観客が最も期待しており
最も予想が付かず
誰もが獣の性能を低く見ている。
そんな予想はすぐに裏切られる事になるが
それでも尚、人間が全てを
これから起こる人智を越えた戦いを知らない。
いや、考えもしないのだ。
今から行われるのは
ブーッ!
合図が、戦いの宴が始まった。
「『
開始と同時にロック鳥が浮遊し、そのままフェザーを数十枚ほど射出する。
「行くぜぇッ!」
僅かなタイムラグを駆使し、一夏がフェザーを追い越さない様に速度を保ちつつフェンリルとラウラに向かう。
ラウラは前、フェンリルは後ろというように並んでいる。しかし前衛であるラウラは動こうとはしなかった。
何かがおかしいと、直感で悟ったのはシャルルであった。
「『一夏下がって!』」
「シャルル!?」
「『もう0.5秒速く行動しろ、馬夏』」
後衛に居るフェンリルがラウラを飛び越えて前衛に躍り出たのち、瞬時に口を開く。
「『ウォオオオオオオオオオオオオオオン!』」
「がッ!?」
フェンリルのロアーが炸裂。フェザーがフェンリルのロアーによって逸れると同時にラウラがフェンリルの横に立ち、一瞬の隙を突かれた一夏をAICで拘束する。
「体が……!動かねぇ…………!」
「『間髪入れずに!』」
フェンリルの尻尾からミサイルが7つ発射される。動けない一夏は、格好の的である。
だが上空からのフェザーにミサイルを衝突、または軌道を逸らされる。すぐに上を見ると既にスパイクレッグで捕らえるモーションに入っていた。
「『退避ッ!』」
「ぐっ!」
お互い瞬時加速を利用しロック鳥の下を通り抜ける様に回避するが、その先にはAICから解放された一夏が待ち構えている。
「貰った!」
「甘いッ!」
左肩のレールカノンから実弾を発射させると、一夏は振り上げた状態から即座に回避し構えたまま2人を確認する。シャルルは上空から見下ろして確認している。
勇とラウラが互いに後ろを守る様に立ち
「『んじゃあ手筈通り』」
「これで漸く……1vs1か」
「『……目の前にだけ集中はするな。もっと多くを見ろ、お前の弱点はそこだ』」
フェンリルが飛び立ち、ロック鳥に迫る。フェンリルの毛が大きな螺旋状の渦を描き1つに収束される。
しかしロック鳥の速度を侮るなかれ。瞬時加速を使わずとも、その速度は従来のISよりもフェンリルよりも素早い。その攻撃を横に避けアリーナを周回しながら勇に迫る。
その時間、僅か6秒であった。
「『フェンリル行くぞ!』」
応えはしない。何故ならばフェンリルを装着しているのだから。だがフェンリルは、応える様に赤い目を光らせた。
瞬時加速でフェンリルは地面ギリギリに降下して避け、ロック鳥との距離を離す為に速度を出して飛行する。四足歩行する動物が走る様に地面から僅かに浮いて走っていく。
「『逃がすワケ……ないでしょ!』」
「『だよなぁ!』」
ロック鳥が有り得ない速度で迫る。普通に速度を出そうが、瞬時加速を混じえて速度を稼ごうがフェンリルとロック鳥の差は埋まらない。
ロック鳥のスピアビルがフェンリルに迫る。大きく口を開けて捉えようとしていた。
刹那、フェンリルの速度が上昇した。それだけに留まらず、フェンリルの最大速度を超過した速度を維持し続けていた。
「『!瞬時加速を……何度も!?』」
「『余所見すんじゃねぇ!』」
「『ッ!?』」
フェンリルはその尻尾の性能を駆使し直角に曲がり続け、翼を掻い潜りロック鳥の背後を取る。先程の技術で漸くフェンリルがロック鳥に追い付いた。
フェンリルの背中に【ブーストアタッカー】が装着されると、背中の2門の加速装置が火を噴きフェンリルはロック鳥の背中に噛み付いた。
「『うわっ!……って、このままじゃSEが!』」
「『追い討ち掛けて……グレイプニール!』」
グレイプニールがロック鳥の体に纏わり付きフェンリルを固定させる。これでは逃れようが無い。
「『なーんてねっ!』」
「『ッ!うおっ!?』」
