新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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改稿前の長編にはない話ですが、せっかく原作で風紀委員が出ていたので、新しく書いちゃいました。前後編です。


三章:風紀委員の仕事ですか?
ショバ代の徴収


 

 

 並盛町では、八月に神社の敷地内で夏祭りが行われている。

 朝のうちから屋台が並び、夜になると花火も打ち上げられるので、例年たくさんの人で賑わうらしい。

 利奈もその祭りに来ていたが、その表情は澱んでいた。

 

「なんで祭りでまで学校の仕事してんだろ……」

 

 利奈は祭りに遊びに来たわけじゃない。

 その証拠に夏休みだというのに制服を着ているし、腕にはファイルと帳簿を抱えている。

 ついでに言うと集まった時間帯も早い。屋台の準備は整っているが、人もまばらで、祭りの雰囲気は漂っていない。

 

「お金の回収は売り上げの貯まる午後からですよね。だったらこんな早くに来なく――ふわ、ねむ」

 

 目じりをこすりながら苦言を呈する。

 祭りは昨日も行われていたため、連日の集金業務だ。

 昨日は初めてで不慣れだったのもあり、やたら動き回って体はくたくたである。そのうえ回収後すぐに中学校に戻ったので、花火も拝めなかった。やさぐれるのも無理はない。

 

「何件か報告があがっていたんだが、俺たちがショバ代を回収したあと、夕方ごろに、ひったくりが多発したようでな」

「え」

「屋台の店主を狙った犯行だ。売り上げを全部持ってかれたやつもいるらしい」

「ええ!? なんて気の毒な……!」

 

 ただでさえ、風紀委員に五万円徴収されたあとなのに。いや、徴収前に盗られるよりはましだったのかもしれない。ショバ代を払わなかった屋台は、容赦なく屋台を破壊されてしまうのだから。

 

(しかも今日も徴収するんでしょ。二日屋台出してるとこ、十万も払わなきゃいけないじゃん)

 

 とんだぼったくりだが、それでも屋台の申請は満員なのだから、よほど利益があるのだろう。風紀委員会も、集めたお金は活動費にするらしいけれど、そんな大金どこに使うつもりなんだろうか。癒着の二文字が頭をよぎる。

 

「俺たちがショバ代を回収している以上、ここは俺たちのシマだ。それを荒らすコソ泥は、徹底的につぶす」

「シマって言っちゃいましたね……」

 

 いよいよ暴力団と肩を並べてきているが、考えるのはやめておこう。利奈はあくまで、委員会活動に勤しんでいるだけだ。それは憤怒している仲間たちも同じだ。きっとそうだ。

 それに耳あたりよく言い換えれば、祭りで犯罪を犯す不届き物を、我々風紀委員で捕まえようという話である。

 

(だから祭り会場に早く集まったってことか。風紀委員がいれば、抑制力になるし)

 

 その弊害で一般の祭り客が恐がりそうなものだが、昨日の反応を見る限り、問題ないだろう。

 昨日まで忘れていたけれど、並盛中学校の風紀委員の実態は、並中生とこの町で商売をしている人以外には伝わっていない。それどころか、校外の見回りまでする熱心な委員会だという評判も、少なからずあるらしい。

 夏休みでも部活帰りに祭りに来る生徒もいるだろうし、顔と髪型にさえ目をつむれば、そこまで浮く存在ではないのだ。

 

(髪型がめちゃくちゃ柄悪いけどね。制服もほかの生徒と違ってズボンが変に膨らんでるし)

 

 いずれにせよ、窃盗犯には気を付けなければならない。風紀委員が回収したお金を狙うのはかなりリスキーだが、そのぶん高額だ。

 そして、狙われるとしたら、標的は利奈だ。考えるまでもない、むしろ自分以外が襲われる可能性など、これまでの委員会活動を踏まえれば、ゼロパーセントだった。

 

「そんなわけで、私は帳簿づけ頑張りますね。お金はどっちかが持っててください」

「わかった。昨日も言ったが、遊びじゃないんだから気を抜くなよ」

「了解です」

 

