901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】 作:白鮭
部屋に戻ったら、簪さんがホッとした表情を見せてお帰りなさいといってくれた。束さんに拉致られて、いつまでも帰ってこなかったのでセシリア共々かなり心配したらしい。
俺たちの居なかった時に起こった学園の様子を聞きながら、俺も束さんに拉致られた後の事を、話せる範囲で話す。
……鈴と乱の時も思ったけど、話せる範囲が少なすぎる。
研究の手伝いをしながら南の島でバカンスしていた事になって、心配してたのに連絡もくれなかったと、簪さんが物凄く悲しそうに俺を見つめて来る。
対人スキルがポンコツな俺は、思いっ切り動揺して焦って挙動不審になった。物で釣るなんて俺って最低だなと思ったが、今すぐ出来て簪さんの興味を引く事なんてこれ位しか無いと、束さんから貰ったISと言う事になっている、ウイングハイロゥを見せてあげた。
「うわぁ……綺麗。光る天使の輪と、空中に浮いている光る翼ですか。着ている物も機械的な装甲じゃなくて服みたいなんですね。うん、似合ってると思いますけど、ファンタジー物か伝奇物の主人公キャラみたいですね」
そう言いながら、ペタペタと触って来る。へー、とか、うう~んとか言いながら、ぐるぐると回って色々見ながら、どんどんと顔を近づけて来た。って、近い近い近いって!!
「待って、簪さん。これ以上近いのはマズイから」
「へ?」
胸の辺りの部分鎧を見ていた簪さんが、俺の言葉に反応して顔を上げると、至近距離からお互いを見つめあう形になった。簪さんの綺麗な瞳に、俺の顔が映っている。
「うわぁ!? ご、ごめんなさい!!」
真っ赤になってワタワタし始めた簪さんの女の子らしくない悲鳴に、少し笑ってしまった。
「弐式が出来たら模擬戦も沢山することになるだろうし、今日ここまでにしよう。寝ようか?」
そう言ってベッドに入り、俺は夢も見ない眠りに入っていった。
***
簪Side
司さんと美夜が、やっと戻ってきてくれた。すごく嬉しいけど、話を聞いていたら遊んでいたようにしか言わなくて、少し悲しくなった。
きっと話せない事だって沢山あるのだと思う。仕方が無いと自分を納得させていたら、司さんがISを見せてくれた。
……IS?
嘘だよ。これはあの夜に見た、月へと昇って行った翼だし。その時に、何で二人が篠ノ之博士に連れて行かれたのかが分かった。博士にこれがバレたんだ。
博士はきっと二人の正体が分かったんだろう。ズルいと思う。私が先に見つけたのに……あの夜の綺麗な姿は、私の宝物なのに。
「それに……」
私と司さんが見つめあって、キスする直前みたいになっていた。そう思って無意識に指で唇を触る。顔が熱くなって、きっと真っ赤になっていると思う。
「うう~」
ベッドの中でゴロゴロと転がる。私の事は、他の人よりは大切にしてくれていると思う。私が困っていたら弐式を作るのを手伝ってくれて、最終的には倉持技研まで動かしてしまった。
篠ノ之博士が滅茶苦茶な宣言まで出てしまって世界の注目の的になっているけど、みんなの元に帰って来てくれた司さんは、相変わらず女の子が苦手な優しい人だった。
「私の事を、どう思ってるのかな?」
司さんも美夜も凄い。姉さんにだって負けていないと思うけど、姉さんと違って暖かい人。だけど……
”無能のままで、いなさいな。”
……私はダメな子だから、きっと愛想を尽かされる。そんな思いと、絶対にそんな事は無いって信じている思いとが、私の中でぐちゃぐちゃに混ざり合って、その日は声を押し殺して泣き疲れて眠ってしまった。
次の日、泣き過ぎてまぶたが腫れてしまっているのを司さんに見られて、ものすごく心配された上に、冷やしたタオルと暖かいタオルを交互に乗せてくれて、腫れが引くまでお世話をしてくれた……優しすぎて勘違いしそうです。
司さん、私はあなたの傍らに居ても良いのですか?
