新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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復帰早々問題だらけ

 ようやく学校に復帰できる日がやってきた。

 真新しい制服に身を包んだ利奈は、感慨深さを抱きながら時間を確認する。待ち合わせの時間より少し早く着くように家を出たので、時間通りの到着だ。

 

(貰った服とかは全部だめになったけど、これと髪飾りは持って帰れてよかったー)

 

 髪飾りは髪が短くなったから使えなくなってしまったけれど、腕時計は肌身離さず持ち歩ける。

 ルッスーリアたちからもらった時計はシンプルなデザインだったので、中学生の利奈がつけていても違和感がない。偶然だろうけれど、ベージュの制服にピンクゴールドの時計は色合わせが完璧だった。

 

(昨日は帰ってから勉強たくさんしたし、テレビで最近の話題も確認したし、大丈夫なはず!)

 

 検査の結果は異常はなしで、予定通り昨日に退院できた。

 家に帰るなり勉強机にかじりついた利奈に、母はむしろ呆れたような顔をしていたが、本人は必死だった。

 なにせ、金曜日から日曜日のあいだに、数か月分の余白が存在しているのだ。

 暗殺の勉強に躍起になっていた時期もあって、学校で勉強したことなどすっかり頭から追いやってしまっていた。

 

(期末テスト前とかじゃなくてほんとによかった……。赤点なんて取ったらなにされるか……)

 

 風紀委員仲間の顔を常に思い浮かべながら復習したおかげで、なんとか半日で元のレベルまで思い出せた。あとは学校で、三日分の授業ノートと宿題を片付けるだけである。

 

「利奈!」

 

 呼びかけの声で顔を上げる。

 今日は京子たちと一緒に学校に行く約束をしていた。京子とともにやってきた花を見て、利奈は顔を輝かせる。

 

「花!」

「おはよー……って、わっ」

 

 懐かしい級友の姿に飛びつくと、花が大きく仰け反った。それにもかまわずに背中に両腕を回す。

 

「どうしたの。あんた、そんなキャラだったっけ?」

「だって、久しぶりだったから。会いたかったよー!」

「大げさ。そんな経ってないでしょ、もう」

 

 呆れた声とともに、グググと押し返される。

 利奈にとっては数か月ぶりだが、花からすればたった数日後の再会だ。そっけない態度だけど、それがなんだかとてもうれしかった。

 

「なんか、いろいろあったんだって? 見舞いしようにも、あんた面会謝絶だっていうし。

 それで、体とかどうなの?」

「全然平気!」

 

 未来でいろいろな目に遭わされたものの、すべて治癒済みだ。リング争奪戦で受けた腕の刺し傷は、もう傷跡すら残っていない。

 そう考えると、未来に行ったことで逆に健康になったともいえる。

 

「ほら、そろそろ離れなさい。京子がお待ちかねよ、抱き付くならそっちにして」

「え。あー……そだね」

 

 花から体を離し、京子と目配せを交わす。

 この前まで一緒に暮らしていたのもあって、懐かしさは皆無である。

 

「私はいいよ。元気ってわかっただけで充分だし」

「なによそれ」

「ほら、行こ」

 

 納得がいかなそうな花を取りなしつつ、三人並んで学校へ向かう。

 いつもは委員会活動で早朝に登校しているから、この時間帯は久しぶりだ。

 当たり前のように並中生の姿が多いし、久しぶりの学校だから、とても新鮮な気持ちになる。

 

「そういえば、日曜の話だけどさ」

「日曜?」

 

 なにかあっただろうかと記憶を探った利奈は、先週の日曜日――つまり、未来から戻ってきた日に果たされるはずだった約束を思い出す。

 

(日曜日、ケーキ食べに行く約束してたんだった……!)

