その翌日、1組のクラス内では同じような騒ぎように包まれていた。それもその筈、1人の女子生徒が“ある現場”を目撃した事で噂が流れた。
ラウラ・ボーデヴィッヒと尾崎勇のペアである。この内容に正直言ってしまえば勝てる見込みが
だが2人ともそんな事には無縁、ましてや勇はコア開発者という立場なのを理解しているのであればフェンリルを稼働させて撃退させる事も可能であった筈だ。つまり合意の上でのペアということである。
そして、やはり勇に異を唱える者が居るのも然り。
「勇!」
「はい」
「ラウラと組んだって、本当なのか!?」
「ええ。確かに」
「何で!?」
「……それを1から説明すると国家ぐるみの話になるので避けたいのですが」
「いやでも!」
「お金の話もありますし難しい内容になるので」
そう言うと一夏も渋々
実際は難しい内容に頭を悩ませたくないからというのもあったりする。
そんな勇は次にシャルルの元に歩み寄る。
「シャルルさん、後でお話が」
「……うん。ねぇ、勇」
「はい?」
「何を考えてるの?」
「何、αタイプISの事もありますよ」
それだけを言うと自身の席に戻って行く。すると今度は勇の元に本音がやって来る。トコトコという擬音が似合う歩み方でやって来ると何時もの調子で接してくる。
「おはよ〜、いーさん」
「おや、お早うございます本音さん。今日もお変わりないご様子で」
「え〜、それどういう意味〜?」
「いえ、貴女は貴女らしいという感想ですよ」
「誤魔化すなぁ〜」
そうしている内にクラスに千冬と真耶が入ってくる。つまりは朝のHRが始まる。
「ばいば〜い」
「それでは」
手を少し振って本音は自分の席に着く。勇は前を向き少しだけ溜息をつくと制服ズボンの裾の一部を摘む。プチッという何かが潰れた感覚を指に覚えると、姿勢を戻して溜息をつく。
「……本当、貴女は貴女らしい」
「……バレるの、早っ」
「如何致しますか、お嬢様」
「……こうも勝手にされると、私らの仕事が増えるんだけどねぇ。どうもお気に召さないらしいわね」
1時間目の休み時間、楯無と虚が合流しており廊下で話していた。その理由は本音に預けていた
本来は暗部としての御役目で2人目のISコア開発者の立場に居る尾崎勇を守らなければならないのだが、
そして今回はフェンリルが自立稼働状態で無かったにせよ、用意した盗聴器までもバレた始末。ここまで来ると最早人間と呼べるかどうか怪しくなってくる。
「……ま、本音ちゃんは仕事ちゃんとしたし。お詫びに何かお菓子でも買っていきましょうか」
「……そうですね」
そんな罪悪感ありありの2人は授業に戻って行くのであった。後日、本音の特に好きなお菓子が多く渡され勇と一緒に食べる様子を目撃されているが、それは別の話。
午前の授業もつつがなく終えて昼休み、勇は廊下を歩きながらホログラム越しにシャルルと話をしていた。
「如何です?この成果は」
〔……勇〕
「はい?」
〔…………何でそこまでしてくれるの?〕
「おや、分かりませんか?」
〔正直……〕
「……利益的に言えば“これをしなければ後々面倒だから”です。しかし国家の保護が加われば、という話ですよ。いやはや説得に数分も掛からなかったですねぇ」
〔…………そっか、そうだよね
ありがとう、勇〕
「……はて、僕は何か
〔ふふっ、自分で分かってるクセに〕
「……では、僕は用事もあるので」
〔うん。じゃあね〕
ホログラムを切ると溜息をつき、隣に居るラウラを見る。歩きながら、というのはラウラと共に食堂に向かいながらという事であった。そのラウラはかなり不機嫌に見える。
実は勇が無理やり連れてきた、という事があったのだが流石に戦闘糧食をクラスで食すのは如何なものかと思った勇がラウラを持ち上げて食堂に向かおうとしていた。
結果、気まずい事になっていた。契約として一時的に行動しているにせよ、流石にあの様な仕打ちを受ければ誰だって不機嫌になる。今のところ両者の間に会話は無い。
そんな2人は漸く食堂に到着し、勇は何時もの定食と決めているため食券を選んで買った。そこで一瞬忘れていたラウラを思い出し、笑顔を向けながら尋ねる。
