新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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始める前に終わってた

 

_______

 

 

 代理戦争も本日で三日目。戦闘で二チームが脱落したうえに、参加チームを乗っ取って闇討ちを仕掛ける、卑劣な勢力も現れた。どこが勝つか、まるで予想できない事態となっている。

 利奈の所属チームは代表者の自爆によって失格となったが、クロームは今日からリボーンチームに参戦だ。それならばサポートに回ろうと、気合いとともに布団から起き上がった利奈だったが――

 

「え」

 

 その決意は、ほかならぬクロームの言葉によって凍りついた。

 

「もう、終わった?」

「うん……」

「いつ?」

 

 クロームが言いづらそうに目線を逸らす。

 

「夜」

「え、何時?」

「……十二時」

「十二時ぃ!?」

 

 ぐるんと体を捻り、枕元の目覚まし時計を確認する。現在時刻は午前七時。つまり、七時間前に始まっている。昨日の就寝時間は、奇襲の影響もあって午後十一時。そのわずか一時間後に戦闘が行われたわけだ。

 

(一日のいつ始まりなのかわかんないの気になってたけど、十二時って! いくらなんでも早すぎるでしょ!?)

 

 昨日のバトルも夜だったし、そのあとにはバミューダチームによる闇討ちもあった。闇討ちに関しては運営も知ったことではないと思うが、それにしても午前十二時はやり過ぎである。

 

(アラーム全然気付かなかったー! 普通にぐっすり寝てたー!)

 

 もう脱落しているとはいえ、あまりにも気が抜けすぎている。自身の失態に顔をしかめてしまう。

 

「ごめんね。起こさないほうがいいと思って……」

「ううん、全然!」

 

 クロームがシュンと肩を落とすので、利奈は慌てて眉のしわを解いた。一人で出て行ったことを、クロームは気にしているらしい。

 

「気にしないで。私、どうせ戦えないし。起きられなかったのが悔しいだけだから。クロームは気にしなくていいよ」

 

 クロームの判断は正しい。失格者は戦闘に参加できないから、利奈を起こしたところで戦力は変わらない。たたでさえ敵はワープ能力を持っているのだし、無駄にできる時間は一秒だってなかったはずだ。それはそれとして、ぐうすか暢気に寝ていた自分に腹が立つ。それだけのことだ。

 

 バッチリ目が覚めたところで、布団を畳み、ちゃぶ台を組み立てる。いつもならジョギングに出るのだけれど、今は昨日の戦闘結果の確認がしたい。

 

「昨日どうなったか、教えてくれる?」

 

 バッグからノートと筆箱を取り出す。ざっくりとだけど、今までの戦況はノートに書きこんである。置かれた座布団に正座すると、クロームもとなりに正座した。

 

「えっと、昨日――今日?」

「三回目って書いとく。負けたチームあった?」

「コロネロチーム」

「ツナのお父さんのチームね。そこだけ?」

「うん。たぶん、バミューダチームに襲われたんだと思うけど……」

 

 戦闘後に表示される戦闘結果は、時計の数しかカウントされない。その時計の数ですらこれまでの累計なうえに、戦闘結果の表示は試合直後の一回きりだ。つくづく参加者に優しくない設定である。とりあえずは、コロネロチームの失格とだけ書いておく。

 

「で、クロームは山本君の家に?」

「えっと、公園。ほら、昨日通りがかった公園」

「ああ、あそこね」

 

 竹寿司の近くには公園がある。遊具がいくつかあって、それなりに広い。バミューダが奇襲を仕掛けてこなければ、今頃その公園で風に太極拳を教わっていただろう。

 

「ボスたちは先にいて戦ってて、私が着いたときには骸様が――」

「え、骸さんと戦ったの!?」

 

 参戦初日にいきなり修羅場とは運が悪い。

 

「違う。骸様とボスが、一緒にバミューダチームと戦ってたの」

「ええ、骸さんと戦ったの!?」

 

