新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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戦いの終わり

 

 勝敗は決した。リボーンチームの勝利である。

 

 しかし、本題はここからだ。

 代理戦争での勝利は、あくまで復讐者によるチェッカーフェイスへの復讐を防ぐための手立てにすぎない。

 チェッカーフェイスが死ねばアルコバレーノシステムは崩壊するが、そうなると今のアルコバレーノも巻き添えになってしまう。バミューダとの戦いは、それを防ぐためのものだった。

 

「おめでとうございます! フフ!

 優勝チームのアルコバレーノであるリボーンさんは、特別に呪いを解かれますよー! ホホッ」

 

 脱いだシルクハットから、尾道が紙吹雪を飛ばす。

 しかし、それを喜ぶ者はいない。むしろ、全員が敵意をあらわにして尾道を睨んだ。

 

「ウソをつくな。

 虹の代理戦争の本当の目的は、用済みになった現アルコバレーノの命を奪い、新しいアルコバレーノを選ぶことなんだろ? おしゃぶりを守るために」

「ええ!? いや、そのようなことは――」

 

 ここで尾道が、周囲の殺気に気がついた。困惑しきりといった顔で、紙吹雪が入ったままのシルクハットを被り直す。

 

「いったい、どこからそのような噂が? 私には心当たりが――」

「とぼけるな!」

 

 その声はバミューダのものだった。

 一瞬緊張が走ったが、バミューダはまだ起き上がれそうにない。

 

「我々がなにも知らないとでも思っているのか! こんな、こんな身体にしておいて!」

「いや、あの?」

 

 イェーガーにも吠えられ、尾道がタジタジになっている。とても演技には見えない。

 

「彼を責めないでやってくれ。尾道は本当になにも知らぬのだ」

 

 仮面をつけた男が広場に現れた。

 あまりにも唐突に出現したので利奈は驚いたが、レヴィもどうやら知覚できていなかったようで、腕に力がこもる。

 

「チェッカーフェイス様、いらっしゃっていたのですか!」

 

 尾道が名前を呼ぶ。

 

 チェッカーフェイスというのはもちろん偽名だろうが、名前の由来は一目瞭然だった。顔の半分に、チェック柄の模様が入っている。小物もチェックで統一させているし、そういえば、バトラーウォッチのベルトもチェック柄だった。自己主張が異様に激しい。

 

「ちょっと、話が違うじゃない! 勝者の前にしか姿を現さないって言ってたのに!」

 

 ルッスーリアの言うとおりだ。

 アルコバレーノになる者の前にしか現れないからこそ、バミューダは代理戦争に参加したはずなのに。これでは、両者戦い損だ。

 

 変な音がすると思って視線をずらすと、スパナがカタカタとパソコンを叩いていた。

 

「心音なし、熱源なし、生体反応なし。センサーはあそこにはなにもないって反応になってるけど」

「幻術ってこと?」

「ならばマーモンが言及するだろう。お得意のホログラムか?」

 

 ここら一帯はマフィア関係者で包囲されており、術士や技術者が網を張っているはずだ。それをかいくぐるのは容易ではないだろう。

 となると闇の炎によるワープ機能が疑われるが、あれは復讐者の専売特許である。

 

「私は本物だよ。気配リングで気配を消してはいるがね」

 

 仮面をつけた男――チェッカーフェイスがチェック柄の手袋を外す。

 

(うえっ)

 

 チェッカーフェイスがリングを見せる。

 よりにもよって、複数のミミズがのたうちまわる悪趣味なデザインで、なおかつそのミミズが本当にのたうち回っているものだから、利奈は不快をあらわに唇を引き結んだ。

 もちろんチェッカーフェイスは気にすることなく仮面に手をやり――

 

「この顔に見覚えがあるだろう?」

 

 そう言って仮面――ではなく、上半身の変装をそのまま横にずらした。

 

 つまり、仮面を被って顔を隠しているのではなく、仮面を被った男の皮を被って正体を隠していたというわけだ。そこまで徹底していたのなら、これまで正体不明のままでいられたのも納得がいく。とんでもなく用心深い男だ。

 

 そして、その用心深い男が脱いだ変装の下には、これまた変装のような風体の恰好があった。

 自分で切ったみたいな、無造作な髪型。紐で耳にかけるタイプの丸眼鏡。上半身しか剥がれていないので詳細はわからないが、作業着のような和服。

 

(だれ?)

