魔狼は学び舎にて   作:Haganed

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11話

 織斑千冬の一言で午前の授業に終わりが告げられる。現在は格納庫で訓練機のラファールを運んだフェンリルを、勇の班員がモフモフしている。

 

 

 

「わんちゃ〜ん、もふもふぅ〜!」

 

 

『くぅ〜』

 

 

「あ、この毛並みは……堪らん」

 

 

「……これISなんだよね?毛ざわりが本物みたい」

 

 

「重工がはりきりましたからねぇ……はい皆さん、フェンリルから離れて」

 

 

 

 手を叩くと、フェンリルが自らの体を震わせて周囲の手から逃れるとジャンプしながら待機状態に戻り勇の手に戻る。

 

 

 

「あー!わんちゃ〜ん!」

 

 

「本音さん本当に気に入りましたね」

 

 

「本音、私だってモフりたいのよ!」

 

 

「あぁぁぁぁ…………実家の犬が恋しい……」

 

 

 

 フェンリルに対して色々な好評が出された中、勇は待機状態のフェンリルを量子格納域から出したノートPCを使って調べる。エネルギー消費は大して無い上に不調も無い事を確認すると、そのノートPCを仕舞って学園の大型モニター付きのパソコンにデータを記載する。

 

 

 更衣室に到着し、既に着替えている一夏の右隣のロッカーに入れていた自身の服を着ていく。まだ午後の授業もあるのでISスーツはそのまま下に着込んで制服を着る。

 

 

 

「……なぁ勇」

 

 

「はい?」

 

 

「お前、かなり鍛えてんだな」

 

 

「あぁ、その事ですか」

 

 

 

 意外にも勇の体は引き締まった肉体である。露出している腕だけでも細身ながら筋肉が健康的に引き締まっているのだ。

 

 

 

「あまり露出は苦手なんですがね……ははっ」

 

 

「いやいや、それ言ったら水着はどうなるんだよ?」

 

 

「あー……いやでも、水泳の授業以外に泳ぐ事も無かったですね僕」

 

 

「え、じゃあ海は?」

 

 

「…………記憶には殆どありませんね」

 

 

「マジかよ……」

 

 

 

 実に10年以上は海に訪れていない勇。遊ぶ事に昔から興味が無い様に思考してきた為か少しズレている所がある。既に着替え終わった勇は更衣室から出ていくと、セシリアが待っていた。

 

 

 

「あ、あの……勇さん」

 

 

「どうされました?セシリアさん」

 

 

「その……じ、実は今日たまたま早く起きてしまいまして!お、お弁当を作ったのですが……一緒にでも如何かと……

 

 

 

 徐々に声が小さくなっているセシリアに疑問を浮かべる勇だが、思い当たる節があるのか納得した様子になる。そしてセシリアに向けて笑顔になる。

 

 

 

「女性からの頼みは断れませんからね。ご一緒させて頂きます、セシリアさん」

 

 

「!……あ、ありがとうございます!では屋上で食べませんか?」

 

 

「あ、良いですねぇ。フェンリルも喜びそうです」

 

 

「で、では一緒に!」

「ふぅ……おっ、勇とセシリアか?」

 

 

「ふふっ、では御一緒に行きましょうか。あぁ一夏君、君も頑張れ」

 

 

「はっ?」

「一夏アアア!」

 

 

「うおっ!鈴!?」

 

 

 

 更衣室から出てきた一夏を後にし、セシリアと並んで向かって行く。セシリアはかなり嬉しそうな様子で勇に微笑んでおり、それに釣られて勇も微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に着いた結果、一夏とシャルルと勇の男子3人組とセシリア、鈴、箒の女子3人組が居る。勇を誘ったセシリアと一夏を誘った鈴が“どうしてこうなった”と地味に嘆いている。尚、一夏とシャルルは知らない御様子。

 

 

「ってか、何でアンタまで来てんのよ!?」

 

 

「先に来たのはコチラですわ!なぜ貴女方が来るのですか!?」

 

 

「セシリアさん、鈴さん。両方とも落ち着き下さい、フェンリルの尻尾が垂れ下がってますよ」

 

 

 

 セシリアと鈴は自立稼働中のフェンリルを見ると、完全にはなってないが尻尾が垂れ下がっている。するとフェンリルが2人の間に入り込み匂いを嗅いだあと、2人の手にそれぞれ前足をポンと軽く置いた。

