彼は、どこにでもいる平凡で心優しい青年だった。
他の人と変わったところがあるとすれば、動物に好かれやすいということだけだ。
好いてくる動物たちは、大体は彼の言うことを理解し、言うことを聞いてくれた。
動物達も純粋で心優しい彼を好ましく思っており、彼に褒めてほしくて、笑顔でいて欲しくて、だから側にいた。
彼は、それが嬉しくて動物が大好きになった、多くの動物と仲良くなりたいし、一緒に居たいだから動物園で勤めることを夢みていた。
彼の両親も幼い頃から動物と仲良くしているのを見続けていたので、そのことは応援してくれており、必要な資格についての受験資金を出してくれた。
この日、生物分類技能検定の試験ために東京に来ていた彼は、試験を終え、家に帰ろうと思っていたが、友人から銀座で同人誌即売会があると言ってたことを思い出す。
彼自身もゲームやアニメは好きだが、主に育成系や運営系のゲームだったり、日常系のアニメしか見ていないので、あまり同人などには興味がなかった。
しかし、今回は遠出で、試験などの用事がない限り、こういう場所には来ないだろうなと考えた彼は、記念に同人誌即売会の様子だけ見て行こうと思い、会場に向かった。
そう決まれば、彼はスマホを取り出し開催場所を確認し、幸いにも、今いる場所からそれほど遠くなかったので、その足で会場に向かった。
そして‥‥この行動が彼の運命が決定した。
彼が歩道を歩いて会場に向かっている際に、それはあった。
石造りの巨大な門が道路の真ん中に鎮座しており、その門の中から西洋風な鎧を着た兵士や騎士が並列して出てくるのが見えた。
彼は最近のイベントはこういうものを作って飾ったり、パレードみたいなことをするのか、こってるなと呑気に考えていると、胸に激しい痛みを覚えた。
いったい何だと思って、胸を見てみるとそこには矢が刺さっていた。
え、何で? これは矢?と状況が理解できず、混乱しながらも胸の痛みに耐えられず、しゃがみ込んでいると馬に乗った兵士がこちらに向かって走ってきた。
兵士は槍を構えて、その槍を彼に向けて突き出した、彼の意識はそこで途絶えた。
次に彼の意識が取り戻したのは、自分の姿も見えない暗闇だった。
ここはどこだ、何かないかとあたりを見渡すと、見た先に四角い光の鏡のようなものが見えた、そこに移っているのは見慣れたビルや道路だった。
自分はあそこからこっちに迷い込んだのかと思い眺めていると、そこから反対側に向かって光の橋のようなものが伸びているに気付く。
そちらの方に視線を向けると見渡す限り広がる草原のような物が見える光の鏡よなものがあった、そして、そこから戦列を為して進行するさっきの兵士や騎士に加えて、鬼ような外見をした者、ワイバーンのような空を飛ぶ生物が見えた。
この光景を見て、あの鏡みたいなのは門だということ気付いた。
何となく大変なことが起きてることが解った彼は、とりあえず、自分の世界が見える門の方に向かおうとしたが前に進むことが出来ない。
それどころか、手や足を動かしている感覚さえない、これは一体どういうことだ?と考えていると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。
『あら、珍しい場所に珍しい魂があるわね。』
いったいどこから聞こえる声だとあたりを見渡すが、一帯は暗闇に包まれており、人の姿も見えない、誰何しようにも声も出せなかった。
どうしようかと戸惑っていると女性が独り言のようにつぶやきだした。
『死んだことにも気づいてないみたいね。感じられる気配からして、こちらの魂ではなくあっちの世界の魂‥‥いいわね‥‥魂の色も気配も‥‥レアものね、なら貴方の魂はこのハーディのコレクションに加えてあげましょう、光栄に思いなさい。』
彼は、声の主がいったい何を言ってるのわからなかったが、自分が死んだということだけはすんなりと理解した、ああ、あの時に兵士の槍で貫かれて死んでしまったのだと。
しかし、不思議と心には恐怖や悲しみなどはなく、ただ両親に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
そんな彼の気持ちとは関係なく、先ほどの草原が見える門の方に吸い寄せられるような感じた、それに対抗しようするが、魂だけの状態では抗うことが出来ず引っ張られていき、諦めそうになった時に強い光が現れた。
『我が子を汝らに渡す訳が無かろう、即刻にこの場から立ち去れ。』
光が現れると、先ほどまでの吸い寄せられて行く感じが無くなる。
彼が光をよく見ると、光の中には白金の体毛に、尻尾を9本持った巨躯の狐だった、その狐は彼の方を向き慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべながらしゃべる。
