勇とMは2人揃って廊下を歩く。特に話をする訳でもなく、ただフェンリルとバハムートを自立稼動状態にさせて散歩させたり遊泳させたりしているだけである。何も会話というのは無かった。
というのも、この2人が話す事は大抵訓練であったりお互いの
「いや何か話せよ」
突然2人は誰かに肩を掴まれるが、声を聞いた限りでは知り合いなのは確かであった。
「レイン・ミューゼルか……帰ってたのか」
「ばっか。今客が来てんだろ?だったらダリルの方使えっての」
「そこら辺は多分……あ、いや。更識の方達が来てらっしゃるので不味いですね」
「げぇ……メチャメチャ不味いな」
「あんな奴敵ではないんだがな」
「会社的に不味いんですよ。幾ら楯無さんに勝ったとはいえ、正体がバレれば不味いのは確かです」
「それより生徒会長に勝ったのか……やっぱバハムートは性能がエグいもんだなぁ。破壊力が既に現存兵器超えてると思うぜ?」
「拳の直径30cmで【モンハナシャコ】のシステムを応用してる時点でおかしいですからね……作った本人が言うのもなんですが」
「残念だか拳は使ってない。放電と超高圧噴射、触手を使っただけだ」
そうこうしている内にモニタールーム前に到着する3人。
「ダリルさんも良ければどうです?」
「俺?つっても生徒会長がよぉ……」
「そこら辺は誤魔化すので大丈夫ですよ」
〔───α1【フェンリル】の確認
生体認証システムに異常なし
現在主任、社長、その他6名がいらっしゃいます〕
「おいアナウンス」
ダリルがアナウンスにツッコミを入れるが、相手は機械なので通じはしない。入室してくる3人を見やる者は、それぞれ違う反応を見せるが唐木夫妻の元へと向かいドーム内を見る。
「ふむ……【アルミラージ】と簪さんの【打鉄弍式】ですか。機動性を重視させた機体同士の対決といった形ですね」
「ほぉ〜……意外と接戦なんだな」
「アルミラージの動きに慣れていないな。αに搭乗するならば、獣に成り下がるしか無いのだが……」
「獣に
ドーム内のアルミラージは【ホーン】の展開による刺突と打撃を主に逃げ回る戦術を得意とする機体、そして急停止してその場で固まる最強防御状態【フリーズ】を織り交ぜた戦法を駆使すれば異常なまでの強さに至る。
今のラウラの戦い方はニードルの遠距離攻撃を利用した戦法。先日の最適化の際に多少動かした位であり、そもそもの動きがぎこちない。しかし相手の避けられない攻撃の際にはフリーズをして完全防御し、油断した所をホーンで貫こうとする動きもあるので微々たるものだが慣れている様子もある。
「……後で教えますか」
「私との対決はどうした?」
「瞬殺して終わらせます」
「言ったな?そう簡単に負けんぞ」
「同じ形態同士なら貴女なんて5秒で終わりますよ、5秒」
「フェンリルの装甲の薄さは知っている。封じ込めて殴らせてもらう」
「お前らなぁ…………」
多少戦闘狂という性格が似ている様だ。一方のアルミラージと簪の方では拮抗状態が続いたままであり、SEはラウラが不利。幾らフリーズの能力が強すぎるといっても、機敏な動きにさせる為にSEの消費量が多少多くなるのは致し方ない。
しかしそんなSEの消費量を物ともしない様な猛攻を続けているのもラウラである。
そうして時間が経ち、SEの量で試合が決定する。結果は機転を利かせたアルミラージの防御仕様の【ニードル】で終了した。
「さて、メンテ終わったら一旦帰らせますか」
「バハムート、準備するぞ」
Mの周りをグルグルと周回し了承のサインを出すバハムート。Mと勇はそれぞれのISを自立稼動状態にさせながらピットに向かっていった。
試合の結果は勇の勝利。……であるが拮抗して勝ったという形になった。5秒で終わらせる宣言は果たされなかった。
試合が始まる頃には既に全員帰らせており、残った清司と束、見に来ていたスコールとオータムの観戦となった。先に帰らせたのは既に夜が差し迫っていたというのがあったからだ。
