901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】   作:白鮭

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勝利者と敗北者

部下と先生には下がってもらって、ここに居るのは俺とジェームズさんとセシリア、それと俺の神獣のユーとフィーだけだった。

 

「先ずは、俺たちの国を交渉の最初に選んでくれて感謝するよ。他の国に対する牽制にもなるし、仲良しだって事もアピール出来るしな……さて、雑談はここまでだな」

 

そう言って、立派な手紙を渡してくれた。署名はジェイコブ1世……現国王!? 受け取って固まっていると、ジェームズさんはこの場で読んでくれって言ってるし……受け取った事を証明する書類にサインした後で読んでみると、イギリスと言う国に対する献身への感謝と、ジェームズ、セシリア両名に対するする友情への感謝、そして、夏に私的な晩餐会を開くので出席して欲しいと書かれて終わっていた。

 

「……冗談ですよね?」

 

読んだ後で怯みつつも聞くのだが、ジェームズさんは真剣な表情で否定した。

 

「国王陛下は本気だよ。是非直接話したいとも言っていたしね。将来の事を考えた布石だ、IS学園卒業後はイギリスに所属してもらいたいのは、IS関係者の悲願だしな。司がやった成果を考えれば分かるだろ? セシリアが代表候補生として成長したのも、ISコアを入手出来たのも、全部司と美夜のお陰じゃないか。幸い司も美夜も、我が国に対する好感度は高いみたいだし。考えておいてくれないか?」

 

「……………………」

 

俺自身はこの提案を呑んでも良いと思った。美夜も反対はしないと思うし、セシリアも協力してくれるだろう……ただ、それは普通の人間(・・・・・)だった場合の話だ。

幻想や神秘が物語の中の存在であるISの世界では、エターナルなんて認められないだろう。俺と美夜のミスが多かったのも事実だが、束さんの干渉も効いている。良くて二十年、多分十年でこの分枝世界での生活は破綻して、逃げ出す事になると思う。

 

「……俺も美夜も、セシリアの事を一番信用しています。ただ、少し問題があってすぐには答えられません……考えさせて下さい」

 

「分かった、即座にいい返答を貰えるとは思って無かったしな。俺の用事は終わったし、後は若い二人に任せる……セシリアが寂しがってたし早く手を出せよ司、好きでいてくれる女の子を待たせるのは最低の行為だぞ」

 

そう言ってジェームズさんは、ウインクしながら廊下へと出て行った……残されたのは、真っ赤になって下を向いているセシリアと、気が付かない振りをしていた俺だ。いずれ居なくなるからと、告白の時以降はセシリアにはキスすらした事が無かった。

 

「……司さんは、わたくしが嫌いですか?」

 

「セシリアの事は好きだよ」

 

「…………愛してるとは言ってくれないのですね。どうして何もしてくれないんですか? ……司さんが美夜の事を愛しているのは分かってました。でも、わたくしだって愛してます。乱も簪もそうなのに、司さんは触れようとしてくれません……どうして……どうしてですか!? ……至らない点があるなら仰って下さい……」

 

そう言って、俯いたまま黙り込んでしまった……その後に点々と水滴が落ちるのを見て、セシリアをここまで追い込んでしまった事に、俺自身の不甲斐なさを感じる。

セシリアの事は好きだ。俺に出来た初めての親友で、この分枝世界に来てからはほとんどの時間を共に過ごした。

色々な表情を見せてくれて、一緒にいると暖かい気持ちになれるからこそ、このまま時間が過ぎて行き、何時までも年を取らない俺に、嫌悪の目を向けるかもしれないセシリアに耐えられそうにない。普通の人間と共に過ごす方法が分からなくて怖いのだ……それに、俺には美夜がいる。

どちらも大切だが、どちらも悲しませる事はしたく無いんだよな。普段の言動に反して、美夜は俺に女の子が近づくのに、複雑な思いを抱いているみたいだし。

 

「セシリアに至らない点なんて無いよ。俺自身が問題を抱えていて、セシリアと上手く向き合えなかったんだ」

 

そう言いながらハンカチを取り出して、セシリアの目を抑える様に涙を拭いながら頭を撫でる。

 

「セシリアの向けて来る目が、俺の問題で変わるのが怖かった……ごめん、許して欲しい」

 

