新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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蛙を捕まえにフランスへ

 

 学校に行こうとしたら、なんやかんやで連行された。

 いや、ちゃんと、一応、当然のように抵抗はしたのだ。前に待ち伏せされていたときと同じくらい、いや、あのとき以上に驚いたけど、それでも一通りは。

 

(持ち物検査の日だし、授業だってあるし――学校サボって泊まりになる言い訳もう思いつかないのに! 風紀委員だって復帰してるから、もう群れられないんですけど!)

 

 D騒動で反抗した代償に、連日過酷な委員会活動の真っ最中である。

 今日だって、だれよりも早く校門に行くつもりでいたのだ。

 

 それなのに、なんで「毎日ここで待ち合わせて一緒に学校に通っていますが?」みたいな顔で通学路で待っていられるのか。時間帯が違えば人混みに紛れて逃げられたのに、早朝だから犬の散歩をしている人しかいなかった。すごく吠えられてたのは面白かったけど。

 

(これはアウト。絶対ダメ。確実にまた退会させられる。

 それにいきなりフランスって! 海超えるのは反則でしょ!)

 

 いかに雲雀恭弥といえど、国外にまではやってこないだろう。不可能とまでは言えないが、並盛と骸を天秤にかけたら並盛を選ぶに決まっている。もちろん利奈は秤に乗っていない。

 

 とはいえ、今さら騒ぎ立てたところでもう手遅れだ。

 飛行機の時間があるからとなし崩し的にずるずる引きずられ、現在地は空港である。しかも、フランスの。

 

 十三時間かかると聞いたときは機内で暴れてやろうかとも思ったけれど、ファーストクラスを用意されていては黙るしかなかった。

 快適な環境で振る舞われるフルコースを味わいながら、モニターで映画を鑑賞。サービスの洋菓子を頬張りながら雑誌を物色。時間経過による沈静化もともなって、すっかり毒気を抜かれてしまった。ここで暴れたところで、日本人の恥になるだけだろう。

 

(まあ、言いたいことはほかにもいろいろあるけれど。パスポートないのにどうして乗れたのか、とか)

 

 もちろんパスポートを所持していないことは骸に伝えたが、彼はにっこりと微笑んでこう言った。――奇遇ですね、僕たちもです、と。そんなお揃い、存在しないでほしかった。

 

(これ、不法入国っていうんだよね。骸さんたちは犯罪者だから国際手配とかされてるかもしれないし、もしバレたら私も捕まる? あれ? ひょっとして今まで一番ヤバい?)

 

 並盛町どころか日本すら出ているため、日頃振りかざしている威光はここでは使えない。

 いざとなったら、ボンゴレファミリー九代目ティモッテオにどうにかしてもらうしかないだろう。最終手段が巨大マフィアのボスという辺り、どうやっても物騒な展開にしかならなそうだ。絶対に補導されたくない。

 

 そんなわけでまったく落ち着けないわけだが、その理由はもうひとつある。

 登校途中に連行されたせいで、着の身着のまま、学生服姿なのだ。ほかの四人も学生服ならまだ修学旅行感が出たけれど、四人はしれっと私服姿。悪意すら感じる。

 

「だから家に帰りたいって言ったのにぃ……」

「貴方、家に帰ったらそのまま閉じこもるつもりだったでしょう」

「そうだけど……そうだけど寒い……」

 

 十一月も半ばなのでブレザーは着ていたものの、フランスは日本よりも気温が低い。目の前を通る外人のなかにはコートを着ている人もいるし、空港でこれなら外はもっと寒いだろう。利奈は骸をチラリと見上げた。

 

「これ、経費ですよね?」

 

 無理矢理連れてこられたものの、見返りはちゃんと保証されている。道中でかかる経費はすべて骸持ちのうえ、道中ならなにを買ってもいいらしい。未来の世界で買ったものをすべて失った利奈にとっては、魅力的な提案だ。

 それでも理性が勝ったけれど、最後に利奈が突きつけた条件を骸が呑んだので、交渉はギリギリのところで成立した。成立したのは、フランス上空だったけれど。

 

「ええ、もちろん。一式買いそろえてもらってかまいませんよ」

 

 気前よく答える骸。それならばとお店を探そうとしたところで、高い声が空気を割った。

 

「あー、なんか私も寒くなっちゃったかも」

 

 わざとらしく腕をこするのはM.Mだ。利奈ほどではないが、彼女も日本の気温に適した服装で、やや薄着である。

 

「これから行くフランの家って、田舎にあるんでしょ? コートないとダメかも。ね、あんたもそう思うでしょ?」

「え、あ、うん」

 

