「……ふぅ。スレイプニルの件が解決したら今度はロック鳥、T-αの方は未だに幾つかあるけど……デュノアとの企業契約が出来たならT-βまで行けるな」
「T-γはしないの?」
「何故貴女が付いてきている?」
「細かい事は気にしない気にしない。それでさ、T-γはするの?しないの?」
「……T-γは“神域”、僕以外に使える人物が今のところ居ません。使えば混乱を招く恐れがあるものは作るのも使用するのも戸惑います。……考えて設計図を書いた本人が言うのもあれですが」
「理論上では【
「……そろそろ戻ります。あとあまり表には出ないで下さい、面倒な事は避けたい」
「クーちゃんのお父さんになるなら考える」
「顔面埋めますよ」
地下と地上を繋ぐエレベーターに続く道にて。
天災兎と厄災狼が話す内容は似る。
帰りのモノレールの中、勇とセシリアは少しばかり疲れた様子を見せていた。特に勇は眠たそうな表情や仕草ばかりしているため、セシリアも聞いた【スレイプニル】の件で疲れたのだと考えている。
「……んぅ…………ふぁ〜」
「随分お疲れのご様子ですね、勇さん」
「……ぁい。にぇむぃ…………れしゅ」
「!?」
瞬間、セシリアに電撃が走る。未だ嘗て見た事の無い勇の表情や動きや口癖を聞けたことから、後々赤面する事を口走ってしまうセシリア・オルコット。
「あの……勇さん?」
「ふぇ…………?」
「宜しければ、私の肩を使われませんか?大丈夫です勇さんはゆっくり寝ていて下さいまし」
「んー…………」
真顔で真剣に伝えるセシリアに対し、寝惚けながらセシリアの肩に頭を置き少しの間眠りに就く勇が居た。実のところ、モノレール内には人は見当たらないので堂々とする事が出来る。
そんなセシリアは勇の寝顔を見ながら、ついつい唐木社長が話していた事を思い出す。
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「あの子、家の養子なのよ」
「養子……ですか」
「ええ。元々家族は居たんだけどね、ワケあって交流のあった私達が預かったのよ」
「その……勇さんの御両親は……もう?」
「ええ、
「えっ…………?」
「……死因は焼死、犯人は見つかったけど釈放されたわ。
紅茶を一口飲み、少し間を置いて再度話し始めた。
「……捕まった犯人も、裁判官も、弁護人も、検察官も、全員女尊男卑主義者だったのよ」
「ッ!?」
「そう、見方を変えれば尾崎君の家族は奪われたのよ。
この時代の影響……人に与えた影響によって、ね」
「そ……それでは、あまりにも…………酷いじゃ、ありませんか……!」
「ええ。その事もあって尾崎君は……6歳で、人形みたいに表情が変わらなくなった。
今ではフェンリルのおかげで表情も増えていったけど、あの時の尾崎君の顔は見ているだけで辛かった。
普通人形って、人がどう見るかで表情が何となくそう見える物よ。
でも、あの子の表情は誰がどう見ても……冷たかった。
辛くて、苦しくて、でも許し続けたあの子の心は……本当にボロボロだった」
「許し……続けた…………というのは?」
「……前に言ってくれたのよ、尾崎君が。
“人を恨んだら、一生後悔する事になる”。
“貴方は人を思いやって、悲しんでる人の手を取ってあげて”。
“そうすれば、誰もが嬉しくなるから”……っていう、あの子の母親の言葉をずっと……守り続けてるのよ」
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「勇さん」
ゆっくりと勇の髪を直して、頬に手を添えると言葉を添えた。
「私は……貴方の痛みになってあげたい。
貴方の支えになりたい。だから……
どうか、ずっと笑顔で居て下さいまし。
貴方の幸せは、私の幸せなのですから」
幾ばくかの日付が過ぎたある日のことであった。早朝、勇は外に出てスマホを取り出しSに電話をかけていた。
〔もしもし〕
「夜分遅くに申し訳ありません。デュノアの件についてですが……進行状況は如何程で?」
〔そうね、デュノア社とは既に契約を結んだわよ。けど色々あったから明石重工から何人か地位のある人物を送り込ませるわ、あのままだと支障が出るからね〕
「了解しました。既に【ロック鳥】も届きましたし、あとは……」
〔デュノア御令嬢の方だけ……
「つい先日、その話題が出ていましたよ」
〔あらあら……それは偶然ね〕
「……では、僕はこれにて。発表の方は」
〔トーナメントには間に合わせるわ、そこは大丈夫よ〕
「お休みなさい」
〔お休みなさい〕
通話を終了させると、食堂に向かい食事を摂る。
