生徒会室にて。主に学園に侵入してきたISに対する書類が占めているが、その中には勇がロアーによって起こした被害も僅かながら含まれている。
流石に勇自身のものは楯無が行い、その他のものを虚の指導のもと書類を終わらせていくのだが……
「虚さん、新聞部の活動詳細お願いします」
「かなり偏見などが含まれますが、宜しいですか?」
「構いませんよ。意外に偏見が正しい事もありますからね」
「では…………こちらを」
先月号の新聞を勇に差し出すと、それを受け取り内容をあらかた確認していく。
「捏造常習が主に目立つ部活です」
「……そういや、電話に出てて歓迎パーティー出てなかったや。セシリアさんが言ってた様な……2年の黛さんに捏造されそうになったって」
「会長の対応では部費を現在のまま維持、しかし他の部活より費用は少ないため新聞部からは部費の増加を求めております」
「………………少し部費を上げますか」
「えっ!?」
「いーさん!?」
「……何をお考えで?」
「部費を増加させる代わりに幾つかの契約を結んでもらいます。相手方が要求を呑まなければ部費は減少、良くて現状維持にさせます。会長もそれで宜しいですか?」
「……そこまで大口を叩けるなら、良いわよ。やってみなさい」
「会長!」
「感謝致します、会長」
手元にあった書類を裏返し、新聞をキチンと畳んで虚に渡すと勇は仕事を続けた。虚は元の場所に新聞を戻すと楯無に近付き、耳元で囁く。
「会長、何を仰ってるんですか貴女は?幾らなんでも副会長とはいえ新人ですよ?」
「かもね。けど見なさいな」
楯無が勇を指さし虚もそちらに目線を向けると、かなりの早さで仕事を終わらせていた。既に書類が片付かれており、残るは新聞部の部費問題のみである。
何時の間にかノートPCを持ち制作している様子、契約内容を脳内で考えつつある程度の選択を素早く終えると待機状態のフェンリルを呼び出す。
『わふっ』
「あー!わんちゃんだ〜!」
「フェンリル、データを送るからホログラム化の方をお願い」
『わふっ!』
勇が制服のポケットから接続アダプタを取り出し、ノートPCと繋げるとそこから暇そうになった。
そんな勇に楯無が問いかけてくる。
「勇君、色々聞きたいんだけどさぁ……まずノートパソコンは何処から?」
「フェンリルの量子格納域に。他にも予備エネルギーとかありますけど」
「そう……それと、フェンリルちゃんのその機能は何かしら?ホログラム化って聞こえたけど?」
「言葉の通りですよ。……っと、終了したので新聞部に向かいます」
「…………いってらっしゃい」
一礼した後にフェンリルを待機状態にさせて新聞部に向かう勇、ちょうど本音がモフっていたが中断させられた為か向かっていった勇を追いかけて行った。
深く息を吐いた楯無が頭を抑えて呟く。
「これは……また違ったタイプね。
違った意味で
結論から言って、新聞部には幾つかの条件を呑んだ事で多少ながらも部費を増加させることは可能になった。しかし勇は契約時にフェンリルの録音機能を使い、もしも違反を犯したがしらばっくれようとすると録音させた会話を流すと言って終えた。
既に一連の作業を終えた生徒会は一時の休息を味わっていた。本音はフェンリルをモフり、楯無と勇は虚の淹れた茶を味わっていた。
「…………かなり手の込んだ事をするのね、君も」
「……お互い様ではありませんか?更識楯無さん」
一瞬にして空気が緊迫した。同時にフェンリルも立ち上がり威嚇として唸り始めた。
「……どういう意味かしら?」
「更識家。主な活動は
フェンリルがさらに唸る。そんなフェンリルの頭を軽く撫でると、話を続ける。
「『楯無』……この名は本来、更識家当主のみに受け継がれる名です。そうですよね?」
「……喋った事は、あったかしら?」
「寝言を聞いてたかもしれませんよ?」
向けられる笑顔の中に、とてつもない【冷たさ】を感じる。何を考えているのか分からず、何が目的なのか分からない。
正直に言えば、楯無や虚が見たプロフィールには無いデータだ。勇自身の本意を知ろうとしても、その冷たい視線に何も言えない。
その緊迫した状態を、勇は椅子から立ち上がる事で消えさせた。
「あ、そうでした。休みに明石重工に一旦帰りますので、御迷惑がかかると思います」
「あら気にしないで。仕事ぐらい何て事無いから」
「ありがとうございます。あ、虚さんの淹れたお茶美味しかったです」
「……それはどうも」
「では僕はこれにて」
