うどんげごはん   作:よっしゅん

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リクエスト2個目です。


ふわふわ綿あめ

 

 

 

 

 

「そういえば一週間後に、人里で夏祭りがあるんですって?」

 

 廊下を掃除していると、通りかかった姫様がそんな事を言ってきた。

 

『そうですけど……よく知ってましたね姫様』

 

「妹紅から聞いたのよ、最近知り合った人里の守護者に誘われたんだってさ」

 

 あぁ成る程、そういえば妹紅さんと慧音さん、永夜抄の異変後の宴会で気が合って仲良くなったらしい。

 それからというもの、妹紅さんは最近人里までいって慧音さんと食事をしたり、仕事を手伝ったりしてる。

 いやはや、友達が自分達しかいないみたいだったから心配してたけど、ようやく妹紅さんにも春が来たというやつだろうか。

 

『それで、それがどうしたんです?』

 

「私も行きたい」

 

 ……うん、まぁ話の流れ的に何となくそんな事を言うのではないかと予想していたが。

 

『珍しいですね、姫様が自分から遊びに行きたいと仰るのは』

 

「何か勘違いしてるようね鈴仙、私は本来アウトドア派よ。幻想郷に来る前地上にいた頃は、よくお爺様の目を盗んで勝手に都に遊びに行ってたりしてたわ」

 

『そ、そうですか……』

 

 きっとその度に大騒ぎになっていたのではないだろうか。

 

「ただね、逃亡生活を長く続けてたせいか、篭り癖が付いちゃったのよ……それと永琳の過保護も原因かな」

 

 確かに、師匠のことだから姫様を決して危ない目に合わせまいと外出を極度に控えさせたのだろう。

 ……本当に不器用で可愛い人間だ。

 

「鈴仙?」

 

『……いえ、何でもないですよ』

 

 いけない、少しぼーっとしてしまった。

 何だか最近ぼーっとしたり、記憶が飛んだりする事が多い気がするが……気の所為だと思いたい。

 

『えっと、つまり姫様も夏祭りに行きたいと?』

 

「そうよ、だから当日はエスコートお願いね鈴仙。私人里までの道すら知らないから」

 

 と、可愛らしくねだる姫様。

 うーむ、いつもなら任せてくださいと、容易に言えるのだが……今回はそうはいかない。

 

『すいません、無理です』

 

「えっ!?」

 

 断られるとは思っていなかったのか、心底驚く姫様。

 

「ど、どうして? もしかしてこの前勝手に鈴仙の分のお菓子を食べちゃったこと怒ってるの? だってしょうがないじゃない、貴女の作るお菓子美味しいんだもん!」

 

 あぁ、テーブルの上に置いておいた自分の分のお菓子が消えていたのはそういう事だったのか。

 てっきり師匠が犯人かと思っていたが、姫様の可能性もあったか。

 

『いえ、別に怒ってないですし、理由も別の理由ですよ』

 

「あ、あら……そうなの」

 

 これがいわゆる自爆したというやつだろう。

 まぁ本当にそれくらいの事なら怒りはしない。

 

『実は慧音さんに頼まれて、今回の夏祭り私は運営側で参加する事になってるんですよ』

 

「……運営?」

 

 何でも今年は人手が足りないらしく、屋台やら何やらの設営からその運用をする為の資金の管理などを手伝ってほしいとのことだった。

 日頃慧音さんには色々とお世話になっているし、断る理由もなかったので請け負ったというわけだ。

 

『それから出し物も一つ出すように頼まれてるので、残念ながら当日姫様と一緒に祭りを楽しむ時間がないんですよ。あ、それとお祭りは夕方からですが、私は色々と仕事があるので朝には永遠亭を出ますから、お昼と夜は作り置きを師匠と食べててくださいね』

 

 何なら姫様と師匠二人で祭りを楽しんでも良いのではないだろうか。

 しかし、あの師匠が祭り事に自分から出向くかと言われると、少し難しいのかもしれない。

 

「ぐぬぅ……ぬかったわ。鈴仙を餌にすれば永琳も食い付いて、それから色々とさせようかと思ってたのに……」

 

 どうやら姫様は何かを企んでいたご様子。

 

「……ねぇ鈴仙、出し物出すって言ってたけど、どんなのにするかもう決めたの?」

 

『え? いえ、それはまだですけど……』

 

「そう! じゃあ決まったらすぐに私に教えてね、うふふ」

 

