新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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第二部最終章です。
アニメ軸を混ぜて書いていたものを、原作漫画設定で書き直しています。
元からⅠ世たちの出番はなかったので、その辺は気にしなくて大丈夫です。


六章:最終決戦にて
壊される機会


 並盛町への帰還は、行ったときと同様に乱暴なものだった。

 身体を引っ張り上げられたあとに落とされるので、どうしても着地時に衝撃を受けてしまうが――

 

(よし、着地成功)

 

 二回目ならば慣れたものだ。難なく立ち上がった利奈は、派手に転倒しているハルに手を差し伸べた。

 

「ハル、スカート」

「はひっ、またですか!?」

 

 小声で指摘すると、ハルは膝丈のスカートを押さえながら顔を赤くした。

 そんなハルを引き上げながら、基地ユニット内のみんなの安否を確認する。

 

 正一は寝そべっていたので変わりはなく、リボーンは立ったままの体勢を維持している。一方ユニは、アルコバレーノのボスだから余裕かと思いきや、ハルと同じようにしりもちをついていた。

 

「えっと、大丈夫?」

 

 一般人が気軽に話しかけていいものなのだろうかと逡巡しながらも、上から声をかけてみる。

 

「はい。でも、この子が」

 

 ユニが足をずらすと、その下からランボのモジャモジャ頭が飛び出した。

 運悪く、転んだユニの下敷きになってしまったらしい。クッション代わりにされてしまったランボは、泣いてはいないものの頬を膨らませていた。

 

「踏んじゃってごめんなさい」

 

 穏やかにユニが謝罪するが、立ち上がったランボは目をつり上げていた。

 

「今度はランボさんが踏んじゃうもんね!」

 

 小さな足をユニの膝に乗せ、グニグニと動かす。

 まったく力のこもってない踏みつけと、それでお相子にしようとするランボの子供らしい姿に、さっきまでの緊迫感を忘れて和んでしまう。

 

「ユニさん」

 

 リボーンに安否確認されていた正一が、唐突にユニの名前を呼んだ。

 

「超炎リング転送システムは、あれ以外にもあるのかい?」

「いえ、確かあれひとつです」

「よし、いいぞ! それなら――」

「怪我人が叫ばない!」

 

 重傷者の正一が声を張り上げたものだから、それを凌ぐ声量で利奈は叱りつけた。

 

「ヒッ!?」 

 

(びっくりしたのはこっち!)

 

 出血が止まってるとはいえ、大声を出したら傷に響く。

 内臓に損傷があったら後遺症が残る可能性もあるし、病院で診てもらうまでは絶対安静だ。それに、万が一傷口が開きでもしたら、そのまま出血多量でショック死してしまう可能性だってある。

 

「ごめん、その説明だけで胃が悪くなりそう……」

「精神的なものなら死なないです。小声で言ってください、伝えますから」

 

 正一の申告をぴしゃりと跳ね除け、声を聞き取るために膝をついた。

 

「外の綱吉君たちに、あの転送システムの破壊をお願いしてほしい。そうすれば敵も追ってこれないはずだ」

「転送システムの破壊ですね。わかりました」

 

 とはいえ、転送システムは巨大なうえに空に浮いている。破壊に成功したところで、それが町中に墜落してしまったら、甚大な被害が出てしまうだろう。そうなると一番恐ろしいのは並盛町を愛する恭弥による報復だが――とりあえずは白蘭たちの足止めが優先だろう。

 ユニを手に入れるためならば、町ひとつ平気で破壊しかねない。

 

 外にいる綱吉たちに正一の言葉を伝えると、隼人が一番に匣を手に取った。

 

「そういうことなら俺に任せてください!

 炎が吸収されるんなら、新兵器の実弾を使いますから!」

「ニャ!」

 

(かわいい!)

 

 匣から猫が飛び出した。追加で数個の匣を開けると、見るからに強力そうな武器が隼人の左腕に展開された。髑髏をかたどった発射台に、手のひらよりも大きなミサイル。明らかに攻撃専門の武器だった。

 

「獄寺君の匣兵器、初めて見る!」

 

 幻騎士が負けたところで退席してしまったから、隼人が匣兵器を使う場面を見逃している。目に見える外傷がないところをみると、二人と同じくらい強い武器だったのだろう。

 何気なく呟いた利奈だったが、それが耳に入った隼人は激怒した。

 

「ああ!? なんだてめえ、皮肉か!?」

「えっ?」

 

