「お料理、教えてください!」
今日は珍しいお客さんが来たと思いきや、これまた珍しい事を言ってきた。
「私、何でもしますから! だから私に美味しいお料理をどうかご教授ください!」
などと言いながら、永遠亭の玄関の前で綺麗な九十度のお辞儀をしているのは、最近この幻想郷にやってきた『東風谷早苗』という少女。
彼女は妖怪の山に自身が住まう神社ごと引っ越してきて、一時期大騒ぎになってしまい、霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんが妖怪の山に突撃するという事件が起きた。
その際の宴に、料理を作ってくれとお呼ばれされたので、一応彼女とは面識はあるが……
(えっと、早苗ちゃん?)
「はい、何でしょうか師匠!」
おっと、どうやら既に彼女の中で自分は既に師匠になっている模様。
(その前に、どういう経緯でその考えに至ったのか教えてもらえると……)
流石に悟り妖怪のように相手の心を読んだり、霊夢ちゃんのように超直勘も自分にはないため、彼女の心情が分からない。
故に理由を知りたいのだ。
「経緯ですか? 経緯を言えば正式に弟子として認めてくれるんですね! 分かりました、洗いざらい喋ります!」
……何というか、マイペースというか、我が道を進むといった少女だ。
「そう、あれは私が幻想郷にやってきてすぐ、霊夢さんにボコボコにされ強制的に参加させられた宴会でのことでした」
(なにこれ、凄く美味しい……!)
強制的とはいえ参加したからにはこの宴会は楽しもう、私はそう決めた。
だから用意された宴会料理を口に入れたのだが、予想外の刺激が私の舌で駆け巡った。
幻想郷に来る前は、神様が見えるだけの普通の学生だった私だが、一応女として料理はそれなりに嗜んでいた。
当然プロまでとは言わないが、それなりの自信もあった。
『いやー、早苗の作るご飯はいつも美味しいね。あ、神奈子それ私のきんぴらごぼう』
『早い者勝ちだ諏訪子よ。早苗もいつもすまないな、私達の食事まで用意してくれて』
と、このように我が家の神様達にも好評だった。
それ故、私の料理の腕はこれ以上上げなくてもやっていける、さっきまではそう思っていた……
しかし私は理解してしまった、上には上がいると。
そしてそれを気付かせたのは、今しがた口に入れた宴会料理だった。
「よっ、楽しんでるか緑巫女」
私が衝撃を受けていると、背後から声をかけられた。
「貴女は……えっと、確か霧雨さん?」
「おいおい堅苦しいな、魔理沙で良いぜ。私もお前の事名前で呼ぶから……えっと、なんだっけ名前?」
「あ、早苗です……東風谷早苗」
「早苗な……で、楽しんでるか?」
随分とコミュ力が高い人だと感じた。
「えぇまぁ……それで、何か御用ですか?」
「別に用って程でも無いけどな、ただ見かけたから声を掛けただけだぜ」
見かけたから声を掛けた……どうやら魔理沙さんのコミュ力はカンスト済みのようだ。
「そうだな……なら特別にこの魔理沙様が、新参者に
なんだろう、後輩の面倒をみる部活動の先輩というイメージが脳裏をよぎった。
しかし聞きたいことか……突然そう言われても思いつかないものだ。
「……えと、じゃあこのお料理は誰が作ったんですか?」
もっと他になかったのか、その時は何故かそれしか思い付かなかった。
「あー料理? 変な事聞くんだなお前……まぁいいや、作ったのは確か……ほれ、あそこにいる兎だ」
魔理沙さんが指差した方向に目を向ける。
するとそこには……
「な、なんてあざとい格好を……!?」
一見すると、外の世界の女子高生のようなブレザー型の制服。
しかしそれだけでなく、頭頂部にはウサ耳、お尻には真っ白なウサ尻尾が付いているではないか。
あざとい、実にあざとい……が、滅茶苦茶可愛いなあの格好。
「魔理沙さん魔理沙さん、なんですかあの人、制服に兎のコスプレとかあざとすぎますよ! けど結構いけますね、私制服コスプレに何か付け足すのは邪道かと思ってましたが、あの人を見てたら考えが変わりそうですどうしましょう」
「……すまん、お前が何を言ってるのか全く理解できなかった。まぁあれだ、気になるなら声かけてみろよ。見た目は無愛想だが、良い奴だぜ」
多分この時の私は安心感を感じていたのかもしれない。
ここ幻想郷は私のいた
時代も人も何もかもが違う、私の常識とは違う、これから上手くやっていけるのか。
そんな不安が頭の片隅にある中、私のいた世界にあるような服装をしていたウサ耳の少女は、私の不安感を少しだけ和らげてくれた。
「あ、あの……!」
やはり初めて会う人に声を掛けるのは緊張してしまうものだ。
しかし勇気を出して、背中を向けている兎の少女に声を掛ける。
私の声に気付くと、少女はゆっくりと振り返り、その真っ赤な瞳で私を見つめる。
『何か御用ですか?』
彼女は私をしばらく見つめると、懐からメモ帳とペンらしきものを取り出し筆談をしてきた。
(む、無表情で無口とか……キャラ立ち過ぎじゃない!?)
