901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】   作:白鮭

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旅立ち

 蒼い鋼のように見えるメルクアで出来た刃が、文字通り目にも止まらないスピードこちらに向かっているのを時詠みと因果律操作の能力を使って察知している俺は、時間と可能性の糸を辿って回避を試みる。

 

 十の内の七の選択肢では、直撃して腕が飛ばされる。”聖緑”を持ってるとはいえ、その時点でマナの霧に帰ってもおかしくはない。

 

 十の内の二の選択肢では、攻撃が掠った衝撃で地面に叩きつけられる。

 

 十の内の一の選択肢では、回避が辛うじて成功するが、体勢を整えきれなくて追撃を避けられない。

 

 ならば十一番目の選択肢を取る。

 

 時間が足りないので、その時間を圧縮する事で自分の相対時間を増やして、回避と同時にウイングハイロゥで全力で離脱を試みる。

 

 成功。だが手に持った”聖緑”は支援系の機能が高い永遠神剣で、先生へ攻撃するのも先生の攻撃を受けるのも、そのまま使うのでは少々力不足だ。

 

 何しろ物理攻撃は空間に溶け込む事で完全に回避した上で、攻撃は空間ごと対象を切り裂くのが”虚空”の能力で、それをどうにかする為には、こちらも永遠神剣を使って対応するしかない。

 

 ――情報干渉系の能力を使って、先生のログ領域に干渉。

 

 永遠神剣の空間制御能力に干渉して、先生の”虚空”を受け止める事は事象を書き換える事で可能となったが、それでも元々の地力の差が出た。

 

 一合、二合、三合、四合……。

 

 時詠みによる先読みと時間圧縮と因果律の書き換え、それとウイングハイロゥによる三次元機動能力を駆使してすら、長柄の斧型永遠神剣”虚空”を駆使する先生の身体へ、俺の使う槍型永遠神剣である”聖緑”の刃が届かない。

 

 「くそ!」

 

 「勝てると思って攻撃が雑になっているぞ。司」

 

 そう呟きながら空間に溶け込んだ先生が、”虚空”を向こう側で振り抜いたのは時詠みの力で見えたのだが、完全に初見だった為に対応が致命的になるまで遅れた。

 短距離の空間転移と同時に時空を向こうから揺らす事による衝撃波らしきものが飛んで来たのは分かるのだが、その規模は津波が目の前に突然現れたのに等しかったのだ。

 

 結果、俺は時空震らしきものに巻き込まれて血反吐をまき散らしながら吹き飛んで床ペロしたところで、今日の訓練は終わったらしい。

 俺と先生の戦いを見ていた美夜が、俺の方に近寄ってくる気配を感じた。

 

 「司、生きてる?」

 

 「無理。死んでる」

 

 口ではそう言ったし今は身体は動かないが、強力な再生能力を持つ”聖緑”は俺の身体を癒し続け、十秒もしない内に完全に治療を終えたが、それを見て美夜が手を差し伸べてくれたので手を握りながら立ち上がっていると、丁度先生も通常空間に戻って来たところなので、自然と今の訓練の内容を話すようになった。

 

 「しかし、これは僕の切り札だったんだけどな。一周期も経たないで、司は遂にこの技を引きずり出すところまで出来るようになったか」

 

 「いや、マトモに食らって敵の前で寝てるのはダメでしょ。実戦だったら俺は消滅してますよ」(マナの霧に帰ってますよ)

 

 「だけど、遠距離攻撃が無いとされる”虚空の拡散”トークォからそれを出させる位には、僕に危機感を覚えさせる事が出来ただろ? それは喜ぶところだと思うんだけどな。それに司の本来の戦い方からすると、これは余技みたいなものだろ」

 

 「そりゃあ空間転移を近接戦闘に応用し尽くしていて、遠距離攻撃が必要無いって言われてる先生が遠距離攻撃の初見殺しをして来るとな……。

 見えてたし読めてたけど、身体が追い付かなかった」

 

