「し……死ぬ…………かと……」
「『ったく情けねぇなぁ。単に射撃の何たるかを教えただけでよぉ』」
「それが問答無用で尻尾からミサイル出す奴のセリフかな!?」
「『そりゃお前、俺遠距離装備が今のところ2つしかねぇからよ。結構良いアイディアだと思うぜ尻尾ミサイル』」
「最初セシリアと箒の弾幕の難易度上げつつ避ける訓練とかだったよな!?途中から勇が入ってきて難易度メチャクチャ上がったんだけど!?」
「『奇襲は狼の専売特許なんでな』」
こんな言い合いをアリーナ内でしつつ今日の訓練を終わらせた4人組。4人ともISの点検を行い終えると、寮へと戻りつつ今回の反省点を交える。
「……うん、一夏君の機動力もそこそこ良くなってきました。ただやはり機体そのものの燃費がイマイチだから、1度調整した方が良いですね。あとは一夏君本人が射撃に対する見解をどう見てくれたのかですが……如何でしたか?」
「IS乗ってる時とのギャップを改めて感じた」
「関係無いですよね?」
「んまぁ……思いつくのは色々と違うってとこか。あのミサイルとか、銃とか、ビットとか」
「その見解を言語化できるように訓練しますか?」
「訓練は今聞きたくない」
「むぅ……」
少し膨れっ面になる箒が勇と一夏の並んでいる後ろ姿を見ている。それを見たセシリアが思いついた様に勇の隣に行き話をする。
「勇さん、次の一夏さんの訓練はどうされますか?」
「んっ?んー……近接系の訓練ですかね?僕のフェンリルと箒さんで少し様子見して、どんな戦法で行くかを考えてます」
「!」
成程と言いながら頷きつつ、さり気なく箒の方に視線を向ける。それに気付いた箒は小さく礼をすると、それに応える様にウィンクをした。
「あ、皆さん先に食堂に行って下さい」
「いや急に何だよ?というより何でだ?」
「いえ、生徒会に所属したので御挨拶をと。そういえば楯無さん……会長も今仕事中でしたし」
「ッ!?……い、何時の間に……!?」
「……?どうかされましたか、セシリアさん」
「い、いえ何でも!」
「そうですか。あ、では自分はこれで」
少し早歩きになりつつ仕事へと向かう勇を残った3人は見ていたが、セシリアだけ多少残念そうにしていた。そこに箒のフォローが入るも、逆に箒自身がため息をつく結果となった。
その箒のため息の理由を一夏は知らない。
「すみません。失礼します」
生徒会室のドアをノックし入ると目の前の光景に楯無が机に突っ伏しており、その隣には少し冷ややかな視線を楯無に向けている3年。少し離れた所でお菓子を食べている本音が居た。
「おー、いーさんだ〜。やっほ〜」
「……本音さん。聞きますけど、貴女も生徒会ですか?」
「そーだよ〜。放課後に言おうかと思ってたけど〜、おりむーの特訓でさっさと行っちゃったから言いそびれちゃった〜」
「アぁ……勇君、来るの遅い……」
「この方ですか……」
楯無の隣に居た3年が勇と向かい合う形となる。
「初めまして、生徒会長の秘書を勤めさせています『布仏 虚』と申します。お話は仕事を溜めすぎた結果こうなってしまった会長からお聞きしています」
「う、虚ちゃぁん……それは、幾ら何でも……」
「事実ですよね?」
その一言で黙ってしまった楯無を見る限り、そうなのだろうと思う勇。楯無のしていた仕事の量を目測で見つつ、トンデモ発言をしてしまう。
「……楯無さんの効率的に終わらせたの、約3時間弱ですか」
「!?」
「あ、会長。もし仕事が溜まったら遠慮なく言ってください。今日会長がした分なら30分程度で終わらせますから」
「なっ!?」「ふぁっ!?」「おぉ〜」
その言葉に驚愕を覚えつつある3人。これも過集中と並列思考を常日頃使用している者の言う事なのだろうかと、本気で考えていた楯無と虚がそこに居た。
しかし勇はもう終わったのだと理解したのか、挨拶だけ済ませ食堂に向かっていた。
「会長より優秀じゃないですかね?」
「虚ちゃん!?」
「あ、わんちゃんモフらせてってお願いしとけば良かった」
本音に至っては別の事を考えていた始末である。
勇が食堂に向かっている途中、声を掛ける女子生徒が1人。
「あの……」
「ん?あっ、お久しぶりですね簪さん」
「う、うん。あの……ノートを」
「あぁ、態々ありがとうございます」
簪の手には勇が簪の機体に関する改善点などが書かれた18のノート。それを勇は受け取ると、すべての修正点の横にチェックされている。まぁ別段、勇はノートにチェックを入れる程度どうでも良い心持ちである。
「ありがとう……打鉄弍式も、あとはテストフライトだけ……」
「おぉ、素晴らしいですね」
「……というより、何で見ただけで全部分かったのか私には分からない。何でなの?」
「ふむ…………」
暫く思考を巡らせていく勇は、あっけらかんとした表情のまま応えた。
「触れる機会が多かったからですかね?」
