魔狼は学び舎にて   作:Haganed

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ニセモノノイキカタ

 唐木は楯無と簪を同じ手順で案内して現在エレベーターに。

 

 

 

「……いや、何よこれ?会社に整ってる設備じゃないわよこれ」

 

 

「ここに連れて来た人、皆そう言うから安心して」

 

 

「いや何をです?」

 

 

「ひ……秘密基地だ…………!特撮物の設備……!」

 

 

「特撮物かはどうか知らないけど、ここだけの設備なのは確かよ」

 

 

「す……凄い…………!私こっちに住みたい……!」

「簪ちゃん!?」

 

 

 

 特撮物を好きを通り越してマニアの領域に入っている簪からしてみれば、この会社の地下設備はまさに夢であり理想。桃源郷であり理想郷(ユートピア)、幻想郷であり実在するテレビでしか見ない世界(フィクション)である。

 

 

 エレベーターが到着する頃にはキチンと呼吸できる様になった簪だが、扉が開いたその先にある通路や扉を見て再度興奮冷めやらぬ様子になっていた。

 

 

 唐木の案内の元、楯無と簪は特設ピットへと向かう。ドームの広さはIS学園のアリーナ並にあるが、ピットの方は設備が整い過ぎている。先に楯無から始めるため唐木と簪はピットから退出し、他の女性研究員が仕事を始める。

 

 

 

「……よしっと。準備バッチリですよ更識さん」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 目の前のハッチが開かれると楯無はドームへと飛び出す。アリーナ並の大きさだが飛行高度が限られている分、空を悠々と舞うISの姿は飾りにしかならない。そんな場所である。

 

 

 そんな時、解放回線で楯無に話しかける唐木。

 

 

 

〔あー、楯無ちゃん。準備できてる所悪いけど、ちょっと内容変更したいけど良いかな?〕

 

 

「……変更?」

 

 

〔あーうん、勇君が相手じゃなくなったって所〕

 

 

「それはまた……何故?」

 

 

〔あーんとね、実は勇君…………

 

 

 

 

 今()()()なのよ〕

 

 

「…………えぇ」

 

 

〔いやまぁ、そこは許して欲しいかな?だって今日で5徹目でキチンと寝てなかったからさ。寝させてあげたくて〕

 

 

 

 5徹目にして勇、仮眠をする。御丁寧にシャワーを浴びて着替えてベッドで寝ています。そして護衛にフェンリルの自立稼動状態が傍に居るため起こそうとすると拒否される。

 

 

 

〔まぁ勇君が頼んで違う相手にしてもらったからさ、条件はそのままでどうかな?〕

 

 

「…………分かりました」

 

 

 

 寝ているのなら仕方ない、ならば色々と聞くのは後にしておこうと考えている楯無。ここの防犯設備もかなりの物で、部屋の扉の各所に付いているスキャナーは生体認証されている者で無ければ入れない仕組みである。そして隔離が素早く行われる仕組みが重要箇所に設置されてもいる。

 

 

 潜入しようとしても篠ノ之束による妨害工作も行われる危険性もある為、まさに現代に存在する最強の要塞。情報を守る為の超過上防衛機能である。

 

 

 

〔ああ、そうそう。相手の方なんだけど……あら来るの早いわね〕

 

 

 

 楯無は向こう側のハッチが開かれ、中から相手が出てくる様子を見て驚愕する。

 

 

 

「………………何よ、これ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『αタイプIS【バハムート】、()()()の機体じゃ』」

 

 

「…………ん?」

 

 

「『ん?』」

 

 

 

 楯無は少し疑問に思った。今現代ならば私だとかボクだとか言う女子や女性は居るには居る。だが変声機越しの女声は自らのことを“わっち”と言った。それだけである。

 

 

 そんな事よりも、楯無の前に現れた機体であった。その大きさは約3mほどで殆ど黒色の機体、凶暴そうな顔に加えて巨大な体格。今までのISよりも拳や腕や体に、()()に太さがあった。巨大さがあった。

 

 

 

