「夏と言えば!」
「「「「海!ビーチ!水着!男!」」」」
「おっと、手が滑った」
「「「「ギャフンッ!」」」」
「に、賑やかだね……あははは」
「…………勇ぃ」
「ラウラさん、私達の中では禁句n……あぁ…………」
「し、仕方ないよ!だってほら、まだ色んな仕事が勇には残ってるんだし!」
「「本音は?」」
「一緒に行きたかった……って2人とも!」
「呼んだ〜?」
「本音さんじゃなくてね!」
臨海学校当日のバス。男子が一夏のみのバス内で各々が反応していた。ある者は海を見て子どもの様にはしゃぎ、ある者はバスで酔ってダウンしてる者も居る。一夏は隣の箒と他愛ない雑談を交わし、
勇が来ていない理由。それこそまだ色々と尽力しなければならない機関や政治機構などが残っているのだ。加え各国が代表候補生を仕掛けてαタイプの譲渡を図ろうとしたりと、まだまだ安息の一時さえ訪れなさそうな現実を過ごしているからだ。
そんな現状に3人は溜め息をつく。ラウラはアルミラージを自立稼動状態にさせて抱き抱えているが、アルミラージ自体はジタバタと暴れている。1度拘束から逃れたが、首根っこを掴まれて捕えられておりアルミラージは脱走を繰り返す。
そんなアルミラージも海が見えてきた見えてきた所で疲れ果てたのか大人しくラウラに捕まっている。ロック鳥も自立稼動状態になってシャルロットの膝上で大人しく待機しており、シャルロットは時たまロック鳥の頭を撫でる。
そうして到着する今回の宿泊先にバスからぞろぞろと降りてくる生徒達。
『キューイ』
『ヴー』
「ロック鳥、どうしたの?」
「アルミラージ?」
ロック鳥とアルミラージの目からそれぞれホログラム画面が出現すると、その画面の向こう側に勇が映る。
〔シャルロットさん、ラウラさん〕
「勇!?あれ、仕事は?」
〔あぁ。そちらの件でしたら一応一段落……ですね。はい〕
「一応?」
〔その件は織斑先生も混じえてお願いします。どちらか1人で良いので織斑先生にこの画面を見s〕
「軍属を嘗めるなシャルロット!」
「残念!こっちはロック鳥だけを!」
「しまっ!アルミラージ行け!」
『ヴー…………』
『キューイ…………』
〔あのー、もしもーし?〕
何か競い合っていた様子であったが、そこを下手に突っ込むのは些かどうかと感じ勇はロック鳥にアルミラージを連れて外に行くように指示。呆れた様子の2機は勇の指示を聞いて千冬の元に向かいホログラムを見せる。
「……で、無断外出していた言い訳を聞こうか」
〔……言いたい事は色々ありますが、詳細を言わずに外出してしまい申し訳ありません。反省文何十枚ですか?〕
「…………今回は結構だ。明石重工の社長が先に手配していたのもある。だが事件もあって、尚且つお前にも色々とあった。先程の発言は撤回させてもらいたいが……構わんか?」
〔……今の貴女と僕の関係は生徒と教師、そこは普通に“撤回させてもらう”で構いませんよ。一応事実ですから〕
「で、話とは?」
〔社長命令で休んでこいと言われたので、僕も臨海学校に合流するとだけ。念の為護衛を連れています。僕もそろそろ目的地に着くと思いますので〕
「了解した」
勇は一礼してホログラムを切ると、同じくホログラムを切ったロック鳥とアルミラージが2人の元へと帰っていく。2人は自分達が何をしていたのかと思うと互いに謝罪した。
少し戻そう。今回臨海学校で世話になる【花月荘】に1年は全員集まり挨拶を行う。そこの女将はもう1人の男性
「おー!海だー!」
「海か……」
「綺麗ですよ、お父様」
「…………何でこうなった?」
リムジンの中で項垂れ疲れた様子で居た。勇の立場が立場なので護衛としてMだけを連れてきた筈なのだが、何故か先にリムジンの中に束とクロエが乗り込んでいた。そして運転手の格好をしたスコールが運転席に乗り込んでいた。
そして降りる気はサラサラ無いらしく時間も時間だったので面倒になりつつも、そのままリムジンで目的地へと向かう事になった。
「まぁ今日は束さんも、箒ちゃんに渡したい物があるんだよね〜」