 同じ言葉を、今度はまったく違う意味で口にする。

 なんだかんだ慣れ合っている節はあったけれど、骸は綱吉に敵意を向けていたはずだ。いくら未知――いや、存在自体は既知だろうが――未知数の力を持った復讐者が相手だとしても、骸ならば綱吉に助力は求めないと思っていた。風紀委員では、敵の敵も敵である。

 

「復讐者が三人いて、ボスと骸様以外みんな倒れてて……フランも眠ってて」

「みんなやられちゃったの!?」

「バトラーウォッチは無事。守護者の二人は病院に連れて行かれて、でも、そんなにひどい怪我じゃなかったから大丈夫」

「そっか、よかった。でも、そんなことになってたんだ……」

 

 そんな状況ならば、敗北を危惧して綱吉と手を組むこともあるだろう。そして、眠りこけていた幼児フランと大差ない自分が、さらにみっともなく思えてくる。やっぱり、ひっぱたいてでも起こしてもらったほうがよかったかもしれない。

 

 利奈の感慨はさておき、クロームが加わったことで骸の幻術が強化され、復讐者二人の撃破に成功。残る一人も綱吉がフルパワーで倒し、見事勝利――となるが、そこに待ったがかかる。新たな復讐者とともに八人目のアルコバレーノ、バミューダが参上したのである。

 

「バミューダ来たの!? どんなだった!?」

「ちょっとだけだったから……。アルコバレーノ――リボーンを勧誘して」

「勧誘? え、同盟?」

「それで、ワープホールでボスごと連れて行って――」

「へええ!? 待って、なに、どゆこと?」

 

 聞きたいことがありすぎて話が進まない。

 質問を重ねようとしたところで足音が聞こえ、二人はそろって口を閉じた。ドアの向こうを通り過ぎていく足音が、階段を下りながら遠ざかっていく。車のエンジン音や、話し声もわずかに耳に届く。

 

「ご飯、食べよっか」

 

 ノートを閉じて腰を上げる。

 数日に分けて常備菜を持ち込んでいるので、料理に不慣れな二人でも安心だ。卵を割るのは、二人そろって失敗したけれど。

 

「で、ツナたちどうなったの?」

 

 食卓に着いたところで、話の続きを促す。ご飯を食べたらあとは学校に行くだけになるし、今のうちに、ざっと聞き終えておきたい。

 

「えっと、ワープホールに吸い込まれて……」

「うんうん」

 

 卵の殻を取り除きながら相づちを打つが、そこでクロームが言いよどんだ。

 

「……ごめん、そのあとのことは」

「……え? 戻ってきてないの?」

「わからない。ボスが戻るまで待とうと思ったんだけど、M.Mに帰るように言われて」

「あっ、M.Mもいたんだ」

 

 彼女が戦っているところは見たことがないが、骸が仲間にしているのだから、それなりに腕は立つのだろう。今回の戦闘では、寝ているフランを抱きかかえていたそうだ。

 

「一応、アルコバレーノ……えっと、ユニと……軍服着た人と、たぶん利奈のところのアルコバレーノが来るまでは公園にいたんだけど」

「風さんと……コロネロかな? スカルはまだ入院中だったし」

「うん……」

 

 スカルとコロネロ、それからヴェルデは、未来で少し顔を見た程度なので、名前と顔が一致していない。骸と組んでいるヴェルデを除外すれば、残る該当者はコロネロしかいない。現れた人たちはみんな脱落したメンバーたちだが、きっと戦況を確認しにきたのだろう。

 

「じゃあ、そっからどうなったかはわからないんだ」

「いつ戻るかわからないし、今は休養も大事だからって、骸様が犬と千種を連れて帰って。雨の人と嵐の人を病院に連れて行こうと思ったんだけど、また復讐者が来たらってM.Mに引き止められて」

「わっがまま……」

 

 わざわざ口にしていないだけで、きっと散々嫌味を言われたはずだ。クロームのことだから、言い返せずにいただろう。やはり自分も同行するべきだった。

 

