901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】 作:白鮭
簪が来なくて、代わりに政治家が来た。
セシリアと乱は試合前に話せたし、美夜との付き合いは約五百年で一番信用している。だから、今頃篠ノ之の面倒を一生懸命見ている頃で、本人は楽しみながら試合をするだろうと思っている。
だから簪がここに来て、リラックス出来る様に何か手伝えればいいと思っていたのに……と、自己紹介しながら思っていた。アドリブが効かない日本がダメなのか、イギリスのやり方を見て乱を連れて来た台湾が有能なのかは置いておくとしても、いきなり政治家なんて連れて来た以上は、俺と美夜のスカウトをする為の具体的な権限を持った奴を連れて来たのかと思いたかったのだが……
初対面なのでにこやかに対応しつつ様子を見たが、いきなり上から目線で何故パーティーに出なのかを叱責し始めた。分割思考を作って政治家の戯言を聞き流しつつ、他の二人を観察していたのだが、二人共政治家の腰ぎんちゃくらしくて、政治家に同調しつつ俺に文句を言って来る。
束さんの通達は聞いて無いのだろうか? 真面目に相手をするのも馬鹿馬鹿しいので、そのまま聞き流していたら、気持ちよくなって来たのか政治家が演説をし始めた。
キーワードは東アジア、友愛、そして共同体……表に出ない俺たちをパーティーに呼んで、大陸と半島の担当者に会わせるのが目的なのを確信する。予想通り過ぎて興味も無くなったので、後の対応は礼儀に則って雑に扱った。
のらくらと話しをして、何も得られない事で焦ったらしい三人は声を荒げ始めたが、最後まで何一つ相手に与えないで話を終わらせた後、次の面会はドイツだと言って自主的に出て行ってもらった。あんなクズでも言葉一つ間違えると、それを根に持って延々と突っかかって来るので、それなりの対応はしないといけない。
何を考えていたのかは知らないが、勝手に自爆してくれたのは助かった。これを使って日本の干渉はシャットアウトする。色々な所が変わっているけれど、それでも俺の事を好きだと言ってくれる束さんを追い出した国に用など無い。精々大魚を逸した事を後悔しながら転げまわっていろ。そう考えていたら、当の本人から連絡が入る。
『つかちゃん、あいつら殺っちゃう?』
どうやら束さんが見学していたらしく、声の調子から相当腹を立てているのが分かる。殺してしまうと後々問題になりそうなんだけど、何もしないと抑止力にならないからな……
『ミサイルの模擬弾を叩き込もう。あいつら自分たちで、一発だけなら誤射かもしれないって言ってるから平気だろ? あいつらの言う東アジアには、関わり合いになりたくないから適当で良いよ』
せっかく俺たちは選択できる自由があるのだ、蟲毒に用は無い。それからドイツの担当者が来るまでは、束さんと話をしながらのんびりしていた。
***
美夜Side
「落ち着いた方が良いよ? 油断しなければ勝てるから」
箒が落ち着かないみたいでうろうろと歩き回っているから、落ち着いてもらおうと思って声を掛ける。まさかルーティンじゃ無いと思うんだけど、そうだったら謝ろう。
「あ……うん、美夜は落ち着いているな」
私が座っているベンチの隣をポンポン叩いて、ここに来てってアピールすると、少し笑いながら箒が座った。だけど何か堅い感じがするので、リラックス出来る話をしてあげよう。
「そりゃあ、始まる前から私と箒が一番注目されるのは分かってたから、今更緊張なんてしないよ。今日のトーナメントだって、みんなにやっていた指導の延長みたいなものだし」
一対一のトーナメントだったら余裕もあった筈なのに、急にペアなんて言われたから、みんなに教えるのが忙しくて大変だった。学園で教えて無い事を行事に組み込むのは本当に止めて欲しい。そんな事を箒の前でぶーぶー言っていると、顔つきが少し優しくなって来た。
