時に拳を、時には花を   作:ルシエド

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 大阪の円谷ジャングルであったメビウスのお披露目イベントは『無限の未来へ』
 メビウスのキャッチコピーは『未来は無限大(メビウス)だ!』
 無限の可能性を持った子供は、未来に何になってもいい


終殺五章:ホシノハナ

 僕にとって……いや、きっと、熊谷竜児にとって、だけじゃなく。

 この星の生命が戦ってきたあらゆる敵の中で、エンペラ星人は最も恐ろしい強敵だった。

 ここまで攻防が成立しない敵を、僕は見たことがなかった。

 過去の全ての敵を凌駕しかねない強さの、暗黒の皇帝。邪悪の化身。宇宙の闇の具現化。

 

 全ての巨人と全ての勇者の力を合わせたメビウスインフィニティーでなければ、きっと追いすがることもできなかった。

 

「うおおおっ!!」

 

 虹色の光を纏って、飛ぶ。

 いつかの日に剣にした虹の光を、全身に纏って飛ぶ。

 皇帝の正確無比かつ強力無比な全ての攻撃を真正面からぶち抜いて、その全身を殴り、蹴る。

 倒せなくとも、諦めない。

 

 今や、僕らの中には神樹様の全てがある。

 地球に生きる人々の心の力の全てがある。

 過去の全ての勇者の力がある。

 光巡る大地からも、過去の積み重ねからも、未来を想う心からも、力を借りている。

 宇宙人も、巨人達も、勇者達も、メビウスも、僕も。

 誰も手を抜いてなんかいない。

 なのに、鎧の防御を抜けない。

 もう費やせるものは無く、後が無いというのに。

 これが……エンペラ星人。

 

 『全て』を合わせた僕らでも、三つの巨悪と一つの魔鎧装を合わせた悪には届かないのか?

 

「無限の光を身に纏い。

 光の如き高速で飛び。

 余を速度と防御力で翻弄しようという策か」

 

 読まれている。

 だが、構わない。

 僕らは絶対に諦めない。

 壊れるまで、叩いてやる!

 

「その甘い見込みを、叩き潰してやろう」

 

 浮遊する、エンペラ星人。

 息を呑んだのは、僕だったのか、それとも他の勇者だったのか。

 マントをはためかせ飛翔する暗黒は、その身で一切の光を反射しない、空間の欠落のようにすら見えるおぞましき黒。

 

 そのおぞましき黒が、二本の剣を構えた。

 右手に握られるは、エンペラブレード。

 かつてウルトラの父に消えない傷を刻み込み、数多くの兵器武器を差し置いてエンペラ星人が最後に頼った、闇の剣。

 この剣を握ったエンペラ星人に、ウルティメイトブレードを握ったウルトラの父が勝利していなければ、今頃は全宇宙が……と伝説と共に語られる剣。

 

 左手にはダークネスブロード。

 アーマードダークネスに備え付けられた剣。

 鎧と同じ製法で作られ、アーマードダークネスの装甲を唯一破壊できる武器と語られ、アトロシアスの力で鎧と共に強化されている。

 奪えないだろうか、と僕は思った。

 無理だ、と理性が即座に断じた。

 エンペラ星人が、武器を取り落とすなんて失態をやらかすなんてありえない。

 これは、そういう敵だ。

 

 両方共、メビウスから聞いたことのある剣だ。

 それを両手に構え、恐ろしい速度でエンペラが飛んで来る。

 飛翔速度は、互角だった。

 

『エンペラ星人の、本来の戦闘スタイルか……!』

 

 青空の下、緑の大地の上を、僕らは飛ぶ。

 

 僕らの光と、皇帝の闇が喰らい合う空中で、僕らは互いに向けて突っ込んだ。

 

「来るよ~、ドラクマ君!」

 

 光の密度を上げた腕で、剣を受け止める。

 刃が肉に食い込んでいく。……これで、防げていない!?

 

「やっば!」

 

 僕より反射神経と行動速度に優れた勇者の皆が、光の密度を上げ、刃を受け止めてくれた。

 全身のコスモミラクルの光の全てを腕に集め、なんとか受け止められるという次元の切れ味。

 死の実感に近い寒気を感じた。

 

 ―――死ぬ。

 

 これは、危険だ。

 これは、今の僕らを殺しうる。

 メビウスが言っていた。

 光の国を壊滅寸前にまで追い込んだ時のエンペラ星人は、剣を使っていたと。

 

 衝撃波も本気の戦闘スタイルではなく。

 念動力も本気の戦闘スタイルではなかった。

 あれは、群がる雑魚を纏めて消し去るための技。

 エンペラ星人が、本気で倒さなければならない一人の敵を見据えた時は、剣を使う。そういうことなのだろう。

 僕らは、エンペラ星人が本来の戦闘スタイルで潰すべき敵であると、認められた……認められてしまったというわけだ。

 

 腕を振る。

 コスモミラクルアタックの応用で、光を凝縮した腕を振り、エンペラ星人の二刀流に対抗し、その剣閃を必死に弾く。

 集中力を他に割けない。

 今、この瞬間に、他のものに意識を向けられる余裕が無い。

 

「リュウくん! ……リュウくん?」

 

 普段の巨人形態と比べれば信じられないくらい、速く体が動く。速い動きが見える。

 光をとてつもなく硬くして、体に纏える。

 なのに一瞬でも気を抜けば、光ごと腕が切られている気がする。

 防御の隙間に剣を差し込まれている気がする。

 刃の切れ味も、刃を扱う技術も、刃を速く重く叩きつける身体能力も、全てがおかしい。

 

 あまりにも、強すぎる。他の何も見ていられない。

 

「リュージに今は集中させて、友奈!

 リュージに余裕が無いのもあるけど……こいつ、やっぱりヤバい!

 今この始めの攻防で、一瞬でも気を抜いたら、そのまま流れを持って行かれる!」

 

 全ての意識を、目の前の敵へ。

 後がない。

 もう、後が無いんだ。

 これ以上の奇跡を起こそうとしても、奇跡を起こす素になるものがない。

 本当は奇跡なんてそうそう起こらないものなのに、ありったけの奇跡を片っ端から起こしていった結果、もう地球上には奇跡を起こす素になるものが残っていない。

 これ以上の奇跡は、もうどこにもない。

 

 後がない。

 もう、僕にも後が無いんだ。

 最後の命が尽きていくのを感じる。

 いや、もう本当は、とっくの昔に死のラインは超えていた。

 僕の命の総量は単細胞生物より少なくなっていて、とても生きられるような状態じゃなかったけれど、それでも根性で踏み留まっていただけだった。

 

 だって、死にたくなかったから。

 だって、僕が死んだら泣いてしまう人がいたから。

 死にたくないし、死ねないじゃないか。

 

 剣を防いで、鎧を殴る。

 一瞬たりとも気を抜けない繰り返し。

 なのに何故、僕はこんなことを考えていられるんだろう。

 ……ああ、そうか。

 

 もう僕の頭の、全力で戦うために動かしている脳の部分と、僕がこうして何かを想う脳の部分がしっかりと繋がっていないのか。

 漫画とかで、死んだ後に意識を失っても死体が戦い続ける、みたいなのがあったけど、こういう風になってたのかな。

 ウルトラマンの肉体ってのは、つくづく面白いや。

 きっと僕の体は、僕が死んでも、戦い続けるんだろう。

 その前に、もしそうなりそうな時は、その前にメビウスに命を返しておかないと。

 

