「なんだ……その姿は…………
なぜ立っていられる?なぜISが展開できる?
なぜ動ける!?なぜシステムが機能している!?
目が赤く光っている。両手には氷で作られたクロー、全身には氷で出来た防具一式が装備されているフェンリル第2形態。化け物としての由縁、力を得た形態。2mもの大きさの人狼がそこには居た。
フェンリルの単一能力【凍結】。単一能力の発動には幾つかの条件があるが、得ることが出来れば絶大な力を持つ事が出来る。しかしフラグメントマップの成長性などで単一能力を持つISは数が少ない。
フラグメントマップを構築するには、異常なまでの稼働時間による形成や膨大な戦闘データを組み込ませなければならない。他に方法があるとすれば、ISとの相性なのだろう。
彼の持つ単一能力は膨大な時間、それも6年間に渡って培われたフラグメントマップに加えてフェンリルとの相性があったからだとも言われる。が、単一能力の性質は
フィンブルの冬をご存知だろうか。3つの冬が何百年単位で続いた神話上の現象だが、漸く収まった頃にラグナロクが始まったのだ。ある意味、世界が変わる為の
つまりは、あの女尊男卑の前時代を
結果、勇がラグナロクと呼んでいた時代革命は発生した。新たなISを製作し、新たなコアを製作し、新たな時代を製作し、世界を変えた。
勇は運命に
「『…………』」
「ッ…………!何とか言ったらどうだい!?」
女は生身の状態から一変し『シィクル・リーパー』を展開する。紫の外装が月の光で照らされるが、装甲には解読不能の文字が羅列している。
が、そんな事は彼には眼中にすらない。今はただ噛み合わせが悪くなった
氷の爪で切り裂こうとしていた。
「ッ!?くそっ!」
間一髪、迫り来る氷の爪に合わせて左へと避ける。女が勇の右手を見ると、そこには巨大な氷の爪が。普通の人間であれば、あの大きさの氷なぞ持てるワケが無い。
しかし意図も容易く
「『…………家族が』」
「ぁん?」
突如口を開いた勇は、続けて言い放っていく。
「『家族が見えました。貴女の幻術で
一時でも、幸せだと思えたのは正直言えば
漸く、会えたから……とても嬉しかった』」
「そうかい。んじゃあもっかい見りゃ」
「けど」
女の言葉を遮る勇。失くした家族というものに、大切な存在に漸くこの目で会えたのだから。例え幻覚であろうと、この世に存在していないのだとしても、勇にとっては嬉しいことこの上なかった。
しかし、それを否定する様に言葉を連ねていく。
「『急に物凄い衝撃が来て、飛ばされてから、僕の目は覚めてました。
これが幻だって。これは一夜の夢だって。
そして最悪な悲鳴の合唱が、耳に入った時
勇が吼える。女に向かって吼える。その雄叫びは
「ぐっ!?」
音は鎌の刃を伝わり、振動し、形を不安定にさせる。吼えれば女は耳を塞ぐが、勇は吠えるのを止めると尻尾を回転の勢いで振って
「!?」
多少掠りはするものの、上空へと逃れてミサイルを避けていく女。しかし、勇は
「お前ェ!もうSEはとっくに尽きている筈だぁ!現に絶対防御を発動させていた!なぜ立ち上がる!?」
「『【生体リンクシステム】──そいつで
「なっ!?」
「『序でに教えてやる。俺とM以外の奴等のαには、この生体リンクシステムの劣化版を搭載してんだよ。あの巨体を操るには僅かなタイムラグでも隙が生まれるし、そもそも動きが遅くなる。
劣化版は操縦者の電気信号の読み取りをαに対応させただけのシステムだ。
だが俺らは違う。俺の生体リンクシステムは謂わば“プロトタイプ”さ。そのプロトタイプも電気信号の読み取り効率を良くはさせた。
だが欠点としては、絶対防御は発動しないとか。
普通のISの動きをすると
代わりに利点もあるぜ。先ずは操縦者がISの単一能力を使用出来る点、次にSEが無くなっても稼働できる点。