(もう明日は徹夜しようかな。それか、遠慮なく起こしてくれそうな人にお願いするか)

 

 さすがに今夜は家に帰らなければならないが、着メロの並盛中学校校歌が流れれば一発で跳ね起きられるだろう。今からでも骸に頼みに行くべきか。そんなことを考えながら、味噌汁を啜る。

 

「ツナ、どうなっただろうね」

 

 金曜日だからもちろん学校はあるけれど、さすがに今日は登校してこないだろう。授業中に復讐者が出てきたりなんかしたら、学校中がパニックになる。

 

「負けてはいないと思う。結果発表のとき、時計は無事だったから」

「そっか、それでわかるんだ。ほかには? 復讐者、減ってたりしない?」

「ううん、三人だけ。ほかのチームは、最初がわからなくて……」

「あー、そうだね。一応、人数は記録しているけど――覚えてる?」

 

 クロームが申し訳なさそうに首を振る。前情報なしに見せられた表を、暗記しろというほうが無理な話だ。

 

「またあとでだれかに聞くよ。獄寺君と山本君はそんなやられてないんでしょ」

「うん。意識あったし、自分で動けてた」

「よかった。時計だけあっても意味ないもんね」

 

 食事のあいだに情報共有を終わらせて、間を置かずに学校へと向かう。

 委員会の連絡網を使えば、私情バトルで退場した委員長の行方もわかるし、病院にいるメンバーの状態もわかる。哲矢ならば、得られる情報はすべてかき集めているだろう。

 

「今日はうちのクラス五人も休みかー」

「え?」

 

 何気なく呟くと、クロームが反応した。

 

「ちょっと休みすぎだなって。先生たちも気にしそうだし」

 

 人数もそうだが、炎真とSHITT・P!以外はマフィア関連のあれやこれやでたびたび学校を休んでいる。綱吉や隼人は日頃の成績の悪さや素行不良で問題視されていないが、野球部期待のエース、武に関しては先生たちのあいだで課題となっている。

 

(ツナなんて、一ヶ月くらい休んでたこともあったしね)

 

 クロームには言えないが、綱吉は骸にボコボコにされたせいで一ヶ月も休学していた。黒曜生に襲われた結果なので成績に響くことはなかったが、今回はその言い訳も使えない。風紀委員としても、庇い立てする正当な理由がない。

 

「ツナ、留年にならないといいんだけど」

 

 中学生で留年なんてめったにないが、あまりにも休むようだと心配になってしまう。同級生が後輩になるなんて、気まずいことこの上ない。

 

「来れたらいいね、今日」

「無理じゃない? 教室に復讐者出てきたらめちゃくちゃになるし」

「え?」

「え?」

 

 聞き返されると思ってなくて、反射で同じ言葉を繰り返す。

 

「……今日のバトル、もう終わったよ?」

「あれ? ……ん?」

 

 クロームの言っている意味が、わかるのにわからない。

 

(バトル終わったから今日はもうバトルがない? あれ? じゃあ今日はもう安全ってこと?)

 

 眠っているあいだにバトルがあったせいで、ちょっと理解が追いつかなくなっている。日付変更とともに本日の戦闘は開始されたので、次の日付変更、つまり今夜の十二時過ぎまでは戦闘は始まらない。それを理解するまでに、利奈は数分費やした。

 

「えっと……」

「ごめん、クロームは合ってる。ちょっと私がわけわかんなくなってたっていうか……」

 

 一日に戦闘は一度だけ。つまり、最短でも午前十二時を迎えるまでは戦闘は始まらない。なにも難しいことはないけれど、今まで午前戦闘がなかったうえに、復讐者の奇襲が混ざったせいでいろいろややこしくなっている。

 

 うんうんと唸っていると、信号でもないのにクロームが足を止めた。空き地を見ているのでそちらに目をやると、噂していた当人の姿があった。

 