だがロック鳥は左回転、右回転としながらアリーナを悠々と飛び回っていく。幾ら固定されているとはいえ、回転されて拘束が徐々に解けていく。フェンリルも噛み付く力を強めるが、先程の連続瞬時加速の影響がここで発生する。
〔残りSE、300を切りました〕
「『チィ!もうか!』」
フェンリルのSEは満タンにすると850ほど。しかし先程の加速のしすぎも相まってSEが大量消費されたのだ。加えてフェンリルの噛み付く力にもSEは徐々に消費量を増やしながら減っていた為、ここで残り少なくなった。
フェンリルはロック鳥の回転時に口を開いて背中から落ちる。すかさずグレイプニールで支え体勢を立て直し、浮遊しているロック鳥を見上げる。ロック鳥は襲いかからない。まるで獲物の様子を確認しているかの如く。
「『おいデュノア、お前1週間でここまで伸ばすか?普通よ』」
「『相性が良かっただけだよ。ロック鳥に乗って飛んでいる時だけは夢中になって、気が付いたらさ』」
「『……良いねぇ。やっぱロック鳥とお前は
フェンリルとロック鳥は睨み合う。お互いが獲物として認識し、1匹と1羽の狩人として認識している故に迂闊に手が出せない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
それを中断させる咆哮が、アリーナに響いた。
フェンリルがロック鳥に迫り飛び立った時、ラウラも一夏に向かってワイヤーブレードを射出させる。
「危ねッ!」
一夏はそれを避けきるが、ワイヤーによる移動でラウラが接近し、すれ違いざまにプラズマ手刀を叩き込む。雪片弍型で防ぐ一夏を尻目にワイヤーが巻き終わると瞬時に振り返りレールカノンから実弾を放つ。
咄嗟に地面を転がりつつ避けるも、今度はプラズマ手刀が迫り雪片弍型で受け止める。
「ほぉ……、あのコア開発者が鍛えただけの事はあるな」
「そりゃどうも……!全然嬉しくねぇけど……なっ!」
一夏は雪片弍型にエネルギーを纏わせる。慌ててラウラはバックステップで距離を取った為あの反則級能力の【零落白夜】の効果は無かったものの、防御状態で使ってくることを予想だにしなかった。
一夏は能力を解除し、雪片弍型を構える
「頭使って漸く思いついた
「ふん……だが所詮、この私の敵では無い。負けるのはお前だ」
ラウラはAICを発動させる為に右手を翳そうとした。
「待ってました!」
「ッ!?」
一夏は雪片弍型で地面を叩きつけて土煙を起こす。突如としてされた妨害行動に、咄嗟に右手を戻して守った。だが、それが命取りであった。
「はあっ!」
「!ぐあっ!」
一夏は土煙で目眩ましをすると、すぐに場所を移動し横から零落白夜を纏った雪片弍型で左下から右上へと斬る。一夏からしてみれば
SEが大幅に削られたラウラは視線を一夏へと向けたまま距離を取り、
「くそっ……!まさか、お前の様な奴に……!」
「悪いけど、俺だって成長してるんだよ。流石に使う気にはならなかったけどよ、言ってたんだよ勇が。
これは1つの【知恵】として使われるし、
自分が生き残る為の
「それが……どうしたというのだ…………!?」
「例えどんな奴が相手でも!俺は戦いで勝つ!勝つために
一夏がラウラに迫る。その雪片弍型にはエネルギーが纏われており、完全に仕留めようとする気で振るうつもりだ。
その間、ラウラの時間感覚は遅く感じていた。これは自分が死ぬ瞬間に極限にまで集中力が研ぎ澄まされ、見える景色が全て遅くなる様に感じる状態に似ている。
そこでラウラは、残りSEが100を切ったこの絶望的状況を考えていた。
━━━負ける?……この私が?
━━━あの……教官の汚点に?
━━━あの様な奴に、私は負けるのか?
━━━…………納得がいかん。何故だ?
━━━なぜ私は押されていた!?
───目の前にだけ集中はするな。もっと多くを見ろ、お前の弱点はそこだ。
ふと浮かんだ勇の忠告。それを懐かしむ様にラウラは色んな記憶が思い出される。
━━━……アイツか?なぜ?