フェンリルを待機状態にさせて生徒会室を出ていく勇。残された3名は、少し
「……会長」
「分かってるわ。あの目、何かおかしい」
「…………?」
本音が首を傾げる。それを見た虚が尋ねた。
「本音、どうかした?」
「…………ねぇ、お姉ちゃん
この部屋、寒くない?」
■□□□□□□□□□
部屋に着いた勇はフェンリルを呼び出して撫でる。嬉しそうに目を細めるフェンリルを見つつ、勇はスマホを取り出してとある人物に掛ける。
数回のコールのあと、相手は着信に出た。
〔もしもし〕
「唐木さん、尾崎です」
〔あれ、どうした?〕
「いえ、少し休みが出来るので1度重工の方にと」
ちょうどその時、部屋のドアがノックされる。誰かと思い匂いを嗅ぐとセシリアだという事が判明した。
「すみません唐木さん、また連絡いれます」
〔ん、おぉ。分かった〕
「では失礼します」
電話を切るとスマホをポケットに入れ、部屋のドアを開ける。その前にはセシリアがおり、少し照れくさそうな表情をしていた。
「どうされましたか?セシリアさん」
「あ、いえ。その……勇さんにお聞きしたい事が御座いまして。
今度の長期休暇の際、勇さんは何処か出かけるご予定はありますか?」
「1度明石重工に戻ろうかと。少しばかり用事が出来てしまったので」
「そ、そうですか……!あの、勇さん!」
「?はい」
「私も御一緒して宜しいでしょうか!?」
6月の上旬。学園の外はやや曇り空であったが、駅から降りると雨が降っていた。梅雨の時期というだけあって少し湿った空気が辺りを漂わせ不快感を募らせていく。
だがセシリアには関係無い。それもこれも尾崎勇という
決して良い顔立ちという訳では無いが、笑顔や行動に伴う優しさが心に響いたからこそセシリアは惚れたのだと考える。現に今も“相合傘”をしているのだが、勇はセシリアが濡れない様にしている。自分の事は気にしていない様子であった。
そんな勇だがセシリアも勇の肩が濡れている事を気遣い場所を譲るのだが勇はその好意を受け取る事はせず、あくまでも女性が濡れてしまうことに抵抗を覚えている事への対応だと説明するもセシリアも意固地である。
そんなセシリアを見て勇はため息をつき、少し謝罪をするとセシリアの肩を掴み抱き寄せる。これにはタジタジのセシリアだが勇が理由を述べると心臓に悪い状態のまま明石重工に向かうのであった。
その様子を見ていた通行人からは血涙や妬ましい視線、驚愕する視線などが主に目立っていた。
「………………」
「……あの、勇さん?」
「…………ん、はい。何か?」
「いえ、何に集中してらしたのかと思いまして」
「あぁ…………いえ、何もございませんよ。セシリア嬢」
何時もの笑顔を向ける勇。しかしこの雨の中、何か思い出す事があるのか何かを考え続けていた。
そうこうしている内に、大きなビルに到着する。雨よけのある場所で勇が自身の傘を閉じるとセシリアに手を差し出す。
「エスコートでも如何ですか?セシリアさん」
「あ、ありがとうございます……」
戸惑いながらも勇の手を取るセシリア。接待の行き帰りする営業人である女性が行き交う所を、手を繋いだ2人が会社へと入っていく。その2人を見かけた女性陣は物珍しそうな視線を向けていた。
受付の方へと向かうと、勇は慣れた状態で受付嬢に話しかける。
「すみません、代表取締役とお会いしたいのですが」
「あら、尾崎君じゃない。久し振りね」
「何時もお勤めご苦労様です、新島さん」
「ふふっ……あら?そちらは…………彼女さんかしら?」
「ッ!?くぁwせdrftgyふじこlp!」
「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコット嬢ですよ、新島さん。彼女も1度明石重工に訪れたいと言われたので、連れて来ても大丈夫だと」
「あー……うん、そうだよね君は。それより社長室の方だよね?少し待ってて」
受付嬢の新島は2人分のICカードを渡すと受け取った勇は1つをセシリアに渡し、もう1つを自身の首にかける。再度エスコートをして、受付嬢の2人に会釈したあと社長室へと向かって行く。
社内エレベーターで最上階に向かう勇とセシリアだったが、途中幾つかの階に止まったりして少しばかり時間が掛かってしまった。しかし乗り込んだ女性社員全員が勇とセシリアを物珍しそうな視線を向けられていた。
そして時間が少しばかり経過し、漸く最上階である32階に到着すると何の躊躇いも無く歩き続け大きな扉の前に立つ。扉の近くに備え付けられたベルを鳴らすと声が届く。