 そう言いながら先生が俺の左中指に身に着けている指輪を見ていたので、俺は”聖緑”を消して、代わりに黄金の杯型永遠神剣である”聖杯”を出した。

 

 「まあ、これを持って近接戦闘は無理ですから。俺って本来は完全後衛型なのを、能力を開発して無理矢理適応させてるだけなんで……って、負け惜しみを言う位には悔しいんですけどね」

 

 俺がそう言うのを、二人そろって苦笑しているのを見ながら少し先生に対して距離を取ると、美夜も俺に続いて先生に距離を取り、整列した後で挨拶をする。

 

 「「ありがとうございました」」

 

 それを聞いた先生も肯いて、それから三人で並んで家の方に歩いてゆく。

 

 明るい星空の下に地面には柔らかい草が生い茂り、遠くを見れば青い直方体の巨大な岩が宙を浮き、その間を澄んだ水が流れて木々が生い茂り生命の息吹を感じられる場所。

 ここが大昔は何もないただの白い空間だったって事は、あの当時からここに居る四人以外には信じられないことだと思う。

 この空間作るのに”宿命”以外の三人でいろいろ苦労したことも、懐かしくてほんの少し笑顔になる。

 

 感慨深げに周りを見渡す。

 

 ――旅立ちの時は、すぐそこまで迫っていた。

 

 ***

 

 「司、さっきの続きなんだが、どこまで”聖杯”を使えるようになった?」

 

 お茶の用意が終わって雑談をしながら三人でくつろいでいた時に、唐突に先生にそう言われた。少し考えながら、ぽつぽつと答える。

 

 「そうですね……。修業しながら覚えたのって、修行時間が欲しかったから真っ先に覚えた時間干渉系の時読みと時逆、”聖杯”の願いを叶えると言う能力を戦闘に特化させた因果律操作、先生の攻撃を防ぐ為のログ領域に干渉して戦う情報干渉系、後は”宿命”から貰った戦闘記録から、永遠神剣を再現する法の迷宮ですかね? それとは別に、美夜からは分割思考を教えてもらいました。使いこなせれば大分強いはずです」

 

 因みに法の迷宮と言うのは、某赤い弓兵さんのUnlimited Blade Worksのパクリだ。

 視認した武器をや防具を複製する能力、複製した武具を改造する能力、使い手の経験を複製する能力を”聖杯”を使って、俺が死ぬほど苦労して再現したのだ。

 

 武器や防具の再現とは言っても、仮想敵がエターナルであるからには上位永遠神剣でもないと、相手にかすり傷すら付けるのは難しい。

 しかも永遠神剣を複製しても精神は宿らないので、本物の神剣よりは劣ってしまうし、”聖杯”よりも上の『位』の永遠神剣は複製出来ないと言う欠点もあるが、契約している神剣が黄金の杯である俺にとっては、無くてはならない能力である。

 

 ……能力が完成した後に、片手がふさがるのが不便だと思っていた”聖杯”を”宿命”を模した指輪型に改造したのだが、その後この分枝世界に俺の使える武器型永遠神剣が二本(虚空と絶炎)しか存在していない事に気がついて落ち込んでいたら、不憫に思ったらしい”宿命”が、印象に残っている永遠神剣の情報を直接頭に転送してくれたのだが。

 

 おかげで使える永遠神剣が、今の段階では色々な種類を合わせて二十一も存在するのだ。本家の赤い弓兵さんに比べたら泣けるほど少ない数だが、全て第三位以上の上位永遠神剣なので破壊力では本家以上だとは思う。

 

 後は同じく”聖杯”で開発した因果律操作や時間操作と元女神である美夜から教えてもらった分割思考、それと元から”聖杯”に備わっていた情報干渉系と言う、ログ領域と名付けられているアカシック・レコードや根源を操作して、現実を書き換える力と願いを叶える力が使えるが、俺は願いを叶えると言う能力に関しては慎重に使う事を心がけて来た。

 