 家に帰って私服に着替えるまでが委員会活動である。腕章を腕に巻いている間は、常に人の目が向いていると思わなければならない。だから、縁日の屋台ではしゃぐなど、もってのほかなのだ。わかっている。わかってはいるが――

 

(浴衣着た同級生見ると荒む)

 

 こればっかりは仕方がない。夏休み真っただなかの縁日で委員会活動をしていると、心の中のなにかのメモリが減っていく。

 

 それでも、一日目にはたくさん食べ物をもらえたので、まあまあ満足はできた。

 お金を徴収したうえで商品までもらっているわけだが、圧力はかけていない。むしろ、食べ物は視界に入れないように頑張っているつもりだ。それなのに声をかけられたのが自分だけだったのは、腑に落ちていないけれど。

 

 早く来たものの、徴収の仕事は午後からで、牽制の見回りをするには利奈では力不足。

 そんなわけで、利奈は別作業として、回収先の調査役を仰せつけられた。

 

 事前に知らされた屋台順がちゃんと書面通りに並んでいるか、抜けている屋台はないか、屋台の営業許可は出ているか。そのあたりの調査である。

 それくらい祭りを管理する町内会でも確認しているだろうが、ショバ代を徴収するのだから、こちらでも調べておいたほうがいいだろう。とくに、屋台の配置などは客の入り具合にも影響する。勝手に配置換えをしていないかも見ておきたい。

 

(食べ物屋さんが多いな。人気なのは焼きそばとかかき氷だけど、最近は鳥皮餃子に電球みたいな飲み物もあるし、変わり種も試したくなっちゃう。それに金魚すくいや射的も遊べて楽しいし――ってあ)

 

 ちょうど射的がある、と思って目をやった利奈は、店主を見てギョッとした。

 祭りの朝にもかかわらず、まるで祭りが終わったあとのような暗い表情で商品を並べているのだ。客が来なくて落ち込むにしても、稼ぎ時はこれからだ。

 なにがあったのか聞いておきたいところだけど、昨日ここで回収をしたのは利奈の班である。ショバ代を思い出させるのも悪いので、そそくさと屋台の前を通り過ぎた。

 そしてチョコバナナの屋台に通りかかった利奈は、屋台で働く二人を見て声を張り上げる。

 

「山本君に獄寺君!?」

「ゲッ」

「おお、おはよ。早いな相沢」

 

 箱を抱えていた隼人が顔をしかめ、バナナの皮をむいていた武がにこやかに挨拶をする。

 

「どうしたの二人とも! なんで屋台に!?」

「んなこと、どうでもいいだろうが」

「ハハッ、この前、公民館の壁に穴開けちまってよ。その修理代稼がなきゃならねえんだ」

「なっ――言うんじゃねえ、このバカ!」

「そうなんだ……」

 

 屋台の責任者名は、町内会長になっている。町内会長の許可が出ているのなら、中学生が手伝いとして働いていても問題はないだろうが――

 

「なんで壁に穴開けたの? ボールでも当てた?」

「お、すげえな、当たり!」

「当たりなんだ……」

 

 武が打った打球なら、かなりの威力があっただろう。大会に向けて猛練習をしているところは校舎からも見えていたし、秋の大会が楽しみではある。

 

「そんなわけで、売上出さなきゃなんなくてさ。相沢も一本買ってかねえか? 四百円」

「え。ちょっと待って、財布あったかな……」

 

 屋台で遊ぶなと厳重注意されていたために、財布は持ってこなかった。それでももらったおつりとかをバッグのポケットに入れたりしているから、小銭ならあるものの――

 

「百三十円……」

「ありゃ」

 

 バッグをひっくり返しても、飲み物が一本買えるくらいしか入っていなかった。

 そもそも、チョコバナナ一本で四百円はちょっと高額だ。並んでいるバナナの大きさも普通だし、売れ行きが伸びるか微妙なところである。

 

「じゃ、それでこれ買ってくれよ」

 

 そう言って武が台の下から取り出したのは、先が少し欠けてしまったチョコバナナだ。

 バナナの断面が見えるし、チョコチップもついていない。

 

