ブラック・ジャック『もらい水』より
━━皮肉なもんだよな
━━ホントに大事なモンってのは、もってる奴よりもってねー奴の方がしってるもんさ。
銀魂『銀時が海坊主に向けた言葉』
勇が対談の為にソファに座ると、束に撫でられていたフェンリルが勇の元にやって来る。それを見た勇は微笑み、顎を撫でる。するとフェンリルが頭を下げたので、勇は手を頭の上に移して撫でた。そんなフェンリルの表情は嬉しそうに見える。まぁ尻尾を振っている時点で嬉しいのは明確なのだが。
勇はフェンリルの頭を軽く2回だけ叩くとデスクから小さめのホログラムを出現させて操作していく。
「ではロランツィーネさん、僕ら2人から幾つか質問をさせて頂きますが宜しいですか?」
「了承を得るも何も、そちらはαタイプISを私に渡せば良いだけの話の筈だ。質問に何の意味があるのか知りたいな」
「……何かの男役って、こんなんばっかなのかな?」
「物凄い偏見ですよ」
「何か言ったか?」
「いえ特には。では質問の方なんですが……」
勇は量子格納域から何時ものボールを取り出してフェンリルに見せる。ソファの上で立ち上がり尻尾を振るフェンリルは、勇が社長室の入口付近まで投げたボールを追いかけて行った。
そして勇がロランツィーネに向き合う。
「あの子、フェンリルの事をどう思いますか?」
「…………どう、とは?」
「率直な感想です。犬らしいとか、可愛いとか、安らぐとかの見た時点での感想を頂ければと」
「ふむ…………?」
質問の意図が益々読めなくなっているロランツィーネ。一旦そこで考えても意味が無いと理解したのか、勇の元にやって来るフェンリルを見る。因みにだが、尻尾を振ってウキウキしながら勇の元に歩いている。
「……いや、特には」
「…………成程。では次ですが
家族を大切にしていますか?」
「また今度は何なんだ?一体この質問に何の意味が」
「答えなければαタイプの譲渡をしない……と言えば?」
ロランツィーネが黙る。蘭政府は確かに勇が開発した男女共用型ISコアが目的で、αタイプISの操縦者にロランツィーネを選んだ。だが本人からすれば、明石重工に訪れてみれば
しかし彼女も代表候補生。国からの指示でαタイプISを譲渡させる様に説得しろと言われれば逆らう事は難しい為、先程の勇の質問に答える。
「さぁな、私の興味の範囲外だ」
「……成程。束さんからは何か?」
「いんや……というより今ので決めたよね?」
「ええ。まぁ」
決めたという単語に反応するロランツィーネ。勇はホログラムを消してフェンリルを優しく撫でたあと、ソファから立ち上がる。
「現段階で蘭にαタイプISを譲渡するのは
「!?ちょっと待て!どういうつもりだ!?」
「どうもこうも、今の蘭にαタイプISなんて特殊な機体を渡せるワケが無いって事だよ。考えたら分かるでしょ普通さっ」
反射的にロランツィーネは立ち上がり異議を唱えるが、束が一言入れて勇も話していく。
「αタイプは見ての通り、主は動物の動きを完全に模倣している自立稼働のできる機体です。そして……
「意思……?」
「αタイプISも、また【意思を持つ機体】なんです。つまりは機嫌が良くなる事もあるし、不機嫌になる事もある……そして意思のあるISと共に過ごす事は、そのISを
勇は一息いれた後、今度は厳しい目付きでロランツィーネを睨みドスの聞いた声で話す。まるで怒りを露にしている様に。
「つまりは家族に興味を持たない貴女……ましてや共に過ごす事になる意思を持つISに対し何も感じない貴女には、コアを作った
「なっ……!?」
口には出さないが、ロランツィーネは勇に対して疑問が浮かんでいる。元々ISに興味はあり発表されたαタイプISにも興味はあったが、
つまりはそこである。勇はコア開発者という
だがロランツィーネは未だに理解できない、なぜそこまで家族に拘るのかが。そして同時に【このまま帰っては不味い】という不安だけ。
