今は昔、といっても長くも無く短くも無いほどの昔。1つの家族がありました。
その家族には父と母、兄と弟が居ました。
父と母は共働きで帰ってくるのは遅いものの、家族との時間は必ず作るのが基本の2人。
兄は6つ離れていましたが、両親の優しさを受け継いだかの様な優しさを持っていました。
そこに無邪気な弟が加わり、その家族は幸せな日々を送っていました。
しかし、その家族の絆を引き裂く出来事が起きました。家が火事になり、生き残ったのが弟だけになってしまったのです。
残された弟は母の知り合いの夫婦に預けられましたが、元の姓を捨てる事をしませんでした。戸籍上はその夫婦の姓でしたが、彼は頑なに元の姓しか名乗りませんでした。
彼はちょうどその頃、小学1年生でした。家族を失った痛みが大きかった彼は同級生や担任に心配され、声を掛けられる事が多々ありました。
そう心配までしてくれている存在が居たから、彼は
ですが、人間には悪意を持った考えを持つ者も居ました。だからこそ彼は人間を
幼かった少年は、この2つの思いに迷ってしまいました。
人間を信じたい。でも信じられない。
どちらの考えに着こうか、迷ってしまったのです。
そうして彼は迷い続けて、そのうち心が冷たくなって。何時しか1人を望みました。
ですが1人になろうとも、彼を支えてくれる人は居ました。それでも彼は2つの思いに葛藤していたので、彼の心の氷が溶かされる事はありませんでした。
そうして4年の月日が経った頃、少年は
少年は狼と出会い、狼は少年を守る為に自ら1人になりました。
狼は少年を主と認め、少年は狼を家族として認めたところから不思議な生活は始まりました。
狼は少年を乗せて駆け巡り、少年は狼となって風を感じながら駆けていました。
そして少年と狼が出会った際、少年は眠っていた能力を解放させ知識を取り込みました。
そこから少年の心は徐々に狼に対してだけ暖かさを取り戻していきました。ですが未だに2つの思いの葛藤だけはありました。
少年は狼となり、人狼となり、人と狼と分かれたりと決意を決めていく内に人の形を持った
そうして少年と狼が出会ってから5年の月日が経った時、少年は狼から狼の心臓の秘密を知りました。
その心臓の秘密を知った彼は、新たな心臓を作りました。その心臓に、狼が既に持っていた心臓の
狼は魔狼の称号と魔狼としての存在を手に入れました。しかし魔狼になったとしても、少年との生活の記憶は残されており少年に服従を誓いました。
そうして彼は次の日、世界を変えた兎と出会いました。
アルコールの匂いが鼻に伝わり始めた頃、少女は目を覚ます。白い天井を視界に捉え、ここが何処なのか理解しようと思考する。
「目が覚めたか」
「……教官」
少女、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は体を起こし何故ここに居るのかを考えた。
「教官……私は…………」
「あまり怪我も無く済んだ。尾崎に感謝しておくんだな」
「尾崎……あのコア開発者が?」
「……お前をフェンリルの単一能力で救い出したんだ。そして医務室に運んでいったのもアイツだ」
「教官、あの時……何が…………?」
そうラウラは問い、織斑千冬は少し息を吐きながらも念を押しつつ事実を伝えた。
【
このVTシステムは全ての国家や企業、組織において開発や研究などは禁止されている。そして今回のVTシステムは巧妙に隠蔽されており、負の感情をトリガーとして発動したのだ。
現在はドイツ軍にその件を問い合わせており、近い内に委員会の審査が入るとのこと。だがそんな事よりも、ラウラはある事を気にしていた。
「……情けない」
自分への不甲斐なさであった。あの時力を求めていなければ、こうはならなかっただろうと。自身の心の弱さを嘆いていた。
その小さな一言を聞き逃さなかった織斑千冬は、ラウラの頭を軽く叩く。その手に気付くラウラは織斑千冬を見て疑問符を浮かべる。
「……教官?」
「…………ボーデヴィッヒ、先程のでお前が何を思ったのかは知らん。だがそう自分を責めるな」