 唐突に話を振られたものの、外を歩くならコートがあったほうがいいのは事実だ。同意を得たのをいいことに、M.Mは利奈よりもえげつない角度で骸を見上げた。

 

「ねえ骸チャン、私にもコート買って? このままじゃ風邪引いちゃう」

「いいですよ」

「やったあ! 骸チャン大好き!」

 

(なんかダシにされた……)

 

 利奈と同じく、犬と千種も呆れたような顔をしている。しかしこちら三人にどう思われようが眼中にないようで、M.Mは媚びるように骸に飛びついた。骸がまんざらでもなさそうにしているのもなんだか納得がいかない。

 

「ほら、さっそく新作のコートを買いに行きましょ! ブランドは何店か見当つけてるの!」

「今の聞いたか? あいつ、始めっから骸様にたかる気満々だったびょん……」

「飛行機でファッション雑誌持ってこさせてた……」

「こわ……」

 

 ルンルンで骸の腕を取るM.Mとは、未来で一度邂逅している。髪型も変わっていなかったから、すぐに彼女だとわかった。あのときのM.Mもブランド品と思われる高そうな服を身につけていてたし、性格もこんな感じだった。十年とはいったい。

 

 ただひとつ気になるところといえば、未来であんなに揉めたにもかかわらず、利奈に対して険がなかったところだろうか。会ったら真っ先に嫌味を言われると思っていたけれど、M.Mは利奈をたやすく受け入れた。いや、それどころか――

 

「ねえ、あんたはどんな服が欲しいの? かわいい系? きれい系? 好みのブランドあるなら見てってもいいけど?」

「だいじょぶ……」

「そ。なら、ついてきなさい。私の引き立て役になれる程度には見立ててあげるわ」

 

 それどころか、わりと好意的な態度なのである。

 若干高圧的なところはあるが、それは彼女本来の気質だろう。いずれにせよ、肩すかしを食らってしまった。

 

(絶対、根に持つタイプだと思ってたのに。なんで大人のときより大人なの)

 

 穏便に済むならそれに越したことはないけれど、やっぱり少し身構えてしまう。油断したころに飲み物ぶっかけてきたりするかもしれない。そんなことされたら、こっちもシミになりそうな色の飲み物買ってくるけれど。

 

 しかし、そんな利奈の懸念は、試着室に入った途端に霧散した。

 コート一着買うだけのはずが、M.Mは言葉巧みに権利を主張し、まるで特売セールのようにブランド物を買い漁って全身コーデを完成させた。その手腕は利奈にも活かされ、瞬く間に会計金額が上がっていく。骸の顔が若干引きつっていた気もするが、言った言葉は取り消せない。

 結果、二人揃ってホクホク顔で店を出ることになった。渋い顔をしているのは、荷物持ちの犬と千種である。

 

「めんどい……はてしなくめんどい……」

「なんで俺らがこいつらの荷物持たなくちゃいけないんら……」

「女性は荷物が多いものですからねえ」

 

 骸だけは、チョコレートドリンクを片手に涼しい顔をしている。

 紙袋を抱えたままフランを迎えに行くわけにも行かないので、荷物をロッカーに預けてからバスに乗った。そこから終点で降りて、ジュラを目指して山道を歩く。

 

 気温は低いものの日差しは強くて、買ったばかりのコートを着ていると暑いくらいだった。欲張ってもふもふのコートを買ったM.Mは、早々にコートを脱いでしまっている。

 

「ほんと田舎ね。こんなところにフランはいるの?」

「祖母の家に預けられているそうですよ。両親もマフィアとは繋がりがありませんし――よほど幻術の才能に恵まれていたようだ」

 

 骸が笑う。

 幻術の才能は必ずしも遺伝するものじゃないそうで、見出されるまで能力を自覚できない術士も多いらしい。だから若いうちから実力を発揮し、なおかつヴァリアーの幹部にまで上り詰めたフランは、紛れもなく天才と言えるのである。

 ベルの当たりがやたらが強かったのは、それに対する嫉妬もあったのかもしれない。

 

「まあ、そんなフランを術士として見出したのは、なにを隠そうこの僕なのですが」

「隠してないびょん」

 

 鼻高々な骸だが、フランを見出したときの記憶はないらしい。だから自慢もふんわりしているけど、記録にないからこそ好き放題自分の手柄にできる。答え合わせを出来る人物は、どこを探してもこの時代にはいないのだから。

 

 




Q.爆買いにかかった経費は大丈夫でしたか?

A.骸「そんなものより、彼女を黙らせるために用意したファーストクラスのチケット代(全員分)のほうが痛かったです」





……書いてるあいだに、フランスのファーストクラスが時事ネタになるなんて思わないじゃないですか。
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