魔狼は学び舎にて   作:Haganed

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オワリノハジマリ

 寮内の廊下を歩いている勇。すると突然スマホから着信が届き、それに対応する。

 

 

「何ですかS?」

 

 

〔ごっめん寝てる暇無かった。今日会見があったのよ!〕

 

 

「…………貴女ねぇ……!」

 

 

〔ま、まぁこれなら良いでしょ?どうせ間に合うし、自分が認知されるし。まぁちょっとドタバタしたけども〕

 

 

「……はぁ、なら早急に【ロック鳥】を手配させます」

 

 

〔ごめんね!あ、会見なら日本時間だと午後8時半ぐらいよ!チャオ!〕

 

 

 

 一方的に着信を切るS、もとい『スコール・ミューゼル』。彼女は【亡国企業(ファントムタスク)】と呼ばれる戦争屋集団の1人で、愛機は第三世代機【ゴールデン・ドーン】。現在は名を変えて明石重工の社員としての地位に居る。

 

 

 彼女は表舞台に上がると不味い立場だが勇のカードにはジョーカーが2枚存在しており、その内の1人を使って素性やプロフィールを偽造している。かなりの高等技術を用いた物なので早々解析される事は無い。

 

 

 そんな話はさておき、勇は自室に駆け足で向かっている。現在の時刻は8時。はたしてスコールは間に合うのだろうか?まぁ心配する必要性も無いので勇は目的のものを取りに向かう。

 

 

 部屋の近くに来たが、その部屋の前に見慣れた教師が居た。勇はなるべく平静を装い、尚且つ何時もの様子で接する。

 

 

 

「おや、山田先生じゃないですか」

 

 

「あっ……尾崎君!良かった〜、返事が無かったから寝てるのかと思いまして」

 

 

「これは失礼しました。少々野暮用で外に、所でなぜ山田先生が此方に?」

 

 

「あぁいえ!尾崎君にとっても嬉しいお知らせがあるんですよ」

 

 

「へぇ……それはどんなもので?」

 

 

「何と!今月の下旬から大浴場が使える事になったんです!けど時間別だと問題が起こりうるので、男子には週2回の使用日を設ける事にしました」

 

 

「成程成程、それはそれは」

 

 

 

 適当な相槌を打つ勇。それもそうだ、漸くこの()()()()()()のだ。終わりを告げるのだ。今更そんな事に興味は無いと内心興奮状態だが、(さと)られては不味いので我慢している。

 

 

 

「お知らせは以上です。すみませんお時間を頂いて」

 

 

「構いませんよ。あ、では僕はこれにて」

 

 

「あ、そうだ尾崎君。授業内容は大丈夫ですか?何処か分からない所があったら何時でも聞いて下さいね?」

 

 

「ふふっ、ではそうさせて頂きます。まぁ今は大丈夫ですよ」

 

 

 

 当然だ。家族を失ってからの時間は遊びではなく勉学に励んできたのだ。そんな勇は中学入学時には高校1年の授業内容を覚え、エスカレートを重ねてISに関する凡百(あらゆる)知識を見に付けた。故に教えられる様な事は無い、それどころか逆に教える立場になり兼ねない。

 

 

 部屋の鍵を開けて室内に入ると、自身のベッドの下に滑り込ませていた生体認証センサー付きのジュラルミンケースを取り出し生体認証ロックを解除する。

 

 

 それを見て右の口角を上げてにやりと微笑む勇は、手で表情を直して歩き出していく。

 

 

 

 

 

 

「何かご急ぎの用ですか?尾崎さん」

 

 

「……おや虚さん。こんな所まで何を?」

 

 

「いえ……所で、そちらのケースは?」

 

 

「あぁこれですか?ちょっとした物ですよ、明石重工が特別に貸してくれた武装なんです」

 

 

「ほぉ……成程、では仕方がありませんね」

 

 

「では、僕は用事がありますので」

 

 

 

 早足で部屋から退出する勇、その背中を虚は見ていたが勇から何処か嬉しそうなオーラが出ていたとか何とか。後を付けようとしてもバレる為、虚は勇とは反対方向に歩き出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向かう途中、一夏と勇が擦れ違う。一夏は勇の姿を見て走りを止めたが、かなり息切れした様子であった。そんな一夏の様子に気付いた勇は、一夏に声を掛ける。

 

 

 

「一夏君、どうされたんですか?」

 

 

「はぁ……!はぁ……!い、勇!ちょっと来てくれ!急用が……あるんだ!」

 

 

「!……奇遇ですね、僕も一夏君の部屋に用があったんですよ」

 

 

「な、なら話は早いな!ついて来てくれ!」

 

 

「了解!」

 

 

 

 一夏に付いて行く様に走る勇。漸く一夏とシャルルの部屋に到着し、一夏が扉を閉めると案内する。窓側のベッドの上にシャルルが悲しげな表情で座り込んでいた。

 

 

 

「勇……」

 

 

「勇、聞いてくれ!シャルルは」

「御令嬢でした。ですよね?」

 

 

「!……知ってたんだ、ボクのこと」

 

 

「勇、知ってたのか?」

 

 