 ――チョイス戦で隼人が使った匣兵器は、瓜だけである。

 桔梗の作戦にまんまと嵌められ、ほかの匣を開くことさえできずに敗れた隼人にとって、利奈の言葉は喧嘩を売っているようにしか聞こえない。

 

「なんで急に怒ってんの?」

 

 もちろん利奈はそんな経緯など知る由もなく、突然怒り出した隼人にキョトンとした。元からキレやすい人なので、自分に落ち度があるのには気付けない。

 そして隼人も、利奈たちが途中から試合を見ていなかったことなど、察せるはずもなかった。

 

「ご、獄寺君! 今はとりあえずあれを壊してくれるかな?」

 

 すれ違いからの口論に発展する直前で、すかさず綱吉が隼人の軌道を修正させた。

 言いかけた言葉をぐっと飲みこみ、隼人は左腕を構える。

 

「十代目のご命令とあれば。……あとで覚えてろよ、風紀女」

「だからなんで!?」

 

 心外の利奈を置き去りにして、ミサイルが発射される。

 煙を上げながら空へと昇っていったミサイルは、見事に転送装置へと着弾した。

 

「……」

 

 それを、恭弥が渋い顔で見上げていた。

 山の方に向かっているから民家に落ちることはないだろうが、どこに落ちようが被害は出るだろう。この時間なら目撃者も多いだろうし、UFO騒ぎに発展するかもしれない。

 ボンゴレファミリーがなんとかしてくれるだろうが、事後処理の手間を考えると、利奈まで胃が痛くなりそうだった。

 

 しかし、幸か不幸か、転送装置が墜落することはなかった。

 攻撃を受けて落下するだけだった転送装置が、落ちる前にその姿を消してしまったのである。

 あれだけのダメージを受けていたにもかかわらず、白蘭たちの元へと戻った転送装置は、最後の力を振り絞って彼らを並盛町まで連れてきてしまった。

 

(せっかく無人島に置き去りにできそうだったのに……!)

 

 装置自体は空中で爆発したものの、その直前にむっつの光が四方に飛び散っていった。

 その光のひとつが並盛中学校のある方角へと流れ、真っ先に恭弥が走り出した。

 

「俺は恭さんについていく! お前はボンゴレの皆さんと行動しろ」

 

 帰還を知って迎えに来ただけのはずの哲矢が、すぐさま恭弥のあとを追う。

 この時代の哲矢は恭弥を恭さんと呼ぶので、顔が同じでもわかりやすい。

 

「俺も行くぜ!」

 

 恭弥の師匠だからか、ディーノも名乗りを上げた。

 綱吉は不安がったけれど、もし学校へと飛んでいったのが白蘭だった場合、恭弥と哲也だけでは荷が重いだろう。それに恭弥は通信機をつけていない。連絡役も必要だ。

 階段を降りずに落ちていったディーノだったが、運よくロマーリオがやってきたので、ロマーリオを連れて走っていった。

 

「すみません。皆さんには迷惑をおかけします……」

 

 安全なアジトへと退避すると、ユニは申し訳なさそうに頭を下げた。

 みんなは迷惑だなんて思っていなかったし、悪いのはユニではなく白蘭だ。

 とりあえず正装から着替えようということになって、一旦みんな自室へと戻った。

 

(着替え、着替えかー。ルッスーリアがたくさん買ってくれたから服はいっぱいあるんだけど、サイズがなー。

 ズボンは長さの問題があるし、スカート……そうだ、ワンピース。あとは長袖でいい感じのがあれば……)

 

「あの、私はなんでも構いませんので」

 

 キャリーバッグを漁っていたら、ユニに控えめに声をかけられた。

 ユニの着替えも探すとビアンキが言っていたので、それなら袖も通していない服がたくさんあるからと、利奈が服の提供を引き受けたのである。

 とはいえ、ユニとは身長差があるので、ちょうどいい丈の服が見つからなくて困っていたのだが。

 

「服の好みとかある? ユニさんに合う服があればいいんだけど」

 

 見るからに年下な女の子にさん付けするのは違和感があるけれど、肩書きが肩書きだけに、さん付けせずにはいられなかった。

 敬語で話した方がいいのではとも思うけれど、ほかのみんなが揃ってタメ口ななかで敬語を使うのも悪目立ちするので、そこはみんなに合わせた。言葉遣いを気にするようには見えないけど、ちょっとは気になる。

 

「普段はどんな服着てる?」

「普段……。ワンピースが多かったですね」

 

 少し考えてから、ユニは答えた。

 