「……M、クロエさん。ここまで聞いて嫌な予感がしたなら挙手を」
「はい」
「同じく」
「ちょ、クーちゃん!マドっち!」
「幾ら篠ノ之博士とはいえ……私の事を渾名で呼ぶなぁ!」
「きゃー!マドっちが怒ったー!」
「ちょ!2人とも暴れないでくd」
「“放電”!」
「あばばばばばばッ!」
Mもといマドカが束に接近し腕を掴むとマドカの体から電気が発せられ、その電気は束に伝わる。しかし電気は微量ながら外にも放出されており、勇とクロエの体が電気に当てられてピリピリと痺れている。
不機嫌そうにマドカは放電を止めて元の席に戻る。
「くそっ……!あともう0.5秒欲しかった…………!」
「貴女ねぇ……僕の【凍結】ならまだしも、“放電”は自分の体に影響が出やすいのですから少しは自重を」
「……ッたはぁ!あーヤバかった、さっきお花畑見えてたし」
「ちょっとぉ!?」
「ほら、そろそろ目的地に着くわよ」
スコールの掛け声で少しばかり整えて落ち着かせる勇とマドカ。クロエは何時も通り生真面目に、束も何時も通りにお気楽思考のまま。リムジンが停まると先にマドカがドアを開けて外に出て、次にクロエ、束、そして勇という順に出る。
マドカが扉を閉めて運転席に居るスコールに一言だけ言うと、リムジンは明石重工に向けて帰って行った。自分の荷物を持っている4人は花月荘に向けて足を運ぶ。
玄関前に到着した4人は扉を開けて中に入る。
「ごめんくださ〜い!」
「こういうのは……とっとと行くモンだよ!ユウ君!」
「ちょ!束さん待っ…………あっ……」
勇は言葉を失った。それもその筈、何故か素早く束の顔面をアイアンクローで掴んでいる千冬がそこに居たからだ。そしてその表情は何処かしら“鬼”という一言だけで言い表せる様な表情とオーラであったのだ。
「……尾崎、これは一体全体どういう事なんだ?説明してくれるか?」
「束さんが用事とか言って勝手に付いてきました、以上ですのでお好きにどうぞ」
「ちょッ!ちーちゃん落ち着いて!?ユウ君、後で砂浜であそb」
「黙れ」
「ぎぃやああああああぁぁぁぁ!」
結局の所、束は千冬に捕まり制裁を加えられ気絶。やって来た女将に話をつけて部屋に向かうのであった。
向かう途中に千冬がマドカの事を尋ねたが、他人の空似で誤魔化していた。
さて話は突然変わるが、勇が露出を控えるのには一応訳がある。といっても大した事ではない、ただ過去に胴体が色々と傷が付いてしまっただけである。
誰も居ない男子用の着替え場所で上半身の服を脱ぐ勇の胴体には何処で付けたのか分からない火傷の様な痕が幾つもあるだけである。
それらを見られたくないという勇の考えから、態々全身タイプの物を買ったのだ。小・中学ともに全身に着るタイプで水泳の授業を行っていた程である。
黒一色の全身タイプを着た勇は着替え場所から出ると、久しく見た海の色をマジマジと見つめていた。
「…………海って、こんな綺麗だったっけ?」
「少なくとも、私が見てきた中では綺麗だな」
足音と声が聞こえた方を見ると、黒のパレオを着用しているマドカが勇の後ろに居た。少し面倒な様子であったが、後ろから来た束の抱擁によって青筋を立てる。
「いやー!やっぱ綺麗だねー!……ってユウ君?何で全身に着てるのさ?」
「多分露出を控えたいからでしょうか?」
「正解ですよ、クロエさん」
誰もが羨む体型の束はピンクのホルスターネックタイプの物を着用、クロエは青い花柄のタンクトップビキニを着用している。
「というかMは良いとして、何で御2人まで水着着てるんですか?束さんは渡すもの渡して帰って下さい」
「物凄く辛辣!……あ、言葉責めもちょっと良いかも」
「……さて、発情兎はほっといて海に行きましょうか。M、バハムートと泳いでも構いませんよ」
「む……だが護衛の意味が無いのだが…………」
「だからと言って、ここまで来たのに海に入らないってのも勿体ないと思いますよ?どうせなら貴女は少し遊んでも罰なんて当たりはしませんよ」
「それだと忙しいお父様も、私達と遊ぶのですか?」
「別に遊びに来た訳では」