「ええ、彼女の事は一通り。 ……では酷かもしれませんが、何故この様な真似をされたのですか?シャルル……いえ、()()()()()()・デュノア嬢」

 

 

「……ははっ、本名までバレてる。……なら、良っか。全部話しても」

 

 

 

 そうしてシャルロット・デュノアの語りが始まった。

 

 

 シャルロットの親がデュノア社の社長なのだが、【イグニッションプラン】による援助金が貰えない可能性が際立ってきた事を理由にシャルロットが男装のフリをして織斑一夏の第三世代機のデータを取るように言われていたのだ。勇の場合は全身装甲(フルスキン)から第一世代機として認識されていた為、データを取る必要が無かった。

 

 

 しかし一夏が浴室でシャルロットの姿を見てしまった事から、男装がバレてしまい観念したという訳だ。

 

 

 さらに話をしてくれたが、シャルロットは愛人との間に出来た子どもであり母親は2年前に亡くなっていること。さらに本妻の『ロゼンタ・デュノア』から出会い頭にビンタをされ、それ以来ずっと嫌悪感を持たれ続けていること。それらを包み隠さず全てを話した。

 

 

 

「勇!シャルルは親にやらされ続けたんだ!俺はシャルルを助けたいんだ、力を貸してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……巫山戯てるんですか、御二方」

 

 

「なっ!?」「えっ……!?」

 

 

 

 シャルロットは勇の表情を伺った。2人から映っているのは何時もの優しい勇ではなく、憤怒を表した表情であった。

 

 

 そして勇はシャルロットを……“ビンタした”。

 

 

「!?」

「勇!?お前何を!」

 

 

 

 

「貴女、自分だけが不幸だなんて思ってませんか?」

 

 

 

 声色を変えた勇は1つの恐怖でしか無かった。普段発することの無い声色で、ISを纏ってる時に発せられる声でも無い声でシャルロットに投げかけた。

 

 

 当のシャルロットは、叩かれた頬を左手で抑えて勇を見上げた。

 

 

 

「ねぇ…………何で?何でこんな事するの……?」

「貴女が貴女の御両親の事を何も考えてないからです」

 

 

「勇!だからシャルルは!」

「貴女は親の事を何も理解しようとしていない!」

 

 

 

 突然発せられた勇の声に、2人は驚く。勇はシャルロットに向かい合い話し続けた。

 

 

 

「貴女!親がどれだけ子供を心配しているか、分かってるんですか!?

 

 確かに貴女にした行為は、許されないものです!

 

 しかし!それが貴女を汚い大人から守る為のものだったとしたら!?

 

 それが貴女の為を思った、不器用な優しさだと何故考えようとしなかったんですか!?

 

 

 僕には!親が居なくなった!兄さえ居なくなった!

 

 僕以外の家族がこの世を去ったんです!

 

 貴女は幸運なんですよ!大切にしてくれる存在が居るから!

 

 僕は肉親を全て失った!ここで貴女の不幸と僕の不幸を比べてみてください!どっちが不幸ですか!?

 

 家族が居ることと、家族が居ないことと!どっちが不幸ですか!?

 

 守ってくれることと、守られないこと。どちらが不幸ですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇……」

 

 

 

 荒い息を整えようと深呼吸を続ける勇。その目はシャルロットを捉え、真っ直ぐ見つめていた。自分の不幸と相手の不幸を比べさせ相手が自身を慰めようとす方法は、人間心理学的に自分を見直させるのに効果的とも言えるかもしれない。

 

 

 そんな中、勇のスマホが震える。スマホを取り出すと時間は午後8時28分。勇は表情を変えると徐に部屋のテレビを着け、ジュラルミンケースを取り出して開く。

 

 

 

「尾崎君……それは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女にチャンスがあります、シャルロット・デュノア」

 

 

 

 ジュラルミンケースを回転させてシャルロットに見せる。その中には、勇が持つISの待機状態と同型と思われるが色は緑であった。

 

 

 

「そしてその前に……テレビを御覧ください。一夏君も」

 

 

「……お、おぅ」

 

 

 

 テレビを見る一夏とシャルロット。

 

 

 そして8時半、遂に動き出した。

 

 

 テレビからは報道の様子が映っていたが、その内の1人を見るとシャルロットは驚愕した。

 

 

 

「シャルル、どうした?」

 

 

「な、何で………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でお父さんが……テレビに?」

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 そう、テレビに映っていたのはデュノア社の代表取締役である『アルベール・デュノア』であった。その隣に1人女性が笑顔のまま座っている映像だったのだ。

 

 

 そして……運命の瞬間が訪れるのであった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

〔皆様、どうも。デュノア社代表取締役の『アルベール・デュノア』です〕

 

 

 

〔皆様どうも。明石重工から派遣されました『磯崎(いそざき)(しおり)』と申します〕

 

 

 

〔此の度は、この場を持ちまして“重大な発表”を行わせていただく事を感謝しております〕

 

 

 

 座っている両者は、そのままお辞儀をする。

 

 

 姿勢を正すと、アルベールが再度話を続けた。

 

 

 

〔先ず始めに、我々デュノア社は明石重工との企業契約をここに宣言します。そして次に……

 

