901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】   作:白鮭

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旧:残り時間36秒 全面改訂


オートマトン

クラス対抗戦当日、俺は美夜、セシリア、篠ノ之、簪、乱を誘って第二アリーナに来ていた。

目的は第一試合の一夏対鈴の試合を見る為になのだが、途中で篠ノ之が消えてしまったのだ。

 

「あれ、篠ノ之は飲み物でも買いに行ったのか?」

 

背が高くて外見がアルビノの俺はこの学園では兎に角目立つので、普通に周りを見回せば俺たちとはぐれる事も無いと思うのだが、周りを見回してみても長髪のポニーテール姿が見えないのだ。

時詠みは自分が中心になる出来事しか読めないし、仮に見る事が出来たとしてもプライベートを覗き見るのは気が咎める。そう思って篠ノ之を探していると、俺が何をしているのか分かったのか、乱がトゲがある様な声で言って来た。

 

「箒だったらピットに行ったわ。一夏の応援に行くって言って。司に声をかけなかったのは、止められるのが分かってたからじゃ無いの?」

 

「あー……そうか。乱、教えてくれてありがとう」

 

俺や美夜やセシリアに言えば止められるだろうし、簪と篠ノ之はお互いに人見知りする(たち)なので声をかけづらかったのかも知れないが、無言で消えられると少し寂しいし、そう言う好き勝手な事をしているのを、他の人間がどう見ているかと言う視点が篠ノ之には全然足りてない。

まだ五月だと言うのに、クラスの人間から我儘で自分勝手だと見られたらどうするつもりなんだか。篠ノ之には、束さんみたいに好き放題生きられる力なんて無いと思うんだけどな。

 

「私も鈴おねえちゃんの代わりに一夏の教官役をやったから分かったけど、あの二人の嫉妬心とめんどくささが良く分かった。司、おねえちゃんが迷惑かけてごめんなさい」

 

乱の話を聞いた後に考え事をしたせいで、思わず苦い表情をしてしまったのを見たのか、乱が慌てた様に言って来た。

篠ノ之にしても鈴にしても困った事をするとは思うのだが、それでも友達だと思っているから色々と手伝ったり、間に入ったりしているつもりなのだが、二人にとって迷惑なのだろうか? 生前から人付き合いで失敗しすぎて、俺はその辺の感覚が良く分からなくなっているのだ。

 

「司、ごめん……」

 

俺の顔を見つめながらもう一度謝ってくるので、乱の事を見ながら笑いかける。

 

「乱の謝る事じゃ無いだろ? チケットを取っているけど試合直前に滑り込んでも楽しめないと思うから、そろそろ行こう」

 

少し落ち込んでしまった乱を促しながら、俺たちは観客席の方に歩いて行くのだった。

 

***

 

観客席に座る前に俺以外の全員が、少し席を外すと言いながら隅の方でジャンケンをし始めたので見ない振りをしながら待つ。

……何故か乱までジャンケンに加わっている事に嫌な予感がするのだが、どうやら勝負の結果が出た様で、美夜とセシリアが俺の両隣に決まったみたいだった。

 

「司、大丈夫?」

 

「美夜が何を言ってるのか分からないけど、俺は平気だよ」

 

「私は、何があっても司の味方だから」

 

「…………ありがとう。いつも済まないな、美夜」

 

席に着く寸前、顔を寄せて囁いて来た美夜に俺も囁き返す。俺はエターナルに成って色々なものを手に入れたと思うのだが、一番大切で無くせないものは人の縁だと思っている。

 

だからこそ、今の経験はかなり貴重だ。俺も気を使って生活してるが、この女子高みたいな環境の中に居て、今の所嫌われている様子が無いのだ。

それに人見知りする事も知られているし、女の子が苦手なのも知られている。その上でリハビリに付き合ってくれるこの学園の環境と生徒が俺は好きだ。

その学園生である友達二人に迷惑を掛けられるのも許容範囲の内だ。ただ、まあ……いい加減決めて欲しいとは思っているのだが。

 

