Fate/Lyrical cross ☓はやて【凍結中】   作:貫咲賢希

11 / 12
 だいぶ遅くなった。
 というか無駄に長い小説。修正が


第10話 得る者

 気付いた頃には、佐津間至祈は周りの人間と自分が違う事を悟っていた。

 同じ年頃の子供が遊び感覚で蟲を殺している時、彼は既に何十の人間を殺している。

 それが当たり前のことのように、何も疑問も抱かず、命じられた通りに命を奪い続ける毎日。

 至祈にとってそれが日常だった。今更平穏に過ごす憧憬を抱くこともない。

 所詮、生き方はそれぞれであり、生まれた時から既に在る程度決定されている。

 男が女として生きられないように、女が男として生きられないように、貧困で苦しむことが当然であるように、紛争が続く国から逃亡することが極めて困難なことに、人である以上、人として生きるように、至祈は在りのままの状況を受け入れた。

 無論、誰しもが至祈のようにある種の諦観を抱くわけではない。身の周りの理不尽に憤り、苦難からの脱却を望み、それを叶える者も中にはいるだろう。

 しかし、当然、誰しもが逃れることができるわけでもない。逃げ出す前に殺され、淘汰された命など数え切れないほど存在する。

 ならば、逃れることが叶わなければ、生きるために現状へ適合しなければならない。

 そう言った点では至祈の場合、元から脱却を望んでいたわけでもないので、適合は速かった。いや、既に適合されていたと言ったほうが正しいだろう。

 佐津間。遥か昔よりから続く退魔の血統。

 代々、人成らざる者達を殺すために技術。そして、突然変異で生まれた《事象殺しの魔眼》が至祈の手元にあった。

 血統や技術に関しては他の血族も持っている。異能ですら、至祈以外の人間も何人か持っているのだ。むしろ、態々対象に接近しなければ発揮できない代物は使い勝手の悪い部類に入るだろう。

 それでも、至祈は現状(、、)佐津間家当代最高の暗殺者として、その存在を確立させている。

 現当主は己が生み出した傑作(、、)をより良い物に仕上げようと、何度も至祈を死地に向かわせた。

 普通の人間なら、何度も死んでも可笑しくはない死線を至祈は乗り越えた。

 これらは単純に幸運だけもあるだろう。偶々、至祈が相性の良い相手と巡り合わせたり、相手の不意を突いたりできたため、生き残ることができた。

 同じように死地に贈られた佐津間の人間は、当時は至祈よりも実力がある者も、残らず死んでいった。ゆえに至祈が現状、当代最高の暗殺者なのだ。

 だが、単に生き残っていた訳ではない。奇跡の積み重ね、そこに至祈自身が研磨した技術によって、彼はここにいることができる。

 そして、数多の屍を踏み越えてきた少年は、再び窮地に立たされていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言で周囲を見渡す。

 視線の先には薄暗い空間しか映らず、自分以外の気配を感じられない。

 あまりにも静かで、脅威が無い現状だったが、一瞬の安堵も至祈は抱かなかった。

 手足は動く。

 しかし、体到る個所が火傷したかのように熱く、錆びたように想う様に動かない。

 一撃。たった一撃でこの有様だ。これが受け身を全く取らなかった状態なら、その時点で至祈は死んでいただろう重い一撃。

 小さな身体ながら鍛え抜かれた至祈でさえこれだ。並みの人間なら、掠った時点で即死。

 無理もない。相手の素性が真であるならば、敵は神話で生きた大英雄なのだ。一度相対して逃げ延びただけでも奇跡に等しい。

 ヘラクレス。自分の目標であるサンクレイドは確かに自分の使い魔をそう言った。

 至祈も魔術師と敵対する場合があるため、ある程度魔導の知識がある。それを踏まえて、英雄を使い魔にすることなど有り得ないことだと考える。

 人の身で人の域を超えた伝説、伝承の存在を使役することなど本来は不可能なはずだ。自分達が仕えることはあっても、その逆は罷り通らない。

 仮に上位に存在する英霊等を使役するならば、何かしらの裏技があるはずだ。

 しかし、それを考えたところで意味はない。至祈にできることは何かを消すことだけ。

 この後に及んで至祈には逃亡という選択肢はなかった。

 現状、予想外の事態が起こったため一時撤退するのは定石だろう。それは至祈も理にかなった行動だと思う。一度態勢を立て直してから再戦することは愚策ではないはずだ。

 それでも、至祈は逃げない。逃げる選択肢を選べない。

 彼が本気になれば、脱出することも可能だが、それをした場合、佐津間の当主は自分を見限るだろう。

 無論、利用価値の高い至祈を切り捨てることはしない。

 だが、あの完璧主義の当主はどんな形でも、一度負けた者に対する扱いは厳酷だ。

 

 そうなれば、あの当主は、妹に手を伸ばす。

 

 至祈には一つ下の妹がいるのだ。彼女は至祈のように特別な訓練を受けておらず、隔離された世界では在るが、平穏無事に日々を過ごしている。

 それを至祈は妬ましいと思ったことは一度もない。至祈にとって妹は唯一無二の大切な存在だ。それが例え、そう仕向け(、、、)られたものであっても。

 佐津間の者には各々、(かせ)が嵌められる。一族から裏切れないようにさせるための枷。その種類は様々だ。

 佐津間の家によって与えられた地位、名誉。あるいは逆らえば死に至るような呪術の類。

 そして、至祈の場合は妹だった。

 未だ子供である至祈を名誉的なものでは縛れない。又、《事象殺しの魔眼》を持つ至祈に呪いと類は無意味だ。損傷を気にしなければ、至祈は身体を蝕む害を一瞬で消滅できる。

 だからこそ、至祈には妹を用意した。

 佐津間雪芽(ゆきめ)

 身体的なものは常人離れした佐津間の暗殺者に比べると、ほとんど普通な人間。だが、凝縮された退魔の血を考えると母体としてはかなりの優秀。適当な種ですら十中八九、未来有望な子を産み落とすだろう。

