時に拳を、時には花を   作:ルシエド

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終殺四章:GEEDの証

 地球は我々人類、自らの手で守り抜かなければならない。

 過去、ウルトラマンと共に戦った者が残した言葉だ。

 その者は何故、そんな言葉を残したのだろうか?

 

 決まっている。地球が人間の住まう星であるからだ。

 

 ウルトラマンは地球という星を守り、地球という星を大事に思っている。

 そういう意味では、人間の星であると同時に、地球はウルトラマンの星であるとも言える。

 だが、それだけだ。

 地球はウルトラマンの星ではなく、人間の星である。

 それは、地球が人間の保有財産であるからという意味ではない。

 地球は人間を育んできた母なる星であり、人間にとって唯一無二の故郷だからだ。

 人間が地球に頼らず生きていける日が来たとしても、その事実は変わらない。

 

 そして、怪獣のような人間に比肩する知的生命体が存在しない地球であれば、人間と同等の知性と知識を持つ生き物はいない。

 イルカ等の知能の高さが褒められる動物でも、人間に近いだけだ。

 ゆえに、人間だけである。

 "地球の危機だ"と正しく知性で理解し。

 "地球を守らなければ"と正しく反抗できるのは。

 だからこそ、地球は人類自らの手で守り抜かなければならないのだ。

 地球に本当の危機が訪れた時、地球を守らなければという意識を持ち、地球を守るというスケールで行動できるのは、人間だけなのだから。

 

 地球で生まれ、地球で育ち、地球を守ろうとするその者達が。

 

 自らの故郷を、自らの手で守り抜かなければならない。

 

 

 

 

 

 希望は潰えた。

 未来は絶えた。

 竜児は死に、ウルトラマンは死に、本来の四国結界は消え、神樹は折れた。

 『ガイア』は失敗し、復活のために作り上げた光も消えた。

 最後に残された香川の大地は、結界外の闇の干渉で光を加速度的に失っていき、徐々に何の光もない暗闇の世界になり始めている。

 結界外ではエンペラダークネス アトロシアスが降臨し、結界内では十二体の怪獣型バーテックスにより、勇者達は一人残らず追い込まれている。

 

 なのに、それでも。

 勇者は誰一人として、諦めてはいなかった。

 

 そして、実力差から考えればありえないほどに粘り強く食い下がっていた。

 

「てやあああああっ!」

 

 糸で絡め取ったブラキウム・ザ・ワンを、樹が糸を手繰って投げ、瓦礫の山に叩きつける。

 崩れた元ビルの瓦礫の山が、怪獣のプレスで更に細かい山となった。

 だがマデウスオロチが巻き起こした暴風に巻き込まれ、墜落しかけた樹の小さな体を、マデウスオロチの首の一つが噛み砕かんとする。

 ウルトラマンの肉さえ食いちぎった、強靭な顎だ。

 

「まだ……まだ! 諦めない!」

 

 その顎を、樹がフルパワーの掌底でカチ上げる。

 まだ動いてくれていたパワードの精霊が力を貸し、上に弾かれる竜の頭。

 樹は更に掌底を一発ぶち込んで、華奢な腕から見れば信じられない力を発揮し、首をあらぬ方向へと押し飛ばした。

 マデウスオロチの首関節にダメージが行ったのか、首の一つの動きが見るからに悪くなる。

 

「私はまだ、夢も叶えていないのに! 夢を叶えられたんだって、伝えられてもいないのに!」

 

 マデウスオロチが吐き出す必殺の各種属性攻撃を、樹が糸で切り裂き街と人々を守る。

 満開衣装の三割ほどは焼け、千切れ、腐り、その奥の傷付いた樹の肌が見える。

 それでもなお、樹は戦い方を変えない。

 

「夢を叶えて! お姉ちゃんと先輩に、『今までありがとう』って、伝えるまでは―――!」

 

 諦めない妹同様、その姉も全く諦めてはいなかった。

 

「こんなところで!」

 

 大きく。

 剣を大きく。

 200mクラスにまで大きくした剣で、群体の敵をまとめて吹っ飛ばす。

 数万体に分裂したドビシゴルゴンが放つ石化光線の弾幕を、風は200mサイズの大剣でまとめて打ち返した。

 精霊の力を込めたホームラン打ちに、跳ね返された石化光線がドビシゴルゴン達に命中し、されどそれでも四万体の怪獣がまだ動いていて、人々を殺そうと動き回っている。

 

 空にはシルバーブルーメの融合昇華体シルバーランス。

 地には路上を埋め尽くすドビシゴルゴン。

 風の片目は頭から流れてきた血が流れ込み、そのせいで見えなくなっているが、それを拭っていられるほど時間の余裕は無い。

 

「あたし達が、楽しかった日常に戻ること諦めて!」

 

 空と地より人を狙う敵に対し、風は巨大化させた大剣を地面に落とし、その側面を蹴った。

 巨大な剣が、巨大な壁となり怪獣軍団に思いっきり衝突する。

 まさに蹴り飛ばされた鉄の壁だ。

 壊れた建物などと一緒に、怪獣達もまた鉄の壁の突撃に巻き込まれ、一部は瓦礫に巻き込まれてぐちゃぐちゃになっていく。

 

(こうべ)垂れるなんてありえないでしょう!」

 

 怠けの力が街に広がる中、気合を入れ、鋼鉄の意志で怠けそうになる意志を蹴り飛ばしていく。

 風も、東郷も。

 

「私達の、今も、未来も、想い出も! それが詰まったこの世界も!」

 

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 ひたすらに、バイオカンデアとリバースメビウスに向かって撃つ。

 空から地へ、全ての弾丸と敵を地面に押し込んでやると言わんばかりの勢いで、苛烈な弾幕を放っていく。

 東郷の片腕は血に濡れだらりと下がっていたが、思考で動く彼女の満開であれば腕の負傷など、戦闘力を僅かに下げる些事にすらならない。

 

「絶対にあなた達なんかに壊させない! 私達が守ってみせる!」

 

 戦艦の満開から放たれる光の砲火は、さながら光の集中豪雨。

 

「この世界が! 私達が幸せに生きていく世界なのだから! 諦めたりするものか!」

 

 見慣れた友の満開を横目に見て勇気を貰い、三ノ輪銀はヤプール/Uキラーザウルスという今この地上で最も高い個体戦闘力を持つ怪獣を、果敢に斬りつける。

 

「帰るんだ!」

 

 竜児は、銀に美しいと言った。

 弟を、家族を愛する姿が美しいと言った。

 戦いの中、傷付きながらも前に進もうとする姿が美しいと言った。

 竜児の中では、銀は日常の中でも戦いの中でも美しい人だった。

 可愛いとは言われることもある銀だが、美しいと直球で言ってくるのはこの地上で竜児だけなので、その辺の関係は複雑である。

 

 銀は今も、美しかった。

 傷だらけで、流れる血と服装の赤色に包まれながらも、美しかった。

 

「守るんだ!」

 

 星を砕くウルトラマンを、複数人まとめて砕くために作られたUキラーザウルスを、更に強化した真のUキラーザウルス。

 その強さはヤプールの怨念により、欲望具現化の過程でどんどん強くなっていく。

 その猛攻の中を銀が進んで行けたのは、ひとえに致命傷を避ける動体視力と、生来の絶妙な戦闘勘と、前に進める勇気があったからに他ならない。

 双斧が、硬い究極超獣の皮膚を連続で切りつけていく。

 

「諦めるかあああああああああああっっっ!!!」

 

 銀の叫びは、親友の園子の心も奮い立たせた。

 

 108体のフェニックスブレイブと、オールエンドに囲まれてなお、園子は微笑んでいる。

 

「私達はね~」

 

 舞う剣閃。

 途方もない数のメビュームツインソードが振り回され、刃の生えた船を展開する園子の満開が、その斬撃の全てをいなし受け流していく。

 刃の一つを伸長させオールエンド本体を狙ったが、それは流石にかわされた。

 

「どんな時も、どんな敵でも、どんなに絶望的な状況でも」

 

 めまぐるしい数の攻防。

 園子は108の敵の攻撃を切り捌きながらも止まらない。

 前へ、前へ。

 止まることなく進み続ける。

 

