“荒野の迅雷”との戦いの後、ノーラ・サヴィツキーの部隊は“地球連邦軍”としてジオン公国軍との戦いに従軍した。
一方で一年戦争の戦局はオデッサ作戦を契機に大きく動くこととなる。
UC0079年11月9日、地球連邦軍主力がオデッサを守っていたジオン公国軍を破ると、残存部隊は宇宙・東南アジア・アフリカ・キャリフォニアなどへの退却か降伏を余儀なくされた。
これを機に戦局は大きな転換点を迎え、戦場は再び宇宙へ移ったのである。
UC0079年11月末。
ノーラが所属する地球連邦軍・ノルドハイム中隊は転属を命じられた。
ブリーフィングルームではノルドハイム少佐が資料を見ながら、部下に概要を説明していた。
「統合参謀本部からの命令で、我々の部隊は再編成される。戦車部隊はこのままトリントン基地に駐留、第2中隊と統合される。戦車部隊の指揮はルトコフスキー大尉に引き続きお願いする。」
「了解致しました。」
戦車隊隊長のルトコフスキー大尉が返事をした。
「モビルスーツ部隊及び支援部隊は宇宙に転属となる。今後のスケジュールだが3日後にルナツーに移動する。そこでアンティータム級補助空母を受領する予定だ。」
(また
ノーラが少し視線を落とした。
地球に降りてわずか1ヶ月、また
だがそれは“祖国”の敵として、であるが。
「諸君等も色々と思う事もあるだろうがこれも任務だと思え。では各自3日後の出発に備える様に。以上!」
ブリーフィングを終え、各自思い思いにブリーフィングルームを出て行った。
ノーラは基地の食堂のバルコニーで休息することにした。
自動販売機でコーヒーを買うと、ベンチに腰掛けた。
「・・・」
ここからは“コロニー落とし”の跡が良く見える。
トリントン基地にやってきて1ヶ月、毎日の様に見た光景だ。
あの下に住んでいた住民達の恐怖は察するに余りある。
「ここにいたのか、サヴィツキー曹長。」
後ろから声を掛けられた。
「ノルドハイム少佐…」
ノーラは立ち上がろうとした。
「いや、そのままで良い。前に座って良いかな?」
「あ、はい。」
ノルドハイムが向かいのベンチに座った。
「あれを見ていたのか?」
ノルドハイムはそう言うと、コロニー落としの跡地の方を見た。
「はい…」
「サヴィツキー曹長はあれを見てどう思った?」
「・・・」
ノーラは言葉に詰まった。
そして唾をごくりと飲み込んでから口を開いた。
「…あれを初めて見た時は、言葉が出ませんでした。今も、そうです…」
「サヴィツキー曹長もそう思ったか。」
ノルドハイムは一口コーヒーを口にした。
「少佐も…ですか?」
「ああ。あれは私達が制圧したコロニーの内の一つが、武器として使われたのだ。君もそうだったと思うが私も一週間戦争で、敵対サイド攻略に従軍していたんだよ。その後それほど期間を開けずに、ここに来たわけだが…」
「・・・」
「あれを見て、祖国が、自分達がしてきたことが心底恐ろしい事だと思った。あの下で、いったいどれほどの人が命を落としたのか…」
「まさか少佐程の方が、そんな事を思っているなんて思ってもいませんでした…」
「はっはっは、私が血も涙もない生粋のジオン軍人だと思っていたのかね?」
「あ、いえ…。それは…」
ノーラは視線を逸らした。
「冗談だ、サヴィツキー曹長。さて、私は基地司令部に用事があるから行ってくるよ。」
「は、はい…!」
ノルドハイムは手を上げるとその場を去って行った。
そして3日後、ノーラ達はトリントン基地を出発し、
ルナツー。
ルナツーはUC0045年にアステロイド・ベルトから月軌道上に運ばれてきた小惑星がUC0060年頃から地球連邦軍によって軍事基地に改造されたものである。
一年戦争緒戦において宇宙のほとんどをジオン公国軍に制圧されたが、ここだけは宇宙において唯一の地球連邦軍の拠点として残っていた。