「ラウラさんは何にされますか?」
「私は知らないのだか?」
「これは失礼しました。そうですね……あ、じゃあ折角ですから日本発祥のものでも如何ですか?」
「……何でも良い。早く決めろ」
「了解しました」
食券を買おうとお金を入れようとすると、ラウラが腕を掴んで制止させる。
「待て、流石にそこまではやらんで良い」
ラウラは制服に入れていた財布から1000円を取り出し、勇に差し出す。勇は未だに笑顔のままだがラウラのすることを分かったのか1000円を受け取り、そのお金で食券を買う。お釣りはラウラに返却し、あとは担当職員に渡すだけである。
勇の何時もの定食と、グラタン皿に入った熱々のクリームソースが特徴の料理。その2つを器用に持つが、またもラウラに制止されてしまう。
「待て、自分で運べる」
「残念ながら拒否権はありませんよ。素直に従って下さい」
ラウラの制止をのらりくらりと回避し、空いている席の所に料理を置く。しかし隣に置かれた事で必然的に並んで食べなければならない事となった。
この傍若無人ぶりにラウラも少しずつ呆れ始めたのか、不服ながらも自身の料理の前の席に座る。勇はその後に座ると、ラウラの目の前の料理の解説に入った。頼んでもいないのに。
「それは日本発祥の【ドリア】というものです」
「グラタンとは違うのか?」
「ドリアは1927年、関東大震災後の横浜にオープンされた【ホテルニューグランド】でシェフをされていたスイス出身の『サリー・ワイル』が考案された料理で、実際に製作されたのは1930年頃の日本です。
違いといえば具材で、ドリアにはライスがあるんですよ」
「ライス……教官が言っていた“ハクマイ”なるものか」
「漢字に表せば“白米”、その名の通り白いのが特徴ですよ」
「ふむ……どれ」
「あぁ、少し待って下さい」
1口目を食べようとしたところ、勇に制止されて少し不機嫌になるラウラ。
「今度は何だ?」
「日本では先ず、食事をする前にすべき行為があるんですよ」
料理の前で勇は両手を合わせてお辞儀をする。
「いただきます」
「……それが、そうなのか?」
「ええ。この言葉には生産者や料理人、もっと言えば僕らの命となる料理に感謝する行為です。今の僕らが居るのは、命や技術を食しているからとも言えますからね」
「成程……確かに今の私が居るのも、命を食しているからとも言えるか」
同じようにラウラも料理の前で両手を合わせてお辞儀する。
「いただきます」
「では、食べましょうか」
「うむ」
2人はそれぞれの料理を口に運び、食す。ラウラは白飯が入っていた事に少し感嘆を受けて一言呟く。
「……美味いな」
「でしょう?」
勇がラウラの顔を覗き込む様にして笑顔のまま見る。その表情を見たラウラも少しだけ表情を綻ばせながら料理を食していく。
全て食べ終わると満足気な様子の2人。そんな中、勇は再度両手を合わせてお辞儀をする。
「ご馳走様でした」
「……それも感謝する為の行為か?」
「ええ。この“いただきます”と“ご馳走様”は2つで1つ、どちらとも欠けてはいけない大切な言葉です」
「ふむ……ご馳走様でした」
「では、片付けましょうか」
ラウラも同じようにすると、勇は2つのトレーを持って行こうとするが今度はラウラがグラタン皿のあるトレーを持つ。
「お節介が過ぎるぞ」
「そりゃ、男性の甲斐性みたいなものですし。まぁ運びたかったらどうぞ」
「ふん」
トレーを片付けて2人は教室に向かって行く。その途中で勇がある提案を投げかける。
「あ、そうだラウラさん」
「……何だ?」
「放課後、僕の部屋で作戦会議しましょう。先ずは作戦内容を予め覚えましょう」
「……なぜお前の部屋なのだ?」
「トーナメントでは敵は周囲に居る場合もあります。とどのつまり外で作戦を話せばバレる可能性もある為、関係無い2年の人と同室の僕の部屋なら作戦がバレる可能性も少ない……それでは駄目ですか?」
「……いや、分かった。その提案を受けよう」
そして時は進み、勇とラウラは約束通り勇の部屋で作戦会議を行う事となった。勇はお得意のノートをその手に持っておらず、完全に自身の脳内計算で作戦を立てていく。