 頬が切れる。肩が切られる。ああ、痛い。死にたくない。

 死にたくないけど、死なせたくない。

 辛い。

 苦しい。

 痛い。

 意識も目もぼやけてきた。

 

 なんでこんなことしてるんだろう。

 なんでこんなに頑張ってるんだろう。

 やめたい。

 もう休みたい。

 なんでこんなに歯を食いしばってるんだっけ。

 辛くて辛くて仕方ない時、時々ふっと"どうして僕が"と思うことがある。

 僕は今日までの日々に何度もそう思った。

 どうして僕が、こんな運命を背負ってるんだろう。

 どうしてこんな辛い人生を過ごしてるんだろう。

 どうして苦しいのにこんな頑張らないといけないんだろう。

 本当の本当に追い込まれた時、心の片隅に、時々そういう気持ちがふっと湧くんだ。

 

 でも、僕の近くには、いつも勇者がいたから。

 僕はずっと、勇者という人柱に、なんとかならないのかって思っていたから。

 

 どうしてこの子達がこんな目にあわないといけないんだ、って想いが、"どうして僕が"という想いを片っ端から蹴っ飛ばして行ってしまう。

 "どうして"という理不尽の怒りが、全部勇者のために使われてしまう。

 だってしょうがないじゃないか。

 僕に課せられた理不尽より、皆に課せられた理不尽の方がずっと大きく見えたんだから。

 

 どうして、何の罪も無い人達がこんな目にあわないといけない。

 どうして、皆の積み重ねが踏み躙られなきゃならない。

 どうして、こんな残酷が許されるんだ。

 そんな風に僕の周りの色んなことに対して"どうして"と思っている内に、僕に関わるあれやこれやの"どうして"はどこかに行ってしまった。

 

 どこかに行ってしまった想いっていうのは、どうすればいいんだろう。

 まあ、いいか。

 どこかに行ったってことは、無いのと同じだ。

 まだ僕は、戦える。

 命が尽きるのが怖い。

 でも、戦える。

 一秒一秒に命が尽きていくのを感じる。

 でも、まだ戦える。

 だって、ほら。

 僕は"どうして皆が幸せになるのを邪魔するんだ"って怒りを、ずっと持ってたから。

 どんなに恐ろしい敵とだって、戦える。

 

 皆には感謝しかない。メビウスにも感謝しかない。

 特にずっと一緒に居てくれたメビウス。

 僕の心を感じて、時に勇気で、時に言葉で、僕を導いてくれた。

 ありがとう。

 ちょっとは、マシな人間になれた気がするよ。

 

 命が尽きる。

 もう少しで、僕は死ぬ。

 生きたい。

 未来に生きていたい。

 意識があるのか、ないのか、よく分からなくなって、意識という電灯がついたり消えたりしてチカチカしている気がする。

 意識が飛んで、意識が戻って、意識が飛んで、意識が戻って。

 

 意識が飛んで、樹さんの記憶を見た。

 

 

 

 

 

 その日は、そうだ。

 樹さんに絵を見せたんだ。

 こんなことやったら面白そうだね、って感じの話になって。

 

「熊谷先輩、これは一体……」

 

 樹さんが困った顔をしていたのを覚えてる。

 流石にウルトラマンの手に乗って空を飛びながらライブで一曲披露、とかいうアイデアはちょっとダメだっただろうか。

 最近はフルで3分以下の曲もあるからいけると思ったんだが。

 

「僕はウルトライブと名付けました」

 

「いや名前を聞いてるわけではなく!」

 

「一回くらいはこういうのやってもいいんじゃないかな、話題性に……」

 

「ダメです!」

 

「やっぱり?

 近年は話題性だっていうから考えたけど、これはやっぱちょっとないか」

 

「ちょっとどころでなくないです。そんなことされたらもう一生街を歩けないです」

 

 派手さはあると思うんだけどなぁ。

 炎上が怖いからダメか。

 

「それに、そんな風に先輩の手を煩わせたり、迷惑をかけたりできないですよ」

 

 迷惑とは。そんなことも考えてるのか、この子は。

 

「迷惑? 違うよ、僕がこういうのを色々考えてるのは、僕が君の歌が好きだからだ」

 

「……あぅ」

 

「もう本当好き。心の底から好き。聞けば聞くほど好きになる」

 

「や、やめてください!」

 

「こんなことで恥ずかしがってたら紅白歌合戦に出場した時どうするのさ」

 

「先輩の中の未来の想像図で私はどこまで行ってるんですか……!?」

 

 分かってるくせにー。

 かわいこぶって気付いてないフリするなよ。樹さん可愛いけど。

 いや、これ、僕の想像が先に行き過ぎて樹さんがビビってる可能性も無きにしもあらずか。

 

「自分の夢です。だから自分で頑張ります。自分で行けるところまで」

 

 樹さんは凄い。

 自分の夢を持って、それを自分でちゃんと考えて、自分なりに進んでる。

 思えば、そうだ。

 彼女が始まりだった。

 彼女が受け身だったから、僕はついつい勇者の側に踏み込み過ぎてしまって、夢を持つ彼女に感情移入してしまって……それで、こうなった。

 

「だから、その……先輩が応援してくれてれば、その……」

 

 僕は頷く。

 

「僕はずっと、君の味方で、君のファンだ」

 

 歌が好きなのに、彼女から歌を引っこ抜いても、それでも彼女に好意を持っている自分は変わらない気がする。

 彼女の笑顔を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

 意識が戻る。

 僕の意識が飛んでいた間も、僕の体は必死に戦い続けていた。

 それもそうか。

 だって今の僕の体で、『守る』という意志で動いていない部分なんてないんだから。

 細胞の一つ一つにまで、きっとその意志は浸透してる。

 僕が死んでも、僕の体は、皆の幸せと未来を守るために戦い続ける。

 

 無限の光と無限の闇。

 僕はコスモミラクルで、皇帝はアーマードダークネスで、その身を守っている。

 コスモミラクルアタックで殴っても壊れないアーマードダークネス。

 それはまるで、矛盾の逸話の変形のようだった。

 最強の矛と無敵の盾ではなく。

 僕は、最強の盾で無敵の鎧を殴っている。

 壊せなければ、きっと未来は無い。

 

 殴る。殴る。蹴る。

 

 脳のどこが死んでいるんだろう。

 脳のどこが生きてるんだろう。

 あるいは、僕の命はどこかが生きていて、どこかは生きていないのか。

 分からない。

 だけどもう、とっくにまともな状態でないことだけは分かってる。

 

 僕はどこに居るのか。

 僕はどこから来たのか。

 僕はどこに行くのか。

 段々分からなくなってくる。

 でも、だ。

 今は皆と同じ方を向いているから、進むべき方向を間違えないでいられる。

 

 皆が同じ想いで一緒に戦ってくれていて、よかった。

 これなら、もう生き返れないほどに無残に死んでも、その先で皆と一緒に進んでいける。

 

 また、意識が飛んで、風先輩の記憶を見た。

 

 

 

 

 

 風先輩は、体にいいという食事――長命になるという食材を使った食事を――何度も作ってくれた。

 とても、とても、暖かな料理だった。

 俗に言う、愛情のこもった料理だった。

 舌の機能が失われ始めた頃の食事だったけど、それでもまだ味を感じられる舌が、とても美味しいと言っていた。

 

 思えば、その時がまともに味を感じられた最後の日だったのかもしれない。

 これ以後は、風先輩の料理に、美味しさよりも暖かさの方を強く感じるようになっていたから。

 

