地の文をだいぶ書き直しましたが、内容の違いはほとんどありません。
炎真の病室は、四人のすぐとなりにある。入院した順番で病室が決まるから、炎真が一人押し出されている形だ。それなら武と隼人がそのあとに続いてもおかしくはないのだが、二人は一時入院だから区分が違ったのだろう。上階にいるほど重病人扱いというわけだ。
病室のドアをノックして開けると、らうじの言ったとおり、アーデルハイトの姿があった。
「あら、貴方は……」
「こんにちは」
怪訝そうな顔をするアーデルハイト。この様子だと、利奈が昨日見舞いに訪れたことを炎真から聞かされていないようだ。炎真はというと、二日続けてやってきた利奈に、パッと顔を輝かせる。
「また来てくれたんだね」
「うん。下に山本君と獄寺君もいて」
「ボンゴレの人間も? 今日の戦闘でですか?」
「はい」
こちらも初耳のようだ。階も違うし、無理もない。なんとなく戦闘時間を勘違いされている気もするけれど、わざわざ説明する必要もないだろう。なかに入ってドアを閉める。
昨晩から長期入院患者は増えていないようで、実質、炎真の一人部屋だ。廊下の喧噪が遮断されると、ほとんど無音になってしまう。
「なんか静かだね。こっちは」
「こっち?」
「うん。さっき、ほかのみんながいるとなりの部屋にいたんだけど――」
「騒がしかったですか?」
アーデルハイトの声音に、ピリリとした剣呑な気配が混ざる。経験則でそれを察知した利奈は、すぐさま口に出しかけていた言葉を当たり障りないものに変換した。
「退院の支度でバタバタしてて。しとぴっちゃんは階段のところにいたんですけど」
「ああ。あの子は病室に来た医者に尻餅をつかせて、医者送りにしたので」
「お医者さんも!?」
「そんなことあったんだ……」
炎真も初めて聞かされたようでびっくりしている。さっきまで二人でいたはずなのに、情報共有というか、雑談をあまりしていないようだ。いったいなにをしていたのだろう。
「あ。あと、加藤ジュリーがナースステ――もう戻ってます!」
言い終える前にアーデルハイトが病室を飛び出そうとしたので、慌てて声を張り上げる。すると、アーデルハイトはピタリと動きを止めた。
「そうですか」
(一瞬、すごい顔してた)
あと一歩遅かったら、静止が間に合わずにナースステーションまで乗り込んでいただろう。見た目と態度はクールだけど、中身はわりと激情型だ。ナースステーションと言い切る前に動き出していたし、日頃からジュリーの問題行動に悩まされているに違いない。
「ところで、こちらにはなんの用で? 見舞いに? それとも、今後のことでなにか?」
「お見舞いに。……今後のことって?」
尋ねやすい炎真のほうに話を振る。
「僕たち、これからどうしようかって話し合っていたところなんだ」
「これから?」
「うん。代理戦争どうするか」
「私はてっきり、雲雀恭弥の代理として来たのかと思ったのですが。その様子だと、違ったようですね」
「ううん?」
言っている意味がわからなくて首を傾げる。
どうして今さら、恭弥の代理を務める必要があるのだろうか。どちらのチームも、昨夜敗退してしまったというのに。
「ええ、私たちのチームは確かに敗退しました。でも炎真が――」
「ほかのチームに入ることはできるんだ。だから、僕だってまだ戦えるよ」
炎真が前のめりに戦闘意欲を示す。
(そっか、負けた人が失格になるわけじゃないんだ)
チームのボスウォッチ、あるいは個人のバトラーウォッチを壊されると戦闘不能になるが、負けた参加者の再加入を禁ずるルールはない。ボスウォッチを壊された炎真の場合、ほかのチームの時計をつければ参加できるはずだ。
(あれ? でも、了平先輩は復帰してなかったような……)
リボーンチームは思いつかなかったのだろうか。いや、リボーンならば気付いていただろう。