「ま、待ってくれ!」
「はい?」
「君がなぜ家族に拘るのかは知らない。だが私はαタイプISを貰いに……いや、それが無理ならばαタイプISを
「…………!」
「どうだろうか?良い案だと思うのだが……?」
そんなやり取りを見て、束は溜息をつきフェンリルを呼ぶ。ソファに乗って束の元に来るフェンリルは、伏せてボールをソファに置いた。その1連の動きに癒された束であったが、勇はとてつもない憤りを感じていた。
「……僕ならば」
「ん?」
「僕ならば家族を
「なっ……!ふ、巫山戯ているのか!?76億ユーロだぞ!?その金がどれ程の価値があるのか分かってるのか!?」
「それで?」
「ッ……!?」
「家族を売る位なら渡さなければ良い、そういう考えなんですよ。特に貴女が先程申した案なんて即却下物ですよ」
「はい!じゃあとっとと帰った帰った!蘭政府に宜しく伝えといてね〜」
ただ呆然と立ち尽くすロランツィーネは、束の呼んだ警備員によって社長室から退出される。久しく感情を表に出して怒った事に疲れたのか、勇はソファに背を預けた。そんな勇にフェンリルが近付き右前足を右膝に乗せる。
そんなフェンリルを勇は微笑みながら撫でていく。その光景を見ながら束は勇に話しかける。
「いやぁー、カッコイイねぇ。家族を貸すというなら10兆円つけても足りない……羨ましいねぇ、そんな言葉」
「貴女の事情に関しては何も言いませんよ。……ただ」
「んー?」
「僕は単に
「……そっか。そんな考えなのか」
金よりも家族を優先するのが勇である。それは何より失ってしまった悲しみを知っているからである。奪われ、消えた。しかしフェンリルが心の隙間を埋めてくれたからこそ、家族の大切さが身に染みているのだ。
勇が感じた
勇は渇望というより“悲劇を失くしたい”
そんな思考に入っている中、社長室の扉が開かれる。入ってきたのは唐木とセシリアとシャルロットとラウラ、そして自立稼働状態のロック鳥と素早い身のこなしで入ってきた【兎】であった。
「ま、待てアルミラージ!」
『ヴー』
「あぁラウラさん、走っちゃ駄目ですよ。アルミラージ、おいで」
カーペットに膝を着けて3回ほど軽く膝を叩く。アルミラージは勇を見つけると、徐々に近づいていき最終的には触れるまでに近付いた。アルミラージを優しく撫でると目を閉じて幸せそうな表情をする。
“ちょっとゴメンね”とアルミラージに断りを入れて両前足の関節辺りに手を入れて持ち上げ抱き抱える。
「おぉ……慣れてるのか?」
「兎は基本的臆病なので、慌てて行動すると逃げるのが普通なんです。まぁ、この子は僕を親だと認識してる様ですけどね」
「親……?」
「αタイプISの図面は全部ユウ君が考えたもので、ISコアもユウ君が作った。多分コアの時に覚えてたんだろうね、ユウ君のこと」
その声に反応する様にラウラとシャルロットとセシリアが見た。そして勿論、この3人は慌てる。唐木と勇は普段から会う機会があるため何時も通りの表情であった。
「「「篠ノ之束!?」」」
「そう!この私が束さんだよ〜!」
『ヴー』
『ぅわぅ?』
「フェンリル、君の兄弟だよ〜」
『キューイ』
「あら、ロック鳥がフェンリルちゃんの上に乗ったわね」
「あー……もう皆可愛いなぁ」
約1名αタイプISの面々に癒されてキャラ崩壊しているが、こんな集まりは中々見ないためより一層兄弟機だということを知らされていく。
フェンリルがその場で伏せ、アルミラージがフェンリルの匂いを嗅いで、ロック鳥がフェンリルの毛繕いをする光景は誰が見てもほのぼのするであろう。
「ちょっとー、ユウくーん。先にアルミラージの説明した方が……」
「おっと、そうですね。ではっと」