「美味しいです」

 

「そう? そりゃよかった」

 

「何気に今まで食べた中で一番美味しいですね」

 

「でしょ? でしょでしょ? 日々精進ってやつね!」

 

 この人のいいところは。

 特に何も言わず、人並みに食べられなくなった僕の胃に合わせて、僕の食事量とか計算して、僕が食べ切れる量を調整してくれたりすることだ。

 普段樹さんも食事量に合わせて調整しっかりしてるんだろうなあ。

 なんというか、お姉さんだけじゃなくお母さんやってる人である。

 ……お母さんなんて知らない僕がそう思うのは、なんだけど。

 

「今度は完食できました。ごちそうさまです」

 

「はい、おそまつさま」

 

 この人はご飯食べてる時の僕の顔を見て、微笑んでる時がある。

 きっと美味しいご飯を食べさせるのも、美味しそうにご飯を食べてる人の顔も好きなんだろう。

 かくいう僕はそういう時の風先輩の表情が好き。

 そんな僕の顔を風先輩が見て……なんだこの無限ループ。

 

「今日はまさに最高の一品でした。

 風先輩のスプリームですよスプリーム」

 

「ふっふっふ……まあざっとこんなもんよー! もんよー! ……で、スプリームって何だっけ」

 

「最高ってことです」

 

「なるほどなるほど。今日の私の一品はスプリームだったと」

 

「スプリームヴァージョンでした」

 

「ふっふー、照れるじゃないのこのこの」

 

 頬を突っついて来る風先輩を感じ――もう目はあまりよくは見えないから頬で把握し――僕は思う。

 

 この人は、自分が幸せになりながら、周りも幸せにできる人だ。

 

 きっとそれは、とても素晴らしいことなんだ。

 

「ま、焼け石に水かも知れないけど。頑張って互いに長生きしましょう?」

 

 多分、だけど。

 戦いなんてない世界だったら……勇者の中でこの人が一番、自分が幸せになる才能と、他人を幸せにする才能を持ってると思う。

 その上で、この人は戦いが苦手じゃなくて、皆を率いるリーダーをちゃんとやれるから。

 『自分』ってものをちゃんと持ってるこの人に、皆は安心して付いて行く。

 この人はいつも自分らしいから、皆信じられるんだろう。

 

 世の中、中々いないと思うんだ。

 自分のご飯を喜んで貰える幸せ、美味しいものを食べた時に感じる幸せ、皆と一緒に美味しいものを食べる幸せ。それらの重さと大切さを、ちゃんと頭で分かっている人は。

 

 

 

 

 

 意識が戻る。

 

 そうだ、僕は、戦いを。

 過去と今のどっちが本物なのか分からなくなってきた。

 でも、戦う意志さえあればきっと、体と脳は動いてくれる。

 まだ生きている部分の頭が、動いてくれている部分の頭が、エンペラ星人と戦ってくれる。

 諦めない限り、僕は負けない。

 僕達は負けない。

 負けないんだ!

 

 だから―――だから―――だから―――?

 

 だから……なんだっけ。そうだ、諦めない。

 

 まだ、戦え、る。

 

 意識が飛んで、友奈との記憶を見た。

 

 

 

 

 

 余命を数える日々の途中からは、もう僕は眠れなくなっていた。

 車椅子に背を預けて、眠らないまま夜を迎える。

 気力だけで命を繋いでいたから、クリスマスを目前に控えた頃には、もう僕は"眠ったら死ぬ"という雪山の凍死者のような状態になっていて。

 そんな僕に、友奈がお守りの押し花をくれたんだっけ。

 押し花は、友奈が好んでする趣味だっただよね、確か。

 

「じゃーん! これが月下美人で、これがヒヤシンスで、こっちがバーベナで―――」

 

 目がほとんど見えない僕の手に、友奈が押し花を乗せてくれる。

 花の名前も言ってくれるから、今触っているのはその花なんだ、ってすぐに分かった。

 押し花は、保存された花であると同時に、触る花でもある。

 平面にされた花を指でなぞることで、特徴的な花なら触っただけで分かるんだ。

 

 友奈は、その辺りのことを考えてこれを持ってきてくれたんだろう。

 嬉しい。

 普通の花はあまり触ってはいけないけれど、押し花なら話は別だ。

 触ることで、見ることができる。

 友奈は今の状態の僕に、綺麗な花を見せてくれようとしたってこと。

 

「その花は赤色が綺麗だよね」

 

 時折友奈が解説を入れてくれるから、花の色も形も鮮明に見える。

 

 目が見えない人に花を見せるなんて、本当にこの子は、なんというか。

 僕に尊敬させる天才だな!

 心がポカポカする。なんで目が見えないのに友奈の笑顔が浮かぶのか。自分でも分からない。

 

「出来がいいね、友奈」

 

「えへへ、東郷さんにも褒められたんだ」

 

「味がある。つまり個性がある。

 個性を出しつつ綺麗な出来にするのは、中々難しいもんだよ」

 

「あ、リュウくんもやってみる? ハマると楽しいよ!」

 

「ん……そうだね。教えてもらおうかな。同じ話題ができたら楽しそうだし」

 

「じゃあ、約束だね! 時期は……冬休み終わった頃でいいかな?」

 

「うん、約束だ。それまでにさっさと体治さないとなあ」

 

 約束が重い。

 必ず達成しないと、と思ってしまう。

 でも、この重みがないとダメだ。

 この重みがないと、僕は自分を軽く扱いすぎてしまうと、夏凜が言っていた。

 あいつが真面目顔で言うことはまあ大体正しい。

 変に思っても大体僕が間違ってる。そういうもんだ。

 僕の心には、きっとこういう重りが必要なんだな。

 

「友奈は知ってる?

 友奈が一番勇者適正値が高いって話。

 今は園ちゃんが一番強いけど、そうじゃなければ友奈が一番だったかもね」

 

「へー、そうなんだー」

 

「友奈は勇者の才能あるよ。肉体的にも、精神的にも。でも」

 

 僕の手に押し花を乗せてくれた友奈の手を、そっと握る。

 友奈の手が緊張でちょっと強張った。

 なんだよ。

 ギラルーグの時にウルトラタッチ連打してただろ。

 今更このくらいでちょっと変な反応すんなよ。

 僕までちょっとドキっとするだろ。

 やめろ。

 

「な、何? リュウくん」

 

「この手はやっぱり、拳よりも、押し花や誰かの手を取るのに使った方がいいと思う」

 

 僕より小さく、柔らかく、優しい手。

 誰かの手を取り、車椅子を押し、押し花を作る手。

 その手の外側は拳として敵に叩きつけるためにあり、内側はそうでない目的のためにある。

 僕はこの拳に何度も助けられてきた。

 だけど。

 やっぱりこの手の価値は、戦い以外の場所にこそ沢山あると思う。

 

「君の手は、戦いなんてものに使うには勿体無いよ」

 

 友奈は強いのかもしれない。

 最強の勇者にだってなれるのかもしれない。

 

 でも、違う。

 友奈はちゃんと『自分』を持ってる。

 『自分らしさ』を持ってる。

 それが発揮されるのは、戦いの中じゃない。日常の中だ。

 

 戦いの中での"諦めない友奈"も、きっと他の人では真似できないような存在だけど……でもやっぱり僕は、"日常の中の素敵な友奈"の方が、彼女らしいと思う。

 そっちの方が、ずっと友奈の個性が出てると思う。

 