 そして何故か上機嫌で去っていく姫様。

 一体なんだったのだろうか……

 

 まぁ良いかと気にせず掃除を続けていると、玄関の戸が叩かれた。

 

「よう、今暇か? 暇だよな? じゃあちょっと手伝ってくれ」

 

 そして戸を開けると、そこに立っていた霧雨魔理沙(来訪者)がいきなりそう言った。

 

『今掃除中なので暇ではないんだけど……というか魔理沙ちゃんよく一人でここまで来れたね』

 

「なに、そこらへんを暇そうに歩いてたウサギ(イナバ)を捕まえて道案内させただけだぜ」

 

『乱暴とかしてないよね……?』

 

 悪い子ではないのは確かだが、彼女は何処か歯止めがきいてないというか、ブレーキがない性格をしてる。

 故に少々乱暴というか、大雑把というか……

 

『えっと、それで手伝ってほしいって言ってたけど……』

 

「おう、今頼れるのはお前しかいないんだ。霊夢とかアリスにも声をかけたんだが、一蹴されちまってな。なに、ちょっと『片付け』を手伝ってほしいだけだぜ」

 

 ……片付け?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ香霖! 助っ人連れてきたぜ!」

 

「魔理沙……勝手に手伝うとか言いながら、勝手に何処かに行くのは幾ら何でも……助っ人だって?」

 

 魔理沙ちゃんに言われるがままついていくと、魔法の森に連れていかれた。

 そしてお世辞にも綺麗とは言えない、何やら怪しい建物の中へと通された。

 するとその中には、沢山の物品(ガラクタ)に囲まれながら何かの作業をしている若い男がいた。

 

「ああ、一人で寂しく仕分けをしてる可哀想な香霖のために、魔理沙様がこの兎を助っ人として連れてきたぜ。何、礼はいらんぜ、お前と私の仲だからな」

 

「そもそもそんな事、僕は一言も頼んでないんだが……」

 

 香霖と呼ばれる男性は、やれやれといった様子で立ち上がる。

 

「初めましてかな、僕は『森近霖之助』、ここ『香霖堂』の店主だ。できるなら、良き付き合いができる事を祈るよ」

 

 そしてゆったりとした、落ち着いた声で自己紹介をしてきた。

 成る程、店主というとここは雑貨屋か何かだったのか。

 店の外にも内にもよく分からないガラクタが沢山あるという事は、相当広い分野を扱っている雑貨屋なのだろう。

 ついでに言うと、この人はただの人間ではないようだ。

 慧音さんのような、半分人間で半分違うといった感じだ。

 

 とりあえず挨拶をされたからには返すのが礼儀だ。

 いつもの調子で、もはや書き慣れた自分の名前を紙に書き綴っていく。

 そして名前を名乗ると同時に、右手を突き出して握手を求めた。

 

「……ああ、君は言葉が話せないのかな。これは配慮が足りなかった、失礼をしたね」

 

 少し面食らったような表情をしてから、すぐさま再起動して自分の握手に応じてくれる森近霖之助。

 ふむ……なんというか、幻想郷の住人にしては紳士的というか、何だか柔らかそうな物腰の人だ。

 波長も非常に落ち着いてゆったりしている。

 

「どうか気軽に名前で呼んでくれ、霖之助という名は自分で考えたあだ名のようなものだからね、そっちの方が僕としても嬉しい」

 

『では私のことも気軽に鈴仙と、私もある人達がくれたお気に入りの名前なので、そう呼んでもらえると嬉しいです』

 

「……いつまで握手してるんだよ」

 

 と、何故か拗ねたような声色で割り込んでくる魔理沙ちゃん。

 

「おっとそうだね、女性の手をいつまでも握っていられるのは限られた者だけだからね……どうやら魔理沙が迷惑掛けたようだ、代わりにこの子と腐れ縁の僕から謝っておくよ」

 

『いえ、彼女の横暴さにはもう慣れてますから』

 

「お前ら私を何だと思ってるんだぜ?」

 

 何って、思春期真っ只中の家出魔法使いといったところだろう。

 

『それで、来たからには最後まで付き合うつもりでいるけど……まさか片付けって、この店の片付けってこと?』

 

「その通りだぜ。ほら、近い内に人里で夏祭りがあるだろ? 良い機会だし、そこで商品の在庫処分も兼ねてこの店のガラクタを商品として売り出そうって事になったんだが……いかんせん二人だけだと片付くものも片付けられなくてな、心優しい魔理沙様がわざわざ暑い中助っ人を探しに行ったんだぜ」