「『何を(ほう)けておる?早う準備せんかい』」

 

 

「いや……あの…………」

「『つべこべ言わずやれ』」

「アッハイ」

 

 

 

 楯無は【霧の淑女】のアクア・クリスタルから水を発生させ、それを自身に纏いランスを装備する。一方のバハムートは両腕を組んだまま何も構えない。その巨体だからこそ可能な戦法を取らないのだ。

 

 

 

「貴方は構えないのかしら?」

 

 

「『お前なんぞバハムートの拳1()()でやられるのがオチじゃ。そんなモンつまらんだけじゃ』」

 

 

「……それは貴方が私より強いって意味かしら?これでもIS学園最強なんだけどなぁ?」

 

 

「『“井の中の蛙”。お前はそれだけで最強だと認識していると?あの勇と引き分けたというのにも関わらずか?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと私、本気出しちゃおっかな?」

「『抜かせ、(わっぱ)』」

 

 

 

 戦闘開始の合図が鳴ると、楯無はバハムートを観察する様に周囲を動き回る。が、バハムートは動いていない。というより動く気すら無さそうに思える。

 

 

 ならばと思い楯無は【ラスティー・ネイル】から水を高圧噴射させバハムートに当てる。その水圧をISの諸顔面に食らえば普通なら一溜りも無い。

 

 

 そう、()()なら。相手はαタイプISである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『…………何じゃ今の?勢いの無い()()()じゃのぉ』」

 

 

「ッ!?嘘でしょ!?」

 

 

 

 顔面に食らったとはいえ、バハムートのSEが殆ど()()()()()()。精々削れたとして、ほんの僅かな量しか減っていないのだ。

 

 

 そして楯無だが、高圧噴射された水を平気な状態で居られた事を少なくとも予想はしていた。だがSEの減り用が普通では有り得ない少なさであったからこそ驚いた。

 

 

 

「『良いか、童よ。本物は…………!』」

 

 

 

 バハムートが楯無の方に顔を向けて口を開いた。何か来ると理解しスグに横に移動して攻撃方法を見定めるが横に移動した瞬間、先程楯無が居た場所に“水”が噴射されていた。

 

 

 しかし威力の桁が違った。出される速度が異常なまでに速く、そして威力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『こうするモンじゃ。【テッポウウオ】を見習わんか阿呆』」

 

 

 

 【テッポウウオ】スズキ目・テッポウウオ科に分類される魚で、その名の通り口から水を鉄砲のように放つ事からそう呼ばれている。そのテッポウウオは水中と空気中の間で発生する光の屈折という障害を物ともせず、確実に獲物に当てる腕前。

 

 

 本来のテッポウウオは口の中に細い溝があり、そこに水を溜めエラをポンプの様に強く閉じる事で勢い良く発射できる。さらに射程距離は1〜1.5m、そして連射も可能である。

 

 

 そして、その性能を持つバハムート。つまりバハムートのコンセプトは“水生生物”である。テッポウウオが連射可能というなれば、それはバハムートとて同じな事。

 

 

 

「『さぁ……避けてみぃ!』」

「ッ!」

 

 

 

 口を開いて次弾を発射するバハムート、その水を避けていく楯無。マトモに喰らえばSEが大幅に削られる事も有りうる為か、中々攻撃のチャンスが出回って来ない。

 

 

 しかしテッポウウオとて無限に発射できる訳では無い。寧ろ水の中に居るからこそ放てるだけであって、水中で無ければ残量が存在する。そしてバハムートの口から水が出なくなった。

 

 

 

「『ふむ、無くなってしもうたか』」

 

 

「残量を考えずに発射するからでしょ!」

 

 

 

 楯無は水を纏ったランス【蒼流旋】を構え、ガトリングを発射させる。バハムートのSEは削られていくが、それでも期待はできない。それこそ減っているかさえ怪しいと感じている。

 

 

 バハムートの方は大して効いている様子も見せていない上に、先程顔を動かしただけで1歩も動いていない。それならばと考えた楯無は、ある作戦で攻め始める。

 

 

