夜、外へと出ていく2人の人物が居た。ただ、この時間帯に外に出るのも少し不自然だと思われるかもしれない。だが何となくこの2人なら“あれ”だろうと思ってしまうものがある。2人は姉弟、担任と生徒という関係の者ならば今回の件に関する事なのだろうと分かるかもしれない。
「全く……教師を外に呼び出す者が居るとは」
「ち、千冬姉?俺はこれから何処に」
「織斑先生だ。……見てわからんか、外だ」
「いや、何で外に?」
「尾崎がお前と私とで話をしたいそうだ」
「…………はっ?」
「2度も言わんぞ私は」
「い…………いやいやいや、ちょっと待ってくれ千冬姉!何で尾崎が!?」
「静かにしろ。今の時間帯を考えろ」
そんな会話が終わる頃に外へと出てきた2人。ちょうど2人が外へ出た時に勇もベンチから立ち上がり2人にお辞儀をする。織斑千冬は一夏を連れたまま勇の所まで歩き、その場に着くと勇が口を開く。
「すみません、態々この時間帯に。それと仕事の関係もあったのにも関わらず」
「時間帯のことは考えろ。……仕事の方は少し任せてもらったがな」
「そうですか。…………では」
先程勇が座っていたベンチを示すと先に勇が右端に、織斑千冬が左端に座る。残った真ん中の席に2人を交互に見て困惑している一夏だったが、勇が席を示したことでおずおずと座る。
そんな勇は息を1つ吐き一夏の方に顔を向けると口を開く。
「先程は失礼しました、一夏君」
「え…………?」
先程というのは代表決定戦の戦いの時だろうと誰しも予想が付く。しかし織斑千冬は何処か納得の言っていない様子を浮かべた。
「……おい尾崎、お前は」
「でも、あの戦い方を辞める訳にはいきません」
「ッ…………!」
その言葉は忌むべきもの。織斑一夏の中では“心”がそう捉えていた。
「戦いとは勝つか負けるか。そして勝つ為には手段を選ばない。
例えそれが誰かに怨まれようと、変えるつもりは全くありません。
挑発をして相手を惑わせます。
SEを削り切る為に容赦無く攻撃します。
相手を拘束して動きを封じます。
これが、僕の戦い方ですから」
「そんな戦い方……あってたまるか」
「多くの戦闘ではこれが基本です」
「真っ向から勝負しろよ……」
「それでは僕らが負けます」
「でも……それで勝てる時だって!」
「殆どありません。できる人間は、何処にも」
「けど千冬姉は!」
「本人のスペックが常人を遺脱してます。一夏君と織斑先生を比べても雲泥の差でしかありません」
一夏の
そんな理想を凍てつかせ、破壊していく。これが現実なのだと見せなければならない。
「僕は弱いから、だからこそ頭を使って戦わなきゃならない。
隙を突いて、攻めて、罠に嵌めなければならない。
それは、僕の力はISのもの。自分の力ではないから。
君は、その手に入れた力に酔いしれてしまった
この力なら倒せると。救えると。守れると。
でも本人に見合わない力は、必ず自分を滅ぼすし傷つけてしまう。
今回の君の敗因は、その力に酔ってしまったからです」
突き刺さるのは冷徹で無慈悲な
そして完璧な決定打とも言える一言を言った。
「だからこそ、貴方の機体と貴方が釣り合う様に
「………………はっ?」
不思議そうに勇を見る一夏。そんな一夏から視線を逸らし織斑千冬に向けたが、ただ此方を見るだけであった。
「…………先生からの方が説得力が万倍マシですから呼んだのですが」
「態々、それだけか?」
「僕から何を言ったとしても……です。後々を考えた合理的な方法と思っていて下さい」
「…………そうしといてやる」
渋々と言った様子で織斑千冬が先程の代表決定戦での行動の1つ1つについて説明する。その間、勇はイヤホンを付けてスマホで音楽を聞こうとしていたが織斑千冬に取り上げられる事となった。
先ず、上に上がらせた理由。これは、まだ慣れない飛翔の感覚を初めに味わってほしいという考えから生まれたものである。先に空に飛ぶことが、どの様な事かを理解してもらう為の行動であった。
次に急下降。今回はアリーナの地面にクレーターを作り続けたが緊急停止の感覚、落ちる感覚を学んでほしかったというのが挙げられる。他にも挑発やハイパーセンサーの事も教えたのは、あの戦いで分かった。子供を崖から落とすライオンでは無いが、かなり無茶苦茶な鍛え方である。
しかし、これらが一夏に合わせた行動の1つだと知ると違って見えてくる。一夏は勇を見ると、目を瞑っていた。息を1つ吐くと目を開いて一夏と向かい合う。
「一夏君、僕の行動は決して誉められた行動じゃ無かった。
あぁする事でしか、君を鍛えられなかった僕を非難してもらって構いません。
でも強くなりたいなら、何時かその力を物にしたいのなら…………
僕と共に強くなりましょう。一夏君」
伸ばされた手は甘美とは程遠く、苦い汁ばかり吸い続けなければならないものになるだろう。だが果物の苦はやがて甘くなる様に、時間を掛ければ必ず成長できる。強さが手に入るのだ。
「織斑……いや一夏、お前は強くなりたいんだろう?」
