人が人格を成すにあたって、最も影響力があるものとは何であろうか。普通は洗脳や過去の記憶であり、経験である。そしてそれよりも影響力があるのは、過去の経験や記憶に刻まれた
恐怖は人の深層心理に深く結びつき、恐怖体験によって人は自ずと行動の制限が施される。しかし恐怖によって自身の安全は自主的に守られ、死へのリスクが免れるのもまた事実である。
その恐怖が無ければ怖い思いをしない……という考えは、恐怖を知らないことの危険性を知らない大馬鹿者と言える。実際に恐怖心の無い人間は、何が自分の殺し、何が自分を生かすのかが判断出来ない。他人が危険な事だと言えば、その通り危険だと漸く認識できる程度なのだ。
恐怖とは生きていく上で必要不可欠な感情であり、
「
「い゛だい゛よ゛ぉ゛!お゛があ゛ざぁ゛ん゛!」
「じに゛だぐな゛ぢよ゛ぉ゛!だれ゛がぁ゛!だれ゛がぁ゛!」
「もぉ"い"やぁ"!や゛め゛でぇ!い゛ぎだぐな゛ぃ゛よ゛ぉ゛お゛!」
「き、きょうかん…………おねがいです……おねがいです……みすてないで
「!いさみ!いさ……み…………?」
「なん……で?」
「うそ、だよな?……いさみが、ころすわけッ!?あぐっ!がぁ……」
「おとう……さま…………、おかあ……さま…………」
「なぜ……ひとを…………ヒッ!」
「いや……いやぁ!だれか、たすけて!ここからだして!しにたくない!ころされたくなぁい!」
「いぎゃ゛ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
「ねぇ…………ゆめならさめて……」
「おと、う さ
「ッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
「…………ア゙ッ……ァッ……」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!い゛っぐん゛!い゛っぐん゛!」
「!や"め"ろ"ォオ゛オ゛オ゛オ゛!ぢーぢゃ゛ん゛を゛はな゛ぜェエエエエ!」
「あっ…………あぁ………………あア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
「げひゃハハハハハハ!良いBGMじゃないか!えぇ!?」
「『やっかましいッ!』」
「おっと危ない」
ヒラリとバハムートの拳を避ける、避ける。バハムートも敢えて触手で牽制し、威力を最大限に、速度も最高速度にしてから拳を放っているものの何故か掠りもしない。
電撃も範囲外に逃れて効果は無く、高水圧砲でもヒラリと避けられ無意味に終わる始末。挙句の果てに、相手が
そんな事から、
そんな不可思議な現象を目の当たりにし、混乱しているが考える暇さえ相手は与えてくれない。敢えてバハムートは海の方に行き、ある意味自分のテリトリーに入ると大鎌を持った
「良いだろぉ?この泣き喚く
「『……下衆が。反吐が出るわ、そんなモン。それにわっちには何も効いとらん』」
「そこなんだよねぇ……アンタ、トラウマを感じちゃあいないんだよ」
「『
「んまぁ、これ以外なら多少効き目はあるみたいだしぃ?どーでも良いけどよォ!」
大鎌を持った女将が、勇の元へと向かう。
「『ッ!……すまんッ!』」
バハムートがフェンリル着用状態の勇を本気で殴りつける。ずっと立ち続けていた勇のフェンリルを一瞬にして絶対防御発動にまで追い込ませ、威力も相まって勇の体は吹っ飛び砂浜を転がる。
「へぇ……アンタも大概無茶苦茶だねぇ」
「『少なくとも、貴様に殺られるよりかはマシじゃろうて』」
「んだけど………………
逆にピンチよねぇ!?」
バハムートが勇を守る様に先回りし、迫り来る女の大鎌を触手と左手で止める。そこでマドカは疑問に思った。
「『…………幾つか聞くぞ』」
「あぁん?」
「『貴様、
「何を……使った…………?」
「『辻褄が合わんのじゃよ。さっき貴様は、わっちの攻撃を幾度と無く交わし続けおった。
それはわっちと貴様のスピードの違いかと思ったが、それは外れおった。でなければ、
それを踏まえて聞こう、
「んなもん自分で考えな!」
「『そうかい!』」
女の左拳がバハムートに迫る。敢えてそれを受けたバハムートは一瞬にして電撃を放つが、得物である大鎌を捨ててバックステップで避ける。バハムートは大鎌を捨て去り、ボクシングの構えを取る。
━━━本来の速度であれば、わっちが速い。しかしそれならば、わっちの後ろに居た事の辻褄が合わん。
━━━……そういえば、彼奴は先程
━━━待て…………【
━━━なぜそこで悪夢が出てくる?悪夢……