テメエみてぇな輩に一泡吹かせられる点もなぁ!』」
「がぎゃっ!?」
「
その速度で連続に爪を振るい続ける勇。しかしダメージ自体は殆どない。フェンリルの凍結は発動する際、ダメージを与えない代わりに
話は変わるが、人間の体内でも化学反応というのは起きている。遺伝子の形成や、細胞の形成までも。それらにもエネルギーは発動しているのだが、ここで体内の化学反応を起こす自由エネルギーを凍結した場合どうなるだろうか。
右の爪で女の自由エネルギーを凍結する。するとどうだろうか。
相手は驚くが、そんな表情を出すことさえ出来ない。細胞を形成する際のエネルギーを凍結すると、一瞬にして体の
即座に左の爪で昇華させる。
今まで止まっていた感覚や電気信号が急に脳に伝われば
脳も働いてなかった状態から、急激に働かせたら
一瞬にして細胞の動きを止め、それを急に動かしたら
一体どうなるのだろう。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ガァガガガ!?」
女が突然苦しみ始める。
頭が本当に割れそうな程痛い。細胞が急速に形成して至る部位が肥大化していく。内部の肉や皮膚が膨張し過ぎて、ISが邪魔になっていく。
内部から爆発しそうなほど女の体は膨れ上がるが、勇が右の爪を振るうと止まる。しかし感覚だけは暴走しており体中が痛みに襲われる。
勇は女に近付き、口を開く。
「『誰の差し金で来やがった?口だけは動かせるだろぉがよ。お?』」
「ひゃ……ひゃれカ…………ひふカひょ…………」
「『…………そうかいそうかい。んじゃあ最後に言い残す事は?』」
「へひる……ひほりぁ…………!」
「『ッ!?お前まさか!』」
突如、女の体から
次の敵は、最もヤバいものだと。
「諸君、ちょっとした悲報だ。
我らが同士『グゥエル・ブリッツ』少尉が負けた。
何とまぁ哀しきことかな。自らの体を単なる肉塊へと変えられ、生き地獄を味わされる羽目になってしまった様だ。
単なる肉塊になってしまえば、そこには人の影も形も無くなってしまう。非常に残念だ。
折角ヴァルハラへの片道切符を用意していたのだが、1人余ってしまったようだ。
だが諸君、『グゥエル・ブリッツ』少尉は重要任務を達成してくれた。
例えヴァルハラへ行けずとも、我々の魂は輪廻を経てヴァルハラへと再び目指すだろう。
ならば我々は、先にヴァルハラで待とうでは無いか。『グゥエル・ブリッツ』少尉のことを。
さて諸君、お次は良い知らせだ。
君達が待ち望んだ戦火の灯火が、遂に現れることになるぞ。
その火種役に、『ガルベラ兄弟』がなってくれるそうだ。素晴らしいと思わんかね?
次の戦いの為に、自ら進んで火種となり、後続の我々に戦火の業火という役を譲ってくれたのだ。全員、この場に居ない『ガルベラ兄弟』に敬意を表して
そして待ちに望んだ戦火が、遂に我々のこの目でもう一度見ることが出来るのだよ!
とてもとても楽しみじゃぁないか。とてもとても素晴らしいじゃぁないか。とてもとても喜ばしいことじゃぁないか。
嘗てあの御方は自らの支配を築く為に、多民族の虐殺を行った。
だが諸君は、そんな事に囚われない猛者達だ。
ただ単に血で血を洗い流し、成れ果てた肉塊を街頭上に吊し上げ、自分も成れ果てるのだろう?
我々はそんな猛者達だ。ISなんていう、あんなガラクタに執着している輩より強いだろう?
あんなガラクタより、自らが優れていると思わんかね?何、思う?それなら結構だ。
良いか、諸君。我々は後にも引かないし前にも進まない。今この時、この瞬間に、闘争の場へと身を降ろしたいのだろう?
そう自ら決めたのだ。そう自ら望んだのだ。
ならば諸君らを、私が連れて行こう。
戦火へと成り果てる場所へと」
次回『地獄歌:序曲 終節』