余談だが、勇の左手にはジュラルミンケースが握られていた。
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朝。何時も通りにクラスに着き、何時も通りに持ってきている6のノートを手に取り内容を見ていく。序でに18のノートも持ってきており、6のノートを見ながら18のノートに何かを書いていく。
「……そろそろ風の冬、か。あと少しで
「なぁ勇」
「はい?」
突然隣の一夏に声を掛けられた勇は、少し素っ頓狂な声を出して応える。
「いや、そのノートに書いてるヤツが何かな〜ってさ」
「あぁ……まぁ一夏君には到底理解できない代物です」
「あぁそう…………って、遠回しにバカって言ってないか?それ」
「……はて何の事やら」
「諸君、お早う」
織斑千冬が教室に入ると、瞬時に自分達の席に座る生徒達。まるで蜘蛛の子を散らすような光景であったが、これは何度もあった。
「さて、諸君らはこれから本格的にISの実践訓練を行う。訓練機とはいえ実際にするにあたっては充分注意して行うように。指定されたISスーツが届くまで学校支給の物になるだろうが、もしスーツを忘れてしまっても水着で代用できるから構わんだろう」
最後の箇所に色々と突っ込みたいところがあるが、気にしているのは一夏だけ。勇はそこまで煩悩頭という訳では無い。
「では山田先生、HRを」
「はい。皆さん、今日このクラスに2人転校生が来る事になっています」
突如喧騒とするクラスだが、その中に2人の人物が入室する。そこでクラスの喧騒は一時的に止まった。
その転校生の中に、
────皮肉なものだな。知っているのに
先ずは、その例の男性操縦者からの紹介であった。
「初めまして、フランスから『シャルル・デュノア』です。まだ不慣れな事は多いですが、皆さん宜しくお願いします」
「一夏君、耳を塞いで」
「な、何で?」
「そうしないと……」
「きゃああああああああ!」
「耳がァ!」
「ほらこの通り」
この騒ぎ様である。騒音が耳にダメージを与えるのだが、瞬間的に耳栓をしていたためかダメージはそこまで無い。
勿論、もう1人銀髪の転校生が居るため直ぐに織斑千冬によって喧騒は無くなるが。
「静かにしろ、まだもう1人居る。自己紹介をしろボーデヴィッヒ」
「了解しました、織斑教官」
「ここでは織斑先生だ、そう呼べ」
「はっ!」
第一印象は“軍人”。その見た目の体型とは裏腹に、黒い眼帯と目上に対する敬礼。いや、織斑千冬に対する尊敬と憧れが見える。
───火薬の匂い……銃の匂いか
「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」
「えぇっと……以上、ですか?」
「以上だ」
「一夏君と同じ様な自己紹介ですね」
「やめてくれ……」
入学したての一夏の自己紹介と同じ様な光景、勇はどこか懐かしく見るが一夏自身は恥ずかしい思いをしている。
「貴様が…………!」
「フェンリルよし」
『わふっ!』
獣は主に危険察知能力が人間よりも高い。例によって勇の第六感というのか、それらが働いてフェンリルを自立稼働させて一夏の前に居座らせる。
急に出てきたフェンリルに戸惑うボーデヴィッヒであるが、先程の勇の発言を覚えていたのが先に勇を睨みつける。
「貴様……なぜ遮らせた?」
「かなり殺気を飛ばしながら一夏君を見ていたので、これは対策ですよ。僕としては学び舎で揉め事を起こされるのは面倒ですからね、こう見えて生徒会副会長ですから」
「ボーデヴィッヒ、早く席に着け。尾崎、フェンリルを戻せ」
「……了解しました」
「分かりました。フェンリルおいで」
『わんっ!』
フェンリルは待機状態に戻り、ボーデヴィッヒは一夏と勇を睨み付けながら指定された席へと座る。
「悪ぃ、何か助けてもらって」
「あのままだとビンタされてましたよ、一夏君」
「えっ……マジ?」
「そこ、静かにしろ。今回は2組と合同授業を行う、それぞれ着替えて第2グラウンドに集合。良いな?」
『はい!』
そして休み時間、シャルル・デュノアと軽く挨拶をするが時間も足りないので駆け足で第2グラウンドまで向かっているのだが……
「逃がすなぁ!追えぇ!」
「今年の夏コミのネタァ!」
「あ、新聞部の人居ますね。部費減らそっかな?」
「「「いぃぃぃやあぁぁぁぁ!」」」
「何、あれ?」
「俺にも分かんねぇ」
追いかけてくる女子の多さである。ある者はデュノア目当てに、ある者はネタとして3人目当てに、ある者はデュノアの事を新聞に書きたいが為に向かうが勇の一言で撃沈する。
ふと勇はフェンリルを呼び出す。