「触れる機会……?」
「僕の所属が明石重工なんですけど、ワケありでそこの社長夫婦の所に住ませてもらってるんです。かなりの頻度で会社とか行っててISの事を間近に触れていたっていうのもあって、何となくですかね?」
「明石重工……って、倉持に続く大手企業!?」
「まぁ……そうですね、はい。その明石重工です」
ワケありで住まわせてもらっている。というのは、恐らく養子なのだろうか。そんな考えよりも勇が倉持技研に続く大手企業関係者というので頭が埋め尽くされていた簪であった。
当の本人は少し照れくさそうにはにかみながら頬を掻いていた。
────そんな感情なんて無い。偽りの感情だ。
そんな事を考えていると、2人の間に走り去る人物が1人。2人は慌ててバックステップで避けるが、走り去る人物は留まる事を知らない雰囲気があった。
「今の……凰さんですか?」
「凰……確か、今日2組に編入してきた中国代表候補生だっけ?」
「ええ……。あ、すみません簪さん。僕はこれにて」
「え……あ、うん」
勇は食堂の方ではなく、先程走り去って行った凰鈴音を追いかける様に逆の方へと向かった。見失う事は無い、匂いで分かる。
────この体に成る前はできなかった
動体視力はかなり良いほうだ。聴覚だって良い。
────こうなったのは運命だ、自らの決めた
何故か、走っている内に考えてしまった。足が途中で止まった、けれど泣いている声が聞こえるから無視できない。
───全ては自分を偽る計画の内である
「────“僕が望んだ
「あぁ、知ってるよ。全部……これは布石だと。この腐った時代に、先ずは
『くぅ〜ん…………』
悲しげな鳴き声でフェンリルが待機状態のまま心配している。脳内に伝えられた声を聞き、笑顔で待機状態のフェンリルを撫でる。
「ごめんね、フェンリル。もう少しだけ一緒に……そしたら、何処かでゆっくり過ごそう。誰も知らない場所に安住してみたいね」
『わふっ!』
「ふふっ……それじゃあ、先ずは行こうか」
何時も見せている笑顔を取り繕い、凰の匂いを辿っていく。これも計画の内の1つであると言い聞かせながら、
何気なく通った様な印象を受ける勇。もう1人の男性操縦者はフェンリルを自立させて凰鈴音の前に現れ、溢れ出ている涙をハンカチで拭き取った。フェンリルは凰鈴音の周りをウロチョロするが、そんな行動の1つ1つに少しずつ安らぎを覚えていくのであった。
人目につきやすいという点から、凰を外に出そうと提案してみると意外にも承諾してくれた。そして凰ではなく、鈴と呼んでくれと言われると何の戸惑いも無く勇はそう呼んだ。
「はぁ……全く一夏の奴、約束聞き間違うとか腹立つ」
「ふふっ。でも鈴さんも少し非はあるのでは?」
「いやまぁ……そりゃ、ね」
『わふぅ〜』
鈴の右手はフェンリルの下顎を撫でており、それを受けているフェンリルは気持ち良さそうに目を閉じていた。
「そりゃアタシだって、一夏は鈍感だからストレートに言わなきゃ伝わらないって考えたけどさぁ……」
「ふむ……こういうのって大抵“今の関係が崩れたらどうしよう”って考えてるんですよね。だから回り
「アンタ読心術でも持ち合わせてんの?」
フェンリルから渡されたボールを投げる鈴。それを追い掛けるフェンリルは傍から見れば微笑ましい様子であった。
「こういうのは客観的に見てどう感じたか、ですから。この程度の思考は何気なくしますよ」
「客観的にねぇ…………その考えを一夏に分けてくれないかしら?」
「根本的に無理です」
フェンリルがボールを持ってくるが、今度は勇の方に渡してきた。勇はフェンリルを見つめながらボールを主張させて投げると、また追いかけて行く。
「一夏君は客観的に見るというより“主観的に見て”、自分の感じた事を言われますからね。その見方が元々だったとしたら矯正するのは無理難題です」
「……それもそうよねぇ。確かに一夏、そんな感じだったわ〜」
『ゔぅ〜』
ボールを咥えて首をブンブンと動かしながら勇に遊べと物申しているフェンリル。その咥えているボールを掴むと、お互いに引っ張り合いをする。
「まあ兎も角、人は人ですからね。その環境で育ってしまえばそれが普通だと疑いもしませんからね。一夏君の場合は友達としてッ!」
漸くボールが取れると、ボールを見せて投げる。尻尾を操って直角に曲がりボールを追いかけていくフェンリル。
「その認識がある一夏君なら、やはり真正面から当たって砕けろしたら良いと思われますが?」
「その当たって砕ける自信が無いからこうも悩んでるんでしょうが」
「……いっそのこと夜這いでもしてみては?」
「サラリと心臓に悪いこと言わないでくれるかしら!?」
『くぅ〜ん?』
この話で段々と自分の中にある思いが固まってくる鈴。顔を両手で覆いつつ深く息を吐くと、その両手を外して意気込んでいく。
