セシリアと勇の戦いが終わった直後、ある2人の人物が勇について思考していた。
元世界最強の名を馳せた織斑千冬と、IS学園最強と謳われる更識楯無の2人だ。織斑千冬は楯無と勇の戦いを見ていたから、楯無は実際に戦ったから分かる勇の特徴が幾つかあった。
まず最初に勇は専用機であるフェンリルに乗る時
勇は常にノートを持ち歩いている。だがそのノートには共通点があった。対戦相手のデータが載ったノート1冊を見続けていた。常に予測し、相手がどう動けばどの様に対処するかの応酬。
【過集中】による入念すぎる計算と【並列思考】による脳内シミュレートの高速処理、性格が変わったことによる容赦の無さと獣並のスペックに加えて特殊武装。織斑千冬はあの時用心しろと言ったが、完全に杞憂だったと思いつつ
弟である織斑一夏であった。そう、問題は彼であった。常に姉である織斑千冬の背中を追いかけ続け、求め、姉の様な
その一夏は、この戦闘を見て何を思ったのか不機嫌極まりない様子で勇を見ていた。戦闘中に届いていた機体である【白式】の
『両者、共に場内に入れ』
一抹の不安を抱えながら、この戦いの展開を見届けなくてはならないという責任を抱えた織斑千冬は少しの弱さが垣間見えていたと思う者は……早々いないであろう。
「おや、どうやらそろそろですね」
「そう、ですわね……」
一方別のピットではフェンリルのミサイルとエネルギーの補充を行っていた。フェンリルの構造を予め
勇はフェンリルを装着するとゆっくりと歩いて出て行こうとしていた。
「あ、あの……!」
「『……んぁ?どーした、デケェ声出してよ』」
「お、尾崎さん!その…………
侮辱をしてしまって、申し訳ありませんでした!」
「『……おいオルコット』」
「は、はい!」
この口調に未だ慣れていないセシリアは少し緊張とした面持ちで勇に反応した。そんな様子を見た勇は明らかに呆れた仕草をしながら言った。
「『……言う相手が違うだろバカ』」
「…………え?」
「『その謝罪は後でクラスの全員にしとけ、それで俺のもチャラにしてやる。さっきのは無しな』」
ピットから出ていった勇を思い、言われた言葉を胸に刻み込むセシリア。だが同時にとある感情も芽生えていた。
━━━━知りたい
それは“ある感情”をセシリアに芽生えさせるのに充分な思いであった。
━━━━もっと……彼を、彼のことを
━━━━知りたい
アリーナ内には一夏と勇が向かい合っている。
そんな中、一夏が勇に尋ねた。
「勇」
「『何だ?手短に済ませろ、さっさと決めるぞ』」
「お前、恥ずかしく無いのか?」
「『はっ?』」
「惚けんな!女に対して暴言を吐いたり、一方的な戦いをして……!お前それでも男か!?」
「『で?』」
「ッな!?」
物凄く呆れた様にため息をついた後、ゆっくりと地面に伏せて尻尾をユラユラと動かす。傍から見ればどう見ても犬みたいである。
「『んじゃあ一夏、お前にも質問をしてやる。
お前は人間の姿をしている。俺は獣の姿をしている。だから敢えて言うぞ。
お前は動物に攻撃できるか?』」
「……何を言って」
「『答えろ』」
答えを催促する勇。未だにこの状態は続いている。
「そんなの……できるわけ」
「『それは自分の身が危機に晒された時でもか?
敢えて言ってやるぞ一夏、お前は攻撃する』」
「ッ!そんなこと絶対に!」
「『するんだよなぁ、これが』」
勇がフェンリルを起こし伸びをする。狼だが、見た目はもう完全にシベリアンハスキーにしか見えなくなっている者も居たそうだ。
「『生物ってのは生存本能に抗えない。それは獣に限らず人間、虫、鳥、魚……ありとあらゆる生物が持つ本能だ。誰だって危害を加えられたら反撃しちまう』」
「そんなのが何に!」
「『なるんだよなぁ……』」
今度は欠伸をした。アリーナの観戦席からは可愛い犬として見られシャッターを切られている。
「『セシリアとの戦いもそうだ。誰だって銃を向けられれば避けるし、反撃する。
相手のペースを乱す為に発言をする。
相手が何もできない様に一方的にさせる。
これはこの戦いでも当てはまるんだぞ』」
「けど……そんな考え!」
「『間違いなんてねぇよ』」
「『さっきのに間違いは無い。
それは1つの【知恵】として使用されるし、
自分が
お前の理想論はその知恵や進化を否定した、憐れな考えを持った奴にしか思えねぇ。
俺にとっちゃ、お前に“恥ずかしくないか?”って言うぜ。
そんな考えじゃ勝てないし、生き残れないからな』」
「さっきから……言いたい放題…………!」
「『あ?』」
「うぉぉおおおお!」
既に合図は鳴っていた。
鳴った後で話をしていた。
そして鳴った後だから攻撃した。
ただそれだけだ。
「『クソ愚直。やり直せ』」
「ぐっ!?」
何時の間にかフェンリルが白式の後ろに移動していた。そしてすれ違い様に1発腹にクローを叩き込んだらしく、一夏は苦痛の声を挙げた。
一夏が後ろを振り向くが、そこにフェンリルは居なかった。
「ど、何処に!?」
「『上だ上。ハイパーセンサーを頼って自分で見つけろ』」
一夏は上を見上げると、そこに浮遊しているフェンリルの姿が映った。
