901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】 作:白鮭
アタッシュケースの中身が危険物なのを確認出来たので、取り敢えずユーの電脳空間にそのまま預かってもらった後、PCを起動させてニュースサイトを漁ると、日本と半島が開戦したと言う情報が飛び込んできた。
「デマにしたって悪質だな。両国で煽って本当に戦争になったらどうするんだよ、全く……」
そう思いながら現地の映像を見るのだが、東京の政党本部ビルには、巨大な槍の様な物が上から貫通する形で刺さっており、半島南側の市街地にはかなりの数の戦闘機が落ち、そして半島北側の詳細不明らしい。余りの被害の大きさに、俺の口からため息とも唸り声とも取れる音が思わず出てしまう。
『あの、司さま、私は何か間違った事をしてしまったのでしようか?』
そう聞いて来るユーに担当したことを聞いてみると、学園を襲って来た無人ISを改良したゴーレムⅡを操って、南のIS研究施設からISコアを奪取したのと、北のミサイル関連施設と核関連施設の破壊、日本の軍事施設に対するハッキングと、政党本部に槍を投下したらしい。
『俺の言った事を確実にやり遂げたのに、間違ってる訳が無い。俺の為にしてくれたんだろう? ありがとう、ユー』
嬉しそうに俺の肩に降りたユーを撫でながら、内心ではマズい事になったと考え込んでしまった。正確な被害は分からないが、市街地に戦闘機がポコポコ落ちてかなりの民間人に被害者が出たらしいし、軍人に至ってはどれくらい死んだのかが見当もつかない。
俺は束さんのやり口を、白騎士事件をベースにした人死にの無いスマートな報復だと思っていたので、まさかここまで派手に力を見せ付けるような事をしないと思っていたのだ。
織斑先生との関係も悪化どころの話じゃないだろうし、束さんの持つ戦力を見せ付けてしまった以上は、脅威に思った各国が連携して束さんを狩り出す可能性が出て来た。おまけに、南が持っていたISコアは七個だったはずなのに、お土産として持ってきてくれたISコアが八個なのも良く分からないんだよな……何を考えて実行したのか、束さんに聞いてみるか。
『おはようございます、束さん……? 束さん?』
『おはようございます、司さん。束さまは今お休み中なので通信に出られません、後で司さんに連絡する様に言っておきますよ?』
最近電話代わりに使っている、束さんに向けての
『おはよう、クロエ。束さんに用事があるんだけど……駄目かな?』
『はい、疲れてお休みになっていますからダメです』
『じゃあ、起きたら連絡をくれるように言っておいてくれ。クロエとも話したいけど、少し用事があるから後で時間を取ってくれると嬉しい。じゃあ、またな』
『はい、楽しみにしてますね司さん』
***
着替えてすぐに出られる様に用意を整えていると、まだ早い時間にも拘らず扉をノックする音が聞こえて来る。夜中に叩き起こされなかっただけ気を使ってくれたのかな? そう思いながら扉を開けると、織斑先生が外で待っていた。
意外な人物が立っている事を疑問に思っていると、先生もなにやら複雑そうな顔をしている。
「おはよう司。束がやった事に対しての説明が欲しいと、お前が雇った奴らが騒いでるんだがどうする? 嫌なら学園外に叩き出して来るが」
「バックを考えれば説明しない訳には行かないとは思うんですが、俺も情報を持ってないんですよ。束さんと直接話すまでは、迂闊な事も言えないんで困ってます。先生は連絡取れたんですか?」
そう言うと、先生は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも憤っている様だった。
「いや、私も連絡が取れなくて困ってる。司ならと思ったんだがな…………どういうやり取りがあってあんな凶行に及んだのかは分からないのだが、もいくら何でも人死にが出るまでやる必要があったのか? ただでさえ悪かったあいつの立場が、更に悪くなるだけじゃないか」
この時の顔を見て、織斑先生はやっぱり束さんの友達なんだなと思ったのと、今更ながら自分が少し動揺していたらしい事に思い至った。束さんが人を殺して世界から狙われているとしたら、俺が守ってやればいい。
「その時は俺が守るから構いませんよ。ある意味今まで見逃されていた部分もあったんでしょうけど、今回の襲撃事件で市民を敵に回してしまいましたからね。そうなったら各国とも束さん対策に本気で取り組むでしょうし、その助手として扱われていた俺と美夜は、拘束されてISを奪われるかな? ……どっちにしても、このまま学園に止まるのは無理でしょうね」
「…………私の友達が迷惑をかけてしまって申し訳ない」
そう言って織斑先生が俺に向かって頭を下げたので、直ぐに身を起こしてもらう。
「仕方ないですよ、あんな癖の強い人を受け入れたのは俺ですから、最後まで面倒は見ますよ。バカウサギって罵りながら、目が赤くなるまでオシオキしてやりますから」
そう言って苦笑して流そうとしたのだが、それでも何度も俺に謝る織斑先生を連れて、ジェームズさん達が待つ場所に移動を開始する。
誤算だったのは密かに起きていた簪が、俺と先生の会話を聞いていた事だった。
***
先生に連れられて学園内の会議室に移動したが、扉の前で俺の護衛が全員待っていた。
「酷い事になったな。取り敢えず中に入ってくれ、今分かっている事を説明する」
クリスさんの先導で部屋に入った後で、俺はユーに頼んで電子機器のチェックをしてもらう。
『部屋に仕掛けられた盗聴器は無いようですが、織斑先生以外は外に向かってリアルタイムで送信を続けている機材を持っているようですね……妨害しますか?』