 まだ、熊谷竜児が復活した未来を掴み取れていないから。

 あの楽しかった日常を取り戻せていないから。

 この敵の向こうに、この絶望の向こう側に、信じた未来があると信じて進む。

 

「……希望のある幸せな終わりを、諦めないんだよ!」

 

 園子の刃がカオスウルトラマンを切り裂き、夏凜の刃がプリズマーバルンガを切り裂く。

 

 夏凜の満開マシンアーム四本が、暗い世界の中でも無双の乱舞を見せていた。

 

「諦めるもんですか!」

 

 切る。ただひたすらに切る。

 プリズマーバルンガも、ギラルーグも、人を守りながらで仕留められる敵ではない。

 好き勝手させないよう抑え込むので精一杯だ。

 されどそんな状況で、夏凜は全力で戦うのみならず、メビウスブレスからのエネルギー放射を継続していた。

 

「諦めたい奴は諦めればいい、でも私は諦めない!」

 

 皇帝の闇の影響で、もはや『ガイア』は成立しない。

 『ガイア』を成立させるには皇帝を先に倒すしかなく、『ガイア』はそもそも勝機の全く見えない皇帝に少しでも食い下がるための作戦だ。

 こんな入れ子構造もどきになってしまっては、夏凜のエネルギー放射も無駄にしかならない。

 それでも夏凜は諦めず、エネルギーの放射を継続する。

 

「だから何度でも……何度でも! 挑むし、試すし、立ち向かうのよ!」

 

 竜児のことも、メビウスのことも、夏凜は諦めていなかった。

 

 ありえないくらいに粘り強く、彼女らは食い下がる。

 粘る勇者達の胸には、いつの間にか現れていた竜児の銀細工のペンダントが輝いていた。

 銀細工のペンダントが、勇者達の輝きを反射して輝いている。

 その銀の輝きが、何故か徐々に黄金の輝きに染まり始めていた。

 

 

 

 

 

 結城友奈は、勇者の中で最も高い勇者適正値を持つ。きっと特別な勇者だ。

 

 だが、それは。

 

 友奈以外の勇者が特別でないということを意味しない。

 

 

 

 

 

 竜児は勇者達に銀細工のペンダントをお守りとして渡していたが、彼が勇者達にお守りを渡したのはこれが初めてではない。

 初めて渡したお守りは、今はウルティメイトブレスへの変化を果たしている。

 そのお守りに、竜児はお揃いの花の形の刺繍を施した。

 

 お守りに縫われた花の刺繍は『マリーゴールド』。

 花言葉は、

 『絶望』。

 『悲しみ』。

 『別れ』。

 『信じる心』。

 『信頼』。

 『友情』。

 『健康』。

 『悪を挫く』。

 『命の輝き』。

 『変わらぬ愛』。

 『どうか生きて』。

 

 そして、『勇者』。マリーゴールドは、勇者の花なのだ。

 黄金(ゴールド)の花を、竜児は最初の勇者のお守りにあしらった。

 皆の銀細工のお守りが、少しずつ黄金に染まっていく。

 

「ぐっ」

 

 ヤプールに吹っ飛ばされた銀の背中が、ゴールドタワーにぶつかる。

 銀は自分がぶつかった塔を見上げ、竜児から聞いた話を思い出した。

 大赦内でのゴールドタワーの異名は『千景殿』。

 竜児はここで、師と出会ったのだと言っていた。

 西暦の偉大な勇者の知られざる一人が、師になってくれたと言っていた。

 そして師の助けを借り、修行を受け、強くなれたのだと。

 

 銀はゴールドタワーに背を預け、立ち上がり、また駆け出していく。

 

「先輩勇者様。まだ見守ってくれてるなら……ちょっと、力貸してくれ!」

 

 銀が叫んで、ゴールドタワーを背にして走る。

 究極超獣の強靭な触手と、銀の双斧が幾度となく衝突した。

 皆の銀細工のお守りが、少しずつ黄金に染まっていく。

 

 ウルトラマンの銀色のようだった銀細工の色合いが、染まっていく。

 徐々に、黄金に染まっていく。

 銀色が、黄金に変わっていく。

 ウルトラマンメビウスの銀色が、グリッターメビウスの金色に変わっていった時のように。

 

 結界外の友奈の銀細工も、もうその多くが黄金色に輝いていた。

 桁外れに強化されたエンペラ星人の猛攻を、またしても友奈は兆分の一を引き当て続けるという奇跡を続け、何度も何度もズラして防いでいる。

 疲労困憊で今にも死にそうな友奈とは対照的に、余裕たっぷりのエンペラ星人は、何かを納得した様子であった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

「そうか。それで貴様は、ただの満開一つで、余の技を僅かなれど弾けていたのか」

 

 銀が、金に変わっていく。

 

 そして、銀細工のペンダントである『証』が―――黄金の色に染まりきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ雪降るクリスマスイヴの景色が四国に残されていた頃。

 このペンダントを、竜児が皆に渡した時。

 竜児は、この銀細工のペンダントが『証』であることを皆に教えていた。

 

「僕はまだ死んでない。

 つまり、僕はまだ負けてないし、何も終わってないってこと。

 大切なのは、諦めないことだ。

 皆も諦めないでほしい。僕が諦めてなくても、皆が諦めてたら台無しなんだから」

 

 皆が頷く。竜児に渡されたペンダントを、皆が手の上に乗せ見つめる。

 

「このペンダントは、証だ」

 

 竜児はこのペンダントが『何』であるかを語る。

 

「必ずいい終わりにしようという誓い。

 ハッピーエンドになってほしいという願い。

 僕はこの銀細工に祈りを込めた。これはGE(グッドエンド)ED(エンディング)の証」

 

「……あ」

 

 特別な機能はない。

 だが、このペンダントに込められた祈りが、願いが、皆の心を震わせた。

 

 

 

「―――GEEDの証」

 

「うん。GEEDの証だ」

 

 

 

 このペンダントが『何』であるかが、皆の心の誓いとなる。

 

「最後まで諦めないことを、この証に皆で約束しよう」

 

 バッドエンドはもう要らない。

 

 皆で生きて、皆で笑えるハッピーエンドへ。

 

 そんな誓い。

 

「それで、この証なのね」

 

「良いんじゃないかな。私は好きだよ!」

 

 証が皆の心を繋ぐ。

 証が皆に同じ未来を見据えさせる。

 皆で未来に行こうという約束は、皆で未来に行く証となった。

 

「この証に誓おう。勝利だけじゃなく、僕らの幸せな未来を」

 

 竜児が呼びかけ、声をかけ。

 

「必ず、生きて帰って来よう! この場所に、この日常に、この世界に!」

 

 その時、皆が誓ったのだ。その『未来』を。

 

 

 

 

 

 結城友奈は勇者である。

 結城友奈は特別である。

 だが彼女らも、それとは方向性は違うだけのオンリーワン。

 神様に選ばれるだけの何かを心に秘めた、輝ける花の勇者達だ。

 

 東郷美森は勇者である。

 犬吠埼風は勇者である。

 犬吠埼樹は勇者である。

 三好夏凜は勇者である。

 乃木園子は勇者である。

 三ノ輪銀は勇者である。

 

 戦うと決めたその日から、誰もが勇者。誰もが特別。

 誰もが、世界を救うヒーローだ。

 その心が、諦めを踏破する限り。

 

「なんだ……なんだ、この光は!」

 

 ヤプールが叫ぶ。

 ヤプールは訳が分からなかった。

 眼の前の光景が理解できなかった。

 人間の可能性が、そこまでの奇跡を起こすことができるだなんて、信じられなかった。

 ゆえに、目を疑う。

 

「なんなのだ、その姿は! ありえん! どういうことだ!?」

 

 ヤプールの前には三ノ輪銀。

 各怪獣の前には勇者。

 エンペラ星人の前にも勇者。

 それら全ての勇者が、黄金の光に包まれ、"今の友奈のそれに似た姿"をしていた。

 

「貴様らがただの人間なはずがない! 人間にこんなことができるはずがない!」

 

