901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】 作:白鮭
授業が終わった後、俺と美夜は織斑先生に生徒指導室に呼ばれた。ここは入学式当日に連れて来られて、死ぬほど説教された思い出があるので出来れば来たくなかった。そんな思いが顔に出ていたのか、先生が笑ってるし。
「司、そんな顔をしなくても説教じゃ無いから心配しなくていい。もっと面倒くさい事だとは思うが、早めに終わらせよう。まともに集団戦闘を教えられる手の空いた人間が、現状司と美夜しかいないからな」
最低な事を言いながら渋い顔をしている先生を見て、俺も美夜もげんなりする。ここに来る時だってみんなから縋るような眼で見られながら来たのだ、こうなる事が分かってたのなら集団戦などしなければ良いのに。先生は座った椅子の横に置かれている紙の束に目をやっていて、俺たちが座った後にこちらを見ながら話し始めた。
「お前たち二人を強制的にでもペアにしたのは理由がある。二人に勝てる存在がこの学園に居ない事、それとトーナメント時には外部の人間が多数この学園に来場する。その外部の人間の面会希望者が多すぎて、試合をさせる余裕が無いからだ」
余りにもあんまりな本音をぶっちゃけられて、俺の目が死んだようになる。横を見ると、美夜のハイライトさんも死んでいた。
「いや・・・まぁ、簡単に負けるつもりなんて無いですけど、学園の教師の言う事じゃないでしょう。それに、俺たちは強くて簡単には戦わない事で自分たちの価値を高めていますから、学園がそう言ってくれるならそれでも良いですけど、良く周りが納得しましたね。間近で俺たちの戦闘を見られる機会を逃してまで面会したいんですか?」
そう言うと、先生も納得していないのか顔を顰めていた。
「外部へのアピールの場であると同時に、授業の一環だから納得している訳が無いだろう。素直に言ったさ、授業である以上本人たちの自主性に任せると。そしたら
なかなか笑えたぞ、自分は面会して相手は面会出来ない様に色々と裏で動いているみたいで、私の横に置いてある紙の束はその要望書だ。見てみるか?」
先生がそう言っているので、遠慮なく見せてもらった。ぜひ〇〇国より前にしろとか、■■国とは会うなとか好き放題書いてある。テロリスト支援国家とかの名前もあるし、過去の歴史の過ちを反省するなら、ISコアを寄越せと書いて来た国もある。俺は自由国籍権を持っているので日本人じゃないし、それ以前に他の分枝世界生まれだ。
だんだんアホらしくなって来たが、こういう事に手を抜くと後でロクな事にならないんだよな。
そんな訳で、相談をしながら三人で会う順序とかの話を詰めていく。俺は身内を大事にする人間なので、順番はイギリス、台湾、色々と心配だけど日本・・・ドイツも入れとくか、後は色々。企業の名前が無いので先生に聞いてみたら、机の上に乗りきらない位オファーがあるとの事、全て一律に断ったそうだ。
空が暗くなって星が瞬く時間になってようやく選考が終わる。
「お・・・終わった、全員に会って要望を聞きながら、交渉するっていうの無理だろ。こんなにいればトーナメントに出る余裕なんて無いよな。あ、そういえばこの場合の成績ってどうなるんだろ?」
「本番の時は上から目線のおじさんとかおばさんに会って、ISコア関連の話とかするんでしょ?当日は病気になろう、司」
俺も美夜も毒のある文章を読み続けていた為に、終わったのを確認した後で俺はぐんにょりと机にうつ伏せになり、美夜は俺の背中の上でぐんにょりしていた。それを見ても、織斑先生は苦笑するばかりで注意をしてこない。
「美夜重い、あとおっぱい当たってる」
「当ててるんだよ、言わせないで。後、私は重くないから」
「教師の目の前で不純異性交遊とはいい度胸だな。まあ、今日だけは何も言わないでおく。それと成績に関してだが、二人共無条件で10が与えられる。苦労に見合うとは思ってないがな」
これなら普通にトーナメントで試合をした方がマシである。先生も仕事が終わったとの事で少し待ってから一緒に寮に帰って来たら、食堂で一夏とシャルルが俺たちを待っていた。嫌な予感がするが食事しながら話を聞くと、二人で俺たちに相談があるらしい。