簪Side out
***
朝になって簪さんの様子が何かいつもと違っていたが、それ以外にも何かざわついている様な感じがする。様子がおかしいのを不思議に思いながらも、いつもの四人で待ち合わせをして朝食を取る。
「お帰りなさい、司さん」
セシリアがはにかんだ様に笑って挨拶をくれる。簪さんもそうだけど、セシリアの顔を見ても学園に帰って来たと実感できてホッとする。
「ただいまセシリア。色々あって疲れたよ」
顔見知りの子たちも、少し離れながら挨拶をしてくれる。だけど……うん?
「どうかしましたか?」
「何か一部の人たちが、ギラギラしながらこっちを見てる気がする。落ち着いてきたと思ったんだけど、なんだろ?」
「ああ……篠ノ之博士の宣言のせいですわね。司さん、気をつけて下さいね」
「セシリア、そんなフラグは要らないから。束さん、何かしたのか?」
束さんの名前が出た時点で嫌な予感しかしないが、俺たちに関係があるらしいので聞かない訳には行かない。覚悟を決めて聞いたのだが、俺も美夜もげんなりする様な真実が待っていた。
「いや、束さんが後ろ盾になってくれたのは有難いんだけどさ。つまり俺がそこに行きたいって、自主的に思わせれば良い訳だろ? それでこの学校は、国の紐付きエリート女子の通う女の園っと……束さん、手段は選んで欲しかった」
どおりで周りの女の子が、俺をギラギラした目で見てる訳である。スカウトに成功したら専用機の一機くらいその子に与えたって、余裕でおつりがくると思われているんだろうな。
周りを見て暗澹とした表情を浮かべていると、セシリアも俺の事をスカウトして来た。
「司さんも美夜もイギリスに来ませんか? 今なら国王陛下に謁見出来て、すぐにナイトの称号を叙勲されますわよ。そうしたら、サー・聖司にデイム・聖美夜ですわね」
セシリアはにこやかにそう聞いてくるのだが、それを簪さんが止めに入る。二人共国家代表候補生だから、立場上仕方が無いんだろうな。
「司さんも美夜も日本人だし、外国に住むのは大変だと思うから、止めた方が良いと思いますよ。
イギリスは食べ物が美味しくないって言うし、セシリアつながりで貴族とか会社の上層部の人間が集まるパーティーに、引っ張りだこにされます」
俺たちの居ない間に、随分と仲良くなっていたセシリアと簪さんが、一転して火花を散らし始めた。二人とも目が真剣で、俺たちの身柄はかなり重要視されているみたいだ。
だけど、俺は一つだけ決めていた事がある。
「簪さん、申し訳ないけど日本だけは選ばないから」
俺がそう言った瞬間、食堂の中が静まり返った。
***
「え……?」
簪さんが呆気にとられた表情をしているが、これは以前から考えていた事だ。
「何でですか? 日本に所属していた方が色々な面で有利だと思います」
さっきの呆気に取られていた表情から一変、真剣に俺を見て始めた。そこにはいつもの柔らかい表情や穏やかな表情は無く、納得出来ないと顔に書いてある。
こんな場所でする話じゃないな、俺も学園に帰ってきて気が緩んでいたみたいだ。
「後で話すって言うのはダメかな。ここだと場所が悪いだろ」
「簪もだと思いますが、わたくしもこの後の授業に集中出来ませんから、今お願いしますわ」
簪が答える前にセシリアが話に食いついて来た。ゆっくり食事をする為に朝はいつも早めに来ているのだが、今回はそれが裏目に出ている。
俺の一言で終わらせれば噂で済ませられるかもしれないが、訳まで話してしまって、しかもそれが不確定多数に広まってしまったら真実として扱われるだろう。
日本から来るアプローチを考えれば絶対に避けたいのだが、セシリアの表情を見て無理だと悟った。凄くイイ笑顔で笑ってるし。
「なあセシリア、俺の事イジメて楽しいか?」
「今回に限ってはとても楽しいですわ。強力だと思われていたライバルが、一つ脱落するんですもの」
周りを見ると、外国人系の生徒が食堂の出入り口を封鎖して、俺が逃げない様にしているみたいだ。束さんのネームバリューを甘く見ていた。失言一つでこれかよ……
「話さないと収まらないんだよな」