 神樹も、メビウスも、竜児も砕け散り、消滅させられた。

 勇者達は誰の力でもない、己の力のみでそれらの力の残滓を回収し、自らの内に取り込んだ。

 神樹の力を。

 巨人の力を。

 そして、竜児の光と同化していた、この地球に生きる人々の想いの光の力を。

 それは燃え尽きた小さな炭を沢山集め、もう一度着火し、新たな光を生み出す炎にするかのような奇跡であった。

 

 GEEDの証。

 それはただの銀細工のペンダントであり、何の力もないお守りに過ぎない。

 諦めるなと、皆に想いと誓いを伝えるものでしかない。

 発されている力は全て勇者の力だ。

 誰の力でもなく、己の力で彼女らは『変わった』。

 

 友奈が竜児の光を拾い、エンペラ星人と拮抗し、その後に死した神樹のほとんど全ての力と同化した大満開を果たしたのとは逆。

 結界内に残っていた少しの神樹の力を拾い、竜児の多くの光を取り込み、それで至った各勇者の心を成す大満開。

 

 先に大満開した友奈も含めれば、()()()()()()()()()()()

 

 七人同時の、黄金の大満開だった。

 

「貴様らは……一体なんなのだ!?」

 

「勇者、東郷美森」

 

 銃を構えた。

 

「勇者、犬吠埼樹」

 

 糸を構えた。

 

「勇者、犬吠埼風」

 

 大剣を構えた。

 

「勇者、三好夏凜」

 

 刀を構えた。

 

「勇者、乃木園子」

 

 槍を構えた。

 

「勇者、三ノ輪銀」

 

 斧を構えた。

 

 聖女の黄金の花(マリーゴールド)の名の如く、黄金に輝ける花の勇者達。

 その光が、アトロシアスの出現により光を失いつつあった香川に、大きな光をもたらす。

 人は、人を照らせるのだ。

 人は誰でも、自分自身の力で光になれるのだから。

 

「この世界は滅びたりしない。お前達に壊させたりしない。友達を、奪わせたりしない!」

 

 勇者が、叫ぶ。

 

「この心が、折れない限り!」

 

 十二体のバーテックスという闇を、勇者の光が貫いていた。

 

 

 

 

 

 闇の中でも、人々はギリギリで踏み留まり、暴挙暴動に走らなかった。

 それは、二年前から何度も、彼らの心に光が差し込まれたからだろう。

 彼らの中には醜さもあり、闇もあったが、暗黒の皇帝がもたらした闇の中でも、彼らはその闇を開放しないよう必死に堪えていた。

 それは、彼らの頑張りである。

 

 闇の中、誰が戦っているのかも視認できないまま、皆が光を見上げる。

 諦めない心の光。

 幸せを求め、希望を捨てず、未来を夢見る心の光。

 子供達の想いは、この世に二つとない美しさで輝いていた。

 

「この世界は、滅びたりしない。絶対に」

 

 力なき人々の誰かが、声を上げる。

 

「だって……こんなに弱っちい俺達でも、まだ諦めてないんだから」

 

 光を見た人々もまた、諦めていない。

 

「頑張って」

 

 祈り、応援する。

 

「頑張れ」

 

 空を見上げ、応援する。

 

「私達に……戦う力はないけれど」

 

 その光を、皆が応援した。

 

「想いだけでも、せめて共に―――」

 

 目には見えない形で吹き上がる、名も無き人々の心の光があった。

 

 

 

 

 

 そして安芸は、計測機器を見て目を見開く。

 

「エリア全域で光の反応が増大……これは、一体何?」

 

 人間に残された香川という僅かな大地の各所で、光の消失現象が緩やかになり、それどころか『ガイア』に使っていた各所のエネルギー反応が、増大を始めていた。

 安芸の横で、サコミズが眉間を揉んでいる。

 

「何故ウルトラマンが『諦めるな』、と言っているか知っているかい? 安芸先生」

 

「いえ、知りませんが」

 

「諦めない限り、心は同じ方向を向く。

 同じ想いが湧き上がる。

 同じ心の力が発せられる。

 同じ力が放射され続けている。

 人の心が諦めない限り、その心を力に変える者が居る限り……

 そこには無限の光が湧き上がっているも同義であるということだ」

 

「まさか、現在進行形で、各地で心の光が湧き上がっているということですか?

 ガイアの作戦過程の影響で、皆の新たな心の光がエネルギーとして加わっていると?」

 

「そうだ。……あと、ひと押しだな」

 

 満開の力のおかげで経路は繋がった。

 怪獣カプセルのエネルギーに、光が消え行く世界の中でも希望を捨てない人々の心の力が加わって、一度消えた光をもう一度巡らせられる可能性が出て来た。

 ただ、生半可な方法では無理だ。

 結界外部の絶大な闇の力が、結界内の光を一度途絶えさせてしまった。

 

 サコミズは考える。

 元ベリアル軍の研究開発者だった者として、頭脳を働かせる。

 そうして……一つの解決策を見出した。

 覚悟を決めて、深呼吸し、サコミズは隣にいる安芸に語りかける。

 

「私の戸籍や経歴は全て偽造されている。

 私の死後に痕跡を消すのはそれなりに容易だ。

 サコミズは別の学校に行った、とでもしておいてくれ」

 

「え?」

 

「私の死は、子供達に絶対に知られないようにしてほしい。大赦なら可能だろう」

 

 そこで、戦闘中も大赦と密に連絡を取っていたキングジョーが、通信機の一つを通して、サコミズと安芸に向かって叫んだ。

 

『止めなさい! その男を止めなさい!』

 

「キングジョーさん、止めろとは一体……」

 

『その男はここで死ぬつもりですわ!』

 

 キングジョーの言葉に、サコミズの周囲に居た大赦の者達が、一斉にサコミズを見る。

 見れば、いつの間にか、サコミズの手には最新型の大型バッテリーが握られていた。

 遠くで戦闘中のキングジョーでは、サコミズの暴挙は止められない。

 

「私はサイコキノ星人。超能力に秀でた宇宙人だ。

 この身に高圧電流を流しかつての力をほんの一部でも取り戻してみよう。

 一時的にでも力を取り戻せれば、この計画を成功させるだけの超能力を発揮できるかもだ」

 

「―――な」

 

『やめなさい! そんなことをしたら死にますわよ!

 あなた自身が言ったことでしょう!

 多くの力を失った今のあなたは、地球人とほとんど変わらない身体強度しかないのです!』

 

 ふぅ、とサコミズは深く息を吐く。

 何かを悔いているような顔で、自らを嘲るような顔だった。

 

「悲しいことにな。

 私は、熊谷に……あの子に『ありがとう』と言われたくないらしい。

 『あなたのお陰で助かりました』と、軽くでも言われたくないらしい」

 

「……あ」

 

「熊谷はこの作戦のことで、私に本気の感謝をするだろう。

 あいつはそういう子だ。

 不器用だが、自慢の教え子だよ。

 だが、私のような者があの子に本気の感謝をされるなどということは、許されない」

 

 加害者と被害者なんだ、と、サコミズは呟いた。

 サコミズは、熊谷竜児という腐肉の塊に、相応の扱いをしていた者達の一人である。

 罪悪感を理由に感謝から逃げようとするサコミズに、勇者を生贄に捧げてきた大赦の大人が、少なくない共感を示した。

 

「ここで私が命を捨てねば、先がない。

 ここで未来を繋げなければ意味がない。

 ちょうどいい機会だ。

 私はここで、罪の精算をしよう。精算できる罪は、ほんの一部でしかないだろうけども」

 

 サコミズは自分の体に高圧電流を流そうとして、自分の手が震えていることに気付いた。

 

 死が、怖かった。

 けれど"死が怖い"とサコミズが思うたびに、"そうだ。あの失敗作も皆、生きたかったんだ"とサコミズの心が声を上げる。

 "お前はそれをしてきたんだ"と罪悪感が言う。

 彼が選ぼうとする道は、最初から決まりきっていた。

 

「私が罪を精算しても……蘇る命は無いけれど。やってみせる」

 

 ベリアル軍を、罪悪感を理由に抜けた。

 地球人に拾われ、地球人の名前を貰い、経歴を偽造し、教師となった。

 中学校で子供達を教え、守り、導き、子供達に笑いかけられる時間が増えて。

 それからもう、何年が経っただろうか。

 その人生が、今、終わる。

 

「償わなければならない。

 私が……私が、生み出したんだ。

 私が、苦しみの中に放り込んでしまったんだ。

 せめて……せめて! あの頃に、失敗作でも、命として扱ってやれていれば……!