そう言ってはいても、シャルルは相談には乗り気では無い様なのだが。
***
人がいない方が良いと言うので、一夏たちの部屋へとやって来た。二人はベッドに座って、俺たちに備え付けの椅子を貸してくれた。
一夏は普通なのだが、シャルルの顔がだんだんと強張って来た。もしかして嫌われるのだろうか?シャルルに思う所は無いが、簪の件で色々あったからな。少し様子を見る事にしよう。
「少し急ぎの用なんだ。今度のトーナメントで外部の人間が学園に入って来るだろ?その時の面会予定にデュノア社を入れて欲しいんだ。頼む、二人共お願いだ!!」
そう言って、一夏とシャルルは俺たちに頭を下げた。それを見ながら美夜と俺は顔を見合わせて考え込む。
「会うのは構わないんだよ。な、美夜」
「うん・・・会うのは良いんだけど、時間がね」
トーナメントは三日間行われる、その三日間にびっしりと予定が入っているのだ。コネや伝手も能力の内だと俺は思っているので、別に申し訳なく思う必要は無いのだが、現実的な問題として予定を入れる余地が無いのだ。
「今の予定にねじ込めないから、会えるとしても最終日の遅い時間になるぞ。それで文句を言ってくるようならこの話は無しだ。俺たちは来賓のほぼ全てに会う、この言葉で悟ってくれ。詳しく説明出来ないから」
国の名前や順番、会う人などは絶対に出せない。一夏もシャルルもそこは分かっているのか神妙に肯いている。
「これで一安心だな。悪かったな二人共、こんな事を頼んで。シャルルの為に色々してやりたいからさ」
そう言って照れたように笑っている一夏を見て、俺は心の中で篠ノ之と鈴と蘭ちゃんへの慰めの言葉を考え始めて、美夜は俺が辛うじて気が付く程度に機嫌が悪くなった。
『美夜』
『ごめん、シャルルに失礼だったよね。がんばって心を射止めたのに、織斑くんの友達が変な態度を取ったらおかしいもんね』
そう言って、美夜がしょんぼりしてしまった。なので、横に座っている俺は美夜の手を握って慰めた。
『ありがとう、司。シャルルが悪い訳じゃ無いのは分かってるんだけどね・・・』
『良いさ、友達の幸せを願っての事だったんだろ?一夏がそう決めたなら祝福してやろうぜ』
『うん』
そういう感じで思わず盛り上がっていたら、目の前の二人が顔を赤らめつつジト目で俺たちの事を見ている。
「んんっん・・・いきなり二人で雰囲気を出すのは勘弁してくれ。相談って言うのはシャルル・・・シャルロットの事なんだ」
そう言って、一夏はシャルロットの事情を詳しく話してくれた。母親と二人暮らしだった事、母親が亡くなって父親に引き取られた後、その本妻に疎まれて色々あってこの学園に来た事、それと欧州連合の作戦とフランスの事・・・
「それで、シャルの安全の為にこの学園にいる事を勧めたんだけど、他にいい考えはないかと思ったんだ。司と美夜は結構そう言う事に詳しいと思って」
そう言って一夏は話を終わらせたが、難しい所である。俺たちは”宿命”に徹底的に教育されたから、権力の恐ろしさと群れた人間の怖さを知っている。最近だと、ファンタズマゴリアで起こった永遠戦争がそうだ。
”秩序”の法王テムオリンが率いる勢力でファンタズマゴリアにマナの回収に赴いて、現地に現れたエターナル、”聖賢者”ユウトと”永遠”のアセリアによって負けた戦いがそうだった。現地の人間を軽視して、裏をかかれたらしい。
カオス・エターナルの介入もあって、複数のエターナルが現地で戦ったって聞いたけど、”世界”の誕生には成功して収支がプラスになったからと、テムオリンが途中でやる気を無くして戦いを放棄したって言うのが真相だと聞いた。
そんな例もあって、現地に基盤を築いてから戦闘を始めろと言うのが”宿命”の教えだ。
今回もそれに則って、俺たちも猿でも分かる権力掌握講座を応用する事によって、運の絡んだ事とは言えISの世界に足掛かりを作る事が出来た。だけど、事前知識が全く無い一夏に同じ事を要求するのはな・・・いや、一夏の特性を活用すれば行けるか?