 そう思っている僕が、戦いの場ではそんな彼女を頼りにしてるんだからお笑いだ。

 "日常にずっと居てほしい"という想いと比べれば、"友奈に一緒に戦ってほしい"という想いの方が、僕の中ではずっと大きい。

 日常では素敵で、戦場では頼れる。

 だから彼女は、勇者なんだ。おそらくは、きっと誰よりも。

 

「こんなにも、色んな幸せを生み出せそうな、綺麗な手なのに」

 

「……リュウくんの手、暖かいね」

 

「友奈の方が暖かいよ」

 

「ううん……リュウくんの方が、暖かいんだよ」

 

 でも、なんであの時。友奈の声は、少し震えたんだろう。

 

 僕が彼女の心を読めたなら、その答えも分かったのだろうか。

 

 

 

 

 

 意識が戻る。

 無数の光を僕らで放ち、無数の闇でエンペラ星人が迎撃している。

 集中、集中、集中。

 意識が何度も飛んでいるのに意識を集中させているという矛盾。

 今の僕は何割くらい死んでいて、何割くらい生きていて、生きている部分がどのくらい分かれて動いているのだろう。

 

 友奈が叫び、風先輩が叫び、銀が叫び、夏凜が叫び、熱血パワーが光を押し込む。

 数十本の糸の精密操作にも慣れている樹さんが無数の弾丸の軌道を制御し、園ちゃんが巧みなフェイントを入れた光弾を混じらせてエンペラを翻弄し、東郷さんがメインになってぶちかます。

 全員で力を合わせた光の大火力だ。

 大満開のパワーもあるのか、光は闇を一気に押し切った。

 

 だが、エンペラ星人自体にダメージはない。

 本当になんだこの防御力は?

 出力そのものは互角に近く、勇者の協力によって技巧戦では優位に立ってるけども、防御力の差でダメージが通らない。

 せめてこの鎧が破壊できれば、互角の戦いにはできるのに。

 ……勝てない、のか?

 

 ありえない。

 諦めない。

 違う。

 どんなに追い込まれようが、僕は負けない。僕は諦めない。

 途中で折れて、何もかも終わりになんてしない。

 

 だって僕は生きたい。生きたいんだ。

 誰にも死んでほしくない。幸せに生きてほしいんだ。

 だから、苦痛なんてものでは止まらない。

 苦しくても痛くても止まらない。

 希望が無くたって止まらない。

 未来を諦めたりしない。

 

 僕は……僕は……辛い。苦しい。助けて。

 

 違う! 辛い人を、苦しい人を、僕が助けるんだ!

 

 辛い人も、苦しい人も、我慢せずに声を上げて助けを呼べばいい。

 それはその人の自由だ。

 誰も助けてくれないのなら、僕が必ず助けに行く。

 だけど、ここで僕は踏ん張らないといけない。

 もう皆が全ての力を出し切ったんだ。

 これ以上頼っても引き出せるものはない。

 僕がこの力で奇跡の中の奇跡を起こせなければ、きっと皆の想いは踏み躙られて、なにもかもが終わってしまう。

 

 マデウスオロチとの戦いで、メビウスが言ってたじゃないか。

 

■■■■■■■■

 

『僕の兄……レオ兄さんなら、こう言うかな』

 

『男はいつも一人で戦うんだ。

 自分自身と戦うんだ。

 最後に頼るべきは、自分自身なのだから』

 

『どうか自信をもって。

 君は仲間が居ないと戦えない男じゃない。

 仲間が居れば強くなれる男だ。

 一人でも戦える。一人でも守れる。

 仲間がやってくれるまで、君一人で世界と神樹を守れるはずだよ』

 

■■■■■■■■

 

 僕が、やらないといけないんだ。

 この限界の向こうへ、この闇の向こうへ行くために。

 

 皆の光をそこに連れて行く。

 皆をそこに連れて行く。

 僕が―――未来に連れて行く。

 

 殴れ。

 蹴れ。

 コスモミラクル光線を身に纏っているに等しいこの状態で、ただひたすらに。

 僕の心がまだ諦めていないのなら、不器用でも打ち続ける。

 この壁を、越える!

 

 っ、しまった、エンペラ星人の二刀流が、防御を抜いて刺さっ―――

 

 ―――意識―――飛んで―――皆―――記憶―――見―――

 

 

 

 

 

 将来の夢の話をした。

 未来の話だ。

 銀と、園ちゃんと、東郷さんと、話をした。

 しかし今思うと名前呼び捨て・愛称・名字さん付けと綺麗に呼び方分かれてるな、この三人。

 僕から見た三人との関係性も「兄弟好きで特別美しいと思ってる人」「めっちゃ特別だけど忘れちゃった人」「東郷さん」で全然別だし。

 関係性に似た部分が全然無いってのも珍しい。

 

「将来の夢?」

 

 四人揃って、未来を思う。

 

 元神樹館として、元安芸先生の教え子として、しっかりとした大人になりたいものだよね。

 

「私は、やっぱりまだ歴史学者になりたいわね」

 

「東郷さんならなれるよ。そのためにどこの高校行くかはもう決まった?」

 

「リュウさんがあれだけ資料をくれれば、興味のある学校はいくつかできるわよ」

 

「そっか、無駄にならなくて良かった」

 

「リュウさんは高校はもう決めているの? とは言っても、受験まで一年近くあるけれど」

 

「中学出たら大赦に即組み込まれ、とかあるかも。

 でも多分僕の意志で選べると思うよ。

 中卒ってのもどうかと思うけど、学力だけなら十分溜め込んじゃったからなあ」

 

「行った方がいいわ。学校は色んなことを学ぶ場所だもの。進学先が決まったら教えてね」

 

「やっぱりそう思う? 東郷さんが言うなら、進学にしようかな」

 

「ええ、それがいいわ」

 

 進学先は個人情報だ。

 色々活用しようと思えばできる。

 偏差値や校風に大差が無いなら進学先をそちらにも変えられるし、学校が分かっていれば遊びにだって行ける。

 学校に公式HPがあれば、たとえ別の学校で離れ離れになったとしても、体育祭風景の写真から該当人物の写真を回収できたりする。

 あればいくらでも悪用できる、個人情報。

 と、一瞬そう思ったが。

 まあ東郷さんなら大丈夫だろう。

 東郷さんは良心と善意ある国防の魂を持つ人だ。疑いなんて持つ必要はない。

 

 変な疑いを持ったりする人がいれば、逆に僕が怒ったりするかもだ。

 

「私は小説家になりたいから、今はアイデアの溜め時かな~」

 

「……その目絶対どうにかして治すから! もうちょっと! もうちょっと時間ください!」

 

「ドラクマ君は約束を果たすまでは、私の近くに居てくれそうだね~」

 

「黙って遠くに行くとかはないからね! 置いてかないよ、絶対!」

 

「うんうん~」

 

 時間。

 時間が足りない。

 本当は僕の体の間に合わせ延命とかしてたくもないのだ。

 銀の片目、東郷さんの足、園ちゃんの両目をどうにかしないと。

 記憶はどうにかなったんだから……足とかが物理的に失われたわけじゃないんだから、多分同じ要領でなんとか……研究しないと。

 友達のことなんだから、本当は何よりも優先しないといけないのに。

 これをやってる場合じゃないというのが、本当にどうにもならない。

 

 レストア・メモリーズで一年半。

 三人全員完治させるなら五年か。

 ……成人してもこの付き合いが続いてるのは確実かもしれない。

 

「そういえば、銀の夢はお嫁さんだったわね」

 

「お嫁さんだったね~」

 

「「!」」

 

 え、マジで!?

