901分枝系統 80013世界 02795726時間断面 ISの世界 【改定作業中/第一章完結】 作:白鮭
気まずい。物凄く気まずい。
朝起きてルームメイトと一緒に食堂に来ているのだが、お互いに会話らしい会話を未だに交わしていない。
俺は胃がキリキリと痛むのを感じながら、引きつった笑みを浮かべつつコーヒーを飲んでいて、彼女はこちらをチラチラと見ながらトーストを食べていた。
昨日、美夜と一緒に空中でお月見を楽しんで、いい加減夜も遅いしもう帰っているだろうと言う時間になってから寮の部屋の扉を開けたら、ルームメイトの彼女がいきなり悲鳴を上げたのだ。
その悲鳴を聞いてまず第一に思ったのは、俺と一夏が一緒の部屋だったらこんなこと起きなかったじゃねえかと言う怒りだった。
最初に美夜と一緒の部屋になると言う説明だったから油断したが、まず第一に思ったのは男女関係で問題が起こったと言う認識の筈なのに、それを修正する為に初対面の男女を同室に押し込もうとしているIS学園の頭の悪さだった。
そりゃあ、悲鳴の一つも出るだろうよ。
「油断した。そうだよな、常識で考えればそうなるよな……」
ISと言う原作ありきで見ていたので、一夏と同じように男性IS搭乗者は拒否される事は無いと思っていたのだ。だけど、結果はご覧の通りだった。
俺は扉の横の壁に寄りかかりながら途方に暮れる。
「一夏はたしか篠ノ之と同室の筈だったし、美夜の所はオルコットさんと同室だから転がり込むのはダメだよな。……後は、管理人室に織斑先生が住んでるんだったかな?」
もう夜の十時を回ってるし、仮に織斑先生にこの時間まで何をやっていたって聞かれて、美夜とデートしてましたなどと言ったらぶち切れ不可避だろう。
あの先生の事だ。原作通りの汚部屋に転がっている、ビールの空き缶でぶん殴られそうだった。
「しゃーない。今日は野じゅk」
ため息交じりに考えをまとめる為に呟いていると、いきなり俺の方に向かって勢いよく扉が向かって来るのでそれを腕で防ぐと、扉を挟んだ向こう側でびくりとした気配が湧き上がって、そろそろと俺の方をのぞき込もうとする女の子と目が合った。
「うぁ……。ご、ごめんなさい! こっちに来てください!!」
そう言われて服の袖を摘ままれながら女の子と一緒に部屋に入ると、俺と目を合わせないようにまくし立てて来た。
「この扉がお風呂でこっちがトイレです。じ、じゃあ私は寝ます! おやすみなさい!!」
そう言って目の前に二つあるベッドの奥の方に潜り込んで、頭から布団をかぶってしまったのだ。
「あー、うん。おやすみ」
女の子が苦手とか人見知りする以前に、彼女の行動に呆気に取られながらも俺も挨拶を返すのだが、そのまま布団の中の彼女の動きが止まってしまった。まあ、耳を澄ますと息を潜めているのが分かるのだが。
それを見て時間が無いのと色々探すのが面倒になって、シャワーを浴びる為に着替えを”聖杯”で作り出して諸々を手早く済ませると、布団の塊の方にもう一度おやすみと声を掛けて眠りについた。
で、朝になってお互いを意識しつつも、一言も会話をすることなく同じ席について朝食を取っている所だった。
「あの、昨日はごめんなさい」
俺の方を見てとても申し訳なさそうに彼女が謝って来たのだが、彼女が悪い事なんて何一つ存在しない。それでも昨日の事を思い出して、落ち込んでるようだった。
「あなたは被害者なんだから、謝らなくて良いんだよ。
一番悪いのはこんな事を平然としたIS学園で、次に何も無かったとは言え、一晩一緒の部屋で過ごした俺だから。先生に言って部屋を変えてもらうよ。ごめんね」
そうすると、何故か必死になって彼女が謝り出したのだ。
「あ、あの、昨日は私が悪かったし、聖さんをあんなに遅くまで待たせてたのが原因だしとにかく私が悪いんですごめんなさい。聖さんは悪くないんです」
ああ、テンパってる。……それはどこか生前の記憶と重なる、思い出に近い風景だった。