「ツナ! 京子も!」

「あ! おはよう、利奈、クロームちゃん」

「おはよう、京子ちゃん。ボスも……」

 

 なぜか綱吉は壁を背に座りこんでいた。しかも、昨日とは違う私服姿で。京子は制服を着ているから、クロームと同じように座りこむ綱吉を見つけ、声をかけに言ったのだろう。京子の手にはなにかが握られていた。

 

(ワープホールでここに吐き出されたのかな。とりあえず風紀しとくか)

 

 周りに並中生がいるのを確認して、ずいっと近づく。

 

「ちょっと、なんで制服着てないの? 学校行く気ある?」

「え!?」

 

 事情を知っているはずの利奈の言葉に綱吉が動揺を見せるが、これも仕事だ。ほかの生徒もいる以上、建て前だけでも注意はしておかなければならない。

 

「ごめん、今日は学校行けなくて」

「行けないって、どこか悪いの?」

 

 言外に様子を尋ねるが、綱吉は首を振る。

 

「用があるんだ。山本も獄寺君も、今日は行けないと思う」

 

 風紀委員に堂々とサボり宣言をしている状況だが、利奈はそれ以上茶番を続けられなかった。綱吉の眼差しが、額に炎を灯しているときと同じくらい、強い意思を示していたからだ。

 

「……そ、そっか」

「うん。ごめん」

 

 声音もいつもと違っている。別人みたいで、なんだか調子が狂う。

 

「行こう、利奈」

「じゃあね、ツナ君」

 

 二人に押されるようにして歩き出す。これだとなんだか、自分だけがなにも知らない人みたいだ。決まり悪さに目を動かしていると、京子がバッグのチャックを開けた。

 

「そういえば京子、それなに?」

 

 片手に収まる大きさの、布きれらしきものを指差す。すると京子は手を開いてそれを見せてくれた。

 布ではなく、安全必勝と書かれた手作りのお守りだ。作りはしっかりしているのに、使い込んだみたいにボロボロになっている。

 

「これね、お兄ちゃんたちが相撲大会しているときにみんなで作ったの」

「へえ……」

 

 おそらく相撲大会ではない、もっとべつのきな臭いなにかだろうが、心当たりがありすぎて逆に見当がつかない。

 

「ツナ君たち、また大変そうだから。お守りにもっと願いを込めようってハルちゃんと」

「なにか聞いたの?」

「ううん。でも、ツナ君がなにかあるときって、お兄ちゃんが変な反応するから」

「そっか……」

 

 これ以上ないほど説得力のある理由だ。なにが起こっているか妹に知られたくないと思っているくせに、了平は動揺がそのまま態度に出るタイプである。綱吉もそのタイプだけど、誤魔化すのはもう少しうまい。

 

「ねえ、利奈もクロームちゃんも、よかったら一緒に新しいの作らない?」

「え?」

「私も……?」

 

 思ってもみなかった提案に、クロームと二人で顔を見合わせる。

 

「お兄ちゃんと、山本君と獄寺君のもあるの。今日の夜までに必要らしいから、帰ってからハルちゃんたち呼んで作ろうと思って。二人は時間ある?」

「私はあるけど……」

 

 それとなくクロームを窺う。

 さっきクロームに指摘されたとおり、今日の戦闘は終了している。ただ、復讐者の奇襲が心残りだ。

 

「私も大丈夫……だと、思う」

「ほんと? じゃあ、学校終わったら、そのままうちに来れる?」

「うん」

 

 クロームも、奇襲の可能性は考えているだろう。でも、それを言い出したらこうやって学校に行こうとしていることもリスクがあるわけで。代理戦争が終わるまでずっと綱吉のそばにいるわけにもいかないし、そこは割り切るしかない。

 

(まあ、学校に復讐者出たらヒバリさんが黙ってないだろうし)

 

 奇襲ならば、恭弥が戦ってもリボーンチームに罰則は発生しないだろう。そう結論づけて、利奈は懸念事項を頭の隅に追いやった。

 

 

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