新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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第四部序章:遅すぎた後日談、もしくは早すぎた前日譚
定まらない実像


_________

 

 

 

 夜は知らぬ間に明けていた。マグカップは置かれたときのままで、琥珀の水面に片肘をついた自分の顔が映っている。思考は散漫で、どこか遠くに向かっていた。その証拠に、大好物であるはずのチョコレートにすら手をつけていない。

 

 過去の亡霊は消えた。己を縛る制約からも解き放たれ、晴れて自由の身だ。それなのに、心の奥底に淀みが揺蕩っている。

 放っておいたところで支障はなかった。ないはずだった。しかし、どうにも引っかかる。やらずにうち捨てていたタスクが、絶えず視界に入っているような不快感。

 存在が当たり前になっていた娘と、存在を認識してしまった少女。どちらも骸の内面に深く関わっていて、だからこそ日に日に存在感を増していく。

 

 考えていても埒があかない。

 骸は立ち上がり、アタッシュケースを手に取った。クロームへの書き置きは目につくところにもう置いてある。二人には、目的地に向かう道すがらメールを打っておこう。さすがにまだ目覚めてはいないはずだ。

 

 外は思っていたよりは明るかったが、室内よりも肌寒かった。こんな時間に外を歩くのは久しぶりで、やたら鳥の声が大きく聞こえる。

 気兼ねなく外出できるようにはなったものの、まだあまり出歩いていない。これまで数え切れないほど恨みを買っているし、継承式で来日したマフィアの何割かは日本国内でまだ息を潜めているだろう。そのうちの何分何厘に、ボンゴレ守護者を襲撃する気概があるかはしらないが。

 

(さて、どうあの話を切り出すか。正直言って、僕自身も曖昧だ)

 

 未来に飛んでいない骸にも、未来の記憶は存在している。アルコバレーノの加護の力で、白蘭に干渉された記憶が新たに加わっているのだ。

 ただ残念なことに、白蘭が現れる前の記憶は含まれていない。だからどういった経緯でフランを弟子に取ったのか、いつM.Mを仲間に呼び戻したのかなどは知るよしがないのだ。利奈が死んだときに抱いた、あの激情の理由も。

 

『貴方も、私と同じになるの?』

 

 久方ぶりに聞いたセイの声が甦り、骸は足を止めた。

 寂れた国道にほかの建造物はなく、申し訳程度に置かれた街灯の明かりがまばらに道を照らしている。

 

 未来の自分のかたわらには、つねにセイの姿があった。もちろん幻覚で作られたもので、実体ではない。どうしてそんなものを作っていたのかは、これまたわからない。ただ、自身の心情に同調した行動を取っていたのは確かだ。いささか不本意ではあるが、まあそれはともかく。

 

(未来の僕は、セイが発した言葉に驚いていた。つまり、あれは僕が言わせた言葉じゃない)

 

 そもそも、死にゆく者にかける言葉にしては意味不明だ。利奈だって、目をみはって――

 

(ああ、利奈はあのとき初めてセイを見たのか)

 

 以前の利奈は、セイを認識できていなかった。ボンゴレの連中もそうだったように思う。そこから推測するに、セイを目視できるのは骸の精神と強く繋がっている人間だけだったのだろう。つまり、セイは骸の精神に依存した存在であるということだ。

 

(死にゆく利奈を自身に重ねていたならば、あのセイは、自身を死者だと認識していた)

 

 だとしたら、先日利奈が見かけた彼女は、正真正銘、亡霊だったとでもいうのだろうか。

 

 正解が用意されていない問いを解くのは容易ではなく、同じようなことを考えているうちに目的地に着いてしまった。

 二階の窓にはカーテンがかかっており、なかの様子は窺えない。早朝ではあるが家人は起きているようで、一階から生活音が聞こえた。骸は逡巡することなくインターホンを押す。

 

「はーい」

 

 出てきたのは母親だろう。朝食の支度をしていたのか、手を拭いたあとの布巾をエプロンに押し込んでいる。制服姿の骸を見て、彼女は驚いたように目を見開いた。

 