「はい、深呼吸。因みに、俺はあなたが悪いなんて思って無いから。これは絶対譲らないからね」
彼女は俺の言葉を聞いて、素直に深呼吸してくれた。そして落ち着いてくれるまで少し待って、穏やかにゆっくりと提案する。
「じゃあ、まずは自己紹介からしようか?」
「……はい。私は更識簪。簪って呼んで下さい」
こうして俺と簪さんは、ルームメイトとしての第一歩を踏み出したのだった。
***
そんなこんなでボチボチ学園の突拍子もないイベントらしき物と、やたらとノリのいい女の子の行動に慣らされつつも、今日も俺、一夏、美夜、オルコットさん、篠ノ之のいつものメンバーでお昼に食堂に行く。女の子の今日の気分は輪形陣らしい。
俺が食事しながら教室内で今話題になっている事について、みんなに対して今回の事を考えながら言う。
「しかし、この中のメンバー三人でクラス代表者を決めるのか。順当にオルコットさんが勝つ筈だし、やる意味あるのかね?」
「いや、男として負けられないだろ?」
「ISに対する熟練度を考えろよ。俺も一夏も入学試験の時に触っただけなのに、イギリス代表候補生に勝てる訳が無いだろ」
一夏のこの辺の考え方は古いのだろうか?
女尊男卑と言うのは十年前から広がった思想なので、一夏みたいに男が反発する気持ちも分からなくは無いのだが、ここではその思想が常識みたいだから仕方ない。
ただ幸いな事に世間一般から思われているほど、IS学園では女尊男卑と言う思想は広がっていなかった。
それは客観的に物事を見る事が出来るエリートが多く所属している事と、どうしてもISと言う物は軍の協力なく運用する事が難しい事が原因だった。
はたから好き放題言っている無責任な感情論と、実際に男社会である軍に混じって活動しているIS搭乗者では物事に対する目線が全然違う。
実際には女尊男卑論を垂れ流す存在を迷惑だと思っているし、あんなのと一緒にされるのは嫌だと思っている子が大半だった。
一部には研究所でISに触れながらIS学園に来た子とか、一般家庭で適正だけを根拠に来た子などはそう言う考え方を持っている子もいるのだが、そう言う子たちに対して俺は反論する事をしなかった。
言い方は悪いが、俺たちは観光客みたいなものなので当事者意識が無い。この分枝世界特有と思われる思想に対して、危機感を覚えないのだ。
それに時間樹どころか
スピリットにしろミニオンにしろ女性型で、最低ランクの永遠神剣の契約者ですら自動車と同等のスピードで走りながら、神剣魔法を使いつつ戦闘をするのだ。防御力だって、マナの盾の強度を考えれば銃弾など効かないだろう。
そしてスピリットはともかく、ミニオンと言う存在は太い精霊回廊からマナを汲みだして専用の装置に接続すれば、スピリットを模した存在として無限に作り出す事が出来るのだ。
昔、それを利用して先生が人型のものも切れないとダメだろうと、
赤、青、緑、黒の色を何処かに配色されたものすごい美人の女の人たちが、無表情に低位の永遠神剣を構えて俺と美夜に襲い掛かってきたのだ。
お互いを守りながら必死に戦って、全部切り殺した。あれは二重の意味で今でもトラウマだ。
まあ必要とあれば、いくらでも切り殺せるようにもなっているが。
兎も角、永遠神剣の契約者以外の男性など切り刻まれて終わりだし、科学技術が進んだこの分枝世界でも、実際に戦争をやったら物量に飲み込まれて終わりだろう。ISは数が少なすぎる。
「順当に行けば次に専用機を貰える一夏で、最後に何もない俺だろうな。
織斑先生がああ言う人だから言わなかったけど、エンジニアを目指している俺が競技者の練習してどうするんだ?」
俺の話を聞いて不満そうにしている一夏なのだが、こんなの個人の考えだし、俺はこの原則を破るつもりは無かった。
「それにこれは俺の考えで、一夏が同じとは思ってないよ。一夏は自分の思う通りにすれば良い」