となると、回復役を務められる了平を終盤まで温存したかったか――単純に、単純な了平が不注意でバトラーウォッチを壊さないよう、保留にしたかのどちらかか。後者の可能性が濃厚だが、ここは了平の名誉のためにも、前者としておこう。
「じゃあ、これからツナのチームに?」
「うん」
「ちょっと。まだ決めてないわよ」
慌てた様子でアーデルハイトが釘を刺す。どうやら、参加したい炎真と参加させたくないアーデルハイトで意見が分かれているようだ。
「だって、スカルがやられたんだよ。僕たちはこの程度で済んだけど、スカルは一歩間違えたら死んでた。ううん、スカルじゃなかったら、殺されてたんだ!」
炎真が悔しそうに拳を握る。
家族同然のファミリーを、外野からの奇襲で蹂躙されたのだ。はらわたが煮えくりかえる思いだろう。
「それに、この戦いにはみんなの命がかかってる。スカルだけじゃない、リボーン君たちだって、このままじゃ――」
「え? 命って、なに?」
黙っていられずに口を挟む。
「どういうこと? 代理戦争でなんで命がかかるの?」
この戦いにおいて、命がかかっているのはアルコバレーノの代理たちだけのはずだ。それだって、戦闘途中に命を落とす危険性があるというだけで、命がけの戦いではない。現に、この時点ではだれも死んでいない。
それなのに、炎真はみんなの命がかかっていると口にした。まるで、結果によっては、リボーンたちが命を落とすような口振りで。
「それは――」
「そこからは俺が説明するぜ!」
ガラリと勢いよくドアが横に滑り、三人は揃って入り口に顔を向けた。そして、一斉に身構える。
「バミューダ……!」
「違う違う違う! 俺だ! 俺様だ!」
「……バミューダ・バインハルゼン!」
「だからちがーう! つか、なんだその名前!? シリアスな場面で適当な名前言うんじゃねえ、ブス!」
「ブスぅ!?」
直球の悪口に、利奈は声を上擦らせた。
うろ覚えで名前を口にしたのは悪かったけれど、いくらなんでも言い過ぎだ。しかも、顔のことを口にしたくせに、自分は包帯で顔をグルグル巻きにしている。三人がバミューダと誤認しても、文句は言えない紛らわしさである。
文句のひとつやふたつやみっつでもと鼻息を荒くした利奈だったが、その出鼻は即座に砕かれた。
「スカル。女性にそんなことを言うのはあまりにも失礼ですよ」
「ヘン!」
「……!」
スカルが中途半端に開けたドアを、小柄な少女が支えている。記憶にある姿よりもずっと幼いが、顔立ちはまったく変わっていない。
「ユニ?」
「ご無沙汰です、利奈さん」
「ユニ!」
思わず駆け出すと、ユニが笑顔で腕を広げてくれた。なので、勢いのままギュッと抱きしめる。
「よかった……会いたかった……!」
「私もです」
小さな手が背中を掴む。現代のユニが健在なのはわかっていたけれど、こうして会えると感慨はひとしおだ。
「えっと、その子は?」
あっけにとられたように炎真の声。消極的に参加していただけあって、敵チームの情報はあまり把握していないらしい。ユニチームも昨日の戦闘で脱落しているし、気軽に紹介してもいいだろう。そう判断した利奈は、解いた腕をユニの背中に回した。
「この子はユニ。前に一緒にいたことがあって」
「アルコバレーノのユニです。ジッリョネロファミリーのボスを務めています。そちらは、シモンファミリーの方々ですよね。初めまして」
ユニは炎真たちを知っていたようだ。だが、ユニの名乗りを聞いて、二人の身体に緊張が走ったの。
(そうだ、ユニもマフィアのボスだった)
アルコバレーノとしてのユニと接してばかりだったから、ジッリョネロファミリーのほうの肩書きをすっかり忘れていた。そして、炎真とアーデルハイトがマフィアに迫害を受けていたことも。
Dの策略により、シモンファミリーはボンゴレファミリーを窮地に追いやった戦犯という濡れ衣を着せられた。