その為オデッサ作戦後宇宙における反攻の為に、部隊の再編成がここで行われていた。
「あれがアンティータム級補助空母だな。」
部隊員の一人が、係留されている艦船を指さした。
アンティータム級補助空母は、ペガサス級強襲揚陸艦の不足分を補うためコロンブス級輸送艦を簡易空母に改装した艦船である。
一年戦争時、地球連邦宇宙軍の主力艦船はマゼランやサラミス級と言ったものであった。
これらはモビルスーツを数機搭載できるようにしただけであり、運用能力は非常に低かったと言える。
一方で“ホワイトベース”で有名なペガサス級強襲揚陸艦も就役数が少なく、ペガサス級の数の少なさとマゼラン・サラミス級モビルスーツ運用能力の低さを補う艦船が求められた。
そこで開発されたのが、アンティータム級補助空母であった。
元が輸送艦の為モビルスーツ搭載可能数が多いが、武装が貧弱と言う弱点もあった。
「全員揃っているか? …宜しい。 それでは簡単に説明する。 諸君等ももう見ていると思うが、あれが我々が搭乗するアンティータム級補助空母・『ファン・デン・ブレーケン』だ。」
ノーラ達は説明に耳を傾けた。
「我々は後で合流するコロンブス級輸送艦とパトロール艦隊を組むこととなる。」
輸送艦とその“改装版”であるアンティータム級補助空母で艦隊を組む、という事は通常の艦隊では無さそうだ。
パトロール艦隊、と言っていることから連邦宇宙軍の主力に組み込まれることも無いらしい。
「モビルスーツや必要物資は既に移送済みだ。それではこれより移乗する!」
ノルドハイムの号令の下、ノーラ達は『ファン・デン・ブレーケン』に搭乗した。
戦力としてはモビルスーツ8機を搭載しており、それなりの戦力である。
そして翌日、ルナツーを出港した。
途中で艦隊を組む相手であるコロンブス級輸送艦と合流した。
何と“偶然にも”この輸送艦の
彼等は連邦への亡命以来護衛にジム4機をあてがわれ、物資の輸送任務に従事していたそうだ。
彼等が本当に“ジオン亡命兵”であったのかは確認されていない。
その後戦局はチェンバロ作戦によるソロモン攻略、そして星一号作戦の発動…。
UC0079年12月31日、ザビ家の主要人物が死亡し、ア・バオア・クーが陥落した。
翌UC00801月1日、月面都市グラナダにて、地球連邦政府とジオン共和国政府との間に終戦協定が締結され、一年戦争が終結したのである。
この間、『連邦軍内にて情報を集め、来るべき戦いの際には呼応せよ。』との“特命”を受けていたノーラ達が“行動”を起こすことは無かった。
ジオン本国からのその命令が来なかったのだ。
いや、来ていたのかもしれない。
来ていたとしてもジオン公国軍の悪しき所業に辟易していた部隊指揮官のノルドハイムが呼応したかは分からない。
ウィーム!ウィーム!
艦内に警報が響いた。
「何だ?」
艦長席に座っていたノルドハイムが大きな声を出した。
「レーダー、2時方向に感!」
「識別可能か?」
「ミノフスキー粒子散布無く、IFFを読み取ることが出来ます。ムサイ級の様です。…当該艦のトランスポンダは、“白旗”に設定されております。」
「戦闘意志はない、と言う事か…」
ノルドハイムは腕を組んだ。
「少佐、こちらから呼び掛けてみては…? 休戦協定は結ばれていますしもし相手艦が戦いを望まないのであれば、無駄な戦いなんかする必要は無いでしょう。」
斜め後方の席に座っていたノーラが話しかけた。
「サヴィツキー曹長はそう思うかね?」
「はい。もし彼らが私達と同じように考えているならば、話を出来るのではないでしょうか?」
「それもそうだな…、オペレーター!」
「は…!」
「彼等に通信を送れ。繋ぎ次第、私に回してくれ。」
「了解致しました。」
こうして、『ファン・デン・ブレーケン』は『アルブレヒト』と邂逅したのであった。