勇が居なくなってから既に1時間が経過した。誰にも言わず勝手に帰って行った事は考えにくかったが、何時まで経っても来なかったので集まっていた6人は勇の部屋に向かった。
しかしノックしても返事が無く、ラウラがピッキングして部屋に侵入することになった。そこに勇は居ない上に同室の更識楯無までも居なかった為、不信感を抱いた。
「というかラウラ、何処でそんなの覚えたんだ?」
「普通に軍の訓練内容に入っているが?」
「それを普通とは言わんが……しかしヤケに綺麗だな」
「というか生活感が無さそうなベッド、絶対勇ここね」
「間違いないぞ。何度も隣で寝たからな」
「ラウラさん……何をしてらっしゃるのですか?」
「抜け駆けは良くないなぁ……」
セシリアとシャルロットがラウラを睨む。しかしラウラは気にせず勇が使っているベッドにモゾモゾと入る。
「ちょっと!何してるのラウラ!?」
「匂いを堪能しているのだ。勇は何故かいい匂いがするのでな」
「アンタらねぇ……」
シャルロットとラウラの会話を呆れた様子で物言う鈴。セシリアはワナワナと身を震わせており、その様子を見る一夏と箒。
そんな中、一夏が勇のベッドからはみ出している
「あ、これ……」
「うん?あぁ、何時もアイツが読んでいた……それがどうした一夏?」
「いや、たまたま見つけたからな。にしても懐かしいなぁ……ノートに色々書いて読み返してた勇」
「ノート?」
「おう。入学当時だと……ピットで小さくブツブツと何か言ってたな」
「ノートでしたら私、見たことありますわ。確か鈴さんのデータとか何とか」
「えっ、マジ?」
「ええ、それはもう。鈴さんの戦い方から課題点まで」
「へぇ〜……んで、それ何が書いてあんの?」
「いや勝手に読むのは不味いだろ」
「前は本音さんが持ってきてたような……」
「じゃあ大丈夫でしょ」
「あのなぁ……」
「そんなつべこべ言わずにっ!」
「ちょおい!」
鈴が一夏の持っていたノートを取り上げると、1ページ目を捲り内容を読んでいく。一夏はノートを勝手に見た鈴や勝手に入った自分達が怒られそうだと考えるが、その考えの途中に鈴が顔をしかめる。
「鈴?何が書いてあったの?」
「……何かしら、この企業。聞いたこと無いんだけど」
「何と書いてるのだ?」
「亡国企業……って」
「ッ!?」
勇のベッドから起き上がったラウラは鈴が持っていた勇のノートを取り上げ、そのページを読む。
「あ、ちょ!」
「…………!この文字、やはりッ!」
「ラウラ?」
「だが、何故だ……
何故織斑一夏の
空気が変わった。その一言だけで。
「ど、どういう事だよ……ラウラ。何で……」
「……すまんが、こればかりは私にも分からん」
急に立ち眩みが起こった一夏は倒れそうになったところを箒によって支えてもらったが、未だにラウラの言った事が理解出来ていなかった。
「一夏!大丈夫か!?」
「……悪い、箒」
「…………ねぇラウラ、亡国企業って?」
「……詳しい事はあまり分かっていない。ただ【数々の戦争の裏で暗躍した組織】としか分かっていない」
「「「「「!?」」」」」
「だが不可解だ……。なぜ勇が亡国企業と?」
そんな考えの中、突如部屋のテレビが着く異常事態が発生した。なぜテレビが着いたのかは理解できないが、そこを問題視する者は少なかった。
問題は
「……これは!?」
「明石重工の……もしかして、監視カメラから撮ってるのかな?」
「その可能性が高い。だがこれは……」
そこに映されていたのは明石重工の社長室に居るべきでは無い者が1人と、社長席に座っている唐木らしき人物。
そして
時は少し遡り、勇は明石重工の出入口前に到着していた。既に社員は全員帰ったというのに、そのオフィスは明るくなっている。
自動ドアを潜るが、そこには勇を監視する様に視線を向け続ける女達。その1人1人を確認すると共通点がある事が判明した。
ある一部を除き全員
勇は両手を頭の後ろに付けてエレベーターへと向かう。なるべくこれ以上刺激しない様に敢えての行動だが、それを見ていた倉持の社員は嘲笑うように見ていた。