 おぞましいことに現当主は未だ六歳にもならない幼女をそのような目で見ているのだ。

 至祈が失態を犯せば、今は普通に暮らしている雪芽にそのような教育が施される。多くの男に抱かれるだけの、胎盤としてか利用されない地獄が待っている。

 仮に至祈が本能に失態を犯しても、一度、二度くらいはもしかしたら見逃すかもしれない。が、あくまで希望的観測だ。あの当主ならばやりかねない。

 いっそうの事、妹だけを連れて逃げ出すことも考えた。当主を殺すことも考えた。

 しかし、所詮自分達は子供。誰かに擁護されなければまともに生きられない。

 結局、至祈に残された道は、例え意図的に用意された存在であっても、妹のために、精々当主に気に入られるようにしながら一人で切磋琢磨殺し合いに励むことだけだった。

 ゆえに、退くことはない。

 思考すべきはどうやって相手を打倒するか。

 相対するのは彼の大英雄。相手は自分が命を奪っても蘇る不死身。

 ならば、使い魔の主であるサンクレイドを狙うべき定石かと思うが、それも論外だ。

 確かに、相手をするならば格段に主であるサンクレイドの首を切り落とすほうが楽に見える。だが、サンクレイドは使い魔と着かず離れず行動している。本来戦闘をなった場合は使い魔とは離れた立ち位置を設けるだろう。そうでなければ、闘いの余波に自分が巻き込まれてしまう。あの使い魔は一つ挙動が巨大な暴力なのだ。下手に近づけば自分の使い魔の攻撃で自分が死んでしまう事故が発生する。

 しかし、サンクレイドは防御のため常に魔法陣と共に移動する。その壁は強固なもので、闘いの余波ならば簡単にやり過ごせるだろ。仮に使い魔を掻い潜って、無理に彼を狙っても、ただの棒立ちで待ち構えるわけではないだろう。何かしらの対処はするだろうし、その間に掻い潜った使い魔が自分の背を狙うことだって容易なのだ。

 やはり、至祈は使い魔を狙うことにした。

 確かにサンクレイドがバーサーカーと呼んだ使い魔は不死身なのかもしれない。

 だが、自動蘇生などという破格の能力など、回数があるほうが必然なのだ。ゆえに、その命が底を尽きるまで、相手の命を消し続けるだけ。

 考えれば単純だが、実行することがどれだけ過酷なのかは先刻承知。

 

「おや? もっと、遠くに行ったと思いましたが、存外近くにいましたネ」

 

 至祈は少しでも体力温存のために留まった場所にサンクレイド達が訪れる。

 覚悟は既に決まっていた。ゆえに動揺はない。至祈は静かに相手を見つめ、小太刀を構える。

 

「その眼、まさか人の身でサーヴァントとまだ戦う気デスカ?」

 

 そこでサンクレイドが使い魔をサーヴァントとも呼んでいたことを至祈は再認識する。

 バーサーカーと呼び、その正体はヘラクレスならば、サーヴァントとは使い魔自体の召喚術式、あるいは種別だろう。

 しかし、仮にも英霊を召使い(サーヴァント)と呼称するなど、大それたものだ。

 そうやって至祈は思考を巡らせるものの、サンクレイドの問い掛けには無言のままだった。その至祈の様子をつまらなさそうにサンクレイドは睥睨する。

 

「多少は便利な眼を持っているからって驕っているのデスカ? 並みのサーヴァントならいざ知らず、このバーサーカー相手から逃げ出さず挑みかかるなんて蛮勇にも劣りマース」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 その言葉に対して至祈は又もや無言。無視されたことによって、サンクレイドの眉間が中央に寄せられる。

 

「もういい。やれ、バーサーカー」

「■■■■■■■■■■!!」

 

 主の言葉によって狂獣が動く。そこでようやく静謐に佇む至祈も動き出す。

 最初は使い魔──バーサーカーが動かなければならなかった。至祈とバーサーカーの能力なの歴然とし過ぎている。最初に至祈が動けば、バーサーカーが追い撃ちするなど容易いだろう。よって、至祈はバーサーカーの初動だけで、どんな動きをするか見切り仕掛ける必要があったのだ。

 バーサーカーと呼んでいるだけあって、その力は暴力的だが、動きは単調。それでも、分かっていている動きすら猛威でしかないだが、至祈は頭上から迫り来る漆黒の大剣を旋回するように回避して、バーサーカーの脇下に潜り込む。

 瞬間、至祈は赤く光る《事象殺しの魔眼》でバーサーカーの命を捕捉し、そのまま小太刀を突き立てる。

 まずは一つ。

 ガキン、と鋼同士がぶつかり合う音がした。

 

「!?」

 

 驚愕を顔に表していた時には既に至祈はバーサーカーから距離を取っていた。事前に一撃離脱を想定しての攻撃だったため、そのまま怪事に身を竦ませていたら、至祈の体は文字通り木っ端微塵になっていただろう。

 暴風のような追撃を何とかやり過ごし、確認する。至祈が奪おうとした命は未だそこに健在していた。一つも減らすことはできなかった。

 バーサーカーの全てを薙ぎ掃うような一閃。

 それを至祈は怖じ気ることなく、前に一歩踏み出して掻い潜るよう避ける。あと数センチ高ければ、上半身が吹き飛ぶ脅威を頭上でやり過ごしながら、拳と突き出すようにして逆手に持った小太刀を腹部目掛けて振り抜く。

 再び、金属音。小太刀を持った腕に電流が流れたような痺れが駆け廻った。

 

「つっ!」

 

 思わず吐いた呻き声。そして、声を上げるぐらい至祈はその場で静止していた。

 時間にして数秒にも満たない間。だが、バーサーカーが自分の懐に潜り込んだ敵を捕まえようとするには十分な時間。

 即座に離脱を開始する至祈。両足では足りない。痺れてまともに動かない腕とは反対側の左腕を無理やり動かし、バーサーカーの腹部に拳を叩きつけて加速を付ける。

 ぐしゃりと、嫌な音がした。

 今度は覚悟をしていた分、声は出さない。が、先程よりは比べものにもならないような激痛が体中を震撼させる。

 だが、苦痛に苦しむ間もなく、更なる衝撃が脇から至祈を襲った。

 至祈を捕えようとしたバーサーカーの手は空ぶりだ。だが、その剛腕は床を陥没させ、吹き上げる衝撃波は回避行動を執った至祈軽く吹き飛ばす。

 衝撃波で吹き飛ばされた至祈はそのまま背中から天井を支える柱に激突した。

 

「ぐはぁああッ!」

 

 肺に溜まっていた空気が、僅かな血と共に外気に曝される。

 全身が痛い。意識が飛びそうになる。

 しかし、至祈は歯を食いしばって正気を保ちながら真っ直ぐと敵を確認した。

 至祈が消そうとした命が一つなくなっている。

 それでも、相変わらず動きが止まる気配のない敵を見て思わず笑みを浮かべる。

 なるほど、体表は硬くなっていると思ったが、どうやらこちらの攻撃に耐性を付けているようだ。

 《事象殺しの魔眼》で干渉した命の消滅は無効化されないようだが、その過程である小太刀からの斬撃は最初の一撃以外全て無効。無理やり放った殴打は一度だけ有効だった。

 なんとも馬鹿げた力だろう。

 いや、それこそまさしく、人の領分を越えた存在、英雄なのだろうか。

 相手の力が一つ分かったところで、至祈にはどうしようもなかった。

 片腕は先程の件で完全に動かなくなった。体中の損傷も拡大し、意識も洩ろうとしている。

 もはや万策は尽きた状態。まさしく絶望の状況だ。

 それでも──。

 