 

 教職が好きになるたびに、子供の笑顔を見る時間が増えた。

 

 子供の笑顔を見るたびに、死にたいと思う時間が増えた。

 

 自分の罪を見つめる時間が増えた。

 

「誰にも奪わせるものか、あの子達の未来の可能性を!

 子供達の……子供達の、未来を! 暗黒の皇帝などに奪わせてたまるか!」

 

 そしてサコミズは、自らの身体に高圧電流を流す。

 心因性の能力喪失が、強引な電気療法により滅茶苦茶にかき混ぜられ、強烈な電撃がかつてあった彼の中の力を存分に使えるようにしていく。

 

「ぐあああああっ!!」

 

 強力な電撃を受けながら、電撃を受けている間のみ復活している超能力を、世界に向ける。

 

「命の意味を奪い続けた。

 無意味に多くの命を死なせ続けた。

 理不尽に子供達の未来と命を奪い続けた。間違いだらけの、恥の多い人生だった!」

 

 後悔を語りながら、希望を繋ぐ。

 過去を悔いながら、未来を想う。

 讃州中学の子供達の笑顔を、暖かなその想い出を、思い返す。

 

「せめて最後は―――子供達の命に意味を、子供達の未来に希望を―――!」

 

 高圧電流が出来損ないになった体を刺激し、体から黒い煙を上げさせ、サイコキノ星人の超能力が闇に無茶苦茶にされた経路と力の流れを整えていく。

 

「サコミズさっ―――」

 

 安芸が声を上げ、暗黒の皇帝のせいで途絶えていたエネルギーの経路が繋がり、サコミズの命と体が燃え尽きる。

 宇宙人であった彼の体の残骸が、蒸発して消えていく。

 

 そうしてサコミズは、子供達の想い出の中にしか居ない、想い出の先生となった。

 

「―――っ」

 

 サコミズが語った後悔は、"子供を使い捨てにしてきた"というもの。

 子供を人柱にし、生贄にし、犠牲にしてきた大赦の大人が胸に抱えていたものと同じもの。

 ゆえに、その壮絶な死に様は、死をもって行われた償いは、それを見ていた多くの大赦の人間の心に、教訓と訓戒として突き刺さっていた。

 それは、教訓であり訓戒である楔。

 大赦の者達の心を近い未来に変えていく、心に刺さった楔だった。

 

 サコミズが操作していたコンソールを、安芸が引き継ぐ。

 

「私が引き継ぎます!」

 

 誰かが残した想いを引き継ぐ。

 誰かが残した願いを引き継ぐ。

 誰かが残した仕事を引き継ぐ。

 それが、人間の強さだ。

 安芸はサコミズが残したものを継ぎ、システムを再起動させる。

 

「ミッションネーム:ガイア……再起動!」

 

 それは、『先生』から『先生』へと渡された、"子供の未来"という名前のバトンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『国造り』が、始まった。

 

 メビウスブレスに始まり、六点結界の要領で各カプセルに増幅されたエネルギーが、サコミズの命をかけた介入で正しく流入し、メビウスカプセルに流れ込む。

 銀とコピーライトが、その一部属性を反転。

 得られた純粋なウルトラエネルギーを、大赦の大人達が各儀式・各システムにて制御し、国造りは実行された。

 

「バカな……地球丸ごと全ての理が、書き換えられていく!?」

 

 ヤプールが驚愕する。

 ヤプールだけでなく、大赦の者達も驚愕する。

 せいぜい日本列島が取り戻されるぐらいだろう、というのが、事前の予測だった。

 

 だが四百万人分の怪獣の因子、そこに予想外に加わった四百万人の現在進行系の想い、そして何より覚醒した大満開勇者達の光。

 それが光を過剰にブーストして、地球全ての理を書き換えてしまっていた。

 これが、人間の力。

 人間自身にすら予想できないほどに大きな、人間の心に秘められた力であった。

 

「大地を……取り戻した! 勇者様達に通達! 遠慮なく、思いっきりやれと!」

 

 灼熱の世界が終わる。

 地球本来の大地、海、空が戻って来る。

 世界の隅々にまで膨大な光が行き渡り、世界が光り輝いているかのようだった。

 闇に飲まれた宇宙の中で、地球だけが光り輝いていた。

 

「勇者部! ファイトッー!」

 

 風が、香川の隅々にまで届きそうな大声を上げる。

 それが、決着の一幕の開始を告げる鬨の声となった。

 

「おしおきっ!」

 

 大満開した樹の糸は、怪獣では切れない強度で、切れない怪獣がいない切れ味という理不尽。

 地の文への干渉能力を持たないマデウスオロチでは抵抗すら不可能で、ブラキウム・ザ・ワンとマデウスオロチは、一瞬で細切れにされていた。

 黄金の大満開に備わるは、黄金に輝く光の巨人と同格の力。

 

「一刀、二刀、三刀、四刀、五刀、六刀!」

 

 夏凜が両腕とマシンアームの合計六刀流にて、プリズマーバルンガと分裂状態のギラルーグを切り刻む。

 そして『七刀目』が、二匹をまとめて切り裂き消滅させた。

 二本の腕、四本のマシンアーム、それらが持つ六刀に続く……左手の、メビウスブレスより生える光の七刀目。

 

「私達の、七刀目―――思い知ったか!」

 

 爆発する怪獣達の爆焔を突き抜けて、東郷の光の砲火が飛んだ。

 

「撃滅!」

 

 大津波をストローに流し込むような制御力と圧縮力を持って、極限まで収束したビームでバイオカンデアとリバースメビウスを焼き尽くした。

 その火力が生み出した砲火の光は、一人で夕焼けの景色を作っている、という感想が出てきそうなほどのもの。

 燃え尽きる怪獣達を包む炎が、まるで夕陽のようだった。

 

「駆逐完了」

 

 東郷が生み出した夕陽を飛び越えるようにして、空高くで風が手を上げる。

 

「ぶっ潰れろおおおおおおおっ!!」

 

 そしてその手が下がった瞬間、無数の大剣が空より落ちた。

 4万3986体に分裂していたドビシゴルゴンと、市民を殺そうとしていたシルバーランスを、同時に無数の大剣が貫いていく。

 巨大な大剣が数を揃えるという、破壊力の圧倒的説得力がそこにあった。

 

 怪獣を突き刺したその大剣を銀が拾い、猛烈な勢いで連続で投げつけ、Uキラーザウルスの巨体を解体していく。

 

「ヤプールは不滅! 何度でも貴様らへの怨念で、蘇るのだ!」

 

「じゃあ何度でも、その時代の人間とウルトラマンがぶっ倒すだろうさ!」

 

 解体しきったUキラーザウルスの頭部、ヤプールの頭を、銀が振り下ろした双斧が潰した。

 

 そんな勇姿を、オールエンドの首に槍を刺した園子が見つめていた。

 

「派手だなあ、ミノさんは~」

 

 無数のカオスウルトラマンの屍の先で、ウルトラマンノアの精霊を込めた槍で、園子はオールエンドの首に深く槍を突き刺している。

 

「あの日、不死鳥の勇者が瞼の裏に焼き付いたのは私も同じだからね~」

 

 フェニックスブレイブのカオスウルトラマンは、間違いなく強化されたカオスウルトラマンであった。

 だが、園子相手ならそうでない方が良かっただろう。

 このカオスウルトラマンは、あの日の竜児の動きを模倣してしまっていたから。

 

「二年、ずっと見えない瞼の裏に、あの日の光が見えてて、辛い時は励ましてくれた」

 

 園子の目が見た最後の光景が、不死鳥の勇者の光と、不死鳥の勇者と共に戦った記憶であるがために。その記憶は、見えない目の中で何度も鮮明に繰り返されてきた。

 この二年、園子はボーッとするたびに、あの日の不死鳥の勇者の勇姿を見えない目の中で見つめてきたのだ。

 今のフェニックスブレイブならまだしも、二年前の戦いのフェニックスブレイブそのものなら、その動きはことごとくを園子に読まれてしまう。

 