 

 京子は月に一回、自分感謝デーとして、ケーキを好きなだけ食べる日を設けている。

 そのときに利用するケーキ屋さんのミルフィーユがとても美味しいからと、先週の日曜日に三人で食べに行く約束をしていたのだ。

 

「その反応、完全に忘れてたでしょ。無理もないけど」

「あはは……」

「京子も忘れてたのよ。まったく、相変わらずぼーっとしてんだから」

「えへへ」

 

 しょうがないわねとあきれる花も、まさか忘れてしまった理由が二人とも同じだとは思うまい。花にばかり負担がかかっているのは申し訳ないが、こればかりはどうしようもない。

 

「どうする? 来週行く?」

 

 学校や町内で行事がなければ、休日の委員会活動は休みということになっている。

 前もって予定があると伝えておけば、急に呼び出されることもないだろう。

 

「うん、花ともそう話してたの。それでね、せっかくだからハルちゃんとクロームちゃんも誘ってみようかなって」

「え?」

 

 思ってもみなかった提案に驚いて、つい花に目をやってしまう。

 

「いや、私はどっちも知らないけど。あんたたちの友達なんでしょ? 呼びたいんならいいんじゃない?」

「どうかな? みんなで食べたらもっとおいしいと思うんだ」

「私も思う! え、呼ぼう、呼ぶ!」

 

 素晴らしい提案に一も二もなく頷くが、ふと、ある疑問を抱いた。

 

「京子はハルとクロームの連絡先、知ってるの?」

「あ。そうだ、クロームちゃんの電話番号知らなかった」

「あんたねえ」

 

 知らないあいだに連絡先を交換していたのかと思いきや、そうではなかったらしい。

 でも、ハルの連絡先がわかるのならなんとかなるだろう。

 クロームが黒曜ランドにいることはわかっているし、直接出向いて話をすればいい。

 

「利奈が家知ってんなら、なんとかなりそうね。黒曜中に緑中――どこで知り合ったの?」

「なんかこう、なりゆきで」

「どういうなりゆきよ」

 

(来てくれるといいな、クローム)

 

 内気だから人見知りするかもしれないけれど、未来で仲良くなった京子とハルがいれば、少しは安心してくれるだろう。花も無理やり距離を詰めたりはしないだろうし、ケーキを食べるくらいならなんとかなりそうだ。

 まだ来ると決まってないのに、日曜日が待ちきれなくなってくる。

 

「楽しみだなー。ミルフィーユ以外も美味しいんだよね?」

「うん! シュークリームとかチーズケーキもおすすめだよ。

 みんなで違うの頼んで分けっこしよっか」

「する! あー、楽しみすぎてどうしよ、日曜までおやつ我慢しといたほうがいいかな!?」

「はしゃぎすぎ。それよりも学校のこと考えなさいよ。三日も休んでんだから」

「う゛えっ」

 

 唐突に現実に引き戻され、利奈は潰れたような声をあげた。

 綱吉によればそこまで大事にはなってないそうだが、それでも少し躊躇いはあった。

 

「心配しなくても、悪目立ちすることはないと思うわよ。あんたよりもっと目立つのが来たから」

「ああ、転校生が来るんだったっけ。昨日?」

「昨日。すごかったわよー」

 

 先日の地震騒動の余波は、被害のなかったこの並盛町にまで流れてきている。

 震源地付近の地域では、余震の影響で学校が一斉休校になっていた。

 このままでは地域格差が生まれると懸念した自治体はそこで、地震の影響が少ないいくつかの地域に分けて、休校になっている学校の生徒を一時的に転校させることにしたのだ。

 そのうちのひとつに、並盛中学校が選ばれたというわけである。

 

(選ばれたっていうか、選ばせたって感じかな。学校の宣伝にもなるし、ヒバリさん進んで引き受けそう。

 ……って、だめだ私、ヒバリさんが選択権持ってるの当たり前みたいになってる)

 

 未来での影響力を垣間見てしまっただけに、現在の恭弥にまで同じ影響力があるように考えてしまう。とはいえ、現在でも町内ならば影響力は絶大なのだから、まったくもって末怖ろしい人物である。