 今のユニはミルフィオーレでの正装なのか、大きな帽子とマントを着用していて、その下は丈の短いトップスとショートパンツ、そしてロングブーツを履いている。

 正装にしてはラフというか、肌の露出の多い格好だけど、服と靴が黒で、マントが白。そして帽子が黒と白のカラーリングなので、統一感が取れている。胸元にある橙色のおしゃぶりも、それを垂らすリボンとともにいいアクセントになっていた。

 

(ブラックスペルのボスだから黒い服……なのかな。ちょっとあの人たちとは服の雰囲気違うけど)

 

 ユニにあの隊服は似合わないだろう。もっとかわいらしい、それこそ白のワンピースなんかが似合いそうだ。

 残念ながらかわいらしい系統の服はないので、シンプルな薄紫色のワンピースを引っ張り出す。

 

「これとかどう? 無地の服でも柄物の服でもいけるけど」

「はい、それで。ありがとうございます」

 

 そう言ってにっこりと笑うユニの笑顔は、とてもきれいだった。綱吉が顔を真っ赤にしてしまうのも納得の可憐さである。

 

(それなのにマフィアのボスだったなんて……なんか、信じらんないな)

 

 ブラックスペルの前身であるジッリョネロファミリーのボスだったのならば、ランボを傷つけ、利奈を攫ったγたちの親玉であるということである。にもかかわらず、ユニの笑みには穢れが一切なかった。彼女はなにも知らないのだろうか。

 ついまじまじと顔を見ていたら、ユニが不思議そうに帽子を揺らした。

 

「どうかしましたか?」

「えっと、前に――」

 

 γの名前を口に出しかけた利奈は、すんでのところで首を振った。

 

「なんでもない! 服探すね」

 

 会話を中断するために服探しを再開する。

 

(あっぶない、γたちが人質になってたの忘れてた……!)

 

 ユニに着せる長袖の服を探しながら、心の中で冷や汗を流す。

 

 白蘭はユニの部下の命を人質にして、彼女の自由を奪おうとした。

 それでもユニは白蘭に屈さず、そんなユニの覚悟を見て、綱吉は彼女の手を取ったのだ。それなのに、部外者の利奈が波紋を広げるわけにはいかない。

 

(ランボ君に大怪我させたのは許せないけど……ユニはずっと白蘭に操られてたし、γたちも白蘭にユニを人質に取られてた。だから、恨みつらみは全部白蘭にぶつけよう。うん、全部白蘭のせい!)

 

 それに、ここでユニに負の感情をぶつけたところで、気が晴れはしないだろう。むしろ、もやもやとした罪悪感が募るに違いない。

 今はとにかく、彼女を白蘭から守り切ることだけを考えるべきだ。

 

「これとこれだとどっちがいい? どっちも腕まくれるよ」

「……では、こちらを。なにからなにまでありがとうございます」

 

(うっ……!)

 

 まぶしい笑顔はドロドロした感情に響く。

 結局、罪悪感を抱く羽目になりながらも外に出ようとした利奈は、そこでまたしても気が付いた。

 

(別にみんなのところ行かなくても、ここで着替えちゃえばいいんじゃない?)

 

 服を見繕うのに時間がかかったし、もうみんなも着替え終えているだろう。

 思いついた提案を伝えようとした利奈だったが、聞こえてきたブザー音に動きを止めた。

 

「なに? ――きゃあ!」

「っ!」

 

 直後に起こった轟音に、二人は揃って身を竦めた。尋常ではない爆発音が数度に及んで響く。

 

(敵襲!)

 

 利奈はすぐさま、ベッドわきに隠していた金属棒を手に取った。

 いついかなるときも武器は手に取れるところに置いておけという、スクアーロからの教えを遵守していたのだ。

 

「様子見てくる。貴方はここで待ってて」

「そんなわけには! 私も一緒に行きます」

「白蘭たちかもしれないから。だれか連れてくるまで、ユニはここに隠れてて!」

 

 ほぼ間違いなく敵襲だろう。音の規模からいって、アジト内の壁が崩れた音である可能性が高い。

 敵の目標はユニの略奪だから、彼女の居場所を知られるとマズいことになる。それに、ユニの身の安全を守るには、最低でも守護者を一人は連れてこなければならない。それか、外部に助けを求めなければ。

 

「ちょっと様子見てきたらすぐに戻るから! だからここにいてね! お願いします!」

 

 ユニはまだ納得していなかったが、有無を言わさずにドアを閉める。

 部屋に鍵はかけられないから、彼女が痺れを切らす前にだれかをここまで連れてくる必要がある。

 利奈は数度深呼吸をすると、武器を握り締めながら足を踏み出した。

 

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