちのメビュームスラッシュで迎え撃つ。

 

 されど竜児は後出しのメビュームスラッシュでそれを迎撃し、竜児のメビュームスラッシュが一方的に競り勝って、偽物の眉間を強烈に打ち付ける。

 メビウスブレイブの光刃が、偽物を痛み悶えさせた。

 が、竜児のカラータイマーは、二分の経過で点滅を始めてしまう。

 

『リュウジ、ここで決めるんだ!』

 

「了解!」

 

 左手から発生させた虹の剣で、すれ違いざまに偽物の胴を両断する。

 

「『 アクティブレードアタックッ! 』」

 

 高速移動からの斬撃に、さしもの偽物も抵抗するすべなどない。

 虹の剣の一撃が、偽物を一刀両断にし、一つの戦いを終わらせた。

 

「……ふぅ。強敵だった」

 

『まさかこちらの力をコピーして、上位互換を出して来るとはね』

 

 かくして、竜児は一息ついて。

 

 "それ"を見た。

 

「余計な時間を使っちゃったよ。早く生太刀を置い……て……」

 

 竜児の周りに立ち並ぶ"それ"を見た。

 

『……信じられない』

 

 気配が空気に溶け込んでいる。ゆえにカオスウルトラマンである。

 

 大気に蔓延する、見通しの悪い光の世界から現れた巨人。ゆえにカオスウルトラマンである。

 

 ()()()()()()()が並んでいる。模造品であるがためにいくらでも作れる。

 

 ゆえに、カオスウルトラマンである。

 

「……友達いなそうとか迂闊に言うもんじゃないね。友達いっぱい居たよ、彼」

 

『これに友達という呼称を使いたくないかな、僕は!』

 

 カオスウルトラマンは再現性が無いという弱点を持たない。

 強いて言えば、光のウイルスの総量が足りなければ量産ができないのが弱点だ。

 逆に言えば、光のウイルスの総量さえあれば、いくらでも作ることができる。

 倒された直後のカオスウルトラマンを使えば、その肉体の光を再構築して、別のもっと強いウルトラマンのコピーを作ることもできる。

 

 これが、全ての終わり(オールエンド)だ。

 

 十数体のカオスウルトラマンが、メビュームブレードを生やして竜児に襲いかかった。

 竜児が防げた剣は一本のみ。

 それ以外の剣の全てが、竜児の全身を刺し貫いていく。

 首、右胸、左胸、脇腹、腕、足、背中、鳩尾、肩……どこもかしこも刺されていく。

 

「か、ふっ」

 

『リュウジ!』

 

 全身をハリネズミのようにされた竜児が、叫ぶ。

 

「メビューム……ダイナマイトッ!」

 

 自分に密着していた偽物を全て吹き飛ばすつもりで、竜児は自爆した。

 数体の偽物が、体がバラバラになって死亡する。

 そして、光の向こうからまた新しいウルトラマンがやってくる。

 竜児の自爆が7体殺し、新たな偽物が15体現れた。

 

 竜児は自爆のダメージと三分の時間切れで、変身が解けて地面に転がる。

 全身を穴だらけにして、それを自爆と再構築で間に合わせに塞ぎ、けれど竜児は立ち上がる。

 もう一度、メビウスブレスに手を添えて。

 

『リュウジ! ダメだ! 二回目は―――』

 

「メビウースッ!!」

 

 竜児はメビウスの言葉を無視した。

 これはダメだ。

 この巨人は放置できない。

 これはカオスヘッダー最大の侵略……いや、バーテックス過去最大の侵略だ。

 

「全部まとめてここで……でないと、ヤバい!」

 

 変身した竜児が、巨人の姿でフラフラと立つ。

 戦う力などどこにも見えない。

 むしろ生きているのが不思議なほどで、変身直後から既にカラータイマーが点滅してしまっていた。

 三分も戦えない。

 一分生きていられるかも分からない。

 

 そんな自殺に等しい連続変身から、竜児は強化形態となり、最大最強の光線を撃つ。

 

「コスモミラクル光線ッ!」

 

 メビウスの制止する声が聞こえる。

 けれど無視して、竜児は最強の光線を撃ち続けた。

 光線が薙ぎ払うように偽物の数を減らし、燃やし、消滅させていく。

 竜児は最強光線で敵の数を減らしながらも、敵の数をカウントしていた。

 

(敵の数は……5……13……28……42……56……!?)

 

 カウントして、また数え直す。

 カウントして、また数え直す。

 敵を倒してしまったせいで、敵の数が減り、数え直しているのか? 否。

 ()()()()()()()()()()()()だ。

 

(60……72……81……!

 駄目だ! 僕の光線で敵が減る速度より、敵が増える速度の方が速いっ―――!)

 

 90を超え、100に至り。

 

 コスモミラクル光線を撃つ体力も尽きた竜児が、膝をつく。

 

 その竜児に、108体のカオスウルトラマンメビウスが、一斉にメビュームシュートを発射した。

 

 

 




●カオスウルトラマンメビウス
 邪悪の巨人。
 光の悪夢が模倣した、完璧なメビウスのコピーではない、完璧以上のメビウスのコピー。
 カオスヘッダーが模倣したカオスウルトラマンは、同形態・同段階であれば、常に対象のウルトラマンのスペックを上回る。
 原作においてウルトラマンコスモスと戦った時は、コスモスの第二形態をコピーしたカオスウルトラマンで、コスモスの最終形態と互角。
 更にはコスモスの最終形態をコピーしたことで、最終形態のコスモスでも完全に力負けするという絶望的な進化速度を見せた。
 カオスヘッダーに単純な力で競っても最後には必ず負ける、ということを象徴する悪のウルトラマンである。
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