 

 成る程、それで友人の霊夢ちゃんやアリスさんに声をかけたが、断られてしまい自分の所に来たと……

 

「ああ、魔理沙はこう言ってるが、初見のお客さんに手伝わせるわけにもいかない。だからお茶でも飲んでゆっくりしててくれ」

 

 と、霖之助さんは言うが……さてどうしたものか。

 別に手伝うのは全然構わないのだが、相手が望んでいない善意をぶつけるのも、時には失礼になってしまう。

 しかしここまで来たからには、何かしないと気が済まないというか……

 

『……霖之助さん、『ソレ』もこの店の商品ですか?』

 

「ん? ああそうだよ、『これ』の名前と用途は分かるんだけど、肝心の使い方が分からなくてね。とりあえず商品として出してるものだよ」

 

 ふと視界の端に入ったある物が目に止まった。

 ……ふむ、これを使えばもしや。

 

『では霖之助さん、私が手伝ったら報酬としてですね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬屋さーん、『わたあめ』一つくださいな!」

 

「「「くださいなー!」」」

 

 ちびっこ達の元気な声が辺りに響く。

 

『じゃあちゃんと列に並んで順番を守れる子から渡そうかな、それと今日は薬屋さんじゃなくてわたあめ屋さんと呼ぶように』

 

「「「「はーい!」」」」

 

 子供達の小さな手に握られていたお金を受け取りながら、作り置きしてた綿あめを渡していく。

 子供達は物珍しさからか、すぐには口に入れず綿あめを眺めたり触ったりしている。

 

(思ってたよりも勢いが凄いなぁ……これは祭りが終わる前に、先に材料が無くなる感じかな)

 

 突然だが、自分は今綿あめ屋をしている。

 その理由は簡単、霖之助さんのお店に綿あめ機があったからだ。

 綿あめなら祭りの出し物として相応しいイメージがあるし、何より材料も作り方も慣れれば簡単だ。

 というわけで、霖之助さんのお店の片付けを手伝うのと引き換えに、綿あめ機を頂いた。

 少し破損していたが、原動力である電力の問題も含めてうちの天才(師匠)が何とかしてくれた。

 

 しかし予想外だったのが、思っていたよりも繁盛してるという点だ。

 大人子供性別関係なく、先程から自分の屋台には長い列ができている……綿あめはこの幻想郷では普及していないためか、皆物珍しさに惹かれているのだろう。

 おかげさまで大忙しだ。

 

 しかし苦労の甲斐あってか、しばらくしてようやく勢いが落ち着いてきた。

 ふぅ、と一息ついて疲れをを癒す事に専念する。

 

(……おや、あれは確か)

 

 ふと、少し離れた場所で起こっている出来事に気が付いた。

 無数とも言える子供が、何かを取り囲んではしゃいでいる。

 そしてその何かだが、見覚えがある。

 まるで空に浮かぶ雲のような……いや、実際に見越し入道と呼ばれる妖怪、『雲山』という名の雲が子供達に群がられている。

 

 あの妖怪は確か、最近人里の近くにできた『命蓮寺』というお寺にいるある妖怪の相棒の見越し入道だったはずだ。

 その見越し入道の彼が、どうして主人を連れずこんな所にいて、子供達に好き勝手に遊ばれているのだろうか?

 ——いや、とりあえず表情はわかりにくいが、どうやら困っている様子だ。

 まずは子供達を引っぺがさなければ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『助かった、礼を言う』

 

『いえ、礼には及ばずです』

 

 子供達というハイエナを引っぺがすと、彼からお礼を言われた。

 しかし彼は言葉を発せないため、身体の一部である雲を操って空中に文字を書いた。

 ……何だろう、彼とは親近感を感じる。

 いや、感じるのは当たり前かもしれない。

 彼は言ってしまえば雲の妖怪、形が不安定な彼には顔こそあれどその表情は人間からしたら無表情にしか見えず、言語すら発することができない。

 つまり、自分の境遇と同じという事だ。

 

『……何だかあなたとは良き友でいられる気がします』

 

『奇遇だな、俺もだ』

 

 多分彼も普段からコミュニケーションには何かと苦労しているのだろう。

 気が付けば自分達はあつい握手を交わしていた。

 

「……なぁ慧音、あいつら何してんだ?」

 

「気にするな妹紅、きっと同士に会えたのが嬉しいんだろう」

 