ゆえに、ボンゴレ傘下のファミリーからは目の敵にされ、そうでないファミリーからもヘマをした弱小ファミリーと迫害されてきた。最大勢力のボンゴレファミリーにおもねるファミリーが多ければ多いほど、失態を犯したとされるシモンファミリーへの制裁は大きい。彼らが今まで受けてきた扱いを思えば、身構えるなというほうが無理なのだろう。
(私がフォローするべきだよね、これ。でも、なんて言おう)
ユニがシモンファミリーのことをどこまで知っているかも重要だ。運が悪ければ、継承式を襲撃したファミリーとして記憶されているかもしれない。だから、炎真たちも動けないのだ。
(学校の友達って説明する? あー、でも今、シモンファミリーってユニ言ったよね。もう知ってるんだ。黙っちゃうと余計アレだし、とにかくなんか言わないと――)
「えっと、二人は……この前、うちに転校してきて……」
どうしたものか。どうすれば丸く納まるのか。
あれこれ考えているうちに、ユニが足を踏み出した。
「このたびはスカルがお世話になりました。アルコバレーノの立場として、お礼を言わせてください」
柔らかな笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げる。外部ファミリーのボスに軽々と頭を下げられたからか、またも二人は面食らう。
「おいユニ! 俺が世話になったんじゃないぞ! 俺が世話してやったんだ!」
下からスカルが吠える。
身長差でどうしても見下ろすことになるのだけど、なぜか下っ端感が漂っている。アルコバレーノならば、風やマーモンたちのように、なにかを極めた優れた人物のはずなのに。それはアーデルハイトも同じなようで、彼女にしては珍しく、露骨に眉をしかめた。
「なにを言ってるの。食事や風呂の世話をしたのは私たちでしょう」
「あんなもん食えたもんじゃない! でろでろのごはん! なんか小さくてぼそぼそしたおやつ!」
「ボーロっていうんだよ」
「それだ! それに、風呂に無理矢理引きずり込んだのはらうじだったぞ! なんでお前じゃない!」
(たぶん、そういうところが原因だと思う)
本当は赤ん坊じゃないのだから、人にお世話される必要なんてないはずだ。それに、言っていることがとても変態くさい。
ほぼ初対面ながら生理的嫌悪を抱く利奈だったが、あまりにも俗っぽいスカルの発言のおかげか、場の空気が元に戻った。一瞬で自分のペースに引き戻したという点では、優れた人物なのかもしれない。
「話を戻すぞ! このままじゃ俺の命がヤバいから、お前たちには戦いに協力してもらう!」
またも下からふんぞり返るスカル。どこまでも自分本位な発言だが、そもそも、なぜ脱落者であるはずのスカルに危険が迫るのだろうか。
「炎真から話は聞いたけど、本当に? 本当に貴方たちは呪いを受けているのですか?」
にわかには信じがたそうなアーデルハイト。質問を受けたユニは、重々しく頷いた。
「はい。私は祖母から。ほかのアルコバレーノは、その身に呪いを」
「だから言っただろ! 本当の俺は七頭身あるハイパーイケメンだって!」
(ウソくさ)
ユニ以外のアルコバレーノは、呪いで姿形を赤ん坊に変えられている。
本当の姿は何人か目の当たりにしたけれど、このやかましくデリカシーのないスカルがハイパーイケメンであるとはとても信じられない。精神年齢的には、小学生でもいいくらいだ。それはアーデルハイトも同じようで、しらけた顔をしている。
「私の祖母とスカルたちは、チェッカーフェイスの依頼のもと、チームを組んで任務を受けていました。そして最後の任務として招集された山の頂上で、この呪いを受けたのです」
「いったいどうして?」
炎真の問いは、代理戦争前に利奈がリボーンにしたものと同じだった。あのときのリボーンは知らないと言っていたけれど、彼らはもう、その答えを手に入れていた。
「この世界を守るための、人柱になるためです」
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