新米風紀委員の活動日誌   作:椋風花

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壊された日常

「昨日、商店街近くのビルで水道管の爆発があった。そばを通るぶんには問題はないとのことだが、補修工事はしばらくかかるだろうから、用がなければあまり近づかないように。保護者向けのプリント配るぞー」

 

 朝のホームルームで担任の先生はそう言っていた。

 昨日の話は、もう学校中で触れ回られている。休日の出来事だったとはいえ、並盛町の中心街で起きた事故だ。その場にいた人も、いなかった人も、プリントを回しながら興奮気味に事故の話をしている。

 

(ううん、事故なんかじゃない)

 

 事故当時はその現場にいなかった利奈だが、事故の形跡はこの目で確認している。あれはどう見ても事故の現場ではなかった。

 

 ――そもそも、水道管が爆発したのなら、現場は水浸しになっていなければおかしいのだ。それなのに現場に水漏れの形跡はなく、ただただ建物の壁や道にあった物なんかが吹っ飛ばされていただけなんて、どう考えても不自然すぎる。

 

 そして、共通する目撃者たちの証言。

 事故当時あの場にいた人たちは、口を揃えて爆発したビルの上に人の姿があったと証言している。しかも、その人物が広場を荒らしていたというのだ。

 

(刀を振り回す、長い銀髪の黒ずくめな外国人――特徴多すぎて特定余裕すぎない?)

 

 幾人かはその男性がものすごい大声で叫んでいたとも言っていたけれど、その人たちも避難の最中だったので、なにを叫んでいたかまでは聞き取れなかったらしい。テロリストだったのではないかとの見解もあった。

 

 避難時の証言だから、ある程度はブレが生じるかもしれない。それでも、目撃情報が何件もあって、そのすべてが一致しているのなら、信憑性があると断言してもいいはずだ。

 

(それなのにニュースだと水道管の爆発……これって、やっぱり裏でなにかあったとしか思えないよね。なにかっていうか――マフィア絡みの、陰謀が)

 

 利奈は後ろを振り返った。その席に、人は座っていない。その次に見た席も。そのまた次も。

 

 ――あのあと。利奈が腕章をつけたあと。

 事故、あるいは事件の情報をかき集めている風紀委員のあいだを縫うようにして、リボーンが恭弥のもとを訪れた。

 

「悪いが、この件は俺に預けてくれねーか」

 

 いつものように、恭弥相手でも一切物怖じせず、リボーンはそう言った。

 

「この件については、あとでちゃんと説明する。だから今は下がってくれ」

 

 利奈は骸の話を聞いたあとだったからこそ、口を挟まなかった。話を聞いていなかった恭弥も、よけいな疑念を挟みはしない。ただし、上から睨みつけた。

 

「君がそう言うのなら……なんて、僕が引き下がると思う?」

 

 声にはうっすらと怒気がにじんでいた。

 恭弥は並盛町を愛している。そんな恭弥が、町を破壊されて、黙って引き下がるわけがない。リボーンもそれはわかっていただろう。なぜかリボーンは恭弥の本質を見抜けている。

 

 恭弥はリボーンに襲いかかろうと一歩を踏み出したが、それすらも見抜かれていたのか、リボーンは目にもとまらぬ速さで、恭弥になにかを投擲した。

 

「っ!」

 

 近距離から顔めがけて投げつけられたにもかかわらず、恭弥は右手で投げられた物を受け止める。そのわずかな時間にリボーンは後ろに跳躍し、恭弥の射程圏内から逃げ出した。

 

「この場で説明してやりてーところだが、今はやらなきゃなんねーことが山積みなんだ。明日にでも代わりの奴をお前のところに寄こすから、そいつに聞いてくれ」

「へえ、君の代わり。なら、その人を君の代わりに咬み殺してもかまわないんだよね」

「好きにしろ」

「ええ……」

 

 代理人のあずかり知らないところで勝手に話が成約しているけれど、代理人はそれで大丈夫なのだろうか。もし綱吉だったら、口を開く前にボロボロになってしまうけれど。

 

「言っておくが、そいつもなかなかつえーぞ? ヒバリでもそう簡単には倒せねーかもしれねーな」

「……へえ」

 

(ああ、リボーン君が火をつけたから、ヒバリさんがめちゃくちゃ悪い顔して笑ってる……!)

 

 そんな不穏なやりとりをもって、昨日の調査は終了したのである。

 そして学校に来てみれば、あの騒ぎは水道管の爆発事故として片付けられているうえに、関与している疑いのある三人は無断欠席しているわけで。これで納得しろと言うほうが無理があるだろう。

 

(リボーン君は説明するって言ってたけど、説明ってどこからするんだろう。……マフィアの話とかするのかな)

 

 信じるかどうかはともかく、マフィアが関わっていようがヤクザが関わっていようが、恭弥はしっかりと落とし前をつけさせるだろう。この町では恭弥が絶対だ。

 またも血を見る争いが始まるのかと一人途方に暮れていると、後ろからもたれかかるようにして花が顔を出した。

 

「なーにぼんやりしてんのよ、朝っぱらから」

 

 いつのまにかホームルームが終わっていた。

 利奈の手に握られたままのプリントを見て、花は体を引いた。

 

「あー、それね。なんかすごい騒ぎだったって聞いたわ」

「うん。見に行ったんだけど、けっこうひどくてさ。重傷者はいなかったからまだよかったんだけど」

「ふーん」

「え、怪我してた人、いたよ?」

 

 増えた声は、京子のものだった。二人して顔を跳ねあげさせる。

 