「朝の支度でお忙しいなか、すみません。こちらのお宅を探していまして」

「あらあら、こんな時間から配達なんて大変ねえ」

 

 骸は宅配業者の制服に身を包んでいた。当然幻術でそう見せているだけだが、母親はあっさりと信じ、骸が手に持つ箱――現物はアタッシュケースだが――を覗きこんだ。

 

「町名と丁目は間違いないんですけど、この辺りに該当のマンションが見当たらず――エストラーネオという名前、聞いた覚えはありますか?」

「聞いたことないです。それに、マンションなんて駅前じゃなきゃ――あら」

 

 沢田綱吉の母親が、郵便番号を指さした。

 

「これ、並盛町の郵便番号じゃないわ。番号が全然違うもの」

「本当ですか!?」

 

 もちろん、郵便番号だけわざとデタラメにしておいた。それだけで、不運にも見当違いの住所に荷物を運ばされた配達員を装える。

 

「災難ねえ。よかったら、お茶でも飲んでいかれます?」

「いえ、今日は配達物が多くて時間がありませんので。ありがとうございました」

「いいえ、全然。頑張ってくださいね」

「はい。あっ、小さなお子さんがいらっしゃるのに騒がしくしてすみませんでした」

「あら? 子供がいるの、わかります?」

 

 きょとんとする母親に、愛想のいい笑みを返す。その肩越しに見える廊下の奥に、帽子のつばが覗いていた。

 

 

__

 

 

「復帰早々に仕事とは精が出るな」

 

 道を曲がったところで、頭上から声がかかった。

 

「ええ、おかげさまで」

 

 見上げた塀の上にリボーンの姿がある。逆光に照らされ、表情は窺えない。

 

「せっかくですし、どこかで一息つきませんか? 起こしてしまったお詫びもしなくてはいけませんし」

「それはいいな。目覚めに濃いエスプレッソでも飲みたい気分だ」

 

 リボーンはそう言って塀から飛び降りた。やっと顔が見えるようになったが、表情は読み取れない。

 

「その恰好は目立つからやめておいたほうがいいぞ」

「そうですか? わりと一般的な運送会社を選んだのですが」

 

 作業着然とした制服は普段着る服とはかけ離れているが、そこまで悪目立ちする色合いではないはずだ。容姿だって、数秒後には忘れられるだろう平均的な顔である。いまいち理解できていないのを悟られたか、リボーンが補足した。

 

「日本では、仕事着で外食すると会社にクレームが入るんだ」

「……変わった文化ですね」

 

 骸は素直に変装を解いた。

 

 

 

______

 

 

 

(こんな朝早くから訪ねてくるなんて、なんの用だ?)

 

 骸を引き連れながら、リボーンは思考を巡らせる。

 最初は綱吉狙いであることも視野に入れていたが、骸がマンション名として口にした単語に、その可能性は霧散した。

 

 エストラーネオファミリー。骸が幼少期に所属していたマフィアだ。マフィア界ではタブーとされている、禁弾の開発を行っていた組織である。

 親がファミリーの人間だったか、あるいは、非合法に外から引き入れられた子供だったのか。どちらにしろ、骸とその仲間である犬と千種は、そこで特殊兵器開発実験の被検体として扱われていた。

 どのような扱いを受けていたかは、組織で生き残った子供が骸たち三人だけだったという結果で推し量れるだろう。そしてその数がゼロになる前に、骸はファミリーの大人たちを皆殺しにした。

 エストラーネオファミリーとその関係先だけを標的にしていればまだ温情はあっただろうが、骸たち一行は手当たり次第にマフィアを壊滅させていった。その結果が、復讐者の監獄行きである。

 

(わざわざ匂わせたってことは、エストラーネオファミリー関連でなにかあるのか? 骸を引き受ける過程で九代目が調査させていたが、後継組織は存在しなかった)

 

 骸はアタッシュケースを持っている。大きさは、リボーンが運んでいても違和感はない小型なもの。筋肉の動きからして重い物は入っていない。これから行われるのが取り引きだとすれば、中身は金か資料か。