オルコットさんも自分の考えがあるのだろうけど、場が荒れるのを嫌ったみたいで自分の考えを言うのは控えたみたいだ。
オルコットさんは結構女尊男卑の考え方をする人みたいて、女の子が苦手で強く出られない俺とは相性が良いのだけど、一夏的な考え方をする人とは合わないようだった。
それに一夏の事をどうこう考える前に篠ノ之の話を聞いた事で、どうもここのオルコットさんは一夏には特別な感情を持っていないようだし。
***
放課後になって、一夏とオルコットさんと別れた。
彼らはここから一週間は敵なのである。君たちは俺の敵なのだよ言ったら一夏は苦笑して、オルコットさんは涙目になっていたが。
その事は別にしても、美夜とオルコットさんは何やら篠ノ之に入れ知恵している。
やる気も有るようなので、篠ノ之には是非がんばって一夏を落として欲しいものだ。
そもそも積極的にこう思えるようになったのも、この前篠ノ之と仲良くなった美夜とオルコットさんに誘われて、美夜たちの部屋で篠ノ之を慰める会と言う恋愛相談に呼ばれたのが原因だった。そこで一夏の所業を聞いたのだが、篠ノ之の口からはバルカン・ファランクスの弾丸みたいに愚痴が出て来た。
学園で同じクラスで寮の部屋も同じと言う環境で大喜びしてたのに、一夏が朴念仁過ぎて話が通じなくてイライラすると言う話なのだ。
だが話を聞いた限りだと、一夏も酷いのだが篠ノ之も同じくらい酷い。
お互いのコミュニケーション能力が壊滅的に無いのだ。一夏は俺の話した限りだと、そう言う事を考える段階に至ってないから変な曲解をするし、篠ノ之は自分の考えを悟って欲しいらしい。
そんなので両思いになるとかエターナルにも無理です。俺は取り敢えず、一夏と会話しろと言ったが。
そこで篠ノ之の願いを取り入れて、手っ取り早く美夜が二人をくっつける方法として考え出したのは、既成事実を作れと言う事だった。
寮の部屋が同室なのだから、寝込みを襲えと自信満々に言うのだ。……確かに篠ノ之の願いとは合致している。あれには会話なんか必要ないし、一夏だって篠ノ之の考えを必死で読もうと考えるだろう。
俺は遠い目になって美夜のトンデモ理論を聞いていたし、オルコットさんと篠ノ之は真っ赤になっていたが、言っている事は物凄く正しい。
正しいのは認めるが、男の俺もいるんだからそこまでにしてくれと言ったのに、コンバットプルーフ済みなのが私しかいないから仕方が無いとか言って、開き直ったのは後で話を付ける必要がある。
それに参考になるかも知れないと言って、俺の性癖まで暴露しやがったし。
オルコットさんとか篠ノ之に真っ赤な顔をされつつ、微妙に目を合わせないでディアンドルとかアオザイとか呟かれる俺の身にもなってくれ! まあ、それを着せてエロエロな事をした自業自得でもあるんだが。
その後はバットで殴り倒されたトドみたいになっている俺を尻目に、美夜の容赦ないツッコミが入った。
相手が自分の事を知ってるのを前提で行動するな、思慮深くなれ、周りと協調しろ、味方を増やせ、何でも暴力で解決しようと思うな、竹刀と木刀は部屋に持ち込むのは禁止、一夏の話にいちいち反応するな、あいつが短期間で落とせるならもう誰かが落としている。
容赦がなさ過ぎて、クールな外見の篠ノ之が涙目になっていたのが少し可哀想だとは思うが、手加減したら一夏なんて絶対に落ちないから仕方の無い犠牲なのだ。
「じゃあ、明日は吉報を待ってるから」
美夜は全てを言いきって満足そうにしながらも、部屋の隅で床に転がってトドごっこをしている俺を指でつつきながら催促しているので、”聖杯”を使って紙袋に入ったゴム製品とローションのセットを作って美夜を通して篠ノ之に手渡してもらったのだが、中を見てぶん投げられた。避妊と潤いは大事なのに……。
「そ……、そんな事出来るか!! 美夜、しっ、勝負して私が勝ったらそれは無しだ!」