勇はエレベーターで最上階まで向かうと、社長室へと続く道に数人の人物が待ち構えていた。その人物は勇がエレベーターから出ると、勇の後ろに位置取り銃を構えた。
「手筈は」
「ご要望通りに」
勇は歩き出して社長室へと向かう。それに合わせて後ろの人物は銃を構えたまま出口を消していく。後に引けなくなった勇は社長室に辿り着くと、ゆっくりと開かれる扉からその様子が目に映る。
先程の倉持技研の取締役と唐木社長、そして周囲には離れた場所に居る銃を持って勇に向ける者達。
「遅かったわね」
「少々厄介者が紛れましたからね……まぁそんな事はお互いどうでも良いでしょう」
勇からある程度離れた所に位置する先程の者。勇は接待用の机前に位置し、話を進める。
「では、貴女が望むものは……?」
「
「……成程」
「言っとくけど!ここで拒否するのなら、ここに居る糞女の頭がぶち抜かれるわよ!アンタの立場なら、この上なく従わざるを得ないわよねぇ!?」
「…………確かに。僕とて人命か名誉、または地位のどちらかを選ぶとすれば人命を選ばざるをえない。
ですが、僕からも1つ提案が」
「何……?」
「僕がISコアを作れたのは設計図があったからです。
その設計図が
「ッ!?」
「僕は貴女方にコアの設計図を譲渡しましょう。ですが、その代わり唐木さんを解放させて下さい」
「それはアンタ次第よ」
「了解しました」
幾人か倉持技研の社員が勇を包囲し、勇は頭の後ろに両手を着けたまま社長室を出ていく。社長室へと続く道の途中で止まると左側の壁に向かい手探りで何かを探していた。
「……ん、ここだ」
勇がその部分を押すとへこみ、その右側の壁が両側スライドドアの様に開かれる。巨大な業務用エレベーターとして運用されているそれに銃を向けられながら乗り、そのまま地下へと進む。
地下に到着した一行は近未来的な廊下を歩き、とある場所で止まる。部屋のドアらしき場所の傍に特殊なスキャナーがあり、勇は待機状態のフェンリルを着けた右手でスキャナーに触れる。
〔───α1【フェンリル】の確認
生体認証システムに異常なし
お帰りなさいませ〕
「ただいま」
懐かしい感覚を味わいながらも、その部屋のドアに触れると左にスライドされ開く。中はこざっぱりしており、目に付くのは1人用のベッドと椅子。テーブルに台所、そして本棚。
勇は本棚に向かい4段目にある青い本を引くと、その本は自動で戻り本棚が
その廊下を暫く歩き、一行はとある場所に到着する。
その部屋と思わしき場所は暗く、何があるのか検討も付かない。勇は暗闇の中を突き進み他は勇をハイパーセンサーの探知で探る。
すると、そのハイパーセンサーにフェンリル以外の
「貴女達バカですか?」
突如視界に入った
「まさか本当に渡すとでも?ご冗談を。渡すのは……
【バハムート】の拳ですよ」
「『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』」
そこに居たのは【怪物】と言っても差し違えない巨大な存在。高さ約3m弱、腹部と顔以外黒く染まった装甲が特徴であり凶暴な顔付きをしていた。
その【バハムート】と呼ばれた存在は右手で拳を作り腕を引くが、ものの一瞬の溜めだけでパンチを放つ。
しかしその拳は数名を巻き込んだ。巻き込まれた数名のISはSEが尽きた事により待機状態となり、相手方はバハムートの恐ろしさを身を持って知った。
「あ…………あ………………………
いやあああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
1人が先程の道へと走り去って行く。それに続くかのように動ける者は走り去り道に向かう。だが不幸な事に、その道には扉があり閉まっていた。
叩いても叩いても、懇願しても祈っても開かない扉に絶望していました。
「『情けないな、女共』」