━━━
「来ないならこっちから行くわよぉ!」
「『【幻覚】…………』」
「!へぇ…………」
女はバハムートに向かう足を止め、マドカの推測の域を出ない推論を聞き続ける。
「『なるほど、これなら説明が着く。あの移動も、攻撃も全て
そりゃそうじゃ、
恐らく勇の場合は“家族”に対する後悔の念。それを利用した幻覚というわけか』」
「ヒェハハハハハハ!正解、正解、大正解!」
大笑いして拍手をする女。マドカの推論は当たっていた様だ。マドカの表情が一層険しくなり、すぐにでも攻撃が出来る準備をしている。そして女は当てられた事で隠す必要性が無いと感じたのか、全てを話した。
「私の【幻術】はねぇ!人の恐怖心に付け込んで
「『そうして廃人にさせるか。厄介極まりない、故に強い……そしてこれも推論だが、貴様
「ッ!やるわねぇ……そうよ。【幻術】も私のIS『シィクル・リーパー』の単一能力、ISと同化している私が使える優れものってワケさ」
「『なら話は早い』」
「んぁ?」
バハムートが突如、上を向く。何をするのか分からない女は、投げられた大鎌を取りに行く。
「『クロニクル!【黒鍵】を使えぇえ!』」
開放回線で、しかも大声で叫んだマドカ。その願いが届いたのかは知らないが、阿鼻叫喚の声に包まれていた花月荘から声が途絶えた。
「なにっ!?」
「『余所見をするなッ!』」
バハムートを1回りさせて触手でのスイングを叩き込む。それをモロにくらった女は、砂浜に足を引っ掛け跡を作りながら威力を減少させていく。漸く波打ち際の所で止まったが、表情は優れないまま。
バハムートが悪びれる様子の無い声で女に言った。
「『悪いの。貴様と似たような奴をわっちは知っておるのでな。それに、生体同期に似たシステムもバハムートには搭載されておるのじゃよ』」
「なんだと!?」
そんな事を話していると、突然女の目の前に現れた巨大な角を持つ兎に突進される。大鎌で角を防ぐが、上から月明かりに照らされた影が2つ映し出される。
「しぃッ!」「ふっ!」
「チィッ!まさかガキ共が!」
「『行くよ!篠ノ之さん!鈴!』」
「応!」「オッケー!」
「なにっ!?」
後ろを振り向けば、既に翼と2振りの剣が迫って来ていた。振るわれる剣とぶつかる翼が女にダメージを初めて与えた。
「ぐぎゃあ!」
「ナイス箒!鈴!シャルロット!」
巨大な鳥は上空に飛んでおり、その左翼側に
吹っ飛ばされた女は先程の攻撃で血反吐を吐きながら、険悪な視線と表情で集まった者を見た。
「クソガキ共がァ……!調子に乗りやがってェ!」
「『今まで散々苦しめられたからな、その代金だとでも思え!』」
「『最悪だったよ。お父さんとお母さん、挙句の果てに学園の皆の幻覚を見せてきて!銃で撃たれた分の倍以上の利子付きで返してあげる!』」
「最悪の目覚めですわ!起こした張本人には罰を与えなければなりませんわよ!」
「俺だって我慢できねぇ!皆を苦しめたお前が!」
「アタシは今すぐにでもアンタを殺したいわよ!オバサン!」
「貴様だけは赦さん!地獄に叩き落としてやろう!」
「調子にノるんじゃねぇえええ!」
また再度右手を砂浜に着けて赤黒く暗い空間を展開しようとするが、形成途中でその空間がガラスのように割れながら消えていく。
「今度はなんだ!?」
「私の【黒鍵】の効果ですが?」
バハムートの居る方向、その後ろから股を通って出てきたクロエ。そうして知る事になる。このあとトンデモなく恐ろしい目に遭うことを。
「まさか……お前が私と似た…………」
「【ワールド・パージ】精確には異なりますが、貴女が持つ幻術と似た限りのものです」
「能力の相殺……!」
「『これでは手も足もでんのぉ、ババア』」
そう、絶体絶命のピンチに立たされたのはIS学園の全員から一変して女になった。
αタイプIS3機と第三世代ISが3機、そして
「───────
いいや、違った。
「────
漸く化け物が目覚めた。
「赦さない!」
これでαが4機、立ち上がったのはフェンリルを装着していない勇であった。
「「「「「勇(さん)!」」」」」
「チッ。だがお前のSEはとっくに尽きている!もう手出し出来ねぇだろ!?」
「“生体リンクシステム”起動───」
「ッ!?」
勇の声と共にISが展開され、手動でISを装着していく勇。第2形態のフェンリルを装着した勇の両手から、冷気が発生しクローの形をとった。
それだけに留まらず、フェンリルの胸装甲や両腕脚にも氷が張り巡らされる。そしてフェンリルの目が
彼の真骨頂は、ここから再始動する。
次回『地獄歌:序曲 第3節』