「ッ……!しかし!」
その話の中、医務室の扉が開かれる。こんな時に来る者が誰か気になったラウラは扉の方に視線を向ける。
「っあ…………」
「……ラウラさん?」
尾崎勇であった。傍らにはフェンリルが自立稼働状態で付き添っており、そのフェンリルはラウラを見ると尻尾を振って近付いた。
しかし先に勇が向かい、ラウラを自身に抱き寄せた。
「なっ………………!?」
突然の事にラウラは驚いたが、耳から聞こえる勇の涙が入り混じった声が聞こえると冷静さを取り戻した。
「良かった……!本当に…………良かった……!無事で……!いてくれた……!」
「ッ……!」
抱きしめ涙を流し続けた、まるで愛おしむ様に。勇は素早く離れて早口で捲し立ててラウラに尋ねた。
「あっ……!ラウラさん大丈夫でしたか!?他に傷はありませんか!?何処か冷たい所はありませんか!?体に不調とかは!」
「落ち着け」
織斑千冬から勇の頭に制裁が入る。勇は頭を抑えてラウラから離れた。
「あっ……」
「……ボーデヴィッヒ、こうして心配してくれる奴が居るんだ。過去を責めても意味が無いぞ」
「…………!」
頭を抑えている勇は苦痛の表情を浮かべているものの、何処か安堵している様子を見せている。そんな勇に視線を向け、ラウラは尋ねた。
「……何で、そこまでする?」
「つつつ……決まってますよ。
貴女は
貴女が自分を機械と言おうが何と言おうが、僕は貴女を人間だと認識しているから。
だから、助けるんです。それ以外に理由なんてありませんよ」
「……私が、人間?」
たったそれだけの理由で助けたという勇には、驚きを通り越して呆れるしかなかった。次第にラウラにも笑みが浮かんでいった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
続いて織斑千冬がラウラを呼ぶ。ラウラは顔を向け視線を合わせ応える。
「はい」
「お前は、誰だ?」
たったそれだけの質問。名前を尋ねただけだが、ラウラは勇の方に向き笑みを浮かべて織斑千冬に向かって言う。
「私は……ラウラ・ボーデヴィッヒです」
「それで良い。あとはしっかり休め、ラウラ」
「ラウラさん、また明日会いましょう!」
嬉しそうな表情を浮かべていた勇は少し名残惜しそうに医務室を後にし、織斑千冬も医務室から退室する。
残されたラウラは誰も居ない医務室で先程の勇の行動を思い出していた。だが思い出すと何故か顔が紅潮して熱を帯び、慌てふためいていた。
勇はフェンリルのホログラム機能を使って何かを確認していた。真剣な表情で見つめている勇は、1人部屋で静かに怒りに燃えていた。
ホログラムを閉じるとフェンリルを待機状態にさせ溜息をつく。顔を両手で抑えて、瞼は開いたままの状態で何かを考えていた。
次第に瞼を閉じて顔を左右に振ると、着替えとタオルを持って漸く男子にも使える様になった大浴場に向かっていく。
脱衣場前に入るとシャルルがそこには居た。
「シャルルさん」
「ふひっ!?……って、何だ勇か」
「ふふっ、驚かせて申し訳ありません。では僕は」
「あ、うん。わかった」
勇は脱衣場に入ると服を脱ぎロッカーに入れた後、タオルを持って大浴場に入る。
「ん、おー勇。遅かったな」
「お早いですね一夏君」
「まぁ楽しみだったというか……な?」
「成程」
勇はシャワーを浴びて髪を後ろに集めた後、先にシャンプーで髪を洗う。
「あ、勇。俺先出るわ」
「分かりました」
一夏は大浴場から退出し勇は念入りに髪を洗い続ける。そのあとシャワーで流したあと、髪を後ろに纏めて体を洗おうとした。
「お、お邪魔しま〜す……」
「…………なぜ来たんですか」
何故か勇の耳にはシャルルの声が聞こえた。幻聴だと思いたかったらしいが、足音が勇の近くまで聞こえ勇の真後ろで止まった。つまりは後ろに居ることになる。
「えっと……お礼がしたくて」
「何のです?」
「ボクを助けてくれた……お礼。駄目かな?」
勇は深く息をつき額を抑えながらも応えた。
「……分かりました。気の済むまでどうぞ」