『まだ敵対関係になってないから、こちらから手を出すのは止めとこう。ただ、どこに繋がっているかは調べておいてくれ』
『分かりました』
ユーと打ち合わせをしながら俺、織斑先生、ジェームスさん、マリオさん、クララさんの五人が各々の席に着くと、クリスさんがPCを使って、今分かっている情報を説明し始めた。
「レーダーがかく乱されて未確認情報も多いが、被害について分かっている事を順に説明する。深夜一時頃に南の軍事施設全体に対するハッキングが行われて、指揮系統が潰された後に未確認の新型ISの奇襲攻撃が行われた。
わざわざISが駐屯している基地を襲って、スクランブルで上がって来た機体を乗員ごと破壊した後でコアを回収、別動隊も出ていて、こちらは研究施設にあったコアを奪取した後で研究施設を破壊している。
合流した両部隊はそのまま北に向かって侵攻を続け、被害の詳細は不明だが軍事基地、ミサイル関連施設、核関連施設を攻撃した後で南に戻った。
その頃には南の軍事基地に対するハッキングは解除されていたんだが、南の領空に入って大都市上空を飛行しているIS群に対して戦闘機による攻撃を開始、だが、短時間に全て叩き落された。
その後日本海を南下したIS群は、日本領空に入った後にハッキングを開始して東京上空に入った後、政党本部ビルに金属製の槍らしき物を投下した後で消息を絶った……これが今分かっている事の全てだ。
説明しつつその都度映像や写真を含めた資料を出して来るのだが、その全てが断片的な物ばかりで、辛うじて戦闘中に撮られたものらしいのは、戦闘機が撃ち落された動画を地上から写したものばかりだった。
「これを個人でやったって言うのが信じられねえな。それで、親切なアメリカ様は何で俺達にも情報を提供してきた。被害が大きすぎて自分の国で起こったらと思うと背筋が凍るが、ハイリスク、ハイリターンの賭けに手を出してしくじった奴らの自業自得だろ?」
昨日実際に目で見たマリオさんの意見は辛辣だった。わざわざ束さんが警告を出していたのにも拘わらず、あの態度で挑んで来たのだ。何か勝算があるのかとも考えていたのだが、実際には欲の皮が突っ張っただけのバカだった。が、それで自国の国民を殺していれば世話がない。
「……それで、俺をここに呼んだのは何故ですか? 束さんがやった事については理解しましたが、ある意味自業自得ですよね。これで死んだ方は到底納得できない事でしょうけど」
俺の発言を聞いてクリスさんは苛立っているように見えるのだが、俺とクリスさんは優先順位が違う以上は仕方のない事だ。傍から見れば大量殺人鬼に味方しているような事を言っているのだから、その苛立ちは当然だとは思うのだが、俺にとっては名前も知らない誰かより、束さんの方が大切だ。
「この被害について言う事がそれか!? ……君には篠ノ之博士捕縛の為の協力をして欲しい。どれだけ功績を積み重ねたとしても、今の彼女はただのテロリストだ」
「民間人の上に学生の立場ですので遠慮します。そもそもアメリカには軍隊もあるし、学園にはケイシー先輩もいるのに何で俺に声がかかったんですか? その前にやるべき事があると思いますが。話がこれで終わりだったら、俺は帰ります」
そう言って立ち去ろうとして扉を開けると、背後からクリスさんの怒声が聞こえて来た。
「専用機持ちが戦う場から逃げて良いと思っているのか!? 司と美夜は疑われているんだ。ここで無実を証明しなければ、一生表舞台には立てなくなるんだぞ!!」
「……俺たちの事を考えてくれてありがとうございます、クリスさん。ですが、恋人を売る気にはなれません。短い間でしたが、楽しかったですよ」
そう言って、俺は振り向いて全員に対して深々と頭を下げ後で扉を閉めた。
「この分枝世界に来て半年もたなかったか。短い間だったけど、色々あったな」
今まで宿命や
「マズイ、セシリアに怒られる。一緒に逃げてくれとも言えない……いや、言わないと余計怒られる。あああああ、本当にどうしよう…………」
寮に続く廊下を歩きながら、何かいい手は無いかと真剣に考えていると、美夜から
直接顔を合わせないと話している気がしないからと言って、余程の用が無ければ通信をしてこない美夜にしては珍しいと思いつつ通信を繋ぐと、慌てた美夜が良く分からない事を言って来た。
『部屋でセシリアと居たらバーッて光ってセシリアに手を伸ばしたのに届かなくってセシリアどっかいっちゃった。なんかまだ光ってておかしいし部屋もおかしいしどうしよう!?』
『今からそっちに行くから待ってろ。美夜に危険は無いのか』
『~~~~~…………はぁ……うん、大丈夫。朝の準備をしてたら急に部屋の中が光り出して、セシリアがその中に消えたんだよ。今も空中に光が残ってるし、この分枝世界で起こる現象じゃ無いと思う』
一応、心当たりがある。普通に考えれば馬鹿馬鹿しくなる可能性の上に、都合が良過ぎて作為的なものを感じてしまうのだが、俺にとっても美夜にとってもセシリアを見捨てると言う選択肢がない以上、都合の良い人質なのは確かだ。
『絶炎はなんて言ってる? 多分答えを知っていると思う』
それから長い沈黙があって、美夜が泣き出したのか、すすり泣くように答えを言って来た。
『嘘だよ……セシリアが
俺も怒りで声が震えるのを抑えつつ、何が起こったのかを美夜に話す。
『
『俺達、だよ。マナの霧に帰る時は一緒だから。セシリアを助けに行こう、向こうがどうなっているか分からないけど、絶対に困ってるから』
こうして、俺と美夜はこの分枝世界を離れる準備を始めた。この先がどうなっているのかは、時詠みの能力の低下した俺には分からなくなっていたのだが、せめて美夜とセシリアだけでも守り通そうと、自分自身に誓っていた。