 

 

 

 

席に着いてみんなと話しながら待っていると、一夏対鈴の試合が始まったのだが、残念ながら試合の流れは対戦予定が組まれた時に予想した通りに一夏が苦戦していた。

 

『織斑くん、上手くなったね。私、鈴に蹂躙されて終わると思ってた』

 

『俺もそう思ってたんだけど、予想以上に成長してるな。一夏はISに搭乗して約一ヶ月だし、鈴も一年で専用機持ちの代表候補生になったって言ってたから、どっちも才能あるんだろうな』

 

『……司さんが才能云々って言うのは理不尽だと思いますわ。わたくしはBT兵器の適性Aですけど、司さんの使っているオーラフォトンほど使いこなせていませんもの。たしか司さんが専用機を手に入れたのは、織斑くんより後でしたわね』

 

『”聖杯”は誕生の過程が特殊だからな。俺以外の人間が絶対に使えない代わりに、シンクロ率があり得ないくらいに高いんだよ。イメージさえすれば、永遠神剣側が俺の意を汲んで……』

 

『司! ……言って良い事と悪い事がある。セシリア、司が言った事は忘れて』

 

『美夜、悪い。セシリアも忘れてくれ。最近疲れてるせいか、俺もロクな事を言わないな』

 

『あの…………はい、忘れる様に努力いたしますわ』

 

――ここ最近の対人関係のストレスがかかる環境が負担になっているのと、直前に聞いた美夜の言葉で少し気持ちが楽になったせいなのか、俺の素の言葉が漏れてしまった。

周りの歓声でお互いの声なんて聞こえなかったので、ズルして個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)で話していた事が功を奏して周りに聞かれる事は無かったが、余計な事を言った俺を美夜が珍しく非難するような眼で見ているし、セシリアはそんな俺と美夜を何か言いたそうな目で見ているのだ。

 

当然の事だが、セシリアには永遠神剣の事もエターナルの事も話せない。

だけど、もしかして俺はセシリアに聞いて欲しかったのだろうか? この疑問が心に残ってしまって俺の口数が減って行き、後はお互いに口を開く事が無くなってしまった。

 

その間も試合が続いているのだが、鈴の衝撃砲に徐々にシールドを削られるのを嫌ったのか、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)とバリアー無効化攻撃を一気に放つと言う賭けに出たが、その攻撃は予想外の出来事で中断される事となった。アリーナの天井にある遮蔽シールドをぶち抜いて、第三者が乱入して来たのだ。

 

乱入して来たのは、こげ茶色の鋼鉄の巨人とでも言うのだろうか? 通常型のISとは違い、全身装甲(フル・スキン)で覆われた耐久性の高そうな機体で、そいつは躊躇なく鈴に対してビーム兵器を撃ち込んでいる。

 

それを見て、俺と美夜は即座に行動を開始した。

 

「美夜、反対側に回ってくれ。万が一観客席側の遮蔽シールドが破れた場合、防御を俺たちで担当する。後、一夏と鈴が危なかったら乱入してあいつを潰すぞ」

 

「うん、分かった」

 

俺は戦闘装束を召喚した後で、ハイロゥを展開して空中に浮きあがる。

そのまま遮蔽シールド側に移動しようとした時に、個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)で通信が入って来た。

 

『理由は話すから、つかちゃんは介入しないで欲しいんだ。束さんとしても、つかちゃんに解決されちゃうと困るんだよね』

 

さっき美夜とセシリアと会話していた個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)の回線が今も生きているので、そのまま美夜とセシリアにも束さんの声が聞こえているのだが、ここでそれを言ってももう手遅れだ。

美夜は俺の隣で空中に浮きながら通信を聞いているみたいだし、セシリアは一夏たちが戦っているアリーナを見ながら凍り付いた様に動きを止めてしまっているのだ。

美夜は色々分かっているから良いのだが、セシリアに聞かれたのはいくら何でもマズイ。

マズいのだが、被害をなるべく軽減する為にも、このまま束さんと話し合うしかなかった。

 