「フェンリル、2人にグレイプニール!」
『わんっ!』
「い、犬!?ISなのあれ!?」
「おい勇!グレイプニールってまさか……!」
「舌噛まないで下さいよ!」
フェンリルの毛が2人に向かって伸び縛り付けると、フェンリルに2人を密着させる。
勇は近くの窓を開けてフェンリルを先に外へと出す。続いて勇も窓から飛び出していき、地面に着地する。
『う”ぁふッ!』
「うおっ!」「うわっ!」
「シャッ!」
そのままフェンリルと共に第2グラウンドまで向かうのであった。因みに2階から飛び出していた。
更衣室に到着した3人の内、一夏とシャルルだけは動いていないのに疲弊していた。1番疲れていそうな勇は、まだまだ動けるといった様子で肩を回していた。因みにフェンリルは待機状態となっている。
「い、勇……もう少し、優しく」
「優しくやってたら捕まってましたよ?」
「あ、あははは…………」
一夏が徐に時間を見ると、既に五分を切っていた。
「やっべ!シャルル、勇!早く着替えるぞ!」
「あ、僕は既に下に着込んでますので、ご心配無く」
「ちょ!勇!?」
先にアリーナへと向かっていく勇。早くしようと一夏は制服のシャツを脱ぐ。
「わあっ!」
「ん?どうしたシャルル?……ってか何で後ろ向いてんだ?」
「あっ……その……き、着替えるよ。でも後ろを向いて欲しいなぁ……って」
「いや別に見ないけどよ」
その後、着替えは終わったが一夏だけ出席簿で叩かれる始末となった。その時の表情は解せないものとなっていた。
今回は2組と合同授業という事で、前座として山田真耶vsセシリアと鈴の対戦が見られた。元代表候補生である山田真耶は、2人を誘い込ませて衝突させ一気に撃ち落とした様子がよく覚えている。
「やっぱりか……思い出して正解だった。にしても生で見れるのは良い経験ですね」
「「ま、負けた…………」」
若気の至り。色々と悩みは尽きない様子である2人は、色々な意味で山田真耶に負けてしまった。
それはさておき、今度はメインであるISの実技。専用機持ちの6名を主軸とし各グループに8人ずつ分かれてISの基本動作などを覚えていくだけである。一悶着あったが何とか8人ずつに分かれて授業が行われている。
────IS持ってグラウンド100周は無理
勇のグループはラファールを選択し行われているのだが、そんな時に少しトラブルが発生した。
「あ、しゃがむの忘れてた〜」
「何をやってるんですか貴女は?」
そう、搭乗させる為に本来は機体を下げなければならないのだが本音が何故かこの行為に及んでしまった。
「ごめ〜ん、いーさん」
「……はぁ、仕方ないか。フェンリル」
フェンリルを呼び出してジェスチャーをすると、フェンリルは頷いて勇から距離をとって向かい合う。そこから勇はフェンリルに向かって走り出すと、フェンリルは毛を1つに収束させる。
そしてジャンプをする。同時にフェンリルの毛が勇に足場を作り、ラファールに向かって押し出す。最大限伸びた所で綺麗な後方回転をしたあと、ラファールに搭乗し姿勢を下げた。
完全なる余談だが、それを見ていた代表候補生を含む周囲の者達が拍手していた事を書いておく。
───…………ふっ!しゃあッ!らあッ!
───おーおーやってるねぇ
───……レインさんですか。何の御用ですか?
───いや?見に来ただけさ。……その“氷の様子”も
───……もう昔の事ですよ。凍傷に成りかけて、成り続けたのは。
───…………そんな死に急ぐ真似してよぉ、体もたねぇぞ。
───……何故貴女が心配するのですか?貴女方と僕達は契約を結んでいるだけの関係、僕の事なんて知らぬフリ出来ますよね?
───契約だからだろ。唯一アレを作る事が出来る奴を、そう簡単に死なせる訳にもいかねぇだろ。
───にしては止めようともしないんですね。
───……まぁ、一応お前の先輩になるんだし?年上らしく見守ることが良いって考えただけだ。
───……そうですか。
───まだ続けてるんだ、勇君
───ん……何だ篠ノ之博士か。見ての通りだよ、アイツ。
───……生体リンクシステムの副作用か。
───人の心配できる立場じゃ無いだろアンタも。
───その心配する価値は、勇君に負けてるけどねぇ。
───……やっぱ篠ノ之博士のお眼鏡に適った奴は、色々と違うのかねぇ?『天災』に心配されてるし。
───そういう君も心配はしてるんでしょ?勇君のこと。
───は?何でそうなるし?
───おやぁ?“毎晩勇君に痛めつけられる夢”を見てこうhu
───今度余計な事を言うと口を縫い合わすぞ。
厄災に好意を持つ2人。興味の無い厄災狼。