「貴様──」

 

 サンクレイドは不気味な物でも見るように顔を歪める。

 見るからに至祈の体はボロボロだ。先程、またもやバーサーカーの命を一つ奪ったが、それもここまでだと誰しも分かる。

 それでも──至祈の瞳は諦めてなかった。

相変わらず、全てを飲み込むような覇気を身体から放っている。

 そうだ。諦めることはない。

 至祈は何も自暴自棄になっているのではない。

 自分が死ねば、妹の未来が危うい、そんな気持ちが皆無という訳ではないが、今の至祈には保険がいた。

 リニスという、測らずしも自分の使い魔になった存在。彼女には雪芽の世話を任しており、万が一自分の身に何かあった場合は、妹の身を任せるようにしている。

 無論、それで全て安心しているわけではないが、それでも僅かばかり心に猶予を持てた。

 これも、あの少年──ミコトの御蔭だと思うと少し不思議な気持ちになる。

 思えば不思議な奴だ。身も知らない相手のために傷つき、あからさまな拒絶を放った相手に対して礼を贈る。そんな人間を至祈は今まで出会った事がない。

 そこまで考えて、自分が余計な思考に囚われていることにようやく気付く。今まで戦闘の最中で、他の事を考えることなど滅多になかった。

 なるほど、自分想った以上に自分は相手のことを気にしているようだ。

 ならば、余計に至祈は諦められない。

 このまま自分が死に、それをあの少年が知れば、きっと泣くだろう。それは何となく嫌だった。

 そうだ。諦めることはない。

 自分が自分で在る限り、諦めることはない。絶望的状況? それがどうした? それが諦める理由になるのか? 逆の理由なら幾らでも思いつく。至祈だって人間だ。普通に生きたいという気持ちもある。だからこそ、今まで殺してきた。それしか道がなかったとはいえ、全力で歩んだからこそ、ここまで辿りついたのだ。

 だから、諦めない。障害は全て飲み込み、消し去り、何もなくなった場所を踏み出す。

 全ては──己が信念に宿ったものを貫くために。

 それが佐津間至祈という男なのだから。

 

「不愉快ダ。さっさと殺せ、バーサーカー」

 

 だが、現実は無常だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 その態度が気に入らなかったサンクレイドの命令に従って、バーサーカーが動く。

 地鳴を上げながら、そのまま突進してきそうな勢いで接近するバーサーカーの前に至祈は一歩も動かない。

 いや、動けないというほうが正しい。しかし、その瞳に宿る闘志は衰えず、思考も相手をどうやって消すか考える。

 ギリギリや過ごし、飛び散った破片を掴んで干渉を試す。それが不発に終わったならば、目に投擲して視界を封じ、距離を整えて、再び武器になるようなものを探す。ある一定のレベルまでしか攻撃を受け付けないのであれば、ビルを倒壊させ攻撃手段に変える──

 大量の計算を機械が処理するように至祈の脳内が殲滅する計画を次々と連ならせると並行して現状の打開や、現在確認できる相手の命、他にも利用できないものがないか検索をかける。それはまさくし、人間の処理能力を等に超えたレベルだった。

 

 

 その脳が一瞬空白で埋まった。

 

 

 ぶわん! と、至祈とバーサーカーの間に風が巻き起こる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 バーサーカーの咆哮。全てを打ち砕き、獲物を屠る剛腕を高らかに上げる。

 その動きが、痙攣を起こしながら止まった。

 

「な──────!!」

 

 驚愕の念を表したのは脇からその様子を眺めていたサンクレイドだった。至祈も脳内で計算していたものを中断させ、思わず、その光景を呆然と眺めた。

 青。

 空のような青い光の粒子が、霧のように集まり、バーサーカーの動きを拘束していた。

 一息ですれば簡単に消し飛んでしまいそうな、光の粒たちを、バーサーカーは呻き、もがきながら掃おうする。ギリギリとその体を捩じらせるものの、青い光の霧は尚も狂獣を捕えていた。

 そのあまりにも神秘的な光景に、軽やかな足音が響いた。

 

「天使?」

 

 サンクレイドは思わず吐息のように零してしまう。馬鹿げた発言だと至祈は思ったが、正直無理もないだろうとも考えた。

 背中に青く光る翼を羽ばたかせて、くるりとこちらを向いた。美しい少女ような顔を一瞬で歪ませて、『彼』は本当に驚いたように声を上げた。

 確かに背中に翼があり、惹きつける容姿、更にこれだけ派手に登場すれば、仮にも聖職者であるのならば天使などと見間違うかもしれない。

 

「シキ? なんでここに?」

「それはこっちの台詞だ」

 

 突如として現われたミコトは至祈の姿を確認すると青ざめた顔で彼に近づく。

 

「け、怪我している! だ、大丈夫? 痛くない?」

「触るな喚くな離れろ落ち付け大丈夫だ」

 

 涙目でオロオロとするミコトを至祈は近づくなどばかりにしっしっと手をひらつかせながら、溜息交じりの声で訊ねる。

 

「それで、なんでここにいる?」

 

 心配そうに至祈を見つめていたミコトは状況を思い出したように、背を向ける。

 

「助けて、って聴こえたから・・・・・・」

 

 不可解な言葉だった。

 至祈は助けを呼んだわけでも、求めたわけでもない。

 一瞬、リニスのことを考えたが、彼女が彼にコンタクトを取れる手段は持っていなかったはずだ。

 怪訝する至祈を余所に、真っ直ぐとミコトは目の前にいる巨人に目を向ける。

 今は光の霧で拘束されているようだが、徐々に(しがらみ)が解けていく。一度、この鎖から解放されれば、必ずバーサーカーは猛威を振るうだろう。

 

「理解できないが、アイツが動けない内にここから離れろ。どうやってアイツを止めているかは知らないが、アイツに同じ方法は通用しない」

「なら、頑張らないと」

 

 ガチャリとミコトは白銀の大剣を構える。

 真っ直ぐと剣を向ける姿勢は悪くはない──と至祈は思うが、あまりにもその気迫が弱い。筋肉の動きに余計な力も入っているので、臨機応変な対応もできないだろう。あのままでは、バーサーカーの拘束が解けた瞬間、一瞬で肉片になってしまう。