 

 利奈はまったく見覚えがない人物だと判断したが、しかし、ユニと綱吉はすぐさまその人物を思い出した。

 

「未来で私たちを助けてくれた――」

「川平のおじさん!」

 

(知ってる人だった――)

 

 思わず目を逸らしてしまう。

 

 いや、あのときは桔梗の策略で意識がもうろうとしていたところもあったし、すぐに思い出せなくてもしかたがない。出会ったときはまだ元気だったとはいえ。その直後に意識を失ったのだから、前後の記憶があやふやになっていてもしかたない。しかたないのである。

 それに、まさか十年後の未来で会った人物が選択肢に上がるなんて、思いもしなかった。

 

「なに、お前らの知り合い?」

 

 さすがに知らなかったらしいベルに尋ねられ、利奈は内心の動揺を隠しながら返答する。

 

「不動産会社の人だけど……チョイスで逃げたあとに、白蘭たちから匿ってくれた人」

「チョイスのあと? それって変じゃない?」

 

 ルッスーリアの言葉ももっともだ。

 未来で会った人物が、今こうやってすべての元凶として現れるのは筋が通らない。そもそも、未来での関係者でなければ、十年後の記憶は消えているはずなのだ。あの程度の接触で、関係者と認識されるとは思えない。

 

「どういうことだ!?

 どうしてあのとき助けてくれた川平のおじさんがチェッカーフェイスで、リボーンたちをアルコバレーノになんか!」

「ふむ。疑問に思うのは当然だが、人にものを聞く態度ではないな」

 

 再び仮面ごと変装を纏い、チェッカーフェイスが視線を傾ける。

 

「私への殺気が充満しているぞ。諸君」

 

 その言葉で、場はさらにひりついた。

 アルコバレーノたちに向けられた言葉だろうが、それだけのことをしたのだから当然だ。彼らの人生と、復讐者たちの人生と、それから、数え切れないほどの元アルコバレーノたちの一生をめちゃくちゃにしたのだから。

 

「もっとも、私を倒そうなど、考え方が根本から間違っているがな」

 

 チェッカーフェイスが息を吐き出す。

 

 熱風が広がって利奈は目をつむったが、レヴィの腕が外れたために地面に落とされた。驚いて目を開けるも、炎の熱気で息が詰まる。

 

「これ、炎?」

「なんだよこれ、化け物かよ」

「こんなの、比べるまでもないわ!」

 

 綱吉が見せた炎の噴出だって、炎は綱吉の周囲に留まっていた。

 それがどうだ。チェッカーフェイスの炎量は広場全体を満たしてなお、ありあまっている。

 実力者ほど力の差がわかるようで、ピリピリとした殺気はあっという間に霧散した。

 

「おわかりいただけたようだ。君たちと私では規格が違うのだよ。科学的に、生物としてね」

 

 そしてチェッカーフェイスは語り始める。

 己の種族、そしてトゥリニセッテ――おしゃぶりとボンゴレリングとマーレリングの秘密を。

 

 正直言って、チェッカーフェイスの説明はあまりにもSFじみてどころかSFそのもので、利奈にはほとんど理解できなかった。

 チェッカーフェイスとユニが人間とは違う種族で、地球はその種族がトゥリニセッテに炎を灯すことによって育まれていて、その種族が減るたびにトゥリニセッテを分割して現在の地球人に譲渡し機能停止を防いでいて――チェッカーフェイスは最終的にトゥリニセッテを監視する立場になった、ということを言っていたのだが、利奈が理解できたのは、現状、さほど変わりはないらしいということだけであった。

 

 チェッカーフェイスは新しいアルコバレーノを求めている。新しいアルコバレーノに選ばれると、おしゃぶりに炎を灯し続けなければならない。そして旧いアルコバレーノは死ぬことになる。

 本当に、なにひとつ変わっていない。

 

「なにかあるはずだ! 今のアルコバレーノを見殺しにしなくて済む方法が! アルコバレーノを造り出さなくても、トゥリニセッテを維持する方法が!」

「あったらとっくにやっているさ。私が普段なにもしていないように見えるかい?」

 

 チェッカーフェイスには無限ともいえる時間があった。

 彼の口振りからして、人間とは桁違いの寿命をもっているのだろう。それでも仲間は消えていき、ユニの先祖も人間とともにあることを選び、その生を終えた。

 今や、地球を守る使命とそれを果たす力を持つのは己一人。そのなかで、彼はこのアルコバレーノシステムを運用し続けてきたのである。犠牲者の怨嗟にまみれながら。ただ一人で。

 今さらボンゴレリング所持者の一人に説得されたところで、その在り方は揺らがない。

 

「そもそも、君は現アルコバレーノの心配ばかりしているが、わかっているのかね?