「けどまぁ、うじうじしてても何にもならないわね!うんそうだ。だったら行動あるのみよ!それが私!」
「では具体的に何をされるので?」
「一夏を対抗戦でぶっとばす!」
「ダリルさんですか貴女は」
「何か言った?」
「いえ、独り言です」
ひとりでに吹っ切れた御様子の鈴を見送りつつ、フェンリルを待機状態にさせると同時に勇の腹の虫が鳴った。そういえば、今何も食べてなかったと思いつつ購買へと向かっていった。
これでも前の食事はビタミン補給の為の飲料ゼリーと携帯食料が主だった為、勇はそれらを買って食すと部屋へと戻っていった。
「勇さん、一体なぜこんな時間帯まで戻られなかったのですか?」
「乙女を待たせるのは感心しないわねぇ」
「……すみません」
部屋に戻るとセシリアと楯無が待ち構えていた、というよりも録な食事も採らなかった事を話すと更に怒られる始末となった。
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それから暫く日付は経ち、アリーナの観客席で勇とセシリアと箒が一夏と鈴の対戦を見守っていた。しかし勇とセシリアの表情は曇り空という感じであった。
というのも一夏と鈴が前日口喧嘩をしたのだが、その時に一夏が言い放った言葉に鈴が憤慨した光景を目撃してしまった為である。これには一夏を擁護しきれない。
鈴はやはり第3世代武装の【衝撃砲】によりダメージを与えているが、徐々に一夏も避ける事ができている。360°の見えない砲身と見えない弾丸にも関わらずという点を挙げると成長しているなと改めて感じている勇であった。
そんな中、待機状態のフェンリルが勇の脳内に何度も吠える。それと同時に、勇は上空を見上げた。その優れた耳と鼻は
「勇さん、どうされましたか?」
「……セシリアさん、篠ノ之さん。観客の避難誘導を今すぐ」
「?」「何を言ってる?」
「来る」
突如上空からアリーナのシールドを破って飛来してきた謎のIS。突然の出来事に判断が遅れているが、勇は2人の肩を掴んで体を揺する。意識が戻った2人の目線を合わせて言った。
「早く避難を!」
刹那、謎のISが観客席に居る勇に照準を定めてレーザーを放つ。既にチャージ音が聞こえていた勇は咄嗟に2人を地面に倒しフェンリルを展開させる。
「『ゥォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』」
フェンリルの特殊武装である高周波振動砲、通称【ロアー】を放ちレーザーの威力を消滅させると再度言い放つ。
「『死にたくなけりゃあ、早く逃げろ!』」
あのレーザーを見て誰かが悲鳴を挙げた途端、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す生徒達。先程守られた2人は事を理解し、避難誘導を始めた。
勇はアリーナ内に降り立ち、唖然としている一夏と鈴を無視しつつ謎のISと相対する。
相手のこの選択は、後に大きな出来事となる事に気付いていない。
───貴女……悔しく無いんですか!?今の世界が、このISにとって本当に良い時代だと本気で思ってるんですか!?
───思って無い!思うわけが無い!今すぐにでもこの世界をもう一度潰したいさ!
───じゃあ何でそれをしない!?なぜ行動に移さない!?なぜ変えようとしない!?当ててあげましょう!貴女は怖いんだ!今という世界での、自分が望む世界を、作り上げる自信が無いからだ!
───いい加減その口を黙らせろよ!そこまでして怒らせたいのか!?お前なんか、お前のISなんか!どうにでも出来るんだぞ!
───……無駄ですよ。貴女は僕に勝てない。
───何だと!?
───既に停止システムを
───知ってるさ!けど凍結までは知らなかったなぁ!何時の間にしたんだよ!?
───もうとっくに!この子が真に目覚めた時から!既に貴女のコンピュータに潜み、この子がしたんですよ!
───なッ………………!?
───僕は……この今を変えたい!家族の為でもない!自分の為でもない!あの人達の為でもない!僕は自らの運命を受け入れた!この世界を変える為の運命を!そして遂に完成した!
───これで、全てが変わるんです。
───それは…………!
───僕はこれで世界を!この時代を終わらせる!貴女が望んだ宇宙開発にも!身近な仕事でも!IS競技でも!家族にもなれるんです!この種子が、全てを変えるんです!
───…………そんな世界、訪れるわけが無い
───何もしていない貴女が言えますか!?僕はこれを実行させる!そして成功させる!その信念がある!諦めてしまった貴女に、何が言える!?
───じゃあしてみろよ!それだけ大口が叩けるのなら!今すぐ!
───言われなくてもします!これは僕が望んだ
地下ドームでの、ある少年とある兎の約束。