 

「ここだ」

 

 行きつけの喫茶店のドアを開けると、骸はさりげなく店内に目を光らせた。

 客入りの少ない店を選んだだけあって、客はカウンターで新聞を読んでいる常連の老人のみ。同じく老齢のマスターは、常連の赤ん坊には頓着しなかったが、学生の骸には目を留めた。まだ登校時間ではないが、平日の朝に学生が来ることはめったにないだろう。二人はテーブル席に座った。

 

「俺はエスプレッソのドッピオ。お前はどうする」

「コーヒーで。よければ軽食も頼みましょうか?」

「いや、俺はいい。これからママンの手料理が待ってるからな」

 

 言外に朝食までには戻ると伝えると、骸は鷹揚に頷いた。

 

「では、手短に済ませましょう。しばらくのあいだ、クロームを並盛で預かってほしいのです」

 

 単刀直入に骸はそう言った。自由に動けるようになったので、未来で仲間だった面々を引き入れに行くつもりらしい。

 M.Mとはすでに話がついているが、この時代のフランはまだ幼いうえにフランスで暮らしている。未来の記憶はあるだろうが、引き入れるならば直接出向くしかない。骸一派にヴァリアーにも所属していた術士が加わるのは脅威だが、リボーンに止める筋合いはなかった。

 

「で、なんでクロームは置いていくんだ?」

 

 話を聞く限り、クロームを置いていく必要性は感じない。ましてや、並盛中学校に編入させる必要など。しかし骸は答えず、アタッシュケースをリボーンに押し出した。

 

「生活費はここに用意しています。並中への編入手続きも昨日のうちに」

 

 強引だが、如才なく手続きを終わらせている。断ったところでクロームの行き場がなくなるだけだろう。

 強力な術士を引き入れる代わりに、優秀な術士を追い払う。一見矛盾しているように見えるが、リボーンには理由に心当たりがあった。骸が自由になったということは、クロームを縛っていたものもなくなったということだ。

 

 話がこれだけだったならば、リボーンはエスプレッソを飲み干して、ママンの作る朝食を堪能できただろう。しかし骸はまた口を開いた。

 

「じつは、もうひとつ相談がありまして」

「相談?」

 

 骸らしくない言葉なので思わず復唱してしまった。本人も自覚しているのか、口の端を引きつらせるようにして笑う。

 

「貴方たちアルコバレーノから受け取ったギフトの話です。そのなかに、理解できないものがありまして」

 

 骸はそれだけ言ってコーヒーに手を伸ばした。頭のなかでまだまとまっていないのか、話しづらい内容なのか。エストラーネオに関わる話なら、わからなくもないが。

 

「で、なんだ?」

「失礼。僕自身の話なので、少々整理がつけづらく」

「お前自身?」

「ええ。僕自身、というのも少し違う気がしますが」

 

 骸はなおも言葉を濁す。先ほどとは打って変わった態度に、相談という言葉が隠語ではなかったことを知った。となると、さっきの笑みは困惑から出た笑みだったのか。

 

「チョイス戦で僕が現れたときのことを覚えていますか?」

「ああ」

 

 チョイス戦敗退時に殿を務めたのが、十年後の骸である。

 あの世界の骸は、復讐者の監獄収監者を百人捕らえた実績で罪を償っていた。D討伐の功績がなくても、六年後には自由を手に入れていたわけだ。

 あのとき黒曜にいた骸が、神社に用意されていた基地ユニットに潜むのはわけもなかっただろう。――つまりあの基地ユニットには、骸、スクアーロ、そしてリボーンの三人が潜んでいたわけである。スクアーロがいたので骸の気配には気付けなかったが、いなくても気付けたかどうか。あの世界の骸の幻術の腕は、世界トップクラスである。

 

「あのとき、僕のほかにだれか見えましたか?」

「ん? どういう意味だ」

「……未来の僕は、つねに幻覚を使っていたんです。だからあのときも」

 

 ここで骸が横目でカウンターを窺った。店内にはゆったりとしたジャズがかかっているが、話しているのはこの二人だけ。聞き耳を立てられているわけでなくても、警戒するのは当然だ。骸は身体を前に傾ける。