 先ずは【霧の淑女】と赤い翼を広げたユニットがせつぞくされ、アクア・ベールが赤く染まる。超高出力状態にさせる【「麗しきクリスヤーナ」】と呼ばれる状態。

 

 

 そして次だが、バハムートが何かが付着した事を認識する。

 

 

 

「『これは……?』」

 

 

「貴方は知らなくて良い事よッ!」

 

 

 

 霧状に噴射される水がバハムートの腕や脚の関節部位に取り付かれる。

 

 

 

「『ほぉ……』」

 

 

「さて、早く決めちゃいましょうか!」

 

 

 

 霧の淑女の技の1つ【清き情熱(クリア・パッション)】が行われようとしていた。それが決まりさえすれば、後は楯無の優勢か勝利である事は間違いないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『むんっ!』」

 

 

 

 突如バハムートの体から()()しなければ。

 

 

 

「!?」

 

 

「『清き水は電気を通さんが、この水には不純物が紛れておる。誤算じゃったの』」

 

 

 

 放電による影響でバハムートに取り付いていた“ナノマシン”が機能を停止させる。何が起きたのかを理解できないまま楯無はバハムートの背後から放たれる“触手”によって拘束される。

 

 

 

「しまっ!?」

 

 

「『相性が悪かったのぉ、わっちとお主。バハムートは元来“魚”じゃからか、水を得た魚にわっちが成ってしもうたわ』」

 

 

 

 【バハムート】イスラム教伝承の幻獣で、巨大な雄牛クジャタを支える為に置かれている巨大な幻獣である。そしてバハムートの下に海があり、それから下は順に空気の裂け目、火、口の中に6つの冥府を持つ巨大な大蛇ファラクが居るという。

 

 

 バハムートの大きさは凄まじく、バハムートの鼻孔に海を置いても砂漠に置かれた芥子粒(けしつぶ)程の大きさしかないと言われる程である。

 

 

 しかし今現在バハムートといえば“ドラゴン”のイメージが強いかもしれないが、ドラゴンという認識は浅く発祥はアメリカのTRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』から来たとされる。

 

 

 話を戻そう。捕まった楯無は身動きが取れず、それどころか締め付けられてSEが消費され続けている。動けないという状況の中、バハムートは少しばかり不満そうな声を出す。

 

 

 

「『あーあー暇じゃ、やはり勇とでなければ話にすらならんのぉ』」

 

 

「ッ……?」

 

 

「『む、スマンな。お主には関係無いことじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、終いにするかのぉ』」

 

 

 

 最後に触手の拘束力を一気に強めてSEを全損させる。触手を器用に使い楯無に巻き付けた後、地面に降ろす。

 

 

 

「『ほれ、さっさと帰れ。わっちとて忙しい身じゃからの』」

 

 

「……そうするわね」

 

 

 

 結局だが、これではロシア代表候補生としてαタイプISの譲渡はされなくなった事になる。楯無はピットに戻って行き1度調整をする。今度は簪の番なのだが……その簪の相手は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、ラウラちゃん宜しく!」

 

 

「『話が見えないのだが……』」

 

 

 

 もう一方のピットに【アルミラージ】に搭乗しているラウラの声が響く。このピットは先程バハムートが居た場所なのだが、バハムートの操縦者というのが……

 

 

 

 

 

 大型淡水魚の【ピラルクー】を空中に放ち泳がせている光景を見ている()()()()()のあの人物であった。しかしピラルクーが泳いでいる光景を首を動かしながら姿を追っている。

 

 

 

「いやさ、アルミラージを持ってたとしても使わなかったら宝の持ち腐れって言うじゃない?その子も対戦させて色々とデータを取らなきゃなんないし、ラウラちゃんもその子に慣れる意味で戦ったら良いと思って」

 

 

「『……それもそうか。実際のデータも取らなければ企業にとっては致命的か』」

 

 

「物分りが早くて助かる!それじゃ!」

 

 

 

 唐木はピットから出て行き、ラウラはアルミラージの操縦確認。そしてピット内で泳いでいたピラルクーもMの元に戻りMと共にピットに出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