箒はキレイ系の顔立ちだから、緊張しているとキツく見えてしまう。だから笑ってた方が可愛く見えるのに、人見知りするからみんなに誤解されてしまうのだ。まあ、今回の箒の行動は褒められた事じゃ無いけど、乙女の暴走って事で終わったらみんなに謝ってもらおう。私も同行して手伝うつもりだし。
このままだと箒の学園生活が灰色どころか真っ黒になってしまうから、私も司もセシリアもすごく心配しているのに、箒は暴走したままなんだよね。チャンスはあったのに、余裕だと思って待ちの姿勢に入った箒が悪いのは確かなんだけど、いくら何でもみんなに嫌われる事をし過ぎだよ……先の展望を箒に聞いてみよう。何か独自の考えがあるのかもしれないし。
「箒ってこの先どうなりたい? 夢とか希望とか」
箒は直ぐに答えを出して来た。その様子から、いつも考えていた事なのだと思う。
「元の生活に戻りたい。もう他人に生き方を滅茶苦茶にされるのはコリゴリだ」
「…………そっか、元の生活か」
箒は自覚があるんだろうか? そんなのもう絶対に無理だって事に。織斑くんがシャルと付き合うと言い出した時に素直に祝福して諦めるなり、シャルに頼み込んで織斑くんハーレムに加えてもらうとかすれば良かったのに、やってしまったのは、束さんに頼んで専用機を用意してもらう事。私も司もまさか嫌っている束さんに、そんな事を頼むなんて思っていなかった。
普段の様子からIS自体をを好きじゃないみたいだったし、学園に
明確に束さんとの繋がりを見せてしまったせいで、私たちが居なくなった後の日本と言う泥沼に、首まで浸かってしまうだろう。そんな望みがあるならば、箒は自分だけの力でやり遂げるべきだった。私たちだったら、幾らでも力を貸してあげたのに。
「美夜調子が悪いのか? 私が早めに片付けるから、後ろで待機しててくれ。すまん、ペアだから休んでてくれって言えないのが心苦しい」
私を見て箒は調子が悪いと思ったらしい。体は平気だし、戦う為の心構えも出来ている。だけど、友達の願いを叶える事が出来ないのが悲しかっただけ……それが表情に出たみたいだ。
「ううん、箒大丈夫だよ。そろそろ試合の時間になるから落ち着いて行こう。前にも言ったけど、アピールも含めてるから、速攻は無しだからね」
そう言って私は永遠神剣第三位・絶炎を出して、戦闘装束を纏う。同時に黒く光るエンジェルハイロゥとウイングハイロゥを展開して、最後にIS絶炎を起動した。永遠神剣を使えば、この分枝世界で司以外には絶対負けない。けど、この戦いは箒が納得しないと意味が無いと思う。
例え私の力で箒が勝っても、織斑くんの心は負けないだろう。それでも、私は友達の為に出来る限りの事をしたい。
「お互いがんばろうね」
「ああ、必ず一夏に勝つ。その為に力を貸してくれ、美夜」
そして歓声とどよめきが起こるアリー内に、第四世代型IS紅椿を纏った箒と、最新鋭の第一世代型IS絶炎を纏った私が、空に向かって飛び立って行った。
美夜Side out
***
日本が終わった後も、色々な国の担当者に会って行く。全員と初対面なので突っ込んだ事を言ってはこないのだが、より深い繋がりを持つ為なのか、やたらとパーティーに誘われるのは参ってしまった。そして各国の担当者に会って思った事は、学園の外にうかつに出ると危険だって事だ。薬を盛られて、起きたら隣に全裸の女の子がいたら色々と気まずい。そもそも俺に薬が効くのか分からないけど。
「……なあ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
トーナメント初日を残り最後の一組までようやく乗り切ったのだが、マリオさんが思わず口に出してしまう位に、疲れが顔に出てしまったらしい。
「ここには知り合いしかいないから、変な所見られたってもういいよ。大国はともかくとして、力が無い国の担当者になるほど露骨に媚を売って来るのは勘弁して欲しい……隙を見せない為に演技してたけど、俺は女の子苦手なんだ!!