 

「なんで言うんだよ、美森、園子!」

 

「え……あ、いや、僕はバカにしないよ。いい夢じゃん」

 

「リュウさんは男子じゃんかぁ!」

 

「……それもそうだ」

 

 男には聞かれたくない夢とかあって普通だよなぁ。

 しまった、前に夢の話した時、察しておくべきだったか。

 僕の方から銀が居る時は夢の話を遠ざけるよう思考しておくべきだった。

 

「……聞いちゃってごめんね、銀」

 

「あああ、アタシとしたことが迂闊だった。うっかり気を抜いてた……!」

 

 失敗したなあ。

 

「ところで誰のお嫁さんになりたいんだ?」

 

「え?」

 

「え? 誰かのお嫁さんになりたいのでは」

 

「いやそういう相手が固定されてるってわけでも……」

 

「だって誰のお嫁さんになってもいいなら、ビッチじゃないそれ?」

 

「―――」

 

 銀がよく分からない顔をした。

 怒ってるような、困惑してるような、衝撃を受けたような、何やらよく分からない顔。

 口をパクパクさせて、何か言おうとしているが何も言えていなかった。

 ええい目に力入れても明確に表情が見えん。

 表情が正確に読めない。

 我が目ながらなんとポンコツな。

 僕の肩を掴んだ東郷さんと園ちゃんが、グイっと近付いて来る。

 

「それは……それは違くない!?」

 

「お嫁さんになりたいって思っても、誰のお嫁さんでもいいってわけじゃないんだよ~」

 

「ん……んん……僕は女子のお嫁さん文化には疎いけど、そういうもんか……」

 

「これだから、頭でっかちのリュウさんは……」

 

 東郷さんが呆れている。

 いかん。

 本気で学校に通うの継続した方がいいかもしれない。

 東郷さん達が共有してるこの感覚が微妙に分からない。

 

「……はっ、今、アタシの意識飛んでた」

 

「これもしかして本格的に僕の失言なのでは」

 

「「うん」」

 

 僕の発言のせいで銀の心がどっか行ってたらしい。東郷さんと園ちゃんが頷いている。

 

「銀はどういう旦那がいいの? 僕には女性の理想の旦那観とか分からないよ」

 

「そりゃお前、優しい男の人で」

 

(リュウさんだ……)

(ドラクマ君だ……)

 

「うちは金は無いけど家格あるし……大赦でそれなりの格の人だと認められてる人で」

 

(リュウさんだ……)

(ドラクマ君だ……)

 

「アタシの弟達もその人の弟になるわけだしな。兄弟を大切にしてくれる人で」

 

(リュウさんだ……)

(ドラクマ君だ……)

 

「ダサい人はちょっとヤだし、最低でもちょっとはかっこいいと思える人で」

 

(リュウさんだ……)

(ドラクマ君だ……)

 

「あ、でもやっぱ愛が一番。ちゃんと深く愛して、理解してくれる人で」

 

(リュウさんだ……)

(ドラクマ君だ……)

 

「それでこう……他の誰よりも、アタシを一番に優先してくれるような人がいいな」

 

(リュウさんじゃダメだわ)

(ドラクマ君じゃダメそう)

 

 なんで東郷さんと園ちゃんは神妙な顔してるんだ? わけがわからないぞ。

 

(リュウさんは

 「仕事とアタシのどっちが大事なんだ!」

 って言ってすがりついても、その仕事が人の命に関わるなら、

 「ごめん、でも、人の命がかかってるんだ」

 って言って仕事の方を優先して銀を振り切って行くタイプだわ……)

 

(ドラクマ君は

 「友達とアタシのどっちが大事なんだ!」

 って言ってすがりついても、行かないと友達がピンチなら、

 「友達を見捨てる僕を、銀は好きでいてくれないと思うから」

 とか理屈を付けて、友達の方を優先してミノさんを振り切って行くタイプだから……)

 

 銀はともかくこの二人は絶対変なこと考えてんな。何考えてんだ。

 

「……アタシの話はもういいだろ!

 ほら、いつの間にか園ちゃん呼びになった二人の話とかさ!」

 

「私はね~、園ちゃんって呼ばれて、本当にちゃんと区切りがついた気がしたからね~」

 

「いつの間にか小一の時の一回だけの呼び名を復活させられてしまった……」

 

 必死に話を逸らそうとする銀。

 話に乗って別の話題にしてあげたいが、どうしよう。

 あんまり別の話に逸らせそうな、乗りやすそうな話題がないな。

 銀に助け舟を出してやりたいが、はてさて。

 

 それにしても本当に、三人共『自分』を持ってるな。

 自分はこうだ、という想いがある。

 確固たる夢がある。

 未来にこうなりたいという自分がある。

 それはきっと、記憶を失ってもそこまで損なわれない『自分』だったんだ。

 

 勇者は皆、他の同年代と比べればずっと『自分らしさ』を強く持っている気がする。

 

「ほら、美森だけリュウさんに名前で呼ばれてないな、とかさ」

 

「……あー、確かに」

 

「試しに一回呼んでみれば? それでよかったら、美森も名前呼びってことで」

 

 はて、名前呼びとは。まあいいけど。

 

「美森」

 

「はい」

 

「……うーん」

「……うーん」

 

「「 しっくりこない 」」

 

「少なくとも息はバッチリだと思うぞお前ら」

 

 ここで息が合ってると言われても。

 名前呼びがなんだかしっくりこない。いい名前だと思うんだけどなあ、美しい森。

 字面は美しさを感じさせる左右対称二文字で、響きが『みもり』で可愛い感じ。

 東郷さんのこの名前、結構好きなんだけど。

 

「私はね、好きなものの知識を集めてるの。それを楽しく語れるのがこの人なだけ」

 

「僕は知識を片っ端から集めてる。東郷さんとしか楽しく語れないけどね」

 

「だけど私は、まず愛ありきで知識を集める者」

 

「僕は知識であれば愛がなくても片っ端から集める者……らしい。東郷さん曰くだけど」

 

「「 だから我々の心はぴったり重ならないのです 」」

 

「……重なってんだろ普通にっ!」

 

 銀にそんなこと言われても、僕ら困る。

 

「リュウさんはそういう人なのよ。

 私が心でぶつかっていくと頭でっかちな理屈だけで返して来たりするの」

 

「え~、ひどい~」

「うっわー、ひっでー」

 

「僕に弁解の余地くらいくれない?」

 

「ああ、本気の気持ちには本気の気持ちで返してほしい……」

 

「東郷さんっ!」

 

「冗談は置いておいて。リュウさんはこう、語りに愛が足りないの」

 

「園子、園子。愛が足りないのが不満らしいっすよ」

「やっぱ好きなんだね~そういうの」

 

「ばっ……そういう意味ではないのよ!? 言葉尻を捕まえないで!」

 

 東郷さんが時々見せるこういう鷲尾さんっぽさは結構好きだ。

 いや二人共同一人物なんだけど。鷲尾さんが成長したのが東郷さんなんだけど。

 園ちゃんは大物っぷりが増したし、銀も中学生に相応の成長をしてる。

 やっぱり、二年は長いんだなあ。

 僕も自分で思ってる以上に変わってるんだろうか。

 

 皆は"熊谷竜児の変わったなと思う所"に気付いても、黙っていたりとかするんだろうか。

 

 そんなこと考えてたのだが。

 東郷さんとやんややんやと話している内に、思考がどっか行ってしまった。

 仕方ない。

 

「『その目はなんだ!』を先にやったのは私じゃなくてそっちでしょ」

 

「いや『その目はなんだ!』を先にやったのはそっちじゃないか」

 

「「……ん?」」

 

 あれ、この場合どっちが先だ……?