「失敗したのがあってさ。このチョコバナナ、百円で買ってくれよ」

「え、いいの!? ほとんど完璧なのに」

「普通には売れねえし。獄寺が失敗したやつだから、もらってくれよ」

「てめっ、なんで俺がやったって付け足すんだよ! お前だって折ってただろうが!」

「ん? でもこれお前が折った奴だろ?」

「わざわざ言うなって言ってんだよ! 自分がやったやつ全部食ったくせに!」

「見た目より難しいよな。味は変わんねえけど、出来栄えも大事だし」

 

 なんだか論点がずれている。

 

 ありがたくチョコバナナをもらおうとしたけれど、この状態で客に渡すわけねえだろうがと隼人が引っ込めてしまった。意外とちゃんとしている。

 リベンジのごとく隼人が念入りにチョコを塗り直し、その上からチョコスプレーを振っていく。

 

「チョコバナナひとつください」

「はい、毎度!」

 

 ちょうど注文が入ったので、隣の武も同じ工程を行って、お客さんに手渡した。塗ったチョコレートが棒を伝っている。

 

「チョコレート、固めないんだね」

「そう、うちの売り。イギリス産の生チョコを頼まれてから塗ってんだ」

「違う、ベルギー製だ。おら、できたぞ」

「わーい」

 

 隼人のほうが時間はかかったが、そのぶんチョコにムラがなく、チョコスプレーもきれいに散らされている。

 一口頬張ると、生チョコがトロッと口の中でとろけて、噛むたびにバナナと混ざり合う。ベルギー製だけあって、チョコレートの味わいも上品だ。このおいしさなら、四百円も納得できる。

 

「おいしいね、これ! これなら完売しちゃうんじゃない?」

「だといいんだけどな。俺も行きたい屋台あるし」

「目標は五百本だが、十代目も来られるし、なんとかなるだろ」

「沢田君も来るんだ」

 

 壁を破壊したメンバーだとすると、三人で野球でもしていたのだろうか。綱吉は打つのも投げるのもド下手だったはずだが。

 

「ところで、なんで相沢は制服着てるんだ? 委員会行くのか?」

「うっ」

 

 唐突に仕事を思い出して胸が詰まる。

 

(そうだ。山本君たちが屋台やってるってことは、あとでここにもお金もらいに来なきゃいけないんだ)

 

 この辺りは昨日担当したから、違う班に回されるだろうが、それでもなんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 彼らの売り上げ目標が、徴収される五万円分も含まれていることを願う。

 

(そもそも、二人はここのショバ代システム知ってるのかな? ハッ! もし知らなかったら、大変なことに……!)

 

 武はともかく、隼人が問題だ。彼がショバ代の支払いを拒否したら、縁日での戦闘が勃発してしまう。

 屋台は当然取り壊され、売り上げ目標を達成するどころか、屋台の弁償でさらなる借金を負うことになるだろう。

 同級生二人が借金地獄に喘ぐのは見たくない。

 

「あ、あのさ、ちょっとクイズなんだけど。ショバ代って言葉、知ってる?」

「ん?」

 

 キョトンとする武。

 知らないのなら納得してもらえるよう伝えなくてはと身構えると、ああっと武が声を漏らす。

 

「あれだろ、なんか屋台やるのにお金かかるってあれ」

「そう! ……あ、知ってた?」

「長老たちから聞いたぜ。な、獄寺」

「並盛の伝統らしいな。イタリアのバーでもそんなのがあったから、驚きはしなかったが」

「イタリアでもあるんだ……」

 

 イタリアのどこに住んでいたのだろう。治安は大丈夫だったんだろうか。

 それはともかく、知っているのなら話が早い。

 

「えっと、ちなみに獄寺君は払う予定だよね?」

「まあな。場所を借りてやってんだ、そこんところはスジを通す」

「そ、そう? へえ、そっか、よかった」

「なんで相沢がうれしそうなんだ?」

 

 どうやら、この場所を取り締まっているのが風紀委員だとは知らないらしい。

 どうせ、すぐに知ることになるのだけれど。

 

「私行くよ。二人とも頑張って稼いでね」

「ん」

「おう、またな」

 

 そろそろ町内会本部に戻って支度をしたほうがいいだろう。

 値引きしてもらったチョコバナナを齧りつつ、利奈は元来た道を引き返した。

 

 

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