 何しろ”宿命”の契約者であり、先生の姉でもあるミューギィさんも”聖杯”のオリジナルと言える”宿命”を使って同じ事が出来ていたのだが、願いを叶えると言う能力に振り回された挙句、「いやだ」と思ったせいで自身の生まれた時間樹を消滅させてしまったらしいのだ。

 

 それで”宿命”に願って自分の心を壊してしまって以後、”宿命”と先生とで心が壊れたミューギィさんを守っているらしい。こんな話を聞いていれば、”聖杯”を使う事には慎重にならざるを得ない。

 まあ”宿命”曰く、シンクロ率の違いからミューギィさんと違って事故が起こる事など無いので好きに使えば良いとは言われているのだが、俺は間違っても周辺にある分枝世界や、ましてや時間樹なんて消滅させたくない。だから、法の迷宮の能力を作り出して、自衛の為の永遠神剣での戦い方を学んだのだ。

 俺は制御をミスった挙句、自分にとって大切なものを敵対者ごと消すとか言う笑えない事態に陥りたくない。

 

 「確かに使いこなせれば強いだろうな。…………司、美夜、お前らがここに引きこもって現地時間でそろそろ五百年になるけど、司の使う時逆の精度を考えると、いい加減出発しないと美夜と約束した分枝世界ににたどり着けなくなるぞ?」

 

 先生の言う事はもっともなのだが、ここの居心地が良過ぎるので一応抵抗を試みてみる。ぶっちゃけると、コミュ障は知らない人が多い所には行きたくないのだ。

 

 「今まで一度も、まともにトークォ先生に勝った事が無いんですよ? それでここでの修業が終わりって言われても……。一周期くらい修行時間延長したいです」

 

 「司が先生の前に名前を付ける時は、後ろめたい事がある時か文句がある時だけ。今の話の流れから、後ろめたい事があるんでしょう? ボッチ大好きでコミュ障なのは、ここじゃ治らないよ?」

 

 「……美夜が俺を理解してくれるのは嬉しいけど、そこは修業が足りないよね。って言って欲しかった」

 

 俺と先生の話しているのを聞いていて美夜も会話に入って来たのだが、完全に美夜は俺の心情を理解しているようだった。ジト目で美夜の方を見れば、困った様にしながらも俺の方を見ているし。

 

 「獅子は千尋の谷から我が子を突き落とすって言うでしょ? 私も付いて行くし、現地時間で長くても百年くらいだよ。引きこもっていたから時逆のタイムパラドックスも無いし、残りの四百年は色々修業しながら旅してまわろう?」

 

 「僕もそれが良いと思う。今日の訓練の結果を見ても、いい加減ひとり立ちしても大丈夫だろう。これ以上は実践しないと感覚がつかめない事も多いからな」

 

 俺は、先生と美夜がそう言っているのを聞いて腹を括った。

 その約束は美夜の事をフードさんと呼んでいた頃から決まっていると思っていた事だし、俺にとっても美夜と初めてした大切な約束だと思っているので、そう言われると抵抗なんて出来ないのだ。

 

 「そうだな。大事な約束だし、お願いを叶えて貰ったらISの世界に行く事になってたからな。美夜も一緒に来てくれるし、一人で行くより全然マシだ。……女の子が沢山いる学園に入るとか、本音としては全力で回避したいけど」

 

 そんな事を言っている不甲斐ない生徒を見て先生は苦笑いをしているし、美夜は暢気にがんばろうと言っている。そして俺もため息をつきながら、これからの事を思ってお茶を飲むのであった。

 

 ***

 

 旅立ちの日。渡りを行うための準備をしていると、先生と久々に見た”宿命”がふよふよと浮かんでいた。

 

 「先生、今までありがとうございました。”宿命”、永遠神剣の情報とか、マナを分割して神剣のコピーをここに保管しておいてくれてありがとうな。後は、ここ以外にも分割先を増やしておけば、俺たちも完全消滅する可能性はほぼ無くなるんだろう?」

 