失礼だとは思った、しかしそう思わずにはいられなかった。
だって制服兎コスに、無表情と無口なんて何処のアニメキャラクターだ。
何故私のいた世界では、現実にこういう人が居なかったのだ。
(まさか幻想郷ではこういう人が沢山いる……? 魔理沙さんとかもいかにも魔女っ子みたいな格好だったし……うん、幻想郷に引っ越してきて正解だったかも)
そこそこアニメキャラクターに愛着を抱く私としては、幻想郷の方が合いそうな気がしてきた。
うん、不安とかもうどうでも良いや。
これから先、
ビバ、幻想郷。
(それにしてもこの人……バニーガールとか似合いそうだなぁ。ちょっと着てみてくれないかな)
せっかく立派な耳と尻尾があるのだ、それをもっと活かしてほしい。
『あの……?』
おっといかん、妄想にふけり過ぎたようだ。
「あ、えっと……ですね、その……あ、貴女のお料理美味しいですよ!」
いけない、テンパり過ぎで出てきた言葉がそれしか出なかった。
『はぁ、それはどうも……?』
あ、そうだ、折角だしこの人に料理を教わろう。
「ということです!」
『……えっとごめん、結局どういうことなの?』
あの宴会の日、彼女がどんな心情で自分に話しかけてきたのかという事は分かった。
しかし何故そこから料理を教わろうという思考に至ったのかの説明がなかったため、一番知りたい事が不明なままだ。
「つまりですね、私師匠ともっと仲良くなりたいってことなんです! 幻想郷でのお友達はまだ霊夢さんと魔理沙さんくらいしかいないので、師匠を記念すべき三人目の友人にしたいんですはい!」
なる……ほど?
要は仲良くなるための第一歩として、料理を教わりにきたという認識で良いのだろうか。
『……まぁ別に良いけど』
「本当ですか! やりました、これで私達ズッ友ですね師匠!」
……不思議な子だ、いやほんとに。
所変わって永遠亭の台所。
「師匠師匠! 料理中もそのウサ耳と尻尾外さないんですね! でも制服とウサコスにさらにエプロン付け足すのは刺激が強すぎますよ! 私を萌え殺す気ですか!?」
(こ、こす……? えっと、とりあえず何かリクエストはある?)
彼女の言動を一々気にしていたらキリがない、なので話を無理矢理にでも進める事にする。
「ふむ……リクエスト……あ、じゃあ肉じゃが! 師匠の美味しい肉じゃがの作り方を教えてください! 私肉じゃが好きなんで!」
(肉じゃがね)
肉じゃがと言っても、肉じゃがにも色々と種類がある。
さて、どんな肉じゃがを彼女に教えるべきか。
(……あれでいくか)
まずは、じゃがいもを綺麗に洗い、包丁もしくはタワシを使って皮を削ぐ。
次に玉ねぎをくし形になるよう縦に割っていく。
ごま油をひいた鍋に火を付け熱を入れていき、均等に切り分けたじゃがいもを入れる。
木べらなどで鍋に入れたじゃがいもを転がすように炒め、じゃがいもに油が馴染んだら玉ねぎも加えて炒める。
次に一口大に切った肉をほぐしながら鍋に加え、強火で炒めていく。
次第に肉の色が変わるので、そのタイミングである調味料を加える。
赤味噌、醤油、一味唐辛子を混ぜたこの調味料が今回のメインとなる。
調味料を混ぜたら、またしばらくの間炒めて、それから水を少し加える。
すると暫くして、アクが出てくるのでそれを除いて弱火にする。
そして酒、砂糖、しょうゆを加えて、煮汁が少なくなるまで煮込む。
じゃがいもが柔らかくなったら終了の合図だ。
中身を器に移して、筋を取って塩茹でをした絹さやを盛り付けて……
ピリ辛肉じゃがの完成だ。
「今日はありがとうございました師匠、まさか辛い肉じゃがあそこ迄美味しいとは思いませんでした!」
ふむ、どうやら少女早苗は満足してくれたようだ。
それならば、此方としても作り甲斐も教え甲斐もあったというもの。
『じゃあ帰りもちゃんと妹紅さんに付いていってね』
「はい! ……あ、そうだ。師匠、もし宜しければこちらを!」
そう言って早苗ちゃんは、来た時から持っていた謎の紙袋を渡してきた。
なんだ、もしかして最初からお礼とか用意していたのかこの少女は。
「私のお古で申し訳ないんですけど……きっと師匠に似合うと思うので差し上げます! それではっ!」
そして自分の返答を待たずに、嵐のように去っていく少女早苗。
……果たして大丈夫なのだろうか。
しかし袋の中身は一体何なのだろうか……?