「司さんはズルいです!! そんな言葉では許しませんわ!! …………ううぅぅぅ‥………」

 

そう言いながら泣き出したセシリアに、力いっぱい抱き付かれる。泣きながらも、ズルいとか酷いとかいろいろ言われるが、その通りなので何も言えない。俺は、ごめんとか悪かったと言いながら、セシリアの頭を撫でる位しか出来なかった。

 

***

 

少し時間がたってセシリアは落ち着いてくれが、泣き過ぎて目を真っ赤にしたまま最初に言われたのが、反省しているなら正座して下さい!! だった。俺は正座をしながら、セシリアに怒られている所だ。

 

「相談もしないでわたくしの事を勝手に決めないで下さい!! 司さんには思いっきり反省していただきますわ!! わたくしは、司さんが大好きで愛しているんです!! それを邪魔するなら、誰にだって容赦しませんわよ!!」

 

プリプリ怒りながらこんな事を言っているが、聞いてる方が恥ずかしくなるので止めて欲しい。タイミングを見計らって、俺もそろそろと手を上げて発言をしようとする。

 

「……女の子の気持ちが分からない司さん、発言を許可しますわ」

 

セシリアが俺の方を見ながら皮肉たっぷりな事を言って来るが、自業自得なので反省しながら言う。

 

「セシリアの気持ちは分かったし、もう蔑ろにしないから許して下さい」

 

「……これから美夜と同じに扱ってくれたら、許してあげますわ」

 

セシリアが覚悟の決まったっぽい表情で、物凄く難しい事を言って来た。つまり俺の正体を教えた上で、色々弱音を吐いたり、愚痴を言えって事なのだろうか? 後は……色々言えない事も美夜としてるし……

 

「駄目……ですか?」

 

不安そうに俺を見つめるセシリアを見ると、駄目とは言いたくない。セシリアの事を俺が分かったつもりになって、色々と拗らせた結果が今の惨状だ。

 

「…………学年別トーナメントが終わったら、俺の問題を教えるよ。それを聞いた上で判断してくれ」

 

ここまで来てしまった以上、セシリアにエターナルの事を話す事に決めた。それで怖がられたり、避けられるようになったらと思うと悲しくなって来るが、セシリアだって泣く位に悩んでいたのだ。

それを考えると一方的に拒否出来ないし、愛想を尽かされて離れて行ったらと思うと…………そうやって考えている内に、ああ、俺もセシリアの事を愛しているんだなって気が付いてしまった。美夜がいるのに最低な二股野郎の誕生だ。自身の節操の無さに内心呆れてしまった。

 

「? 問題って言われましても……司さんに変わりは無いんですよね? なら答えは変わりませんわ」

 

自分の今までの行動を思って我に返ったらしく、はにかみながらセシリアがそう言ってくれるのは嬉しいが、本当の事を知った時に変わってしまわないか不安だ。だから、これから言えなくなってしまうかもしれない思いを、今の内に言う事にする。

 

「俺もセシリアの事を愛しているよ」

 

セシリアを散々振り回した上での手のひら返しだ。その上俺は、二股と言うふざけた状態なのにこんな事を言ってしまった。罪悪感もあって、聞こえない様に小さな声で言ったつもりだったが、それでもセシリアには届いたみたいだった。

 

「わたくしも司さんの事を愛してますわ!!」

 

そう言ってセシリアはぎゅうぎゅう抱きしめて来るが、俺は急に恥ずかしくなって

 

「時間! そろそろ時間だから送って行くよ!! ……トーナメントが終わって、俺の問題を聞いた後でもセシリアの気持ちが変わらなかったら、その時にまた言ってくれると嬉しい」

 

何か顔に血が上ってる感じがして、赤くなってるんだろうなと思いながらそう言うと、セシリアは不満そうにしていたが、しぶしぶ肯いてくれた。ただ……

 

「その代わり、わたくしがベストフォーに入ったらご褒美を下さい! 美夜にはまだ勝てませんから、優勝と言えないのが残念ですけど……でも行ける所まで行きますわ!!」

 

そう言って、セシリアは嬉しそうにやっぱり抱き付いて来たのだった。

 

***

 

「~~~♪~~~♪~~~♪~~~~~♪~~」

 