名残惜しそうに3機を撫でるとロック鳥は飛び立ち、フェンリルは立って勇を追いかけ、アルミラージは跳ねて移動し時折勇を見上げてまた移動した。近くのアルミラージを抱えラウラに渡すと、ラウラの膝の上で大人しく座った。
ロック鳥はシャルロットの肩に乗り、フェンリルはソファの上に乗り寝そべった。ラウラはアルミラージの毛並みを堪能しており、表情が柔らかかった。
勇はホログラム画面を操作してアルミラージの機体データを表示させる。説明をする時の勇は、学園に居る時の真面目さを戻していた。
「では、ラウラさんの機体である【アルミラージ】についてのデータですね。こちらを」
【アルミラージ】本来はイスラム教の神獣として伝えられている肉食獣の兎。インド洋に浮かぶ小島に棲息すると言われ、その名前はムハンマドが昇天する際に通った天への道と同じであると言われる。
最大の特徴は2フィート(60cm以上)もある額の黒い螺旋状の角。可愛らしい見た目に反して非常に獰猛な肉食獣で自分より大きい人間や獣までも、その角で刺し殺して食べるという。尚且つ食欲旺盛で自分の何倍もの大きさの獲物を軽々と平らげる。その事から島に住む生物はアルミラージを恐れて常に逃げ回っているという。
しかしここでのアルミラージは自立稼働状態では角は無く、姿は少し黄色が混じった【ネザーランドドワーフ】である。ハッキリ言って可愛い。
機体搭乗時は超大型の野ウサギの姿を取っている。角は毛を自動で収束させて硬化させることで武器に成り立っている。そして何時も通りの武装の少なさだが、機体には対応した動物を参考に作らせている。その内の1つは【オジロジャックウサギ】である。
【オジロジャックウサギ】兎の中で跳躍力が1番高く、一跳びで約6.4mをジャンプする身体能力を持つ。さらにある本では空から天敵である肉食獣の鳥がやって来た所、先ずは逃げに逃げる。そして天敵が捕まえようと降下していくと、一跳びで天敵の頭上に位置取り後ろ足のキックを食らわせたという例もある。
他にも【カンジキウサギ】【ヤマアラシ】【ビーバー】の性質を持ち合わせている。尚、全て
「そして装備ですが
アルミラージの特徴である角の【ホーン】
ビーバーの歯をモチーフにした【ロデント】
オジロジャックウサギの【サバック】
ヤマアラシの【ニードル】の4つです。
尚、ニードルの方は遠距離武装と防御に使えます。
後は……兎の性質を利用した
「最強……」
「防御……?」
「兎は周囲の状況を確認する為に【フリーズ】という動きを止める習性があるんです。それを参考にしたのが……【無敵状態】です」
ホログラム画面を操作して、ある映像を見せる。
「これはその【フリーズ】状態のアルミラージです。今のところ、これを突破できるISは
「うわ……何あれ。対物ライフルで傷一つ付いてない」
「いえ、今度はグレネード……も耐えるのですか!?」
「これは……かなりの威力の拳か?だが傷一つ付いてない…………のか?」
「正しく
「勿論これ以外にも素晴らしい機動性や角の威力は伊達じゃありませんよ。このアルミラージは」
一同はラウラの膝で目を閉じて寝ているアルミラージを見る。今はこんなに可愛いのに、先程アルミラージの最適化を終わらせたラウラが1番驚いている。
1通り説明を終えたところで時間を確認すると、まだ昼前の11時位であった。
「ふむ……時間が余りましたね。どうしましょう?」
「あ……じゃあさ」
シャルロットが勇に提案を持ちかける。が、この提案はある意味勇の立場を分かって言ってるのか不思議で堪らなかったと後に勇は語る。
「レゾナンス行かない?」
【アルミラージ】
明石重工が製作したαタイプIS4号機。神獣『アルミラージ』の名を持ち、その機動力は他の追随を許さない。しかし自立稼働状態ではフェンリルに捕まる。
武装
【ホーン】
【ロデント】
【サバック】
【ニードル】
特殊装備
【フリーズ】
・体長:170cm ・高さ:1m
次回『アクイノオトズレ』