簪さんとセシリア、他にも今回の背景が分かっている生徒は、全員が肯いたり俺に返事を返したりしているので諦めて話す事にする。別に俺の懸念を話すだけで、改善出来たら日本に所属しても構わないのだし。
「先ず束さんは
具体的な話をし始めると、全員が静かに聞き始めた。これから言う事って政府批判になるから、国立の学校で大っぴらに言うのはマズいと思うんだけど……正直な気持ちだから仕方が無いよな。
「後は日本は外交下手で軍事下手、おまけに政府の中枢に日本に対する忠誠心が怪しい奴らが山ほどいるっていうのがな。所属した国の要請は受けるし仕事は当然するけど、あからさまに理不尽を事を言って来そうな所は避けるよ。選べる立場になったからには、条件の良い所を選びたいし」
この分枝世界の日本人じゃ無いから、俺の大切な人間と大切にしたい人間以外はどうでも良いしな。正直言って日本人だからって理由で、すり寄って来られても迷惑なだけだ。
「……話し終わったから、先に行ってるよ」
俺は食事を切り上げて退席した。
***
セシリアSide
「私もごちそうさま」
簪も席を立って食堂から出て行きました。司さんを追って行った訳では無さそうなのですが、元気が無いので気になってしまいます。簪とはこの一件ではライバルですが、一方で仲の良い友人でもあるので心配なのです。
……もう一人の友人は、もきゅもきゅと我関せずに食事を続けていますが。わたくしは、この件についての美夜の意見を聞いてみました。
「美夜はそれで良いのかしら? 司さんは日本を出るって言っていましたが、当然付いて行きますよね?」
食べるのを止めた美夜は、わたくしを見た後、少し考えてから話始めました。
「うん、付いて行くよ。私と司が離れるとかあり得ないからね。司も考えてはいるんだろうけど、私としては仲が良くて地位もあるセシリアの所に行くのが良いと思ってるし」
聞いているわたくしが思うのも変なのですが、美夜が明確に自分の意見を言うのに驚いてしまいました。普段は司さんに任せてのんびりしているのですが、この件に関しては違う様です。
「わたくしが聞いておいて言うのも変ですが、美夜が自分の意見を言うのは珍しいですわね。ほとんど司さんの意見に従っていたのに、この件に関しては別なのですか?」
「今までのとこれは全然違うからね。司のコミュ障と女の子苦手なのは人見知りから来てるから、人に慣れるのにはこの場所は良い環境だと思うんだ。女の子が多いし、司に友好的な人も多から。だけど学園生でいられる三年間で完全に治るとは思って無い。だから卒業して生活するなら、出来れば居心地の良い所に行きたいんだよ」
美夜の話を聞いて、わたくしは苦笑してしまいました。美夜が珍しく自分の意見を言ったと思ったのですが、結局司さんの為を思って行動すると言ったからです。
「美夜って、お母さん見たいですわね」
「私、そんなに老けて見える? そりゃあ司より何周期も年上だけど、見た目は”宿命”に変えられたし、司だって可愛いって言ってたし……」
美夜がいきなり暗くなって、ブツブツと言い出してしまいました。美夜の場合は容姿が整い過ぎていて、知らない人の場合は気後れするでしょうが、それを見て老けているとか思う訳がありません。
「容姿の事を言っているんでは無くて、司さんに対する態度の事を言ってるんですが……そろそろ時間ですから、教室に行きましょう。今日はわびおねの事を司さんに頼むイベントもありますしね。わたくし、楽しみにしおりましたのよ」
「司は昨日からげんなりしてたけどね。セシリア、貸し一つだから」
「美夜は老けていませんから大丈夫ですわ。美夜だって篠ノ之博士の協力者の一人なんですから、美夜の容姿でその発言をした事が外に漏れると、変なのが湧いて大変な事になりますわよ……」
わたくしと美夜は、雑談をしながらのんびりと教室に向かいました。美夜の願いが叶ったら、今後もこういった生活が出来るかもしれないのです。わたくしも、そんな生活が出来たら良いと思いながら、美夜とのお喋りを楽しむのでした。
セシリアSide out