機嫌良さそうに鼻歌を歌うセシリアと一緒にアリーナへと向かう。最初は腕を組んでいたのだが、部外者が多くて見られると何言われるか分からないとからと説得して、恋人つなぎで許してもらった。

そうしながらアリーナに入ると、丁度一夏とシャルのタッグと、ラウラと鈴のタッグが試合をしている所に出くわす。試合が始まってすぐにラウラと鈴はどちらも一夏に突撃したが、連携が下手でお互いに譲り合う事をしてないせいで隙が出来ると、シャルがそれを容赦なく撃ち抜いて行く。

 

個人の能力としてはラウラと鈴のコンビの方が高いんだろうけど、一夏とシャルのコンビの方が連携が上手いから先が読めない試合だな。そんな事を考えていると、セシリアが聞いて来た。

 

「司さんはどちらが勝つと思いますか?」

 

「一夏とシャルのコンビに勝って欲しいな。篠ノ之と戦うまでは残ってもらわないと、後が大変だよ。鈴が勝つと、篠ノ之と鈴とシャルの間がどうなるか分からないからな……今の状態が続くなら、一夏とシャル組が勝つんじゃないかな? 連携を取らないで勝てる程、両者に差は無いと思う」

 

ラウラ達の動きを見て、最初は一夏とシャルは局所的な二対一に持ち込んで戦っていたのだが、相手だって代表候補生だ。押し切れない上に、どうしても一夏の動きが他の三人に劣ると見ると、シャルが一夏を囮にしながら戦い始めた。

 

最近は徐々に変わって来たとは思っていたが、ラウラは一夏より自分の方が上だと証明したいらしく、牽制のリボルバーカノンで一夏の動きを抑えた後、AICで一夏の動きを止めてプラズマ手刀で止めを刺そうとしている様だ。

 

「ラウラ! 私が一夏と戦うんだから変わりなさいよ!!」

 

鈴はシャルと戦いながらそんな事を言う余裕があるみたいだったが、動きをシャルに誘導されていたみたいで、一夏とラウラと鈴が三人ともが射程圏内に入ると、今まで使っていたアサルトライフルを高速切り替え(ラピッド・スイッチ)でショットガンに変更、一夏ごと攻撃して過負荷でAICを停止させた後に、一夏はシャルからのFFがあるにも拘わらずに一撃を加えて急速離脱した。

更に高速切り替え(ラピッド・スイッチ)で今度はフルオートショットガンに変更、ラウラと鈴を攻撃し続けるが、ラウラと鈴を撃破出来ずに二人は後退する事が出来たみたいだ。

 

一夏の白式は特性が近接戦闘に寄り過ぎている上に、他の面子と違って経験が浅いから、こういう場面でピンチに陥ると脆い思われていたみたいだし、シャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは第二世代機の改良型だから、他の代表候補生に侮られているのを感じていたのだろう。相手の油断を誘って大ダメージを与えたのは凄いと思うのだが、やり口がエグ過ぎて観客が引いている。

 

「シャルはなりふり構わず勝ちをもぎ取るつもりだな」

 

俺がそう言うと、セシリアは戸惑っている様だった。

 

「あんな戦い方は代表候補生として相応しく無いですわ。俗な言い方になってしまいますが、わたくしたちは国家の代表ですし、さらに言えば人気商売ですもの……戦い方に品が求められます。勝てばいいと言うものではありません」

 

「一夏がそれだけ大切なんだよ。代表候補生の地位に、シャルが拘ってないのかも知れないけどな……一夏とシャルが勝負を賭けて来たな」

 

高速切り替え(ラピッド・スイッチ)で次に取り出したのは、フルオートグレネードランチャー。狙いはラウラで、AICを使わせないのが目的らしい。

鈴もシャルを妨害する為、龍咆と双天牙月を使って攻撃をするが、シャルは最低爆発圏内を割り込んでいるのにも拘わらず、自爆攻撃同然の方法で強引に攻撃を叩き込んで行く。双方傷だらけになって行くが、最初に大ダメージを受けた鈴の方がついに耐えられずに落ちた。

 

「「……………………」」

 

あまりの凄惨な戦い方にセシリアは呆然としているが、シャルの覚悟を考えれば当然なのかもしれない。今はフランス大統領のスキャンダルの影響があって、命令系統が機能不全に陥っている為に新しい命令が下りてこないのだろうが、恐らくシャルはIS学園に残れない。