そして試合を終えた勇は疲れに疲れたが、スコールが強制的に勇を外に出させて行った。その時の勇は死んだ魚の様な目をしており、その目で眠らせろと訴えていた。
そして強制的にスコールに連行されて数十分。居酒屋に到着していた。
「は〜い、お疲れ様〜」
「お疲れ様です」
カチンとグラスとグラスが当たる音が両者の中で響く。スコールが頼んだのは日本酒、勇が頼んだのはノンアルコールの梅酒ロック割と渋いチョイスである。
飲み物が喉を通る感覚を味わい、2人同時にグラスを置いて息を吐く。
「あー久々だわ〜。この喉が灼ける感覚ぅぅぅ!」
「飲み過ぎは程々にしといて下さいよ?毎度毎度運んで行くの疲れるんですから」
「え〜、良いじゃないの〜」
「ダメよ〜ダメd何言わせるんですか」
「もうちょっとノリ良くしよ〜」
早くも酔っ払ったスコールが勇を弄る。かなり前にあった光景なのだが、ここに来る常連客や店主からしてみれば久々に見ても違和感が無い。寧ろお得意様の2人として対応している。
「ほれ栞ちゃん、お通し」
「おー、ありがと〜ね〜」
「ぼっちゃんにも」
「ありがとうございます」
両者共に受け取り、割り箸を割ってお通しを食す。そして頼んだ飲み物を飲んでまたお通し。居酒屋に慣れ過ぎて一連の流れが完全に
一息つくとスコールと勇の会話が開始する。これがここに来た時の何時もの様子である。
「いんや〜……まさかノートでバレちゃったなんてねぇ……管理ずさん過ぎない?」
「忙しすぎた……っていう言い訳は辞めましょうか。確かに管理が甘かった。今度は生体認証のジュラルミンケースにでも入れておきます」
「どうせなら会社に置いてけば」
「それは無理です。あれ唯一の趣味なんですから」
「ぼっちゃん、趣味って何だい?」
「聞いてよてんちょ〜。この子全世界のIS代表候補生を視姦する趣味が」
「変な性癖を捏造しないでくれます!?」
「……ぼっちゃん。そりゃあ男だからな、異性の際どいトコ見たりすると興奮するもんな。分かるぜぇ」
「店長も変に乗らないでくれません!?分かってますよね!?」
「おう分かってらぁよ。ぼっちゃんも見かけによらず、男だって事がよ!」
「だー!違う!違います!そういう事じゃなくて!」
「もしかして……貴方ゲイ!?」
「変な核爆弾落とさないでくれますかぁぁあ!?」
「ぼっちゃん…………自分の事だかんよ、イチャモン付けちゃあいけねぇと思ってんだが……それは男としてどうかと」
「同性愛者のこの人が言ったことを真に受けないで下さい!」
「失礼ね!私のは百合というジャンルになるんでしょ!日本人は需要あるんでしょ!?」
「だったらゲイも日本じゃBLジャンルに入るんですよ!一部の人間に需要はあります!」
「貴方百合の需要を求めてる世界人口知ってるの!?」
「聞きたかありませんよ!」
これは酷い。主にそれに至るまでの内容が酷い。こんな調子でスコールと勇の漫才は始まっていく。最初はうるさいと感じるが、内容が内容であったり勇の反応を見ていく内に次第に笑いと化していく。おかげで店の雰囲気が明るくなっていく。
勇は自分のを飲みきったあと店長に同じ物をお代わりして話を続ける。
「大体
「レズレズっていうより百合々々っていうのよね!?何その造語!?店長お代わり!」
「はいよ」
「私が恋人と一緒に百合々々しようと良いじゃない!誰にも反応しない不能チ○コに言われたか無いわよ!」
「もうちょっと言葉選んでくださいよ!」
マジか……という客の声がしたと思いきや、そこから“もしかして……人間じゃ満足しないとか?”などと風評被害がそこかしこに飛び回る。そんな中、スコールが勇に勢いよく人差し指を向けて質問した。
「大体貴方!あんなハーレム紛いの女子率!しかも全員美人と来たわ!なのに何で誰にも反応しないのよ!色々とおかしいわよそのペ○ス!」