「ただいま戻りました!」
「おや、お帰り早苗。どこに行ってたんだい?」
妖怪の山の上にある住み慣れた神社に帰宅をすると、我が家の神様達が出迎えてくれた。
「ちょっと師匠……鈴仙さんという方にお料理を教わりに行ってました! 神奈子様、諏訪子様、今日の晩ご飯は一味違いますよ!」
「そ、そうか……そりゃ楽しみだ。……ん? 鈴仙? 鈴仙っていうとあの兎の耳と尻尾を生やした奴のことかい?」
「? そうですけど……」
何故か少し不安そうな顔をする神奈子様に私は疑問を覚える。
「早苗や、あいつに何かされたりしたかい?」
すると突然、神奈子様の隣にいた諏訪子様がそう聞いてきた。
「い、いえ特には……親切な方でしたよ?」
「……そうか、それなら良いんだけど」
なんとも煮え切らない反応をするお二人に、私は逆に問いかけた。
「……何か鈴仙さんに気になることがあるんですか?」
「いや、大したことじゃないんだけど……私らもあの日の宴会で鈴仙とやらに対面したんだが……」
諏訪子様が言葉に詰まる。
「あいつ、私……というか、私の中の『ミシャグジ様』を感じ取るなり、憎悪をぶつけてきたんだ。まぁほんの一瞬だったけどね」
憎悪……?
「うーん、諏訪子様が何か粗相をしたとかなら納得なんですけど、諏訪子様の中のミシャグジ様にですか……というか、さり気無く鈴仙さんそれ凄い事してません? 私にもその能力欲しいんですけど」
諏訪子様の力そのものともいえるミシャグジ様を感じ取るのは私にはまだ出来ないというのに……流石は私の師匠だ、今度料理だけじゃなくてその能力も教えてもらえないものだろうか。
「……まぁ考え過ぎだったのでは? 多分鈴仙さん『蛇』とか嫌いなんですよきっと」
「そう……かな。うん、そういう事にしておこうか。ていうかミシャグジ様を蛇扱いか……」
「なに、大体合ってるじゃないか。ハッハッハッハッ!」
夕焼けの景色に、神奈子様の笑い声が響いた。
(これは……何処かで見たようなそうでもないような……うーん、思い出せない)
早苗ちゃんから受け取った紙袋の中身を取り出したのだが、見た感じ黒色の衣服の様なものだった。
何処かで見た気がする形なのだが、うまく思い出せない。
(……とりあえず一度着てみた方が良いよね)
彼女がこれを自分に意図して渡したのなら、おそらく自分にこの衣服を着て使って欲しいということなのだろう。
ならばそれを無下にすることはできない。
(んっ、やや胸部の部分がキツイけど……とりあえず着れたな)
そして部屋にある姿見で自身の姿を確認してみる。
(……これは随分と扇情的というか)
何となく察しはついていたが、露出度が高すぎる。
肩出しな上、胸も下半分しか隠れてない。
下半身に至っては、股とお尻の部分しか隠れておらず、大腿部分なんて丸出しだ。
(うん、完全に外用のものじゃないよねこれ。じゃあなんだろ……寝間着かな? というか、尻尾を出す様の穴が何故既にあるのだろうか)
今のところ使い方が寝間着くらいしか思いつかないのだが、果たしてその使い方であってるのだろうか。
今度早苗ちゃんに会ったら、具体的な使い所を聞いておかねばならない。
「ねぇウドンゲ、予備の試験管どこにあるか知ら……ない?」
すると部屋に近寄ってきていた師匠が部屋の襖を開け、そう聞いてきた。
そして数秒間、自分を見つめたまま……
「……はぅ」
(し、師匠!?)
そのまま背中から床にビタンと倒れた。
「ふむ、どうやら鈴仙の扇情的な姿に興奮を抑えきれなくて、気絶したようね。まだまだ修行が足りないわね永琳」
「お師匠様がまた気絶したウサか、この人でなしぃ!」
いつのまにか近くにいた姫様とてゐは、訳のわからないことを言い始めた。
リクエストの一つで早苗さんのお話でした。
ちなみに本編での早苗さんの出番はない予定です。
このようにこの番外編では、ストーリーの都合上本編にあまり関わらないキャラをメインにしていきたいと思っています。
もしこのキャラをメインにして……などの要望があれば、活動報告にてメッセージを残して頂けると優先して登場させるようにしたいと思います。