 と、通りすがりの見知った声によるそんな会話が聞こえてきたが、気の所為だろう。

 

『それで雲山さん、どうしてお一人でここに?』

 

 彼には『雲居一輪』という主人が居たはずだ。

 自分が彼女を見かける際には必ず雲山が側にいるものだった。

 雲居一輪と雲山は言ってしまえば、二人で一人の妖怪という奴だ。

 それが今はどうだ、近くには雲居一輪の姿がない。

 

『実はな……』

 

 そして彼は静かに語り出した。

 

 ——話を簡潔にまとめると、どうやら雲居一輪は今体調を崩してしまい寝込んでいるらしい。

 一応命蓮寺の主人的な存在の『聖白蓮』という女性が看病をしているらしいが、自分も彼女を元気づけるために何かできないかと考えていたところ、人里の祭りに気が付いたらしい。

 あそこなら彼女を元気づけられる何かがあるかもしれないと、淡い期待を持って人里に近づいたが、そこで例の子供達に見つかるなり急に群がられた……と。

 

『しかしここの人間達は何処かおかしいのではないか? 俺や君、他にも何人かの妖怪が何食わぬ顔でいるというのに、騒ぐどころか自分から恐れもせず近づいてくるとは』

 

『えぇまぁ……本当に不思議ですよね』

 

 多分大元の原因は自分かもしれないが……

 本来人は妖怪への恐怖を忘れてはいけない……いけないのだが、自分があまりにもこの人里に溶け込んでいるせいで、人々は妖怪に対する認識が麻痺し始めているのは明白だ。

 しかし人にも良い人、悪い人がいるように、妖怪にも善悪があるという事を知っておけば大丈夫だと慧音さんは言った。

 原因である自分は、その言葉を信じることしかできないが……まぁ仮に何か問題が起きたら、何かしらの責任は取るつもりだ。

 

『ふむ、事情はわかりました。そういう事でしたらどうぞこれを持って行ってください』

 

 そう言って自分の屋台から綿あめを二つ渡した。

 

『これは?』

 

『綿あめ……という菓子です。本来は病人が食べるようなものではないのですが……』

 

 残念ながら今の自分にはこれくらいしかできない。

 

『しかしそれは……いや、せっかくの善意だ、有り難く受け取るとしよう』

 

 綿あめを二つ、受け取った雲山はフワリと空に浮かび始め、やがて夕暮れの空へと消えていった。

 さて、こちらももう一踏ん張りしなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲居一輪、彼女が自身のことをどう思っているのか、時々気になる時がある。

 友愛や親愛を感じているのかもしれないし、恨みや軽蔑の念を抱いているかもしれない。

 

 元々彼女は単なる人間だった。

 少なくとも、自身と初めて会った時までは。

 

 かつて自身は人間に害を及ぼす妖怪だった。

 気まぐれで人間を襲っては食らう、潰す、捻じ切る。

 それは妖怪として当然の原理とも言える。

 だから特に悪い事をしていたとは今でも思っていない。

 

 ——ある日一人の人間が自身を退治しに来た。

 

『あんたが例の見越し入道? あんたに一泡吹かせに来たわ!』

 

 その人間の出逢いは今でも鮮明に思い出せる。

 それぐらい自身にとっては衝撃的なものだったのだ。

 

 結果的に言ってしまえば、自身はその人間に敗北した。

 初めてだった、人間相手に負けたのは。

 それ故に、大きなショックを受けたし、その肝が座った人間に対して興味が湧き出てきた。

 

 本来なら負けたものは敗者らしく消え去るべきだった……しかし自身はどうしてもその人間の側にいたくなった、共に生を刻みたくなった。

 彼女を守ってあげたくなった。

 

 それが今まで人間を襲う事しかしなかった妖怪が、初めて違う理想を抱いた瞬間だった。

 

 しかしそれが間違いだったと気付いたのは、全てが終わってしまったときだった。

 自身が彼女と共に過ごすようになって、明らかに彼女の人生、在り方は変わり始めた。

 しかもそれは、悪い方向に……

 

 自身があの時、大人しく消えていれば彼女はもっと違う人生……今よりも幸せな道を歩めていたのかもしれない。

 そう考えると、少し辛い。

 

「雲山? 帰ってきたの?」

 

 ——ふと意識が現実に戻った。

 気が付けば、彼女の部屋の前にいて、部屋の中からはそんな彼女の声が聞こえてきた。

 

「お帰り雲山、散歩は楽しかった?」

 