 

 車椅子を向き合わせている僕らの横で、銀と園ちゃんが話している声が聞こえる。

 

「すっげえ水掛け論してるなあの二人……でも、楽しそうだ」

 

「昔からそうだよ」

 

「ん?」

 

「わっしーとドラクマ君はね。

 出会ってからすぐに仲良くなるんだ~。

 一日あればもう親友! ってくらいにね、仲良くなるんだよ~」

 

「園子にはそう見えてんのか。

 アタシは昔っから、あの二人は仲良く衝突してるイメージだよ」

 

「ドラクマ君は、ミノさんと仲良くなる早さより、わっしーの方が早かったね~」

 

「へー、そうなのか。園子が言うならそうなのかもな……」

 

 銀。何か納得してるんじゃない。

 

「頭の良いアホと、どっか抜けてる堅物。似てないようで似てるのかもな」

 

「似てないわよ」

「似てないよ」

 

「今のアタシの台詞訂正するわ。似てるっつーより、『近い』んだ。お前らの属性」

 

 そんな日々を。

 そんな未来を語った時間を。

 勇者達が各々持っている確固たる『自分』を見て、僕は。

 

 

 

 

 

 意識が戻って、エンペラを殴る。

 

 エンペラの二刀流に切りつけられる。

 

 痛い。

 辛い。

 苦しい。

 命が尽きていく。

 

 そうだ、僕は、あの日常に。幸せな日常に。楽しい日常に、絶対―――

 

 

 

 

 

 夏凜。

 夏凜との記憶か、これ。

 もう十年になるな、夏凜との付き合いも。

 ごめんな、こんな情けない奴に付き合わせて。

 何度も何度も叱咤させて。

 夏凜は熱い奴で、なんだかんだ面倒見がいい奴だったから、ずっと甘えてたのかも。

 

 ああ、そうだ。意識飛んじゃったけど、頑張らないと。夏凜が幸せになるとこは見ないと。

 

「私達が戦う理由?」

 

 この記憶はいつのだっけ。

 ああ、そうだ。

 夏凜に修行をつけてもらった時の記憶だ。

 

「本質的には、自分のためでしょ?」

 

 夏凜は確たる『自分』を持っていて、それが本当に揺らがない。

 最初にツンと接することがあっても、結局本当の自分で接するようになってしまうのだから、本当に筋金入りだ。

 

「自分を犠牲にしてまで世界や他人を救う、って何か違くない?

 世界を守るのはその世界で明日も生きたいからでしょ。

 他人を守るのはその人が無事に笑ってないと寝覚めが悪いからでしょ。

 自己犠牲してまで守りたい人がいるって気持ちは私も分かるけど……

 それでも、まずやっぱり自分が生き残るって、そう考えないと、何か変になるような」

 

 難しいわね、と夏凜は呟く。

 

「でも、うん」

 

 まず自分の幸せありきよね、と夏凜は呟いた。

 

「自分のために戦うのと、世界のために戦うのって、そんなに違うことじゃないでしょ」

 

 なんでだろうか。

 

「だからあんたも、ちゃんと『自分』のために戦いなさいよ。まずは自分」

 

 夏凜は、僕のことの多くを見透かしている気がする。

 

「あんたがその意識をちゃんと持ってないと、私は不安であんたの背中見てられないの」

 

 夏凜が僕に望んでいた成長って。

 夏凜が僕に望んでいた変化って。

 彼女が見ていた、未来の僕って、どんな風に大人になった僕なんだろう?

 

 

 

 

 

 意識が戻る。

 エンペラ星人が僕の全身を切り刻んでいた。

 一緒に戦ってくれている皆が、致命傷だけは防いでくれている。

 僕の頭の半分は、知性的に戦いを行っている。

 もう半分は、こうして想い出を眺めている。

 

 今、気付いた。

 これはきっと『走馬灯』だ。

 死んだ人間や死にかけた人間が見るという、人生を振り返る死の際の幻影だ。

 僕は今、死んでいっているのか。ゆっくりと。走馬灯が見えるくらいに。

 

 皆の胸元の、GEEDの証が見える。

 皆、誓いを守っている。

 GEのEDを諦めていない。

 なら、僕が先に諦めることなんてできない。

 皆に誓わせておきながら、僕が先にハッピーエンドを放り投げることなんてできない。

 戦わなければ。

 勝って、未来を。

 そう思いながら、全身全霊を込めて殴り続ける。

 コスモミラクルの光を、絶対無敵にさえ見える鎧に向けて、拳で叩きつけていく。

 

 僕には。

 僕には、自分がない。

 

 理性の人間にも、感情の人間にもなれなかった。

 いつだって情に流されて決めたことを揺らがしてしまうだけで、夏凜のように情だけで行動を全て決めることも、友奈のように優しくもなれない。

 安芸先生のように、優しいのに感情を理性で制御できる人間にもなれなかった。

 僕は、情で選択を変えてしまうだけの人間だった。

 

 組織と個人のどちらを優先するか、それさえずっと決めきれなかった。

 大赦と勇者の間で揺れ、どっちを優先してどっちの味方になるかも決めきれず、ずっとその時々で情に流されて、決めて。

 エンペラ星人という、組織の頂点でありながらも、他人の存在や意志を全く考慮しない究極の個人をみれば、僕の救いの無さは本当に分かりやすい。

 

 僕には、自分がない。

 

―――あんたは信じてるけど、あんたの大丈夫は信じない

 

 夏凜は僕にそう言った。

 本当に、核心を突いた言葉だ。

 夏凜は本当に凄い奴なんだよね。

 これは僕の内側深くに刺さる言葉だった。

 

 夏凜は僕を信じてる。

 でも僕の「大丈夫」を信じてない。

 

 夏凜は分かってるんだ。

 僕が、皆に必ず生きて帰ると約束しても……僕の犠牲で死の運命にある皆が助かるって言われたら、僕は約束を破りかねない人間なんだって。

 皆への情に流されて、人柱になりかねない人間なんだって。

 僕はまだ、他人への情に流されて選択を変えてしまいかねない、他人との約束をそれで破ってしまいかねない人間だった。

 

 気付いていても止められない。

 それで皆が救われるなら、という想いを止められない。

 死にたくないと思っても、止められない。

 なんでだろう。

 僕が皆を大好きだからだろうか。

 それとも、僕の遺伝子が……生まれた時からずっと、『ウルトラマン』だったからだろうか。

 

 情に流されて、僕は生きて帰るという約束を破りかねない。

 僕には『自分』が無い。

 僕はエンペラ星人を殴る。

 ひたすら殴る。

 

 僕には自分がないから、大赦という居場所にすがりつき、兄弟を殺すと決めていたのにバイオカンデアの騙りに騙され、情に流されて自分を一貫できず、将来の夢もまだ持てていない。

 ずっと、不安定な自分があって、情けない自分がいた。

 

 でも。

 日々の中で、譲れないものができた。

 これが好きだと、思えるものができた。

 絶対に死なせたくないと思える他人が出来た。

 何が何でも守りたいと思えるものが出来た。

 どうしてもしたくないことが出来て、絶対に成し遂げたいことが出来て、掴みたい希望と未来の想像図が出来て……これが『自分』なんだと、そう思えるようになった。

 

