朝、会社地下の自室で寝ていた勇は上半身を起こす。寝ぼけ目で寝癖もあり、普段の勇ならばすぐに朝の支度をするだろう。が、今回ばかりは少しだけ違っていた。
まず、勇のベッドがシングルからダブルへと変化している。何時もはシングルで充分の勇なのだがダブルになっている。その理由は隣で寝ている束にあったりする。
「
幸せそうな寝顔で寝言を言う束だが、その表情を見ても勇は疲れた様な溜息を吐くしか無かった。それもそのはず、何故か2人とも一糸まとわぬ姿となっている。
束を起こさない様に勇はベッドから出て脱ぎ捨てられたパジャマを持ってファ○リーズを部屋にくまなく散布していく。それが終わると本棚に向かい4段目にある青い本を引っ張ると本棚が右に移動し、別の通路が現れる。
この通路は前回、倉持技研の社員をドームスペースに誘導する為に使った通路である。その通路は途中丁字路があるのだが、左に曲がればドームスペースに辿り着く。今回は真っ直ぐ進んでいく勇。
真っ直ぐ進むとスライド式の扉があり、その扉を開くと中は洗面所であった。その部屋にある籠にパジャマを入れると、もう一方のスライド式の扉で仕切られた浴室に入る。
そこで昨夜の汗などを流して気分転換をしていると、通路と洗面所を仕切っている扉が開閉し今度は洗面所と浴室が仕切られた扉が開閉される。
「…………おはようございます、束さん」
「おっはよ〜、ユウ君」
「……何故ここに?」
「そりゃ汗を流しに。あの時疲れて2人とも眠っちゃったしさ…………それに一緒に洗えば効率的で良いでしょ?」
「………………本音は?」
「襲いに来た!」
「この万年発情兎!」
このあと何やかんや一悶着あったが、前回も今回も束が主導権を握ったあと勇が主導権を得ていたそうな。
そして暫くして勇と束はクロエを釣れて3人で一旦外に出ていく。因みにこの地下にも他に地上へと続く道はあり、 会社から出ていくのが面倒な時はここから出ていくのだ。要件がある際は会社に一旦向かい社長室へと向かうのが普通であった。
出てみれば会社の地下駐車場に繋がっており、そこから3人は会社の非常口を使用して外に出ていく。勇は本来ならば期末テストの準備の為に色々としなければならないが事件が起きて緊急会議がIS学園で行われている為、代休となった。そうだとしても普段通りやれば問題ないだろう。
珍しく休みになったという事もあって、勇は束とクロエを連れて久々に外食をしようと外に繰り出していた。普段はIS学園の寮に居るため通行人は殆ど女子学生と偶に一夏なのだが、今は9時頃。そこまで人の往来は無い割に店は通常営業、朝どこで食事しようか迷う。
しかしこの面子が一緒に歩いていると、色々と誤解を生んでいくのは確かであった。
「おいひいね〜」
「……そうですね。あと口に入れたまま喋らない、ほらマスタード付いてるから」
「舐めて取って〜」
「僕に死ねと?」
「お父様、ここは束様を甲斐甲斐しく世話する夫としての役目を!」
「何を期待してるんですか!?」
結局朝はとあるカフェに入店しホットサンド朝食を嗜む。入店した際に店員や店内の客に驚愕される始末だが3人は気にもとめていない。それどころか普通に食事して会話の内容的に勇と束の関係と、その2人と普通に交えて食事しているクロエの根も葉もない噂が立つばかり。
さて食事も終えたところで勇は少し真剣な表情を浮かべて束と会話している。地下研究所で指示を出す時と同じような表情であるがここは地上、ましてや研究所でも無い。
「……今日の夕時、皆に明かそうと思います」
「本当唐突だね。何を?」
「意地悪ですね……全部ですよ、全部。開発システムの事も、そのプロトタイプのことも踏まえて」
「そっか。ユウ君が丸くなって束さんは嬉しいぞ〜!」
「ちょまっ!ここお店!」
「気にしな〜い気にしない!」
「あぁ、もう…………」
そう言ってはいるが、少しだけ束にハグをされて表情が柔らかな勇であった。ここまで丸くなり過ぎたというのも、やはりあの事件があったからとしか言い様が無い。
時間だけが過ぎた夕刻頃の今、勇は漸くIS学園へと帰還を果たす。この判断が後々どの様な影響が出てくるのかある程度の予想は何となく付くが、それでも尚行かねばならなくなった理由もある。
轡木理事長には連絡を入れているが学園には内密にしてほしいと頼んだ。勿論それ相応の報酬を払おうとしたが断られた。報酬はこの学園に明石重工製のゴーレムの配備だけで良いのだそう。
待機状態のフェンリルからホログラムを起動させて同じα持ちのシャルロットとラウラに“IS学園の屋上にいつものメンバーで来てくれ”と連絡を入れ、勇は先に屋上に向かう。
勇が先に到着してから約20分後に全員到着、お互い見慣れたメンバーと勇を見て少しばかり落ち着いてはいた。