後、二人っきりになった途端にハニトラ仕掛けてくるのを止めろ。俺には美夜もセシリアもいるから、そう言うのは要らないんだよ!! おまけに今日の最後は東アジアの半島だぞ。あいつらも大概だから、本当は断りたかったんだよ……もう帰りたい」
「荒れてんな……断れば良かったんじゃないのか? だいたい、篠ノ之博士の警告を無視してる時点であいつらおかしい。怖くないのかね」
「日本人には何やってもいいって考えてる、訳が分からない民族の事なんて知りませんよ。一応、日本政府の要請だから会うんです、じゃなきゃ無視して終わりですから。まあ、来年もやるかどうかは分かりませんけど、日本と半島は面会リストから抹消ですね。会ってもメリット無さそうだし」
そうマリオさんと話していたが、最後の言葉を聞いて嬉しそうにしていた。半島は兎も角、日本がライバル候補から消えたのを俺の口から聞くことが出来て、これからの行動に役立てるつもりなんだろう。
そんな事をマリオさんを見ながら考えていたら、厳しい表情になって雰囲気が変わった。
「……無線で連絡があった、トラブル発生だ。俺は廊下に出るが、ジェームズとクリスが戻って来るから後は頼む……半島の担当者が十人でこの部屋に迫っていて、半分は北の連中らしい。聞いてたか?」
「そんな話は聞いて無いし、北の連中って招待状も出て無いです。そもそも俺と会う予定の担当者って、南の連中だけのはずですよ」
俺の話を聞いて、マリオさんはウンザリした様に俺を見た後、皮肉げに笑った。
「セキュリティはガバガバだし、売国奴が国の中枢にいるって言うのもパンチが効いてるな。司がこの国を早く出たいって、どうして言うのかが理解出来たよ」
そう言ってマリオさんは廊下に出て行って、代わりにジェームズさんとクリスさんが俺の後ろに控えて話を聞く体勢に入ったのと同時くらいに、乱暴に扉をあけ放って十人の男がこの部屋に乱入してきた。
***
「人払いをしろ」
俺はソファーに座ったまま胡散臭そうに相手を見ていた。相手は最初から話をする気が無いのだろう。俺の事を見下す様にニヤニヤと笑いながら、断りもせずにソファーに座ると、煙草をくわえて後ろの奴に火を付けさせた。
俺はそれを見ながらどうするか考えていると、クリスさんが耳元に口を寄せて、小さな声で俺に囁いて来た。
「北の軍の高官だな。日本に入国してたのは知ってたが、ここに来る度胸があるとは思わなかった」
それを聞いてクリスさんとジェームズさんを見ると、スーツのボタンを外していて、何時でも抜ける体勢に入っていたのだが、心配し過ぎだと思う……普通に弱そうだし。
「取り敢えず様子見で、話し合いで済ませますから心配しないで下さい。過剰に反応すると相手が付け上がりますからね」
そんな感じでクリスさんとヒソヒソと話をしていると、早速相手が切れた……こんなのが軍の高官って本当なのだろうか?
