タグのR15と残酷な描写が仕事してます。
次話とまとめて投稿したほうがいいかなとも思ったのですが、物理的残酷描写と心理的残酷描写のコンボになるだけなのでやめました。
午後ロー観ているうちに感覚が麻痺して、もう基準がわからなくなったんだ……。
グロい表現は入れてないですが、前回の続きなので、読みたくない人は飛ばしても大丈夫です。二章を待ってください。
飛び散る血液に、跳ねる身体。腕が爆発したような痛みが、五感のすべてを凌駕する。
「あ゛ああああ!!」
銃で肩を打ち抜かれ、利奈は砂利の上でのたうち回りながら絶叫した。
「動くな!」
その言葉は、利奈ではなく利奈の仲間たちに向けられていた。
悶え苦しむ利奈の脇腹を容赦なく踏み押さえ、男は銃口を利奈の頭に向ける。
「少しでも近づけばこの女を撃つ!」
「やめろ!」
「銃を降ろせ! 殺すぞ!」
「ううっ、……ううう」
唇を噛みしめ、必死に悲鳴を呑みこむ。
気を抜くと気絶してしまいそうなほどの激痛と、心音に呼応するように流れ出ていく血液が、行動力と思考力を奪っていく。もはや利奈には、激痛を耐える以外の選択肢が与えられていなかった。
「相沢!」
声は聞こえている。しかし、それがだれなのかはわからない。
呼びかけてきた相手が、かつて同じ班に所属していた近藤であることすら、利奈にはわからなかった。
滲む視界には空しか映らない。
赤い空なのか、それとも、視界が赤く染まっているのか。
「いいか! 仲間を殺されたくなければ俺たちの言う通りにしろ!」
男が日本語で怒鳴る。
声音は冷静さを保っているように装っているが、内心の動揺は踏みつけられた足から伝わってきている。靴のなかで指を始終動かしているのが、脇腹越しに伝わってくるのだ。
「銃と車を置いてこの場から消えろ! そうしたら、命だけは助けてやる!
でなければ、この女のほかに何人か死んでもらうことになるぞ!」
仲間はどんな顔をしているのだろうか。ここには何人駆けつけてきたのだろうか。
懸命にまぶたを押し上げて首を動かすが、焦点が合わず、人数すら確認できなかった。
(みんなの声……聞こえない……寒い、な)
震えあがりそうなほど寒いのに、撃たれた腕だけはとても熱い。
意識を手放した方が楽になるこの状況で、それでも利奈は現実にしがみついていた。
___
「おい。このままだと、この女が持たないぞ」
顔面蒼白で震える女の肩からは、絶えず血が流れ続けている。
このままでは交渉の余地がなくなるので、相棒の足をどかせて、傷口を押さえつけた。意識があるのかないのか、女は浅い呼吸を繰り返していた。
「どうだ?」
「出血がひどい。それはまあいいが、この女、発信機を所持している可能性が高いぞ。
仲間が来るのが早すぎる」
「だろうな。くそっ、忌々しい」
「車に乗りこんだら捨てていくか?」
「いや、この女を失ったら俺たちに逃げ場はない。すぐに捕まってしまう」
ずらりと並ぶ男たちは、だれ一人として銃を降ろさなかった。
この女を殺したら、こちらの打つ手がなくなると見抜かれているのだ。
「くそ、この場にいる全員を殺すしかねえのか!」
悪態をつきながら相棒が銃を持ち直す。
「この人数相手にそりゃあ無理だろうよ。……いや、手はあるか」
気を失った女を支えながら、背負っていたリュックから小さな箱を取り出す。
今の時代、銃よりももっと強力な兵器がマフィア間には流通している。
「これなら、なんとかできるだろうぜ」
匣兵器。どこかの科学者が発明した、体内の波動を使って操る、オカルトじみた強力な兵器だ。
これを使ってしまったらマフィア関係者だとバレてしまうが、そんなことを気にしている場合ではない。今はとにかく命が惜しい。
(一発、すごいやつを叩き込んでやるぜ!)
土手の上であいつらがわめいているが、もう遅い。すでにリングに炎を点し終えている。
(……止めたいってんなら、撃ってみな。こいつごと。
その弾が俺に当たる前に、この匣に入ったあいつが暴れ出すだろうがなあ!)