「京子、あそこにいたの!?」

「うそ、マジで? あんた、大丈夫だったの!?」

「待って待って、怪我してた人って!? 沢田君とか?」

「なんでそこで沢田が出てくんのよ」

「あ、ちょっとね……」

 

 花の指摘に口を滑らせてしまったと気付く。しかし、綱吉の名前を聞いた京子は目を丸くした。

 

「すごい利奈、よくわかったね。昨日はツナ君たちとお出掛けしてたんだけど、いきなり爆発があって……」

 

 なんと、大当たりである。

 ほんの少しだけ考えていた、『じつはすべて綱吉たちの仕業説』が消えてうれしい半面、あの場に綱吉たちがいたのなら、なおさら事件のきな臭さが増してくる。

 

「爆発があったときに、ビルの上から男の子が落ちてきたの。それで、ツナ君とぶつかっちゃって――」

「はあ!? なによそれ、大事故じゃない。沢田休んでんのってそのせい?」

「うーん、違うと思うよ。リボーン君たちを連れて避難したから、ツナ君とは離れ離れになっちゃったんだけど、電話したら無事だって言ってたし」

「あんたまたあのちびっ子たちの子守り手伝ったの。お人よしねー」

「ほかの学校の子も一緒だったよ。ほら、ハルちゃん」

 

 どうやら、野球観戦のときのメンバーで出掛けていたところ、運悪く騒ぎに巻き込まれてしまったらしい。綱吉に巻き込まれたのか、綱吉も巻き込まれたのか、そこはわからないけれど。

 

 どちらにしろ、京子が見たのはそこまでで、そこから先、綱吉たちになにがあったのかはわからない。知りたければ、本人に聞くしかないのだろう。学校に来ていない以上、聞けるわけもなく、話はそこでおしまいになった。

 

「利奈も気をつけなさいよ。あんたは事件に首突っ込まなきゃいけない側の人間なんだから。変なことに巻き込まれそうになったらちゃんと逃げること」

 

 ――すでに手遅れになってしまってるとは、言えなかった。

 

 

――

 

 

 リボーンが約束を守ってくれるなら、今日は恭弥のもとに代理人がやってくるはずだ。風紀委員の一人にすぎない利奈ではその席につかせてもらえないかもしれないけれど、しつこくせがめば内容くらいは教えてもらえるだろう。それか、飲み物を用意してしれっと入りこめばいい。姑息な予定を立てながら身支度を整える。

 

 来るなら多分放課後だろうと思っていたから、そわそわしながらずっと待っていたのだ。勝手に巻き込まれるのはいやだけど、自分から乗りこむぶんには問題ない。むしろ、起承転結の結だけ聞かずにいられる人が、どこにいるのか。

 

 意気揚々と応接室に入りこもうとした利奈だが、そうはいかないとばかりに帰り際、同級生に引き留められた。

 

「ねえ、相沢さん。校門のところにスーツ着たおじさんがたくさんいるんだけど、どうにかならない?」

 

 どうも、同級生からの扱いが、腫れ物から便利屋に変わったような気がする。問題があっても利奈に伝えておけばたいてい解決するのだから、お手軽に使われてしまうのだろう。

 いやだとは思っていない。壊れた備品の発注手配をしたりするのは、委員会業務から逸脱していると大木に注意されたけれど、恭弥が壊した物もこっちで手配しているし、似たようなものである。

 

 そんなことより、不審者の対処だ。

 本当に不審者なら委員のみんなを呼んで蹴散らしてもらうけれど、誤解だったならば穏便に引き払ってもらおう。中学校の校門近くでたむろするのは、よろしいことではない。

 窓から校門を確認した利奈は、うわっと体をのけぞらせた。

 

(ほんとにたくさんいる……外国人だ……しかも絶対カタギじゃない……)

 

 いやに眼光の鋭い、貫禄のある、黒服集団。利奈でなくてもヤクザかマフィアを連想するだろう。しかも、そんな彼らが校門の外から生徒を検分して、ぼそぼそと何事かを呟き合っているのである。これなら、風紀委員の利奈に声がかかるのも当然だ。

 

(たぶん、リボーン君の言ってた代理人だよね。こんなに多人数で来るなんて聞いてないんだけど!)

 

 これでは目立ちすぎる。風紀委員は裏で黒い組織とつながっているという噂が、より一層、信憑性を帯びてしまうではないか。――実際は、白い組織(病院・警察)と癒着しているのだけれど。

 

 慌てて階段を下りて校門へと走る。

 下校する生徒は黒服一団に怯えながら通り過ぎているけれど、悲しいかな、朝の登校風景とそんなに変わりがない。そういえば、学ランも黒服といえば黒服だ。

 

「あの、どなたかの保護者の方ですか?」

 

 臆することなく声をかけると、全員の目が利奈に向き――声をかけてきた相手が女子生徒だとわかったからか、わかりやすく目元を緩めた。――その一瞬前は、完全にあっちの世界の人の顔をしていたけれど。

 

「ああ、おかまいなく。ちょっと野暮用があってな」

「まあ、ある意味、保護者なんだがな」

「違いねえ」

 

 ケラケラと笑い合う彼ら。毒気を抜かれる朗らかさだけど、おかまいなくしていられる立場ではない。話が通じそうな雰囲気だったので、利奈は仲間を呼ばずに説得を試みた。

 

「申し訳ないですけど、ここに立っていられると下校時の……えー、妨げになりますので。場所を変えていただけませんか」

「おおう、折れないな、この嬢ちゃん」

「心配しなくても、ボスが来たらどうせ……お、来たぞ来たぞ」

 

 彼らの視線がまたしても一方向に向き、利奈もそれにつられて顔を右に向けた。あきれ顔の金髪青年男性と、これまたあきれ顔の黒服中年男性が、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。

 

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