「無視してんじゃねえ!! このチョッパリが!! ……最高指導者様はISを望んでおられる、貴様のISを寄越せ。下手糞な貴様より、わが人民の方がよほどうまく使えるからな」
「人払いは却下ですね。俺が雇ってる護衛ですから。それと、北にはISを作る技術どころか、調整する技術も無いのでは? 専用機を持って帰っても使えませんよ」
北の連中にISコアを渡すのは流石に色々な国が反対したのだが、日本の政治家の一部がその為の活動をして世界中から顰蹙を買った事がある。それと、南にも日本の政治家が活動して、結構なISコアが流れている。この国から離れる予定の俺にはどうでも良い事なのだが。
「では私たちの要求は、可及的速やかにISコアをなるべく多く引き渡してください。慰安婦問題もの件もありますから、反省と謝罪の心があれば可能なはずです」
そう言って上から目線で要求してきたのが、多分南の連中だろう。国家間で好き放題するのは、半島と日本の交渉の結果だから好きにしろって言いたいが、俺は個人だからそんな事知らねえよ。こいつら何言ってんだと、だんだん馬鹿馬鹿しくなって来た。が、乗せられて反応すると相手の思うつぼだしな……内心ため息を付きつつ、意味が無さそうな交渉を開始した。
***
「今日の活動を終わらせよう。最後の奴らはネタ的に笑えたかな?」
「楽しい連中だったな。最後は動物園の動物を見てる様な気持ちになったし」
俺の結構辛辣な言葉に対して、ジェームズさんも皮肉げに言葉を返した。送り出した後に扉を蹴飛ばしたらしく、重くて小さな音が廊下側から響いて来て、それを聞いたここに居る全員で苦笑したり肩を竦めたりしていた。
控えめに言っても、ただのチンピラ以下の連中だと思う。あんなガラの悪いのに交渉を任せるって言うのも凄い事だ、歳と身分で嘗められていたんだろうけど、俺の後ろに誰がいるか理解しているんだろうか?
虎の威を借りる狐である事は分かっているつもりだが、それでも虎の言う事を全然気にしてないのが凄い。俺も束さんも日本人だと思われているから、あんな態度を取ったのだろうか? 全然理解出来ないんだよな。
『……………………』
『……束さん?』
『…………ここまでコケにされたのは、束さん久しぶりで嬉しくなって来ちゃった。つかちゃん、ゆーちゃんを貸して。娘に実地で色々教えてあげたいからね。ゆーちゃん、良いよね?』
『はい、母さんのお手伝いでしたら是非に……司さま、私からもお願いします』
二人共、ものすごい勢いで怒っているのが声で分かった。俺は呆れていたし、この状態になった二人を宥める自信が無かったので、少し不安に思いつつもユーを送り出す事にした。
最後に今日一緒に仕事をしたメンバーに挨拶をして、別れて人気が無くなった所を見計らって、ユーは電脳空間に体ごとダイブして行き、俺はアリーナにみんなを迎えに行った。
幸いな事に、一組同士で当たってしまった運の悪い子以外は全員勝ちあがる事が出来たみたいで、食堂で一組の子に報告がてら抱き付かれたりして少し困ったのだが、みんなが勝ち取った勝利のご褒美と言う事で、俺も五月蠅くは言わなかった。
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは大破したが、幸い修復は可能らしい。又、一夏に負けた事で少し考え方が変わったらしく、クラスメイトとの交流を増やす努力を始めたみたいなので、それをみんなで手伝う事にする。
なんだかんだ言ってもラウラは見た目が小さいので、素直になったラウラがクラスのみんなに謝ると、怒りが持続しなくなって最終的には受け入れてくれた。
鈴は一夏とシャル……日本人と第二世代機と言う、かなり困ったメンバーに派手に負けてしまった為、上から物凄い叱責を受けて、二重の意味で涙目になっているらしい。
と言うのは、部屋に閉じこもってしまって食堂に顔を出さないが、ここに来ている同室の乱が教えてくれた情報だ。何日も続く様なら少し考えよう、鈴も友達だから心配だし。
そんな感じに、軽い打ち上げの様な状態になった後で部屋に戻って眠りにつき、次の朝になるとユーが戻って来ていて、俺にお土産ですと言ってアタッシュケースを渡してくれる。嫌な予感がしながらも、恐る恐るアタッシュケースを開けると、そこには八個のISコアが綺麗に並んでいるのだった。