「箒に任せたら織斑くんがいつ落ちるか分からないから、確実に落ちる方法を教えたのに。箒は織斑くんを狙ってる子が沢山いる事を自覚しなよ。落とされて後で泣いても知らないよ? それとは別に、勝負は受けるけど」
今の状況を観察して、このままだと何が起こるか分からないから早めに行動した方が良いと美夜は言っているのに、羞恥心で真っ赤になった篠ノ之に押し切られて、俺たちは剣道場に連れて行かれる。
それに人目に付かないようにトドになっているのよりは、突発的に起こった今回のイベントによって
「あの……箒。美夜と勝負するなら、戦闘形式は止めた方が良いと思いますわ」
入学式の事を忘れていないオルコットさんは、必死に説得しているが篠ノ之は聞く耳を持っていないみたいだ。
どうして一夏と上手く行かないのか、その理由が良く分かる。それに、オルコットさんの懸念は物凄く正しい。
素の近接戦闘に関して言えば、美夜は俺より強いのだ。
生まれて十五年しかたっていない人間なんかには、目を瞑っていても絶対に勝てる。そして剣道場に辿り着いて美夜は竹刀を持たされたのだが、実戦形式に慣れ過ぎた美夜は剣道と言う競技が分からなくて困惑していた。
「剣道知らないから別の事が良いんだけど。他の人もいて迷惑になると思うし」
「じゃあ、これは剣道ごっこ! 剣道ごっこだから問題無い!! 竹刀が当たって、相手に参ったって言わせれば勝ちだから!!」
俺もオルコットさんも唖然として見ているしかなかった。
美夜の事をまだよく知らないからと言って、よりにもよって篠ノ之は自分の死刑執行書にサインをしたも同然の自爆行為を行っているからだ。
「篠ノ之! 止めておけ!! それは美夜の言う事を聞くって言ってるのと同じだから!!」
「大丈夫だ! 私は勝って、美夜の言っている方法とは別の選択肢を取る!!」
目の座った篠ノ之がそう言って竹刀を構えてしまったので、美夜もしぶしぶ戦闘態勢に入った。
そして美夜は手加減して傷や痣が残らないように、篠ノ之の急所に竹刀を叩き込んでいた。
勝負をする前から結果は分かっていたのだが、相手に花を持たせるとかそう言う考えは微塵もねえよと言うくらいに、完膚無きまでにぼっこぼこである。
「私が勝ったから、箒はちゃんと既成事実を作ってね。明日は箒が織斑くんの彼女になったって報告を楽しみにしてるから」
……美夜は純粋に篠ノ之の望みを叶える為に、ぼっこぼっこにしたのだと思う。ロウ・エターナルらしいスパルタ加減は見ていて清々しいくらいであったが、進退窮まった篠ノ之の表情は絶望色に染まっていた。
「私が悪かった! 済まない。既成事実、既成事実だけは勘弁してくれ!!」
周りが篠ノ之ほどの実力者が鎧袖一触された上に、意地もプライドも全部捨てているように見えているので割って入ろうとしてくるので、俺とオルコットさんが仕方なく背景を説明すると、聞いたみんなは揃ってドン引きしていた。
勝てばいい話(?)で終わっただろうに、負けたせいで色々台無しになっている。勝負の世界、すげえ怖い。
「もー、処女めんどくさい。……分かった、既成事実はしなくて良いから」
兎に角謝り倒して美夜に許された篠ノ之はそれで良かったのかも知れないが、傍から見ていたオルコットさんと剣道部の部員さんたちは、負けたせいで色々と失ったように見える篠ノ之をいたたまれない表情で見ていた。
結局、一夏と篠ノ之の仲は現状維持に留まっている。
この先の事を考えると、一夏を落とす最大のチャンスは今しかない。そう言う意味で美夜のした事は正しいのだが、やり方が色々と間違いかもしれないと言う玉虫色に近い返事しか俺には返せない出来事だった。
***
放課後に美夜と並んで歩く。
「ISを使うには予約が必要だけど、運用実績の無い一年には当然使用許可なんて下りないし、勉強も”聖杯”のサーヴァントシステムでどうにでもなる。
他の二人の所に行くのもこの一週間は遠慮したいし、どうしようか?」