 

 

 

『くぅ〜ん……』

 

 

「はぐっ!……わ、分かったから。そんな……かわiゲフンゲフン寂しそうな声は出さないで。ね?」

 

 

「す、すみませんフェンリルさん。少しかっとなって……」

 

 

 

 やはりシベリアンハスキー似のフェンリルは人を癒す力がある様だ。その2人の様子を確認すると、今度はシャルルの方に寄って匂いを嗅いでいる。

 

 

 

「おぉ……近くで見ると大きいんだね」

 

 

「勇のIS、何か本当にペットみたいだ」

 

 

「それはどうも。あ、セシリアさん。そのバケットですか?」

 

 

「えっ?……え、ええ!そうですわ!」

 

 

 

 少し慌てた様子で中を開けて見せると中身はサンドイッチであった。興味ある様子でサンドイッチを1つ手に取り頬張る。余談ではあるが、匂いは普通であった。

 

 

 

「ん、良いですねぇ。この野菜サンド、特にトマトが」

 

 

「よ、良かったですわ……!」

 

 

『わんっ!』

 

 

「はいはいフェンリルも……って、食べれないでしょーが」

 

 

『はっ、はっはっ!』

 

 

「分かった分かった。あとでするから」

 

 

『うぅ〜』

 

 

 

 そんな事もありながら昼食も騒がしく終えて、午後の授業もつつがなく終えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇君」

 

 

 

 放課後、不意に後ろから声を掛けられる。その声の主は更識楯無と分かると笑顔を繕いながら向かい合う。

 

 

 

「何か御用でしょうか?会長」

 

 

「そうねぇ……生徒会室で話さない?ここではなんだし」

 

 

「……デュノアの件、ですか。それなら」

 

 

 

 楯無に付いて行く勇。にこやかな表情のままのそれは、何処か不気味さを漂わせている。

 

 

 生徒会室に到着すると上座と下座に分かれて楯無と勇は座る。既に入室している虚は楯無と勇に茶を差し出すと、勇は1口だけ飲む。

 

 

 

「それで……デュノア()()()の調べは付きましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

「その前に先ず、これを見てほしいわ」

 

 

 

 その合図と共に虚が複数枚の写真を机の上に置き、勇に見せる。その写真には、勇にとって見慣れた営業服と見知った顔の女性複数人が写っていた。

 

 

 最後の写真を見ると、何故か1人だけクローズアップされた写真がある。

 

 

 

「勇君、この女性に見覚えはあるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つう)さんの事で何か?」

 

 

「……通さん?」

 

 

「ええ。彼女が穴場の店を知ってまして、よく連れて行って貰ったので渾名として。で、この通さんの()()()()()()()どうされたんですか?はっ、まさか……!会長そちらの」

「違うわよ!私ノーマルだから!」

 

 

 

 真面目な空気が一瞬にして崩れ去った瞬間であった。楯無が勇の発言に異を唱えて机を叩きながら立ち上がり、勇は口元を隠して驚いた表情を見せていたが直ぐに元に戻った。

 

 

 

「……私が言いたいのは、その貴女の言う通さんが

 

 なぜデュノア社に居るのか聞いてるのよ」

 

 

 

「ふ〜む…………営業服着てるので、海外進出を狙ってるとかですかね?」

「態々デュノア社が経営不振で困ってる時に?」

 

 

 

 勇と楯無の間に緊張した空気が流れている。しかしそんな事は露知らずといった笑顔のまま勇は話す。

 

 

 

「デュノア社がそんな経営不振になってるだなんて、明石重工の皆さんには知りもしないですよ」

 

 

「そう、普通ならね。

 

 

 明石重工の社員データを見たのだけれどね、

 

 

 2ヶ月以上前からデュノアに訪れてる人が居るらしいわね、貴方の企業」

 

 

「あー……そういえば通さん言ってた様な気がしますね。長引きそうだから帰るの遅くなるって」

 

 

「それだけじゃなくてね、何故かデュノア社に明石重工の幹部の人間がつい先日やって来たのよ」

 

 

「はぁ」

 

 

「あら、おかしいとは思わないのかしら?」

 

 

「んー、まぁ何故態々幹部の人達が訪れたのかについては疑問視されますが……会長は何故疑問視されるのですか?しかもかなり」

 

 

「……その最後の写真の人物がね」

「はい」

 