「『M……と言ったか?』」

 

 

 

 声を掛けられて歩みを止めるM。ラウラの声が発せられるアルミラージの方に振り向く。

 

 

 

「……何だ?」

 

 

「『……いや、後で話をしたいと思っただけだ。このあと空いているか?』」

 

 

「……バハムートの調整がある。暇じゃあない」

 

 

 

 Mは歩みを始めてピットを出て行く。バハムートは待機状態であるバングルになりMの右手首にはめられる。

 

 

 それが終わる時、アルミラージの調整も終わった。ラウラはアルミラージに搭乗しドーム内に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………っぅ」

 

 

 

 漸く目が覚めた勇は、久々に寝てたなと思いつつ上体を起こす。欠伸をして寝惚け目を直す為に台所の蛇口から水を出して顔を洗う。

 

 

 

「ッふぅ……」

 

 

『ヴぁん』

 

 

「ん、ありがと」

 

 

 

 フェンリルがグレイプニールでタオルを取り出して勇に渡す。受け取った勇は顔を拭いたタオルをそのまま首に掛けて背骨を伸ばしたり首の骨を鳴らしたりする。

 

 

 

「っあ"〜……よく寝た」

 

 

〔───α3【バハムート】の確認

 生体認証システムに異常なし

 

 

 

 

 

 いらっしゃいませ〕

 

 

「M……?」

 

 

「起きたか。ちょうど良い、すぐにモニタールームに来い」

 

 

「……顔の方は如何されるのですか?」

 

 

「この世には3人同じ顔の奴が居るで誤魔化せば良い」

 

 

「……そうですね。まぁ寝起きに動くのはあれですが、少しは観察して戦闘データを取得するのも良いかもしれませんね」

 

 

「その後は」

「分かってますよ、久々に」

 

 

「そうでなくては…………!」

 

 

 

 尾崎勇とM、もとい『マドカ』の関係は色々と複雑である。敢えて言葉にするならば………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “力を持った師”と“力を学ぶ弟子”という間柄になるのだろうか。

 

 

 その2人はモニタールームに足を運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【バハムート】
 明石重工が開発したαタイプIS3号機。幻獣【バハムート】の名を持つ機体。現在3mにも及ぶ巨体であるが、見かけによらず繊細な事ができる。自立稼動状態は淡水魚である【ピラルクー】の姿を取っている。明石重工初の水・陸・空の3つの環境での操縦を障害無くできる機体である。




・バハムートの参考にした生物


【デンキウナギ】

 デンキウナギ目ギュムノートゥス科デンキウナギ属に分類される硬骨魚類の一種であり、空気呼吸をするアマゾン川・オリノコ川の頂点捕食者。筋肉の細胞が『発電板』と呼ばれる細胞に変化した事で最高電圧600〜800W、電流が1Aにまで達する強力な電気を発生させる事が可能。

 しかしこの電気は約1/1000秒しか持続できないが、過去にカイマンに噛みつかれて1分間電気を流し続けた事もある。バハムートの電力は最大電圧1200W、電流5A。持続時間は5秒。



【タコ】

 お馴染みの海洋生物。吸盤の付いた8本の触腕を特徴とするが、全て筋肉という構造である。頭から足(触腕)が生えているため『頭足類』という種類に分類される。



【バショウカジキ】

 スズキ目マカジキ科に属する魚の一種で、イワシ、カツオ、アジ等の魚類やイカ類を捕食する肉食性の魚。高速遊泳を行うことで知られるカジキ類の中で最も速く泳ぎ、水中最速の動物。

 その速度は約54ノット(105km/h)と言われている。


【モンハナシャコ】

 シャコ目・ハナシャコ科に分類されるシャコの一種であり体長は15cm程。浅い海のサンゴ礁や砂底に穴を掘ってその中に生息する。

 肉食性であり捕脚を高速で打ち出して貝などを割る。その威力は15cmの時点で22口径の拳銃に匹敵する為、海のボクサーと異名が付けられている。









 次回『アノトキノサカズキ』



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