「それをコピーした動きを、私が読めないと思う~?」

 

 大満開で力の差が埋まっている今の乃木園子にとって、フェニックスブレイブは殺しやすく共闘しやすい……そういう、存在であったのだ。

 カオスウルトラマンをあっという間に片付けて、オールエンドが最終形態になる前に、その首を狩るという合理の塊のような作戦は、園子の要領の良さもあってものの見事に成功した。

 かくして、戦いに決着がつく。

 

「さようなら、私の悪夢さん」

 

 槍先が、オールエンドにトドメを刺した。

 

 十体の怪獣が仕留められ、御霊が無いことも確認される。

 そして六人の勇者は、残ったギガントガラオンとダイダラクロノームも六人で囲んだ。

 あと一分遅れていたら、ギガントガラオンかダイダラクロノームが人の世界を壊滅させていた、そんなタイミングでの介入。

 

 瓦礫に埋まりかけていて、ボロボロになっていたキングジョーが見上げる先で、大満開の勇者達が、ギガントガラオンとダイダラクロノームをバラバラにしていた。

 そんなキングジョーを、息子達や芽吹達が掘り出している。

 

「見なさい、息子達。あれがわたくしが普段から言っているものですわ」

 

「ママ、大丈夫?」

「すっげ、勇者すっげ」

「綺麗だなぁ……光……」

 

 弄ばれていた死者達が、今度こそ怪獣墓場に向かっていく。

 死したる者を死に還し、生あるものをそれから守る。

 光り輝く勇者達は、そんな条理を体現していた。

 

「誰かを慈しむ気持ち。

 誰かを大切にする気持ち。

 誰かを抱きしめる気持ち。

 誰かの幸せを願う気持ち。

 そんな数々の気持ちの先に必ずある、この宇宙で唯一永遠のもの。

 悪が心を痛めつけようと、闇に心が覆われようと、死に至ろうと、決して消えない気持ち」

 

 その光が、キングジョーには愛に見える。

 金に輝く銀細工のペンダントが、愛に見える。

 竜児から皆への愛、皆から竜児への愛。

 愛が輝いているように見えた。

 このおばさんが色眼鏡を掛けて(カメラアイに異常は無い)物事を見ているのは周知の事実であるが、この場面に限っては、その指摘は半分くらいは当たっている。

 

 ここに"愛が無い"などと、言える者がいようはずもない。

 

「―――(LOVE)、ですわ!」

 

 これもまた、愛。キングジョーにとってはそうだった。

 

 十二体のバーテックスを倒し、勇者達は取り戻された地球の大地に降り立つ。

 青空の光で、大地の雪がキラキラと輝いていた。

 園子が槍を構え、勇者達が頷き、園子が雪解けで泥となった大地へ槍(矛)を突き刺す。

 

「『国産み』っ!」

 

 『ガイア』はとうとう、作戦の最終段階に到達しようとしていた。

 だが、そこで。

 四国を守っていた脆い結界が破砕され、闇と光が突っ込んで来る。

 

「!」

 

 闇はエンペラ星人。

 闇の塊となって突っ込んで、結界の破片と友奈ごと香川に足を踏み入れて来たのだ。

 光は友奈。

 エンペラ星人を止めようとしたが、全く止められずここまで押し切られてしまった様子。

 風は『国産み』での竜児・メビウス・神樹の復活を園子が始めたこの瞬間に、エンペラ星人が来てしまったという"最悪"を、よく理解していた。

 園子以外の、全員に声をかける。

 

「勇者総員、園子を守れぇッー!!」

 

 園子を除いた六人の大満開勇者が、六方向からエンペラ星人に同時攻撃を仕掛けた。

 黄金に輝く、六人の勇者の同時攻撃。

 

「ぬるい」

 

 それを、皇帝は念動力一つで対処した。

 

「あぐっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 念動力で砕かれる大満開の武器。

 走っていた者も飛んでいた者も等しく念動力で地面に叩きつけられ、持ち上げられ、また強烈に地面に叩きつけられる。

 六方向の勇者全てに対し、エンペラ星人は緻密な念動力操作をもって、正確無比で強力無比な念動力攻撃を仕掛けていた。

 

「ぐあっ!」

 

 大満開勇者は、グリッター化+カプセル使用+ウルトラマンとの融合という多くの光を集めた竜児の力と、神樹の力を宿している。

 その力は劣化し弱体化した融合昇華体程度なら、何体も一人で対処できるほどのもの。

 それが、まるで敵う気配がない。

 人間に弄られる蟻のように、アトロシアスのエンペラに遊ばれてしまっている。

 エンペラダークネス アトロシアスを"走らせる"ことですら、どれだけ次元違いに強い存在を連れて来ればいいのか、まるで想像がつかないレベルであった。

 

 エンペラ星人のこの強さは、融合昇華バーテックス十二体の全てを合わせた強さでも、おそらく足元にすら及ばない。

 

「……ファイトっ……ファイトッー!」

 

 風はそれでも声を上げる。

 気合と根性で念動力に抵抗し、勇者達が攻撃を仕掛けた。

 樹の糸、風の飛剣、夏凜の投刀、東郷の射撃、銀の投斧、そして友奈の拳の衝撃波。

 その全てがエンペラ星人に命中し―――なお、無傷。

 

「それで余に傷一つでも付けられると思ったか」

 

「防御力どうなってんのよ、本当に!」

 

 アトロシアス化の影響を受けたアーマードダークネスは、エンペラに一切の傷を付けさせることもない。

 この鎧を突破しなければ、まず攻防が成立しない。

 鎧を突破した後にようやく、アトロシアスの戦いの本番であるというのに。

 

「消えよ……この星に満ちる、全ての光よ!」

 

 暗黒の皇帝の闇が、地球全土の理を元の形に書き換えた光を食らっていく。

 闇が広がり、地球の光が失われていく。

 国産みは、竜児達の復活は、まだ完了していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンペラ星人に握り潰され、地面に叩きつけられ、赤い肉の花となった竜児。

 その魂は、どこかを漂っていた。

 天国のような、地獄のような、あの世のような、この世のような。

 ともかく、どこかを漂っていた。

 

(僕は……死んだのか……?)

 

 光のようで、闇のようで。

 彼岸のようで、此岸のようで。

 過去のようで、未来のような。

 そんなよく分からない空間の中で、竜児は自分とほぼ同時に死んだ、神樹の記憶を見た。

 西暦のバーテックスに殺された人々を見て、神樹の神々が嘆いている。

 

『我らは神』

 

『我らは人が望み、祈った事柄を叶える者』

 

『我らは望まれた。助けてほしい、救ってほしいと望まれた』

 

『だが守れなかった。祈った者達は死に行き終わった』

 

『助けてと祈られ、我らがそれを助けられなかったということは』

 

『我らが殺したも同然だ。我らが殺したということだ』

 

『子らを、我らが殺したのだ』

 

 神らしい、人間らしくない後悔だと、竜児は思った。

 とても悲しい後悔だった。

 

 人間は、信じた神様に助けてと願い、神様が助けてくれなかった結果として地獄の責め苦にあった時、神を恨むように出来ているという。

 "何故助けてくれなかった"と天に向けて叫び、神を罵る者もいるという。

 だが、もし。

 その空に、本当に神様が居たとしたら、どう思うのだろう。

 神に助けてと祈り、何故助けてくれなかったと叫ぶ西暦の人間を見てきた神様は、どんな気持ちだったのだろう。

 

『我らは』

 

『我らは人に、何ができるのだろう』

 

『我らにできることで、人をどう救えばいいのだろう』

 

 彼らは全知でも全能でもない。人間の心さえも正確には分かっていない。

 けれど、間違いなく神様ではあったから。

 何の得もなくても、彼らには人間を救う義務があった。

 その義務は、誰に課されたものでもなく、神が自分自身に課した義務だった。

 

「……?」

 

