魔狼は学び舎にて   作:Haganed

13 / 36
コワレルヨチョウ

 翌日の朝、クラス内はあの出来事の話題ばかりであった。

 

 

 【男女共用型ISコア】開発。そして、それらに関する様々な話題が絶えず噂されている。

 

 

 まず男女共用型ISコアの製作面から、どの様にして作られたのか。完全な製作図は混乱を招きやすくする為、公開はされなかったとしても何故従来のコアが女性にしか反応しなかったのかについてのメカニズムは報道された。

 

 

 データである。物を作るという事は、必ず母体となるもの。つまりデータ計測用のプロトタイプが存在する。それらを元に物は作り上げられるのだから、考えれば至極単純な理由だったのだ。

 

 

 プロトタイプに保存されているのが()()()()()()()()()しか無かった為である。証拠に男性のXY染色体データを組み込ませることで可能になっているデータは公開された。

 

 

 そして、それを可能とさせた人物。今このクラスには居ないが天才である篠ノ之束と同等の天才と呼ばれる様になった『尾崎勇』、学生の身でありながら歴史を変える偉業を成し遂げた。

 

 

 しかし、それらは必ずしも良い結果に運ぶ事はない。だからこそ様々な対策は施している。

 

 

 そんな中、このクラスに居ない勇の席をただ見つめ続ける者が居る。

 

 

 セシリア・オルコットその人である。

 

 

 

「はぁ……………」

 

 

 

 何時もならこの時間帯に他愛ない話をしたり、本音が混じってきた所を勇が遊んだり一夏に勉学を教えたりと様々な事をしている筈であった。

 

 

 しかし今はそれが無い。たった1人居ないだけで、勇が居ないだけでセシリアの心にはポッカリと穴が空いた。

 

 

 

「全員席に着け、HRだ」

 

 

 

 扉から織斑千冬がやって来たのを合図に殆どの者が席に座る。既に座っているセシリアと本音、一夏は別だが。しかし勇が来る気配が無い。

 

 

 織斑千冬の後ろから()()()()・デュノアが付いてくるのだが、シャルルの表情は緊張している面持ちであった。

 

 

 

「さて……昨日デュノア社と明石重工が企業契約したのは全員知っているな。そこでデュノアには契約として特殊型IS、通称【αタイプIS】の試験操縦者となった」

 

 

 

 織斑千冬の言った【αタイプIS】とは、明石重工が製作した幻獣の名と実在する動物の特徴を持つISのことである。このISには男女共用型ISコアが使用されている。前回の会見でもαタイプのISの説明はされており、勇のISも第一世代機ではなくαタイプISだという。

 

 

 そしてシャルルの左手には、勇と同じ型のISが装着されている。これこそがαタイプIS【ロック鳥】である。

 

 

 【ロック鳥】。鳥の姿をした幻獣だが、その大きさは両翼合わせて幅40mもあり羽毛の長さだけで2.4mもある大型の鳥。強靭な足で像を掴み軽々と持ち上げた後、地面に叩き落としてその肉を食らうという。

 

 

 しかしこのロック鳥は、まだ1次移行(ファーストシフト)さえ済んでいない謂わばシャルルにとって付け焼き刃になり兼ねないIS。そしてロック鳥の使い方も分からない状態にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 

「!勇!?帰ってくんの…………って、その髪!」

 

 

「一夏君うるさいです。頭に響きます」

 

 

 

 突然扉が開いたと思いきや、勇が居た。こめかみを抑えて一夏の所まで行き軽く頭を叩く。勇の髪は少しボサボサとしており、欠伸を大きくしていた。

 

 

 勇は千冬に一礼した後、デュノアの方に顔を向ける。

 

 

 

「シャルルさん、後でアリーナにお願いします。そのロック鳥の操作方法を叩き込まなければなりませんからね」

 

 

「う、うん……というより勇、大丈夫なの?」

 

 

「今寝たら本気で寝れますが眠りません。まだ195も対談が残ってるのに……」

 

 

「いや本当に寝たら!?効率悪くなるよ!?」

 

 

 

 因みに195とは残りの国連加盟国の数である。男女共用型ISコアの製作者として明石重工の取締役と共にホログラム映像越しに対談しており、最初に来た対談相手が日本政府と関係ない倉持技研の2つであった。

 

 

 倉持からは代表取締役と幹部が、明石重工からは代表取締役と男女混合の護衛を15名程。そしてホログラム越しの勇という形になっていた。

 

 

 日本政府は開発されたISコアの廃棄、または無料での譲渡を要求したが“あらゆる投資家や企業、しまいには世界を敵に回す”との発言とその理由を述べると不機嫌な様子で帰って行った。倉持も同じ。

 

 

 そして勇の眠気の理由、ISコアについてだ。

 

 

 製作されたISコアは合計2000。あの出来事の前にデュノア社に630個、明石重工には残りの1340個が保管されている。そこでデュノア社のアルベールと明石重工の唐木、そして勇と使用用途について対談していた。

 