美夜が散歩でもしようと誘ってくれたので、それに付いて行く。
二人でのんびり手を繋いで歩いていると、ルームメイトを発見したので声をかける。
「簪さん、これから俺たちのお茶に付き合ってくれないかな?」
美夜と一緒に簪さんの方に向かったら、なにやら簪さんはあわあわしだした。
「ごめんなさい、司さん。私行く所があるんです。それにつまらない所ですし」
聞いてみたらIS整備室に行くと言っているので、簪さんと美夜に断って見学する事にした。
俺はエンジニア志望と言う事になっているし、実際に興味もある。美夜にしても、珍しいものが見られると喜んでいるみたいだしな。
ただ簪さんが振り返った後で、美夜が小さな声で俺に聞いて来た。
「司、織斑くんのヒロインズって何人?」
「ん? 五人だろ。オルコットさんと篠ノ之。後は凰鈴音とシャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「ふーん……。うん、そうだね。ありがとう」
「……違うのか?」
「違わない。それで良いんだよ。まあ、セシリアはヒロインズの中に入れて良いのか分からないけどね」
その話を終えて簪さんと三人並んだので、お互いの事を知っている俺が互いの事を紹介しているのだが、初対面の美夜には遠慮しているようだった。
まあ初日があまりにもグダグダだったせいで、それでかえって仲良くなって普通に話せるようになったが、俺に負けず劣らず簪さんも結構人見知りが激しいからな。
対人関係だと極めて珍しい事に、俺が中に入って三人で並んで歩きながら話をしているのだが、言いたい事がなかなか出ない簪さんを俺と美夜がフォローしながらゆっくりと話す。
こう言う事は俺もそうだけど、俺との付き合いが長い美夜も得意なので、それに気が付いた簪さんも少し肩の力が抜けたようだった。
……本当にこの子は、女の子版の俺って感じなんだな。
人付き合いが苦手で苦労してそうだし、ルームメイトでいい子だから何か手伝える事があるなら手伝ってあげよう。
***
簪side
さっき見た事をドキドキしながら考えていたら、いきなり本人がやってきた。
正体を知られたから私を殺しに来たのかと思って悲鳴を上げたら、びっくりした表情をしてそのまま慌てて出て行ってしまいました。
そのまま少し待っても何もおこらないので疑問に思っていると、私はとんでもない勘違いをしてるのではないかと思いついたのです。
基本IS学園は二人部屋なのに、この時間になっても私のルームメイトは一向に姿を現しません。
……もしかして、私のルームメイトってあの人!?
もしそうなら、荷物が段ボールに入ったまま開けて無いのも説明が付きます。
私がいつまでたっても帰ってこないから、待っててくれたのかもしれません。もしそうなら、相手に対して失礼とかそう言うレベルを超えてしまっています。
慌ててあの人を探す為に部屋から飛び出そうとすると、扉が途中て引っかかったように止まって、恐る恐る覗いてみるとあの人と目が会いました。
初めて間近で目が会ったあの人は、月の光を浴びてキラキラ光っていたのが当然とも言うべき、すごくカッコイイ人でした。
「うぁ……。ご、ごめんなさい! こっちに来てください!!」
テンパってしまって袖を引きながら急いで部屋の中に入ってもらって部屋の案内をすると、何を言って良いのか分からなくなってとにかく必要な事を言って、私は布団の中に逃げました。
「あー、うん。おやすみ」
慌てて言ったあいさつを返してくれて、その後の水の流れる音を聞きながらまんじりもしないでいると、もう一度だけお休みと言う声が聞こえてあの人は眠ってしまったようでした。
それを聞いて本当に寝ちゃったんだと思った後で、私も今日の疲れが出て何時の間にか眠ってそのまま朝になって目が覚めると、私の隣のベッドにはあの人がそのまま眠って……って、着替えないと!?