 

「あのときも、僕は作っていました。過去に殺めた人間の虚像を」

 

 リボーンはピクリと眉を動かした。なるほど、それは老人方の耳に入れたくない話題である。だから端的に話したいのはわかるが、いくらなんでも情報量が少なすぎだ。もう少し詳しく話すように促すと、骸は渋々と言った様子で説明を始めた。

 なんでも、昔に潜入した組織で殺めた少女の幻影を、つねにそばに控えさせていたらしい。それも、骸と精神的に繋がっている人間か、優れた術士でなければ見えないレベルの幻術を。未来から得た記憶は過程を飛ばしているため、骸自身も、どうしてそんなものを作り出していたのかわからないそうだ。

 

「そのファミリー名と子供の名前は?」

「子供の名は言ってもわからないと思いますよ。地下に軟禁されていましたから。僕も、彼女が死んでから名前を知ったくらいです」

 

 存在を口に出せたからか、言葉の淀みが消えた。小声ではあるが、声の通りがいいので聞き取りづらくはない。

 

(軟禁――つまり、人目に出せないような娘ってことか。私生児か病気持ち、あるいは、その両方)

 

 マフィアの私生児など珍しくもない。マフィアのボスともなれば愛人なんぞ作り放題で、そのぶん私生児や庶子は増える。その子供が男なら後継者として育てようもあるが、女では政略結婚くらいしか使い道がない。

 綱吉も、性別が女だったら今の生活は送らずに――いや、女だったらそれはそれで、ボンゴレの頂点を目指す男どもに狙われる羽目になっていた。どちらがよかったかは、聞いても意味がないのでやめておこう。

 

「で、ファミリー名は?」

 

 骸が名称を口にすると、リボーンは顔を上げて声を張った。

 

「エスプレッソドッピオ追加」

 

 マスターが応じ、それに合わせて骸がガトーショコラを頼む。どうやら、ママンの朝食にはありつけそうにない。

 

 骸が言った名称は、かつてエストラーネオファミリーと共同で禁断を開発していたファミリー名だった。エストラーネオファミリーとほぼ同時期に壊滅したが、やはり骸が手を回していたらしい。ここで話がきな臭くなってきたが、さらに骸が追い打ちをかける。

 

「僕もその程度なら捨て置けましたが、先日僕の元を訪れた利奈が、その少女を見かけたと口にしていまして」

「利奈が?」

 

 利奈は術士ではないので、少女が見える条件には当てはまっていない。その前提に従うならば、利奈が見たのは実体という証明になるはずだ。

 

「それがそうはいかなくて。彼女はついこのあいだまで、僕と契約を結んでいたんです」

「そもそも、お前なんで利奈と親しいんだ?」

 

 未来では、監獄収監者の情報を得るために風紀財団と取り引きしていたようだが、現代ではまだ復讐者と交渉すら行っていないはずだ。それなのに、聖地では仲間のようにふるまっていた。骸を敵視する恭弥ですら、疑念を抱いた様子はなかった。

 

 この機にと問いかけてみたが、やはり無言の笑顔ではぐらかされる。

 まあ、もっとやばいヴァリアーに預けられても平気でやっていけるやつだから、なにかの機会に親しくなっていてもおかしくはない。とにかく、利奈の目撃情報だけでは確信とはならないようだ。

 

「もうひとつだけ聞いていいか」

「どうぞ。ある程度、予想はつきますが」

 

 それはそうだろう。ここまで骸から与えられた情報で導き出される方程式は、ひとつしかない。

 

「その娘、どうやって殺した?」

 

 リボーンの問いに、骸は人差し指を突きつけた。拳銃を模した指で、自身の胸を。

 

「禁弾を共同開発していたボスの隠し子でしたからね。彼女が持つ銃がどんなものか、疑うべきだった」

「そいつの銃を使ったのか」

「……時間がなかったので」

「ん?」

「いえ。彼女が携帯していた銃で間違いありません」

 