 

「馬鹿か。相手はてめぇが手に負えるような奴じゃない」

「だろうね。でも、来たからには頑張らないと」

 

 全く動く気配のないミコトに対して、とうとう至祈は苛立ちを表す。

 

「努力や根性でどうにかできる相手でもじゃねぇ! てめぇ、本当に死ぬぞ!」

「なら、シキは何で逃げないの?」

「なに?」

 

 ミコトは背を向けたまま、言葉を紡ぐ。

 

「君がそんな状態になるまでの相手なら、僕だって負けてしまう。『彼』はきっと君よりも遥かに強いんだろうね。それを理解しながらも、君は今も逃げることはしない。

 僕は君がなんでここにいるか分からない。なんで戦っているか知らない。でも、ボロボロになっても逃げないのならば、負けられないから立ち向かっているんだ。

 凄いね、シキは。僕なんか気を抜いたら怖くて振るえてしまいそうなのに、怯えることなく、諦めることなく、両足で立っていられる」

「お前・・・・・・・・・・・・」

 

 そこで至祈はミコトの剣を握っている両手が微かに振るえていることに気づいた。そして、其れを必死に抑えて、目も前の相手を真っ直ぐと見つめている。

 

「僕には無理だ。どうしても怖いって感じてしまう。それでも、頑張れるのは偶然にも君がここに居て、僕よりもずっと頑張っている方がいるから、自分で手に取った選択から逃げ出さないように前を向こうと思える」

「はっ! いきなり現われたと思えば、訳の分からないことヲ!」

 

 それまで黙っていたサンクレイドは吐き捨てたように吼える。

 

「頑張ル? そんなもので何も変えられるはずがないでショウ!! 努力したところで、覆せないことなど、この世には幾らでも存在すル! この現状も、その一つだろう二!」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。できないと分かるなんて、結局は、諦めず前に進んだ人にしか分からないことだ。

 きっと、誰かを無理やり従わせる人には一生分からないだろうけど」

「なに?」

 

 サンクレイドの顔色が変わる。ミコトは振り向かず、真っ直ぐと目も前の相手を見据えたままだった。

 

「『彼』はずっと諦めてなかったよ。貴方に無理やり動かされながらも、必死に叫んでいた。抵抗していた。だから、僕はその声に応じた」

 

 そこで至祈は、ミコトが言った「助けて」という言葉の意味を理解した。

 サンクレイドはサーヴァントを無理やり使役している。バーサーカーという言葉から、恐らく理性でも奪っているのかも知れない。真の英雄ならば、そんな現状を望みはしないだろう。そして、どうやってかは知らないが、ミコトはバーサーカーの、ヘラクレスの嘆きを訊いた。

 ミコトは魂を統べることができる者。

 己に他者の魂を取り込み、物に宿った怨念の除霊、魂の選別。魂からの叫びを聴くことなど造作もない。

 ミコトは、己が望まない戦いを強いられているヘラクレスの魂からの呼び声に応じて参上したのだ。

 

「返事をしたから、逃げ出さない! 自分の決めたことからは諦めない!」

「戯言ヲ! ええい、何時まで休んでるつもりだ、バーサーカーッ!? ささっと、振りほどいて餓鬼共を始末しロ! ・・・・・・、いや、その少女は捕えるだけにしロ。その世間知らずの子供には教育が必要デース!」

「■■■■■■■■■■■!」

 

 下衆な笑みを浮かべながら叫ぶサンクレイドに対して、バーサーカーが吼える。

 それは仮初の主に応じるための威勢か、望まぬ命令から抗うための叫びか、どちらにせよ、その巨体は力を増大させながらバチバチと拘束を解いでいく。

 

「一撃は何とか耐える。その間にシキは下がって」

「ぬかせ。どの道てめぇが来なくても俺はやるつもりだ。それは今でも変わらない」

「そうか・・・・・・、なら二人で頑張ろう。一人だけじゃなく、二人でなら、一人で進めない道もきっと前に進めるよ」

 

 微笑みを浮かべながら囀るその言葉に、至祈は一瞬戸惑う。

 これまでずっと独りで戦ってきた。

 乞われようが、拒んで独りで進んできたのだ。合理上、共闘することはあったが、それでも心からの信頼を置いて手を結んだことはない。

 しかし、ミコトは心の底から至祈に対して、手を伸ばしている。あれほど熾烈に扱った自分に対して、笑みを浮かべてまで善意を向ける。

 出会って間もない。もしかしたら、自分をほっておいて逃げ出してしまうかもしれない他人を前に、穏やかな声を贈る。

 そこでようやく、理解した。なるほど、この少年は、そんな存在なのだと。

 

「馬鹿か・・・・・・」

 

 小さく、零れるように呟く。

 しかし、今までの様な蔑む感情がそこにはなかった。

 

「え? なにか言った?」

「何でもない。で、はっきり言って勝算はあるのか? お前の保護者たちはどうした?」

 

 至祈の問い掛けに、ミコトはばつの悪そうな顔を浮かべた。

 

「ううん、それが慌てて家を飛び出しちゃったから、八神さんやアーチャーはいないんだよね。冷静に考えると手伝って貰ったほうが良かったかも」

「今更だな。無計画、単調過ぎる」

「返す言葉もありません・・・・・・」

「だが、それも今更だ。幸運が舞い込んで、お前の保護者共が都合よくここに現われる保証もない」

 

 実際、あの保護者と見受けるアーチャーなどがミコトのことに気づいていれば、今にでも慌てて探しだしている最中かもしれない。

 だが、都合よくこの場に到着することは期待しない。

 

「ならば、やるしかないだろう。二人でな・・・・・・」

「!? ────うん!」

 

 顔は見せなかったが、至祈の言葉にミコトは本当に嬉しそうな声を上げた。

 しかし、二人の状況は芳しくないのは変わりなかった。

 ガキン! と無数の硝子が割れた音と共に、バーサーカーに纏わりついていた光の霧が弾けて消える。

 拘束魔法ミスト。それがバーサーカーの動きを封じていたしていた正体だ。

 霧状のバインドを発生させて動きを封じ、一つ一つは小さい粒なので、他の拘束魔法と比べれば頑丈の部類ではなく、吹き飛ばす事もできるが、全体的に動きを制限される。また霊体であれば拘束力が高まり、英霊であるサーヴァントには効果できだった。

 だが、その拘束も解かれて、その暴力が一気に解放される。至祈の読み通り、バーサーカーには敵の攻撃に耐性を持つ能力があるため、再びミストで動きを封じることは敵わないだろう。

 想像以上の動きでバーサーカーはその剛腕をミコトに振り落とす。

 ミコトは、反応できなかった。声すらあげられない。至祈は舌打ちし、ミコトを突き飛ばそうとする。

 

 刹那。

 

 剛腕が振り落とされる、零にも満たない時間。ミコトの頭の中に、声が響いた。

 

 

 その姿勢、その真摯さ、気に入った。できたら僕も力になりたい。

 誰?