匣にリングを注入するその瞬間、すべての動きが止まって見えた。
焦った顔の男たちも、勝ち誇った顔の仲間も、目を開けた女もすべてが停止して――
(目を、開けた?)
「っ、はっ!」
腕の中にいた女が、首に抱きついた。
耳に痛みが走り、匣に挿入しようとしてたリングが空振りする。
(この女、俺の耳を!)
女を突き飛ばすと、それを待っていたかのように女の仲間が銃を撃ち始めた。その一発が相棒の足に当たり、怒りで視界が赤く染まる。
(こんな死にぞこないの一手で――)
戦況をひっくり返された。
「この、クソ女がああああ!」
「っ、お、おい!」
今までにないほどの炎が噴き上がった。片足を引きずった仲間が後退り、銃弾が体をかすめたが、もはやどうでもいい。
炎を匣に注入して、ピクリとも動かない女に向けて匣を開匣する。
「喰らいやがれえええ!」
____
燃え滾る炎は、利奈の身体に容赦なく襲いかかった。
意識は途切れていなかったが、もはや痛みや熱さはほとんど感じなくなっている。
それは幸せなことだったのかもしれないが、同時に、もうどうしても助からないのだろうなと、ぼんやりと考えていた。
もうなにも見えない。なにも聞こえない。最後に見たのは炎で、最後に聞いたのは男の罵声だ。
空気の振動が、まだ戦いが続いていることを示している。しかし、それすらもはやどうでもよくなってきていた。
確実なのは、もうすぐ自分が死んでしまうという事実だけ。
死というのはとても恐ろしいことのはずなのに、利奈はなぜか安寧のなかにいた。
仲間たちが傷つく姿を見ないですんだからだろうか。諦めないでよかったと、心から思う。
そのまま眠りにつこうとしていた利奈の耳に、馴染みのある声が届いた。
「利奈っ!しっかりしなさい!」
(……あ)
右頬になにかが触れる。
息を吸おうとしたら肺に煙が入って、利奈は激しく咳きこんだ。
「っ! ……っ!」
声が出ないことに恐怖を感じ、なんとか声を出そうと口を動かす。
しかし、炎に焼かれた喉では、一音も発声できなかった。
「落ち着いて! 喋らないでいいですから……!」
頬に触れていた手に口を覆われる。
利奈は最後の力を振り絞るようにして、目を開いた。
(……骸さん? なんで)
間近にある骸の顔はひどく青ざめていた。
どうしたらいいかわからないといった顔で、利奈の頬を再度撫でる。その手は手袋に覆われていなかった。
「……心配ありません! これくらい、僕の幻術で、なんとかなりますからっ」
利奈は首を振る代わりに涙を流した。
どんなに優れた力を持っていても、それは無理だ。たとえ骸でも、死にゆく者は救えない。
そんなこと、本人だって承知しているだろうに。
「今の僕ならできるはずだ……なんとか」
首筋をなにかが掠め、意識が濁る。骸が肩を抱く力が強くなる。
どうしようもないことをどうにかしようというその姿は痛々しく、傷つくことを恐れる子供のように見えた。
「どうしてうまくいかない!」
骸は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
利奈は半目で骸を見上げるのが精一杯だった。
(……だれ、かが……手……?)
だれかに火傷した左手を握られている。
骸のものではないだろう。左手は両手で握られている。
「死ぬな、利奈!」
骸の声が遠くなっていく。
「利奈! 返事をしなさい、反応を……っ、利奈!」
左手を握る手はとても小さい。
「利奈!」
「相沢!」
「しっかりしろ!」
「利奈! 利奈っ!」
「おい相沢!」
仲間の顔が見えるが、もうなにも聞こえない。
ガクリと頭が垂れて、見知らぬだれかと目が合った。
(……だれ?)
手を握って自分の顔を覗く少女がいる。
真っ白な少女。透明な瞳で利奈を見つめ、そして――
「貴方も、私と同じになるの?」
という問いかけが、頭のなかで木霊した。
なんのことかわからないまま、答えられないまま、利奈の意識は途切れる。
――そこで、相沢利奈の短い生涯は終わった。