 次期アルコバレーノの筆頭候補は、ほかならぬ君だが」

「その覚悟はある」

 

 そんな覚悟、持たないでほしい。

 隼人と武なんかはそのまま綱吉を庇いに行ってしまいそうになったが、それは遠くから間延びして聞こえる声によって勢いを削がれた。

 

「おーい、ちっと待っとくれ!」

 

 広場の向こうからだれかがやってくる。

 ボンゴレリングをボンゴレギアに加工した彫金師のタルボと、ボンゴレ九代目ティモッテオの部下、クロッカンだ。

 クロッカンは、シモンファミリーの聖地に行くさいに骸の監視役として行動をともにしたので、面識がある。

 タルボは腕に大きな丸いガラス瓶のようなものを抱えていて、クロッカンはそれと同じものを複数個紐で繋げたものを両肩に担いでいた。

 

 そういえば、昨日の作戦会議の最初のほうで、おしゃぶりの代用品についてはタルボに相談してあると綱吉が言っていた。

 ならば、このタイミングで瓶を、それも七つ持ってきたということは、つまり。完成したということなのだろうか。

 

(間に合った……?)

 

 この問題の争点は、おしゃぶりの炎を灯すのに、人一人の生命エネルギーを過剰に注ぎ続けなければならないことにある。

 そのためにアルコバレーノに選ばれた者は呪いで赤ん坊の姿にされ、炎量の減衰を理由に世代交代となり、おしゃぶりの炎を抜かれた旧いアルコバレーノは命を失う。

 だから、おしゃぶりの炎を抜かずに済む、あるいは、抜いたときに追加の炎を注入する方法を模索していたはずだが――

 

(なんか、大きくない?)

 

 タルボの抱える瓶は、ボウリングの球くらいの大きさがあった。

 より多くの炎を蓄えるためにしても、あの大きさだと首からかけるのは困難だろう。片手で持てる重さでも、赤ん坊の体では首の骨が折れかねない。

 そんな心配が胸をよぎったが、もちろんその瓶は首からかけるためのものではなかった。

 

 タルボの持ってきた器は、炎の増幅装置だった。

 先ほどバミューダがやったように、瓶のなかに第八属性の夜の炎を配置し、大空の七属性の炎をワープさせ続けることでエネルギーを増幅させ、半永久的に炎を灯し続けるというものだ。

 

「ただし、問題もある。種火となる炎自体が巨大であること。そして、加速に必要な第八属性の炎は、絶えずだれかが灯し続けねばならぬのじゃ」

「第八属性……」

 

 全員の視線が揃ってバミューダに注がれる。

 第八属性の炎を使えるのは、旧アルコバレーノの復讐者のみ。皮肉にも、アルコバレーノシステムの犠牲者のみが、新しいシステムを支えることができるのだ。

 

「なんだよ。じゃあ無理じゃないか」

 

 マーモンの声に失望が混ざる。

 

 バミューダたち復讐者は、チェッカーフェイスに報復することだけを目標に生きながらえてきた集団だ。そのためなら、現アルコバレーノ、ひいてはこの世界がどうなってもかまわないと思っている集団でもある。

 

「復讐のために第八属性の炎を生み出したバミューダだぞ。

 チェッカーフェイスが大切にしているトゥリニセッテの維持のために、わざわざ力を貸すわけがない」

 

 ヴェルデも冷静にそう結論づける。

 

「でも、こいつらの力を借りないと俺たちは今日にでもお役御免になるんだぞ! 脅してでもやらせないと!」

「無駄ですよ。脅しでどうにかなる人たちじゃありません。

 それに、どう脅すんですか? 復讐のためなら自分たちの命ですら投げ打つ方々を」

「じゃあどうするんだよ!」

「方法はあるにはあるが」

「なんだよラル・ミルチ!」

「俺たちが第八属性の炎を獲得して、炎を灯し続けるという手だ」

「願い下げだな、コラ!」

 

 確かにそれでは意味がない。

 次世代のアルコバレーノは生まれないが、今のアルコバレーノを犠牲にすることになる。それに、全員が全員、夜の炎を獲得できるとは限らないだろう。

 