『はーい。ちょっと待っててー』
通信が途絶えると、すぐに扉が開かれる。ゆっくりと開かれるその扉の先には近未来的なデスク、来客用のソファ。ガラス張りの壁の両隣に木製の壁で出来た部屋が目の前に現れた。
呆気に取られるセシリアの肩を軽く叩き意識を戻させると、近未来的なデスクの上に座っている女性の元まで歩み寄る。
「久し振り、勇君」
「お久し振り……では無いでしょう。つい先日話したばかりなんですから」
「それもそっか。……所で、そちらの彼女が?」
「せ、セシリア・オルコットと申します!」
「ははっ、そんなに緊張しなくても良いですよセシリアさん」
「緊張しない方が可笑しいと思われますが……」
「あーこの子に緊張なんて無いよ。初めに旦那がこの子を社長室に通らせた時から、ずっとこんな感じだから。ささっ、何も無い所だけど座って座って」
ソファを示して2人を座らせたあと、唐木社長が机に触れる。すると立体映像が飛び出し話し始めた。
「ほ、ホログラム技術!?」
「ご明察。我々が開発し、現在社内試験段階中のホログラム技術で御座います。何てね」
今度は勇が前の机に触れると、またもホログラム化された映像が出現する。慣れた手付きで操作をし始める勇を、驚いた表情で見るセシリア。
「まぁこのホログラム技術も、ウチが先進的に進めてるからね。支援する投資家が多いのなんの。おかげで特許出願が現実になるよ」
「まだ実用段階ですら怪しいホログラム技術を……それに、勇さんも慣れた様な手付きで……」
「あ、言ってないのね。実はフェンリルにもホログラム技術を組み込んでるのよ?」
「ゑっ!?」
「……ん?すみません2人とも、少し通話します」
待機状態のフェンリルからワイヤレスタイプの通信機を耳にかけると、通話を開始する。目の前の映像に映し出された人物と話しているが、セシリアからは黒い映像しか映し出されていない。ましてや唐木と勇以外の声は聞こえていない。
「はい……、了解しました」
通話を終了させると、席から立ち上がる勇。
「何の用件?」
「【スレイプニル】です」
「あーらら……早く済ませなさいよ。こんな可愛い子待たせるのは最低だからね、本当は」
「了解」
大きな扉を出ていく勇。その後ろ姿を見届けたセシリアの前に唐木社長が座る。
「いやーごめんねセシリアちゃん。彼も少しワケありでね、外せない用事が出来るの。許してくれないかしら?」
「い、いえ!勇さんが忙しい中とは知らずに来た私が!」
「ありがとう。……それにしても、良かった」
セシリアは唐木の言葉に首を傾げる。
「あの……何が、良かったのか聞いても宜しいですか?」
「少しだけならね」
扉が開かれると、秘書らしき女性が紅茶を2つ持ってきた。それらをそれぞれの前に置くと一礼して退室していく女性。その紅茶を1口だけ飲んだあと、唐木は話した。
「……彼にこんな可愛い子が来てくれた事よ」
「か、可愛いだなんて!そんな……!」
「あの子、色恋沙汰に
「……自分から?」
「ええ、自分からよ。それが……初めて私の前に連れて来た女の子が、まさかの代表候補生か……。ねぇねぇ、彼の何処に惚れちゃった?」
「ふぇっ!?」
それから暫くの間、セシリアは唐木社長に弄られっぱなしになって顔を赤面させていた。
時に勇の過去を聞いて、暗い雰囲気になる中で。
───【スレイプニル】の件は?
───あぁ、勇君。実は自律稼働の方で若干ガタが来ていてね……どう思う?
───…………成程、自立稼働を長時間続けた弊害で演算処理系統に遅れが出てますね。ログからは連続稼働で持って2時間、クールタイムが済んで無い所からして数時間程の間隔が必要か。はたまた悪くて1日2日か。暫く様子見でスレイプニルの稼働を中止、経過観察の方を3名配備させて下さい。
───うっし、任された!
───精が出るねぇ、厄災様よ。
───……オータム、警護と確認の方は?
───交代済み。お前がやってくれた【アラクネ】には異常なしさ。
───なら就寝を早急に、これから忙しくなりますので。
───はいはい。じゃあな。
───お帰りなさいませ、お父様。
───……まだ直して無かったのか、あの兎。
───直す……とは?
───貴女が僕を呼ぶ敬称のことですよ。僕は貴女の父親ではない。ましてや、あの兎と恋仲になる訳がないし婚姻関係になる確率は0%です。
───……お父様は束様の事はお嫌いなのですか?
───嫌いというより面倒なだけです。今は
地下研究所での多くの関わりと、新たな力。