 その内、何もかもが曖昧な世界の中で、神樹が竜児の存在に気付き、竜児に一つの映像を見せ始めた。

 彼らは曲がりなりにも神。

 その知覚は尋常な生物の常識では測れないものがある。

 神樹が見せた映像は、かつてウルトラマンベリアルが、エンペラ星人に憧れてしまった瞬間の映像だった。

 

 全てを蹂躙するエンペラ星人の圧倒的な力。

 光や善性などというものがちっぽけに見えてしまう力。

 ベリアルはその力に魅せられ、闇の世界と力に惹かれ、やがて道を踏み外し……悪のウルトラマンとして、力を求めるようになる。

 そのための道具として、竜児は作られた。

 ベリアルが強者となるためだけに、竜児という使い捨ての道具は作られたのだ。

 

 熊谷竜児という存在が生み出された遠因、全ての根源が、今地球に降り立っている。

 

『ここが全ての始まりだ。暗黒の皇帝が全ての始まりだ』

 

「神樹様……?」

 

『お前が終わらせるべき因縁ではない。

 だが、お前が終わらせることができる因縁だ。

 四万年前に始まったそれを、お前は終わらせることができる』

 

 本来、エンペラ星人の強さに焦がれたウルトラマンベリアルの模造品、その失敗作の失敗作などというものが、エンペラ星人に敵うはずもない。

 だが、今の彼には。

 神樹という神様と、メビウスというウルトラマンと、心強い花の勇者達がついている。

 

「分かりました。やってみます」

 

 ここで全て終わらせるくらいの気概で行かなければ、きっと何も終わらせられない。

 戦いも。

 因縁も。

 運命も。

 

「これもまた僕の生まれに関わる運命だというのなら、越えてみせます。神樹様」

 

 神様というものは、古今東西試練を与える。

 その試練を越えたなら、人間が幸せになれるという、分かりやすい試練を。

 人類に課せられた十二の試練を越え、竜児は今、自分が越えるべき最大最強の試練とぶつかる覚悟を決めていた。

 

「リュウジ」

 

「! メビウス!」

 

「今、皆が頑張ってる。僕達はもう少しで、あちら側に戻れるかもしれない」

 

「えっ……本当!?」

 

 『ガイア』は完遂間近の状態にあった。

 彼らは後少しで生者の世界に戻れるだろう。

 だがメビウスは、竜児の前で俯いた。

 

「だが、どう勝てばいいのかまるで分からない。

 エンペラ星人は更なる強化を経てしまった。

 ライザーを使う前ですら、どう倒したらいいか見当もつかないというのに……」

 

「メビウス……」

 

「君を、君達を、悲しみのない未来に連れて行きたい。

 だけど僕には力が足りない。こんなにも無力感を覚えたのは、何千年ぶりだろうか……」

 

 メビウスは、大人のウルトラマンだったから。

 エンペラ星人を恐れる心と、エンペラ星人すら恐れぬ勇気と、子供達と助け合う心強さと、子供達を一人で守りきれない無力感と。

 多くの気持ちの中で、揺れているのだろう。

 竜児をまたあんな悲惨な死に方で死なせてしまったのだ。

 罪悪感が、とめどなく溢れている。

 

 エンペラ星人から竜児を守れる、と言い切れない。

 それがメビウスを苦しめている。

 されど竜児は、それが無用な苦しみであることを知っていた。

 

「僕の知ってるメビウスは、最高のウルトラマンだよ。

 世界最高、宇宙最高のウルトラマンだ。

 どんなウルトラマンよりも素敵で、その強さを信じられるウルトラマン。僕の中の一番だ」

 

 メビウスと向き合い、ありったけの気持ちをぶつける竜児。

 

「どんな神様より、ウルトラマンより、メビウスのことを信じてる」

 

「リュウジ……」

 

「そんなウルトラマンと一緒に行くんだ。恐怖があっても、手が震えても、怖くなんかない」

 

 熊谷竜児は、ウルトラマンメビウスを、エンペラ星人よりもずっと強い者として見ている。

 赤き巨人の心を見て、そう認識している。

 彼はエンペラ星人では足元にも及ばないほど、メビウスを強い者であると信じている。

 それはメビウスが多くの星で見てきた、"ウルトラマンを信じる子供の目"に近かった。

 

「メビウスが言ってくれたんだよ?

 僕は何になってもいいって。

 未来があるってことは、どんな自分になってもいいってことなんだって。

 こういう良いことを言える能は、あの皇帝には絶対ない。だからメビウスの方が凄いんだ」

 

 巨人を見上げて、子供が言う。

 

「偉そうなことしか言わない奴より、優しい言葉で皆を励ませる人の方が強いに決まってる」

 

 それは"心の強さ"を語る論ではあったが、紛れもなく、メビウスがエンペラ星人よりも強い、と断言するものだった。

 

「リュウジ、僕らはウルトラマンだ」

 

「うん」

 

「僕と君が、ウルトラマンだ」

 

「うん」

 

「あの星を、あの人々を、君はどうしたい?」

 

 問いかける巨人。

 返答など決まりきっている。

 

「守りたい」

 

 言い切る少年。

 返答など決まりきっている。

 

「分かった」

 

 メビウスと竜児の存在が『国産み』に引っ張られ、二人はまた一つとなった。

 

「「 見せてやる、僕らの勇気を! 」」

 

 二人の光が、空に落ちる。神樹と共に、世界に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空の光を見上げて、誰かがその名を呼んだ。

 

「ウルトラマン」

 

 その光を見て、子供がその名を呼んだ。

 

「ウルトラマンっ」

 

 皇帝の闇を押し返す光を見て、大人がその名を呼んだ。

 

「ウルトラマン!」

 

 国造りを終えた大赦が、その名を呼んだ。

 

「ウルトラマンッ!」

 

 待ちに待った友を見て、勇者がその名を呼んだ。

 

 かくして、巨人は蘇る。

 神話のように、神樹と共に蘇る。

 蘇った神樹の前に、巨大な光の柱が立った。

 

「『 メビウーーース!! 』」

 

 光の柱の内側より、その巨人は歩み出す。

 黄金の勇者達と同じように、黄金の光を纏い、ウルトラマンメビウスは現れた。

 人々や大赦の人間が、まぜこぜになって声を上げる。

 

「来た」

 

「帰って来てくれた」

 

「ウルトラマンが、帰って来た!」

 

「ウルトラマン……」

 

「メビウス!」

 

「俺達の……ウルトラマンだ!」

 

 強化形態を使わずとも、グリッターメビウスの体からほとばしる黄金の光は凄まじい。

 

「受け取れリュージ! メビウス!」

 

 夏凜がぶん投げたメビウスブレスが正確にメビウスの手に嵌まり、巨大化し、それを擦ったメビウスの両手の間に∞の字の形の光が奔る。

 

「『 グリッターメビュームシュート! 』」

 

 そして、巨人は強烈な光線を発射した。

 

「惰弱」

 

 エンペラはそれを避けもせず、胸で受け、堂々と前に進む。

 竜児はこの攻撃にこだわらず、皇帝が右手を振ろうとしたその直前に、跳躍して衝撃波を飛び越え回避した。

 そのままの勢いで皇帝も飛び越える。

 

「リュウくん!」

 

 空中で友奈からウルティメイトブレスを受け取り、装着、メビウスブレイブへ。

 皇帝のはるか後方に着地すると同時に、虹の剣を巨大化させて薙ぎ払った。

 

「『 グリッターブレードオーバーロード! 』」

 

 横一文字に振るわれた虹の剣。

 皇帝は振り返ると同時に拳を握り、虹の剣の側面を叩く。

 皇帝の拳一発で、虹の剣は粉砕されてしまった。

 

「児戯」

 

 止まらない。まだ、止まらない。

 竜児は前に踏み込んで、無茶をして体の中の"カプセルの残滓"をかき集め、急場しのぎで擬似的な強化変身を遂げる。

 フェニックスブレイブ。

 不死鳥の勇者は、黄金の炎の鳥となって飛び込んだ。

 

「『 グリッターメビュームフェニックスッ! 』」

 

 皇帝は炎の鳥を真正面から受け止め、受け止めた後に左手で炎の鳥と化したメビウスを掴み、その首を握り締め、地面に叩きつけた。

 そして念動力で叩きつけたメビウスを掴み、高くまで持ち上げ、再度地面に叩きつける。

 