『……あれを突入させたのは束さんかよ。兵装の威力的に一夏と鈴のISがまともに食らったら一溜りも無いし、流れ弾が観客席側の遮蔽シールドに当たったら大惨事だ。とっとと撤退させてくれ』

 

『えー、そんなどうでもいい奴らが、いくら死んでも問題無いでしょ?』

 

『そう言う事を言うんだったら、今から正面の遮蔽シールドをかち割って、あのISを”虚空”で叩き切るけど? シールドバリアーも絶対防御も、空間ごと切れば破壊出来ると思うけど、俺はそれをしたくないんだよ。それと、あれにクロエが乗ってるなんて事は無いよな?』

 

『あんな欠陥品に、くーちゃんを乗せるなんてあり得ないって。状況認識能力に問題が出てる無人機だし、これはいっくんをデビューさせる為のイベントなんだよ』

 

『デビュー?』

 

俺と美夜がISを展開させて空中で留まっているのと会話を聞いているからなのか、セシリアは乱に話をして、制服をその場で脱いでISスーツ姿になった後で簪に制服を預けているのだ。

それを横目で見て、三人に座席から離れて通路に移動する様にジェスチャーを送りながら、束さんの話に耳を澄ませる。

 

『そう。つかちゃんと、みゃーちゃんの重要性が増し過ぎて、いっくんが軽く見られてるんだよ。束さんの重要人物ランキング的に言って、いっくんは一番低いからそれも仕方がないかなぁ~って思ってたんだけど、男はつかちゃんがいるから使い潰せって、アホな事言い出したクソが出て来たからさぁ……まあ、潰したけど。だから、いっくんの為のイベント起こしたんだ。これでいっくんがゴーレムⅠを倒せば、再評価されるでしょ』

 

『俺と美夜が暴れすぎたから、一夏の評価がそこまで下がったのか……分かった、協力する。アリーナ内で戦っている内は目を瞑るけど、遮断シールドに攻撃したら殲滅するから。ゴーレムⅠだっけ? その辺は考えて動かしてくれ』

 

『無人機のテストも兼ねてるから、そう言う細かい事はまだ出来ないんだって。暴れさせるのには問題が無いんだけどさ…………あれ?』

 

『束さん、こんな時にそう言う事言うの止めてくれ。何があった?』

 

それまでの余裕のある態度から一変して、いきなり束さんが焦りながら俺に助けを求めて来た。

 

『何で箒ちゃんが通路にいるの!? 終わるまでの時間稼ぎに、ゴーレムⅠ三機を第二アリーナ内に放してるんだよ! 見つかったら箒ちゃんが殺されちゃう、お願いつかちゃん助けて!!』

 

束さんの言う言葉を聞いて、即座に時詠みを使ってルートの選択に移るのだが、走って移動した場合は篠ノ之が死んだ状態でゴーレムⅠと接敵状態に入る。

アリーナの遮蔽シールドを破った後に、アリーナ側から通路の壁を破って篠ノ之の居る場所に移動した場合は、壁を破った音にゴーレムⅠが反応して集まって来るので篠ノ之が危険に晒されるし、アリーナ側の遮蔽シールドも無くなるので、一夏と鈴の対応次第では観客席に流れ弾が直撃する可能性があるのだ。

 

『…………ルート選択が終わった。篠ノ之から一番近いD通路側の扉から、ISを使って最短ルートを飛行して篠ノ之の居る場所を目指す。束さん、ゴーレムⅠの行動設定は?』

 

『……あ、ろ……廊下に出てる動目標に対して、無差別攻撃をする……部屋から出ないと攻撃されないから、一応安全だよ?』

 

雰囲気と声の調子から俺が怒っている事を察したのか、束さんの声には何時もの調子が無いのだが、それに構わず淡々と準備をする。

 