「言い方は考えましょう!?流石に貴方が○ンコとかペニ○とか言ったら色々と誤解されますよ!」
「ほい2人ともお待ち」
「「あ、どうも」」
2人とも飲み物を渡され、お互い自分のを飲む。カウンターテーブルに飲み物の入ったグラス置き、話が再開する。
「ってかハーレム羨ましいわよ畜生!私だって百合ハーレム作りたいわよ!」
「何ちゅう願望を赤裸々告白してるんですか貴女!?」
「こうなりゃ……貴方に惚れてる女子や女性研究員を片っ端から襲いまくって……!」
「させませんよ!そんなこと!」
「というか貴方!貴方に惚れてる人が色々と規格外過ぎるわよ!ハーレム要員に篠ノ之博士が居るって恵まれてるわよ!そんなの!」
「僕にとっては何処をどう見れば恵まれてるのか分かりませんけどねぇ!前に抱きつかれて窒息死しかけましたからね!?」
「そんなの唯のウラヤマよ!」
「だったら頼めば良いでしょう!」
こんな品性の欠片なんて微塵も無い会話から、漸くマトモな内容に移っていく2人の会話。話は恋愛方面に向かっていく事となった。
「というより勇、何でアンタは気付かないのかしら?あの子達の好意を」
「流石にそこまで鈍感じゃありませんよ。一夏君よりマシです」
「じゃあ何でそこまで奥手なのかしら?貴方が一言言えば即了承するわよ絶対」
勇は横目の渋った顔でスコールを暫く見ると、溜め息をついて頭を掻く。その質問をした時だけ勇の声のトーンが少しだけ下がった。
「
「……貴方、自己評価低いわねぇ」
「だってそうでしょう?こんな
自分で自分を
またこれか、とスコールは思った。勇の考え方は青年特有の考え方というより、会社や自身にとって利益が出るか出ないかという考え。利益の為ならばあらゆる智略を尽くし会社や世界に貢献していく。
「愛に利益もクソッタレも無いわよ
ただ好きだから、一緒に居たいと思えるから
そんなんで充分よ」
「……そんなものなんですかね?」
「そんなものよ。というより勇、貴方は利益云々より感情的に行動するでしょうに」
「ッ……」
「貴方は何時も利益利益と……でも貴方の考えって利益だけ考えてたら絶対思いつかないわよ。
勇は目を細めて指摘された点に体がビクリと震えた。確かに今までの案件を第3者が見たとしても、利益云々というより誰かの為に考えて行動したとしか思えない事ばかりである。
しかし勇とて言い分位はある。それだけは物申したい。
「……後々の事を考えて、です。人の信頼はビジネスにも必須と言えますし」
「じゃあ聞くけど、あの時社長様に泣きついてたのは何処の誰かしら?」
「…………」
「ごめんなさい、ごめんなさいって嗚咽して謝ってたのは誰かs」
「あーもう分かりました!負けです!僕の負け」
両手を挙げて降参の意を見せた後、勇は自分の飲み物を口にして溜め息をつく。
「確かに利益云々より、心を優先させました。こんな化け物になっても家族だけは守りたいのは変わらないんですよ」
「守りたい……ねぇ」
「もう僕は人ではない。だったらこの身を削っても潰されかけた未来を守りたいってだけです。
せめて、自分と同じ未来を辿らせたくは無いので」
勇は立ち上がり、先に全部の会計を済ませて店を出て行く。そんな様子を黙って見ていたスコールは、疲れた様な表情をしていた。
───…………むふっ、うへへへへへへ。
───束様…………?気持ち悪いです。
───酷いっ!……ってまぁそんな事よりもクーちゃん!
───はい?
───…………ユウ君をどうやったら振り向かせられるのかな?
───……えっ?
───やっぱり強引に行くべきか……?うん、そっちの方が確率的に有りうる。
───あの、1人で話進めないで下さい。
───でもあれだよね?許嫁居るよね……重婚か。合法的に重婚が樹立されれば言いんだよね?
───束様?
───政府には借りが幾つもあるし、これなら……!
───無視ですかそうですか。
次回『ナツノキセキ』