━━━…………何だ?これは。
━━━暖かい……な。不要な思い出まで思いだすとは
───ラウラさん、この作戦ですが
━━━……………………なぃ
───ラウラさん、今日の昼食どうされます?
━━━…………た……なぃ
───ラウラさん、トーナメント頑張りましょう!
━━━負けたく……ない!
━━━この状況を打開できる
━━━せめて……せめてアイツの!
━━━アイツの期待だけは応えたい!
━━━何でも良い!寄越せ!力を!打開できる力を!
〔力ヲ望ンダカ?欲シイカ?
━━━勝つ為に!
そして時は戻る。一夏の目の前に居るラウラは、咆哮をあげながら機体をおぞましく変化させていた。
機体はドロドロとしたスライム状の物体から、徐々にラウラの体を包み込み覆い隠す。
そうして現れたのは、
そして握られている武器
嘗てモンド・グロッソで世界最強と名を馳せた織斑千冬が使用した武器
【雪片】を握っていた。
「それは…………ッ!?」
それを見た途端、一夏は驚きに包まれた。それを狙っての行動か、
間一髪の所で雪片弍型で防御した一夏だが、その威力は先程の比にならない程の力強さであった。これで一夏のSEが大幅に削れた。
「がっ!?」
吹き飛ばされ、地面に倒れ伏せる一夏。しかし……
「……ぇせ…………」
一夏は立ち上がり雪片弍型を握る力を込める。
「返せ…………それは
千冬姉の剣だアアアアアア!」
激情した一夏は激変したラウラに向かう。
しかしそれを阻むが如く、何処からともなく
「『………………』」
勇であった。フェンリルの前足から氷が発生し、地面を伝わって2人の間に氷の壁を作らせたのだ。
「勇…………何で………………何で止めた?」
「『……………』」
「ッ……!何か言えよ!勇!」
「『デュノア、足止め頼んだ』」
「『了解』」
「なっ……シャルル!?」
シャルルはロック鳥の足で一夏を捕らえて上空に逃げる。一夏は掴まれた状態で暴れるが、鳥の中には自分の体重の3倍もの重さの獲物を持っていく鳥も居る。つまりは逃げる事はできない。
「シャルル降ろせ!あれは千冬姉の剣なんだ!あれは俺がやらなきゃいけないんだ!」
「『じゃあ人の命とお姉さんの剣、どっちが大事?』」
「……こんな時に何を言って!?」
「『応えて、一夏』」
シャルルから出された声は、厳しさが混じったものであった。まるで親と子の地位を分からせる様に。
「ッ……そんなの、どっちも大切だ!」
「『じゃあ何で命を優先しないの?おかしいよね?』」
「ッ……!」
「『一夏、君が織斑先生の事を大切に思う気持ちは分からないでもないよ。でも、それで多くの人が傷付いてしまう事の方が問題だと思う』」
「……………!」
「『……どうやら冷めた様だね、一夏』」
「……勇は、何をするつもりだ?」
「『ラウラを
「『……なぁ、ラウラ』」
目の前で相対する機体からは、何も応えない。
「『……分かった。
なら、お前を救った後に説教してやる!』」
機体がフェンリルに迫る。対しフェンリルは瞬時加速で右前足のクローを振るうが雪片で止められる。
刹那、機体が
フェンリルは凍らせた機体の装甲を剥ぎ取り、中のラウラをグレイプニールで取り出し背中に乗せた。
左前足のクローで中身の無い機体を斬りつける。すると凍結は徐々に消えていくが、勇は間髪入れずに右前足のクローを機体に突き刺した。
中身の無い機体のSEが無くなり、動きが止まった。
───発動しちまったか、あれ。
───システム的にオンオフできる生体リンクシステムの方がまだ良いわ。というより気持ち悪いわね。
───只今帰った。
───おぉM、お疲れさん。
───それで、成果は?
───“あれ”の証拠と作った研究所。1発本気で撃ち込んだら建物ごと壊れた。
───……やっぱエグイな、お前の【バハムート】。
───後始末はした。映像記録も生き残りの証言も無い。
───そう……なら、今度は備えておきましょう?そろそろ動き出すわ。
───分かった。
───了解した。
次回『ツメタイココロ』