『安心しなさい、妾はそなたを迎えに来た、そなたを連れて行かせはせぬ』
彼は、不思議と狐とはどこかで会ったことがあるように感じ、その言葉には自分の身を案じてくれる優しさがあった。
その優しさはまるで母ようだった、だから彼は信じることで安心できたが、先ほど声の主‥‥ハーディが異を唱えた。
『何を言っているの? その魂は私のものよ、勝手に持っていくなんて許せないわ。』
そういうと吸い寄せる力を強めたのか、また引っ張られ始めたが、そんな彼を暖かな光が包み込みその力を。
『図に乗るな。汝らが行ったこの度の件、妾らは腸が煮えくり返るようだ‥‥異界でなければその報いを受けさせてやろうというに、口惜しや‥‥』
先ほど彼に向けていた慈愛に満ちていたものとは一転し、恐ろしく低い、怒気がこもった声だった、自分に向けられた言葉ではないことは解っていても委縮してしまう。
ハーディもその怒気がこもった声に、脅威を感じたのか無言でさらに力を込め、彼の魂を手に入れてとする。
狐もそうはさせないとその力を打ち消す、力は拮抗し勝負はつかなかったが、その争いに空間は耐えることは出来ず、力がうねりとなって場をかき乱す。
それはまるで、大嵐の海原ように荒れていた、守られているとは、特別な力を持っているわけでもない彼の魂は、そのうねりに攫われてしまい、そのまま流されてしまう。
攫われた彼を見て、ハーディは興味を無くしたように呟く。
『ああ、ここであんなに流されたらもう駄目ね。それじゃあね。』
そう言い残すとハーディはその場から立ち去ったのか、気配は消え去った。
『く、おのれ! 今、助けるぞ!』
去ってしまった者など既に眼中になく、彼を助けようと動くが、力持った狐が動いたことによって流れが加速され、さらに荒れ狂い彼はどんどん流されて、狐では助けることが出来ないところまで流れて行ってしまった。
狐は流れを押しとどめようとしたが、二つの力がぶつかり合って出来た物だった故に、狐だけではどうしようもできなかった。
『おぉ‥‥すまない、すまない。助けるといいながら、妾はそなたを助けることが出来なかった。』
その声は、悲しみに包まれ、今にも泣き出しそうだった。
彼は自分の事で悲しんでいる狐に対して、そんなことは、来てくれただけ自分は救われた、安心できたと精一杯感謝の念を送った。
たぶん、この光の守りが消えてしまえば、このままは自分は消滅してしまうだろう、そうなったとしても恨むことはなく、あの狐が罪悪感に苦しまないように、自分が後悔しないように感謝した。
『このような事態になったというに、妾に感謝を言うというか、何もできなかったこの妾に‥‥』
彼はさらに悲しませて狐に対して、とても申し訳なく思っていると、狐から先ほどとは比べ物にならない力がこもった大きな光を彼に向けて放った。
その光は、荒れた力のうねりを物ともせず、また荒れることもなく彼のもとに届いた。
光を受け、暖かな力が魂を包み、形を為していく。その形は人のそれだった。
形を成していくことに、手や足の感覚を取り戻し生き、彼はそれに戸惑っていた、そんな彼に狐はこう言い放った。
『このまま流されれば、そなたは繋がった世界の過去あるいは未来の時代に弾き出されるだろう。』
彼はこのまま消滅すると思っていたので、それを聞いて安心しつつ、狐の話に耳を傾ける。
『妾の分け身をそなたに与える、その体が標となるはずだ。必ず、必ず、そなたを迎えに行く、だからそれまで待っていてくれ、生きていてくれ。』
彼はその言葉を聞き、嬉しさに心が満たされるの感じ、形成された体を使い、彼は応えた。
「はい‥‥貴女様が迎えに来られるまで、待っております、何年、何十年経とうとも、僕は待ち続けます。」
言い終えると狐に伝わったのか、決意に満ちた顔をし大きくなずいたのが見え、その顔を見つめながら彼は流される。
そして、狐の光が見えない遠くまで流されたが、未だに流されて続けていた。
全く衰えを見せない流れに、ハーディと狐の力がどれほど強大だったのか‥‥門の向こう側に影響が出てないだろうか、いや、心配ないだろう。
あの狐はきっと力がある稲荷様に違ない、きっと守ってくれる、こんな僕を助けに来てくれるのだから。
そんなことを考えていると流れている先に光が満ち始めている、どうやらはじき出されるようだ。
そういえば、名前を聞いてなかったなと思いながら周りが光に満たされ、彼は弾き出された衝撃で意識を失った。
ゲートの1巻の炎竜と戦っているシーンと国会シーンが好きなフューリアスです。
頭の中で妄想が固まってできたような作品になります。
3000文字超えると、さらに誤字脱字が酷くなる傾向があるので、大体3000~4000文字を目安に投稿しています。
よろしくお願いします。