***
教室に入って、みんなに挨拶をしながら席に行こうとすると、のほほんさんが割りばしに上と書かれた紙を挟んだ物を渡してきた。
「なにこれ?」
「みんなからの、わびおねの要求が書いてあるよ~。美夜とセシリアはつかつか側だから、かろうじて近づける私が交渉役~、後お帰り~」
相変わらずゆるい感じの、のほほんさんに癒されながら要求書を見る。お姫様抱っこに、腕を組んで放課後デート……
「ただいま、のほほんさん。二つ質問がある。セシリアとのほほんさんの要求の、後ろから抱きしめながら写真撮影は本気かよ? 後、自分たちが指定する先輩を交えて、美夜と一緒にお茶会が四人もいるんだけど?」
セシリアも美夜もまだ来ていないから聞く事は出来ないけど、セシリアには実行する前に聞けばいいか。
「のほほんさんは本気か? 俺が恥ずかしいから嫌なんだけど……」
「本気だよ~、みんなに自慢するんだ~」
「生臭い事になりそうだから、無暗に広めないでくれ!」
のほほんさんが意見を変えないかと思って目で訴えるが、のほほんさんが喜ぶだけで意味が無かった。
「分かった、やるけど絶対に取り扱いには注意してくれよ。週刊誌に載るとか俺は絶対に嫌だからな! 順番だから、その時が来たらお手柔らかにお願いします」
微妙にヘタレながら、のほほんさんにお願いしておく。のほほんさんはスタイルが良いから、生々しくなりそうで嫌なんだが、本人が良いって言ってるからなぁ……話題を変える為に、もう一つのお茶会の事について聞いてみる。
「これって、束さんの宣言のせいだよな。一般の生徒にまで広がってるのか? 政府関係者にしか広まって無さそうだし、俺と美夜が帰って来たのは昨日だぞ?」
「あのね、つかつか~、お茶会を頼んでるのは国費留学生だから~」
「ああ、奨学金が国から出てるのか。そう言う理由なら、クラスメイトの為に一肌脱ぐよ。ただ、美夜には聞いてみないと分からないけどな。四人共それで良いか?」
既に教室に来ていて、緊張しながらのほほんさんと俺の話を聞いていた四人は、俺が了承した事であからさまにホッとしていた。どうやら上に強く言われているみたいだ。
「それとあいつらは何やってるんだ? まだ転入の挨拶もしていないだろうに、こんな所に居て良いのかね」
「つかつか知り合い~?」
「昨日出来た友達だよ。ちょっと行って来る」
「いってらっしゃい~」
一夏と箒、それと昨日ぶりのちんまいのが二人して、何やら騒いでいた。
***
「そこのアルアルコンビ、まだ転入の挨拶もしてないだろ? 職員室で待機してないと怒られるぞ」
抜け出して何やってるんだか。そう思って呆れていると、鈴がグリンとこちらを睨みつけて、指を突き付けながらずんずんとこっちに近づいて来た。
「司! その大陸の血を引いてるからって、何にでもアルアル言うの止めて! テンプレなんて死ねばいいのに!!」
「相変わらず鈴は面白い奴だな。乱もこんなおねえちゃんの世話は大変だろ? 困ったら相談に来ていいからな」
さらっと鈴を流しながら、乱に言うのだが……あ
「大体、あんたはとは昨日の勝負のつづ……」
周りも見ないで俺に突っかかってこようとした鈴は、織斑先生が来たのに気が付かなかったらしい。出席簿が今日一番の音を立ててるし。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと教室に戻れ、邪魔だ。司も席に戻れ、SHRを始めるぞ」
鈴と乱を追い払って俺が席に着くのを見届けた後、織斑先生はSHRを始める。
「今日は転入生を紹介する。入ってこい」
鈴と乱はこっちのクラスか? そう思って扉の方を見ると、予想外の人物が入って来た。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国には不慣れな事が多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
みんなは男だと言うので黄色い悲鳴を上げていたが、俺にとってはそれどころでは無かった。
「あれ、こんな展開だったっけ?」
何か変だとは思うのだが、その何かが俺には分からなかった。