「千冬姉……」
「今差し出された尾崎の手は、1つの道だ。強くなる道だ。
過酷だが、必ず成果の出る方法だ。
その手を……お前は安々と掴まないつもりか?」
織斑一夏の手は尾崎勇の手を握った。そして漸く1件が終わった所で寮へと戻っていくのであった。
「ふぅ…………」
「あらお帰り。遅かったわねぇ」
「……楯無さん」
「何かしら?」
「そのノートを何故シュレッダーにかけようとしてるんですか!?」
帰ったのは良かったが一悶着ありそうな予感がしていた。何故かバッグに入っていた全冊のノートがシュレッダーにかけられようとしていたのだ。
あの時の高速移動で楯無を拘束し、ノートを避難させる。
「離して!それが無ければ貴方と簪ちゃんの接点は消えるのだから!」
「流石プロフィールに好きな物【妹】って書き込む位のシスコンですね貴女!というか幾らその行動をした所で簪さんが!」
「私が何?」
「…………ねぇ尾崎君、鍵は?」
「貴女の急な行動に驚愕してそれどころじゃなかったです」
「……お姉ちゃん、ちょっと向こう行こうか」
ガシッと襟首を掴まれた楯無は、そのまま簪に連行されて行った。勇に借りていたノートを返して。因みに9割5分程まで機体の方は完了したらしい。
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翌朝の教室。
「というわけで、代表は織斑一夏君に決まりました!あ、1繋がりで言いですね!」
「……勇?」
「こうした方が経験値も積みやすいからです。他のクラスとの実力も実際に体験すれば、今よりも格段に成長できますよ」
「勇がそう言うなら……んじゃあ張り切ってやります!」
代表が決まり、その後セシリアの謝罪が全員にされた。日本に対する数々の侮辱、傲慢であった態度を改めクラスの一員として切磋琢磨していくことを皆に伝えた。
「あ、あと……尾崎さん!」
「はい」
「こ、これから……名前で呼んでも構いませんか!?」
「別にその程度なら、喜んで」
「で、でしたら私のことも名前で呼んでもらっても……?」
「了解しました。セシリアさん」
「よ、宜しくお願いします!勇さん!」
浮かべた表情は清々しいものとなっていた。その直後、勇に集まる視線とセシリアに集まる視線があったが気にする言葉無いだろう。
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「『どーした一夏ァ!?さっさと追いかけて来いよぉ!』」
「聞かされてたけど……変わり過ぎだろ性格!」
放課後、勇と一夏はアリーナ内で空中鬼ごっこをISでしていた。勿論これは空中での戦闘、移動、旋回などを知ってもらう為の勇なりに考えたメニューである。
しかしまだ
「『一夏!参考書通りに考えるな!角錐で思い浮かべるのが無理なら自分の両足からエネルギーが勢い良く出るイメージを思い浮かべろ!若しくは背中に翼があるみてぇに動かすイメージだ!』」
「分かりやすいけど……むずいッ!」
勇の助言を意識し始めたのか、徐々に機体スピードが上昇している。しかしバランスが危うい点があるのは否めない。
「『スピードの出し過ぎを怖がるな!敢えて体を高速移動に慣れさせろ!曲がる時は曲がりたい方向とは逆の方のスラスターからエネルギーを出せ!』」
「や、ヤバい……Gが……ッ!」
このやり取りが20分ほど続き、もう終わろうとしていた。勇のフェンリルが直角に曲がりに曲がって一夏の機体の後ろに位置し、グレイプニールで拘束しながらスピードを落としていく。
一夏の機体【白式】をゆっくりと降ろし、グレイプニールの拘束を解くとフェンリルも地面に足を着けるとISを解除する。立ち上がった勇は未だ白式を装着したままの一夏に話しかける。
「一夏君!ここで終わりにしましょう!」
「お、おぅ……」
「勇さん!」「一夏!」
勇にはセシリアが、一夏には箒がそれぞれ駆け寄る。一夏は先程の訓練で精神的、肉体的に疲弊しているため大の字で仰向けになって寝そべっている。勇はそんな一夏を見つつ思考に集中していた。
『わふっ』
「ん?」
「あの、勇さん?」
「ん、あぁ失礼。何時もの癖なんですが、どうにも考えると集中しすぎて」
「そ、そうでしたか。こちらこそ邪魔をしてしまって」
「フェンリル、おいで」
勇は待機状態のフェンリルを撫でると勝手に器具が外れ、独りでに機体を形取る。目が光ったと思うと尻尾を振り始め勇を見た。その後光景を見た者達は目を見開いていた。
「あ、あの……勇さん?なぜ、機体が独りでに?」
「機体の方に自立思考、走行機能を追加させることで可能にさせてます。ね、フェンリル」
『わんっ!』
勇は近づいてくるフェンリルを撫で回す。そのフェンリルは嬉しそうに尻尾を振り、目を閉じる。機体がシベリアンハスキーに似ている為か完全に犬と戯れている微笑ましい光景にしか思えない。
少なくとも犬に好意的な生徒たちには、そう見えていたそうだ。