 

「私たちのクラスには二人来たんだよ」

「へえ。すごいって、二人ともすごいの?」

「目立つのは一人だけよ。もう一人は暗くて地味でいじめられそーなタイプ。

 そうね、なんて言ったらいいんだろ……」

 

 特徴を述べるべく花が思考を始めたが、すぐに諦めたのか、頭を振って語彙を霧散させた。

 

「あれは実物見たほうが早いわ。とにかく衝撃だから。見た瞬間、クラス中が静まり返ったから」

「そんなに……?」

「うん、私もびっくりしちゃった」

「ええ!?」

「そう、京子が驚くレベルよ……覚悟しときなさい」

 

 たいていは何事も笑顔で受け入れる京子が驚くほどの変わり者。

 見た目がすごいのか性格がすごいのか、いずれにせよ、会うのに覚悟がいりそうだ。

 

「あれ、なんか人集まってない?」

 

 時間ギリギリというわけでもないのに、校門付近がやけに人で溢れていた。

 みんな校舎へ向かうわけでもなく、足を止めて天を仰いでいる。

 

(上になにが――ってなにあれ!?)

 

 校舎の窓、いや、壁一面に横断幕がかかっている。

 黒い布地には白い字で大きく「粛清」と書かれており、登校してきた生徒の視線を集めている。そしてそこに向けられた視線は、次の瞬間さらに上、屋上に向かい――

 

「おい、あれヒバリさんじゃねえか!?」

「もう一人いるぞ! だれだあの女子生徒!」

「至門生だろ。つか、なにあれ、一触即発って感じ?」

 

 屋上の柵の――こちら側。足を踏み外せばすぐさま地上へと落下する場所で、二人の生徒が睨み合っていた。

 一人は言わずと知れた風紀委員長、雲雀恭弥。そしてもう一人は、その初めて見る制服からして、至門中学校の生徒だろう。

 

(ヒバリさん、なにしてんの!? あんなところで! しかもあんなところで!)

 

 最初のあんなところでは屋上で、次のあんなところでは彼らの立ち位置である。

 恭弥の学ランや女子生徒の髪のなびき方からして、屋上では強風が吹いている。少しでもバランスを崩したら、そのまま足を滑らせて地上へと真っ逆さまだ。いくら恭弥でも屋上から落ちて無傷とは思えないし、女子生徒の場合は命の危険もある。

 そのうえ、なにかを始めそうな気配が大いに漂っていて、地上の生徒たちは一様に騒めいていた。

 

「大変、落ちたら怪我しちゃうよ!」

「最悪、死ぬ高さじゃない? てか利奈、あれあんたの――利奈?」

「ごめん、ちょっと持ってて!」

 

 肩から降ろしたバッグを押しつけ、利奈は走り出した。

 

「え、あ、利奈! ちょっと!」

 

 呼びかけに応えずに、猛ダッシュで屋上へと向かう。

 外靴のまま階段を駆け上がる利奈を、仰天した顔の学生たちが見送る。彼らは屋上での騒動を知らないようだ。

 

(早く止めなきゃ! あの人が大変なことになっちゃう!)

 

 当然だが、利奈は女子生徒の安否を心配していた。

 なにがあって屋上の外側で睨み合う事態に陥ったのかは知らないが、あのままだとバランスを崩すか恭弥に突き落とされるかで、あの女子が屋上から転落してしまう。

 

 いくらなんでも、衆目環視のもとで恭弥に人殺しをさせるわけにはいかない。せめて、屋上内に移動させなければ。

 未来の世界観にすっかり染まりきった思考回路で、利奈は校舎を駆け抜けた。

 




日曜日の約束は、第一部四章から持ち越しになってていた約束です。
二十九話で出た話なので……今から二年前に張った伏線ですね(狂気の沙汰)
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