 ”宿命”も俺と美夜の近くに寄って来て、別れを惜しんでくれている様だった。

 

 「あなたと美夜は、私の作った神剣を持ってるのだから私の下僕みたいなものでしょ? 下僕の面倒くらい見るわよ。まあ、がんばりなさいな。あなたがたかが人間の女におたおたするのを、想像すると楽しいし」

 

 そんな感じに憎まれ口をたたいて来るが、身内には大分優しいと言う事は今までの付き合いで分かっている。指摘するとおしおきされるので、俺も憎まれ口を叩くようにしているのだが。

 

 「”宿命”は相変わらずだな。美夜に本気で怒られない程度に、精々女慣れ出来る様に努力して来るよ」

 

 「ええ、精々がんばって来なさい。……それと、最後に写真でも撮りましょう。適当な分枝世界から撮影機材を貰って来たから使ってみたかったのよ。現地時間で一万年くらい持つって言われてるみたいだし、いい記念になるしね」

 

 そういって撮った写真には、明るい星空をバックに直方体の青い岩が宙を浮き、そこから流れる水が七色の虹を作って、そして柔らかそうな草原の中に唐突に巨木が生えているという変な背景をの中で、神剣をそれぞれ持った三人と、小さく宙に浮かんだ指輪が写っていると言う変な写真が出来上がった。

因みに立体映像でも見る事が出来て、VRなんて目じゃない仕上がりになっていた。

 

 そして俺と美夜は渡りを行った。目指すはISの世界。久々に三人以外の人間に会うので、俺は今から緊張していたが、まあ、美夜がいるから平気だろうと考えていた。

 

 ……この時点で、ではあるが。

 

 俺のような筋金入りのコミュ障が、肉食系の多いISの世界に素直に溶け込める訳はなく、”宿命”がこっちを指さして爆笑するような事態に巻き込まれるのであった。

 

 

 

 

 

 




 交信の世界

 元々、司と美夜が所属していた分枝世界の一つ。
 ここの世界のクリエイター達が描く世界は、高い確率で他の分枝世界の事を描いている事が多く、実在しているものがかなりある。
 トークォと”宿命”によって分枝世界を砕かれ、その情報の多くが消えたが、時間樹のルートマップは今も美夜が保管している。

 時間樹

 エターナルが認識する宇宙である上位宇宙、神剣宇宙(マナ・ナル)に無数に存在している樹で、その中に内包しているマナによって、枝に当たる無数の分枝世界を抱えている。
 (なお、ISの世界も時間樹が抱えている分枝世界の一つである)

 ログ領域

 簡単な説明をすると、アカシック・レコードの事。

 永遠神剣第一位・”宿命”は概念破壊の能力を持ち、想像力によってこの記述を壊す事で現実世界に作用させる事が出来ます。この攻撃に対して、ありとあらゆる防御は意味を持ちません。
 (願いを叶えると言う事は、直接マナを操作してログに新しい記述を付け加える事なので、別扱いとします。)
 ”宿命”によって作り出された、永遠神剣第二位・”聖杯”と永遠神剣第三位・”絶炎”も出力の違いはありますが同じ概念破壊が可能で、その上でシンクロ率の高さ故に、司はログ領域の記述の書き換えも出来ます。こんな事は”聖杯”を作り出した”宿命”にも不可能な事です。

 周期

 エターナルが使う唯一の時間の単位。大体一周期は、約千年から二千年の間くらいだと言われている。

 渡り

 神剣宇宙と時間樹、分枝世界を自由に行き来するエターナルの能力。
 『渡り』を実行するときは、一度もとの世界で物理的に構成されているものを捨て、概念的な存在になります。その後、次の世界の物理法則に基づき、物理的実体化を行います。
 ただし『門』によってはその一連の流れを自動的に処理してくれるものもあります。そういった門が一般化している神剣宇宙では交易に利用しているところもある。
 また、再実体化を利用し、自らの位置情報を書き換えて実体化することにより、瞬間移動が可能なエターナルも存在する。





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