 

 それが日本時間で午前6時まで続くとは思っていなかったが。織斑千冬と更識楯無からの追求、女尊男卑思想の人間の奇襲──大体が返り討ち──等も相まって疲れが溜まる一方である。

 

 

 そんな事はあったが、勇は勇で学生としての本業を果たしつつ他国との対談を行うという。かなり疲労が溜まるが、そんな事は気にしてられない勇は席に着いてHRに出席する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つつがなく授業も終えたが……勇に休みは無い。

 

 

 

「有人と無人両タイプのゴーレムの生産を急ピッチに。主に土木関係と警備関係、物資の流通の拡大に使います。有人タイプは生体認証システムを利用して、無人タイプにはハッキングやウィルス対策の方を篠ノ之博士と完成させたシステムを利用して下さい。システムの方にパスワードを掛けていますので、篠ノ之博士にお聞きください」

 

 

〔了解!〕

 

 

〔わ、分かりました……〕

 

 

 

 部屋に戻って1度デュノア社と明石重工の開発責任者に指示を出す勇。指揮能力はある程度だと認識しているが、本人は普通としか思っていない。

 

 

 ホログラムに映された画面にある予定を確認しつつ、勇は男女共用型ISコアの分配数決めに勤しんでいた。ゴーレムは作るが、現在存在するISコアを用いた量産機には篠ノ之束と共同でXY染色体データの移入と生体認証システムを構築している。

 

 

 

「……くそ、眠い……な……」

 

 

「普通6時まで起きてたら眠くなるわよ」

 

 

「……楯無さんですか」

 

 

 

 勇の今の立場を考えれば有り難いのだろうが、生憎勇には亡国企業がバックに居る。その為なるべく関わりたくないと思うのが常であった、しかし受け入れなければならない所は素直に受け入れている。

 

 

 

「そろそろですか……では僕は失敬して」

 

 

「これでデュノア社の不祥事を揉み消す、なんて考えて無いわよね?」

 

 

 

 歩みを止めた勇。楯無には背を向けている状態だが、そのまま楯無の問いに応える。

 

 

 

 

 

「僕が何も考えてないとでも?」

 

 

「へぇ…………」

 

 

「今はその時じゃない。それだけです」

 

 

 

 勇は迎えに行く為に出かける。それを見送る楯無は普段とは違う目をしながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、一夏とシャルルと勇が並んでアリーナへと向かって行った。シャルルの装着されている待機状態のIS【ロック鳥】の説明をしながら。

 

 

 

「では先ずその【αタイプ】ですが具体的には僕の【フェンリル】と同じでSDモード、つまり自立走行が可能となります。試しにロック鳥を撫でてみて下さい」

 

 

「な、撫でる?それだけ?」

 

 

「ええ」

 

 

 

 半信半疑ながらもシャルルは待機状態のロック鳥を撫でると、ISが離れて形取っていく。現れたのは小型の鳥であった。

 

 

 

「うわっ!」

 

 

「おぉ……鳥だ…………!」

 

 

「【αタイプ】は幻獣の元となった動物が決められています。このロック鳥は鳥の幻獣であり、現在はハヤブサの姿となっています」

 

 

「あれ?でもハヤブサって黒かった様な……」

 

 

「見た目を『シロハヤブサ』にしているので、白色です」

 

 

「へぇ〜……あ、お辞儀した。可愛い……」

 

 

『キィー』

 

 

 

 体は機械仕掛けのISだが、それでもロック鳥は()()である。鳥としての姿と能力と知恵のあるISは、今まさにシャルル専用となっている。

 

 

 SDモードとはいえ現在の体長が48cm、両翼を広げれば118cmあるロック鳥は大人しくシャルルの左肩に乗っていた。因みに爪の方だが、SD時は先端が丸くなっているため痛みは無い。

 

 

 

「では次ですが」

「まだ何かあるの?」

 

 

「武装の方ですよ。予め知っておかなければ使えませんし」

 

 

「それもそっか……」

 

 

「なぁ勇、ロック鳥って何が使えるんだ?」

 

 

「主な武装は4つ。

 

【フェザー】

【メタルウィング】

【スパイクレッグ】

【スピアビル】の4つが基本となります。

 

 【フェザー】は羽を模した特殊弾で、1度射出しても自動装填されます。

 【メタルウィング】はその名の通りで

 【スパイクレッグ】は肉食系の鳥類を真似した鋭い爪と強靭な握力を備えており

 【スピアビル】は鋭利な嘴での攻撃が可能となります。

 

 他に僕が使っていた【ブーストアタッカー】が着脱可能装備となります」

 

 

「武装が限定されてるんだ……」

 

 

「そういやフェンリルも少なかったな、武装」

 

 

「動物は人より能力が高い、つまりその能力を武器にさせるコンセプトでは数が限られてくるのです」

 

 

「成程ね……これ、かなり玄人向け(ピーキー)な機体だね」

 

 

「その玄人向けを使い続けた僕は果たして?」

 

 

 