「何で男の人と一緒の部屋なの……」
理不尽だとか、何か間違いがあったらどうするのかとか、頭の中をいろんな言葉がグルグル回っているのを感じたり、起きませんようにととにかく何かに祈りながら急いで身支度を整え終わった頃に、丁度あの人も目が覚めたようでした。
「……あー……。着替えて来る。その後、一緒に朝ご飯でも食べようか」
私の雰囲気と恰好を見てそう言い残してバスルームに入って行った後、ようやく少しだけ落ち着いてものが考えられるようになりました。
名前は聖司さんで、あいつと同じ男性IS搭乗者の一人。……後は……天使? なのかなぁ。
昨日見た天に昇る姿が忘れられないけど、別にだからと言って何かある訳ではないようです。私の打鉄二式は相変わらずだし、やる事も変わらない。
だけど今までの昨日とは、何かが変わるかも知れません。
「お待たせ、行こうか」
「あ……」
言葉が咄嗟に出なくて慌てて肯くと、聖さんは特に気にする事も無いように扉を開けて私を待っていてくれて、特に会話も無く食堂まで来ると私と聖さんはモーニングを頼んで席について食べ始めました。
その後も特に会話も無く聖さんがコーヒーを飲み始めるのを見て、私は勇気を振り絞って話しかける事にします。
「あの、昨日はごめんなさい」
ようやく昨日の事から落ち付いて来て、最初に出て来たのは謝罪の言葉でした。
どう考えたって昨日の事は私が悪い。もっと早く部屋に帰っていれば、色々と違った結果になっていたはずです。
そう思っていたのに、聖さんから出たのも謝罪の言葉でした。
「あなたは被害者なんだから、謝らなくて良いんだよ。
一番悪いのはこんな事を平然としたIS学園で、次に何も無かったとは言え、一晩一緒の部屋で過ごした俺だから。先生に言って部屋を変えてもらうよ。ごめんね」
違うんです、聖さんは悪くないんです。私が遅いから悪いんですとか色々と考えているのに、私のポンコツの口からは上手く言葉が出てくれません。
みんなが普通にできる事なのに、私は上手く出来ないで気持ちがどんどん落ち込んでいる時、助けてくれたのは聖さんでした。
「はい、深呼吸。因みに、俺はあなたが悪いなんて思って無いから。これは絶対譲らないからね」
そう言って待っていてくれると、穏やかに私に提案してくれました。
「じゃあ、まずは自己紹介からしようか?」
「……はい。私は更識簪。簪って呼んで下さい」
その後朝の時間を一杯まで使って話をしました。
誤解も解けたし、司さんも私と同じような悩みを抱えているせいなのか話しやすくて、この学園に来て初めて楽しいと思える時間でした。
そのまま楽しい気持ちで一時間目の休み時間に入った瞬間、待っていたのは一対二十九のみんなからの尋問でした。
司さんが女の子を苦手としているのはこの学園では有名で、もう一人の男性搭乗者のあいつと違って、一組のガードが固くて他のクラスの人はほぼ話すら出来ません。
唯一の例外は彼女さんの聖美夜さんか、その二人から特別扱いされているセシリア・オルコットさん。後はその二人に頼める人たちだけ。
正直この学園では、オルコットさんはイギリス代表候補生と言うネームバリューより、聖司さんと聖美夜さんに特別扱いされている人と言うネームバリューの方が強いくらいです。
クラスのみんなは、私に第二のオルコットさんになれと言っているのです!
そんなの無理と言おうと思ってみんなを見たら、目が血走っていて怖いです。仕方ないので渋々がんばると言いました。これからどうしよう……。
その後段々と司さんと緊張しなくても話せるようになって来た頃の放課後に、IS整備室に歩いて行ったら司さんと
クラスのみんなの約束が脳裏を掠めましたが、打鉄弐式を早く組み立てなくてはなりません。
泣く泣く断ったら、司さんはエンジニア志望で興味があるらしくて、見学して良いかと聞いてくれました。
中途半端な打鉄弐式を見せるのは恥ずかしいですけど、司さんと美夜さんとはこれからも仲良くしたいと思います。
簪Side out
箒改造計画その2
簪支援の為のルートが登場しました。
後、これは箒アンチ・ヘイトに当たるのでしょうか?
それが心配です。