『ぐあああっ!』

 

「くだらぬ」

 

 皇帝が念動力で掴んだまま、衝撃波を何度もメビウスに浴びせようとして―――その攻撃を、皇帝に仕掛けられた勇者達の攻撃が中断させた。

 全力全開の大満開勇者七人の攻撃が、皇帝の胸に直撃し、その巨体を僅かに後ろに下がらせる。

 

「ぬ」

 

 ダメージはほぼなかったが、メビウスの救出には成功していた。

 倒れた巨人の耳元で、友奈が元気に声を上げる。

 

「ちゃんと、皆ここに居るから! 一人で頑張らないで!」

 

 皆が居る。

 それだけで、力強く立ち上がれる。

 ウルトラマンとは、そういうものだった。

 

『みんな……』

 

 巨人は立ち上がるものの、急場しのぎのフェニックスブレイブが解除されてしまう。

 ほんの数秒しか保たない上に明確に弱い、本当に仮初のフェニックスブレイブだった。

 

『やっぱりカプセルの残滓を体からかき集めても、カプセルがないと無理か。

 グリッターフェニックスブレイブ状態で殺られたから、もう少しいけるかと思ったのに』

 

『グリッターメビウスブレイブで戦うしかない。そうだろう、リュウジ』

 

『それじゃ前回の焼き直しさえできないかもしれない。もうちょっと、何か……』

 

 メビウスブレイブとなって、左手の虹剣を構える竜児。

 

 そんな竜児の頭上を通って、勇者達の手の中に、飛んで来た小さな何かが収まった。

 

「あれ?」

 

 友奈、東郷、風、樹、夏凜、園子の手の中に収まったのは、人々の光と怪獣の因子が詰まっている怪獣カプセル。

 

「皆の怪獣の因子が詰まった、カプセル……?」

 

 銀の横に現れた精霊コピーライトが、竜児に指示を出した。

 

「時間を稼げ、愚弟」

 

『! ……分かった、兄さん』

 

 ウルトラマンメビウスが、時間稼ぎがために前に出る。

 皇帝の知性を考えれば、巨人が時間稼ぎをして人間が悪巧みをしていることなど、すぐにバレてしまうだろう。

 時間はない。

 コピーライトは急いで勇者を集めた。

 

「集まれ、勇者共」

 

「え゛、コピーライトあんた精霊状態で喋れたの!?」

 

「黙れ三好夏凜。このカプセルで、状況を打開する何かでも作ってみるぞ」

 

「え……そんなことできるの!?」

 

「知らん」

 

「知らん!?」

 

「お膳立てはしてやる。

 大満開とかいう意味の分からん奇跡を起こしたお前らだ。

 今あるものを活用して、それより小さな奇跡くらいは起こしてみせろ」

 

 コピーライトは一見奇跡に丸投げしているようにも見える。

 だが、そうではない。

 アホに見えるが何か考えているというこの思考タイプは、竜児とどこか通じるものがある。

 

 コピーライトは、最初はアルギュロスとミーモスの怪獣カプセルを使っていた。

 メビウス本人を取り込み、彼はメビウスの光を活用してそれをメビウスカプセルとヒカリカプセルに変化させた。

 そしてそれを、竜児が後に自らの光で、完全にウルトラマンのカプセルに変えた。

 要は"カプセルの中身をどう完成させるか"ということである。

 

「オレにできるのは『反転』だけだ。

 怪獣カプセルをそうでないものにするのが関の山。

 この六つで一つカプセルを作るとして……お前達全員の心を、一つにする必要がある」

 

「コピーライト、アタシの持ってたメビウスカプセルも使えない?」

 

「ん? それなら……カプセル七つか。イケそうだな」

 

 手元にあるのは、メビウスカプセル一つ、無地の怪獣カプセル六つ。

 

「作れるの、この急場で新しいカプセルなんて?」

 

「はっはっは、面白いことを言うな。犬吠埼風」

 

「?」

 

「作るのに成功するか、全員死ぬか、二つに一つだ。もうとっくにそういう状況だぞ」

 

「……ええぇ」

 

「作れないなら潔くくたばれ。死にたくないなら奇跡でも掴んでみせろ」

 

 ぶっきらぼうな激励だった。

 銀がメビウスカプセルを握り、精霊を構え、六人の勇者がカプセルを握ってその前に立つ。

 誰もが分かっていた。

 もう、あの暗黒の皇帝を倒すには、熊谷竜児がフェニックスブレイブに成った時に等しい、とんでもない奇跡をぶつけるしかないのだと。

 

 皆の心を一つにしろ、とコピーライトに言われ、皆が一つの未来を思う。

 

(未来を)

 

 樹は、皆の夢叶う未来を願った。

 

(未来を)

 

 風は、美味いものでも食って皆で笑える日常が続く未来を願った。

 

(未来を)

 

 夏凜は、誰も死なない未来を願った。

 

(未来を)

 

 友奈は、皆で幸せに生きられる未来を願った。

 

(未来を)

 

 東郷は、全てが上手く行った理想の未来を願った。

 

(未来を)

 

 銀は、友達との縁がいつまでも続く未来を願った。

 

(未来を)

 

 園子は、世界の全てが救われた未来を願った。

 

 思う未来は別々なのに、何故か皆が想像する未来のイメージは、ほとんど同じ。

 どれもこれもが笑顔に溢れ、皆が幸せそうにしている、そんな未来を七人全員がイメージしていた。

 勇者の誰もが違う考え方をしていて、けれど同じ方向を向いていて、同じ未来を目指している……まるで、虹のような思考の重なり。

 虹の想いが、カプセルの力の向かうべき方向性を決定する。

 

 カプセルが起動され、光を放つ。

 その瞬間、勇者達の前にウルトラマンの精霊が現れた。

 今までずっと、一度も口を開かなかった光の巨人の精霊達が、少女らに語りかける。

 

『耳を澄ませ。仲間の心の声が。諦めないその想いが聞こえるはずだ』

 

「……え」

 

 パワードが、樹に語りかける。

 

『決して諦めるな。地球の未来は君達に託されているんだ』

 

「……地球の未来」

 

 グレートが、風に語りかける。

 

『私達ウルトラマンは、無敵でも最強でもない。

 私達がどんな強敵とも戦ってこれたのは、君達人間が居たからだ』

 

「人間が、いたから?」

 

 アグルが、東郷に語りかける。

 

『結城友奈よ。君ならばそれも分かっているはずだ。

 君はずっとあの若きウルトラマンと、助け合ってきたのだから』

 

「助け合って……」

 

 ガイアが、友奈に語りかける。

 

『君達が培ってきたものがあれば、必ずや地球は守り抜ける』

 

「培って、きたもの……」

 

 ティガが、夏凜に語りかける。

 

 最後にネクサスが園子の前で、思念を伝える。

 ネクサスは喋ることはなかったが、その思念の意味は園子にちゃんと伝わった。

 

"私達の力を受け取ってくれ―――共に戦おう"

 

 園子が、力強く頷く。

 

「うん!」

 

 勇者の力。

 巨人の力。

 銀の手元で怪獣カプセルは反転しウルトラカプセルに近い性質を帯び、六人の勇者と六人のウルトラマンの力が、新たなカプセルを作り出す。

 横に添えられたメビウスカプセルのせいか、完成した一つのカプセルは、『メビウスととても相性のいいもの』という方向性を持っていた。

 

 

 

《 ウルトラ6兄弟カプセル! 》

 

 

 

 ガイア、アグル、ティガ、ネクサス、グレート、パワードの六人の巨人。

 その力が"ウルトラマン六人のカプセル"を完成させ、メビウスと相性のいい方向性を持たされた結果。

 ウルトラマン、セブン、ジャック、エース、タロウ、ゾフィーの六人の力を再現した、ウルトラ6兄弟カプセルが完成していた。

 これが、正真正銘最後の力。

 六人のウルトラマンの力を合わせ、六兄弟の力を再現した力だ。

 

「え……な、何!?」

 