 そんな話をしながらアリーナへと到着するが、中からは銃声が聞こえる。誰が行っているのか気になった3名はアリーナを見た。

 

 

 

「ッな!?」

 

 

「あれは……!」

 

 

 

 

 

 

「ッ………………!」

 

 

 

 刹那、勇はピットへと駆け出した。その行動がまちがっているのか、正しいのかは分からないが、少なくとも心に従った事だけは確かである。

 

 

 狼は勇敢である。そしてそれは同時に仲間意識が強い事を意味する。

 

 

 人間には出せない速度

 

 人間には無い集中力

 

 人間の範疇を超越した()()()

 

 

 単なる仲間思い(1人ぼっち)の生き物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の顛末はこうだ。ちょうどセシリアと鈴が第3アリーナで後日行われるトーナメントに向けて特訓しようと試みていたが、ラウラ・ボーデヴィッヒがその2人に向けて実弾兵器を発射し模擬戦という形となった。

 

 

 だが相手が悪かった。単なる代表候補生と軍人との差は戦闘経験が違っている。慣性停止結界、通称【AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)】による防御を駆使され圧倒的に負けていた。

 

 

 

 

 

 

 

〔ラウラ・ボーデヴィッヒ、攻撃を今すぐ中止しなさい〕

 

 

 

 そんな時、突然第3アリーナに放送が入った。声の主は昨日世間を騒がせる原因となった1人の男。

 

 

 ラウラはセシリアを抑え込んだ体勢のまま解放回線で話す。

 

 

 

「……誰かと思えば、2人目のISコア開発者か。一体何の用だ?」

 

 

〔それはコチラの台詞です。何故貴女はこんな真似を?〕

 

 

「戦闘がどの様なものかを私が叩き込んでいるだけだが?」

 

 

〔だとしたら過剰な攻撃は御法度では?それに今の貴女の行動で、今後ドイツ経済が発展しない事を考えてませんか?〕

 

 

「何……?」

 

 

〔これでも僕は全世界に男女共用型コアを使用したISを配備させる()()です。しかし政府から直々に編入された貴女が他国の代表候補生に危害を加えられている様子では、貴女方の国にその機体を配備させる事に懸念を覚えています。

 

 これがどういう意味か、お分かりですよね?

 

 軍人である貴女なら〕

 

 

「ッ…………!」

 

 

〔ご理解頂けたなら、今すぐ離れなさい〕

 

 

 

 ラウラは勇の言葉で怪訝な表情をしながら手を離しセシリアから退く。そのままピットへと帰って行った。

 

 

 勇は放送を終えた後、フェンリルを稼働させてホログラム画面を出現させて篠ノ之束に電話を掛けながらアリーナへと向かう。

 

 

 

〔はいはいどったの?〕

 

 

「至急織斑先生に伝言を。『今度トーナメントが終了するまでアリーナでの模擬戦、私闘を禁じさせて下さい』とだけ」

 

 

〔態々私に伝言だけねぇ……ま、ちーちゃんの電話番号知らないなら無理も無いか。オッケー伝えとく〕

 

 

「了解しました」

 

 

 

 ホログラムを閉じるとアリーナへと出てフェンリルを装着し、2人の元に向かう。到着した勇は直ぐにフェンリルから離脱し2人の様子を伺う。

 

 

 

「セシリアさん、鈴さん。ご無事ですか?」

 

 

「こっちはまだ何とか……けど、セシリアの方が……」

 

 

「私の方も、何とか」

 

 

「……ダメージレベルC+。フェンリル通報の方は?」

 

 

『あふっ』

 

 

「よし。フェンリル、グレイプニールで2人を運んで。先にISを外すから」

 

 

「解除するくらいなら出来るわよ……」

 

 

「右に同じく……それでも、ありがとうございます」

 

 

 

 2人はISを待機状態にさせると、フェンリルの毛が2人に痛みを与えない様に支えながら持ち上げてピットへと運んで行く。

 

 

 その後、駆け付けた教員によって2人は搬送されていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【αタイプIS】
 幻獣の名を持つIS。実在する生物の特徴をISに当てはめる事で従来のISより特化性能と劣化性能が際立っている。
 尚、SDモードという自立稼働状態になる事も可。

【フェンリル】
 尾崎勇の機体。αタイプISの初号機であり北欧神話の魔狼フェンリルから名を取った機体。狼を全体的にモデルとしているが尻尾はチーターの機能を備えている。

 武装
 【ロアー】
 【クロー】
 【バイト】
 【スティンガーミサイル】


【ロック鳥】
 明石重工から支給されたシャルロット・デュノアの機体。αタイプISの2号機で鳥の姿を参考にしたIS。機体には【ハヤブサ】【ハイガシラアホウドリ】【アメリカ・レア】等を参考にしている。

 武装
 【フェザー】
 【メタルウィング】
 【スパイクレッグ】
 【スピアビル】

 スペック
・体長:2.5m ・幅(両翼込み):4.0m





 次回『オモイツメテ』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。