「うん、ありがと。じゃあ……体、洗わせて」
「どうぞ」
シャルルは勇からボディーソープを受け取り、勇の体を洗う。勇の背は一夏と同じぐらいであるもののが、一夏よりは引き締まった筋肉がある為か洗われている感覚が直に伝わる。
「……凄いね、体」
「鍛えてますからね」
少しばかり不機嫌そうな勇は息をつき、シャルルに本名で尋ねる。
「シャルル……いえ、シャルロットさん」
「な、何かな?」
「
「……バカ」
「はい?」
「何でもないよっ」
女心を分からない。いや先程の発言自体は聞こえているのだ、勇はそこから真意が分からない。いや……
その後、風呂に2人で入り落ち着いた所でシャルロットが勇に向かって言う。
「……勇」
「何です?」
「……本当に、ありがとう。助けてくれた事も、お父さんとお母さんの優しさに気づかせてくれたのも……全部勇のおかげだから」
「…………何か勘違いされている様なので言っておきます」
勇は立ち上がって風呂から出ていく際、シャルロットに言う。
「僕は利益に不利を感じたから貴女を利用しただけです。
貴女は助けられたことを結果というなら、僕は助けた覚えはありません。
貴女達を利用したに過ぎないのですから」
残されたシャルロットは、その言葉を聞いて1つだけ考えていた。
━━━…………嘘つき。本当は優しいクセに
夜、勇は寝ていた。もう1つのベッドには楯無が寝ている。勇に対する処置の役割としての対策である。
そんな部屋に1つの物音が聞こえた。しかし楯無は何故か気付かず、その音を聞けたのは勇だけであった。
ゆっくりと扉が開かれる音が聞こえたかと思うと、今度は扉を閉めてカーペットと何かが擦れる音が聞こえる。
勇は何者かと思い匂いを嗅ぐと、火薬と硝煙の匂いに紛れて女子特有の匂いが鼻をくすぐる。これらから予想されるのは……
「ラウラさん?」
「!お、起きてたのか?」
「いえ起きました。音がしたんで」
驚いていたままのラウラであったが、何故かラウラは勇のベッドに入りこもうとしている。
「……あの、ラウラさん」
「何だ?」
「…………何故に裸で?」
そう、勇が分かったことの中にラウラが裸であるということが含まれている。それを知っていたが、なぜ裸なのか理解できなかった。因みに勇は無理やり入ってくるラウラの為に場所を作る為に後ろに下がっていた。
「?夫婦なら、これが普通だと聞いたが」
「今すぐその知識を捨てて下さい。というより夫婦ってなんですか?」
「な、なぁ。名前で呼んでも良いか?」
「別に構いませんが何故夫婦なのか詳しく教えて貰っていいですか?」
「何故?私が勇を嫁と認めたからだ」
「納得いきませんし意味が分かりません」
溜息をついて疲れた様子を見せる勇は、呆れた様子で今の時刻を確認するとベッドで横になる。
「む、もう寝るのか?」
「まだ午前1時です。もうこのままで良いので早く寝ましょう、話は朝になってからで」
「分かった。いい夢を見るんだぞ、勇」
「……おやすみなさい、ラウラさん」
勇は瞼を閉じてから僅かで夢の中に入った。ラウラは勇に寄り添い密着して寝ることとなった。
───いい夢、か。毎度の事、それだけを見る事ができるなら、どれほど良いか。
───主よ、深層意識に居るところ悪いが。
───分かってる。そろそろ始まるんだよね?
───うむ。スコールから私に連絡が来た、『依頼が来た』とだけ
───そっか……始まるのか…………
───……さて、いよいよね。全員準備は良い?
───全員OKらしいぜ、スコール
───【バハムート】も調子が良い。久々に暴れられるから
───あくまでも殺しは無しよ
───理解はしている。だな?
━━━グォォオ
───この戦争の勝敗なんて、もう決まってるよね。だってこっちには証拠あるんだし。αタイプが3つ……いや4つか、あとでドイツのあの子に渡すんだった。
───……でも、これだけはいただけないなぁ?
───…………束さんが添い寝したら問答無用で埋めてくるのに、何で許してんだろうか。ユウ君。
次回 新章【This means war】