 それを応えるのは後にしたほうがいいよ? 今にも君と君の友たち諸共、『彼』はその剛腕で薙ぎ掃う。『彼』に罪なき子供を手掛けさせるのは忍びないからね。君は僕が力を貸すことを認めてほしい。

 誰だか知らないけど、それでも助けてくれるなら、お願い。

 迷い無し、か。ますます気に入った! やはり、僕は幸運だね。ああ、力を貸そうとも!我がマスター!!

 

 煌きが起こった。

 

 突如、幾つもの色彩が混じり合った閃光がミコトとバーサーカーの間で弾ける。突然の出来事に至祈や、離れた場所で眺めていたサンクレイドも驚愕していたが、間近でその光景を目撃するミコトは二人を違った反応だった。

 それは、見たことが現象。

 硝子が割れたかのように、光が弾け、雪のように舞い散る。

 

 そこには、一人の青年がいた。

 

 優しげな雰囲気を持つ若い青年だった。しかし、ただの青年でないことなど、誰にでも分かる。身体には灰色の鎧を身に纏いながら、曇りなき瞳で周囲を威圧している。

 何より両手に持った刃が三日月状に沿った得物で、あのバーサーカーの腕を止めていたのだ。コンクリートの壁や床を軽々しく撃つ砕く暴力を、青年は苦しげなく受けている。

 青年が持つ不思議な形状の形、現在確認される通常の武器に例えるならばショーテル近いそれは、鎌であり剣でもあった。何処か神々しく黄金の武器を持ちながら、彼はそのままバーサーカーを押し退けて、横に一閃する。

 バーサーカーの一撃に劣らない轟風が巻き起こった。

 ガキン! と、バーサーカーは漆黒の大剣で受け止めるが、余程の腕力が込められたのか巨体が重力を無視したように浮かび上がりながら後方に加速して、そのまま天井を支える柱に激突し、一瞬で瓦礫のなったものはバーサーカーの体を微かに埋もれさす。

 彼はその光景を確認すると、くるりと振り返り、ミコトへにっこりと柔和な笑みを浮かべる。

 

「君の救済騎士(ヒルフェリッター)として召喚されたよ。僕の事はライダーとでも呼んでくれ」

「ライダー? それに救済騎士って・・・・・・」

『話は後』

「!?」

 

 脳に直接目の前の青年の言葉が響くと、彼はすぐ向き直り、呻きながら立ち上がるバーサーカーを睨む。

 

『本当はカッコよく一人で倒したいところだけど、幾ら劣化しているとはいえ彼相手にそれをするのは甘い話か・・・・・・』

 

 再び、脳に響く。ミコトはこれが青年──ライダーからの念話だと分かると、自身も相手に対して念話を送ろうとする。その際に相手と自分に対して、アーチャーと同じようなパスを感じたので、彼は偶発的に自分が召喚した新たな救済騎士(ヒルフェリッター)だとようやく頭が追いついた。

 アーチャーの時同様、救済騎士は任意で召喚できる訳ではない。現世とは違う魂が存在する位相から、何かしらの形で繋がった場合、相互の承諾を得て現界する。

 簡単説明するなら、ライダーもまた、ミコトの魂に惹かれて召喚されたのだ。

 

『ライダー、でいいんだね? ゆっくり挨拶できる暇はないけど、僕の力になってくれてありがとう。それで、あの人のことは知っているの?』

『ああ。彼はギリシャの大英雄ヘラクレス。どうやら理性を奪われて、弱体化しているようだけど、それでも彼の持つ宝具《十二の試練(ゴットハンド)》は健在のようだ。

 あれは生前、十二の試練を乗り越えた際に神々に受けた祝福、あるいは呪いが彼を不死の体にさせている。

 これには様々厄介な力があってね。一つ、彼は十一回蘇生できる。つまり、計、十二回殺さなければ彼は死なない。

 二つ、不死の強靭な肉体は鎧と変化されて、あらゆる手段を問わず、一定の威力を超えなければ、それ以下の攻撃は全て無効化される。

 三つ、一度受けた攻撃は二度と効かない。これによって、一度彼を殺せた手段でも次からは通じないんだ』

 

 思わず、絶句した。そんな相手をどう倒したら良いのかとミコトは困惑したが、そんな苦悩を察したように、念話からでも分かるようなライダーの安心させるような声が響いた。

 

『大丈夫だよ、マスター。僕が持つこの剣は不死に類する力を許さない。これで斬れば、彼も倒せるよ』

 

 確かにライダーが持つ不思議な形の剣は、どこか神秘的な力を感じる。ミコトはそれを訊いた後に剣を見て、思わず顔を綻ばせる。

 

『なら──』

『でも、残念なことに僕の力量では彼には届かない。心眼、とでもいうのかな? 理性を奪われても、本能的に直感で致命的な攻撃は避けられるようだ。

 だから、マスターには彼を少しの間だけでいい。何とか動きを止めて貰えないか?』

『・・・・・・・・・・・・』

 

 ミコトは考える。

 動きを止めるだけなら先程使ったミストがあるが、それは既に耐性を付けられているため二度は通じないだろう。他に同じような拘束する魔法をミコトは習得していない。

 肝心な手段を一つ失っている状態だったが、ミコトは軽率な行動とは思わなかった。あの魔法をしなければ、至祈を守れなかった。時間も稼ぐことができず、ライダーの召喚もできなかっただろう。

 ミコトは他に方法がないかと考えてある方法を提案する。

 

『なら、これはどうかな?』

 

 ミコトから念話で彼が考えた作戦をライダーは聴く。

 途端、顔は動くバーサーカーに向けたままだが、一瞬驚いた顔になり、すぐそれは笑みへ変わった。

 

『顔に似合わず大胆だね。案外、僕の出番がなくなるかもしれないけど、それでいこう』

「わかった!」

 

 返事は念話ではなく声に出した。ミコトはすぐに傍らにいる至祈へ向き返る。

 至祈はミコトを見ると、理解したように目を細める。

 

「どうやら、相談は終わったようだな」

「うん。・・・・・・悪いけど、至祈にも手伝ってほしいんだけど──」

「無用な遠慮だ。俺が訊きたいことは一つ。それは必ずできるか?」

 