 そして、カプセル完成と同時に勇者達は光に包まれる。

 光は飛翔し、メビウスブレイブでアトロシアス相手に時間を稼ぐという無茶をしたせいで、また消されそうになっている竜児に向かって飛んで行く。

 光はメビウスのカラータイマーに衝突し、彼ら彼女らはまた、一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨人の光の中で、現実時間では一瞬に相当する時間で、竜児と勇者達が相対する。

 

「ほら、しっかりしなさい」

 

 膝をついていた竜児に、夏凜が手を差し伸べた。

 生きている竜児を――蘇った竜児を――見て、ちょっと目元がうるっときてしまった勇者もいたが、そこはご愛嬌。

 夏凜に助け起こされて、竜児は皆を驚きの目で見ていた。

 フェニックスブレイブでもないのに、人間と一体化してしまうとは。

 ……いや、これは正確には、人間の方が一体化してきたというのが正しいだろう。

 

「皆……?」

 

 驚く竜児の前で、銀が二つのカプセルを見せてニヤリと笑った。

 

「これ、なーんだ?」

 

「! それは……!」

 

「希望を届けに来たよ。リュウさん」

 

 そのカプセルを見て、竜児は驚愕したが、メビウスは納得した様子を見せていた。

 

 "これが運命というものなのか"と、言わんばかりに。

 

『このカプセルは……そうか。そう、なるのか』

 

「メビウス?」

 

『いや、気にしないで』

 

 メビウスカプセル。

 ウルトラ6兄弟カプセル。

 そして、竜児を含め八人の勇者と、メビウス含め八人のウルトラマン。

 

「八人。八人揃った僕らなら、きっとあの無限の闇も超えられる」

 

 竜児と共に、勇者が暗黒の皇帝(倒すべき敵)を見据えた。

 

 

 

「8を、90度横に傾けて、(無限)にしよう」

 

 

 

 1+1+1+1+1+1+1+1を、8ではなく∞にする。

 

「無限の闇を、無限の光で突破する!」

 

 ウルトラマンメビウスの象徴たるメビウスの輪は、∞という象形で表される。

 その字が示すは、無限の可能性。

 すなわち、無限の∞(インフィニティー)

 

「行くぞ、エンペラ星人。僕達は今、お前を超えるッ!」

 

 熊谷竜児は、皆の全てが込められたカプセルと、ライザーを構えた。

 

 

 

 

 

 声が、想いが、一つになる。

 

「「「「「「「「 融合! 」」」」」」」」

 

 起動するはメビウスのカプセル。

 ウルトラマンメビウスのビジョンが皆の背後に現れる。

 

「「「「「「「「 昇華! 」」」」」」」」

 

 起動するはウルトラ六兄弟カプセル。

 ウルトラマン六人のビジョンが皆の周囲に現れる。

 

「―――この手に光をッ!」

 

 カプセルが読み込まれ、光が弾ける。

 カプセルとは別に七つの巨人のビジョンが現れる。

 それぞれが、七人の勇者を守らんとするようにその背後に立った。

 そして竜児とメビウスと、全てが光に包まれる。

 

《 フュージョンライズ! 》

 

「起こすぜ! 奇跡!!」

 

 胸の前でライザーの引き金を引き、皆の力と光が今、竜児に重なった。

 

 力が融合し、昇華する。

 

「「「「「「「「 メビウーースッ!! 」」」」」」」」

 

 光の巨人が、飛翔した。

 

《 ウルトラマンメビウス! 》

《 ウルトラ6兄弟! 》

 

《 ウルトラマンメビウス メビウスインフィニティー! 》

 

 八人のウルトラマンと、八人の勇者を、今、本当の意味で一つに。

 

 8を、∞へ。

 

 

 

 

 

 メビウスとウルトラ6兄弟で成ったその姿は、『メビウスインフィニティー』。

 フェニックスブレイブがメビウスに青色を足して鮮やかさを出した造形ならば、メビウスインフィニティーはメビウスに黒を足し、威圧感を出した形態であった。

 体色である赤黒銀が、それぞれの色を映えさせている。

 

 それで完成した肉体に、更に神樹のウルトラマン八人の力を重ねている。

 竜児が発現させたこの形態は、八をもって一組とし、大満開七人と不死鳥の勇者一人をもって、その力の全てを強化・制御している。

 まさしく、8を∞に変えた形態だった。

 

 更にはここに至るまでの経緯により、メビウスインフィニティーもまた、グリッターバージョンの黄金の加護を受けていた。

 その力の量は、まさに桁違いである。

 

「追い詰めたはずの状況から、ここまで立て直してくるか。光の者よ」

 

 エンペラ星人の体から、無限の闇が吹き出した。

 

『エンペラ星人!』

 

 放っておけばあっという間に地球なんて飲み込んでしまうその闇に、竜児は皆と一緒に飛び込んだ。

 この闇は世界を飲み込む津波で、同時にエンペラを守る盾でもある。

 平均的なスペシウム光線では、あっという間に消滅してしまうくらいには、濃い闇だ。

 

 メビウスインフィニティーがそこに突っ込み―――真正面から、突破する。

 

『貫けぇっ!!』

 

 コスモミラクルアタック。

 コスモミラクル光線と似て非なる、コスモミラクル光線と同質のエネルギーを超高圧縮して身に纏い、体ごとぶつかっていくという荒業だ。

 輝く光が巨人を守り、闇を突破させ、最高速度での飛び蹴りを皇帝に叩き込ませる。

 圧縮したコスモミラクル光線を纏っているに等しい足が、最高の速度と最高の威力で、エンペラ星人の胸に叩き込まれたのだ。

 

 そして。

 その結果。

 ―――エンペラ星人には、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

 これでも。これでさえも。"攻撃力が足りていない"。

 

 アトロシアスのアーマードダークネスは、もはや宇宙よりも頑丈なのかもしれない。

 

(ここまで……ここまで積み上げて、奇跡を重ねて、想いを込めても壊れないのか!?)

 

「絶大な奇跡を起こせば、即座に余と同格になれるだなどと、甘い夢を見たか?」

 

 エンペラ星人の衝撃波が、メビウスインフィニティーの体を強く打ち、吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!」

 

「リュージ! くっ、あいつ本当頑丈すぎない!?」

 

 竜児達はエンペラの異常過ぎる強さに歯噛みするが、エンペラは今のコスモミラクルアタックの威力に、これまでになかったレベルの強さを見たようだ。

 メビウスインフィニティーが蹴り込んだ胸を、鎧の上から皇帝がさすっている。

 

「ほう……余の足元程度には、届いたのではないか? 光の者よ」

 

 エンペラダークネス アトロシアス。

 

 最大最強の試練が、少年少女が未来に進むために通らねばならない道のど真ん中に、威風堂々と立ち塞がっているという最悪。

 

「存分に挑むがよい」

 

 この闇を越えねば、未来はない。

 

「余に楯突く限り、その光絶えるまで、何度でも叩き潰してやろう」

 

 この闇を超えねば、希望はない。

 

『必ずお前を越えてみせる! お前を越えて……その向こうの未来を掴んでみせる!』

 

 これが本当の最後の戦い。GEEDの証に、グッドエンドの終わりを誓う。

 

『お前という夜を―――ここで僕らが終わらせる! 行くぞッ!』

 

 走る光。迎え撃つ闇。

 

 光と闇の戦いが、ここに一つの決着を見ようとしていた。

 

 

 




●ウルトラマンメビウス メビウスインフィニティー
 フェニックスブレイブとは異なる、もう一つのメビウスの最強形態。
 『メビウス&ウルトラ兄弟』に登場し、ウルトラマン・セブン・ジャック・エース・タロウ・ゾフィーという『ウルトラ六兄弟』との融合で至る、赤黒銀の威圧感ある合体ウルトラマン。
 フェニックスブレイブは人間達との融合による最強形態。
 こちらはウルトラマン達との融合による最強形態である。

 "純粋なウルトラマンを問答無用で殺す"皇帝に対抗し、"人間を取り込み完成した"フェニックスブレイブ以上に、"ウルトラ兄弟最低七人"の力を発揮するインフィニティーの光は強い。
 8。ゆえに∞。
 竜児のメビウスインフィニティーは、オリジナルのメビウスインフィニティーと似て非なる無限の力を発揮する。
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