 

 

 

 

 

「私が知ってる人に、よく似てるのよ」

 

 

 

 

「へぇ〜……何処かで知り合った記憶があると?」

 

 

 

 

「ええ。……とてもよく知ってるわ」

 

 

 

 

「まぁあの人お喋りだし、貴女みたいな髪色のした方を見かけたら真っ先に話しそうですけど」

 

 

 

 

「そう……。もう帰って良いわよ」

 

 

「分かりました」

 

 

 

 話も終わり、勇は生徒会室を後にする。楯無に背を向けた途端、少しだけ表情を変えて真顔になりながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外に出た勇はスマホ……ではなくフェンリルに搭載されているホログラム機能で通話を開始する。ワイヤレスイヤホンを左耳にかけて。

 

 

 

〔あら、珍しいわね。貴方がホログラムをここで利用するなんて〕

 

 

「少々厄介な事がありましてね。……それよりS、更識の者に存在が感知されています」

 

 

〔あぁ……あの犬達の事ね?ご心配なく、無闇矢鱈と余計な行動はしないわ。あくまでも私は一営業人、交渉をするだけよ〕

 

 

「なら……期日までには大丈夫ですね。更識の者から手出しはしようも無いですし」

 

 

〔それだけなら私はもう少し寝てるわ。まだ早いもの〕

 

 

「失礼。ではご無事で」

 

 

〔了解〕

 

 

 

 ホログラム機能を解除すると寮へと戻っていく。その途中、1人の用務員と擦れ違い表情を強ばらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 数日後のアリーナ、その日は先日入ったシャルルと共に複数人が一夏の強化訓練を行っている。そこで勇は少し明石重工の制作された特殊装備をお披露目することとなった。

 

 

 

「『うっし。おい一夏、今日はミサイル以外のヤツで俺行くからな』」

 

 

「はっ?」

 

 

 

 量子格納域からデータが構築され、フェンリルの背中に装着される。2つの砲身とそれらを連結しているバックパックが合わさった射撃装備。

 

 

 

「『【ブーストアタッカー】、重量は増えるが加速用のブースターと射撃用アーツが組み合わさった特殊武器だ』」

 

 

「おぉ〜!……って、何でそれを今まで出さなかったんだよ?」

 

 

「『今までが事足りただけだ。それにこんなモンはフェンリルの利点を損なうだけだからな』」

 

 

 

 勇は背中のブーストアタッカーの砲身を一夏に向けると何も言わずに発射する。それをギリギリで避ける一夏は、撃ってきた勇に向かう。

 

 

 

「ちょ勇ッ!急にやるな!」

 

 

「『おっ、体が反応する様になったな。これで奇襲もバッチし』」

 

 

「おっ、よっしゃ!……って誤魔化すな!」

 

 

「『チッ、バレたか』」

 

 

「あははは……」

 

 

「本当、仲が良いわね。あの2人」

 

 

「勇さんはお優しいですからね」

 

 

「一夏も一夏で友好的なだけだ」

 

 

 

 そんな他愛ない空気の中、勇が何かに気づきピットから出てくる機体を見る。それに釣られて他の者が見る。

 

 

 

「『チッ……トライアル段階なのに急かすのかよ、独の奴等は』」

 

 

「勇さん、あれは……」

 

 

「『独の第三世代機だ。上層部の野郎共は【イグニッションプラン】を済ませて金が欲しいだけだかんな、無謀な事をしやがる』」

 

 

 

 独の機体という事で、やはりラウラ・ボーデヴィッヒが搭乗しているのは見て取れる。すると解放回線から声が発せられる。

 

 

 

「おい」

 

 

「『……一夏、どうやら奴さんから御指名だ』」

 

 

「はっ?何でだ?」

 

 

「『俺じゃなくて、お前に殺気を向けている。とりま気をつけろ』」

 

 

「……分かった」

 

 

 

 一夏が1歩踏み出してボーデヴィッヒと向かい合う。

 

 

 

「おい、俺に何の用だ?」

 

 

「何の用……か。貴様も専用機持ちと聞いてな、私と戦え」

 

 

「話が見えねぇな……それと、戦う気なんて無い。そもそも俺とアンタに戦う理由なんて無い」

 

 

「……貴様に無くとも、私には理由がある」

 

 

 