 アルコバレーノがやいやい言っているあいだに、バミューダの体がしぼみ、元の赤ん坊の姿に戻っていく。

 代理戦争の決着がついたので頭から抜けていたが、そういえば呪解には制限時間があったのだった。

 

 包帯を巻いていないバミューダは、皮膚の損傷が残っているものの、不気味さがなくなっていた。それどころか、目に生気のようなものまで感じられた。

 

「で、どうなんだバミューダ」

 

 会話に参加していなかったリボーンが、軽い調子でバミューダに尋ねる。とても自分の命がかかっているとは思えない。

 

「もちろん――」

 

 利奈は目を伏せた。

 

「ぜひやりたい!」

「えっ!?」

 

 利奈は目を見開いた。

 てっきり「もちろん断る。お前たちも滅びの絶望を味わえばいい」などと言われると思っていたので、バミューダの食い気味な肯定に驚きを隠せない。

 チェッカーフェイスも同意見だったようで、初めて動揺するそぶりを見せた。

 

「だって、これでおしゃぶりの命運を僕たちが握れるんだ。

 トゥリニセッテの主導権を奪って、やっと、やっと復讐が果たせる……!」

 

 バミューダの声は歓喜に満ちていた。

 

 この新しいシステムに夜の炎が不可欠ならば、トゥリニセッテの主導権は、チェッカーフェイスからバミューダたち復讐者に移る。この世界を生かすも殺すも復讐者たち次第となるわけだ。そう聞いて、素直にトゥリニセッテを託せるわけがない。

 チェッカーフェイスも即座に断ろうとしたが、そこに割って入ったのはユニだった。

 

「彼らにお願いすべきです。

 この人たちの復讐は、貴方からトゥリニセッテの権利を奪った時点で終わるのです。

 この世界を守ることを使命としていた貴方から、その使命を取り上げる。この世界を守るために犠牲にした者に、トゥリニセッテを奪われる。貴方にとって、これ以上の屈辱はないのですから」

 

 ユニはまっすぐにチェッカーフェイスを見据えている。

 

「そしてこの人たちは、アルコバレーノという犠牲者をこれ以上生み出さないように、自らの生を捧げると言ってくれているのです」

 

 バミューダはそんなことは言っていない。

 しかし、ユニの瞳を覗いているチェッカーフェイスの表情が動く。

 

「これ以上うれしいことはないです。貴方の命も、永遠には続かないのだから」

 

 ユニはチェッカーフェイスと同じ種族だと言われていた。

 ユニの先祖は今の人類との共生を望んたために、人と交わる道を選んだ。結果、ユニの先祖は人として生を終えたが、その血はユニへと引き継がれている。

 

「見えるのだな、セピラの子孫よ。未来におけるトゥリニセッテの健在が」

「はい」

 

 ユニの先祖は、セピラという名前だったらしい。

 未だチェッカーフェイスは名前を明かしていないが、それは部外者の利奈が言及することではないだろう。

 しかし、せめてもの誠意なのか、チェッカーフェイスは仮面を剥ぎ取り、川平のおじさんの顔に戻した。

 

「よろしい。ならばやっとくれ、タルボとやら。バミューダもありがとう」

「えっ」

 

 あっさりとしたお礼の言葉に、バミューダが困惑を見せる。

 

「そ、そんな簡単に?」

「言っただろう。よりよい方法があったらとっくにやっていると」

「そうだけど……」

 

 綱吉も戸惑っている。

 しかし当人はもう乗り気で、ズンズンとタルボの元へと歩み始めている。

 

「私はこれまで、この星の命を守りたい一心で、大きな犠牲を防ぐためならば、小さな犠牲はやむを得ないという信念を曲げずにやってきた。

 この恥ずかしいお面を、恥ずかしげもなく被ってね」

 

(ダサいとは思ってたんだ……)

 

「だが、トゥリニセッテを維持するよりベター方法があるなら、とっとと次の世代に託すことを私はつねに考えていたんだよ。そしてどうやら、今がそのときらしい」

 

 そう言って、チェッカーフェイスだか川平のおじさんだかは微笑んだ。

 

 

____

 

 

 

「ねえ、本当に大丈夫かな」

 

 あまり大きな声で言えることでないので、ひっそりと正一に声をかける。

 

 場の空気が一回休憩モードになったので、ヴァリアー一同は病院に運ばれた二人の安否確認に席を外している。利奈の近くにいるのは正一とスパナだけだ。

 正一はずっとほうけたように立ち尽くしていたが、利奈の声かけでにわかに起動した。

 