勇がそう言った途端、束にガシッと左腕を捕えられにこやかに言った。
「さぁ、遊ぶよ?」
「……あっ、はい」
何故か後ろに赤黒いオーラが見えていた様な気になっていた。そしてそれに従わざるを得ないと本能的に感じ取った勇であった。
辺りを見渡すと全員IS学園の生徒達ばかり。女子率が9割以上のこの学園では、全員抜群のプロポーションの持ち主ばかりと言える。
が、今回は2人だけの男子が居る為か多少なりとも水着を慎重に選んでいた様子である。そんな2人は露知らず、1人は入念な準備体操を行った後に海に入ろうとしている。
一方勇の方はというと…………
「……眩しいです」
「何が何が!?束さんの水着!?」
「貴女は勝手に海で泳いできなさい」
「太陽が眩しいのなら……どうぞ」
「ん、あぁ。ありがとうございます」
クロエから手渡されたサングラスを掛けて見やすくさせる。地下暮らしだと陽の光が入ってこない事もあり、太陽の眩しさは他の人間の比では無いのだ。夜行性の動物が太陽光に照らされると色々と支障が出る様な感じである。
しかしサングラスを掛けて砂浜に踏み入れると周りから見られ色々と言われるのは確かである。これならサーフボードでも持ってた方が似合ってると謂わんばかりに。勇本人は乗った事が無いが。
そしてバハムートと海に入ったマドカは、バハムートに掴まって高速遊泳を満喫していた。バハムート製作時に水中での高速移動を考え【バショウカジキ】を参考にした為か、手加減状態でもかなりの速度であった。
「い…………勇さん?」
「……セシリアさん?どうかされましたか?」
「い、いえ……というより何故、篠ノ之博士が此方に……?」
「ユウ君と遊びに「はーい遊んでいきなさーい!」うぉぅ!?」
勇は左腕に掴まっている束を海に向かって放り投げて拘束を解除、クロエにも束と遊んでこいと一言告げてセシリアに向かう。
「失礼、少々取り乱してしまいました」
「い、いえ!私は別に……。と、所でですが勇さん。それは……?」
「……地下で何日も仕事をやっていると、目が暗闇に慣れ過ぎて逆に」
「な、成程……」
「あ、勇ー!」
今度は聞き慣れた声と砂浜特有の足音が
「シャルロットさんですか。それと……」
「あぁ……うん。これね」
タオルに
「ラウラさん、何故その様な状態で?」
「み、水着を着るのは……初めてなんだ…………!」
「恥ずかしくて出られないってさ」
「あぁ…………成程」
唐突に勇はその場にしゃがんでタオルに包まれているラウラを頭部から触り始める。
「ひゅ!?」
「ちょ!?勇なにしてんの!?」
「あぁ、ご心配無く。ちょっと…………あ、ここか」
勇は側頭部辺りの場所に触れると顔を近付けて何かを呟く。最初は少しだけビクリと体を震わせて離れようとしたが、勇はもう片方の手でラウラの動きを止めて続けて呟く。
次第にラウラの抵抗も無くなり、頷く素振りを何度も見せる。それが終わると勇は顔を離れさせてラウラの被っているタオルを下から持ち上げて姿を出していく。
因みにだが、ラウラはレースがふんだんにあしらわれた黒の水着を。シャルロットは黄色のビキニを、セシリアは青のパレオを着用している。場違いなのは勇の着ている全身黒の物だけ。
「うん、とてもお綺麗ですよ。ラウラさん」
「う、うむ…………そうか……そうか……」
ラウラは姿を褒められて嬉しそうに微笑む。勇も勇で優しげな笑みを浮かべている。しかしその雰囲気にセシリアとシャルロットの2人は不服そうである。
「あ、あの……勇さん」
「はい?」
「で、出来ればなのですが……サンオイルを塗っていただけませんか?」
「僕……ですか?」
「はい!」
セシリアのお願いを聞いて少し思案していく勇だが、何を思ったのか承諾した。嬉しそうなセシリアだが、今度はシャルロットとラウラが2人を羨むような視線で見ていた。
この夏はチャンスだ。そう言えるだろう時に、勇は夜に1人で星空を眺めている最中であった。しかし10年ぶりの海を1人眺めていた時、勇に変化が訪れた。
次回『カゲロウトナリテ』