 至祈の言葉に、ミコトは驚いたように一瞬硬直し、そして力強く頷く。

 

「うん! 君となら!」

「なら、やるぞ」

「わかった! とりあえず、ここから離れよう」

「ああ」

 

 至祈は一切の疑念の言葉を返さず、ミコトの指示に従って二人はその場から立ち去る様に走りだしだ。

 

「なっ!? 逃げる気ですカ? 追いなさい、バーサーカー!!」

「させないよ」

 

 激昂するサンクレイドに従って、突撃するようにバーサーカーが動くが、その前にライダーが立ち塞がる。

 

「くっ!」

 

 現われたライダーを忌々しそうに睨みながら、できるだけサンクレイドは冷静な声でライダーに対し問いかける。

 

「貴方、もしかしてサーヴァントですカ?」

「違うね。僕は救済騎士。彼に召喚された英霊だ」

「英霊──、馬鹿な。まさか自由意思で人間に自ら使役されているのデスカ?」

「僕は人だろうが神だろうが、気に入った相手ならば尽くすタイプなのさ。もっとも、理性を奪って無理やり彼を従わせている人間になんか分からないだろうけどね」

「減らず口を!! まぁ、いいデース。どこの英霊かは知りませんが、ヘラクレスである私のサーヴァントには敵いません。殺しなさい、バーサーカー!!」

「■■■■■■■■■!!」

 

 バーサーカーが動き、ライダーが動く。

 それは、まさしく神話の体現。本来なら対峙するはずのない両者が時の果てに、鬩ぎ合う殺し合い。

 次元が違った。先程の至祈とのような弱者が強者の隙を狙い、強者がそれを迎え討つようなものでない。両雄は伝説に語り継がれる真なる益荒男。二人の男が同時に放つ剣戟は、共に轟風を巻き起こし、激突は空気を爆発させて、余波だけで周囲に被害を与える。

 対象が自分に近い者と変った事により、バーサーカーの動きは先程よりも良かった。苛烈にして戦慄の暴力は、理性を失ってもなお鋭利で危険を撒き散らす。

 対するライダーは力ではなく技巧で相手と相対していた。剣の腕だけではない。戦いに置いて、身体捌きや駆け引き、相手を狙うタイミングや力加減が絶妙に卓越していた。台風の様に攻めてくるバーサーカーに対して、敢然と立ち向かう。

 しかし、現状、二人は同等の力で圧し合っている訳でなかった。

 

「はっ──」

 

 闘いを眺めていたサンクレイドは思わず渇いた笑みを漏らす。それは明らかに侮蔑の物だった。

 ライダーとバーサーカーの激闘はまさしく戦慄だ。

 しかし、バーサーカーは理性を奪われている。本来在るべき常識を打ち破ったような剣技を披露することはできず、マスターとしてサンクレイドは優秀でありながら、バーサーカーは破格の英霊であるため、そのポテンシャルを完全に引き出していない。彼を狂化させているのは、自由意志を剥奪に理性を失わせている他にも、低下した能力を少しでも引き出すために行っている。ゆえにバーサーカーなのだ。

 バーサーカーは本来の力を発揮していない。

 それでも、バーサーカーはライダーの上を行っていた。

 二人の剣の交差は常人では判別できない位置に達している。だが、よく見ると微かにライダーの体に細かい傷が生まれてきているのだ。彼はバーサーカーの攻撃を完全に凌いでいる。凌いで上で、その避けた際に生じた僅かな剣圧で身体に傷を負っているのだ。

 更には、両者の剣が衝突する度にライダーの両腕の筋肉が悲鳴を上げる。英霊であり、マスターであるミコトからの魔力供給が十分であるがゆえ、ライダーは生前と同等の身体能力を発揮しておきながら、弱体化しているバーサーカーに自力で敵わないのだ。

 ライダーの顔は相変わらず余裕を見せるように柔和な笑みを浮かべているものの、身体のいたる所から彼の疲労を表すように大量の汗が滲み出ている。

 

「やはり、イレギュラーで召喚された者など高が知れてマース! どこの馬の骨とも分からぬ英霊なんかが、無敵である私のバーサーカーに敵う訳がアリマセーン!」

 

 自分の使い魔の優位な状況に満足な笑みを浮かべながら、サンクレイドはライダーを罵る。しかし、対するライダーは気を抜けば一瞬で死に至る激闘の中、怒りも見せず、焦燥も見せず、変わらず笑みを浮かべたまま軽口でも呟くように言う。

 

「確かに『彼』は強敵だ。万全の状態なら僕なんかでは敵わないだろ。曲がりなりとも、そんな『彼』を使役している君も優秀なようだ。

 ──でも、僕のマスターはもっと優秀だよ!」

 

 ガッゴオオン! と地震でも起きたかのように空間が揺れた。

 瞬間、その場一体が崩落する。

 

「!?」

 

 瓦礫に飲まれながら、突然の崩落にサンクレイドは一瞬驚愕するモノの、直ぐに冷静になろうと努める。

 崩落の中心は両雄の英霊から発生した。あれだけの戦いならば、建物自体が衝撃に耐えられず破壊されても不思議ではない。そして、自分は常に魔法陣を展開しているので、崩落に巻き込まれても怪我を負うことはないだろう。

 次第に冷静になっていく思考の中、サンクレイドは周囲を見渡し、それを目撃した。

 

 薄暗い闇の中、空が広がった。

 

 燦爛と輝きは天の如く青く、空気から感じる取れる魔力も途方もなく強大。

 目を見開きながら、サンクレイドは青く煌かせた白銀の大剣を構えていたミコトに声に出せない驚愕した。

 なんだ、あの魔力は!? 個人が出せる魔力とは到底思えない!? いや、それよりも下の階層でこれを準備していたのか? 偶然、闘いの余波で私達が落ちてくるのを期待して!? そんな運任せの状況にこれほどの力を準備していたのか!?

 連続で起きる驚嘆と疑惑の連鎖の中、サンクレイドはミコトの傍らにいる至祈を見て、理解し、怒りを爆発させる。

 あの餓鬼!?