 彼女はいつものように笑顔を浮かべる。

 その笑顔が嘘ではない事はわかっているが、どうしても不安が拭いきれない。

 

「……なに? 何かくれるの? え、何これ、雲山の一部?」

 

『綿あめ……とかいう菓子らしい。つい先程知り合った者からの頂き物だ』

 

「へ、へーお菓子なんだこれ……ふふっ、まるで雲みたいなお菓子ね」

 

 一日中安静にしていたお陰か、彼女は今朝よりは顔色が良くなっていた。

 

「じゃあ遠慮なく……うわ、凄いこれ、口の中で溶けてるみたい」

 

 そんな彼女を見守りながら、自身ももう一つの綿あめを口に入れる……というより取り込むと言ったほうが正確か。

 味覚は人間ほどは無いが、大雑把な味ならわかる……この菓子は甘かった。

 

「ねえ雲山、そう言えば私あなたに言い忘れてたことがあったの。昔は言う暇がなかったし、最近は聖を助ける為にゴタゴタしてたから……だから忘れないうちに言っとくね」

 

 と、突然彼女はそう言ってきた。

 

「『ありがとう』、こんな私の相棒でいてくれて……あなたは私にとってかけがえのない親友よ」

 

 ——彼女が何を言ってるのかわからなかった。

 

「あなたと過ごしてから、辛いことや悲しいことが沢山あったけど、同時に得られるものも沢山あった……きっとあなたが居なかったら今の私はなかったと思うの、だからありがとう」

 

 …………ああ、なんだ。

 真実は至って単純、単に自身が『彼女は今幸せではない』と思い込んでいただけだったようだ。

 実際はどうだ、こんなにも美しい笑顔を浮かべる事ができる者が、今幸せでないはずがない。

 

「ち、ちょっと……何か反応してくれないと恥ずかしいんだけど……?」

 

 ——なら自身のやる事はこれからも変わらない。

 彼女を見守り続けよう……それが自身の理想なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴仙、何も言わずにお着替えしましょう」

 

『……はい? というか姫様何故ここに? 何でそんな両手をわきわきして近づいてくるので?』

 

「諦めろ鈴仙、もはや逃げ場はない」

 

『てゐ!? どうしててゐまでここに!?』

 

 突然だが、店番をしてたら突如現れた姫様達に襲われた。

 そしてその場で、一瞬で着ていた衣服を剥ぎ取られ、これまた一瞬で別の衣服を着させられた。

 は、はやい……早着替えとかそんなレベルじゃなかった。

 もはや服だけが別の物にテレポートとして入れ替わったかの如くだった。

 

「私の能力の応用よ、その気になれば、五分も経たずに人里にいる全ての人達の下着だけを抜き取る事すらできるわ」

 

 頼むからそれだけはしないでもらいたい。

 

『……というか、何で浴衣?』

 

 ふと自分の体を確認したら、紫色を主体とした浴衣を着ていた。

 何故自分にこんなものを着せるのか、姫様の魂胆がわからない。

 

「魔法の森にいる人形師に頼んで即興で仕立ててもらった特注品よ。さぁ鈴仙、その格好のまま人里の入り口らへんまで急いで! 店番なら私とてゐがやるからさぁはやく!」

 

 と、自分の屋台から追い出される始末だ。

 一体何なんだと思いつつも、指示通りの方向に進んでいくと、その理由がすぐにわかった。

 

「……あ、その……か、輝夜に無理矢理連れてこられて……その」

 

 何故なら、自分と同じように浴衣を着た師匠が恥ずかしそうに顔をうつむかせながら自分を待っていたからだ。

 成る程、自分が出し物で何をするのか聞いてきたのも、自分の代わりに店番を予めできるようにし、師匠のもとに行かせる魂胆だったのか。

 ……やれやれ、こうなった以上姫様の思惑通りに動かなくてはならないではないか。

 

『……浴衣、似合ってますよ師匠』

 

「そ、そう? その、あなたも似合ってる……」

 

 顔を真っ赤に染める師匠。

 

『……では二人で人里をまわりましょうか、もうすぐで花火もあがるらしいですよ』

 

 そんな奥手な師匠の手を引いて、自分達は夜の里を歩き回る。

 

 

 

 

 




綿あめって料理って言えるのかなって思ったけど、雲山リクエストされた瞬間『綿あめしかねぇ!』って思いましたはい。
綿あめ、良いですよね……祭りとかにいくと必ず一個は買う作者です。
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