 エンペラ星人に全身を切り刻まれる。

 エンペラ星人を蹴る。

 ひたすら蹴る。

 

 生きたい。

 死にたくない。

 死んでいく体が怖い。

 尽きていく命が怖い。

 

 僕は、生きたい。

 

 生きたいんだ。この世界に生きていたい。―――皆と、幸せに、なりたい。

 

「驚いた」

 

 アーマードダークネスが崩れていく。

 いつ、崩れたのだろう。

 いつ割れたのだろう。いつ砕けたのだろう。

 傷だらけの僕の拳が、僕らの力が、砕いたのだろうか。

 

「余の足元を蠢く程度の存在が、余の鎧を砕いたか」

 

 砕けた鎧が地に落ちていく。

 

 砕けた鎧の向こうには、アトロシアスのエンペラ星人の、途方もない漆黒たる暗き闇の肉体があった。

 その肉体は、未だ無傷。

 

「始まりのコスモミラクル光線を当てた箇所を始めとし……

 強力な攻撃を当てた場所を計算し、繰り返し攻撃を当て、砕いたか。

 ウルトラマン如きには決して成せぬ所業。人の妄執、執念……いや、一心に打つ希望の光か」

 

 どのくらい僕は拳と脚を叩き込んだんだろう。

 僕の拳が傷だらけになるまで、何度叩き込んだんだろう。

 分からない。

 でも、チャンスだ。

 ここで、決められれば。

 そう思う僕の足は動かず、巨人の体は立ち上がれない。

 なんで生きているのか分からないレベルで、僕の全身は切り刻まれていた。

 

 全身の切り傷が痛い。

 なんで、僕は、まだ、死んでいないのか。

 決まってる。

 まだ、諦めていないからだ。

 

「だが、ここまでのようだな。もはや全ての力を使い切ったと見る」

 

 オールエンドの時と同じくらい……いや、それ以上に消耗して、摩耗している。

 膝をついたまま立ち上がれない。

 僕の命が底をつく。

 エンペラ星人の闇の手が、僕の頭に向けられる。

 全ての力を束ねたグリッターインフィニティーで、アトロシアスのアーマードダークネスを壊すという途方もない奇跡を起こして、それで……それで、終わり?

 ここで、終わり?

 

「底無き闇に沈め。貴様らの命運は、ここに尽きたのだ」

 

 エンペラの声が聞こえる。

 皆の声が聞こえる。

 カラータイマーの点滅が聞こえる。

 だけど、どの言葉も、どの音も、まるで理解できない。

 頭が、心が、体が、動かない。

 

「―――!」

 

 体が倒れる。ここで終わり? 嫌だ、諦めたくない。

 

 生きたいんだ。

 

 皆と、一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、熊谷竜児達の終わりなのか?

 神樹の中の神々の力も、英霊の力も、巨人の力も、全て費やした。

 別宇宙からのメビウスの力も、宇宙人の友達(キングジョー達)の力も、その家族の力も、全て費やした。

 勇者の力も、勇者になれなかった者の力も、市民の力も、大赦の力も。

 西暦の先人の力も、満開の力も、大満開の力も、科学の力も、全て費やした。

 もう何も残っていない……ように、思える。

 

 竜児は言った。

 「もう地球上には奇跡を起こす素になるものが残っていない」と。

 ……ならば、地球の中ならば?

 

 一部の宇宙人が、地球などという星を狙う理由とするエネルギー。

 地球という星の命であり、意志であるエネルギー。

 ウルトラマンガイアやウルトラマンアグルを生み出し、具現化させる根本のエネルギー。

 それを、ウルトラマン達の世界では『ビクトリウム』と呼んでいる。

 

 地球の力があり。

 地球の光があり。

 地球の意志があるのなら。

 それはいつも、「地球の子らに滅びるべき罪などない」と優しく語りかけている。

 

 地球は、地球の滅びも、地球人の滅びも認めてなどいない。受け入れてなどいない。

 だからこそ、ウルトラマンに地球人を選ぶのだ。

 この星を守り、地球というものの在るべき姿を守ってくれと、祈りながら。

 

 地球という人類全ての母が、ウルトラマンメビウスに光を注ぎ込む。

 

 竜児は母を知らない。

 銀や風との会話でそうであったように、それを気にすることもある。

 だが、地球という母は、いつも竜児を見守っていた。

 そして人類が地表の全てを天の神から取り戻したこのタイミングで―――地球生まれで地球育ちのウルトラマンであると叫んだ彼に、力をくれていた。

 点滅していたインフィニティーのカラータイマーが、青に戻る。

 

 それでも足りない。

 まだ足りない。

 暗黒の皇帝を倒すには、あと少し足りない。

 全てをつぎ込み、地球の力も加えた。

 ……それでも、まだ少しだけ足りない。

 

 もう一つ、あと一つ、誰かの何かの力があれば。

 

 竜児は朦朧とする意識の中、メビウスの言葉を思い出していた。

 

■■■■■■■■

 

『リュウジも、カリンちゃんも、ギンちゃんも、何になってもいいんだ』

 

『未来があるというのはね。どんな自分になってもいいということなんだよ』

 

『大人も、子供も、いつでもなりたい自分になっていい。

 特に子供には、無限の可能性と未来がある。

 どんな夢を叶えてもいい。どんな未来に行ってもいい。どんな自分になってもいい』

 

『君達が戦って守ってきた未来だ。

 君達がどんな未来を選んでも、誰にも文句を言う権利はないよ』

 

■■■■■■■■

 

 熊谷竜児は、多くのものを見てきた。

 

 勇者達を見た。

 大赦の大人達を見た。

 勇者の親を見た。

 勇者になれなかった者を見た。

 後悔する大人を見た。

 間違ってしまった兄弟を見た。

 天の神の走狗となった兄弟を見た。

 怪獣を見た。

 光の巨人を見た。

 闇の巨人を見た。

 

(僕は、何にでも成り果てるし、何にでもなれるし、何になってもいい)

 

 メビウスのような光の者になっても良い。

 エンペラのような闇の者になっても良い。

 父のように力だけを追い求めるものになっても良い。

 それが、未来があるということだ。

 自らと向かい合う竜児に、彼と一体化している神樹が囁く。

 

『最後の時に、我らは消えよう』

 

 神樹は、尽きかけの寿命の使い方を決めていた。

 

『全ての試練を越えた時、その報酬に、其方には新たな命を与えよう。この身を犠牲にしても』

 

 神樹が未来を見せる。

 それは、勝利の先にある未来。

 竜児達がエンペラ星人を倒した後、神樹がその命を犠牲にすることで、竜児の寿命をも救ってくれるという完全無欠のハッピーエンド。

 神樹は勝利の先の未来を見せてくれていた。

 見せた上で、少年が諦めない意志を更に強めることを望んでいた。

 

 勝てば、全てが解決する。

 ……勝てれば、の話ではあるが。

 グリッターインフィニティーでも、あの皇帝に勝てるかは分からない。

 

 神は静かに、少年に語りかける。

 

『君が君らしくいるためには、誰の笑顔も曇らせてはならなかった。不幸にしてはならなかった』

 

 ―――東郷さんがちゃんと幸せになれないと、僕が後腐れなく幸せになれないからだよ

 

 神はそう言い、竜児はかつてそう言った。

 

『其方の願いが今、未来を変える』

 

 ―――皆の幸せな日々の未来を―――僕が守るっ!!