 サンクレイドは至祈が床を一瞬で消したところを目の当たりした。そして今度はタイミングを見計らって天井、つまりはサンクレイド達が居た足元を消滅さしたのだ。

 気付けば、バーサーカー共に落ちて来たライダーの姿が遠く離れた位置で見つける。

 自分達はまんまと相手の策に填まってしまったのだ。

 

 そして────、王の剣が夜に光る。

 

「ブリュン──────ヒルデッ!!」

 

 青い閃光が疾走する。薄暗い空間が、白へと反転した。

 以前、夜天の書に済みついていたバクを滅した時に使用した殲滅型斬撃魔法。

 あの時はアーチャーの助力をあって発動した力、ミコトは単独で繰り出す。

 加速した魔力の放流は、一瞬で天井ごと眼前を両断する。

 サンクレイドは声にならない悲鳴を上げる。ミコトが狙ったのはバーサーカー。それでも、傍に居たサンクレイドへも衝撃と熱が伝わり、自分を守っていた魔法陣がひび割れたように崩壊した。

 鼓膜を刺激する衝撃音でサンクレイドは己の命に絶望した。

 しかし、静寂が包まれる中、未だ己の意識が顕在していることに気づき、サンクレイドは閉じた瞳を開けて、破壊の惨状を目の当たりする。

 遠くの景色で夜の街が見えた。ミコトが放ったブリュンヒルデは、廃ビルの一角を難なく消し飛ばし、巨大な斬撃の跡から冷たい夜風が流れる。

 

 そこに、『彼』はいた。

 

 切り裂かれたビルの端、蹲るようにしてバーサーカーが存在した。彼は全身に火傷を負いながらも、息の根を止めておらず、傷ついた身体も徐々に塞がっていく。

 サンクレイドが笑みを浮かべようとした、その時──。

 

「これで終わりだよ」

 

 蘇生中のバーサーカーに、いつの間にか近づいていたライダーが、自身が握る三日月状の剣を突き立てる。

 トス、と軽い音だった。先程の攻撃に比べる間もなく、何でもない刺突。

 だが、次の瞬には傷の塞がりが止まり、バーサーカーの口から血反吐が吐き出された。

 ライダーが持つ剣は、彼の言葉通り、不死に対する能力があった。不滅の体は意図も簡単に、ただ一撃で心臓を穿たれだけで、死に至ることになった。

 そして、獣のように灯っていた瞳に、理性が宿る。

 

「世話を、かけたようだ──」

 

 サンクレイドは絶句した。それは自分が初めて聞いた、バーサーカーの声だったからだ。

 

「気にすることないよ。けど、生前と同じで君は運ないね」

「貴方に比べると、多くのモノが不運だろうさ。

 だが、助かった。礼を言う。貴方の主にも───」

 

 そして、次の瞬間、バーサーカーの巨体は、まるで幻のように夜の闇へと消える。

 かくして、狂わされた英雄は、望まぬ戦いからようやく解放された。

 

「な!? そんな、馬鹿な!? 私の、私のバーサーカーがああああああかああ!?」

 

 サンクレイドが自分の使い魔が失ったことに気が触れたのか、狂った様に叫んだ。

 

「五月蠅い。貴様はもう寝とけ」

「ぎゃひ!」

 

 そこでサンクレイドの傍にいつの間にか近づいていた至祈が、軽く飛び上がって相手の首筋に手刀を叩きこむ。

 ブリュンヒルデの余波で自分を防御する魔法陣を失ったサンクレイドは、蛙が潰されたような声を上げながら、白眼をむき気絶する。

 

「その人、どうするの?」

 

 倒れたサンクレイドを眺めながら、ミコトが至祈に近づいて来る。

 

「この場で殺してもいいがな。そうするとお前のあの味も悪いだろ。

 適当に縛って、最初の予定通り教会にコイツを引き渡す」

「そう・・・・・・、気遣ってくれて、ありがとう」

 

 笑いかけてくるミコトに対して、ばつが悪そうに至祈は顔を歪ませる。

 

「別に礼は入らない。むしろ言うべき立場はこちらの方だろ。で、何かないか?」

「え?」

 

 訳の分からそうに首を傾げるミコトに対して、至祈は舌打ちをする。

 

「貸し借りはしたくない。お前の都合であれ、俺はお前に助けられた。なら、何かお前の要求は受けるべきだろ」

「別にそんなつもりでした訳じゃないのだけど・・・・・・」

「だろうが、俺の気が済まない。なんなら命令してみるか? 友達になれ、とかな」

 

 馬鹿にしたように言う至祈に対して、ミコトは心外そうに顔を曇らせる。

 

「友達は、お願いされてなるものじゃないよ。至祈がなってくれるというなら、嬉しいけど、無理強いは違うと思う」

「・・・・・・・・・・・・、お前はまだその気だったのか」

 

 軽い冗談のつもりだったのだが、至祈は呆れたように溜息を吐く。

 

「俺はこんな奴だぞ。お前がいなければ、そこで寝転がっている男も簡単に殺していた。お前とは済む世界が違う」

「そんなことないと思うけど。僕だって、魔法とか危ないことあるしね。

 それに君は理由もなしに人は傷つけないでしょ? 僕は確かに誰かが傷つくのは好きじゃないけど、そうしないと前に進めないと時があるのは知っているから。

 何より、例え君と済む世界が違ったとしても、僕は君の友達になりたいと思うよ」

「・・・・・・・・・・・・、なんでそう思う?」

 

 至祈の静かな問い掛けに、ミコトは一瞬の間もなく答えた。

 

「君は強い人だ。自分に自信があって、周りにどう見られているか理解しながら卑屈にならず、前を向いている。そして、優しいから、自分といると危ないと教えてくれている。

 そんな温かい人と仲良くしたいと思うのは、変なのかな?」

 

 穏やかな顔を浮かべるミコトを見て、至祈は押し黙る。

 そして、観念したかのように大きく溜息を吐いた。

 

「なるほど、分かっていたが物好きのようだな」

「ううん、それって馬鹿にしてる?」

「違う────、それでどうしたら、いい?」

「ん?」

 

 何やら先程とは別種の意味合いで顔を歪ませながら、少し頬を赤くしてそっぽを向く至祈をミコトは不思議そうに眺める。

 

「俺は今まで友達を作ったことがない。どうなったら、なれる?」

 

 自分でも恥ずかしい事を言っている事は理解しているのだろう。羞恥を隠すように顔を背ける至祈を、ミコトはしばらく見つめて、そして、本当に嬉しそうな笑みを見せた。

 

「名前を呼ぶと、良いんだって」

「名前───」

「僕はもう呼んでるよ。シキは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 しばらく硬直したように黙っていた至祈だったが、いきなり軽く唸った後で、ミコトを睨む。

 どうやら怒らせたか? と不安になるミコトに対して、至祈は言った。

 

「ミコト」

「────」

「これでいいだろう・・・・・・」

 

 とうとう身体ごと背を向ける至祈に対して、ミコトは慌てて声を上げる。

 

「シキ、シキ! もう一度、呼んで!」

「用もないのに呼ぶか。つうか、うぜぇえ」

 