 そこから長くなるので要約すると、

 この行動に及んだ理由は織斑千冬の“第2回モンド・グロッソ”決勝戦での出来事。その時、一夏が誘拐されるということが起きた。弟を捜す為に決勝戦を放棄した織斑千冬だが既に一夏はドイツ軍によって発見、保護され無事であった。そして織斑千冬はドイツ軍への()()として1年間、ドイツ軍で教官として指導役を務めていた。

 

 このボーデヴィッヒは、織斑千冬がモンド・グロッソで栄誉ある2連続優勝が一夏のせいで達成されなかった事に腹を立てているらしい。

 

 

 

「『……一夏、今の話聞いてどう思うよ?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

「単なる八つ当たりにしか思えねぇ」

「『奇遇だな、同じ意見だ』」

 

 

「何……?」

 

 

「確かに俺のせいで千冬姉が優勝は出来なかった。それは今でも悪いと思ってるし、申し訳ない気持ちで一杯だ。

 

 でもよ、それでお前が俺を恨むのは筋違いじゃないか?だったら千冬姉本人に言えば良いじゃないか。

 

『俺を放って置いて優勝すれば良かったんじゃないか』ってよ」

 

 

 

「『まっ、言われても弟を捜しに行くだろうな。

 

 一夏には悪いが調べてみた。一夏達の両親は蒸発してる。つまり肉親が居ないんだよ。

 

 大会で優勝するよりも、たった1人の弟を……たった1人の家族を捜す事に時間を費やす方に使ったと思うぜ?

 

 もう……家族が居なくなるのは、辛いからな』」

 

 

 

 勇の言葉は、最後になるにつれて少し震えていた。家族を失った痛みを味わい、心を()()()()者だからこそ分かる痛みを。

 

 

 

「貴様……ッ!」

 

 

 

 あくまでも戦うつもりらしい。左肩に装着された大型実弾砲を構え、発砲する。一夏は咄嗟に雪片二型を構えて防御姿勢を取る。

 

 

 しかし砲弾は横から割り込んで来たシャルルによって弾かれ同時にシャルルは【ガルム】を構えて反撃の態勢を取っている。

 

 

 

「こんな密集した空間で戦おうなんて随分沸点が低いね、ビール以外に頭もホットなのかな?」

 

 

「貴様……!たかがフランスの第二世代機(アンティーク)如きで、私の前に立つか!」

 

 

「未だに量産の目処が立たない第三世代機(ルーキー)よりは動けるとおもうけど?」

 

 

「『お前ら、一旦武器を納めろ。そろそろ……』」

〔そこの生徒!何をやっている!?学年とクラス、出席番号を言え!〕

 

 

「『ほらな?』」

 

 

「チッ……命拾いしたな」

 

 

 

 そう言うと両者武装を解除して、ボーデヴィッヒはアリーナゲートの方に向かって行った。

 

 

 シャルルは一夏の元に寄る。

 

 

 

「一夏、大丈夫だった?」

 

 

「おう、平気平気。……あと勇」

 

 

「『んぁ?』」

 

 

「その……何だ、言ってくれてありがとうな」

 

 

「『……気にすんな馬夏』」

 

 

「おい待て」

 

 

 

 そんな事がありつつも、今日の訓練を終えて着替えに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




───♪〜真紅の空、燃え立つ〜様に

───あら、何の歌かしら?

───……居たんですか、スコール。

───私が何処に居ようと勝手だと思うけど?

───…………そうですね、どうぞ御勝手に

───あら、さっきの歌は聞かせてくれないのかしら?

───嫌です

───ケチくさいわねぇ……









───フェンリル、何処も調子は悪くないか?

───問題は無い。それより先程の生体リンクシステムによる主の体に疑問を持つ、感覚が共有されているのに痛める素振りすら見せないからな。

───もう痛みには慣れたんだよ。お前がこの形態になる前にも、ずっとやってたからな……

───あまり無茶はするでない。我々と違い人間は脆い、既に主が人間を捨てていようと心は人間なのだ。何時如何なる時に不足の事態が起こるのかは皆目検討もつかんのだからな。

───……全く。魔狼の名を持つISが、こんな主人思いだなんてな。北欧神話に対する皮肉だな、これだと。

───魔狼とはいえ、私は狼。主と共に歩んできた繋がりがある。それに変わりはない。

───そっか……ありがとう、フェンリル




 亡国と魔狼の繋がり。魔狼の秘密。





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