「っはあああ、つっかれた……!」

「おつかれー」

「いや、君はなんで平気なの!? 僕、途中からほとんど息止めてたんだけど! なにあの人、とんでもないんだけど! なにあの炎量! 人工でもあそこまで出せないよ!」

 

 どうやら、チェッカーフェイスの炎量に圧倒されたまま、動けずにいたらしい。

 だれよりも炎量が少ない自覚があるので、あれがどれくらいすごいことなのかわかっていないのだが、正一の反応からすると、人間から出ていい炎量ではないらしい。チェッカーフェイスは今の人類とはべつの種族らしいから、比べるものでもない気もするが。

 

「でも、人が車と同じ速度で走ってたら異常だと思わない?」

「あっ、思う。そういうこと?」

「そうそう」

「いや、あれは人とジェット機くらい差があった」

 

 スパナが静かに訂正する。

 技術者としての本能が刺激されたのか、先ほどからパソコンを打ちっぱなしである。

 

(そっか、そんなにすごかったんだ)

 

 アルコバレーノ以外のみんなやけに静かだったけれど、力の差に圧倒されていたらしい。

 

 二人が談話を始めたので、利奈はおもむろに携帯電話を取りだした。

 

 着信は入っていない。

 連絡が来ないということは、なにも起きていないということだ。

 病院に運ばれた恭弥が、何事もなく治療を受けているということである。

 

(まあ、ヒバリさんがあの程度でどうにかなるわけないけど。

 どっちかっていうと、胸とか貫かれてたスペルビさんのほうが心配だし)

 

 そちらはヴァリアーからの報告待ちだ。開きもせずに、携帯電話をしまう。

 

「準備が終わったぞ。集まれぃ!」

 

 すぐにタルボから招集がかかった。炎が出せる人は全員参加だったので、利奈も末席に加わる。

 

 闇の炎で増大させるとはいえ、最初の火種の大きさは重要らしい。

 大きければ大きいほど安定するし、小さければほんの少しの揺らぎで失敗してしまう。失敗イコール世界の滅亡という笑えないリスクもあって、この場に残る人たちはみんな集められたというわけだ。

 

「すまないね。

 本当は日を改めたほうがいいんだろうが、トゥリニセッテはわりとギリギリなんだ。彼らが回復するのを待っているあいだに世界が滅んでは元も子もない」

 

 川平のおじさんがさらりと怖いことを言う。

 彼なりに、ギリギリまでアルコバレーノたちを生かそうという配慮はあったようだ。

 だれよりも炎量の多いのだが、大空の七属性の炎には該当しない炎だったので、見学に回っている。同じ理由で、炎真も見学だ。

 

「俺たち、あまり炎使ってなくてよかったな!」

「やめろバカ! すぐやられたみたいに聞こえんだろうが!」

「円陣だー! 極限に炎を注ぐぞー!」

 

 瓶とバミューダを中心に、みんなで大きく円を描く。

 

「よーし、いくぞ!」

 

 かけ声とともに炎を放つ。

 全員がありったけの炎を注ぎ始めたので、あっというまに円陣は炎に包まれた。真ん中に熱が集まっているので、キャンプファイアに手をかざしているみたいな感覚だ。

 

「これがうまくいったら、俺たちの呪いは解けるんだろうな!?」

 

 スカルの声が聞こえる。

 

 呪いはおしゃぶりによるものではなく、おしゃぶりをつけさせるためにチェッカーフェイスがかけたものだ。おしゃぶりを外しても呪いは解けないし、呪いが解けないと彼らは元の姿には戻れない。

 

 しかし、無人のおしゃぶりが完成すれば、アルコバレーノに呪いをかけ続ける必要はなくなる。こうやってトゥリニセッテの維持に協力している以上、チェッカーフェイスに断る道理はない。

 

 しかし利奈は、チェッカーフェイス改め、川平のおじさんがなんと答えたのかを知ることはなかった。

 スカルの声を聞いた直後に、意識を失ったからである。

 

 単純な話だ。

 白蘭とスクアーロの治療に限界寸前まで炎を注いでいた利奈は、最後の出力であっけなく限界を突破した。

 ありったけと聞いて、ありったけを注いでしまったのだ。

 

 結果、その場で卒倒し、次に意識を取り戻したときには病室の天井を見上げていた。

 いや、正確には、黄色い羽毛に視界を覆われていた。

 

「ぎゃああ、なに!? なに、天国!?」

「うるさい」

 

 かすれた声が、利奈を咎めた。

 

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