『美夜、聞いてたよな。美夜はこの場所に残ってアリーナのゴーレムⅠの監視と、他の子がアリーナから出ない様に見ていてくれ』

 

『うん、それは良いけど……どうしたの?』

 

美夜も俺の様子を見て変だと思ったのだろうが、それはある意味当然だった。何しろ今の俺は、時詠みを使っている事でこれから先の未来が分かっている。

勿論、完全に制御しているので、ゴーレムⅠ絡みのゴタゴタが終わるまでしか見えない様にしているが、それでも俺が怒る事が確定している未来がこれから来る……いや、今来たのだ。

 

「司さん、わたくしに出来る事を何でもやります。お願いです、わたくしにも手伝わせて下さい」

 

「司、私も手伝う。何をすればいい?」

 

「私はISが無いですけど、それでも出来る事があるなら何でも言って下さい!」

 

――セシリアと簪と乱が集まって、俺の手助けをしたいと言って来るのだ。そして、三人を説得して止めさせようとすると時間切れで篠ノ之が死ぬ事になるが、連れて行った場合には事故はおこして、セシリアと乱が死ぬ可能性がある。

死ぬ可能性は因果律操作を使う事で無くす事は出来るが、二人を危険に巻き込む事を思えば、それが思わず態度や口調に出てしまうのは仕方の無い事だと思う。

 

『時詠みでこれが避けられない事が分かってたからであって、二人に怒ったわけじゃないんだ。誤解されるような行動をして悪かった。付いて来る人に一筋だって傷はつけないから、美夜はここで他の子が外に出ない様に見てほしい。それと束さんは、これから行動に出る人間に対して、命の借りを作ったって言うのを肝に銘じておいてくれ。その代わり、篠ノ之の事は絶対に助ける』

 

美夜と束さんの疑問に答える為に話をしながら、D通路の扉を開け放った後に通路と自分のサイズ差を見比べる。

身体と非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)扱いのエンジェルハイロゥ(天使の輪)ウイングハイロゥ(天使の翼)しか付いてない俺は、ISとして見れば最小の部類だし、時詠みを使って常に先読みしながら行動出来る事を考えれば、通路内での飛行は妨害が無い分簡単な行動の内に入るのだが、セシリアのブルー・ティアーズと乱の甲龍・紫煙(シェンロン・スーイエ)はサイズ的にギリギリで難易度が上がってしまうのだ。

 

おまけに、こう言う曲芸じみた飛行をする事自体が初めてなのに、セシリアも乱も引かないし……分かっている事ではあるのだが、色々と思う所は出て来てしまう。

 

それでも、これ以上時間がかけられない以上はこう言うしか無かった。

 

「簪は美夜と協力して、アリーナの外に人が出るのを防いでくれ。アリーナの通路に一夏と鈴が戦ってる奴が、後三機存在してる。美夜、簪、頼んだ……それと、二人共付いて来るつもりか?」

 

通路を確認した後に後ろを振り返れば、セシリアと乱が扉を挟んだ向こう側で俺の方を見ていた。

 

「友達を助ける。それ以外の理由なんて必要ありませんわ」

 

「いなくなったら、一夏もおねえちゃんも悲しむじゃない。それだけで十分よ」

 

「分かった。通路内の最短ルートを飛行して、篠ノ之の所に行く。俺が先行するから、ガイドビーコンを参考にして付いてきてくれ」

 

「はい」

 

「うん」

 

そのまま二人共扉を越えて、俺の方に歩いて来てISを展開する。

 

「三人で困った友達を助けに行こう。俺にこんな事言われてるって知ったら、篠ノ之は怒ると思うけどな――行くぞ」

 

俺の言葉を聞いたセシリアと乱の微かな笑い声をその場に残して、俺たち三人はアリーナ観客席側D通路から、篠ノ之を助ける為に飛行を開始するのだった。

 

 


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