国家の陰謀に加担してしまった以上、本国送還の上での事情聴取はされるはずだし、欧州連合が関わっているから酷い事にはならないかも知れないが、下手したら事故死だ。

だからこそ一夏との思い出、兼、実利を求めているのかも知れない。一夏の婚約者……恋人だとすれば、事故死の可能性は減るだろうし。

 

一方の一夏はラウラから逃げ続けていた。シャルの支援攻撃でAICを止めた上での短期決戦案だったのだろうが、鈴が上手く戦って支援攻撃が止まった為に、一夏は即座に離脱を選択していた。

シャルの手助けをしたかっただろうが、白式は射撃武器一つ付いてない特化型ISの為に回避に専念していたみたいで、鈴を倒したシャルが戦線に復帰すると反撃に転じた。

次に出て来たのはバルカン砲? ……小さいからミニガンなのだと思うが、両腕に四本も装備されていて、それでラウラを撃ち始めた。

ISに対して使うには弾が小さすぎるので、ダメージはロクに入ってない様に見えるが、AICはあっという間に止まったらしい。シュヴァルツェア・レーゲンは全身から火花をまき散らす様に被弾し続けながら一夏と戦っている。

 

一夏の動きは入学時に比べて大部分良くなって来ていて、シャルの支援の影響もあってリボルバーカノンは掠りもしない為に、ラウラもかなり苛立っている様だ。近距離で切り結んでいた一夏にワイヤーブレードで牽制した後、一気にシャルに近づいて行く。

 

「冷静さが無くなって来た、ラウラの負けだな」

 

俺がそう呟くと同時に、状況が動き出した。先にシャルを倒そうとしたのだろう。ワイヤーブレードで続けて一夏を牽制しつつ、リボルバーカノンをシャルに使いながら急速接近して、ラウラはプラズマ手刀を展開しようとするが、シャルはその前に瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使って突撃すると、左腕の武器を高速切り替え(ラピッド・スイッチ)で盾に変更、それに仕込まれた灰色の鱗殻(グレー・スケール)を連続で叩き込んだ。

それでもシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーは残っていたみたいだったが、衝撃でワイヤーブレードの制御が鈍った瞬間に、一夏は瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使って急速接近すると、零落白夜でシュヴァルツェア・レーゲンを切り裂いていた。

 

勝利したのは一夏とシャルのペアだが、ラウラの……シュヴァルツェア・レーゲンの様子がおかしい。いきなり変形し始めて、その変形が終わったと同時に……ラウラが倒れた。どうやら束さんは、俺の頼みを聞いてくれたみたいだったが心臓に悪い。

 

「司さん、あれは!?」

 

「止まったから安心して良いよ、深入りはしない方が良い」

 

俺とセシリアは見つめ合ったが、やがてセシリアの方から目線を外した。

 

「司さんは隠し事が多すぎですわ……美夜は知っているのですか?」

 

「知ってるけど関わってはないよ。情報を暴いたのも、ラウラ救出の計画を立てたのも、全部俺だから」

 

それを聞いてセシリアは複雑な表情をしているが、リスクが多くて得るものが無い話は出来ない。

 

やがて全体に対する放送が入る。今の試合でISが誤作動を起こしたが、被害は出なかったのでトーナメントは続行すると言っている。

今の現象の事が分かっている人もいるらしくてかなりザワめいているのだが、強引にでもトーナメントを続けるらしい。そもそも賓客をこれだけ招いておいて、中止になんて出来る訳が無い。そんな判断をしたら上層部の首がまとめて飛ぶだろうし。

 

『司さま、そろそろ次の面会時間が迫ってます。お戻りください』

 

ユーに個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)で報告を受けて時計を見ると、そろそろ戻らないといけない時間になっていた。

 

「セシリア、次の面会時間が迫ってるから戻るよ。ご褒美は何が良いか考えておいて、セシリアならベストフォーには入れるだろうし」

 

「司さんもがんばって下さい、変な言質を取られたらダメですよ」

 

その言葉に苦笑しながら、セシリアに小さく手を振ってアリーナを後にする。最後に見たのは、泣きながらピットに戻って行く鈴の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フィクションなイギリスなので、国王様の名前は現実に出てこないであろう名前を選択しました。
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