バハムートから発せられる変声機越しの声。しかし逃げ去る者は聞こえていない。
「『しゃあねぇだろ、コイツらは恐怖を味わってすらいなかった奴等だ。謂わば鍛錬されてねぇ日本刀だ』」
フェンリルを纏った勇が口調を変えて話す。しかし姿に違いがあった。背骨と思わしき部分は曲がっているが、
「『さて……向こうは大丈夫だろうから、とっとと終わらせるぞ』」
「『おう』」
バハムートの左拳が引かれフェンリルが体勢を低くしてクローを構える。先にフェンリルが走り出し、右
そしてフェンリルのグレイプニールでISを纏っていない者を拘束し、バハムートの射程から離れる。それを確認したバハムートが左拳を放つ。
普通なら有り得ない程の風圧と威力がIS装着者を襲う。たった一撃、然れど一撃。巻き込まれた全ての人物はSEが切れて待機状態となり戦うことすら出来ない。
バハムートの背後から触手が伸びだし戦意喪失した者を捕らえる。それを確認するとフェンリルから勇が出現し、フェンリルが自立稼働状態になる。なぜかフェンリルの顔立ちが勇ましいものとなっているが。
「さて、行ってきます。フェンリルお願いね」
『うぉん』
勇が先程女性が叩いていた扉の傍の機械を操作すると自動で扉が開き、道を戻っていく。
「……遅い。遅い遅い遅い!」
一方社長室にて。倉持技研の取締役が憤っている中、唐木は目を閉じて達観していた。離れた場所でアサルトライフルを振り回している倉持の取締役を見て唐木は呆れている様子だ。
その時、社長席のホログラムから勇が映る。社長室前に到着した事を知らせると唐木は扉を開かせ、中に入らせる。
「やっと来たわね!遅す……ぎ…………!?」
やって来たのは勇であった。が、後ろに誰も居ない事と勇が何も持ってきていない事が不自然であった。
「何で……何で1人なのよ!?アイツらは!?」
「もう茶番は終わりです、お願いします皆さん」
「何を…………ッ!?」
勇に向けられていた銃口が全て倉持の取締役に向けられた為、その出来事に狼狽えている。
「こ、これは……何の真似よ!?」
「何の真似って?」
またも社長室の扉が開かれ、誰かが姿を現す。
「ッ……!?」
「気付かないのね。私達は貴女達に買収されたと思ってる、その思考が」
「なっ……!なっ…………!」
「たかが5000万、残念ね。はした金しか持ってなくて。
明石重工なら
「さ……3億!?」
「ほーんと、俺らを買収した気になってたお前がお笑いモンだったぜ」
今度は上から、つまり天井から声が聞こえる。監視カメラの映像に映らない死角の位置に陣取り、奇妙な
「既に亡国企業は、お前らを全員鎮圧している。大人しく捕まっとけ」
「補足しておきますが警察機構と政治機構に侵入した女権団体の隠蔽した不正は、既に束さんの御協力もあって
「今頃国民は非難殺到中。世論がたった1つの考えで代わり、このままでは大変な事になるわねぇ」
「あ……あアンタ達正気!?下手すれば、これは……!」
「ええ、戦争ですね。
「因みに、お前が明石重工の社長さんに銃向けて尾崎を脅してた映像も全世界に流れてたりして」
「あ……あ………………」
連続的に放たれる言葉の1つ1つが、倉持技研取締役に現実味を覚えさせる。しかも既に勇の足元から氷が這われており、その氷に触れたISは動かなくなっていた。
他の者は全員ISを待機状態にし亡国企業の面々は先程の地下へと向かう。勇は取締役の足にある氷を昇華させて、残っている倉持技研の社員を回収しながら外に出ていった。
───あ〜……結構疲れるヤツだったねぇ。
───束様、お疲れ様です。
───クーちゃんありがと〜。……ねぇクーちゃん。
───はい?
───こんだけ仕事したんだからさ、ちょっとぐらいユウ君からの御褒美があっても良いと思うんだ。
───はぁ……ですが、無理矢理はどうかと。
───そりゃ勿論!無理矢理だなんてトンデモない!でも無理矢理じゃなきゃ良いんだよね?
───それはそうでしょうけど
───にひひひひ……なら良いや。
次回『タドリツクサキ』