「態々御足労をおかけして、申し訳ありません。皆さん」
「話がある……と聞いただけだしな。嫁が招集をかけるのは珍しい」
「……まぁ、皆さんに話しておかなければならない事が幾つかありますからね」
久々に聞いたラウラの嫁発言はさて置いて、勇は人差し指と中指と薬指の3本を立てて本題に移していく。
「早速本題ですが、1つ目。僕の機体のことです」
「勇の……フェンリル?」
「あの時、あの女が言ってましたよね。
「…………フェンリルの、秘密?」
「僕のフェンリルには【生体リンクシステム】と呼ばれるプログラムを施しています。このプログラムは劣化版のものがシャルロットさんのロック鳥、ラウラさんのアルミラージにも搭載されています」
シャルロットとラウラの2人はお互いロック鳥とアルミラージの待機状態を見やる。勇はフェンリルを見ながら話を進めた。
「そして僕のフェンリルには、そのプロトタイプを搭載しています。劣化版を搭載させたのは、αタイプの巨体を操るタイムラグを消す為だけに……ですがフェンリルの方は幾つかのシステムが搭載されています。
簡単に言えば
「「「「「……はぁッ!?」」」」」
有り得ない。その言葉が5人の思考に咄嗟に浮かんだ。突拍子もないことを勇は何の前フリもなく突然に口にした。
「命といっても所詮は体内から発生する血液の熱量をフェンリルで増幅させているだけですが……その消費熱量は専ら操縦者の判断で自滅するかどうかの熱量ですが」
「自滅って……そんな簡単に…………」
「命を捨てるなと?残念ながら、このプログラムとは6年来の付き合いなので早々離れるワケにはいきませんよ。一夏君」
「6年…………勇さんがIS適性が発覚した時、ですのね」
「本来は稼働時間やデータ採取をより多く行う為に組み込みましたが…………生体反応を酷使するプログラムなのは使ってみて分かった事ですがね」
勿論すぐに改良したが、プロトタイプよりロック鳥とアルミラージに搭載されている方が性能がダウンした事から
次に勇は2つ目の内容を話していく。
「さて、この話は終わり。次に2つ目ですが…………フェンリルに単一能力が発動している事と
僕自身がフェンリルの
「…………えっと?ごめん、話が見えない」
「まぁ実演すれば否が応でも分かりますよ」
左手に冷気を纏った勇は、その左手を全員に見せる。次に勇は手を胸の位置に持って行くと、左に手を払う。すると一直線上に床が
これを見た5人だが改めて見たことで何事かと思考を巡らせるが、勇は中断するように口を開く。
「これはフェンリルの単一能力【凍結】、制限付きではありますがエネルギーの凍結や分子の凍結に加え物体の凍結も可能です。そして僕が使える理由、それこそ生体リンクシステムの影響です」
何も言わない。いや、何も言えないというのが正しい。突然勇が自分のことをカミングアウトしたせいで頭が情報に追い付いていない。漸く意識を現実に戻せた最初の人物はラウラであった。
「……すまないが生体リンクシステムと、フェンリルの単一能力の関係性は?」
「生体リンクシステムを使用し続けた結果、機体が急成長を遂げ【
「三次移行!?既にそこまで!?」
「いえ、もう【
結論から言えば、今の勇はこれほどまでに無い素晴らしい
単一能力を生身で使用でき、ISの進化域を簡単に突破し、さらに共用型コア開発者であり、αタイプの設計図を製作した人物であり、この世界を変えた一人の人間。いや、最早人間と呼べるのかどうかが分からない。
勇は人間では無くなった。自分から見ればこの力を持った時点で自らを
「そして3つ目。先日襲って来た組織名が判明しました」
「それ本当か!?」
「急に大声を出さないで下さいよ」
他の話題に移ると一夏が素早く反応していた。勇も急に出された大声で内心少しだけビックリしている。
「ゴホン…………ええ。簡単に言えば
「…………それ、どういうことだよ?」
「一夏君。僕の言葉通り、そいつらは戦争をしたい為だけに集まった連中ですから。殺し殺されることを望み、闘争から闘争へと歩み続ける連中ですよ」
「んだよ……それ………………!」
一夏が怒りに……いや、他の者も怒りで支配されるのは分かりきったことだ。ぬるま湯に浸かった生活をしている人間には到底理解できない相手の心理。勇は少しだけ溜息をついた後、5人に向かって話す。
「要は自分の命も、他人の命も平気で奪い奪われる輩の連中ですよ。…………まぁ、その思想が理解できないといえば嘘になりますが」
「勇…………?」
「この世には命よりも二束三文のはした金を稼ぐ人間が居る。
この世には自ら死のうとする人間が居る。これらの行動を起こした心境は、
つまるところ、その組織は自分達が
次回『地獄歌 間奏 2節』