「さて……僕らの作戦ですが、フェンリルのロアーによる牽制からAIC、その後に攻撃という戦術が1つ」
「待て、先ずはお前のフェンリルの機体性能が分からん。判断材料が無ければ了承せんぞ」
「ふむ……一理ありますね。フェンリルおいで」
待機状態のフェンリルが自立稼働し、勇に尻尾を振りながら擦り寄る。
「……1度見たが、本当にこれがISなのか?」
「αタイプISは特殊が売りですから。フェンリル、機体性能のデータを映して」
『わふっ』
フェンリルが座ると両目からホログラム映像が映し出される。その画面にはフェンリルの基本性能、基本装備などが映し出されていた。
「……防御力が薄いな。SEがその分多いが」
「伸縮性を高めて距離を稼ぐ為、装甲は薄いんですよ。そこら辺はモデルとなった動物に近いんですよね」
「それで、お前が言っていた装備が……これか。このロアーとやらは威力の調節が可能とあるが?」
「1度アリーナの放送機器、ISのハイパーセンサーや通信機能諸々の機能を停止。相手の攻撃を逸らせる事も可」
「ふむ……調節ができるならば、先程の作戦は了承しよう」
「ありがとうございます。まぁ作戦の1つなので、色々と考えなければなりませんが……問題が」
ホログラムに映されている映像をスライドさせて別のものに切り替える。今度は一夏とシャルルのペアの対策である。
「織斑一夏……私が倒すべき標的…………!」
「一夏君は僕が鍛えましたからね。資料通りに何時までも
「……そうだったな」
「まぁ一夏君の装備には【雪片弍型】しかありませんが、厄介な単一能力【零落白夜】がありますからね」
「あのSE無視の力か」
「まぁ僕が懸念してるのはシャルルさんの方ですけどね」
今度はシャルルの機体であるラファール……ではなく支給された【ロック鳥】のデータを映す。それを見たラウラは大層驚いていた。
「これは……従来のISの速度を凌駕しているのか!?」
「降下時の速度は【ハヤブサ】、水平飛行時の速度は【ハイガシラアホウドリ】を参考にしています。そして中でも1番厄介なのが……
【フクロウ】主に夜行性で、ネズミ等を狩る肉食性の猛禽類。このフクロウは音も立てずに獲物を狩ることが出来る。
秘密はフクロウの羽にある無数の突起にある。この羽1枚1枚に突起があり、その突起が羽ばたきによって発生する風の渦を幾つもの小さな渦に変えることで無音飛行を可能としている。
このロック鳥にもフクロウの羽の特徴を組み込んでいる。これをハヤブサに当てはめれば、約300kmの速度を無音で降下している事になる。これだけでどれ程の脅威となるかは想像が付く。
「これにより自動的に一夏君はラウラさん、シャルルさんは僕が対応する事になります。しかしシャルルさんが標的を変えてラウラさんに向かう場合も考えられますので、もし狙われた際はなるべく引き付けて瞬時加速で前方に進んで避けてください」
「後方からの奇襲には?」
「その場合は一夏君の攻撃を防ぎ嘴に気をつけて上空に逃れて下さい。序にロック鳥の背中に攻撃をお見舞いしても構いません」
「了解した。他にはあるか?」
「あとはロック鳥の【メタルウィング】です。フェザーも連続射出で1秒間に5枚発射されますが、メタルウィングはモロに当たればSEが大幅に削れますので。あとメタルウィングを狙って攻撃するより他の場所に攻撃すればダメージは通ります」
部屋ではあれやこれやと質疑応答が繰り返され、話を終える頃には夜になっていた。
【ハヤブサ】──誰もが知る空のハンター。鳥類の中で降下時に最も速い速度を出せる鳥としてギネス記録に認定されている。ギネスでは瞬間最高時速約389kmを叩き出す程の速さ。
【ハイガシラアホウドリ】──水平飛行時の速度が1番速い鳥。その速度は水平飛行時で約129kmである。
【アメリカ・レア】──レアの中では最大種で南米最大の鳥類。成鳥では高さ約1.5m、体重30kgになる。驚異的な免疫システムを体内に持ち、傷付いても急速に回復する力を持つ。ロック鳥の【フェザー】の自動装填は、これを参考にしている。
次回『カツボウノイシ』