 

 神はそう言い、竜児はかつてそう言った。

 

『よくぞここまで来た。

 定められた滅びの物語を。

 変えられぬ人柱の物語を。

 決められた自分の運命を、物語を、お前は変えた』

 

 優しい声だった。

 神様というより、人間(子ら)の歩みを褒める、親のような。

 

『何度も抗い、何度も築き、あなたはあなただけの歴史と時間を積み上げてきた』

 

 優しく暖かな、神の声だった。

 

『支え合う仲間の笑顔を、力にしてきた』

 

 竜児は一つの覚悟を決める。

 

『ならば今こそ見えるはず』

 

 奇跡を起こす神様と、奇跡を享受する人間。

 それが当たり前の関係だ。

 けれど、神様が起こせないのに、人間の意志が起こせる奇跡というものもある。

 

『君が生まれた意味。君がこの世界に来た意義。君が見つけた、君自身の本当の姿が』

 

 それが今、竜児と、勇者達の手の中にあった。

 

『咲き誇るがいい、最後の勇者。最後の花の勇者よ。

 思うまま、望むまま、この瞬間に全てを懸けるがいい。

 我らはその勇気こそを尊ぶ。

 心より溢れしその勇気は、天の神をも、暗黒の皇帝をも……無限の全てをも霞ませよう』

 

 奇跡は起きる。

 

 奇跡すらも飲み込む無限の闇さえねじ伏せる、本物の光り輝く奇跡が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、神に選ばれた少女達から始まった御伽噺。

 いつだって、神に見初(みそ)められるのは無垢なる少女である。

 そして多くの場合、その結末は―――

 

 ―――人身御供を廃して、真実と立ち向かい、仮初めではなく本当の平和を取り戻す。

 

 そんな英雄譚となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤き巨人を闇の光線で消し飛ばそうとしたエンペラ星人が、蹴り飛ばされる。

 ありえぬ速さ。

 ありえぬ強さ。

 ありえぬ存在。

 光り輝く閃光に包まれし、()()()()

 闇に閉鎖されたこの宇宙に、ウルトラマンの援軍など来るわけがない。

 

 なればこそ、ありえぬ存在であった。

 

巨人の固有の姿(オリジンフォーム)……」

 

 別の宇宙から来たわけではない。

 突然脈絡もなく生えたわけでもない。

 "そのウルトラマン"は、ずっとこの地球にいたウルトラマンなのだから。

 

「獲得したのか。この局面で、貴様自身のウルトラマンとしての姿を―――熊谷竜児ッ!」

 

 エンペラ星人が憎む光の宿敵が、また一人地球に悠然と立つ。

 

「『ゲンティウス』」

 

 "巨人となった竜児"が、口を開く。

 テレパシー無くとも、その口から発される言葉は地球の言語。

 それが、彼が『地球のウルトラマン』であることを証明していた。

 

 

 

「僕はゲンティウス。ウルトラマンゲンティウス! 地球生まれで地球育ちのウルトラマンだ!」

 

 

 

 勇敢に構えた竜児の横に、竜児と分離したメビウスが並び立つ。

 かつて超時空魔神エタルガーが自らの能力で作り出した、実体幻覚エタルダミーのエンペラ星人を倒した時の『燃える勇者』の形態。

 すなわち、赤金銀の巨人バーニングブレイブ。

 竜児が初めてメビウスを見た時と同じ、燃える炎の巨人であった。

 

 その横に立つ竜児は、黒銀青紫の鮮やかな姿。

 色合いが鮮やかながらも、色のラインが美しく、まるで花のようだ。

 メビウスと並ぶと映える青色のウルトラマンでありながら、メビウスが炎を思わせるのに対し、ゲンティウスは花を思わせる。

 

『リュウジ……なんだね』

 

「うん。僕もウルトラマンだから」

 

 そして、勇者達も、竜児の中に。

 

「皆も、僕の中にいる」

 

「私達もここにいるわよ、メビウースっ!」

 

 想いは再び二人の巨人に宿り、ゲンティウスとメビウスをグリッター化に至らせた。

 

「光の者が……足掻くな! 運命を受け入れよ!」

 

 エンペラ星人の手元から闇の本流が迸る。

 

「僕らの運命を、お前が決めるな!」

 

 その闇を、ゲンティウスが展開する光の花弁が受け止める。

 

 戦いの中で目にする機会はほとんどないであろう、光の花弁を模した盾。

 

「僕達の運命は―――僕達が決めるッ!」

 

 その盾が闇を押し返し、竜児が右手の拳を握る。

 

 竜児と共に、勇者達も拳を握り、皆で拳を振りかぶった。

 

「お前がたった一人でどんなに恐ろしい力を見せても……僕らは、一人じゃないから!」

 

 突き出された拳の先で、爆発する炎。

 花弁の盾を突き抜けた炎が、エンペラ星人の闇を焼き尽くす。

 

「絶対に、負けないッ!」

 

 闇を焼き尽くした光の炎。

 光を喰らう闇でさえも焼き尽くし、光に変える巨人の光。

 エンペラ星人の闇がその濃度を増す。新たなる巨人を見やり、光への憎悪を増す。

 鎧を失ってなお皇帝は強者……いや。

 今の皇帝の闇の質は、アーマードダークネスに闇を増幅されていた時と、全く遜色ない。

 新たなるウルトラマンへの憎悪が、闇を増大させていた。

 

「何度でも教えてやろう。光の者では決して余には勝てん!」

 

 赤き巨人と、青き巨人が並び立ち、構える。

 

「行こう、メビウス、一緒に!」

 

『ああ、共に戦おう、一緒に!』

 

 この世界における勇者達が一つになった勇者と。

 この世界を助けるために戦ってくれた赤き勇者が。

 

 本当の意味で、共闘を果たした瞬間だった。

 

 

 




 ゆゆゆ、メビウス、ジード。
 全てを繋ぐ『不死鳥の勇者』にして『花の勇者』である者として、この主人公は最初にデザインされています。

●ウルトラマンゲンティウス グリッターインフィニティー
 竜児がカプセルの力で変身したウルトラマン……ではなく。
 カプセルの力等を参考に成長を重ね、ライザーを使わず、自分の力のみで変身した姿。
 融合昇華体(フュージョンライズ)ではない、固有の姿(オリジン)である。
 体色は父ベリアルと同じ黒、兄コピーライトと同じ色合いの銀、そして竜胆に近い鮮やかな青と薄い紫。
 左手には銀と青に輝くウルティメイトブレス。
 インフィニティーの類似種の強化形態をデフォルトで備え、今この瞬間はグリッターの力も宿している。

 ゲンティウスとは竜胆の学名Gentianaの語源となった、イリュリア王国最後の王の名前。
 すなわちこれは"竜胆のウルトラマン"。
 メビウスとゲンティウスで名前の響きがちょっと似ている。偶然ではない。
 仲間達への尊敬と信頼が多大に属性に影響しており、花の形の光と燃える炎を操る光の巨人。
 皆と同じ花の勇者。

 神々の時代を終わらせ、人間の時代を再来させる、本物の『炎の巨人』。

・おまけ
GEED(ジード) GENTIUS(ゲンティウス) MEBIUS(メビウス)
『GE』ED
『GE』NT『IUS』
   MEB『IUS』

『ク』ゼ・テッペイ
 カザ『マ』・マリナ
 アマ『ガイ』・コノミ
 アイハラ・『リュウ』
 イカルガ・ジョー『ジ』

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