 

 

 

 

 

 

 我々は一同、明石重工が製作した

 

 

 

 

 

 

 

 【男女共用型ISコア】を用いたISを市場に展開させていきます〕

 

 

 

 その瞬間、世界に激震が起こった。有り得ないという声もテレビから聞こえるが、続けて磯崎が話をする。

 

 

 

〔我々明石重工は今までブラックボックスであったISコアの解析を成功し、【男女共用型ISコア】の開発に成功しました。

 

 

 これが開発されたISコアと、その映像です〕

 

 

 

 磯崎がリモコンのボタンを押すと、報道陣の前にホログラム映像が映される。

 

 

 その映像には筋骨隆々とした男とISであるラファールが存在していた。その男は、自分が男だという事を証明するため態々上半身を裸にしている。

 

 

 その男はラファールに触れた。するとどうだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 ラファールが装着されたのだ。

 

 

 

 この一連の出来事に驚く報道陣だが、ホログラム映像が移動され2人の姿が現れる。未だにホログラム映像は流れたままである。

 

 

 

〔これは我々が開発したISコアを使った実験です。女性のみしか装着できなかったISが、何と男性の方でも装着されたのです!しかしこれだけでは物足りないので別の映像もご覧下さい!〕

 

 

 

 今度は複数人の男が、それぞれ打鉄やファング・クエイクなどの機体の側に居る。

 

 

 そして、その男達が触れるとISが身に纏われた。

 

 

 

〔尚、CGなどは一切使用されておりません!これは事実なのです!漸く男でも、ISを身に纏える時代が訪れたのです!〕

 

 

〔そこで我々デュノア社は開発されたISコアを組み込ませた機体を製作、販売を行う事を契約しました。これにより更なる技術革新が期待されるでしょう〕

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

「う、そ……。ISコアを……」

 

 

「開発……したのか?」

 

 

「正確には、篠ノ之束が作ったISコアを元に必要分のデータ採取したのが【男女共用型ISコア】です」

 

 

 

 テレビを見ている2人は唖然としている。他にも別の場所で驚きの声が挙げられているが、勇はそれを気にしてもいない。

 

 

 まだテレビ放送は続けられていく。

 

 

 

 

〔そして、気になるのはISコアを制作した人物ですが……ハッキリと言いましょう。

 

 

 

 

 篠ノ之束は開発に()()()()()()()()

 

 

 

 

 その言葉と同時に突如テレビが黒い画面へと変わり、徐々に別の映像が流れ始め声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔あー、あーテステス。うんOK〕

 

 

 

「!?この声!まさか!」

 

 

「そう、そのまさかですよ」

 

 

 

 

 

〔やぁ皆、天災の『篠ノ之束』だよ〜!〕

 

 

「束さん!?」

「嘘!?指名手配されているのに……何で!?」

 

 

〔さてハッキングして皆の前に出ているんだけど、現れて大丈夫かって?大丈夫大丈夫!もう隠れる必要ないし!〕

 

 

 

 その映像を、誰もがじっと見ていた。世界中が見ていた。

 

 

 

〔私が現れたのは、あの報道されたISコアについて話したいからさ。

 

 

 確かに私はコアの開発に助力はしてないよ。面倒だもん。

 

 

 

 えっ、じゃあ誰が作ったって?んじゃあ教えよっか!〕

 

 

 

 

 誰もが息を呑み、製作者の名前を聞く準備をしている。

 

 

 

 

 

〔あのISコアの製作者は束さんじゃなくてね…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『尾崎勇』、もう1人の男性IS操縦者が作ったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 言っとくけど!嘘じゃないからね!束さん嘘つかない!〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 

 伝えられた事は、それだけだ。たったそれだけ。2人は勇の方に顔を向ける。

 

 

 勇の顔は真面目な表情になり、口を開く

 

 

 

「……ええ。あの天災兎の言う通り、

 

 

 

 

 僕がこの手で作りました。

 

 

 

 

 あの【男女共用型ISコア】を、2000個ね」

 

 

 

 

 

 全てのテレビから音が消えた。全ての場所から音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあああああああああああああああああああああああああああ!?』

 

 

 

 

 

 

━━━終末(ラグナロク)、開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




───……凄いわね。これは

───どう?これ本当にこの時代に喧嘩売ってるよね。

───時代どころじゃないわよ。世界に喧嘩売ってるわ、とても馬鹿げてる。

───馬鹿げてようが、僕は時代を変えます。この【男女共用型ISコア】を世間に広めさせ、この腐った“女尊男卑”の時代を壊す!

───契約には男女共用型ISコアを組み込ませた機体も提供するってあるし、お前らにとっては最高のメリットになるんじゃない?金もたっぷり入るし。


───スコール……見ろよ。想定金額普通に億超えてやがる……

───……確かに、これに乗らなきゃトンデモない損失になるわね。私達も。

───なら決まりかな?

───ええ。契約は成立よ、篠ノ之博士。尾崎勇君。





 動き出す歯車。世界が壊れる音。



 終末を望んだ少年が選んだ時代は広まる。



 次回『コワレルセカイ』




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