 何故か顔を頑なに見せないようにする至祈に対して、ミコトは何度も呼びかける。

 余程嬉しかったのか、その瞳は少し涙が出ていた。

 

「ははは、仲良くなって良かったね」

 

 そんな二人をライダーが微笑ましく見守る。

 

 

 そこに────。

 

「ミコトくーん!」

「ミコト!」

 

 廃ビルの切り裂かれた向こう側から、二人の少女が空から飛んできた。

 

「八神さん!? ヴィータ!?」

 

 空かやって来たはやてとヴィータを見つけるとミコトは思わず叫んだ。

 

「ミコトくん、無事!? というか、なんで一人で外に出てもうたん── 」

「だいたいさっきの何だ! さっきまで、でけぇ魔力も感じたけど、いったい何が──」

 

 ミコトの姿を見た途端、二人は一瞬安堵してから、声を荒げて、同時に静止する。

 よく見ると、ミコトの近くにはボロボロの至祈がおり、何故かミコトは涙目。

 そして、彼らの近くには見知らぬ青年がいた。

 

「あんたかぁああ!? ミコトくん達いじめたんッ!!」

「ぶっとばぁあああす! アイゼぇぇぇぇぇぇンッ!!」

「え? ちょ! まっ─────────────!!」

 

 誰かが止める間もなく、ライダーは二人の少女にリンチされた。

 

 *

 

『ごめんなさい』

「分かったらいいよ。僕も勝手に出て行ってごめんね」

 

 正座するはやてとヴィータに対して、ミコトが頭を下げる。

 その横には呆れ顔のアーチャーと至祈。なんとも言えなさそうなリインフォースもいた。

 あの後、遅れてやって来たアーチャーとリインフォースの手によって何とか暴走する二人を止めてから、此度の事情とミコトと至祈からそれぞれ語られた。

 

「しかし、あれやな。まぁ、大変なことがあったみたいやけど、結果としてミコトくんと至祈くんが仲良くなって良かったわ。なんや色々あるみたいやし私らも諸共よろしくな」

 

 何やらごちゃごちゃになっている場の空気を和ますため、そうやってはやてが朗らかな顔でぽんぽんと至祈の肩を叩く。

 が、至祈は乱暴にはやての腕を掃った。

 

「は? なんでお前らと仲良くしないといけないんだ?」

 

 空気が凍りついた。

 

「ちょ、ちょっとシキ!?」

「な、な、ななななな」

「?」

 

 プルプルと体を震えさるはやてをミコトはオロオロと眺めながら声を上げる。

 そんなミコトを至祈は訳が分からなさそうに見つめる。

 

「なに怒ってるんだ? 生涯友達なんぞお前一人で十分だろ?」

「何それ!? 絶対、友達の解釈間違っているよ!」

 

 流石のミコトもこの言動には戸惑う。変った人間とは思っていたが、予想以上だった。

 

「むきゃああああああああ!!」

「八神さん!?」

 

 と、次はいきなりはやてが奇声を上げたのでミコトは益々狼狽する。

 

「ああ、あかん! やっぱ我慢の限界や! あんたみたいな捻くれもんとミコトくんが友達やなんて私は認められへん!!」

「いきなり何言いだすの!」

 

 普段温厚な彼女から想像できない言葉にミコトは更に動揺する。

 戸惑うミコトを余所にして、はやては至祈を睨みながら不満をぶつける。

 

「仲良くなるのは自由やと、私も理解してれるで。でも、周りのことも少しは考えや! 皆に迷惑かけるような人なんかと、ミコトくんを一緒にしたくない!」

 

 むっと、至祈が反応する。

 それまで面倒そうにしていた至祈の顔からも明らかな不満そうな感情が浮かび上がった。

 

「うっせ、バ神。俺らの勝手だろ」

「ば、ばかみ!?」

 

 そして、反撃するよ至祈。

 暴言にはやては更に声を荒げた。

 

「八神に点を付けて、バ神。よく理解もせず行動するお前には似合いだろ? ああ、そうか。これが仇名という奴か」

「仇名ちゃうわ! ただの悪口や、それ!!」

「ふ、二人とも落ち着いて!」

 

 睨み合うはやてと至祈との間に戸惑うばかりのミコト。そのようすをヴィータとリインフォースは呆然と眺め、彼等彼女等と少し離れた位置で眺めていたアーチャーが大きく溜息を吐いた。

 

「やれやれ。前途多難だな」

 

 ちらりと、治療もされずに放置されたままの気絶する同僚を哀れそうに一瞥して、彼はもう一度深い溜息を吐き出す。

 静かな夜は、当分先のようだ。





至祈「友達は一人で十分」

ギルガメッシュ「まったくだ」

美遊「そのとおりですね」


 というわけで、ミコトと至祈回でした。
 他の小説って、難しい事情持ちの人と簡単に友人になれるのが多いです。そんなこともあるだろうけど、今回はそれなり頑張ってミコトは至祈と友達になって貰いました。
 あと、三角関係って必須だよね。


 そして、新英霊も登場。簡単に言うなら、座から眺めていたミコトが気に入ってしまい、直接召喚された本人わけです。

 今後、ミコトには守護騎士たちとの対比して、新たに何人か召喚する予定ではあります。

 最後に没になった救済騎士候補を抜粋

 
サブラク
 チート。ただキャラ被り。能力被りと色々とむずかしく選考除外。

呂布トールギス
 構想だけのキャラ。魂中毒者なのである意味ミコトとの相性もよく、風使いやロボットなので被りがない。ただ日常回にすると非常に使いづらいと問題が発生する。周りの人たちと某人気国民アニメの猫型ロボットを受け入れる寛容さを取り入れる必要があった。

ウィリアム・オルウェル
 初期設定の一人。好きなだけのキャラだったが、能力的のもキャラ的にも動かしにくい。

アティ
 みんな大好きアティ先生。召喚獣はヴァルハラを持っています。シロウと絡ませようと考えましたが最終設定により断念。

ベアトリス・キルヒアイゼン
 選考では結構考えられていた存在。キャラ的に美味しく、シグナムと百合展開を考えていたが、剣士としての力量と、雷化しても下の兄貴には勝てないと思ったので渋った。なにより兄さんも一緒に召喚したいと駄目なのでは?と考えてもいた。

ストレイト・クーガー
 一番最初にいて最後まで選考に残っていた存在。能力的にも性格的にも被りなく、キャラ的にいい。ただ、Fate中心で騎士を選定する設定にしたので断念。
 初期段階では速さに関するチートの打開策や移動手段なので活躍するはずだった。ぶっちゃけ、最終的に使用することに決まっライダーより断然使いやすい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。