「一夏が学園に居られる三年の内に、強力な後ろ盾なりコネなり権力を手に入れるのが最善かな?」
それを聞いて一夏が頭を抱えているし、シャルルも考え込んでしまった。人当たりが良いから、一夏の名前を使って積極的に外で営業活動をすれば、好い線行くと思うんだけどな。
こんな事を提案してるけど、俺は一夏の様には出来ないだろうな。だんだん慣れて来たけど、コミュ障にとって知らない人が多い所は苦手なんだよ・・・今まで考えない様にしてたのに、今度のトーナメントで偉い人との交渉事とかしないと行けないのを思い出して、今から胃が痛くなって来た。
そして、勝手に自爆してダメージを受けている俺を見て、一夏も想像して顔が青くなると言う負の連鎖が完成していた。
「難易度が高すぎる!ほ、他の手は無いのか!?」
俺は胃の辺りに手をやりながら答える。
「うう、モンド・グロッソみたいな国際大会で優勝する位に功績を上げて、どこかの企業に認められる。間接的な後ろ盾を持って、それで守るとか」
「・・・他は?」
「・・・束さんを頼る。因みに俺達みたいに交渉材料が無いと、良いように使われて最後に実験材料扱いされるかもしれない。頼むなら事前に言えよ、それとなく束さんの機嫌を確かめるから。
それとお勧めはしないけど、例の名刺を使うって手もある。これはギャンブルに近いかもしれないし、主導権はあっち持ちだから忍耐力がいるかな?」
そうは言ったが、最後のを実行する場合は全力で止める。一夏が篠ノ之を選ばなかった事に対して、束さんが怒り狂って一夏を物理的に魔改造とかしたら激しく嫌だからだ。
後、名刺に頼るのも怖い。信用出来ない所に身柄を預けるのも結構な死亡フラグだよな。
「「・・・・・・・・・」」
一夏とシャルルは無言になってしまった。難易度が高すぎるか、色々なものが危険になる手だから選びたく無いと思う。そもそも俺たちがシャルルの件に介入する事自体が、友好関係を築きつつあるイギリスにとっては面白く無いだろう。
コネとか伝手を使って借りを作れば、俺とか美夜ならどうにか助けられるかもしれないが、シャルルの為にそこまで出来ないって言うのが俺の本音だ。
「司、一つ抜けてる」
そう言ったのは美夜で、その手段は俺が避けていたものだった。
「織斑くん、シャルルと結婚・・・は、年齢的には早いから婚約しちゃいなよ」
「え”!?」 「うん、それ良いね。美夜ありがとう!!」
一夏は驚いているし、シャルルはすごく喜び始めた。俺はこの件に関しては表情に出ない様に注意する。簡単だけど、絶対にもめるから出さなかった案なのに・・・
「織斑くんは過小評価してるけど、男性IS操縦者って希少価値があるからかなり無理が効くんだよ。シャルルを身内にしちゃえばデュノア社に対しての牽制にはなるし、迂闊に手を出さないと思う。後はメディアに二人で出て、イチャイチャすればもっと良いかな?
ただ、ISに関わる仕事をして影響力を維持する必要があるけど。シャルルは立場が特殊だから、相応の手段がどうしても要るよ」
美夜は良い事を言ったと思ってドヤ顔をしているし、シャルルは期待の眼差しで一夏の返事を楽しみにしているみたいだ。そして、俺は同情の視線を一夏に向けた。
上流階級じゃ無いんだから、十五で婚約とか言われたら躊躇するのは当然だと思う。ただ、恋する乙女の求める答えでは無かったようだ。
「・・・・・・少し・・・考えさせてくれ」
一夏の返事に、シャルルの目が南極のブリザードの様に冷え冷えになって行く。この状態のシャルルと一緒の部屋で過ごすとか、美夜は鬼かと思ってしまう。それと、シャルルの目が俺たちに言っている。とっとと二人っきりにさせろと、暗い瞳が滅茶苦茶怖いです。
「じ、じゃあ俺たちは遅い時間だからこの辺で帰るから。相談には乗るけど、後は二人で決めてくれ。じゃあな!」
「ちょ、ま!?」
そう言って俺は、美夜を引っ張って部屋から急いで離脱する。一夏がその行動に気が付いて、俺の方に助けを求める為に手を伸ばしているのを振り切って扉を閉める。最後に見た光景は、その手を両手で握ってあやしげに微笑んでいるシャルルの姿だった。
「なあ、あれ大丈夫だと思うか?」
俺は何かガタガタ言い始めた部屋に視線を向ける。美夜も予想外だったのか、頬に手を当てて困っていた。
「シャルルの事を見誤ってたよ、あんなに愛が重い子だとは思わなかった。ただ、リスク無しでシャルルを助けるのは無理だから、あの位に思い切った手は必要だよ」
「俺もそう思うけどな。後は一夏次第だろ?手助けする事は出来るけど、やるのは一夏自身だからな」
一夏がんばれ、超がんばれと心の中で応援しながら美夜に挨拶をして部屋に戻った。次は束さんとの交渉のお仕事の時間である。