 骸の返答には違和感があった。いや、その前のジェスチャーも引っかかった。骸は拳銃に見立てた右手を左手で押さえ、自分の心臓に当てたのだ。その仕草だと、娘が自分で胸を撃ったことになる。もしかしたら、その娘のことも操っていたのかもしれない。

 

 本来ならば殺し方など些細なことだが、娘が禁弾を研究していた組織の人間というなら話はべつだ。その弾丸が、かつて骸が使っていた憑依弾と同等のものだったとしたら。なるほど、同じように特殊弾を扱うリボーンを頼るわけである。

 

(ただあれは、骸の言う契約が必要不可欠だったはずだ。素人に操れるもんじゃねえ)

 

 憑依弾の能力については骸のほうが詳しいが、銃を撃った直後の様子はリボーンも目の当たりにしている。あれは弾を撃ち込んだ人間を仮死状態にし、あらかじめ決めていた依り代の意識を乗っ取る禁弾である。ゆえに、憑依能力と依り代がなければ効果は発動しない。

 そのとき撃ったのが憑依弾であったならば、少女の魂だけ現世に残ってしまったとも考えられる。戻るべき身体は、すでになくなっているのだから。

 

「ですが、彼女は僕が看取っています。仮死状態ならば気付けたはずなんです」

 

 骸が組んだ手を握りしめる。爪の先が白くなるほど力を込めて。

 

「お前自身はどう考えてるんだ? 生きてるか死んでるか」

「……肉体は確実に滅んでいる。ただ、精神となると――」

 

 骸が葛藤する理由もわかる。前例に、ボンゴレ初代霧の守護者D・スペードがいるからだ。

 Dの場合は、本人が優れた術士であるのと禁術を用いたというのもあるが、肉体が滅んでも魂を残せることの証人となっている。不完全な状態で放たれた禁弾が、娘の魂だけを現世に留めてしまったのならば。未来の骸が存在に気付き、その魂を拾い上げようとしていたならば。この時代に娘の魂が存在している可能性は高い。

 

「わかった、俺も調べておく。ボンゴレとしても禁弾は見過ごせねーからな」

「……つきましては、これを」

 

 骸が服のポケットに手を入れ、弾丸をひとつ取り出した。リボーンは目を見開く。

 

「そりゃあ――」

「憑依弾の現物です。ボンゴレで調べれば、あるいは――」

 

 しかし骸は思い留まったように弾丸を握りしめた。

 

「……いえ、これは最後の手段です」

「……」

 

 憑依弾そのものを調べられれば、より早く真相に辿り着けるだろう。しかし憑依弾は人体実験の結果生まれた兵器であり、骸にとっては切り札とも、忌まわしい記憶そのものとも言える。自身がもっとも嫌うマフィアに、自身の弱みを渡すようなものだ。

 それに渡した憑依弾が悪用されれば、消し去ったはずの忌まわしい記憶が現代で再現されてしまう。リボーンにその気はないが、リボーンがマフィアに所属する以上、信じろというのも無理な話だ。むしろ、渡そうと考慮したことのほうが奇跡である。

 

(それほどまでに思い詰めているってことか)

 

 おそらく、本人は気付いていない。

 横目にカウンターを窺った骸が、壁の時計を目にして立ち上がった。

 

「なんだ、朝の便取ってんのか?」

「いいえ。ただ、今出るとタイミングがいいんです」

「タイミング?」

 

 なんのとは聞かなかったが、骸は悪戯を企む子供のように目を光らせていた。

 リボーンはそのままソファーに座り続ける。今から帰っても、ママンの朝食には間に合わないだろう。先に出ようと会計を終わらせた骸が、思い出したように振り返る。

 

「もうひとつ、頼み事をしても?」

「俺はたけーぞ」

「では、気が向いたら伝えてください。雲雀恭弥に、貴方の部下をお借りしますと」

「ヒバリに?」

 

 骸は意味深に笑みを深めた。それだけで、骸がだれを借りようとしているのかがわかり――これから受難が降りかかるであろうその人物に、少しだけリボーンは同情した。

 

 

 

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