「降りてこい勇!俺と真剣勝負をしろ!」
「『真剣勝負だから攻撃当たりたくねぇの』」
「何で立ち向かわない!?それでも!」
「『それでも男か?ってか。生憎俺には雌雄の区別しかしてねぇから無理だな』」
「くそっ!臆病m」
「『んなことより、お前も飛べば?そしたら近付けるぜ』」
苦虫を噛み潰した様な表情だったが、一夏も飛んでみた。しかしスピードが如何せん出ない。
一夏を見ていた勇は急下降して地面スレスレで止まる。今度は一夏が勇を見下ろす形となった。
「くそっ!動くな!」
「『動くなつったら死ぬじゃねぇか。だったら降りて来いよ』」
同じ表情のまま今度は降りる……のだったが、どう制御すれば良いのか分からず地面に衝突してしまった。地面に降り立って横に跳んで回避した勇は、アリーナにできた穴の中心に居る一夏に声を掛けた。
「『おーい、平気かー?』」
「ッ!くそっ!何で……!?」
「『ほれほれ俺は暇だぞー』」
フェンリルが再度欠伸をして、その場で回って丸まった。この行動の直後、シャッター音が鳴り響いたのはどうでも良い。
「ッ!ぉぉおおおおお!」
「『よっと』」
いきなり立ち上がってブレードを振るうが、難なく回避する。それ以降も……
「『はい後ろだ』」
「くそっ!」
「『残念、今度は左だ』」
避けて、避けて、避け続けて。煽って、煽って、煽り続けていた。
時折空中に移動し、挑発して上がらせる。そして降りて、一夏がクレーターを作ることも繰り返していた。次第に周りの者も冷めてきた様子になっている。
「『さてっと…………』」
「うおおおおおお!」
「『猪突猛進……織斑教論でもしねぇぞ』」
フェンリルの全身の毛が一夏の白式に絡みつき、地面に倒される。
「くそっ!離せ!」
「『ん、分かった』」
フェンリルの毛は白式を持ち上げると、フェンリルの方に引っ張っている。身動きの取れない一夏は為す術もなかった。
毛の拘束が緩むと、一夏は好機と出てブレードを上に上げる…………が、その眼前にはミサイルが10発。その10発は全て一夏に当たりSEが切れたことで試合終了となった。結果は尾崎勇の勝利である。
完全に倒れている一夏をよそに、勇はフェンリルを待機状態にさせて立ち上がる。地面に付いている右膝の土を払うと一夏の元まで歩みより手を伸ばす。
「立てますか?一夏君」
「……で………………」
「……一夏君?」
「何で……負けた…………?」
勇はその言葉で表情を変えた。眉を吊り上げて明らかに嫌悪感を示している様に見えていた。
勇は一夏の体を起き上がらせたあと、目の前でおもいっきり手を叩いて音を出す。驚きで現実に戻された一夏は、目の前の勇を見た。
「勇……?」
「織斑一夏君、今日の夜に君と織斑先生と一緒に話をします。覚えて下さい」
それだけを伝えると勇はアリーナを出ていく。
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夜、勇は寮内に居なかった。外で夜風に当たっている最中であった。それだけなら、どれ程良かったか。
ポケットに入れていたスマホのバイブ機能が伝わる。取り出してみるとSという一文字だけの人物から着信が着ていた。その着信に出ると女の声が聞こえた。
〔Good morning,Mr.尾崎。学園生活はどうかしら?〕
「……少し厄介なことはありましたが、大丈夫でしょうね。そちらの首尾は?」
〔上々、デュノア社の社長様にはアポ取れたわ。あとは貴方の傑作を渡せば良いだけ〕
「……成程、なら僕らもピッチを進めなくてはですね。何時になります?」
〔少し期間は空くらしいわねぇ……精々2日ぐらいね〕
「了解しました。唐木さんの予定だと今夜完成してる頃ですから、といっても日本時間ですが」
〔あら、じゃあ出来てるわね〕
「恐らく。あとは貴女達に【ロック鳥】を渡せば良いだけです」
〔私達じゃなくて、デュノアにでしょ?〕
「そうですね。あと、此方では夜なのでGood Eveningですよ」
〔ふふっ、そうね。じゃあまた〕
「抜かりない様にお願いします」
Sとの会話を終了し、今度は別の電話番号に掛ける。数回のコールのあと電話に出たのは男であった。
〔はい明石重工です〕
「唐木さん僕です。尾崎です」
〔あぁ尾崎君か、というと【ロック鳥】の件だね。それなら既に完成してるし、あとはデュノア社に送るだけさ〕
「……何時もすみません、態々こんな面倒事を押し付けることになってしまって」
〔……まぁ君の壮大な我儘に付き合うのは疲れるけど、それでも後の達成感ってのがね。本当に人類史を塗り替えそうで怖いよ〕
「…………では、今回はここまでということで」
〔……分かった。お休みなさい〕
「お休みなさい」
電話を着るとため息をつき近くのベンチに座る。
同時に何かが潰れる様な音がしたが、勇は気付こうとさえしなかった。
IS【フェンリル】
世代:第一世代?
見た目:白と黒のシベリアンハスキー似、瞳は赤
武装:尻尾【スティンガーミサイル】
毛【グレイプニール】
両前足【クロー】
口【バイト】
口内【ロアー】(高周波振動砲)